ポプラ社

2018年10月22日

「三億円事件犯人の告白」体のなろう小説は、ポプラ社の仕込みか?

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「小説家になろう」に投稿されて話題になった、「府中三億円事件を計画・実行したのは私です。」。ポプラ社が「小説として」12月10日に出版するようだ。


となると誰しも考えるのは、「これ、ポプラの仕込みじゃね?」ということだ。なにせ、9月末頃に話題になってから発売日まで、たった2か月半しかない。年内発売なら企画書は半年前程度から動くはず。仮に緊急出版としても、スケジュールはけっこう怪しいのではないか。

最初期に注目したとしても9月末だ。それからなろう運営元に連絡して作者に打診してもらい、返事を待って契約条件を詰め、書類をかわすまで1か月は、相当に短い。それどころか現時点で、価格まで発表されている(=判型などの仕様がすでに決まっている)。出版関係者の方ならわかってもらえるだろうが、これはかなり無理筋だ。

なにせ出版が決まった後で原稿をやり取りして編集・校正し、表紙デザインを決め紙や判型などの仕様を決めることになる。企画から仕様決定までの間、社内の会議を何回か潜らせないとならない。

これ全部でたった30日かそこらってのは、なかなか考えづらい。最初からその予定で投稿された臭いがする。さらに「面白い手記がなろうにある」とかなんとか、ネットに着火した可能性すらある。


なにしろポプラ社にはKAGEROUヤラセ事件という、どでかい前科がある。だからどうしてもうがった見方をしてしまうのだ。


本作が仕込みでなく、純粋にネットの海に手を突っ込んで拾ったのだとしたら、担当編集は相当に有能だ。そもそもポプラ社は児童書中心の歴史ある出版社。その中で、ネット小説をサーチして発掘する編集者がいたとしたら、異端扱いは見えてる。

三億円事件の手記なんて際物に手を出すのは、反対する編集者や役員も多いと思う次第。「児童書のウチが出すべき書籍だろうか」とかなんとか。それを極めて短時間で説き伏せたわけだから、有能としか言いようがない。


蓋然性としてどちらがありそうかは、うーん……。個人的には仕込みかなあという気がする。出版界はそもそも下世話なところ。話題作りを仕掛けて勝てればそれで良しってのは、特に雑誌の世界なんかでは一般的だ。

ただ「ポプラ社」と「ヤラセ」や「仕込み」という食い合わせに、どうしても違和感を感じる。それは私がポプラの児童書で育ってきたからだろう。

ポプラはもう当時の出版社ではないのだ。おそらく。出版不況に加え少子化で、児童書が苦しいのは火を見るより明らか。生き残るために修羅の道に踏み出しているのだとしても、他人に責められる筋合いはない。まあ公募でのヤラセ(KAGEROU)は大問題だと思うけど。

あーあと最後に書いておくと、この犯人告白だが、ほぼ確実に創作だろう。「これは真実か、それともフィクションか!? 話題沸騰の問題作、ついに出版!」的な広告コピー、今から目に浮かぶわ。


editors_brain at 08:31|PermalinkComments(0)

2011年02月09日

水嶋ヒロ「KAGEROU」。ポプラ社がなぜヤラセに「踏み切った」のか、走馬灯のようにぼんやりなんとなく考えてみる。

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水嶋ヒロ「KAGEROU」絡みの話題はちょいちょい取り上げてきた。

ヤラセ疑惑にしても、単なる「どう見ても黒」印象を超えて具体的な登場人物込みの報道が出たりして、どうやら本当にヤラセだった可能性が高くなってきたので、ちょっと書いた。


その折も考えていたのが、「あの良心的なポプラ社がどうしてこんなことを」って感想。子供の頃からポプラの絵本で育った私の素朴な疑問だ。未だにアマゾンのレビュー悲惨な限りだし。

なんで「ブランド失墜上等」でヤラせだか低レベル受賞作選出だかに全力で突っ走ったのか。ポプラの企業イメージと全然違うじゃん。


で、前回のエントリーには間に合わなかったのだが調べてみたら、2010年の9月に「ポプラ社は暴力団に食い物にされている」という記事を、週刊新潮が書いていた。暴力団が経営陣に食い込んで、役員まで送り込んでいるとかなんとか。

この記事がもし正しいとすると、今回の件と符合はする。


一般論だが、企業に食い込んだ暴力団は、その企業の長期的なブランド力育成など考えないだろう。その企業のカンバンで金を抜けるだけ抜いて、企業がボロボロになれば適当に落とし前付けて次の企業に移るだけだ。

まして今回、芸能人だし。芸能プロダクションと暴力団の関係は、誰もが知ることだ。それぞれがつながりのある暴力団を媒介に「芸能人とポプラ社が握った」という図式は、(事実かは別として)まことにわかりやすい。


ポプラ社+暴力団的な情報を追うと、おおむねポプラ社元会長がどうのこうのという記述に行き当たる。しかし書かれていることの多くは単なる噂レベルであって、信頼性は低いように思える。

彼は、店頭公開ITベンチャーの社外取締役でもある。ジャスダックとかマザーズに公開するITベンチャー+暴力団というのは、現実の事件としてよくある図式ではあるけれど、いくらなんでもそれだけでなにか悪いことのように言うのは間違っている。単なるやり手というのが「よくある真実」だろう。

ただ、彼は多くの競馬馬を抱えていた著名ギャンブル馬主でもある。その意味で私が勝手に想像する「良心的児童書の堅実なポプラ社経営者」というイメージと、はるかに落差があるのはたしかだ。まあ当方の個人的な思い込みにて馬主の方々には誠に恐縮なんだけど(すいません)。


あと一言だけ書いておくと、彼が退任したのが2010年11月。10月の受賞を受け、ちょうどヤラセ疑惑で大騒ぎになった頃だ。ポプラ社は2011年2月現在もまだヤラセをか弱く否定してるわけで、表向きはKAGEROUという大ヒットを飛ばした功労者というわけなのに。なんでだろうなあ。

ポプラ社の社史を見ていても、社長人事は書いてあるのだが、会長人事については就任も退任もまったく触れていない。それも企業としては異色。理由はわからない。闇の中だ。


editors_brain at 07:00|PermalinkComments(0)

2010年12月24日

ここだけの話だが、水嶋ヒロ「KAGEROU」の評判が悪い。

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lemonここだけの話だが、周辺の編集者仲間でも、ポプラ社小説大賞受賞作、水嶋ヒロ「KAGEROU」の評判が悪い。

曰く「ストーリーがひどい」「キャラ造形が悪い」「日本語が悲惨」と、三重苦の有様らしい。

仲間内の与太話だけでなく実際アマゾンの評価など見てみても、最低ランクの「1」評価ばかりが並んでいる(あとはファンの盲目擁護と思われる「5」評価と)。


もちろんアマゾンへの投稿評価だから、有名人に対するヤッカミからむやみに評価が低い投稿が連なる傾向にはあるだろう。

しかし、中間の2〜4が極小だ。そこには一定の真実があるはず。おまけにプロである書評家や作家の評価も芳しくない。というか見ていると遠慮しながらの酷評といった趣だ。


実際どうかと思ったので、書店で手に取ってみた。



パラ見した程度なので、キャラ造形や物語については語れない。日本語表記レベルの話は語れるので、ここではそのところについて書いてみる。


とはいえこれ、思ったほどひどくなかった。いや、仲間の話を聞く限り、もっととてつもなく破綻してると思ってたので。


でもまあ「プロの編集者としてうまい文章と思うか?」と訊かれれば、どう贔屓目に見ても「残念ながら」としか答えられない。

小説家とはとても言いづらいレベルであり、まあフツーの高校生が書いた作文クラス。語彙も言い回しも、日本語としてのリズムの付け方もビビッドな日本語を書くテクニックも、全部水準が低い。


ポプラ社が本書を書店買い切りの責任販売にしたのは正解だ。委託販売では噂が拡がりどかんと戻って大損する可能性がある、この質では。


水嶋ヒロには罪はない。彼は読者に伝えたい切実ななにかをせいいっぱい書いただけで、下手だろうがなんだろうが他人に文句言われる筋合いはない。

俳優なげうって作家になろうと決意するなんて、潔さにあふれている。今なに言われたって、今後精進していい作家になって見返せばいいだけの話。私個人的にはむしろ応援したいくらいだ。


しかしこうなると問題はポプラ社かな。

他に1000を超える投稿作があったというのに、本当にこれが「一番」なのだろうか? と誰しも感じるはず。

となると、ポプラ社の主張「俳優・水嶋ヒロの投稿とは知らずにベストの作品を大賞に選んだら、偶然水嶋ヒロだった」という言い訳が「怪しい」と考える層に、一定の根拠を与えたことになる。

なんたって選考は自社の社員だけで行われており、普通の文学新人賞のように外部の作家なり評論家なりが入っておらず選考過程も公開されてないことが、こうした疑惑を深めている。

まあ正直私もその可能性が高くなったと思うし。


実際、週刊ポストが、「本人側から持ち込んだヤラセだった」「賞金2000万円辞退はシナリオで、ハナからその前提で印税率が決められていた+話を持ち込んだ出版プロデューサーにも印税出す」って記事を出したね。

この記事、登場人物も特定されており(本名はないよ)もの凄く具体的なだけに、「おそらく事実に近いだろう」と思わせる。60代女性出版プロデューサーって、やっぱ扶桑社の「あの人」かな。うーん、この商売はなあ……。

いちおうポプラ社は「そんなことない」とは言ってるけど、選考過程に関する具体的な反論部分を全部書いても以下のような短いものだ。


当該記事における選考過程及び印税支払等に関する記述につきましては、事実と異なっており大変困惑しております。


「選考過程と印税支払いの部分についてだけは記事と異なる」ってだけで、「本人から持ち込まれたヤラセ」という指摘が間違ってるかどうかは、この文章ではどっちとも取れる。

どっちとも取れる声明を出したということは、やっぱり後ろ暗い部分があるんだろうおそらく。そうでなければ、自社の大ホームランに対する中傷記事には、普通は全力で反撃するはず。

たった2行ってのは、やはりかなり弱々しい反論という印象だ。いずれどっかでぼろぼろ裏話がこぼれ落ちてきそうな気がする。


仮に本当に「何も知らずに」これを大賞に選んだとしても、それはそれで恥の上塗りだろう。なんたって、自社の名前を冠した看板賞の「大賞」がこのレベルと、堂々と宣言したも同然だからだ。


以下は仮に「ヤラセだった」と仮定しての見解だが、ミエミエの仕掛けなんか考えず、「水嶋ヒロさんの版権が取れたんで出版します」と、賞とは別に普通に取り扱えばよかったんじゃないかなあ。それだってすごく売れただろうし。

それにそもそも他の1000人の応募者に超失礼だろう。中には「作家になりたい」と本気で命賭けて応募した人もいるだろうし。


もう今回の件で、あの伝統ある児童書のポプラ社に、「(事実かは別として)うさんくさいヤラセ出版社」「レベルの低い小説を大賞に選ぶ出版社」という色が付いてしまった。それは今後大きくポプラ社のブランド力を下げるだろう。

いずれにしろ現場の編集者だの営業には罪のない話なんで、頑張ってもらいたいけどなあ。ゴリ押ししたのは局長・役員クラスだろうし(ハアー)。

それとも、そこまで恥も外聞もなく「違法でなければなんでもやる」方向に舵を切らないと危ない程度まで行ってしまっていたのだろうか。だとしたら子供の頃からなじんだ読者として悲しい限りだ。

editors_brain at 07:00|PermalinkComments(2)

2010年11月26日

水嶋ヒロ「KAGEROU」出版! ポプラ社が「初めての責任販売」に踏み切る「ワケ」

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P117063310月にポプラ社小説大賞を俳優の水嶋ヒロが受賞したことは、ご存じの通り。

「水嶋ヒロ」としての投稿を「隠しての受賞」ということで、ずいぶん話題になった。

そのポプラ社だが、彼の受賞作「KAGEROU」で、同社初の責任販売に踏み切るという。


業界の方なら今さら言うまでもないが、書籍の販売形式は、責任販売でなく委託販売がほとんどだ。


委託販売とは、言ってみれば書店の「場所貸し」のようなもの。売れれば書店にマージンが入る一方、売れ残りは返本(返品)すれば書店は1円も負担しないで済む(店舗運営資金はもちろん必要だ)。

これに対し責任販売とは、書店が身銭を切って書籍を購入し、売れ残れば損失を書店が被る形式。売れ残りリスクが出版社から書店に移る分、書店が手にするマージンはこちらのほうが大きくなる。


なぜ委託販売がほとんどかというと、総合的な利点が多いから。文化的な意義としては、書籍の多様性を担保できる(あまり売れない本でも出版できる)。功利的な意義としては、書店の仕入れ資金の問題とか。


ではなぜポプラ社は、売れるのがわかっているのに「自社の取り分が減る」責任販売を取り入れたか。

――これは、やはり「返本が怖い」からだろう。

つまりは超話題のベストセラーになると「ポプラ社が判断している」ということだ。


実際そうなるかは不明だが、ベストセラーの恐怖は以前ハリーポッターの静山社で考察したので、よければそちらを見てほしい。

「なんでIQ84で新潮社が責任販売にせず、ポプラ社はKAGEROUで責任販売にするのか」という点だけ書いとけば、それはやはりポプラ社が企業として小規模なので、リスクを負い切れないからだろう。

返本が大量に来れば、もたない可能性がある。

その意味で静山社と同じだ。

editors_brain at 07:00|PermalinkComments(2)
プロフィール

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出版社の編集者。雑誌、単行本、Webサイトとすべて経験。基本マインドは雑誌屋。デザインに凝った趣味雑誌が好み。

趣味は多彩。のめり込むタイプで、対象増加の一方。

キャラクター的にはツッコミ(自称)。他人に言わせると「ボケ」。
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