PDCAサイクルについて『正と負のPDCAサイクル』という記事を書きましたが、大学入試においてもその中身の妥当性について検討する必要があるかもしれません。

大学入試の改革が現在行われていることは、報道などですでに知っている人も多いかと思います。センター試験は2020年で廃止となり、2021年からは大学入学共通テストが始まります。

英語は「読む」「聞く」の2技能から、「読む」「聞く」「書く」「話す」の4技能を評価する試験へと変更します。しかし、センター試験のように、同日に大規模の集団に対して、「書く」「話す」の試験を行うことは現状ではできないので、民間の英語試験を活用することになっています。

確かに、語学では4技能を習得することは大切です。受験に4技能が採用されることにより、受験生は選択の余地なく4技能の学習をしなければならないので、これまでよりもライティングやスピーキングが得意になって大学に入学するかもしれません。

しかし、この改革を考案した人たちは、果たしてどこまで英語力を向上することができると思っているのか疑問に思います。文部科学省には英語教育に関する取り組みなどを説明したサイトがあります(文部科学省外国語教育)。そして、その一覧に『生徒の英語力向上推進プラン』というものがあります(PDFで開きます)。そこには、高校3年生を対象とした平成26年度の英語力調査の結果で「読む」「聞く」「書く」「話す」の「4技能全てにおいて課題がある」と書かれています。また、平成23年度以降、毎年実施している中学と高校の生徒の英語力のアンケートでも「十分な改善が得られていない」と書いてあります。

このような現状で4技能を実施しても、思い描いているような結果を得ることは難しいと思われます。文部科学省は「今後の改善の方向性」として「書く」「話す」を強調していますが、ずっと昔からあるリーディングや2006年から導入されたリスニングの効果についての検証はしたのでしょうか。

リーディングは語学の基本だと思っておりますが、そのリーディングが出来ないと、リスニングの問題で分からなかった箇所の英文を見ても理解できないですし、自分で書いた文章も見直せません。学生のうちは教師などが添削してくれるでしょうが、大人になれば添削してくれる人はなかなかいません。さらにリーディングが苦手だとスピーキングの材料を仕入れることも難しく、英語で話す力も向上しにくいです。このようにリーディングの能力が弱いと、他の要素にも影響を及ぼす可能性があります。十年単位で見ればリーディングの試験内容も変化していますが、昨今のリーディング軽視の風潮は危険だと思います。翻訳家の越前敏弥さんは、「英語が本当に理解できているかどうかは訳させてみれば分かる」とも述べておられるので、リーディングは決して軽視できないものだと思います。

そもそも日本では、英語だけではなく国語の授業でも「書く」「話す」という機会は少ないです。欧米の学校では、「書く」「話す」のアウトプットの能力が日本より重視されており、小学校から大学までこれらの能力を伸ばす教育が実施されています。もしアウトプットの能力を伸ばしたいならば、日本語で書いたり話したりして表現していくことを今まで以上に重視していくべきかもしれません。そのためには、生徒だけではなく教師の能力も問われます。

また、世間では大学入試の英語に注目が集まりますが、大学での英語教育は成果を上げているのでしょうか。日本の学生の勉強時間は、週10時間以下が8割で、0時間も1割いると言われています。もちろん勉強時間が長い学生もおりますが、大学では自主性が求められるので、自発的に勉強している人としていない人との差が拡大する一方です。入学時よりも卒業した時の方が英語力が下落している学生も多数おります。高校での授業や大学入試だけでなく、大学での教育についても再考すべきかもしれません。

さらに、学習者の姿勢も問われていると思います。学習においては、やる気や目標をもって勉強しなければ学習効果は薄いと言われています。学習意欲や目標を持たせるのも教師の役目ですが、学習者も自発的に学んでいくということが求められています。特にライティングやスピーキングでは、書いたり話したりしなければ評価ができません。これらの能力を磨くためには、普段からアウトプットを意識した学習をする必要があります。そして、アウトプットの学習を充実させるためにはインプットの学習が必要です。通訳者の小松達也さんは、TOEICで高得点を取得した学生たちを英語で討論させる授業をしても、学生たちからは「日米同盟」などの簡単な英語が口から出てこず、なかなか討論にならなかったと述べておられます。「日米同盟」など社会問題を語るうえで重要な英語は、普段のインプットがなければアウトプットとして表現できません。このように、学習者が普段から授業以外のことでも自発的に学ぶ重要性が高まっています。

文部科学省は不祥事の渦中であり、これまでも「ゆとり教育」や「法科大学院」などの教育行政の失敗があります。もちろん文部科学省はこれらを失敗と認めていませんが、世間一般的に言えば失敗の範疇です。英語教育改革も様々な課題があり、文部科学省が思い描いているような結果にはならないと思います。もし英語力が向上したのであれば、それは一生懸命頑張った生徒と、それを支援した教師のおかげです。4技能が導入されるので、受験生だけでなく教師の負担も増加しますが、対応していくしかありません。

決して明るい内容とは言えないですが、やれば身につくのも語学の特徴です。東京大学も方針が二転三転するなど大学入試の英語の行方は不透明で大変な状況ですが、とにかく勉強するしか結果を出す方法はないので頑張りましょう。