出版界でメシ食いたい方に

2018年02月09日

イラスト文化の「拡散」、または「希薄化」。喜んでいいのか悼んでいいのか

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Webのニュースサイトなどで、「いらすとや」のイラストを利用している記事が、最近目につく。

「いらすとや」はみふねたかし氏が運営するフリー素材サイトで、多彩なイラストを公開している。

なんでこれが使われるようになったかというと、一定の範囲内で、イラストの商用利用を無償で認めている点が大きいだろう。あとは検索しやすいとかの利便性もある。


目につくのはWeb媒体で、紙(雑誌等)では、あまり見たことがない。理由はいろいろ想像がつく。細かな点だけ先に書くと、高解像度データ利用は有償だとかね。Webであれば低解像度で充分「使い物になる」が、紙だとそうはいかない。

もっとも大きな理由は、トーンとかテイストが同じなので、雑誌では使いにくいってのもある。

いやつまり、Webでは1本1本の記事を読みに来る利用者が圧倒的だ。その媒体だからと、隅々まで記事を漁る人ももちろんいるが、ビュー換算では少数派だ。

なので、同じテイストのイラストがあちこちの記事にあっても、それほど問題はない。

紙だとそうはいかない。基本、お金を出した読者は、多くの記事に目を通す。たとえば女性誌一冊読んだとして、使われてるイラストの8割が同じイラストレーターの絵だったらどうか。媒体のテイストがそのイラストに固定されてしまうし、それ以前にちょっと飽きる。

誤解する方もいないとは思うが念のために書くと、みふね氏のイラストが悪いと書いているわけではない。


こうした理由から、雑誌ではさまざまなイラストレーターを起用し、多種多様なイラストを載せることが多い。


さて、Webの話に戻る。私もWebの編集者を長くやっているので、無料素材の重要性は身にしみている。

というのも、Webは基本、無料で読者に公開することが多い。多くは広告モデルで回すわけだが、Web広告の単価は極めて低い。よって、ライターだのイラストだのに用いる制作費が厳しい。

私のサイトでは、いらすとやこそ用いた経験はないが、いわゆる「素材集」にはけっこうお世話になっている。商用利用OKの画像集とか、そういう奴ね。要はこんなん。


そこで適切な素材が見つからないと、イラストレーターに発注したり、ストックフォトサービスを利用したりする。


Web時代向きの戦略を上手に構築したいらすとやは、実にうまい。だが、なにかというとホイホイそればかり使うお手軽編集には、ちょっと違和感がある。

個人的にイラストが好きだってのもあるんだけどさ、もっと多様な表現を見たいじゃん。この記事にこのイラスト……うーん「こう来たかあ」って驚きを感じたい。

Web記事だとあと目につくのは、コミック表現のイラストだ。あれも理由はよくわかる。いやつまりWebではイラストが「単なる雰囲気出し」を超えてる。イラスト自体に情報発信力があったほうが記事の力が出るから。なのでセリフを入れるコミックイラストが増えるわけさ。SNSでの拡散力も出るしさ。

こっち方面だと、それこそpixivからコミケ文化方面にも大拡散しているから、「絵で小遣い稼いでる」レベルの人は激増しているとは思う。


私が言いたいのは、「編集者はもうちょい工夫してくれ」って一点よ。とはいえWebの速度感は重々身に染みてるからなあ……。編集者の方なら、このモヤる気持ち、わかっていただけると思う……。

イラストレーター年鑑は毎年見ている。多彩なイラストを見て楽しいし、記事に合ったテイストのイラストレーターに発注したりも、私が雑誌をやっていた頃は日常だった。


「食えるイラストレーターになるには」を書いた頃はイラストレーター志望の方も一時このブログによく来てくれてたけど、彼らは無事生き残っているだろうか……。頑張ってほしい。


editors_brain at 17:36|PermalinkComments(0)

2017年04月26日

歴史は強し! ー――某老舗出版社の話

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先日、某老舗出版社の関係者と飲んだ。

でまあ流れで取次(出版卸)への仕切値の話になった。したらその版元は70%だそうですよ奥様!

自分「マジか! 歩戻しは?」
A氏「ゼロ」
自分「うそーん! うらやま」

えーとこれ、雑誌でなく単行本の仕切り。

出版業界以外の方にざっくり解説すると、フツーの出版社より5%程度条件がいい。

価格を競合書籍より約5%安く設定しても利幅同じなので、書店で競争力が出る。同価格で出せば、利益は他社より5%増だ。そら楽だわ。

さすがは老舗。取次との力関係、昔は牧歌的だったのね。。。まあ他にも理由はあるんだけどさ。ここでは書かないけど、調べりゃわかるし「新文化」とか読んでる業界人なら自明かな。。。


editors_brain at 16:10|PermalinkComments(4)

2016年06月14日

小学館、除却損計上等で赤字決算

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小学館の2016年2月期決算が発表になったので見てみよう。有効数字2桁に丸めてある。小学館をはじめとする大手3社の過去決算などは、こちらをどうぞ。


売上高 960億円 前期比-6.7%
経常利益 -8.9億円 前期6.4億円
当期利益 -30億円 前期1.9億円



目を惹くのは巨額の当期損失。これについては特別損失計上の結果だという。具体的には、以下のようだ。ビル建設予定地の更地化に伴う固定資産の除却損。有価証券評価損。栗田や大洋社(取次)破産に伴う連鎖損失。

だがこれは本業とはほぼ関係ないので、大きな問題はないだろう。……とはいえ、経常利益も赤字なんですけどね。前年は黒字だったわけで。


もう少し細かく見る。

出版売上 630億円 前期比-13%
うち
雑誌 300億円 -10%
漫画 200億円 -10%
書籍 110億円 -14%
他諸々

広告売上 120億円 -7.2%
デジタル 120億円 +54%
版権等 89億円 -6.2%



デジタル売上の急伸が目立つ。すでに100億売り上げているのは、特に書籍の電子化が進んでいるのとデジタルマガジン関連の売上だろう。紙媒体はまんべんなく減っているが、その分がデジタルシフトしたと見ることも、できなくはない。

まあ実際は、妖怪ウオッチブームの反動がでかいんだろうけれども。


editors_brain at 08:47|PermalinkComments(0)

2016年05月13日

「文庫の20年」に、「救い」はあるのか

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ブログ「出版・読書メモランダム」にて、小田光雄氏が文庫状況についてコメントしていた。


興味深い論考なので内容はそちらを読んでいただくとして、そのデータを拝借して、ここで計算・検討しておこう。出版不況については、このブログでも何度も取り上げているし。たとえば売上分析とか。

ざっと見て、文庫の状況は、出版一般と同様、悲惨というかシュリンクが激しい。

1995年と2015年を、有効数字2桁で比較してみよう。

    刊行点数 販売部数 販売金額
1995年 4700点  2.7億冊  1400億円
2015年 8500点  1.8億冊  1100億円
増減比  +80%   -33%   -21%

一点あたり部数 一点あたり販売金額
5.7万部     3000万円
2.7万部     1300万円
-53%      -57%


刊行点数が倍近く増加しているのに、部数も売上金額も減少している。要は――

売れない
 ↓
編集部の予算達成のため、刊行点数増やす
 ↓
書店の棚取り合戦が激しくなり、既刊がすぐ返本されるようになる
 ↓
一点あたりの売上が下がる
 ↓
予算達成が厳しくなり、さらに点数増やす


――といったフィードバックが回っているわけだ。


小田氏は、文庫というコンセプトが「既刊本中心」から「新刊重視・雑誌化」へと変貌した現状について論考を上げていた。

なので私は、一点あたりの部数と売上について書いてみよう。


見てのとおり、どちらも半減と言っていい状況だ。

1万部しか売れなかろうが100万部売れようが、出版社の編集・販売労力的には大差ない(金額差ほどでかくない)。なので一冊あたりの売上が落ちると、利益に大きく響く。

経営陣は編集者ひとりあたりの年間刊行点数を増やし、一点あたりのコスト配賦を下げようとするはずだ。あるいは編集作業を外注化してコストを下げたり。

編集者から見ると、仕事に追いまくられて青息吐息になる。目が行き届かず、グロスで見れば質も落ちるだろう。外注編集者が入れば、一般的には「より効率重視」の編集作業になっていく可能性が高い。


著者から見ても悲惨だ。95年であれば文庫化されれば1点あたり300万円の収入が期待できた。これは販売金額なので、印刷印税が一般的な著者の場合、もっと多い。返本が40%近いのだから、4割増しだろう。

まああくまで平均だ。実際は一部ベストセラーが大きく平均を押し上げている。なので一般的な著者の感覚としてはもっと少ないはずだが。

いずれにしろ現在は、それが130万円ベースの推定となる。さらに編集者は担当著者を大量に抱え流れ作業に従事していて、目配りも疎かになる。「売れる著者」が優先されるため、いくら企画を投げても梨の礫とかね。


かつての文庫は、既刊本のセカンドステージがほとんど。場合によっては「雑誌掲載」>「単行本化」>「文庫化」と回るわけで、著者にとっても「償却済みのコンテンツがボーナスを持ってきた」感覚だろう。

ところが今は文庫書き下ろしも増えている。その場合、稼ぐ機会は(版元も著者も)一度しかない。年2〜3冊も文庫を書き下ろしているのに売れず、「ワープア小説家」などという事態も生じているはずだ。そのレベルでは、数年内に注文も途切れそうだし。


この全体状況をなんとかするのは、相当に難しい。すでに「暇潰し」「読み飛ばし」需要は、ほとんどスマホに吸い取られている。

私個人を振り返ってみても、小説を読むモチベーションは現状少なく、読書の時間があるなら実用書に振り分けたいのが実情だし。とはいえ実用文庫は底の浅い奴が多いので、読むなら単行本かな。


……うーん。厳しい中にも突破口の兆しでも見つけて書きたかったんだが、とりあえず思いつかない。今回はグダグダ論考にて恐縮です。継続して考えてみます。とりあえず編集者や著者の方々は、頑張って仕事をこなしましょう、お互いに。


editors_brain at 08:34|PermalinkComments(0)

2016年02月18日

2015年アマゾン「出版社ランキング」を読み解く

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アマゾンが売上ランキングを発表した。

これは書籍・雑誌込みの年間売上ランキング。プレスリリースから上位20社ほどを抜粋してみよう。

1KADOKAWA
2講談社
3集英社
4小学館
5学研プラス
6ダイヤモンド社
7インプレスグループ
8新潮社
9幻冬舎
10文藝春秋
11宝島社
12日経BP社
13医学書院
14岩波書店
15PHP研究所
16朝日新聞出版
17主婦の友社
18徳間書店
19スクウェア・エニックス
20技術評論社


ざっくり言えば、1年前に発表された2014年ランキングから、大きな変動はない。個々の出版社が多少上下したくらいで。

どうだろう。意外な印象を受けるだろうか。出版社トータルでの売上ランキングと比べると、アマゾンユーザーの属性が透けて見えてくる。


まずわかるのは、IT系出版社が意外に上位にいるということだ。インプレスとか技評とか。これら出版社は雑誌売上はそう大きくないので、IT系書籍が売れているということだろう。IT系専門書籍は単価も高いことが多いし。

御三家を差し置きKADOKAWAが1位を獲ったのは、雑誌から書籍までまんべんなく発行していることに加え、ライトノベルに強いからだろうか。ライトノベルは人気作の発行部数が多いことに加え、長編が多いため続刊の発行頻度が高い。いくら文庫書き下ろしが中核とはいえ、売上が高くなるのは当然だろう。


読者の世代交代につれアマゾンユーザーは増えこそすれ、減りはしないと思われる。アマゾンランキングで活きのいい出版社は、トータルでの売上でも、徐々に上位に移行していくのではないだろうか。


editors_brain at 13:13|PermalinkComments(0)

2015年04月16日

出版社倒産数、2014年度は前年度の150%の46社。その真因は市場冷え込み「ではない」

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出版社の倒産が増えている。2014年度は前年度+50%増の46社にも達した。

こちらの記事では理由は「書籍販売低迷」+「消費税増税による市場冷え込み」と分析している。


しかし出版社の現場にいる身としては、この分析はやや甘いというか、少し的外れだ。

まず大きな流れとして出版不況があるのはたしかだ。それは認める。増税による市場冷え込みも、ないとは言えないだろう。

しかしここに来て50%も増えているのは、もっと直接的に消費税「改定」による影響なのだ。消費税率が上がろうが下がろうが、出版界には大きな赤字要因となる。


どういうことか説明しよう。

そもそも1989年の消費税導入の際、政府は各業界団体に、「内税か外税か」希望を募った。それを考慮して、それぞれ決まった。そこまで配慮したのは、消費税導入に対する世論が厳しく、民意に配慮したからだ(と言えば聞こえがいいが、早い話、衆愚政治の類)。


このとき出版業界は内税を選んだのだ。これがそもそも大きな間違い。当時の私も外税にすべきと強く感じていた。

内税が有利な点とされていたのは、たとえば以下だが、私には弥縫策というかごまかしにしか思えない。

●区切りいい価格に設定でき、店頭の精算で混乱が起きない
  <外税でも税込みで区切り良くなるように設定すればいいだけのこと
●一見、税金が見えないので、割安に感じられる
  <ごまかしの類だろう


ところが出版界には、内税が不利な点が実は大きい。税率が変わったときの対応が大変なのだ。出版(特に書籍)は多品種少量生産のビジネスで、しかも在庫を大量に「書店店頭」という市中に長期間置いておく特異性がある。

外税、つまりたとえば「1500円+税」とかの表示なら、その在庫は、増税してもそのまま継続販売できる。ところが内税表記1500円の場合、実質は「1456円+税3%」なわけで、これが5%に上がると、増刷の際は変えて印刷すればいいとして、在庫の表紙などに「1529円」(つまり1456円+税5%)というシールをすべて貼らなければならない。スリップも差し替えだ。

この手間が馬鹿にならない。結果として、その後の販売があまり見込めない書籍の場合は、増税をきっかけに絶版、回収、廃棄といった道筋を辿ることになる。


これは実際、3%から5%に上がった1997年に起こったことだ。その結果、大量の書籍が絶版になったし、出版社も潰れた。


絶版は理解しやすいだろうが、なぜ潰れるか。

実質赤字(つまり売れない)書籍でも、在庫を撒いてある限りは、それが表面化しない。仮の売上は出荷時に立つ。この仕組みを利用して、「苦しい出版社ほど、新刊点数を増やす」実情がある。

つまり早い話、自転車操業って奴だ。売上を確保できる反面、大量の市場在庫という「時限爆弾」が溜まっていく。それぞれの書籍は徐々に返本されるので、時限爆弾はゆっくりと解体されてゆく。出版は水物なので、その間になにかひとつでも大ヒットすれば、「ひと息継げる」というわけだ。

しかしそうやって稼いだ「売上」は、大量在庫というリスクの上に成り立っているもの。これが消費税増税のときに一気に返本され廃棄処分となる。つまり赤字の大爆発を起こす。――これが「消費増税の際、出版社が大量に倒産する」大きな原因だ。

雑誌中心の出版社は単に低迷だろうとか、今回も個別にはいろいろな事情があるはずだが、大きな底流になっているはずだ。


少子高齢化で日本社会から所得税納税者が減るのは当時から明白で、となれば社会の維持のために消費税等の間接税をどんどん上げるしかないのも、これまたはっきりしていた。それなら勤労者以外からも社会的サービスに見合った税収を得られるから。

つまり消費税は海外並の20数%まではどんどん上がるのが必然だ。それが見えていて、かつ出版流通の事情をよく知りながら内税を選ぶとは。


出版不況はもう15年以上続いており、苦し紛れの自転車操業出版社は増える一方。それが去年の増税の際、表面化したというのが、この倒産激増の真因だろう。

まあ、こっちは現場で頑張るしかないよね。


editors_brain at 08:02|PermalinkComments(2)

2014年09月26日

集英社2014/5決算出る

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集英社の5月決算が出たのでご報告。

●2014年5月決算
売上高 1233億円  前期比-1.6%
営業利益 29億円 前期比+36%
純利益  38億円 前期比+18%

ちなみに2013年の売上高は1253億円(前期比-0.6%)だった。


とまあ着々と売上が落ちているが、これでも出版界全体よりははるかにいい。出版業界はピークから20年間出版不況が続き、売上は当時の65%までシュリンクしている。

少子化・高齢化・人口減・スマホ興隆・本/雑誌離れと畳み掛けるようにマイナス要素が続くので仕方ない面がある。ただそれでも個別には突破する企業も多いのだ。


editors_brain at 14:36|PermalinkComments(0)

2014年06月20日

私が担当した電子書籍、絶版にしました

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ところで、私が担当して出版した電子書籍、絶版にしました。

この書籍を企画したのは2010年。もう4年前だ。当時の電子書籍は、紙の書籍に比べ販売部数が1〜2%程度。つまり紙なら1万部出る本を電子化すると、販売部数は100部とか。

1500円で初版1万部の書籍なら、著者に入る印税は、10%で150万円。これが電子書籍では2万円といったところだ。


私が手がけたのは、紙の書籍を並行させない、電子書籍オリジナルの企画。売れないとはっきり言った上で、「一緒に新しい市場に挑戦しよう」と著者の方を口説いた。

とはいえ丸損を押し付けて書き下していただいたわけではない。そんなこと、申し訳なくてできない。そうではなくて、原稿自体、「原稿料」という形ですでに償却済みのものを書籍化した。

もともと書籍化の約束があって書いていただいたものではない。それに紙の書籍にするにはハードルが高すぎて無理と思われた。

なので電子書籍で多少とも売り上げれば、著者にとっては(金額の多寡は別にして)思わぬボーナスといったところだ。


そんなわけで電子書籍として発行したのだが、予想通り全然売れない。ウチとしてはオーサリング費用とか表紙イラストとかの外注費だけで赤字だ。編集費用とか事務費用をまったく考慮に入れなくとも。


4年前の話だけに、当時の私としては電子書籍編集・制作の実務を知り、その可能性や課題を押さえる目的だった。なので販売数の少なさや赤字は、大きな問題ではなかった。

それでも編集者のサガで、「なんとか売れる本にしてやる」という思いが編集中に湧いたのはたしかだ。

ウチや他社の電子書籍の販売動向から売れないのは予測できていたので、印税計算は半年に1回と頻度を落とした契約にした。が、そのたびに「印税●ひゃくえん」とか。湧いた思いがあるだけに、著者に連絡を入れるのも申し訳ないレベル。

それに当時はまだ電子書籍の印税処理がウチの場合システムとして確立しておらず、担当編集者が半年ごとに各電子書店の売上データをもらってきて手作業で計算、起票しなくてはならなかった。

やたらと手間がかかる。銀行の振込手数料のほうが印税額より多いレベルでそうした計算をしていると、どうしても「不毛な作業」という言葉が脳裏をよぎった。


私は異動になったので、それは後任編集長に引き継いだ。しかし半年に一度のイレギュラーな作業、しかも自分の担当ではなかったとなれば、忘れられてしまう危険性がある。そのため、起票時期になると私がリマインダーのメールを打ったりしていた。


のだが、先日、後任のさらに後任編集長と話をして、絶版にすることにした。つまり、これ以上商品として並べていても、たいした印税をお支払いできるとは思えない。ビジネスとしての展望もない。手間ばかりかかる。

だったら著者の方には今後見込める印税額累計よりは豪勢な食事でも楽しんでいただいて、頭を下げて絶版にしようと。悔しいが、つまりはそうなった。


今は電子書籍を閲覧できる端末も増えているし読者層も増えているので多少はマシだが、当時はそうだったのだ。


電子書籍黎明期には「在庫コストがゼロに近いので絶版がなく、ロングテールで多様な書籍が売れる」とか夢が語られていたわけだが、まあ現実はこんなものだ。

印税支払いは一定額に達するごと、とかいう契約にしておけばロングテールも可能なんだろうが、そのようにするには業務システムを開発しなくてはならず、そのためのシステム投資額が問題になる。どこの出版社も、売上とコストと将来性を天秤にかけながら、進めているところだろうな。


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2014年06月12日

宝島社、女性誌「付録商法脱却の動き」を裏から読む

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ところで宝島の女性誌で付録商法から撤退の動きがあるので、その話でも。

付録廃止を決めたのは、とりあえず『CUTiE』と『SPRiNG』。結果を見て、他の雑誌でも検討していくと思われる。


宝島社といえばご存知、この出版不況の勝ち組。ブランドを取り込んでの雑誌付録・グッズ付きムック乱発で業績を上げてきた。

そもそもなぜ付録商法が優れていたかといえば、多品種少量販売でも利益を出すべく、極端に合理化が進んだ「出版物流通網」が背景にある。しかも減ったとは言うものの、販売店たる書店は、全国に1万店舗以上ある。これをいわば「効率的な雑貨ルート」と見なして利用したのが、付録商法の本質だ。


ブランド側から見れば顧客候補を育てることができるし、媒体側にとってはブランドを取り込んで広告掲載を勝ち取れる。読者は安価で「憧れのブランド」の小物を入手できる(ノベルティーレベルとはいえ)。

不景気のデフレ期にまことにふさわしい戦略だった。


とはいえ、100円ショップのバッグにロゴ印刷した程度のできのバッグインバッグとか、5つも6つも持ってても仕方ないじゃん。それに今は安部総理の金融緩和が功を奏して景気が上向き雇用状況も改善されてきたし。

今さら貧乏臭いノベルティー持っててもなあ……、とか考える層は確実に増えている。

加えて今の女性誌トレンドは小型版だ。スマホ時代で持ち歩く物理量が減った分、バッグの小型化が進んでいる。それに対応した小型版が売れている状況で、付録を差し挟むカサは今後、確実に減る。

それに宝島社と限っての付録商法は、2012年にすでにピークを打っていると思われる。


――などという状況を勘案して踏み出したものと想像できる。

宝島は、付録商法で女性誌トップ出版社にのし上がった。出版業界的に裏から考えるなら、その過程でブランドもうまく押さえ終わっただろうから、今さら付録で広告を誘引する必要性も薄れただろうし。


どんな分野でも、挑戦者がのし上がっていくときと王者の防衛戦で戦略が違うのは、当たり前だ。

今後、どこに力入れるんだろうな、宝島。「この○○がすごい!」ブランドをネットにガンガン展開していくと面白いと、個人的には思うんだけどさ。でも女性誌のようにデカい金が動く媒体じゃないから、やっぱ女性誌最優先にはなるだろうけど。


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2014年06月09日

JAPA(日本電子出版協会)セミナー報告

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ところで4月の話にて旧聞で恐縮だが、JAPA(日本電子出版協会)のセミナーに行ってきた。

私の本業はもちろん編集者。電子書籍編集出版の経験もある。実は最近は電子書籍からは離れているのだが、継続してウオッチしている。その関係で、JEPAのセミナーの興味のある回には、ちょくちょく顔を出している。


4月のセミナーはセルフパブリッシングについて。講師は鷹野凌氏だった。

鷹野氏はライターで、電子書籍に関する情報発信を続けておられる。またご自分でも電子書籍を執筆・制作して販売をされている。


黎明期には、電子書籍出版に関し、出版社はおおむね、一部の声の大きな方々から非難されてきた。「利権のために電書出版に後ろ向きだ」、あるいは「普及を妨げている」とかね。ひどいのになると「出版社が上場しないのは作家を搾り取るためだ」とかオモシロ陰謀論を語る方がいたりして。

もちろんこれらは事実無根というか逆。なぜなら出版不況はもう20年も続いている。それを抜けられるなら悪魔にも魂を売りたいってのが経営陣の宿願で、各社、前のめりに取り組んできた。

ただ紙の書籍の使い回しがほとんどで、電書オリジナルの書籍はあまり出せない。なぜなら売れないから。コストを紙版につけ回して、赤字で発行しているのが、現在でも変わらない電子書籍の現状だ。

えーと、ケータイ小説系の世界は別よ。あっちではしっかり稼いでいる方もおられる。


で、自費出版の世界で、これが突破できているのか伺いたかったのが、参加動機だ。作者が執筆から編集・制作、オーサリングや営業までこなすセルフパブリッシングでは、コストは極小で済む。というかこれ以上は下げられない。低コストを武器に戦う戦略は、十分考えられる。

鷹野氏の現状認識は、私と同じだった。いやつまり、電子書籍を読む層が圧倒的に少ないので、まだ普及期に入っていないという認識だ。実際、あんまり電子書籍の自費出版で稼げている方はいないようだ。


電子書籍の市場自体は、徐々に広がっている。ただしそれに伴い「プロ作家」や出版社の売上も増えてきている。

自費出版作家にもいろいろな方がいるだろうが、たとえば無名の新人が小説を書いて、東野圭吾の電子書籍と戦えるかという話だ。電子書店の機能面の問題から、書籍との「偶然の出会い」はもともと難しい。「作者買い」や「ランキング買い」「バズ買い」あたりが中心になるのは、今も未来も変わらないだろう。

となると、電子書籍のセルフパブリッシングに向いているのは、ニッチ検索狙いとう線になる。先日もエントリーで触れたが、「団地マニア向け写真集」とか、その類。当然食えはしないので、あくまで「趣味」という線には留まるだろうが。


セミナーで面白かったのは、鷹野氏が、作家を募って電子雑誌「月刊群雛」を発行されていることだ。電子書籍では、前述のようにプロモーションが極めて重要。自費出版では特にだ。


ひとりだけでは限界があっても、仲間の力を合わせてソーシャルで拡散すれば、プロモーション効率が高まる。それに切磋琢磨してひとりでもスターが生まれれば、全員がプロモーション上の恩恵を受けられる。有効な手法と言えるだろう。


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2014年04月08日

Web記事原稿料「一文字0.1円」ってマジすか……

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編集者という仕事柄、ライターの方々とはタッグを組んで、戦友としてコンテンツを作っている。その経験から、「フリーライターになるには」といったシリーズを、本ブログでも時折エントリーとして書き継いできた。

最近、この「ライティング関係」で、ちょっと驚いたエントリーがあった。ブログ主も書いているように、私もグノシー経由で知った記事だが……。


クラウドワークス系のライティング案件の報酬がひどい


まあ驚いたのは、例として挙げられている原稿料単価。「一文字0.1円とか0.2円」だそうですよ。四百字詰め原稿用紙単価に直せば、全部文字で埋まってとして40円ですかそうですか。まあ普通の原稿だと改行も入るし原稿用紙一枚あたり350字程度だろうから、35円だ。0.2円単価としても70円。

私がライターの方にWeb記事を書いていただく原稿料の「数十分の一」とかだよ、よく言っても。ウチだって紙媒体より安く設定してるんだけどねー。

これだからWeb屋さんのビジネスに、出版社系Webサイトはコスト面で対抗できないんだよなあ。nanapiとか、嫌味でなく「お上手」と思うし。もっとドライにならないとダメなのかorz


この「極端にやっすい」単価から見えてくる現象は、いくつかある。


●ライターの方は、絶対に食えない

コンビニでバイトしたほうが、多分時間単価が高いね。それどころか、取材や打ち合わせなどが入ると、それだけで足が出る。単価が単価だけに、まあ当然別途実費精算してくれるとは思うが、もし払ってくれないなら、赤字だ。

それにもちろん参考書籍を買って勉強して……などは、コストだけから判断するなら不可能。


●コピペ氾濫?

となると、仮にこの手の仕事を中心に回すライターが「食おう」としたら、Webで「お題」に似たブログでも拾ってパクるんじゃないですかね。「時間かけずに大量にやるしかない。この値段で責任取れるか、俺知らん」という方向にて。


●CGMとプロコンテンツの境目が消える

職業としては食えないので、こうした案件を請ける方々は、「専業主婦の内職」的パターンか、「原稿を書くことで承認欲求を満たす」趣味のパターン、どちらかが主流になるだろう。

当然、内容や日本語のレベルに関しては、どうしても低質になる方向にバイアスが働く。一部には優れた原稿を書く方ももちろんいるだろうが、総体としてはそうなる。つまりWeb上のコンテンツがCGM化する。「個々の原稿は玉石混交だが、総体としてなんらかのマーケティング的、あるいは客寄せ的な意味合いがある」方向に。


●プロのライターは、営業力がこれまでにも増して重要に

フツーの原稿料を払う、私の媒体のような時代遅れはまだまだあるので、頑張ってそういうところにコネクションを広げる必要性が出てくる。だってそのうち「プロ野球解説コンテンツが必要か。じゃあ誰かクラウドワークスで探しといて」とかなるわけじゃん、コンテンツ屋でないWebでSEO狙いとかの「にぎやかし記事」を作る場合。そうした低額発注から逃げるには、コンテンツの内容自体を差別化として打ち出すコンテンツ屋との繋がりが重要だろう。


蛇足だが、私の経験をひとつ。

プライベートビジネスを創業した際、ロゴイラスト作成の必要性があり、この手のサービスを利用してコンペした。

そのサービスでは発注の最低単価が決まっていて、2万円。その金額で案件を出したところ、十数人の方から応募があって、ひとりお願いした。モノクロイラスト1点で2万円だから、マスコミ相手のイラスト相場から見ても高く、イラストレーターにとっては悪くない仕事だろう。

ただイラストレーターから見ると、コンペに負ければ1円にもならないという大きな欠点がある。その代わり、自分の人脈や営業力では知り合えなかったクライアントと知り合える利点はあるが。

発注者である私から見ての評価だと、多数の参加を望めるので便利。ただ不便な面もある。その方のイラストのテイストが気に入ったので、その後も頼もうと連絡先を聞いたところ、「このサービスを通してください」とのことだった。それが規約なのかもしれないが、いい人が見つかればその後もいろいろ頼みたいのは人情で、その度にサービスを通すのは面倒。

いやつまり、今回は私個人の仕事だったから時間をかけられた。しかし私の本職で発注しようとするなら、連絡から打ち合わせ、発注、納品に到る流れにはスピードが求められる。月刊誌とか、発注から納品まで二週間とか、普通だ。

間にサービスが入ると連絡のスピード感が損なわれる。おまけに当然マージンを抜かれるので、当方もイラストレーターも損する。

こうした継続発注を上手にこなせるようになっていれば、もっと使いやすいのにとは思った。マージン抜いてもいいからさ、直接連絡より話が早いとかさ。たとえば契約書や発注書が定型化されていて、クリエイターも出版社も楽とかね。

このあたりは改良の余地が大きいなあとは思った。

まあいずれにしろ、ライターの方の最低原稿料は、せめて10倍に上げてあげてください。かわいそうです。


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2014年01月30日

2013年、出版市場はピークの65%に縮小。大手3社は奮闘。特に講談社は出版不況を跳ね返し「増収増益」

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今日は久々私の本職絡みのエントリーでも。


大手3社の決算。

●小学館 (2013年2月決算)
売上高 1065億円  前期比-1.4%
純利益  12.8億円

●集英社 (2013年5月決算)
売上高 1253億円  前期比-0.6%
純利益  31.8億円

●講談社 (2013年11月決算)
売上高 1200億円程度 増収
純利益 増益見込み


講談社だけまだ確定数字が出ていないので、見込みだ。ちなみに2012年11月決算の売上は1178億円だった。


●出版界全体 (2013年 取次経由本体価格)
販売額 1兆6900億円 前年比-3.2%


出版界全体は書籍雑誌の販売価格だから、出版社の収入は約2/3で、だいたい1兆1000億か……。

見てのとおり大手3社は頑張ってるほうで、出版界全体だと、全然元気がないっすな。ピークの1996年2兆6000億円に比べると、35%もシュリンクしてる。かつて「出版界は2兆円の小規模産業」ってのが一般的な認識だったのに、今や「出版社は1兆円」っすか。大日本印刷や日立製作所といった大企業1社だけの売上と出版社全部で寄ってたかって戦って、半分とか。

そら給料も下がるわorz


ざくーと見ると、雑誌が前年比-6%の「崩壊」状態。もう15年以上連続縮小だ。んで書籍は-0.2%。

雑誌の縮小が激しいのは、広告収入をネットに食われているから。雑誌って奴は小売価格が「かかるコストより圧倒的に低い」のが、一般的な設計。要は読者に安く買ってもらうために、広告がどさっと入ってるわけ。ところが今や広告「どさっ」どころか、「ぺなっ」だもんな。

それで販売収入ももちろん落ちてるんだから、救いがない。私のような雑誌系編集者にとっては、なんだか悲しい時代だ。編集者が練りに練った切れ味鋭いコンセプトの雑誌、読者としても好きなんだけどなあ……。


もちろん個別に突破口はあるので(要は受ける雑誌を作れば、そいつは食える)、各社とも頑張ってるわけです。

最近だと女性誌主導の小型版とかね。「スマホ時代に雑誌を携帯させるにはどうするか?」で考え出されたのが、あれよ。それなりに売れている。なんたって、男性ビジネスバッグだって薄く、小さくなったもんね。PC持ち歩きが減ってタブレットになったから。


あとは意外にもティーン向け男性ファッションライフスタイル誌とかさ。本来の雑誌っぽい「暇潰し」需要だと、パズル誌とか。


大手3社が全体より頑張っているのは、やはり規模が大きく手元資金豊富なので、デジタル投資とかに踏み切りやすいからだろう。3社とも、物販始めたり、海外にコミック電子版を売り込んだりとか始めてるじゃん。

特に講談社の健闘が目立つ。

ただ3社を見ると、決算日の古いほうが、数字は悪い。――つまりここのところの世間サマの景気向上で、ようやく広告収入が上向いただけではないかという気がする。実際、ウチも2013年第4クオーターくらいで、広告収入の減少がなんとか止まったしな。

このあたり、小学館と集英社の次期決算を見ないとなんとも言えないな。

あるいは講談社だけコミックが好調とかあるのかもしれないが、そのあたり疎いんでよくわからん。どなたか教えてください、好調の理由を。


editors_brain at 08:01|PermalinkComments(0)

2013年06月24日

「食える」フリーライターになるには 「ラノベ作家になるには」編

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本ブログでは、「食える」フリーライターになるデビュー手法に関して、飛び飛びで記述してきた。おひさしぶりの今回は、ライトノベルの著者について考えてみよう。小説の作者、つまり作家なので、フリーライターというくくりに入れていいのかやや疑問だが、フリーランスで原稿を書いて「世過ぎとする」意味では変わりはない。

今回は「デビューの仕方」を考えるエントリーというより、ラノベ著者の置かれた状況を概括するエントリーとなる。なんでもそうだが、職業として考えるならその世界の現状を把握することは重要だ。蛮勇も時には必要とはいえ。


まず考えておきたいのは、ライトノベル著者の置かれた時代状況だ。有り体に言えば、生活を成り立たせるのには厳しい競争がある。もちろん過去の作家も同様なわけだが、時代が違う。

皮算用してみる。以下の部数や原稿料などの数字はすべて「たとえば」で置く「私の妄想」なので、これが平均、ないし基準、あるいは最低限、または天井というわけではない。それだけは注意して下さい。


最初に、かつての作家を考えてみよう。かつては純文学や中間小説、エンターテインメント小説の「最初の受け皿」として、小説誌が大きな力を持っていた。ひとつの小説作品を考えたときに、単行本書き下ろしももちろんあるが、これら小説誌などに執筆するのがメジャーなルートと言えた。

短編を書いたり長編を連載したりして、単行本一冊分の原稿を書きまくったとする。作家の原稿料はあたりまえだが人により大きな差があるが、たとえばペラ一枚(200字)2000円として、単行本一冊分1000枚とすれば、雑誌掲載時の原稿料がまあ200万円。年2冊分書いたとして年収400万。まあメシが食えるレベルには達する。

どこかの出版社が出版を申し出れば、単行本がたとえば1500円で初版8000部。著者に入る印税が10%で120万円。年2冊出せるわけだから、240万円。雑誌掲載時の原稿料と合わせて640万円。もし増刷がかかれば、どんどん増える。

ここから先は「単行本が売れたとして」だが、文庫出版のオファーが来る(かもしれない)。500円で初版2万部。印税は100万円。2冊で、これまでと合わせて年収で840万円。大儲けとは言えないだろうが、まあ十分な年収と言えるだろう。これでもっと売れればどんどん増えるし、小説以外にもエッセイを頼まれたり講演に呼ばれたりの「おまけ」がある。もちろん年2冊でなく年3冊になれば年収の単純計算では1.5倍だ。


さて、これが現在のライトノベルだとどうなるか。

まずラノベを載せてくれる小説誌が少ない。出版形態もハードカバーの単行本やソフトカバーの単行本でなく、文庫での直接出版が多いだろう。かつての「作家先生」に比べ、ひとつの小説作品で著者に入る収入機会が少ないのはわかってもらえると思う。

600円の文庫で、新人とかでは初版が仮に1.8万部として、印税10%で108万円。上記同様、年2冊分の原稿を書いたとして、年収は216万円だ。えーともちろんこちらの場合でも、人気が出て増刷がかかれば青天井で収入は増えていく。

また、ラノベの場合はコミック化やアニメ化のチャンスが多いので、その場合は収入も増えるだろうが、そもそもアニメ化されるくらいなら小説自体がかなり売れてるはずだから、「食えるかどうか」心配するレベルはとうに脱しているはずだ。


――とまあ書いてきたように、ほぼ同じ労力で、かつての840万円と216万円。小説を書く見返りとしての「経済的果実」がかなり減っていることはわかるだろう。ここまで読んでもらえればわかると思うが、これは「どこが搾取」みたいな雑駁なレベルの話ではない。市場ニーズの話だ。

つまりラノベ作家専業でメシを食いたいなら、求められる第一の天分は、「多作」ということだ。もちろん「売れる才能」のほうがはるかに重要だが、それは誰しもが天から与えられているものではない。

年4冊書き下ろして430万円ほど。これで食える。それに年4冊「書いてほしい」というオファーが来る人はそれなりに売れる人のはずだから、実際には年収も1.5倍くらいは行けるのではないだろうか。

そうやって糊口を凌ぎつつ、ビッグヒットを待つのが基本戦略となるのだろう。


ライトノベルの作家になるには、上に挙げたようなノウハウ書籍で勉強するのに並行して、このあたりの自分の生産性がどうか、習作時代に挑戦してみたほうが無難だろう。つまり賞に応募するにしても、年4冊くらいは企画から脱稿までできるのか実験してみる。「注文が来た」と仮定して4冊執筆を自分に義務付け、それを実現できたかどうか。書けた分は賞に出せばいいので無駄にはならない。


最初に書いたように、上記数字は私が仮に置いたものであって、かつての小説市場、ないし現在のラノベ市場がそうなっているという意味ではない。ベストセラー作家と新人では、原稿料も初版部数も天地ほども差があるのは当然だ。

それにデビュー作がいきなりバカ売れということも、もちろんありうる。そりゃ出版は博打だからねー。「無難じゃないから諦める」ってのも、情けない話だし。ただ猪突猛進は危険かも。私なら、デビューしたとしても、ヒットを飛ばすまでは仕事を辞めず、兼業で頑張るだろうな、多分。

editors_brain at 08:13|PermalinkComments(0)

2013年06月17日

「今現在」縛りなら、「定額制」電子書店サービスがけっこうイケるのでは……

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このブログでも連載の形でご報告したのでご記憶の向きもあると思うが、私はテスト的に電子書籍の編集を担当してみた。私が編集長を務めるWeb媒体の連載を電書化したのだ。もう3年も前のことだ。

「電子書籍の作り手」としての感想や考えなどはそのとき述べたので、今日は「電子書籍の読み手」としての、私の個人的感想などを書いておく。


私が電子書籍でいちばん不満なのは、購入する電子書籍が書店やリーダーで分断、束縛されてしまい、「所有感」がないことだ。実用書では気にならないが、小説などだとそうだ。「所有感」でなく、「自分の魂の遍歴」としての「達成感」と言い直してもいい。

読書好きであれば誰しも、自分の本棚を見て感慨に耽ることがあると思う。たまに棚の並びを修正して悦に入ったり。こういうのが、現状のシステムでは難しい。

いずれamazon一強になるなどすれば、統合の形で解決されるとは思うが、それはそれで「いいことか?」と聞かれれば、「危険なこと」としか言いようがない。米国の一企業にエロ描写とか政治批判、宗教批判などの文化的側面も含めて管理されてしまうのは。


時間もないのでやらないが、私にとっての「今現在」の理想の形は、紙の書籍を購入して自炊し、クラウドなりNASなりに貯めてネット経由で必要なときに端末に落として読むことだ。えーと紙より電子がいいという意味ではなくて、「電子書籍という存在の理想の形」なので、誤読なきよう。生涯何度も読み返している本当に好きな小説は、装丁から紙、印刷まで味わえる紙のが好きだ。


その意味でこのPFUの「非破壊型スキャナ ScanSnap SV600」には期待している。とりあえず場所を取るコミックだけでもこれで読み込んで自炊したいんだけどさ。6万円くらいだけど、本棚分の家賃10年分とか考えるなら十分元を取れるので。



次善の策は、定額制かな。所有感がないのが現状であれば、なにも一冊買い切りに拘る必要はない。どうせ所有感がないのなら、いわば「定額制の貸本サービス」で読んでも大差ない。すでに「月315円で読み放題」的サービスがある。
http://pc.yomel.jp/

このyomel.jpに私の読みたい作品があるとはとても言えないが、方向性としては支持だな。「いまのところ」だけれど。

いずれ、どこの電子書店・アプリで購入しても自在にコンテンツが自由に移動できるようになればうれしいが、まあ無理だろうし。


editors_brain at 08:13|PermalinkComments(1)

2013年06月05日

「出版社はビジネスモデルを守るため、電子書籍に後ろ向き」←まだこんな寝言唱えてる人がいる。しかもコンサル屋・マーケ屋なのに

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マルチメディア総研のWebに、「電子書籍市場、出版社と書店の間に“意識のずれ”」という記事が出た。タイトルが興味を惹いたので読んでみたが、相も変わらずの「出版社陰謀説」的言説でうんざりした。

このクラウド&モバイル・ソリューション研究グループ/山口泰裕氏は、出版社にきちんと聞き取りしたのかな? 山口氏の論旨の流れをまとめると以下だ。


1●電子書籍が出回ることで、その便利さや価格の安さなどから読書ユーザーが紙から電子へとシフトする

2●出版業界のビジネスモデルが崩壊しかねないとして、出版社が電子書籍の普及に及び腰

3●結果的に電子書籍として「商品化」されたものの多くが「紙からの焼き直し」にとどまっている


まず、「出版社が電子書籍の普及に及び腰」という認識は間違っている。2年も前のエントリーで何度か言及したように(「大手がamazonと組む」とか「出版社と電子書籍」とか)、もう20年近く続く出版不況に苦しむ出版社では、おおむねトップダウンの形で電子書籍発行に前のめりに進んでいる。実際、新作書籍を基本的に「電子書籍も併売する」方針を打ち出した大手出版社だって多い。

出版社はむしろ「電子書籍が早く浸透してほしい」のだ。それにより、過去作の再活性化も可能になるから。たとえばコミック全巻購入とかさ。映画コンテンツがビデオで売れて、DVDで売れて、ブルーレイでまた売れて……というのと同じパターンとして。


ではなぜ「3」のように、電子書籍として「商品化」されたものの多くが「紙からの焼き直し」にとどまっているのか。それは事実だが、けっして「出版社が電子書籍の普及に及び腰」だからではない。

それは電子書籍が売れないからだ。

日本市場での電子書籍は、現状、紙の書籍の1%〜5%くらいの部数しか出ない例がほとんどだ。

専門書などを除く一般的な書籍なら、まあ最低でも初版6000部くらいは刷るだろう。1200円として、売上が720万。流通の取り分が約1/3で出版社に入るのは480万。ここから紙や印刷、著者印税やデザインフィーといった直接費、編集にかかる費用、事務所費用だの人事や営業といった間接費を引くと、全部売れて返本がなかったと仮定して、まあトントン。返本が来れば赤字。うまいこと売れて増刷がかかれば黒字化する、というのが一般的な書籍像だろう。


これを仮に電子書籍だけで企画したとするとどうなるか。値付けを同じにしても1200円で300部(5%として)。売上は36万円だ。著者に入る印税は4万円くらいだから、出版社の大赤字を無視するとしても、そもそも書いてくれる人がいない。

といってじゃあ500円なり100円に値付けすれば爆発的に売れるのかといえば、現状、電子書籍を購入するユーザーは書店で書籍を買うユーザーに比べ圧倒的に数が少なく、値下げと売上の相関関係はあるが、強くはない。つまり価格を下げるリスクが高すぎる。再販商品ではないという電子書籍の特徴をうまく生かし「プロモーションの一環として」期間限定とか一部だけ下げる例が多い。


これが、「電子書籍オリジナル」の書籍がなかなか登場しない要因だ。

つまり電子書籍は、「紙版書籍に原価を全部付け回す」ずるをしてようやく出しているのが現状。その意味でも、多くの電子書籍は紙の書籍の電子化にならざるをえない。そうではないパターンで強いのは、やはりエロ描写の強いコミックとかだ。

私の認識では、電子書籍が売れるようになれば、自然と「電子書籍オリジナル」の書籍企画が増える。現在はそれまでの過渡期ということだ。


山口氏は、「出版社は自分たちのビジネスモデルを守るため、紙を電子に置き換えるコンテンツ戦略にこだわっている」などと書いているが、とんでもない勘違い。出版社への取材をまったくしていないのか、よほど色眼鏡で取材したのだろうか。謎だ。

それに「出版社のビジネスモデル」とか大仰に書いているが、山口氏の文脈のような「紙でしかあり得ない出版社のビジネスモデル」なんてないだろ。「ビジネスモデル」の類の意味ありげで曖昧な用語を混ぜ込み「頭良さそうに」書くのはコンサル業界の常とはいえ、いくらなんでも意味不明だ。最近だと「ビッグデータ」とかもこのパターン。

久し振りに頭が痛くなった論考だった。


――とはいえ、私は山口氏とは別の意味で、「電子書籍オリジナル」の書籍登場こそが、電子書籍市場を活性化すると考えている。

それはセルフパブリッシングだ。出版社では出版が難しい内容やボリューム、速報性を持つ電子書籍を、著者自らがKDPなどで出版し、それが話題になれば、「電子でしか読めないから」として、マジョリティーの「本読み」を徐々に電子書籍に引き込むことが可能になる。そうなれば著者・出版社とも、電子書籍市場が広がってたいへん助かる。


ただし、それに到るまでは、著者は厳しい。前述のように電子書籍は全然売れないので、印税率が紙の10%に比べ35%と上がっても、トータルの収入は極端に下がるだろう。

おまけに契約上も電子のが損だ。紙の本なら極端な話、一部も売れずに出版社が大赤字を出そうが、初版部数分の印税はもらえる(一般的な印税契約の場合)。しかし電子書籍は売れた部数しか印税が入らないので、取材費などかけていては、その金利負担分すら印税で賄えるか疑問だ。

そこまで極端ではないにしても編集作業も営業も事務も自分でやるしかないので、その分をコスト換算すると、儲かりゃしない。


つまり当初は「電子書籍で飯を食いたい」人ではなく、「損してもいいから自分の本を表に出したい」人の熱意で、電子書籍オリジナル市場は進んでいくはずだ。ないし「紙の出版社に自分を売り込む手段」として電子書籍出すとかね。

それでも成功する書籍は出るだろう。下のようにKDPをきっかけに早川書房から紙での書籍化まで行った「ジーンマッパー」の例もある。

ただこれはKDPの日本でのハシリだっただけに「とりわけ注目された」というプロモーション上の利点があったので、これからの方はもっと工夫しないと厳しいだろうけれども。

でもそこそこの人気ブロガーの方とかは、すでにコンテンツのファンを抱えているしプロモーション手法も持っているので、コンテンツのKDP出版などを試すだけの意味はある。コンテンツ執筆労力は「ブログ」で終わっているし、アフィリエイトだけではない執筆コスト担保手法を試すという意味で。

一例を挙げると、「キャラ弁ブログ」「団地マニアブログ」など、やってる方とかね。写真中心で出版できて文章編集・校正の労力が少なくて済むもの、かつ熱狂的ファンがいる分野は、私の編集者の勘として、けっこうイケる気がする。オールカラーの書籍は紙代・印刷代が嵩むが、電子書籍ならモノクロだろうとフルカラーだろうと紙ほど差はつかないし。


editors_brain at 08:13|PermalinkComments(19)
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