薬剤師の地域医療日誌

薬剤師が臨床や地域医療にどのように関われるか、EBMを実践しながら模索しています。このブログは個人的な勉強記録です。医学文献の2次資料データベースとして医師、看護師、薬剤師その他のスタッフや患者様に役立てれば幸いです。情報に関しては知識不足の面から不適切なものも含まれていると思われます。またあくまで個人的な意見も含まれております。掲載の情報は最新の文献等でご確認の上、運用していただければ幸いです。

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2016年01月

Wong AY.et.al. Cardiovascular outcomes associated with use of clarithromycin: population based study. BMJ. 2016 Jan 14;352:h6926. PMID: 26768836
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26768836

[臨床疑問]クラリスロマイシンの心血管リスクはどの程度か

[方法]香港において2005~2009年の間に経口クラリスロマイシン、もしくはアモキシシリンの処方を受けた18歳以上の成人における心血管アウトカムを人口ベースの研究で検討した。年齢、性別、暦年等に基づき、クラリスロマイシン使用者とアモキシシリン使用者をマッチングした。解析コホートはクラリスロマイシンの処方を受けた108988人とアモキシシリンの処方を受けた217793人が含まれた。なお、ピロリ菌除菌療法におけるクラリスロマイシンについてはセルフコントロールドケースシリーズ解析、及びケースクロスオーバー解析を行った。主要評価項目は心筋梗塞。副次評価項目は総死亡、心臓もしくは非心臓死亡、不整脈、脳卒中とした。

[研究結果とその限界]
傾向スコアマッチングによる補正後、抗菌薬治療開始14日以内の心筋梗塞発症は、クラリスロマイシンの 132 件(44.4/ 1000人年)に比べて、アモキシシリンでは149件(19.2 /1000人年)であり、発症率比は3.66 (95%信頼区間2.82 to 4.76)と有意な上昇を示した。一方で長期間での観察では明確な差を認めなかった。副次評価項目もほぼ同様であり、脳卒中を除き、すべてのアウトカムでリスク上昇が示された。セルフコントロールドケースシリーズ解析ではピロリ菌除菌のためのクラリスロマイシンと心血管イベントに関連が見られた。ケースクロスオーバー解析でも同様。心筋梗塞の調整絶対危険はアモキシシリンに比べてクラリスロマイシンの使用で1000人当たり1.90件の超過発症(95%信頼区間1.30~2.68)と算出された。

[研究により付け加えられること]
クラリスロマイシンの現在使用は心筋梗塞、不整脈、心臓死亡の増加に関連する。しかし、長期間の観察では関連が示されなかった。

[コメント]クラリスロマイシンと心血管リスクについては、複数の研究が報告されている。主要なものは以下の通り。
BMJ. 2006 Jan 7;332(7532):22-7.PMID:16339220
BMJ. 2014 Aug 19;349:g4930. PMID: 25139799
BMJ2013;346:f1235  PMID: 23525864
Eur J Intern Med. 2015 PMID: 26412674
Clin Infect Dis. 2014 PMID: 25409476
一部研究では明確なリスク上昇が示唆されていないが、本研究では有意なリスク上昇が示唆されており、これまで報告されている複数の研究と同様の結果である。ピロリ菌除菌では800mg/日、という高用量を使用することもあり、研究参加者が特殊なことから、一般集団とは別に自己対照の研究デザインで解析されている点は素晴らしい。参加者の年齢中央値は60歳であり、クラリスロマイシン群、アモキシシリン群でマッチングされている。解析は14日以内において脳卒中を除くすべてのアウトカムで上昇したが、15日以上の追跡では有意な差を認めていない。長期効果が観察されないことが、薬剤による因果関係の傍証と言えるかもしれない。少なくとも注意が必要であろう。外来のセッティングでクラリスロマイシンを使う臨床的意義はそれほど大きくないが故、この論文で示されたリスクは軽視できない印象である。
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Lødrup AB.et.al. Systematic review: symptoms of rebound acid hypersecretion following proton pump inhibitor treatment. Scand J Gastroenterol. 2013 May;48(5):515-22. PMID: 23311977
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23311977

[背景]PPI中止後の胃酸分泌過多rebound acid hypersecretion (RAHS)の生理的存在は確立されているが、臨床的意義はあまり明確ではない。このことが胃酸分泌抑制薬の中止を困難にさせる原因となり、PPIの長期使用の増加を説明する要因であると推測させる。この問題について多くの研究がなされているが、本研究では体系的にエビデンスを整理した。

[方法]PPIの一般名とrebound acid hypersecretionでPubMed検索した。

[結果]5つの研究を組み入れた。無症候性の健常者を対象とした2つの研究ではPPI中止後、4週間、44%で胃酸関連症状を経験していた。症状は軽度から中等度の胸やけと逆流であった。3つの研究では逆流性食道炎患者を対象としており、リバウンドによる症状を認めなかった。

[結論]リバウンド現象は無症候性者では認められたが、患者集団においては不明な部分もある。しかしながら逆流性食道炎患者を対象とした研究の方法論的限界が垣間見られた。

[コメント]PPI投与中止後、一過性に胃酸分泌過多を起こすことは知られているが、臨床症状との関連性についてはあまり明確ではないようだ。ただ、このレビューではリバウンドに関する記述も見られる。無症候性患者を対象としているだけに、外的妥当性は低いものの、これは実臨床での実感に近い印象もある。PPIの減処方を考えるうえで、重要なテーマだけに、今後の研究に注目したい。なお44%のリスク上昇を示唆した文献は〔Gastroenterology. 2009 PMID: 19362552〕
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Tsai HH.et.al. Hepatitis C virus infection as a risk factor for Parkinson disease: A nationwide cohort study. Neurology. 2015 Dec 23. [Epub ahead of print] PMID: 26701382
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26701382

[目的]C型肝炎ウイルスへの感染がパーキンソン病のリスクファクターになっているかを検討する。

[方法] Taiwan National Health Insurance Research Databaseより49,967人の肝炎患者を解析。さらに199,868人の肝炎を有さない患者と比較した。肝炎患者はHBV感染者、HCV感染者、HBV及びHCVの重複感染者に分類。Cox proportional hazards modelによりパーキンソン病リスクのハザード比を算出。

[結果]パーキンソン病の未調整ハザード比はHBV感染者で0.66 (95% CI = 0.55-0.80)、HCV感染者で2.50 (95% CI = 2.07-3.02)、重複感染者で1.28 (95% CI = 0.88-1.85)であった。HCV感染者において、年齢、性別、併存疾患で調整後のハザード比は1.29, 95% CI = 1.06-1.56)と統計学的にも有意に増加した。

[結論] 大規模な全国の人口ベースの研究によれば、HCVを有する患者は、パーキンソン病の発症リスクに有意な増加を示すことを見出した。

[コメント]もちろん仮説にすぎないかもしれないが、重要な仮説には違いない。今後の研究に注目したい
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Moonen JE.et.al. Effect of discontinuation of antihypertensive medication on orthostatic hypotension in older persons with mild cognitive impairment: the DANTE Study Leiden. Age Ageing. 2016 Jan 11. [Epub ahead of print] PMID: 26758532
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26758532

[背景]一貫性のない観察研究データやクリニカルトライアルが限定的なために、高齢者における降圧薬と起立性低血圧の因果関係は曖昧である。

[目的]軽度の認知機能障害を有する高齢者を対象に、降圧薬中止による起立性低血圧を評価する

[方法] Discontinuation of Antihypertensive Treatment in Elderly people (DANTE) Studyに参加した、起立性低血圧を有する高齢者162人を対象とした。このランダム化比較試験では、軽度の認知機能障害はあるが、重篤な心血管疾患が無く、降圧薬を使用している75歳以上の地域在住高齢者が対象となっている。対象患者は降圧薬中止群と降圧薬継続群にランダムに割り付けられた。起立性低血圧は、座位からの起立時に、収縮期血圧が少なくとも20mmHg低下、もしくは拡張期血圧が少なくとも10mmHg低下、あるいはその両方と定義された。評価項目は4か月間のフォローアップ中の起立低血を起こしていない症例。intention-to-treat and per-protocol analysesにて相対リスクを算出した。

[結果] intention-to-treat analyses,では降圧薬中止群86人のうち、43人(50%)で起立性低血圧を発現していなかった。それに対して、降圧薬継続群では76人中29人(38%)にとどまった。RR 1.31 (95% 信頼区間 0.92-1.87)

Per-protocol analysisでは、起立性低血圧を発現しなかった症例は、降圧薬中止群で61%、降圧薬継続群で38%となっており、RR 1.60 (95% 信頼区間 1.10-2.31)であった。

[結論]軽度の認知機能障害を有する高齢者において、降圧薬の中止は起立性低血圧からの回復を増加させる可能性がある。

[コメント]2015年に報告された DANTE Study Leiden 〔JAMA Intern Med. 2015 PMID: 26301603〕は重要な報告。観察研究において低血圧患者では認知機能低下リスクを増加させる可能性が示唆されていた。血圧低下が脳血流、認知機能を損なう恐れがあるためと推測される。このDANTE Study Leidenは軽度認知機能障害を有する高血圧患者の降圧治療中止が認知、心理状態、一般的な日常機能を改善するかを検討したランダム化比較試験である。降圧治療を受けている75歳以上の高齢者385人(MMSEスコアで21~27、重篤な心血管疾患のない患者)が対象となり、降圧治療の中止199人と降圧治療の継続186人が比較された。その結果、認知複合スコアoverall cognition compound scoreの変化に明確な差は認められなかった。つまり降圧薬を中止しても認知機能低下を予防できるかは不明と言う結果であった。しかしこの研究のうまみは、降圧薬中止に伴う血圧上昇がどの程度か、という疑問に対する示唆を得られるところだ。研究開始時の収縮期血圧148前後が薬剤中止後、16週で平均約5.4mmHg増加している。血圧の低い高齢者であれば、複数降圧薬を使用している場合、1剤中止してもそれほどリバウンドが大きくない可能性がある。

さてこの論文はDANTE Studyの2次解析。つまりこの研究に参加した患者の中から起立性低血圧を有している患者を対象に降圧薬中止後の変化を検討しているわけだ。厳密なランダム化比較試験ではないところに注意が必要だが、降圧薬の中止で、起立性低血圧の発現が有意に減る可能性が示されている。
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Fu AZ.et.al. Association Between Hospitalization for Heart Failure and Dipeptidyl Peptidase-4 Inhibitors in Patients With Type 2 Diabetes: An Observational Study. Diabetes Care. 2016 Jan 6. pii: dc150764. [Epub ahead of print] PMID: 26740636
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26740636

[目的]DPP4阻害薬、SU剤による治療、及び、サキサグリプチン、シタグリプチンによる治療を比較して2型糖尿病患者における心不全リスクを検討する。

[研究デザイン] U.S. insurance claims database.を用いた後ろ向きコホート研究。研究対象患者は2010年8月1日~2013年8月30日に治療を開始した。なお比較治療群では過去12か月に当該薬剤使用なしの患者を研究対象とした。傾向スコアで1:1にマッチングし、Cox modelsにて、それぞれ比較を行った。解析は心血管疾患の有無で層別化を行った。

[結果]マッチング後、DPP4阻害薬、SU剤の比較では218556人、サキサグリプチン、シタグリプチンの比較では112888人が解析に含まれた。DPP4阻害薬による心不全入院リスクは、SU剤を基準として、心血管疾患ありでHR 0.95 (95% CI 0.78-1.15),心血管疾患なしで HR 0.59 (95% CI 0.38-0.89),であった。またサキサグリプチンでは同様にシタグリプチンに比べて、心血管疾患ありでHR 0.95 (95% CI 0.70-1.28), 心血管疾患無でHR 0.99 (95% CI 0.56-1.75), であった。

[結論]2型糖尿病患者において、DPP4阻害薬はSU剤に比べて、またサキサグリプチンはシタグリプチンに比べて心不全による入院は増やさなかった。

[コメント]DPP4阻害薬による心不全リスクの懸念に一石を投じるstudy。この研究の臨床的意義はこれまでの背景を知らねばならない。詳細は以下を参照。

DPP4阻害薬の考え方使い方〔地域医療の見え方2015.Aug.5;1(29)〕
http://en.bloguru.com/syuichiao/245539/2015aug5129

これまで報告されているDPP4阻害薬の大規模臨床試験においてサキサグリプチンだけが心不全による入院リスク増加を示唆していた。その後報告された複数のメタ分析の結果はこの結果を引きずっている印象。今回の研究は後ろ向きコホートではあるが、SU剤に比べて明確なリスク上昇を示さなかった。
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