新感線プロデュース
いのうえ歌舞伎☆號

作:青木豪
演出:いのうえひでのり
出演:森田剛/戸田恵梨香/田辺誠一/千葉哲也/粟根まこと/池田鉄洋/山内圭哉/木場勝己/西岡徳馬
劇場:シアターBRAVA!
日時:2008年02月11日(月)18時/15日(金)18時/16日(土)18時/18日(月)12時30分


新感線初の幕末モノ。
少し意外な気もしますが、あえて手を出していなかったんだなあ、と理解しました。
演出のいのうえさんによると、嘘がつけない時代だから、なんだそうで。
今回、脚本は中島かずきではなくグリングの青木豪を迎え、
主演にはV6の森田剛を据えてのGO×GO公演(笑)。
幕末の人斬り、岡田以蔵を描いた3時間30分(うち休憩25分)の舞台です。
 
 

 ※ あらすじはコチラ

幕末、という時代は、
変わろうとする日本のプラス方向の強烈な熱エネルギーに満ちているのは勿論なのですが、
それと同時にまた、常に壮絶な、ある意味「負」のエネルギーが存在しているものなのだと…
改めて痛感しました。
ことにこの舞台は「負」の部分を強く描いているような…
幕末という時代の持つ哀しさ、切なさが全編に溢れている舞台だと思いました。
とにかく痛かった…。
切なくて、辛くて、この身を斬られるように痛い舞台でした。

人斬り以蔵を通して描かれていたのは、武士の社会の悲哀でした。
急速に世界は変わろうとしているのに、その身分を捨てきれない愚かさ。
不動なる天と信じていたものも、余りに速い時勢の流れの中で、移ろってゆく残酷さ。
それでも以蔵は必死に生きていました。懸命でした。
認めてもらう為、天と信じた武市の力になりたくて。
無い頭で自分なりに考え、そして空回り…。その切ないまでの生き様に、胸が痛かった。
華やかだった日々も、それぞれの思いも、未来も、すべてを押し流して時代は突き進み、
維新という海に向かっていったのだと思うと、なんだか胸がいっぱいになってしまいました。

新感線…いのうえ歌舞伎といえばド派手と相場が決まっているのかと思いきや、
今回は極めて地味な、抑えた演出でした。
それがこの舞台をより重厚な印象にしていると感じました。
廻り舞台は相変わらずスタッフGJでスムーズな場面転換となり、
殺陣のシーンはより臨場感に溢れていましたし、
移ろう時の流れをいっそう切なく感じることができました。
やはりこれは舞台ならでは…と思います。

セットは大がかりなものではなく、映像を多用して工夫を凝らした場面転換が多かったです。
京で本間精一郎を暗殺するシーンでは、
廻り舞台と共に狭い京の路地が見事に再現されていて…素晴らしかった。
雨は映像、稲妻はライトで表現されており、凄い迫力でした。
降りしきる雨と鳴り響く雷鳴。忍び寄る暗殺者の影。そして立ち回り。
舞台ならではの緊張感と臨場感が最高でした。
石部宿は階段だけみたいなセットでしたが、一幕ラストのクライマックス、
立ち回りを存分に楽しむことができたです。

そして何より印象的だったのはラストの演出です。
もう、これは本当に素晴らしく美しいものでした。
刑場に連行されてゆく以蔵の上に、黄色いマンサクの花が降り注ぎます。
満作、それは、おミツの名前の由来となった花でした。
無数に舞い散る黄色い花びらの中、以蔵は独白します。
動いている天ではなく、動かない山を見て生きていれば良かった。
山にはあんなに花が咲いていたのに。
自分は犬だった。
犬からようやく人間になり、それから侍になった。
しかし誰に何を言われようと、自分は最初から人だった。
人は天になどなれる訳が無い。
お天道様、どうか。
自分の首が飛んだ時、その噴き出した血は、黄色い花で覆って下さい。
その先の世界が光に溢れているかのように。
黒い土も赤い血も。
黄色い花で覆って下さい…。(注:劇中ではすべて土佐弁)
穏やかな光の中、以蔵は消えてゆきます。
そのあとは、黄色いマンサクの花が、ただただ舞い散るだけ。
まるで以蔵を抱きしめるかのように、優しく優しく降り注ぐだけ。
以蔵の短い、哀しい人生の最期には、
美しい花びらと、穏やかで暖かな光が満ちていたのでした。


田剛(岡田以蔵)

いのうえさんの熱烈ラブコールによる以蔵役となった剛くんですが、
本当にハマっていました。
前回の「荒神」では中島さんが当て書きしていましたが、
今回はまず青木さんの脚本ありきで、剛くん自身が作った以蔵像、
という感じでした。
身分が低く、頭も悪く、
考えてはみるもののやっぱり自分の足りない頭ではどうしようもなく、
もどかしく、ただただ、武市という天を信じるしかなかった。
痛々しいほどに愛おしく、哀しい犬でした。
最初の登場では客席がどよめく程、
そしてたまに他の役者の体に隠れて見えなくなる程の、
超ミニマムな以蔵ではありましたが(しかも女郎よりプチ…笑)、
小さな体でよく動き、立ち回り、そして力一杯ひれ伏して…
全身で岡田以蔵でした。
汚らしいおこもさんの格好がこれまた異様に似合ってて(笑)かつ、切ない。
掠れた声がまた良かったですね。切なさ倍増で…。
何より切なかったのは、武市が新兵衛と義兄弟の契りを飼わすところ。
呆然とたたずむ以蔵がとにかく哀しくて…。
武市のみをただただ慕うワンコロぶりが、切なくてたまりませんでした。
ラスト近く、おミツちゃんの花嫁行列が行くシーンでの乞食っぷりは、
余りに哀れで泣けました…。
そしてラストの独白。
幕末の恐ろしい人斬りは、ただ懸命に生き、信じ、そしてもがいて…
本当は、とても心根の優しい、ただの人間でした。
忘れられない以蔵です。

田恵梨香(ミツ)

初舞台なんだそうですが、堂々としたものでした。
土佐弁も見事に操ってました。
なにせ一人称が「わし」!!(笑)でも可愛かった。
おミツちゃんはとても強い意思を持った子です。
なにせ二回も、以蔵にプロポーズしています(笑)。
一度目は土佐で。まだ以蔵が土佐しか知らなかった頃に。
二度目は京で、以蔵が人斬りとして名を馳せ、変わってしまった時に。
侍なんかやめて一緒に暮らそう、と詰め寄るのです。
凄い強い子だなあと思いながら見てました。
以蔵を守ろうと必死に手を伸ばしていたのですが…
結局、その手に以蔵は気付かないままでした。

辺誠一(武市半平太)

田辺さんはもっと美形を押し出してくるかと思いきや、顎鬚をたくわえたりして、
かなり武骨、骨太な印象の武市でした。
学もなく、ひたすら土下座ばかりして頼ってくる以蔵を浅ましいと感じつつも、
その姿はどこか自分とも重なり、結局、捕えられて初めて、
以蔵の気持ちが判るようになる。
自分もまた以蔵と同じように、容堂に飼われていただけの犬であったと。
その犬っぷりは以蔵に負けず劣らず切ないものでした…
彼の場合は、土佐勤皇党を率いているだけに、
余計に容堂に対する心酔ぶりは痛々しかった。
最期、容堂に自分の罪を自白するシーンは圧巻でした。
何もかも削げ落ちたかのような…潔い表情が忘れられません。

葉哲也(島村源兵衛)

常に武市と共にあり…
そして以蔵のことも気にかけてくれて、ずっと変わらぬ態度で接していた人でした。
…しかし若干、印象は弱いような(汗)。

根まこと(勝海舟)

なにせ私の理想の勝海舟が若林豪に田村正和なので(笑)慣れるのに若干、
時間がかかりました。
しかし船酔いするところとか、不意の物音に異様にビビるところとか最高でした。
「この船、揺れすぎなんだよぉぉぉぉぉ!!!」
とキレた瞬間、なんてプリティな勝先生!!
と惚れました(笑)。

田鉄洋(坂本龍馬)

凄い龍馬だった…(笑)。
遊女たちと♪よさこいよさこい♪と踊り狂う、舞台の上の自由人。
笑いの少ない中、一身にお笑い部門を担当してました(笑)。
終始ユルーい感じなのに、締めるところはキッチリ締める。見事なメリハリ。
物凄く坂本龍馬でした。
以蔵にも凄く優しい。尊皇攘夷が理解できない以蔵にも、
ちゃんと噛み砕いて説明してあげる。
「以蔵さん」なんて呼んだりもする。
この懐の深さ、おおらかさ、そして底抜けの明るさが、日本を変えるんだな!!
と思ったらなんか凄く納得した(笑)。
いやもうほんと、池鉄にしか出来ない龍馬です。
二幕の中盤あたりで出番がなくなってしまうので、
一応、花道をはけて行く時に析が入る…と言うんでしょうか、
袖に手を入れた格好で「これで出るの最後です」的に去って行くのですが、
余りに続きが長すぎて(笑)、ちょっと残念な感じです…。

内圭哉(田中新兵衛)

ほんとに舞台で久々に見た僧正だったのですが、
今回は笑いが殆どなくて若干、残念です。しかし間合いがどこか、
何かをやらかしてくれそうな空気がありすぎて困ります(笑)。
相変わらず髪があると美形です。ヅラ似合う!!!(笑)
そしてまた着物も、似合うんですねえ…。
薩摩弁を操ってますが、なんか変だな…と思ったら声が高いんですね(笑)。
だからなんか可愛い。
いちばん笑えるのは、吉虎を訪ねて来る時の「こんばんわぁ!!!」です。
なんでここだけ、アホの子みたいになってるんだろう…
と思ったらちょっと酔っ払っていたようです。
最後は以蔵に貶められて自害しますが、
しかし、愛刀を暗殺現場に落としてくるという…
今で考えたらありえない、あんないかにもすぎるベタな状況でも、
疑われてしまう時代だったんですね…。

場勝己(寅之助)

京都の料理屋「吉虎」の主人ですが、
木場さん、京弁がものっすご流暢で吃驚しました。
関西出身だったのかと思ったくらい…見事な京言葉で。
その流暢な京弁を巧みに操って笑いを取ってました。
素晴らしい!(笑)
ミツちゃんの良き叔父さん、どっしり構えて舞台を引き締めて下さっていました。
「侍というのは哀しい商売ですな。上のモンにつくことしかできへん」
ぽつんとつぶやいた言葉がとても印象的でした。

西岡徳馬(山内容堂)

武市が攘夷派だと信じて疑っていなかった容堂公ですが…
結局は武市をうまく飼い慣らそうとしていただけで。
西岡さんは迫力の容堂でした。見得を切るのが素敵だったです。
「切腹申し付けるーーー!!」
とかの決めの台詞がビシッと決まってかっこよかった。

近健一(姉小路公知)

出番は二幕からで、しかも途中で以蔵に暗殺されてしまいますが…
いやはや、そのインパクトたるや強烈で。
白塗りでおじゃる言葉で、無性に笑えました。
粟根勝とのシーンが妙に可笑しくて、妙な間合いがあって、
芝居なのかアドリブなのかがよく判らなかった…(笑)。

谷さとみ(鶴)

吉虎で働く女中さん。中谷さんもかなり笑いをかっさらってました。
京で噂になってる龍馬に憧れていたのに、
おこもさんみたいな龍馬を見るや否や、サクッと興味喪失(笑)。
新兵衛に飯?を噴き掛けるシーンが凄まじかったです。
なんか新兵衛のマゲのところにまで飯粒がくっついてたような…(笑)。

原正嗣(原田)

川原さんは原田よりも二幕で出て来た新選組隊士に釘付けでした。
以蔵を追っているんですが、さりげに咳き込んでいた。
総司ですか!!!!!!!!!!!!!!!!
相変わらず声が素敵だったなあ…。

木仁(井上佐一郎)

土佐の下横目。以蔵を追っていますが、
最後は以蔵にだまし討ちみたいなのを食らって死亡。
かなり残酷な死に様になってました(汗)。
以蔵の行方を捜しに女郎街を訪ね、女郎に絡まれてる時がむっちゃ笑えました。
「アンアン言うな!!!!ワクワクするだろうが!!!」

坂エマ(夏)

女郎。
♪三千世界の鴉を殺し主と朝寝がしてみたい…♪
なんとも艶やかで…そして哀愁漂う歌声。
落ちぶれる以蔵の荒んだ暮らしぶりが伝わってくる感じでした。

野まさと(中島与市)

安政大地震後の土佐の浜辺に、最初に以蔵と登場する河野さんですが、
最後は以蔵を殺す為の酒を運んで来ます…。
以蔵に媒酌人を頼まれた時に、「俺は見ちょるだけか?」と訊ねてるんですよね。
大義の前の浅ましさを見ると共に、どうすることもできない虚しさを感じました…。



↓以下はあらすじ。


舞台は安政元年、安政大地震で壊滅的な打撃を受けた土佐から始まる。
土佐は上級武士と下級武士との間に厳しい身分差別のある国。
上士に蔑まれ、目の前で幼馴染み・安五郎を失った以蔵。
「斬りたいねや…上士のやつら、斬り倒したいねや」
やり場のない怒り、悔しさを抱えた以蔵は武市に拾われ、
彼の道場に通うことになる。
やがて以蔵は武市と共に江戸に剣術修行に出かけ、
そこで幼馴染み・龍馬との再会を果たす。
その後、武市は尊攘を推進するべく土佐勤皇党を結成。
藩論を尊攘に統一したい武市は、
その障害となっている参政・吉田東洋の暗殺を指示するのだった。
そして舞台はいよいよ京へ。
京では、安五郎の妹・ミツが、叔父の料理屋「吉虎」で働いていた。
尊皇攘夷の風が吹き荒れる京の町で、以蔵は人斬りとして、
その腕を世に知らしめてゆく。
学がなく、才もない以蔵は、ただ人を斬ることのみで武市に認められようとするが、
薩摩の人斬り、田中新兵衛を意識するが余り、功を焦ってしまう。
その働きとは裏腹に、次第に以蔵は武市に疎んじられるようになる。
武市は以蔵の目の前で、国事にも聡い新兵衛と義兄弟の契りを交わすのだった。
そんな折、以蔵は龍馬から、勝海舟の護衛を頼まれる。
勝は武市から奸物扱いされていたが、悩んだ末に護衛を引き受ける以蔵。
それが、武市の怒りを買うことになる。
武市が頼り、攘夷の先鋒を担っていた姉小路公知が、
勝に諭されて開国派へと転じていたのだった。
武市に見限られて落ち込む以蔵に、
「一緒に暮らさんか?」
とミツは嘆願する。武士をやめて、二人でささやかに生きたいと願うミツ。
以蔵は、新兵衛の刀をミツに盗ませることを条件に、
武士をやめる約束をするのだった。
ミツの働きにより、
以蔵は新兵衛を姉小路公知暗殺の下手人に仕立てることに成功する。
武市のもとに戻った以蔵は、
「先生に見捨てられるのが怖い」
とその胸のうちを吐き出す。武市もまた、土佐勤皇党党首としての弱さを、
以蔵の前で見せるのだった。
結局、以蔵は侍として生きること、武市に従うことを選び、
ミツを裏切ってしまうのだった。
しかし時は文久三年。
八月十八日の政変により、長州は京を追われ、
尊攘の世はここに終焉を迎える。
武市もまた、捕縛され土佐へ。
一人京に残り、尊攘派の世が再び巡り来ることを信じて、武市を待つ以蔵。
材木問屋に嫁いだミツが、以蔵に別れを告げにやって来た。
武市から贈られた酒を、三々九度のようにして酌み交わす以蔵とミツ。
しかし武市からの酒には毒が盛られていた。
ミツは死に、残った以蔵は、土佐へ送られる。
藩主・容堂の前で尋問を受ける武市。連行されてくる以蔵。
以蔵は暗殺した人物を次々と自白し、それらが全て、
「天に指図されたこと」
だと語るのだった。
自分には武市という天が在り、
武市にも容堂という天が在り、
容堂にもまた、徳川という天が在る。
人それぞれに天が在る。
だが天は動いている。
空を見上げれば星が在り、それらはやはり動いていた。
幾ら天に尽くしていても…それはいつか、水の泡と消えてしまうものだ。
以蔵の言葉に、遂に武市は東洋暗殺を自白して、切腹を命じられる。
武市亡きあと、以蔵にもまた、打ち首の刑が待っていた…。

[20080324 up]