2012年03月08日

書籍流通「買い切り制導入」報道で興奮してもなあ……

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ところで2月末だったか、書籍流通に「買い切り制」を一部導入しようと日販が動いてることが報道された。

この報道で例のごとく「出版流通に風穴が」「革命だ」とか大騒ぎの人がいるのにちょっと驚いた。本ブログではとりたててエントリーとして上げてこなかった。たいした話でないと思ってたので。

というのも買い切り制(責任販売制)導入については昔から話として連綿地下で議論されてきたことで試行もされているなど今更な話題だし。それにそもそも一部書籍に限定しての話だし(日販は4年後に取り扱い高の3割を目標にしてる)、書籍市場に対するインパクトはそれほどないのでは。


まず前提を書いておくが、今の書籍流通の大多数は委託販売。つまり書店は仕入れた書籍が売れなかったら返本すれば1円も損しない。要するに「棚貸し商売」。今も一部に買い切り書籍があるが、それは「絶対売れる」パターンか(ハリーポッターとか)、古参出版社(事実上岩波書店だけ)の既得権くらい。

委託販売が大多数なのは理由があって、書籍の多様な流通に役立つから。いやつまり売れっこない詩集や地方出版だって最悪返本すればいいから、書店は「まあいいか仕入れても」とかなるわけだ。


でまあ買い切りになると出版流通関係者にどう損得があるか。

まず取次が大賛成だろう返本コストが減るから。1円にもならない売れ残りトラックで運送するのあほらしいじゃん。事務作業もたいへんだし。いちばん得するのがここ。だから日販が音頭取ってるわけだし。

次に出版社は損得両方。いやつまりこれまでは返本赤字リスクを一手に押し付けられてきたわけで、それが書店に移る分、基本歓迎。ただしリスクが書店に移る分、出版社の取り分は減る。さらに当然書店が部数をシビアに見るようになるので発行部数が下がり機会損失の可能性が高まる。また赤字の苦し紛れに大量の新刊を企画発行してた自転車操業的中小出版社は、いよいよ追い込まれる。

書店は損するかな基本。だってこれまでは棚貸して、売れた分だけ仕入れ代金を払えばいいわけだ。それが買い切り制だとフローのキャッシュが必要になるし、当然その分の金利とかも。おまけに売れ残った分は損を被ることになる。今回の日販提案では返本を認める契約や時限再販契約もあるが、いずれにしろ売れ残りを出すと書店が損する。それに仕入れの目利きが必要になるので、そのへん人材薄いとこでは失敗して潰れるところも増えるはず。

つまりこの3者でいちばん損するのが書店。だからこれまで責任販売とか再販廃止とかいうこの手の交渉だと、だいたい小規模に試行するのが関の山だった。出版物流通の力関係は「取次>>>書店>出版社」だが、書店の不興をあからさまに買うことは取次もしたくないし。


ちなみに著者とか読者を考えると、著者は損、読者はまだら模様。

つまりどう考えても印刷部数が減る方向になるので、著者収入は減る(多くの場合これまで印刷印税で、売れない分まで印税を受け取れるというボーナスがあったわけだ)。書籍刊行数も減るので、その意味でも。

読者からすると、時限再販になった本では売れ残りを安く買える可能性が出る。反面、新刊は部数が減るので価格が上がる方向になる。それに出版物の刊行点数が減るだろうから(売れそうもない本は印刷部数が減るだけでなく、出版企画自体が流れる方向にバイアスがかかるので)、読みたい本が出版されない可能性が増える。


ではなぜここに来て買い切り制が再浮上してきたのか。

それは戦後タケノコのように乱立した書店が店主高齢化や競争激化でどんどん減って、書店側の発言力が落ちたからだろう。だから取次の利益が優先されやすくなった。

もちろんそんなこと誰も言ってやしないが。

書店の業界団体にしてからが、「利益さえ確保できれば歓迎」と公言してる。買い切り制では在庫リスクが出版社から書店に移る分、書店の取り分が増えるのが普通だからだ(ハリーポッターとかだって現実にそうなってる)。


出版社側から「書店世界」を見ると、どう見えるか。

すでに書店数は全盛期の3/4とか。しかもアマゾンが事実上日本最大の書店として強大な力を持ちつつあり、そこの機嫌を損ねるのは怖いけど……みたいな感じ現場では。

変に書店側の不興を買って大手チェーンの発注や棚割でいじわるされたら……といった懸念は薄らいでいる(えーと書店がそういうことするわけではなく、出版社で書店現場を営業して回る販売部員の先回りの悪夢ってとこです)。

だから取次が買い切りを言い出せば、「そこに逆らうのもなあ」といった空気が販売担当役員に生まれても不思議ではない。


今回の動きの背景はそんなところかと、私は想像している。えーと単なる妄想なんで、どう判断するかは皆様の自由ですが。

いずれにしろ「時限再販+返品不可」「返品時は仕入れ価格以下」「再販+完全買い切り」を並行して進めるみたいだから、どの方式がうまく行くのかを試行しながら、そっちの方向に徐々に移行していくと思われる。4年後3割はそれなりにでかいし。その意味ではこれまでよりは出版流通手法の多様化が進むのはたしかだろう。

editors_brain at 08:00│Comments(1) 雑記 

この記事へのコメント

1. Posted by ひろ   2012年04月11日 23:47
買い切り制を導入するには書店側は掛け率変更だけではなく再販をとっぱらうことが必要だと思います(そうしないと処分ができない→それができて初めて商売といえるのでは)
ですが書店側に値付けの権限を持たせれば当然価格競争が発生します。
当然今までの定価販売は根本から崩れて行きます。定価はあくまでも値引率を図る目安程度にしかなりません。3割は導入のための方便のように聞こえます。買い切りが当たり前になれば一気に流れを作ってそちらを主流にしたいんでしょう、取次は。
版元は販売における採算性が狂ってきますので 初版における定価設定がおそらく現行の2倍程度になるのではないか と思います。(最低でも?)
これにより刷部数設定が現状よりかなり厳しくなります。
印税の問題や8分口銭の取次の問題もあるでしょうが
最大の問題は
教科書と辞書 だと思います
教科書は販売部数がある程度予測できるので価格高騰は抑えられますが
辞書は価格高騰が免れないのでは。
それを負担する親が最も影響を受けるような気がします。
再販価格制で最も恩恵を受けられていたのは辞書ではないでしょうか。
貧しい家庭の子弟が最も影響を受け、学業の機会が減るような気がして心が痛みます。(あくまで想像です)
それ以外での書籍での販売は
むしろやりようによって自由度が増すので大いにやってほしいですね。
ライバル出版社を潰す価格設定やコンテンツ販売等いろいろあるような気がします。ま、水嶋某のような企画本が増えるんでしょうけど・・・

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