2008年10月22日

虚夢 〔薬丸 岳〕 3

虚夢虚夢
薬丸 岳

講談社 2008-05-23
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≪内容≫
娘を殺した犯人が目の前を歩いている!
愛娘を奪い去った通り魔事件の犯人は「心神喪失」で罪に問われなかった。
運命を大きく狂わされた夫婦はついに離婚するが、事件から4年後。
元妻が偶然すれ違ったのは、忘れもしない「あの男」だった。
「天使のナイフ」の江戸川乱歩賞作家が衝撃の展開で描く感動作!
(単行本・帯より)



薬丸岳さんの作品は、ミステリ部分で驚かされること以上にその作品で提起されている問題について考えさせられることが多いです。
デビュー作『天使のナイフ』では少年犯罪について、二作目の『闇の底』では性犯罪者の再犯、そして三作目となるこの作品では「刑法三十九条」について取り上げています。
「刑法三十九条」とは、
  心神喪失者の行為は、これを罰しない。
  心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。
というもの。

「心神喪失」状態の通り魔に愛娘を殺された三上、事件が原因で三上と離婚した佐和子の再婚相手・坂本、家出をしている風俗嬢・ゆきの視点で進みます。
三上の視点では、「心神喪失」状態にあった藤崎によって愛する家族を奪われた犯罪被害者の立場から、刑法三十九条への疑問、そして有罪になる可能性が低いとして起訴を見送ったことに対する検察に対する疑問、現在の犯人と向き合ったとして犯行の瞬間の精神状態にどこまで迫れるのかという精神鑑定への疑問などが描かれます。
精神鑑定に裁判中に行われるものだけでなく、起訴前鑑定というものがあるんだということや、不起訴処分に対してその是非を審査する「検察審査会」というものがあることなど、これまで知らなかったことを知ることができました。
けれどそれ以上に、自分の愛する人を、家族を、殺した人間が刑務所にも行かず、裁判にかけられることもなく、そして加害者のことを知ることすらできず、なぜ?どうして?という思いをずっと抱え続けなければいけない犯罪被害者の苦悩というものが胸に迫ってきました。

佐和子と再婚した坂本は、事件後佐和子が精神を病んだことを知りません。
藤崎と偶然すれ違ったことで精神のバランスを崩してゆく佐和子に対する坂本の反応は、何だかなぁ〜と思ったのです。
が、でもこの反応は一般的な精神障害者に対する周囲の反応かもしれません。
そして、風俗嬢ゆきの視点では、精神疾患のある弟を持ち周囲から差別や嫌がらせを受けた経験が描かれます。
精神疾患のある人、イコール犯罪者ではない。
当たり前のことで、頭ではよく分かっているけれど、でも実際に精神のバランスを崩している人を見たときに、私はどう接するだろうかと考えたとき、坂本と同じようになってしまうのか、それとも違った対処ができるのか、よく分かりません。
差別や嫌がらせをしてしまうんじゃないか…と、坂本やゆきの視点を入れることによって、精神疾患について私自身はどんな風に向き合うのかということも考えさせられました。

ミステリ部分での驚きは今回もありました。
今回は、比較的予想がつきやすい部分があって、驚きの度合いは低めではあったんですが、やっぱり上手いですね〜薬丸さん。
そして、ミステリ部分での驚き以上に、今回も作品に取り上げられているテーマについて深く深く考えさせられました。

単行本
講談社[2008.5発行]
【読了 2008.10.16】

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コメント一覧

1. Posted by ia.   2008年10月22日 23:36
こんばんわ。
被害者の気持ちに沿って読んでいたら、ラストにガーンとやられた気分です。
ゆきの存在も良かったですね。
読み終わった後もいろいろと考えさせられました。
「刑法三十九条」という重いテーマ、しっかりと面白く読めました。
2. Posted by エビノート   2008年10月25日 20:51
ia.さんへ♪
こんばんは。
ラストはもしかして・・・と予想してた部分だったので、それほど驚かなかったんですけど、ああいう風に考えちゃう気持ちも分からんでもないかなぁ〜と考え込んでしまいました。
薬丸さんの作品ではイロイロ考えちゃいますね。
3. Posted by しんちゃん   2008年10月27日 23:04
かつての殺人犯の視点を外したところに面白味がありました。
狂気は傍から見るから怖い。
これを面白いと思える自分もです怖いけど、この作家からは目が離せません。
4. Posted by エビノート   2008年10月28日 20:36
しんちゃんへ♪
こんばんは。
何を考えているのか、どんな世界を見ているのか、分からないから余計に怖いところがありますよね。
でも、そう考えるのも偏見なのかしら?と思ったり、いろいろと考えさせられました。
薬丸さんのこれからも楽しみですね〜♪
5. Posted by masako   2009年02月02日 00:38
こんばんは。
今回も難しいテーマながら読ませてくれましたよね。そして伏線が見事でした。
佐和子の思いは痛いほど伝わってきて、そこまでしてしまう気持ちが切なかったです。
坂本はひどいなーと思いましたが、自分が彼の立場だったらどうだろう?と考えるとこれまた難しいですね。
6. Posted by エビノート   2009年02月02日 22:53
masakoさんへ♪
こんばんは。
自分だったら・・・とどうしても考えちゃいますね。なかなか答えは出ないんだけど、考えさせられるテーマでした。伏線もしっかり張ってあったし、ミステリとしても上手いなぁと思う作品でした。

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