2011年10月25日
小学館、集英社、講談社が電子書籍でアマゾンと組みそうな「ワケ」 ――電子書籍に死骸累々の「出版界」
さて、米アマゾンが電子書店「Kindle Store」を日本でも年内メドで開店というニュースが報道された。日経が口火を切ってあちこちで報道されたわけだが、報道によると小学館、集英社、講談社が「乗る」方向で交渉中とのことだ。今日はこのあたりの観測記事など。
長くなるので2回に分けると思う。
出版不況に長年晒されている出版界では「なんとしても新規の売上を立てたい」のは経営陣の悲願で、ここ2年ばかり、役員先行型で日本の出版社は電子書籍への対応を進めてきた。というか進めたいと思ってきたに違いない。
それがおおむね失敗して読者から見ると「なにノロノロやってんのよ」と見えているのは、以下のような理由からだ。
●電子書店の規格乱立
電子書籍は、個々の電子書店で許されるフォーマットでしか発売できない。日本での電子書店は通信キャリア系、流通系、取次系など入り乱れて戦国時代並の大乱戦状態であり、規格はバラバラ。別規格の書店に卸そうとすればオーサリングはそれぞれ別に費用が発生する。
つまり紙で言えば「紀伊國屋書店に卸すときはこの紙と印刷で、ABCに卸すときは別の紙と印刷で」とかという事態。悪夢だ。このためコスト見合いや「どの書店ではどのくらい売れそうか」など判断し「どこにどういう規格で卸すか」など判断・決定がどえらくたいへん。
●電子書店の不統一
前項とも関連するが、個々の電子書店で納品条件や仕切り・価格などが異なり、さらには売上の回収期日まで異なる。おまけにアップルのように「販売価格は固定刻みです」なんてとこまで。
紙では紀伊國屋書店に卸そうがABCに卸そうが取次が仕切っているので手間はひとつだが、電子書籍は個別の出版社が全部の電子書店とやりとりするしかなく、この事務に掛かる手間(=コスト)がばかにならない。なんたって売れないので。
●売れない
紙の書籍の潜在読者は「日本語の読める人」。電子書籍の潜在読者は「タブレットユーザー+α」。このため決定的に売れ行きが違う。この点、英語書籍の電子化でむしろ紙より広く全世界を相手にできる米国の出版社とは、話が違う。
たとえば電子版としては超絶大ヒットの「もしドラ」
で、紙が200万部以上、電子版が15万部。たった7.5%だ。普通の書籍では初版6000部とかだろうから、この伝で行けば電子書籍版は450部となる。
私は自分でも電子書籍を担当してこのブログでも報告してきたが、その見聞では実際には450部も売れる書籍はあまり見たことがない。
このため電子版だけの出版企画は厳しく、現実的には「紙の書籍の電子版」しか作れない。原稿料・取材編集コスト・デザインフィーなどはどちらも変わらないからだ。流通の取り分も同様で、紙も電子も似たようなもの。
紙版にコストを付け回す「イカサマ」をしてやっと電子書籍発売に持ち込み、現場が役員の「顔を立てて」ほっとしているのが、多分ほとんどの出版社の編集最前線だろう。
●コストが高い
電子書籍では、紙代と印刷代が不要になる。反面、紙にはないオーサリング費用が掛かる。さらに長い歴史を持ち極限まで効率化されコストダウンが進んだ紙版では問題にならない上記の事務の手間(=コスト)も。電子版が売れないという条件で見ると、分母が小さいだけにこれらがバカにならない。
といって短期的な赤字幅増大を厭わず安くすれば売れるかといえば、上記のように原理的に市場が狭いので計算ほど売れず、価格には下方硬直性が発生する。それに紙版より安くすれば今度は紙版の読者が不満を持ち売れ行きに影響して「電子版がコストを付け回している」肝心の財布が傷むので、原理的にも難しい。
早く端末が普及して電子書籍でもきちんと儲かるように(というか少なくとも赤字にならないように)ならないか、というのが、多くの出版社の本音だろう。いったん回り出して「電子版だけで黒字になる」ようになれば、紙版のくびきから自由になるので、戦略的な値付けが可能になる。
おまけに電子書籍の世界ではiPadで先行するアップルが公取すら入る暴君として暴れ回るので、出版社・著者とも「ドン引き」状態が続いたりもしていた。なんたって、マルチ購読すら許さないし。アップル以外では原理的にはマルチ購読が可能。つまりいったんパソコンで買えば、パソコンでも読めるしアンドロイドのスマホでも読める。
こうした状況で「やらなきゃならないんだが、突破口が見えない」状況が続いていたわけだ。ところが急転直下、超大手があらかたアマゾンに乗りそうな気配を見せたのには、理由があるだろう。
そもそも「できなかった理由」なんて今回のように事後の分析で列記するなら意味があるが、「これからできない理由」なんて挙げてるのは仕事できないバカだけだ。
大手の戦略については、明日分析する。
長くなるので2回に分けると思う。
出版不況に長年晒されている出版界では「なんとしても新規の売上を立てたい」のは経営陣の悲願で、ここ2年ばかり、役員先行型で日本の出版社は電子書籍への対応を進めてきた。というか進めたいと思ってきたに違いない。
それがおおむね失敗して読者から見ると「なにノロノロやってんのよ」と見えているのは、以下のような理由からだ。
●電子書店の規格乱立
電子書籍は、個々の電子書店で許されるフォーマットでしか発売できない。日本での電子書店は通信キャリア系、流通系、取次系など入り乱れて戦国時代並の大乱戦状態であり、規格はバラバラ。別規格の書店に卸そうとすればオーサリングはそれぞれ別に費用が発生する。
つまり紙で言えば「紀伊國屋書店に卸すときはこの紙と印刷で、ABCに卸すときは別の紙と印刷で」とかという事態。悪夢だ。このためコスト見合いや「どの書店ではどのくらい売れそうか」など判断し「どこにどういう規格で卸すか」など判断・決定がどえらくたいへん。
●電子書店の不統一
前項とも関連するが、個々の電子書店で納品条件や仕切り・価格などが異なり、さらには売上の回収期日まで異なる。おまけにアップルのように「販売価格は固定刻みです」なんてとこまで。
紙では紀伊國屋書店に卸そうがABCに卸そうが取次が仕切っているので手間はひとつだが、電子書籍は個別の出版社が全部の電子書店とやりとりするしかなく、この事務に掛かる手間(=コスト)がばかにならない。なんたって売れないので。
●売れない
紙の書籍の潜在読者は「日本語の読める人」。電子書籍の潜在読者は「タブレットユーザー+α」。このため決定的に売れ行きが違う。この点、英語書籍の電子化でむしろ紙より広く全世界を相手にできる米国の出版社とは、話が違う。
たとえば電子版としては超絶大ヒットの「もしドラ」
私は自分でも電子書籍を担当してこのブログでも報告してきたが、その見聞では実際には450部も売れる書籍はあまり見たことがない。
このため電子版だけの出版企画は厳しく、現実的には「紙の書籍の電子版」しか作れない。原稿料・取材編集コスト・デザインフィーなどはどちらも変わらないからだ。流通の取り分も同様で、紙も電子も似たようなもの。
紙版にコストを付け回す「イカサマ」をしてやっと電子書籍発売に持ち込み、現場が役員の「顔を立てて」ほっとしているのが、多分ほとんどの出版社の編集最前線だろう。
●コストが高い
電子書籍では、紙代と印刷代が不要になる。反面、紙にはないオーサリング費用が掛かる。さらに長い歴史を持ち極限まで効率化されコストダウンが進んだ紙版では問題にならない上記の事務の手間(=コスト)も。電子版が売れないという条件で見ると、分母が小さいだけにこれらがバカにならない。
といって短期的な赤字幅増大を厭わず安くすれば売れるかといえば、上記のように原理的に市場が狭いので計算ほど売れず、価格には下方硬直性が発生する。それに紙版より安くすれば今度は紙版の読者が不満を持ち売れ行きに影響して「電子版がコストを付け回している」肝心の財布が傷むので、原理的にも難しい。
早く端末が普及して電子書籍でもきちんと儲かるように(というか少なくとも赤字にならないように)ならないか、というのが、多くの出版社の本音だろう。いったん回り出して「電子版だけで黒字になる」ようになれば、紙版のくびきから自由になるので、戦略的な値付けが可能になる。
おまけに電子書籍の世界ではiPadで先行するアップルが公取すら入る暴君として暴れ回るので、出版社・著者とも「ドン引き」状態が続いたりもしていた。なんたって、マルチ購読すら許さないし。アップル以外では原理的にはマルチ購読が可能。つまりいったんパソコンで買えば、パソコンでも読めるしアンドロイドのスマホでも読める。
こうした状況で「やらなきゃならないんだが、突破口が見えない」状況が続いていたわけだ。ところが急転直下、超大手があらかたアマゾンに乗りそうな気配を見せたのには、理由があるだろう。
そもそも「できなかった理由」なんて今回のように事後の分析で列記するなら意味があるが、「これからできない理由」なんて挙げてるのは仕事できないバカだけだ。
大手の戦略については、明日分析する。
この記事へのコメント
1. Posted by なむ 2011年10月25日 13:57
現状、電子版なんてXMDF/T-Time共用のHTML組めばフォーマットなんてそれだけでOKだし、MBJやデジブックジャパンみたいに取次業務を行っているところに投げれば、売り上げの集計までやってくれるのに、あえてそれが出来ないようにミスリードを誘う書き方をする意図が全くわからない。
2. Posted by あうあう 2011年10月25日 16:31
うちでは、500ダウンロード程度の売上なら、まあ1割ぐらいでは達成できてる気がするな。紙の本自体が売れれば、電子もまあ売れるし。
電子のダウンロード数の対紙本の売上冊数は、ここ1年では大体5%程度が相場になってますね。
電子書籍に親和性の高い客層向けの企画では、電子ファーストでとりあえず著者を囲い込んでおいて、パピレスなんかで上位にくれば紙書籍化とか、いろいろ試行錯誤をしてるところもあるから、現状、電子版だけの企画が通しにくいとは一概に言えないかな。
ま、もちろんその場合、紙の本並みの編集作業は施されないわけだが。
ケータイ小説モデルとも言う。
先行投資分野であんまコスト計算ばっかしてても、気が滅入るだけやで w
電子のダウンロード数の対紙本の売上冊数は、ここ1年では大体5%程度が相場になってますね。
電子書籍に親和性の高い客層向けの企画では、電子ファーストでとりあえず著者を囲い込んでおいて、パピレスなんかで上位にくれば紙書籍化とか、いろいろ試行錯誤をしてるところもあるから、現状、電子版だけの企画が通しにくいとは一概に言えないかな。
ま、もちろんその場合、紙の本並みの編集作業は施されないわけだが。
ケータイ小説モデルとも言う。
先行投資分野であんまコスト計算ばっかしてても、気が滅入るだけやで w
3. Posted by 構造破壊するべきでは? 2011年10月25日 22:56
全部が全部とは言わないが、世間で「消費」されている読み物の大半は、体裁なんて大して気にされないだろう。
そもそもDTPで印刷されている内容をPDFに出力するだけの「変更」が、どうしてここまで大げさな話になり、業界擁護の根拠となり得るのか全く理解できないのだ。
だいたい、この論法で行くと、新聞と同じ体裁に出来ないからweb新聞はNGという意見が正しいことになってしまうのではないか。新聞は、しかし、webはweb、紙は紙と、それぞれの特性を使い分けているわけで…。
出版社は、上も下も、意識を変えないと駄目だと思う。苛烈なリストラをせざるを得なくなる前に。
そもそもDTPで印刷されている内容をPDFに出力するだけの「変更」が、どうしてここまで大げさな話になり、業界擁護の根拠となり得るのか全く理解できないのだ。
だいたい、この論法で行くと、新聞と同じ体裁に出来ないからweb新聞はNGという意見が正しいことになってしまうのではないか。新聞は、しかし、webはweb、紙は紙と、それぞれの特性を使い分けているわけで…。
出版社は、上も下も、意識を変えないと駄目だと思う。苛烈なリストラをせざるを得なくなる前に。
4. Posted by 簡単な事だと思う 2012年01月27日 09:01
理屈は簡単だし、やる事も決まっているのに利権争いで全て駄目にする。大手が寄り集まって一括配信できる合弁企業を作ればいいだけではないのか?
その上で、英訳を付けるとか絵を載せるとかすれば広げていけそうな気がする。
不況に加えて本が売れにくいこの時代。
値下げと手軽さが無ければ共倒れになりそう。
その上で、英訳を付けるとか絵を載せるとかすれば広げていけそうな気がする。
不況に加えて本が売れにくいこの時代。
値下げと手軽さが無ければ共倒れになりそう。