井上 夢人

2006年07月17日

井上 夢人の「オルファクトグラム」読了

オルファクトグラム〈上〉
オルファクトグラム〈下〉


井上 夢人 著 「オルファクトグラム」 ★★★★

ぼく片桐稔は、ある日、姉の家で何者かに頭を殴られ、一ヶ月間意識不明に陥る。目覚めたぼくは、姉があの日殺されたと知らされ、そして、鼻から「匂い」を失った代わりに、とてつもない嗅覚を宿すことになったのだが…。


'01年度「このミス」4位というのも頷けた面白さでした。
どんなに好きな作家さんでも,やっぱ長いと読むのを躊躇ったりしちゃう。大長編は好きだけどつまらなかったらどうしよ?とか考えちゃうんですよね。あれこれ悩んでえいっっと読み始めると,あーなんで早く読まなかったんだろ?っていつもなる。もううだうだ考えないで読め!って話ですよ。『team』を取り寄せたこともあったので,まぁ読んだんですがね,いつもの展開どおりで早く読めばよかった…ってのが一番の感想かな。

臭いを視認できるっていう超能力の持ち主が主人公です。超能力を扱う話では,そんなバカなとかありえねーって事が往々にしてよくあるけど,そんなこと微塵も感じさせません。この超能力に対して多少の専門的な言葉はでてくるけど,井上夢人お得意の会話に織り交ぜることで,薀蓄の披露のようなかたっくるしさやウザさがないんです。そのおかげで大長編にもかかわらずサクサク読める。やっぱ井上夢人の筆力は凄い!

ラブストーリとしても綺麗です。若い二人なのにお互いを思いやる心遣いは立派すぎます。ミノルはマミの臭いの色がオレンジに見えるんだけど,ピンクだったらどうしましょってね。なんかピンクだと如何わしいじゃないですか(笑)未婚でありながらマミが妊娠したときのミノルの対応も誠意を感じます。女性からすると,マミと一緒に考えようとかいう言葉も,当たり障りのないことで誤魔化しはっきりしない男って感じる人もいるんでしょうね。正解がないだけに男の裁量が問われます。自分が同じ立場になったとき,どういう言葉をかけてあげられるだろう?とか考えちゃいました。

採点は4。小説としては素晴らしい出来栄えだけど,ミステリとしての緊迫感や衝撃ってのがなかったのが満点に届かなかった原因かな。読ませどころはそこじゃないって気もしないでもないけど,やっぱミステリはびっくりしたいよね。

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2006年02月19日

井上 夢人の「パワー・オフ」読了

パワー・オフ


井上 夢人 著 「パワー・オフ」 ★★★★

高校の実習の授業中,コンピュータ制御されたドリルの刃が生徒の掌を貫いた。モニター画面には,「おきのどくさま・・・・・」というメッセージが表示されていた。次々と事件を起こすこの新型ウィルスをめぐって,プログラマ,人工生命研究者,パソコン通信の事務局スタッフなど,さまざまな人びとが動き始める。進化する人工生命をめぐる「今」を描く。


さずが井上夢人ってことで,まぁ楽しく読み終えた。
ただ読むのが遅すぎたようだ。本作は10年前に発表されている。

井上夢人にコンピュータという強力な協力。(すみません…orz)
完璧な協力(タッグ)も時代が変われば衰え忘れられていく。ダンプ松本とブル中野,ライオネス飛鳥と長与千種が一世風靡してたことなんて,平成生まれは知らないだろう。それと同じように,このインターネット全盛の時代に,かつてパソコン通信というものが存在していたことを,どれだけの人間が知っているのだろうか?(まだ一部で細々と残っているかも)
他にも,ある人物から届くメールのドメインが,.comや.itなど世界各国なため,この人物は世界各国を渡り歩いていて,その場からメールを出していると思い込んでる。最終的に日本から出し続けていることに気付くのだけど,こんなの今の時代なら直ぐに気付くことですから。

同じように,パソコン関係で時代を感じたのに,楡周平の『Cの福音』がある。この作品では,NIFTY SERVEが最先端ツールとされていた。VPNが当たり前になっているときに読んだので,随分と違和感を感じたものである。

突っ込みどころが多々あるけども,小説としては楽しく読めたので満足だ。積読してある『Project SEVEN』も早く読まなくちゃな〜。


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2005年11月13日

井上 夢人の「風が吹いたら桶屋がもうかる」読了

風が吹いたら桶屋がもうかる


井上 夢人 著 「風が吹いたら桶屋がもうかる」 ★★★★

牛丼屋でアルバイトをするシュンペイにはフリーターのヨーノスケと,パチプロ並の腕を持つイッカクという同居人がいる。ヨーノスケはまだ開発途上だが超能力者である。その噂を聞きつけ,なぜか美女たちが次々と事件解決の相談に訪れる。ミステリ小説ファンのイッカクの論理的な推理をしり目に,ヨーノスケの能力は,鮮やかにしかも意外な真相を導き出す。


井上夢人の作品は大変手に入れづらい。ネット本屋を使えば一発なんだが,それではダメなのだ。古い作品は古本屋で手に入れてこそ価値がある。そしてついに手に入れた。「パワーオフ」も一緒に手に入ったので,それはまた後で紹介することにしよう。

短編連作集である。使いまわされるセリフに展開そしてオチ。収録されている7作すべてにおいて同じ手法が用いられている。でもそれがイヤじゃない。同じ展開で始まって同じオチで終わることにホッとしてニヤリとさせられる。それもこれも愛すべき3人のキャラたちのおかげだろう。

井上夢人には珍しく実にほのぼのとした作品であった。シリアスな内容が多いので,この作家を知る上での入門編として良いとは思うのだが,如何せん入手しづらいのが難か…。まぁ根気良く探していただきたいと思う。


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2005年07月17日

井上 夢人の「あくむ」読了


あくむ

井上 夢人 著 「あくむ」 ★★★

盗聴,その秘密の趣味にのめりこんだ時から,僕の生活は変わった。(「ホワイトノイズ」)ここは病院らしい。両眼を包帯で巻かれた私に誰かが近づいてくる(「ブラックライト」)高校生のころ私は,人々と自分が違う「種」であることを知った。(「ブルーブラッド」)夢なのか,現実なのか,すべてがあいまいなまま”恐怖”という感覚に集約されてゆく。覚めやらぬ”あくむ”そのままの5つのホラーストーリー。


気味が悪くて眩暈を感じます。井上的には「メドゥサ,鏡をごらん」と似ているし,他の作家では乙一の「ZOO」といったところだろうか。
短編なので,ある程度は予想のつくラストを迎えるのではあるが,それでもなお震えさせる筆致は見事なもんである。しかも短編では難しいとされる人物のディティールも,長編と変わらず素晴らしいのは流石だ。
ただ,これは以前から何度も言ってるんだが,あまり好きくない短編集であることとホラーということで,いくら贔屓の井上といえども採点は辛くせざるを得ないか。

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2005年04月30日

井上 夢人の「プラスティック」読了


プラスティック

井上 夢人 著 「プラスティック」 ★★★★★

54個の文書ファイルが収められたフロッピイがある。冒頭の文書に記録されていたのは,出張中の夫の帰りを待つ間に奇妙な出来事に遭遇した主婦・向井洵子が書き込んだ日記だった。その日記こそが,アイデンティティーをきしませ崩壊させる導火線となる!謎が謎を呼ぶ深遠な井上ワールドの傑作ミステリー!


文句なしの満点です。作家名を伏せられたまま読んでも,「この作者は井上夢人です」と自信を持って答えられたと思う。こんな訳分からん小説を書き,パソコン関係を小説に絡ませ,読者を物語りに引き込ませるのは井上夢人ぐらいなもんでしょ。

しかし,この作品をどういった風に説明したらいいのかが分からない。何を言ってもネタバレになりそうな危うい小説なのだ。だからこそ,皆さんには一切の触れ込みなしでただただ手に取ってほしい。井上夢人の不思議な世界をご堪能あれ!

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井上 夢人の「クリスマスの4人」読了


クリスマスの4人

井上 夢人 著 「クリスマスの4人」 ★★★★

1970年,ビートルズが死んだ年の聖夜,物語は始まった。その夜を共に過ごした二十歳を迎える四人の男女。ドライブ中の車の前に突然,飛び出してきたオーバーコートの男。彼らには重大な秘密を共有する羽目になった。その後,十年毎に彼らを脅かす不可解な謎と,不気味に姿を現す男。2000年,時空を超えた結末は,破滅か,奇跡か!?奇想あふれる傑作長編小説!


映画の「ラストサマー」を思い出させる展開です。読んだ人の大半は同じ印象を持ったんではないでしょうか?ですが,ここには猟奇的な連続殺人なんぞは発生しません。っていうか死体そのものが出てこないのです。それはどういう意味か?それは是非とも読んで確認していただきたい。個人的にはこういうミステリとしての着地は好きではないんだけど,個人的に好きな作家さんということと,文章の上手さに頭が下がる思いで採点が甘くなってしまうのでした。

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井上 夢人の「メドゥサ,鏡をごらん」読了


メドゥサ、鏡をごらん

井上 夢人 著 「メドゥサ,鏡をごらん」 ★★★

作家・藤井陽造は、コンクリートを満たした木枠の中に全身を塗り固めて絶命していた。傍らには自筆で「メドゥサを見た」と記したメモが遺されており、娘とその婚約者は、異様な死の謎を解くため、藤井が死ぬ直前に書いていた原稿を探し始める。だが、何かがおかしい。次第に高まる恐怖。そして連鎖する怪死。


「なんだこれ?」

これが読み終わったときの正直な感想だ。

途中から文字のフォントが変わったりし,相変わらずの文章センスも光っており,グイグイと引き込まされていくのだが,突然この小説は終わってしまう。

おいっ,ちょっと待て。答えはどうした?

いくら考えても良く分からない。私の読解力が足りないのか?
それとも回答を読者に委ねる作品なのか?

前者であったら自分の読解力のなさに反省をするところだが,もし後者であったならば,私の嗜好には反する。

「ダレカガナカニイル・・・」も似たような結末を迎えたが,それなりに答えを用意してあったので満足したのだが・・・

今回は後者であると判断して,星は3つとさせていただきたい。
だたし,内容的には星4つはあげられることを補足しておく。

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井上 夢人の「ダレカガナカニイル…」読了


ダレカガナカニイル…

井上 夢人 著 ダレカガナカニイル・・・ ★★★★☆

警備員の西岡は、新興宗教団体を過激な反対運動から護る仕事に就いた。だが着任当夜、監視カメラの目の前で道場が出火、教祖が死を遂げる。それ以来、彼の頭で他人の声がしはじめた。“ここはどこ?あなたはだれ?”と訴える声の正体は何なのか?ミステリー、SF、恋愛小説、すべてを融合した奇跡的傑作。


「13階段」を引っ張り出したときに一緒にでてきたこの本。

これまたずいぶんと積読していたものだ。

岡嶋二人に嵌っていたときに,適当に手に取った記憶がかすかによみがえる。

そんで読んでみた。

「うぉー,井上泉やりおったー」(一徹風)

いやいや,井上"夢人"か(笑)

これは「クラインの壷」を越えたよ。

相変わらず文章が上手いね〜。

題材頼りで筆力がいまいちって作家が多い中,この人は題材も筆力もホントどちらも凄いです。

「コンピューターの熱い罠」を始めて読んだときを思い出したよ。

まぁ岡嶋時代は徳山諄一のアイデアありきだったけど。

あと「メドゥサ,鏡をごらん」も見っけたので,また暫くしたら読むとしますか。

点数は満点とはいかぬが,納得の4.5を贈呈させていただく。

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