2006年05月
2006年05月29日
第3話
1
朝が来る。ルラはすでに起きていたフォルンとワッカーに挨拶をして、共に朝食を食べる。初めて塔に行くせいか誰がみてもわかるほどガチガチに緊張していた。両親はなんとか緊張をほぐそうとしたものの、少し和らげることに成功しただけだった。
オレンジジュースにガムシロップを入れ、パンにコショウをかけるというベタな失敗をした朝食を済ませ部屋に戻る。自室には昨日の夜準備した物が揃っている。
フォルンの冒険者時代の予備装備である硬革の鎧を身に着ける。もっと守備力の高い金属鎧もあるが、重さの関係でフォルンはルラにはまだ無理だと判断し渡さなかった。
次に机の上に置かれた2本のナイフを腰に下げる。1本は片刃のナイフで全長30cmほど。鍔にトロンと刻まれている。このナイフは幼い頃に会った冒険者に貰ったナイフ。時々手入れし大事にしまってあった思い出の品だ。もう1本は全長25cmの両刃のナイフ。こちらは鎧と同じくフォルンの予備武器。頑丈だが特別な効果はない。
使い込まれた装備を見る限り、てだれの冒険者に見えなくもない。全体を見ると即駆け出しだと判断されるが。
「よよよ用意、おわおわおわ終わったよ」
「大丈夫なのか、こんなんで?」
多少ほぐれたとはいえいまだに緊張の色が濃いルラをワッカーが呆れ半分心配半分といった顔つきで見ている。
「どうだろうね? ちょっと心配になってきたわ」
「アドバイスでもしてやったらどうだ。それで緊張がほぐれるかどうかは別として」
「まあ元々するつもりだったけど。ルラ…ルラ?」
自分なりに落ち着こうと水を飲んだり、体を動かすことに夢中になって何も聞こえていないルラ。フォルンが肩を叩いて気付く。
「ななな何?」
「アドバイスしておこうと思ってね。色々失敗してきなさい」
「失敗?」
思っていたアドバイスと違うことを言われ、緊張も忘れぼうっとフォルンを見る。探索に役立つことや戦闘の切り抜け方を教えてもらえると思っていたルラ。
「そう失敗。高い階層に行ってから失敗すると致命的だからね。低い階層なら敵も弱いし、罠もイタズラみたいなものだよ。失敗して体で覚えるんだ。どんなふうに罠が隠されているか? 魔物はどんなふうに動くか? 体を動かし方とペース。失敗して次にいかしていく、大事なことだよ」
「わ、わかった。そろそろ行くね」
「「いってらっしゃい」」
ルラの頼りない背中を夫婦で見送る。たまたまその様子を見ていた近所の人にルラの格好について聞かれ、塔に行くと答えたところ、すごく驚かれた。そのくらいルラ=臆病という図式が成り立っている。
このあと掃除でルラの部屋に入ったフォルンはあるものをみつける。ルラの緊張を和らげることに気を取られ、夫婦も見落としたそれ。昨日のうちにフォルンが冒険に必要なものを入れたリュック。ルラは水筒、ロープ、傷薬、食料などを持たずに塔へ向ったことになる。現在の所持品は武器、防具、必要最低限のお金のみ。
「あっちゃー、今から持っていっても間に合わないだろうねぇ。リリヤちゃんに借りられたらいいんだけど。ちょっと嫌な予感するわ」
リリヤちゃんもさすがに緊張してるだろうしね、と呟き協会の方向を見る。
空は門出を祝うかのような晴天だった。
フォルンがリュックをみつけた数時間前、ルラが家を出て数十分後、ルラとリリヤは協会前で落ち合った。
「おはようリリ」
「おはようルラ」
リリヤはルラの十分前には来ていたようで走ってくるルラをみつけると手を振って居場所を知らせる。
リリヤは髪を赤いリボンでまとめ、軽戦士用の金属鎧を身に着けている。動きを阻害しない軽めの鎧。普段の訓練時から使用しているものだ。背には金属線を仕込んだ硬革の盾と金属板を貼り付けた厚手の手袋。腰にショートソード。これも使い慣れたもの。そしてミニスカート、ニーソックスといったいでたち。
フォルンの嫌な予感は当たっており、リリヤも水筒などといった道具は持ってきていなかった。かろうじて魔術を使うために属性道具を持ってきている程度。
「いきますわよ」
「う、うん」
「緊張するには早いと思うのだけど。まだ登録にいくだけですのに」
「塔に入るってのもあるけど、来たことのないところに来てるから」
「なるほど」
ここに来るのはリリヤも初めてなのだが、表面上はなんの変化もみせずに受付へと歩いていく。その隣をルラがびくびくとついてく。リリヤが緊張を表に出すとルラがさらに情けない様を晒すとわかっていたのでリリヤは堂々としていた。
受付で登録を済ませてお金を払い、挑戦の門へと移動する。案内員に説明を聞いて二人とも女神を触る。手元に光が出てカードを手に入れた。次に案内された経験値配布所では説明だけうけることになった。経験値がなくてレベルアップできなかったのだ。
全ての説明を受け終わった頃には昼前になっていた。お金のなかったルラは多めに持ってきていたリリヤに借りて昼食をとる。
そしてついに塔に挑戦するときが来た。移送陣に入る列に並び順番を待つ。緊張が高まり二人とも徐々に口数が減っていく。移送陣を前にしたときは無言になり、そのまま足を踏み入れた。
2
跳んだ先は草原の大樹グラスロウ。壁や天井は木製で大樹のうろの中にいるような感じを受ける。床は芝生。所々に背のまばらな雑草が生えている。報告でこの草や木の部分は燃やしても燃え広がることがないということがわかっている。火に触れた部分だけが燃えすぐに消える。
ルラはいまだに緊張しているが、リリヤは好奇心が刺激されたのか周りを珍しげに見渡している。
「じっとしてても意味ありませんわ。先に進みますわよ」
「う、うん」
「もう! いい加減落ち着いたらどうです。緊張しっぱなしというのも疲れますのよ」
「まだ無理。それでね…えっと…その」
言いにくそうにちらちらとリリヤを見る。
「なんですの?」
「えっとね、落ち着くまで手を繋いでていい?」
少し間があき、ルラが何を言ったのか理解すると顔を赤く染め視線をルラからそらす。
「し、仕方がありませんわね。少しの間だけですわよ。ほら」
リリヤは顔を見ないまま手を差し出す。手袋ごしなのでルラにはわからなかったがリリヤも緊張で手が汗ばんでいた。手を繋いだことで動きづらくなったが互いに緊張が解けていくので±0といったところか。その部屋に仕掛けられていた草を結んだブービートラップにひっかかり一緒に転んだからマイナスかもしれない。
進んだ次の部屋でリリヤが止まる。止まった理由を聞こうとするルラの口を手で塞ぐ。草むらが揺れウサギと同じくらいの大きさの毛玉が三匹跳ね出てきた。
「ルラ! ナイフを抜いて!」
言いながらリリヤもショートソードを抜き、盾を構える。ルラはわたわたと片刃のナイフを抜く。
毛玉たちは勢いよく飛びかかってくる。
リリヤは相手の動きをよく見て、口を広げ噛もうとする毛玉に剣を当てる。飛びかかった勢いも手伝って毛玉は真っ二つにされる。倒せたことに安心し気が緩んだ瞬間、二匹目がぶつかってきた。
「きゃっ」
とっさに盾で受けたものの、衝撃に短く悲鳴を上げる。再びぶつかってきた毛玉を今度は交わすことに成功。毛玉が着地して動く前に剣を突き出して倒した。
一方ルラは、
「わわわわっ!」
声を上げながら両手を振り回し無我夢中で避けていた。いくら決意しようが夢に歩き出そうが、元々の気質がすぐには変わるわけがなかった。
毛玉の体当たり、噛み付きを避けること五回。六回目の体当たりでルラに近づいたとき、偶然振り回していたナイフが当たり倒れた。
リリヤとルラの命をかけた初実戦は終わった。リリヤは体当たりによって軽く腕が痺れ、ルラは動きまわったことで体力が減っている。
しかし初戦闘で被ったことはそれだけではない。二人とも精神的な疲れがある。これは相手から殺意を向けられたことで生じたもの。怒気、嘲笑、羨望など負の感情は向けられたことはあったが、殺意を向けられたことはなかった。
レベルが上がらなかったということは魔物との戦闘経験がないということ。訓練では経験値を得ることはできない。実戦と訓練は場の雰囲気、消耗度が全く違う。それを思い知った二人だった。
「疲れた」
「そうですわね」
その場に座り込むルラをリリヤは注意できない。自分も座りたかったから。喉が渇いたが水筒を持ってきていないことに気付く。次からは持ってくることを決意し、休憩を取る。15分ほど休んでルラを立たせる。
「ルラ、行きますわよ」
「ん、わかった」
落ちていたアイテムを拾ってから先に進む。
移送陣まで敵に会うことはなかったが、100%の確率で罠に引っかかりながら二階へと移動した。
引っかかった罠の種類は金タライ、落とし穴、ビックリ箱、水鉄砲。
通常の冒険者が1時間で移動するところを二人は2時間かけて踏破した。罠に関してはフォルンのアドバイスどおり体で覚えていった二人だった。どこにあって、どんなふうになっているか解説してくれる人がいなかったからいまいち理解しきれていないが。
3
束縛から自由となったバルフは適度に快適な宿をとり、一人祝杯をあげる。いつもより多めに酒を飲んでから部屋に戻っていく。今日まで仕事に差し支えるので酔うまで飲むことができなかった。ほろ酔いになれることを喜び、いい気分で眠りについた。
「くあ〜、よく寝た」
言葉のとうり、目を覚ましたのは昼前だ。青い眼を半分開け、真っ白な髪をわしわしとかき寝坊しても何も言われないことに幸せを感じながら着替えていく。
今日から塔に挑戦と寝ぼけながらも頭の中に浮かんだので、それ用に着替えていったら上下真っ黒な仕事着になってしまった。鏡で確認している最中に完全に目が覚めたので、そのまま出て行かなくてすんだ。
「まずかった。これで誰かに見られたら怪しさ満点で自警団か衛兵を呼ばれるとこだった」
せっかく自由になったのに、捕まりたくないと思いつつ探索に向いた装備に変えていく。
金属線を仕込んだ篭手、金属補強したブーツ、鎖かたびら、マントで身を固めていく。腰の横には片刃の曲刀カトラス、腰の後ろには金属線で編みこまれた鞭。探索に使う道具も忘れない。
今度こそOKと部屋を出て行く。
宿で昼食を取ったあと、協会へと向う。手続きをちゃっちゃと済ませ、門でカードを得る。触ったのは女神。経験値配布所でLv5まで上げてから移送陣に入っていった。
Lv5なので二階からのスタートとなる。気負いも緊張もなく進む。向ってくる魔物は倒し、逃げたり気付かないものは相手にしない。一度、奇襲できる場面もあったがわざと音をたて相手に気付かせた。
「ん〜っ低階層だけあって楽に進めるな」
視界の片隅に転がっているバケツを映し進む。ここまでくるのにバルフは罠探知や解除を行っていない。それは罠がなかったといわけじゃなくて、全て発動していたから。
「ここまでわかりやすい罠にひっかかる奴がいるなんてなぁ」
言うほどわかりやすい仕掛けになっているわけではない。ちょっと罠探知について学んでいればひっかかることはないが、素人ならば50%の確率で発見できずに発動させてしまうだろう。
『※ωΘξ‰※⊇!?』
「先のほうが騒がしいな、また罠にでもひっかかってるのか?」
バルフが今歩いている通路の先から何かが落ちた音と人の声が聞こえてくる。顔を見るついでに、罠にかかっていたら助けてやろうかねと思いつつ部屋に入る。
そこには十代前半の男女がネットに絡まり、抜け出そうと騒いでいた。
「鎧がひっかかって外れませんわ!」
「リリ動かないでよぉ。余計に外れにくくなるよ」
ルラとリリヤはネットから抜け出ることに集中してバルフに気付かない。ナイフでネットを切るという方法も思いつかずにもぞもぞと動いていた。
「お二人さん、手伝おうか?」
「「え?」」
二人は動きを止めて、声の聞こえた方向バルフを見上げる。
「あ、えっとお願いします」
「手を煩わせることもありませんわ。お気になさらず」
ルラとリリヤは同時に正反対の返事をする。
「どっち?」
抜け出すのは無理だとわかっていてバルフはあえて聞く。ククッと笑いをこらえているので面白がっているのは間違いない。バルフの心情を見抜いたのか憮然となるリリヤ。
「リリ手伝ってもらおうよ」
「…仕方ありませんわね」
「お願いします」
「………」
ルラは頭を下げ、リリヤは黙ったまま。
「お願いしますは?」
「リリ」
「…オネガイシマス」
ルラに促され渋々頭を下げる。そんなリリヤを気にせず、了解と応えてネットを切っていく。すぐにルラとリリヤは自由の身となった。
「ありがとうございます」
「アリガトウゴザイマス」
「ん、たいしたことないから気にしなくていいさ。しかしボロボロだな」
いくつもの罠にひっかかり薄汚れたルラとリリヤ。バルフはここまで全部の罠にひっかかったのか、いやでもさすがにそれはないだろ、と思ってたりする。
「これを含めて八個の罠にひっかかりましたから」
「それはまた…」
記録を辿り発動していた罠の個数を思い出す。思い出せる以上の個数だった。
「この先、大丈夫なのか? あれくらいの罠を見抜けないと危ないだけじゃすまないぞ」
「目的がありますから諦めたり、進むことを止めるつもりはありませんわ」
「そうか」
リリヤの言う目的とやらに興味が湧かなかったのでバルフは適当に相づちを打つ。そんなバルフにルラが話し掛ける。
「あの…」
「なんだ?」
「一人で塔を進むんですか?」
「今のところはそのつもりだが」
「もしよければ、僕らと一緒に組んでくれませんか。ずっとじゃなくていいんです」
そのルラの言葉にバルフよりも早くリリヤが反応した。
「ルラ、私たちだけでも充分進めますわ。今は罠にひっかかってますけど、後々慣れていって発見もできるようになります!」
「僕はそうは思えないよ。罠の解除や発見は間違えて覚える可能性もあるし、きちんとわかっている人に教えてもらっといたほうがいい」
「でもこの人がきちんと理解している人かはわからないですわ」
「さっき言ってたじゃないか『あれくらいの罠見抜けないと』って。そう言えるってことは理解してることだって思うよ」
普段どうりのリリヤならばルラの言っていることは説明されなくても気付くことができるが、疲れで思考力の鈍った彼女では気付くことはできなかった。
「それにね、この先僕ら二人じゃ不安なんだ。リリは訓練とかで剣を扱えるけど、僕は戦闘に関して素人だから役に立たない。このまま進んだら僕らきっと取り返しのつかないことになる」
「それは…」
ルラに言われるまでもなくリリヤもここまでの戦闘でわかっていた。
『塔』は素人二人が進めるほど甘くはない、と。
「あーもう、わかりましたわ! ルラの好きなようにすればいいです」
「ありがとう」
ぷいっと顔を背けるリリヤにルラは笑顔でお礼を言う。
「盛り上がってるとこ悪いんだが。俺、組むとは言ってないぞ?」
「あっ! そう言えば」
「んーちょっと考えさせてくれるか?」
「ええと、お願いします」
なんと言えばいいかわからずにとりあえず頭を下げるルラ。
「(さーてどうするか…。別に教えるのは構わないよな。暇潰しにもなるし。目的とやらもは何なのかわからんが最後まで付き合わなくてもよさそうだし。
貴族の娘がいるのは大きいな。爵位が高くないぶん大きなトラブルに巻き込まれる可能性も低いだろうし、何かいいめにあえるかもしれん。
このまま放り出すってのも不安が残るし受けるか)」
バルフがリリヤのことを知っているのは、たまたまいくつかの貴族を調べたことがあるから。屋敷に忍びこんだときに見かけたので間違いない。
「いいぞ。引き受けよう」
「本当ですか!? ありがとうございます」
引き受けてもらい嬉しいのだろう喜びながらルラは頭を下げる。
「これからよろしくお願いしますわ」
リリヤは不安に思っていたことが少しは解決したことによる安堵と冷静になったことから素直に頭を下げた。
素直なリリヤに少し驚いたがバルフはこちらこそと返し心情の変化を見せない。
「もう一階進んで、罠の解説しようと思うが二人は大丈夫か?」
早速、役目を果たそうと聞いてみる。二人が疲れていたので無理かもしれないと思う一方でどれくらい真剣なのか知りたくて判断を仰ぐ。三階に進む場合はバルフ一人で全てを蹴散らす心積もりだ。
返答は二人ともYESだった。二人の返事に感心し顔を少しばかり綻ばせる。三階では立てた誓いのとうり、すべて一人で片をつけた。どんな障害も何事もないように進むバルフにリリヤとルラは驚き、組んでもらうようになったことをありがたく思う。
協会に戻った三人は次の探索を三日後として別れた。これはバルフが提案したことで、リリヤとルラが疲労しきっているので、そう判断した。
2006年05月23日
第2話
1
「み・と・め・る・かー!!」
ドリンの声が屋敷中に響く。この屋敷が建ってから初めてでだろうこんなに大きな声が響き渡ったのは。
響いた声には商人としての色はなく、父親としての感情のみが込められていた。
もっと具体的に言うとリリヤの不意打ちによって、見合いを勧めていたときに見せていた利益を追い求める商人の顔は欠片も出ていなくて、純粋に娘はまだまだ手元に置いておくといった父親の顔が出ていた。
「あはははははっそうきたか!」
一方の兄はというと腹を抱えて笑っていた。期待していたとおりにしでかしてくれた妹に満足している。
「………」
ルラは何も言えずに口をパクパクと動かすのみ。驚く一方で母さんと話していたのはこのことだったのかなと考えてもいた。
「お父様だって勝手に私の結婚を決めたではありませんか。それなら私だって勝手に決めますわ」
リリヤはふんっと胸を張って威張る。そんなリリヤにウォックスはサムズアップ。
「それとこれとは話しが違う。わたしはお前のことを想って判断したんだ。お前はまだ若くいろいろな経験が足りていない。正しい判断を行うことが難しいし、怒りでさらに判断力が鈍っているんだ。だからそんな無茶な決断をしたんだ。冷静になれば誰がお前の相手に相応しいかわかるだろう」
「若い頃の苦労は買ってでもしろというのではありませんか。若いから経験が足りていないのは当然ですわ。その経験を積む機会を潰そうとしているのはお父様ですのよ」
「私はお前には苦労はしてほしくないのだよ。リリヤの幸せと一緒に商会が発展するなら一石二鳥だろう?」
「本音が出てきましたわよ? それと幸せかどうかは私自身が感じることでお父様が決めることではありませんわ」
父娘の応酬が繰り広げられる。その中には遠まわしにルラをけなしているような言葉があるが、本人たちはわざとではなく無意識に口に出していた。
「ええい頑固な娘だ。ウォックスお前も笑っていないで説得してくれ」
ドリンはいまだ笑っていたウォックスに援護を頼む。
「オーケー、二人の話を聞いてた感じだとルラが頼りないのが原因の一つになってるな」
二人が遠まわしにしていた部分をはっきりと言葉にする。ルラは頼りなさを自覚していたので何も言うことができなかった。
「ルラがリリヤを支えられるくらい頼りになれば、婚約を認めるのもやぶさかではないだろ、父さん?」
「むっ。………そうだな、頼りになれば認めてもいいかもしれん」
ウォックスの提案にしばらく考えてから返事をする。認めることを後押しした点は三つ。
最初にルラが変わること。これは今のルラを見る限り、よほどのきっかけがないと変われないと考えた。次に婚約であるということ。破棄でき、必ずしも結婚に繋がらない。最後に婚約すら必ず認めるとは断定していないということ。
ウォックスもこういった点はわかっていて提案した。わざとそういう考えをさせる言い方をしたような感じをうける。
「それでどうやったら認められるかなんだけど」
「ちょっと待ってください」
ウォックスの声をリリヤが遮る。そして胸元をごそごそと触り、
「どうぞ続けてください」
ウォックスに続きを促す。リリヤが何をしたかったのか誰もわからなかった。ウォックスは気にしながらも続ける。
「認められるかなんだけど、父さんが出した条件を期限以内にルラがこなしたらどうだい?」
「私の出した条件か」
「もちろん誰にもできない無茶なものは駄目だよ」
「ふーむ…」
何かいい考えはでないかと窓の外を見たドリンの目に映ったのは挑戦者管理協会。
「塔に挑戦して何かレアものを取ってきてもらおうか。塔の高階層に行けるようになれば度胸もついているだろう。取ってくるのは…トリプルカラーでいいか。取ってこれたら認めてもいい」
「トリプルカラーはたしか300階あたりにあったはず。それぐらいだとだいたい三、四年はかかるな」
「(すぐには返事を出さなくてもいいって話しだが…)…そうだな三年、今日から約三年後までを期限としよう」
この期限もウォックスが狙っていたもの。時間が経てば今とは状況が変化しドリンの考えもかわるかもしれないと考えていた。
「決まりだ。リリヤもこれでいいか?」
「はい。三年後までに見事、トリプルカラーを取ってきますわ」
肝心のルラには聞かずに話が決まった。規模の大小はあれ、ルラがリリヤに振り回されるのはいつものことなので誰も気にしなかった。
何気にリリヤも塔に行く気満々なのだがウォックス以外で気付くものはいなかった。話しが終わると準備のためリリヤはルラを引っ張り部屋を出て行く。
「そういや今、気付いたんだが」
「何を?」
「ウォックスお前、リリヤ側だったな。説得というか支援してたろう」
「そのとおり。リリヤに近づく下心満載の男たちを叩き潰していた兄としては、少しでも妹が満足できる人生を送ってもらいたいのさ。今のところ兄試験に合格しているのはルラだけだし」
「お前…そんなことしていたのか。時々、男たちがお前を怖がっているのを見たことあるが、それが理由か」
取引先や移動中にウォックスを見た男たちがそそくさとどこかに去っていったのを思い出す。なぜだろうとドリンは不思議に思っていたのだが、ようやく納得できた。どんなことをやればあんなふうに怯えられるのかという新たな疑問が湧き出てきたが。
2
執務室から出たリリヤとルラはリリヤの部屋へと来ていた。
リリヤの部屋へは何度も入っているのでなんの気兼ねもなくルラは入っていく。
「途中からよくわからなくなってたんだけど、なんで僕がリリとその…こ、婚約して塔に行くことになってるのさ」
ルラは婚約という単語に顔を紅くしている。
「お父様が勝手に私の結婚を進めていたせいですわ」
「嫌なの?」
「当たり前です! 自分の結婚くらい自分で決めます。それにお母様との約束もありますし」
「で、でも僕なんかが塔に挑戦なんて無理だよ」
「一人で行けとはいってませんわ。私も一緒に塔に入ります。知り合いの騎士団員に剣を教えてもらってますから多少の荒事は平気です」
「僕は武器なんか使えないよぉ。それに怪我するかもしれないよ? リリが痛い思いするのは僕やだ」
自分も怪我する可能性よりも、リリヤが怪我する可能性を恐れる。臆病故引き止めるということもあるが、リリヤに危険な目にあってほしくないという思いもある。
「怪我するのも覚悟の上ですわ。そのくらいの壁を乗り越えないと幸せにはなれませんもの」
「でもでもでもぉ。うぅー」
ルラは説得の材料がなくなり唸ることしかできなくなる。そんなルラをリリヤは真正面から見つめる。
「ルラ、一緒に塔へ行ってください。お願いしますわ。あのときの勇気を出して」
リリヤの言葉がルラに思い出させる。多くの人を驚かせたルラの行動。ウォックスがルラを認めている要因の一つ。幼き日の思い出。出会った二人の冒険者。憧れ。嬉しさ。そして譲り受けたナイフ。
埃をかぶっていた想いがわずかに顔を出す。それは両親やリリヤにすら教えたことのない忘れかけた夢。冒険をしてみたいというルラにとって勇気のいる夢。
思い出した夢に背を押され口が動く。
「ぼ、僕には忘れかけてた夢があるんだ。ほとんど忘れてたって言ってもいい夢」
口調は弱弱しいもののルラは精一杯の意志を込める。その意志はリリヤに届き、静かに耳を傾ける。
「あのときに出会った二人の冒険者さんが誉めてくれたんだ。勇気があるなって。そして襲い掛かってきた魔物を蹴散らして助けてくれた。小さい頃の僕には二人はとてもすごく見えた。
そのとき思ったんだ彼らみたいになりたいって。だから僕は行くよ、リリと一緒に塔に行く。リリが一緒だと心強いし、困ってるリリの力にもなりたい」
ここに宣言はなされた。幼き頃の想いに押され伝説の幕が上がる。いまだ力なく頼りないが確かに一歩を踏み出した。小さな小さな一歩だが未来へと続いている。
「ありがとう」
ルラの精一杯の宣言を満面の笑顔で受け止める。家族とルラしかみたことのない笑顔。ルラの決意を飾るに相応しい、餞別となった。
明日の朝、協会前で会うことを約束しルラは家に帰った。
3
「ただいま〜」
「おかえり、どうなったんだい?」
ルラが椅子に座ると、フォルンは夕食の準備をしながら事の顛末を聞いてくる。楽しそうにしているが、ルラからは見えず気付かない。ルラ父(ワッカー)は書類をまとめていて静かにしているが耳は二人の会話に集中している。
「えーとね……って、やっぱり母さん知ってたの?」
「婚約とかの話しだろう? 昼ここで話してたじゃないか」
「聞いてなかったから気付かなかった」
フォルンは昼間のルラの様子を思い出し納得する。
「まあいいや。結局どうなったんだい?」
「その話に関係することなんだけど、明日から…えっと…店の手伝いをできなくなるんだ」
叱られるかもと思い恐る恐る口に出す。書類に目をとおしていたワッカーが顔を上げる。
「なんでだ?」
「やっぱり駄目かな?」
「駄目ってこたないが、理由を知りたいとは思うぞ」
「明日から塔に挑戦することになったんだ。なんでかっていうとね、リリとの婚約を認めるのにトリプルカラーを取ってくるように言われて」
夫婦は無言でルラを見る。今、ルラから発せられた言葉が信じられないようだ。
「ほんとなのか? ほんとに塔にいくのか?」
「うん」
「よく行こうって決意したもんだね」
言葉が真実だとわかると疑惑は驚きへとかわる。親だからルラの気の小ささは充分すぎるほど理解している。それ故に驚きも大きかった。
だがリリヤにも語った想いを聞いて、込められた決意を理解し息子がほんの少しだけ成長したことを悟る。
「ん、行ってこい」
「頑張っといで!」
「いいの? なんだかあっさり許可がでたけど。怪我とかするかもしれないんだよ? 店を手伝う人手が減るんだよ?」
「怪我がどうした、商品の仕入れに街外へいっても怪我するときはあるぞ。店の手伝いくらい一人減ったところでどうってこたない。ちったあ度胸つけてこい」
「あんたは夢に進めばいい。私たちはあんたがやりたいことをみつけてくれたことが嬉しいんだ」
子の成長を喜び、さらなる成長を望む親。そういった事情に気付かず、行けることになって喜ぶルラ。
その夜はいつになく賑やかに過ぎていった。盛り上がって冒険者時代のフォルンの武勇伝が聞けたことはルラにとって有益になるかどうかはわからない。というかフォルンが冒険者だったことをこの夜に初めて知ったルラだった。
※トリプルカラー・・・見方によって三色に色を変える宝石。三つの属性を持つ複合属性道具。許容量は上品質級。色は属性によって違う。
「み・と・め・る・かー!!」
ドリンの声が屋敷中に響く。この屋敷が建ってから初めてでだろうこんなに大きな声が響き渡ったのは。
響いた声には商人としての色はなく、父親としての感情のみが込められていた。
もっと具体的に言うとリリヤの不意打ちによって、見合いを勧めていたときに見せていた利益を追い求める商人の顔は欠片も出ていなくて、純粋に娘はまだまだ手元に置いておくといった父親の顔が出ていた。
「あはははははっそうきたか!」
一方の兄はというと腹を抱えて笑っていた。期待していたとおりにしでかしてくれた妹に満足している。
「………」
ルラは何も言えずに口をパクパクと動かすのみ。驚く一方で母さんと話していたのはこのことだったのかなと考えてもいた。
「お父様だって勝手に私の結婚を決めたではありませんか。それなら私だって勝手に決めますわ」
リリヤはふんっと胸を張って威張る。そんなリリヤにウォックスはサムズアップ。
「それとこれとは話しが違う。わたしはお前のことを想って判断したんだ。お前はまだ若くいろいろな経験が足りていない。正しい判断を行うことが難しいし、怒りでさらに判断力が鈍っているんだ。だからそんな無茶な決断をしたんだ。冷静になれば誰がお前の相手に相応しいかわかるだろう」
「若い頃の苦労は買ってでもしろというのではありませんか。若いから経験が足りていないのは当然ですわ。その経験を積む機会を潰そうとしているのはお父様ですのよ」
「私はお前には苦労はしてほしくないのだよ。リリヤの幸せと一緒に商会が発展するなら一石二鳥だろう?」
「本音が出てきましたわよ? それと幸せかどうかは私自身が感じることでお父様が決めることではありませんわ」
父娘の応酬が繰り広げられる。その中には遠まわしにルラをけなしているような言葉があるが、本人たちはわざとではなく無意識に口に出していた。
「ええい頑固な娘だ。ウォックスお前も笑っていないで説得してくれ」
ドリンはいまだ笑っていたウォックスに援護を頼む。
「オーケー、二人の話を聞いてた感じだとルラが頼りないのが原因の一つになってるな」
二人が遠まわしにしていた部分をはっきりと言葉にする。ルラは頼りなさを自覚していたので何も言うことができなかった。
「ルラがリリヤを支えられるくらい頼りになれば、婚約を認めるのもやぶさかではないだろ、父さん?」
「むっ。………そうだな、頼りになれば認めてもいいかもしれん」
ウォックスの提案にしばらく考えてから返事をする。認めることを後押しした点は三つ。
最初にルラが変わること。これは今のルラを見る限り、よほどのきっかけがないと変われないと考えた。次に婚約であるということ。破棄でき、必ずしも結婚に繋がらない。最後に婚約すら必ず認めるとは断定していないということ。
ウォックスもこういった点はわかっていて提案した。わざとそういう考えをさせる言い方をしたような感じをうける。
「それでどうやったら認められるかなんだけど」
「ちょっと待ってください」
ウォックスの声をリリヤが遮る。そして胸元をごそごそと触り、
「どうぞ続けてください」
ウォックスに続きを促す。リリヤが何をしたかったのか誰もわからなかった。ウォックスは気にしながらも続ける。
「認められるかなんだけど、父さんが出した条件を期限以内にルラがこなしたらどうだい?」
「私の出した条件か」
「もちろん誰にもできない無茶なものは駄目だよ」
「ふーむ…」
何かいい考えはでないかと窓の外を見たドリンの目に映ったのは挑戦者管理協会。
「塔に挑戦して何かレアものを取ってきてもらおうか。塔の高階層に行けるようになれば度胸もついているだろう。取ってくるのは…トリプルカラーでいいか。取ってこれたら認めてもいい」
「トリプルカラーはたしか300階あたりにあったはず。それぐらいだとだいたい三、四年はかかるな」
「(すぐには返事を出さなくてもいいって話しだが…)…そうだな三年、今日から約三年後までを期限としよう」
この期限もウォックスが狙っていたもの。時間が経てば今とは状況が変化しドリンの考えもかわるかもしれないと考えていた。
「決まりだ。リリヤもこれでいいか?」
「はい。三年後までに見事、トリプルカラーを取ってきますわ」
肝心のルラには聞かずに話が決まった。規模の大小はあれ、ルラがリリヤに振り回されるのはいつものことなので誰も気にしなかった。
何気にリリヤも塔に行く気満々なのだがウォックス以外で気付くものはいなかった。話しが終わると準備のためリリヤはルラを引っ張り部屋を出て行く。
「そういや今、気付いたんだが」
「何を?」
「ウォックスお前、リリヤ側だったな。説得というか支援してたろう」
「そのとおり。リリヤに近づく下心満載の男たちを叩き潰していた兄としては、少しでも妹が満足できる人生を送ってもらいたいのさ。今のところ兄試験に合格しているのはルラだけだし」
「お前…そんなことしていたのか。時々、男たちがお前を怖がっているのを見たことあるが、それが理由か」
取引先や移動中にウォックスを見た男たちがそそくさとどこかに去っていったのを思い出す。なぜだろうとドリンは不思議に思っていたのだが、ようやく納得できた。どんなことをやればあんなふうに怯えられるのかという新たな疑問が湧き出てきたが。
2
執務室から出たリリヤとルラはリリヤの部屋へと来ていた。
リリヤの部屋へは何度も入っているのでなんの気兼ねもなくルラは入っていく。
「途中からよくわからなくなってたんだけど、なんで僕がリリとその…こ、婚約して塔に行くことになってるのさ」
ルラは婚約という単語に顔を紅くしている。
「お父様が勝手に私の結婚を進めていたせいですわ」
「嫌なの?」
「当たり前です! 自分の結婚くらい自分で決めます。それにお母様との約束もありますし」
「で、でも僕なんかが塔に挑戦なんて無理だよ」
「一人で行けとはいってませんわ。私も一緒に塔に入ります。知り合いの騎士団員に剣を教えてもらってますから多少の荒事は平気です」
「僕は武器なんか使えないよぉ。それに怪我するかもしれないよ? リリが痛い思いするのは僕やだ」
自分も怪我する可能性よりも、リリヤが怪我する可能性を恐れる。臆病故引き止めるということもあるが、リリヤに危険な目にあってほしくないという思いもある。
「怪我するのも覚悟の上ですわ。そのくらいの壁を乗り越えないと幸せにはなれませんもの」
「でもでもでもぉ。うぅー」
ルラは説得の材料がなくなり唸ることしかできなくなる。そんなルラをリリヤは真正面から見つめる。
「ルラ、一緒に塔へ行ってください。お願いしますわ。あのときの勇気を出して」
リリヤの言葉がルラに思い出させる。多くの人を驚かせたルラの行動。ウォックスがルラを認めている要因の一つ。幼き日の思い出。出会った二人の冒険者。憧れ。嬉しさ。そして譲り受けたナイフ。
埃をかぶっていた想いがわずかに顔を出す。それは両親やリリヤにすら教えたことのない忘れかけた夢。冒険をしてみたいというルラにとって勇気のいる夢。
思い出した夢に背を押され口が動く。
「ぼ、僕には忘れかけてた夢があるんだ。ほとんど忘れてたって言ってもいい夢」
口調は弱弱しいもののルラは精一杯の意志を込める。その意志はリリヤに届き、静かに耳を傾ける。
「あのときに出会った二人の冒険者さんが誉めてくれたんだ。勇気があるなって。そして襲い掛かってきた魔物を蹴散らして助けてくれた。小さい頃の僕には二人はとてもすごく見えた。
そのとき思ったんだ彼らみたいになりたいって。だから僕は行くよ、リリと一緒に塔に行く。リリが一緒だと心強いし、困ってるリリの力にもなりたい」
ここに宣言はなされた。幼き頃の想いに押され伝説の幕が上がる。いまだ力なく頼りないが確かに一歩を踏み出した。小さな小さな一歩だが未来へと続いている。
「ありがとう」
ルラの精一杯の宣言を満面の笑顔で受け止める。家族とルラしかみたことのない笑顔。ルラの決意を飾るに相応しい、餞別となった。
明日の朝、協会前で会うことを約束しルラは家に帰った。
3
「ただいま〜」
「おかえり、どうなったんだい?」
ルラが椅子に座ると、フォルンは夕食の準備をしながら事の顛末を聞いてくる。楽しそうにしているが、ルラからは見えず気付かない。ルラ父(ワッカー)は書類をまとめていて静かにしているが耳は二人の会話に集中している。
「えーとね……って、やっぱり母さん知ってたの?」
「婚約とかの話しだろう? 昼ここで話してたじゃないか」
「聞いてなかったから気付かなかった」
フォルンは昼間のルラの様子を思い出し納得する。
「まあいいや。結局どうなったんだい?」
「その話に関係することなんだけど、明日から…えっと…店の手伝いをできなくなるんだ」
叱られるかもと思い恐る恐る口に出す。書類に目をとおしていたワッカーが顔を上げる。
「なんでだ?」
「やっぱり駄目かな?」
「駄目ってこたないが、理由を知りたいとは思うぞ」
「明日から塔に挑戦することになったんだ。なんでかっていうとね、リリとの婚約を認めるのにトリプルカラーを取ってくるように言われて」
夫婦は無言でルラを見る。今、ルラから発せられた言葉が信じられないようだ。
「ほんとなのか? ほんとに塔にいくのか?」
「うん」
「よく行こうって決意したもんだね」
言葉が真実だとわかると疑惑は驚きへとかわる。親だからルラの気の小ささは充分すぎるほど理解している。それ故に驚きも大きかった。
だがリリヤにも語った想いを聞いて、込められた決意を理解し息子がほんの少しだけ成長したことを悟る。
「ん、行ってこい」
「頑張っといで!」
「いいの? なんだかあっさり許可がでたけど。怪我とかするかもしれないんだよ? 店を手伝う人手が減るんだよ?」
「怪我がどうした、商品の仕入れに街外へいっても怪我するときはあるぞ。店の手伝いくらい一人減ったところでどうってこたない。ちったあ度胸つけてこい」
「あんたは夢に進めばいい。私たちはあんたがやりたいことをみつけてくれたことが嬉しいんだ」
子の成長を喜び、さらなる成長を望む親。そういった事情に気付かず、行けることになって喜ぶルラ。
その夜はいつになく賑やかに過ぎていった。盛り上がって冒険者時代のフォルンの武勇伝が聞けたことはルラにとって有益になるかどうかはわからない。というかフォルンが冒険者だったことをこの夜に初めて知ったルラだった。
※トリプルカラー・・・見方によって三色に色を変える宝石。三つの属性を持つ複合属性道具。許容量は上品質級。色は属性によって違う。
2006年05月17日
第1話
1
街。ここはユウリン大陸ドッド王国、その王都。昼すぎの賑やかな通りを一人の少女が歩いている。
年は14、5くらい。薄い金の長髪を揺らし、同じ色の瞳は真っ直ぐと前を見据えている。鋭い目つきをしていて、ややきつい感じを受ける少女は不機嫌さが合わさりさらにきつさが増していた。美少女といっていい容姿を持つのだが、今の彼女に声をかけるものなどいないだろう。いるとすれば大物かただの馬鹿か。
少女の名前をリリヤ・ルグルドといった。
リリヤは賑やかな通りを抜けて住宅街に入る。大きめの倉庫を持つ家の前で止まり、声をかけて入る。
「こんちにわー」
声には先ほどまでの不機嫌さは表れていない。機嫌がよくなったのでなく、隠されているだけだった。
「いらっしゃい、リリヤちゃん。ルラかい?」
「こんにちわ、おば様。ルラに会いにきました」
出てきたのはエプロン姿の元気そうな若々しい女性。笑顔でリリヤを迎える。
「ルラは倉庫で仕分けを手伝っているよ。そろそろ終わるから待っててくれない」
「わかりましたわ」
勧められた席に座り、お茶を飲む。女性も一緒に座り、お茶を飲んでいる。出されたお茶はハーブティで爽やかな香りが荒れていた心を落ち着かせていく。
「不機嫌そうだったけど、何かあったのかい?」
女性は表面上には出ず隠されていたリリヤの感情をあっさりと見破り尋ねてくる。ハーブティを出したのもリリヤを落ち着かせるためだったのだろう。
「やっぱりばれました? 一応、隠してはいたんですけど」
「ルラなら気付かなかっただろうね。私はリリヤちゃんより長く生きてるから、色々と経験豊富なのさ」
「もっと精進しなくてはいけませんわ」
淑女としてもっと演技力を磨くことを心に誓う。
「まあ、それはのちの課題としまして。実は結婚しろとお父様に言われましたの」
「へー結婚ね。ちと早いんじゃ?」
女性の言うとおりリリヤの年頃では結婚をするものは少ない。もう三、四年もすれば珍しくもなくなる。
実際にはお見合いしろと言われただけで結婚しろとは言われていない。
「どこの誰ともわからない方と結婚する気はありませんし、何やら政略結婚らしいので断ったのですが」
「ドリンさんが諦めるとは思えないと。さらにしつこく言ってきそうで不機嫌になっていたのかい」
ドリンは婿養子でルグルド商会は妻サーシャが遺した形見の一つ。愛妻家だったドリンが形見を潰すようなことはしないし、商会が長く存続できるように手を打つのは当然のことといえた。
そのことをリリヤはわかっていたが、リリヤにも譲れないものがあった。
「そうですわ。それにお母様との約束を守れなくなるかもと思うと」
「サーシャとの約束って言うと『幸せになりなさい』ってやつだっけ」
女性はリリヤが小さい頃から知っており、何度かリリヤの両親とも顔を合わせることがあった。リリヤの母がリリヤに遺した遺言を知ることができるくらいには親しくしていた。
「お父様が私のためだと言ったのも理解はできます。相手は貴族らしいので裕福な暮らしができ、苦労を知らずにいられるでしょう。でも私が幸せになれるかどうかはわかりませんわ。私自身が幸せと感じることができないと意味がありせんもの」
リリヤにとって母との約束は大きなウェイトを占めているらしく、幸せであろうと望む。
「リリヤちゃ「母さーん、何か飲物ちょうだい」」
女性が何か言おうとするが、外から入って来た少年の声に遮られて言うのをやめた。そのあと、言い直すこともなかったので何を言おうとしたのか本人以外に誰もわからない。
「はいはい、ちょっと待ってな。冷たいのと温かいのどっちがいい?」
「うーん…冷たいほうがいい」
母と呼ばれた女性は飲物を入れるため台所へ向う。かわりに少年が椅子に座る。
母親と同じこげ茶の髪に黒い目、リリヤと同じくらいの年齢。わりかし整っている容姿を持つが、身にまとう雰囲気のせいで±0だ。その雰囲気にあう弱弱しいへにゃっとした微笑をリリヤに向ける。
「いらっしゃいリリ。いつもと同じで元気そうだね」
言い切った。お茶と愚痴をこぼしたおかげで収まってはいたが、完全には機嫌は戻っておらず、隠そうともしていなかった機嫌の悪さに気付かず少年は言った。
母とリリヤの話にでたルラはこの鈍い少年を指していた。
「へぇ、ルラにはいつもと同じように見えますの?」
「うん」
またもや言い切った。ルラを見る笑顔に妙な迫力が篭ってるのに、なぜ気付けないのか。それともわざとなのか。ルラ母(名前をフォルンという)は相変わらずだね馬鹿息子と声に出さずため息をつく。
「私はここに来る前に嫌なことがありましたの」
「う、うん」
「おば様と出してもらったハーブティのおかげで落ち着いてました」
「よ、よかった。嫌な気分のままでいるのは誰でも辛いことだもんね」
「そうですわね。でもね、完全には機嫌はよくなってはいませんでしたのよ? 別に隠してもいませんでした」
「そ、そうなんだ。気付かなかったよ、ごめんね」
わざとじゃなく、本当に気付いていなかったらしい。
火山が噴火した。
「ルラのせいで落ち着いていたのが台無しですわ! 少しでも気付いて気にかけてくれるかも? って思ってた私が馬鹿みたい!」
「じ、自分を馬鹿なんていうもんじゃないよ」
「今のセリフで気にかける部分はそこですの!?」
ルラのずれたセリフにリリヤはさらにヒートアップする。フォルンになだめられるまでルラに対して説教? するリリヤと勢いに押されて何も言えずあうあうとうめくルラ。この場面だけで二人の関係がわかる気がする。
「リリヤちゃん、そのくらいで勘弁してやって」
「そうですね。色々吐き出したおかげですっきりしましたし」
「そうね、うちの鈍感息子が気づければうまく収まるんだけど」
内心、まだ無理だろうねと確信しているがヒント代わりに声に出す。回復中でルラは聞いておらず、気付くことはなかった。
「リリは何しにきたのさ。僕に文句言うためだけじゃないだろ」
ようやく回復したルラがリリヤに今日訪ねてきた理由を聞く。
「何か用事がないと来てはいけないの? 今日、来たのはきたかったからですのよ」
「そうだよ。別に理由なんか必要ないさ。いつでも来ていいからね」
「ありがとうございます」
結局、ルラはリリヤが不機嫌だった理由を聞くことができなかった。今は不機嫌じゃないからいいかと、聞くことをせず、母とリリヤが話し始めたのでお茶を飲む。聞いていれば今後の展開に少しは対応できたかもしれない。聞いていても無理だと思わないでもないが。
「実際、どうすれは諦めてくれるでしょう?」
「そうさね…すでに決めた相手がいるからって断ってみたら」
「…決めた…相手」
リリヤは考え込み、かすかに顔を紅くしてチラリと視線を横に向ける。視線の先にはのんびりとお茶を楽しむルラ。
「(ってなぜルラを思い浮かべますの!? 頼りないし情けないし怖がりだし。ま、まあ時々一年に一度見せるか見せないかの勇気には、はっとさせられますけど。それにあの時のルラ生涯最大の勇気は、今思い出しても感激させられますが。だって私のために)って何を考えてますの私は!?」
「な、何? どうしたのリリ?」
突然のリリヤの大声にルラは驚く。
「なんでもありませんわ! と、とにかく私に協力してくださいね。べ、別に深い意味はありませんのよ? ただちょうどいい相手がいないだけで」
「え?」
リリヤが何を言っているのかわからずに聞き返すルラ。思考が暴走し話が飛んでいることに気付かずに話を進める。ルラは話がわからなくて当然なんだが、勢いに押されてつい了承してしまう。
「今から行きますわよ。お父様は家にいるはずですし」
「何がどうなってるの? なんで突然ドリンさんがでてくるのさ!?」
ルラは手を引かれというよりは、引きずられて連れ去られた。
「さてはてどうなるのか。楽しみだね」
カップを片付けフォルンは呟く。楽しそうな笑顔はルラ父に指摘されても続いた。
2
リリヤとルラの二人は屋敷の前にいた。ルラは家を出たときより汚れていた。
「ひどいよリリ。止まって何度も言ったじゃないか」
「気付かなかったから仕方ないじゃありませんの。だいたい、いつも言っているようにもっとはっきり声を出さないと気付きづらいのです。わかってますの?」
「わ、わかってるよう」
リリヤに引っ張られあちこちにぶつかりここまで来た。何度も経験していることなので怪我をしないような引きずられ方を習得しているが、それでも所々に擦り傷が見える。ちなみに初めて引きずられたときは骨折までいった。そのときはリリヤが泣きながら看病したのだった。
思わず骨折したときのことを思い出し、擦り傷をさすりながら小さな涙を目の端に溜めリリヤを見る。
「ま、まあいつもより集中していた私にも悪い点はありますから謝りますわ。
話が終わったら治療しますから、それまで我慢してくださいな」
「わかったよ。それで何しに…」
「さあ、入りますわよ」
何か言いかけたルラの声が聞こえなかったのかリリヤは屋敷に入っていく。
入り口付近にいた使用人に声をかけ、ドリンがどの部屋にいるか聞く。兄ウォックスと一緒に執務室にいるとわかり、そこへ向う。執務室に着き、ノックをして返事がきてから入る。
部屋の中では男が二人、書類をチェックしていた。机の上にはたくさんの書類が置かれていて、なかなかいそがしそうだ。
「お父様、リリヤです。入りますわよ」
リリヤは部屋へ入っていくがルラは扉付近で止まる。屋敷には何度も来たことはあるが、この部屋は初めてなので入っていいのか判断つきかねているらしい。よって注意されたらすぐに出ることができる所で止まっている。
「リリヤ、何か用事かい? ん? そこにいるのはルラか、いらっしゃい。後で聞ける話なら後にしてくれないか、ちょっといそがしいんでな」
「すぐに済みます」
「ふむ…聞こうか」
ドリンは書類から目をはなし、娘を見る。ウォックスも興味を引かれたのか作業を止めている。
リリヤは顔を紅く染め、深呼吸を繰り返す。ドリンはその様子を不思議そうに見る。ただ親の勘が警告を発していることが気がかりとなっている。ウォックスはというと妹が何を言い出すのか期待に満ちた顔をしていた。
「今日、私は隣にいる…」
言いかけて止まる。隣を見ても誰もいなかったからだ。体ごと振り返りルラが後ろにいることを確認すると妙に優しい笑顔で手招きをする。
その笑顔にいいものを感じなかったルラは首を横に振り動こうとしない…が、笑顔に迫力がプラスされるとおそるおそるリリヤの横に並ぶ。
「失礼しました。では初めから。
今日、私は隣にいるルラ・スイッツァさんと婚約いたしました」
「「「は!?」」」
その場にいる男全員、声を揃えて驚いた。
2006年05月13日
プロローグ
第二部 到達者「ウォーカーズ」
1
どこかの屋敷、大部屋で数人が集まり話をしている。身につけているものは質のいいものばかり。身なりからして貴族か富豪か。
「王交代まであと六年と少し」
「それまでに準備を整えておきませんと」
「バネード家のほうはどうなっておる?」
「手はうっております。ルグルド家に声をかけています」
「利用するにはちょうどいいところだな」
「ええ」
「ほかはどうなっている?」
ただ一人声を出していなかった人物の声が部屋に響く。集まった人のなかでひときわ威厳を放つ人物。
「重要とはいえバネード家のみに時間をかけているわけにはいかないのだ」
「承知しております。他の策も同時進行中でございます」
満足のいく答えを聞き、笑みを浮かべる。
「まだ時間はあるとはいえ、手を抜くわけにはいかぬからな。他の者も心して動いてくれ。一つの失敗が我らの力を削ぐことになるのだと心に刻んでおけよ」
集った者たちがいっせいに頷く。
2
「リリヤ! 話を聞かんか!」
「昨日、答えをだしたではないですか! 私はどこともしれぬ人と結婚する気はありません!」
「お前のためでもあるのだぞ!」
中年の男と十四、五の少女が言い争っている。少女の口からお父様という言葉が聞こえたので親子だとわかる。
「家は兄様が継ぐから私は自由にしてよいと言ってたではないですか!」
「たしかに言ったが」
「では!」
「この話はお前にとってもいい話なのだ。いい子だから話をうけておくれ」
父の言葉の意味をリリヤは考える。
「その言い方からすると、この家にも何かしらの利益があると聞こえますわ」
わずかに父の表情が変わる。
「このくらいで表情が変わっていたら商人としてやっていけないのではありませんか、お父様?
話は受けませんから。出かけてきます」
「待たんか!」
父の声を聞かずにリリヤは出て行く。かわりにリリヤよりも年上の青年が部屋に入ってくる。
「リリヤの機嫌がすごく悪かったけどどうしたのさ?」
「見合いをうけろと話した」
「ああ、あの話ね。止めといたほうがいいって、利用されるだけ利用されて捨てられると思うけどな」
「兄として妹の幸せを願うのならば説得してくれ。それにこれはチャンスなのだ」
「あの様子だとルラにとばっちりがいきそうだねぇ」
さりげなく父の言葉を無視して、妹が向った先を見る。無駄とわかっていることをするほど暇ではないのだ。
3
暗めの部屋に男が二人。一人は目の前に散らばる金貨を数え、もう一人はその様子をじっと見ている。
「…198、199、200っと。たしかに金貨二百枚あるな」
「これで足りるんだよな? これで俺はどこに行ってもいいんだよな?」
「ああ、これでお前は自分を買い戻した。お前は自由の身だ」
机の上に置いてある金貨二百枚を袋に詰めながら三十歳手前の男は言う。金貨を用意した二十歳くらいの男は返ってきた答えに嬉しそうに笑う。金貨を数え終わるまでに体をおおっていた緊張が抜けて、かわりに喜びが体を巡っている。
「しかし思ったよりも金が貯まるのが早かったな」
「ここんとこ盗掘や重要書類回収といった大きな仕事が続けて入ってな、そのおかげだ」
「あと二年くらいはかかると思っていたが」
「俺もだ。運がよかったのさ」
「本当に運がいいなら、盗賊ギルドなんかに売られることはないがな」
袋を持つ男は苦笑し、若い方の男は立ち上がる。
「もう行くのか、バルフ?」
「ああ、世話になった師匠」
「明日からどうするんだ?」
「とりあえず塔にでも入って資金調達しようかと思ってる」
「せっかく自分のものになった命なんだ、魔物なんかにやられて無駄にするなよ?」
「ん、わかった。今度、会うときまで元気でな」
バルフは泥棒としての技術、戦闘技術、諜報員としての技術を叩き込んでくれた師匠に別れを告げて部屋を出て行く。
師匠と呼ばれた男はバルフの背を見送る。表情は変化しない、ただ目にわずかばかりの哀愁が宿るのみ。約十年の付き合いを思い出し、すぐに頭から振り払う。数分後には何もなかったかのように働いていた。
次の日にバルフへギルド幹部から仕事が依頼されたが、すでに自由の身のバルフには関係なく別の者に回された。
のちに語り継がれることになる者たちが集う。
望んで到達したわけではない高み。
至るまでの過程を語ろう。
彼らの名は「ウォーカーズ」。
もっとも新しき到達者。
三つの塔の物語 種族
人間
特に記述なし。サングに二つ、ユウリンに一つの国がある。国の名はアフィーラ、ツロウネ、ドッド。
精霊種族
基本属性地火風水の四つの種族。地のドワーフ、火のリザードマン、風のエルフ、水のウィッシュ。
互いに積極的な交流はないが特に嫌ってもない。対立する属性だと相性が悪いが攻め滅ぼそうといった考えはない。近寄らずに済ませる。
確率は低いが異種族で子を為すことはできる。ただし対立属性種族だと子供ができる確率は1%を切る。
自属性の精霊に呼びかけることができる。
国というものを作らず集団で暮らす。最大規模の部族はどれもユウリンにある。
リザードマン
硬い鱗に覆われ丈夫な爪をもつ、尻尾はない。トカゲというよりも人よりの姿。ドラゴンになることを目指しており、変化できたものは栄誉とされる。百年に一人変化できるといいほう。
基本的には皆濃緑の体皮。ドラゴンになる資格を得たものだけが、色が変わる。色が変わりきってから一年の間に、竜の角という場所で洗礼を受けなければドラゴンになることはできない。
ドワーフ
何かを作る材料がよくとれる場所に好んで住む。物作りに関しては全種族一の腕をもつ。物作りは日用品から美術品まで、何でも作るといっていい。
精霊種族としては例外的に国を組織している。これは技術の保存や継承、作った物の売買のため必要だった。王はおらず選ばれた数人がトップにたち経営する。数年に一度交代。同じ人が続けてトップにいることはできない。
エルフ
森に住む。生活に必要ならば森の樹を切っても怒ることはしない。生活の場を荒らされれば報復にはでる。
そして集落には必ず精霊樹が一本生えている。この樹を傷つけられるとその集落の全エルフに命を狙われることになる。
最大規模の集落には大精霊樹がありエルフの信仰の対象となっている。各地の精霊樹はこの樹の枝から育てたもの。
エルフが死ぬとまれに遺体は光となり精霊樹に吸い込まれる。そしてシルフとなりでてきて、世界を巡る。これはエルフにとって最高の栄誉。
ウィッシュ
魚人。水からでると人間に近い姿となる。青の眼に空色の髪。水に入ると男はほぼ全身に鱗、耳の後ろにえら、水かきが出てくる。女は人魚へと変わる。
音楽に秀でており、ドワーフ製の楽器とウィッシュがいれば最高の楽団が誕生する。
獣人
獣の特徴を持つ人。完全な獣の姿と人と半獣の三つの形態を持つ。
ユウリンにフィッセという国を持つ。戦闘能力は全種族一。
魔壊族
魔壊族の目的は破壊。壊すことに意味はない。ただ壊すことのみを追求する。
最上級、上級、中級、下級とランクがある。最上級クラスは魔王とも呼ぶ。
下級は一般人でも互角に戦える。
魔王は三人いる。うち二人は眠りについている。寝ている魔王の名前はゴーングローとカルセスファイサス。起きている魔王の名前はパセスホール。
精霊
多くは小さな自我しか持たない不安定な存在。
地火水風の四人の長がいて、その上に精霊をまとめる王がいる。
精霊種族とは別。肉体を持たない。
古精霊
長く存在し確固たる自我をもった精霊。
長と王はこちら。
神
二神
女神フィレンス 男神ザラガード
六子神
三時神
朝神モルスト 昼神ライン 夜神ナイガ
三空神
陽神サニア 月神ムーア 星神スィー
源神
偽神。神によって選ばれたもの
詳しくは謎
特に記述なし。サングに二つ、ユウリンに一つの国がある。国の名はアフィーラ、ツロウネ、ドッド。
精霊種族
基本属性地火風水の四つの種族。地のドワーフ、火のリザードマン、風のエルフ、水のウィッシュ。
互いに積極的な交流はないが特に嫌ってもない。対立する属性だと相性が悪いが攻め滅ぼそうといった考えはない。近寄らずに済ませる。
確率は低いが異種族で子を為すことはできる。ただし対立属性種族だと子供ができる確率は1%を切る。
自属性の精霊に呼びかけることができる。
国というものを作らず集団で暮らす。最大規模の部族はどれもユウリンにある。
リザードマン
硬い鱗に覆われ丈夫な爪をもつ、尻尾はない。トカゲというよりも人よりの姿。ドラゴンになることを目指しており、変化できたものは栄誉とされる。百年に一人変化できるといいほう。
基本的には皆濃緑の体皮。ドラゴンになる資格を得たものだけが、色が変わる。色が変わりきってから一年の間に、竜の角という場所で洗礼を受けなければドラゴンになることはできない。
ドワーフ
何かを作る材料がよくとれる場所に好んで住む。物作りに関しては全種族一の腕をもつ。物作りは日用品から美術品まで、何でも作るといっていい。
精霊種族としては例外的に国を組織している。これは技術の保存や継承、作った物の売買のため必要だった。王はおらず選ばれた数人がトップにたち経営する。数年に一度交代。同じ人が続けてトップにいることはできない。
エルフ
森に住む。生活に必要ならば森の樹を切っても怒ることはしない。生活の場を荒らされれば報復にはでる。
そして集落には必ず精霊樹が一本生えている。この樹を傷つけられるとその集落の全エルフに命を狙われることになる。
最大規模の集落には大精霊樹がありエルフの信仰の対象となっている。各地の精霊樹はこの樹の枝から育てたもの。
エルフが死ぬとまれに遺体は光となり精霊樹に吸い込まれる。そしてシルフとなりでてきて、世界を巡る。これはエルフにとって最高の栄誉。
ウィッシュ
魚人。水からでると人間に近い姿となる。青の眼に空色の髪。水に入ると男はほぼ全身に鱗、耳の後ろにえら、水かきが出てくる。女は人魚へと変わる。
音楽に秀でており、ドワーフ製の楽器とウィッシュがいれば最高の楽団が誕生する。
獣人
獣の特徴を持つ人。完全な獣の姿と人と半獣の三つの形態を持つ。
ユウリンにフィッセという国を持つ。戦闘能力は全種族一。
魔壊族
魔壊族の目的は破壊。壊すことに意味はない。ただ壊すことのみを追求する。
最上級、上級、中級、下級とランクがある。最上級クラスは魔王とも呼ぶ。
下級は一般人でも互角に戦える。
魔王は三人いる。うち二人は眠りについている。寝ている魔王の名前はゴーングローとカルセスファイサス。起きている魔王の名前はパセスホール。
精霊
多くは小さな自我しか持たない不安定な存在。
地火水風の四人の長がいて、その上に精霊をまとめる王がいる。
精霊種族とは別。肉体を持たない。
古精霊
長く存在し確固たる自我をもった精霊。
長と王はこちら。
神
二神
女神フィレンス 男神ザラガード
六子神
三時神
朝神モルスト 昼神ライン 夜神ナイガ
三空神
陽神サニア 月神ムーア 星神スィー
源神
偽神。神によって選ばれたもの
詳しくは謎
2006年05月12日
第17話
1
イサラにかけられた魔法を解いた次の日には村を出る。もう少し滞在していったらいいのにと、何人にも言われたが、ゆっくりとはできないので簡単に事情を話して納得してもらった。
ハルトに何度もお礼を言って別れを告げる。用事が済んだハルトも自分の住む街へと帰る。方向が一緒ならば馬車で送ったのだが、違う方向なのでマイクに送られることになった。
「ありがとうハルト。またいつか会えるといいね」
「はいです。また会えるのを楽しみにしてるです」
何度目か、わからないイサラのお礼に笑って応える。
「また何かの魔法にかかっての再会は勘弁願いたいな」
「私は商売繁盛するから構わないですよ?」
フーズの冗談にハルトも冗談で返す。
フーズの背には大剣はない。破呪が使用不可能となってイサラが扱えなくなったのでイサラの家に置いてきた。イサラが成長するとまた使えるようになるかもしれないので、大事に保管してもらうようにと頼んでいる。
「それではお元気で」
「道中気をつけてな」
「お二人も無事目的達成してくださいです」
アリア、ローカスそれぞれと握手を交わす。
イサラたち四人は馬車に乗り込み出発する。それを少し見送りハルトとマイクも歩き出した。
馬車に乗って旅は順調に続く。途中で洪水で橋が壊れていたり、怪盗事件に巻き込まれたが順調っぽく日数が過ぎていった。
「アー姉、あとどれくらいでつくの?」
「そうね、あと二日半といったところね。馬車で一日、森の中を歩いて一日半」
イサラは馬を操るアリアの隣に座り話し掛ける。イサラの髪は縛られておらず、風に揺られている。魔法が解けたあの日から、イサラは髪を縛ることが少なくなった。
変わったことはもう一つある。少しだけ落ち着いたことだ。いままでのように限りある時間のなかで、多くのことを経験しようと急いでいたのがなくなった。生来の好奇心は抑えられないので少しだけとつく。はしゃいでいてもどこか余裕が感じられる。
「歩き? 馬車はどうするの?」
「俺の住んでた村に預けることになってる」
幌の中からローカスが答える。
「ロー兄の村はアー姉の村の近くにあるんだ」
「俺もアリアに会うまで森の中に村があるなんて知らなかったんだ。それなりに広い森だから隠れられたらみつけにくいしな」
「それで手紙がよく届くな?」
配達業者もみつけることができないんじゃないか? と疑問に思ったフーズが声に出す。
「一般の業者じゃなくて特殊な業者に頼みますから。一般の業者だと村を探せずに遭難します。決められた道順を辿らないと村に辿り着けないようになってます」
「上級魔壊族が封印された場所だもんな、そこまでしないと駄目ってことか」
そんなことを話しながら数時間後、日が落ちてローカスの故郷に到着した。ローカスの家族は突然帰ってきたローカスに驚いていたが、快く四人を迎えてくれた。
ローカスの態度からアリアに惚れていると見抜いた家族がアリアを嫁さん扱いしたり。ローカス弟のイサラを見る目が熱っぽかったりと楽しい一夜を過ごせた。
2
翌朝、馬車をローカス一家に預けて森に向う。遠くに見える森に向って1時間ばかり歩くと草原と木々の境目に到着する。すぐには森に入らずに淵に沿って歩くアリアについていく。見た目には周りと何も変わらない場所でアリアが止まった。
「ここが入り口の一つ。ここのほかにあと二つの入り口があって、これら以外から森に入ると村には辿り着けないの」
「まったく見分けがつかないね」
イサラは目をこらしてキョロキョロと違いを探す。フーズも違いを探してはいるもののわからない。
「もしかして」
何かに気付き、木に近づいて確認するローカス。細かく調べて確信が持てたのか納得顔。
「アリア、ここらへんの木ってさ、他の木と似てるけど違う種類の木じゃないか?」
「当たりです」
「やっぱりか。疑って見ないと気付かないなこりゃ」
「知ってる人にはわかりやすく、知らない人には目立たないようにっていう目的で仕掛けられたものだから。
ローカスはわかってると思うけど、獣とか襲いかかってくることがあるから注意してね」
アリアに続き、イサラ、フーズ、ローカスの順で入っていく。ある程度の警戒はしつつ、話しながら進む。森は深いが光が多くさしているので、暗くじめっとした雰囲気は欠片もない。腹を空かせた獣を追い払い、時々休憩する。アリアにしかわからない目印を頼りに進行方向を変え歩く。こういったことを何度か繰り返すと日が暮れてきた。
「今日はここで野宿です。拾っておいた小枝で火をつけて食事にしましょう」
ローカスが簡単なかまどを作り、火をつける。鍋を置いて魔術で出した水を中に入れる。拾った食べられるきのこと山菜をきざんで放り込み調味料で味付け。スープの完成。
金属の棒にハチミツをまぜたホットケーキのもとをつけて火の近くに置く。パンもどきの完成。
あとは拾った果物を洗い、切り分けて夕飯が完成した。多めに作ったので明日の朝飯にもなる。
「見張りは必要かな?」
夕飯を食べ終わり、あとは寝るだけという状況になってイサラがアリアに聞く。
「そうね…夜行性の獣は少ないし、火を怖がって近づくこともなさそうだけど、一応見張りは立てておいたほうがいいかと」
「順番はどうする? アリア、俺、フーズ、イサラの順でいいか?」
「私はそれでいいです」
「俺も」
「うん」
この順番に深い意味はない。アリアが最初に来たのはローカスの気遣い。途中で起こされるよりは最初か最後に見張り、まとめて眠ったほうがいいだろうと考えた。イサラに対してはアリアと似たような考えだが、体の問題で子供と同じように遅くまで起きていられないから、早めに寝せて早めに起こすということにした。
こんなふうに考えて見張りをたてたが何事もなく朝が来た。
「もうそんなに時間はかからないから。昼前には村につきます」
火の始末をして出発の準備を整えた四人。あとどれくらいで着くか話すアリアの口調は少し硬い。
アリアの言うとおり、昼の二時間前には村に着いた。
アリアを先頭に歩く四人に向けられる四種類の視線。大部分を占める驚き、次に安堵、疑惑、拒否。イサラたちの村と比べて、久々に帰って来たアリアに声をかけてくる村人は少ない。アリアの無事を祝う声はさらに。
アリアは他の家と比べて大きめの家に「ただいま」と言って入っていく。
「おやおやおや。お帰りアリアちゃん。後ろの方々にはいらっしゃいませ」
玄関で出くわしたのは柔和な表情の老婆。
「ただいま、おばあちゃん」
村に入って硬くなっていった雰囲気は、この家に入ったときから柔らかくなっていた。そのいつもと変わらぬ雰囲気のまま祖母に挨拶をする。
祖母の表情がかすかに変化するが、誰にも気付かれない程度の変化。その変化のあとにはさらに笑顔になった祖母がアリアの帰郷を嬉しそうにしている。村人からは感じることが少なかった、アリアに対する親愛が感じられた。
祖母に案内されリビングに到着。アリアにお茶の用意を頼むと祖母は祖父を呼んでくると言って部屋を出ていった。すぐに祖母と同じくらいの年齢の男を連れて戻って来る。
「ただいま、おじいちゃん」
祖母のときと同じように笑顔で挨拶をする。祖父の表情は驚きへと変わる。
「お、おかえり。アリアが…アリアが笑っておる。ばあさんの言うとおりじゃった」
「本当だって言ったでしょうに。長生きしてたらいいことがあるものね。アリアちゃんがまた笑ってくれる日がくるんだから」
「外に出したのは正解じゃったなぁ」
「あらあら、あんなに反対してたのに」
しみじみと夫婦で語り合う。アリアが笑っているのがよほど嬉しいのだろう。語りの主題であるアリアは頬に一筋の汗を流し呆れていた。わずかに頬が赤く染まっており、恥ずかしくもあるらしい。
「おじいちゃんもおばあちゃんもそんなことをしみじみ話さないで」
「いやいや、じいちゃんとばあちゃんの気持ちはわかるなぁ。俺も初めてアリアの笑顔を見たときは見惚れたもんだ」
若干ずれた同意の仕方をするローカスに祖父が「そうじゃろそうじゃろ」と爺馬鹿ぶりを発揮。しばらく小さい頃のどんなとこが可愛かっただの、旅の途中で見せたこんな仕草に見惚れただの盛り上がる。本題に入れたのは一時間後だったそうな。時間が結構ぎりぎりなことを理解しているのか、こいつらは。
ちなみに村に辿り着く道順でわざと遠回りな道を選んでいたのはアリアだけの秘密。
「満足した?」
「ああ」「ええ」「うむ」
イサラ、フーズと一緒に紅茶を楽しんでいたアリアは頃合いをみて話し掛ける。ローカス、祖父母の三人はアリアに満足した様子で答える。アリアはため息を一つつき、
「本題に入っていいのね?」
「その前にきちんとけじめをつけておかないことがある。イサラちゃんじゃったな?」
視線をアリアからイサラに向ける祖父。先ほどまでのほのぼのとした様子は消え真剣な表情になる。その様子につられてイサラ背筋を伸ばし向き合う。
「村のものが迷惑かけてすまんかった」
祖父は頭を下げる。その横で祖母も頭を下げている。上げた顔には悔恨の色が見える。
アリアが書いた手紙によってラズがどんなことをしたのかわかっている。幼子の命を散らす事態になりかけたこと、村人の上に立つものものとして村の一員の考えを見抜けなかったことを悔やみ頭を下げた。
「結局はさらわれただけで、あとはなにもならなかったんだから気にしなくていいよ。アー姉から聞いたけどさらった人たちはちゃんと罰を受けてるらしいから、私はそれでいいと思ってる。
だからフーズも機嫌を直して。ちゃんと謝ってもらったんだから」
フーズは村に入る前から徐々に機嫌が悪くなっていた。イサラに害を成すものを嫌うフーズは実際にイサラに手を出したラズを嫌っている。そしてラズが住んでいた村にもそれは及んだ。イサラはそんなフーズの心境をわかっていた。
「………」
「フーズ」
「…わかったよ。嫌うのはラズとあのときいた奴らだけだ。アリアのじいちゃんとばあちゃんに対しては普通に接するさ。他の奴らは接してから決める」
フーズはとりあえず気を落ち着かせる。祖父母は何を話しているかわかっていない。むやみに触れて暴発させることもないと、何を話しているのか聞くことはしなかった。
「今度こそ本題に入ろうかの」
「そうですね、おじいさん。こちらは事前にできる準備は全て済ませてありますよ。すぐにでも儀式を始めることができます」
「時間もないことだし、始めましょうか」
3
イサラたちと祖父母の六人は家を出て村の外れへと向う。祖父は家を出る前に自室から一本のナイフと一冊の本を持ち出してきた。儀式に使うものらしい。
一行の前に暗闇を内包した洞窟が現れる。祖父を先頭に洞窟に入っていく。イサラが一歩足を踏み入れると洞窟の両側の壁に明かりが灯る。
「ほお」
いままで幾度も通った道に現れた変化に祖父が感嘆の吐息をもらす。イサラとフーズは訝しげな目で祖父を見る。いま起こったことはいつも起こっていて見慣れているのではないかと思ったのだろう。
「光が灯るなど初めてじゃよ。いつもは松明やランプを使い道を照らすのだから」
手に持ったランプを見せ歩き出す。
明かりに照らされた道を辿った先、洞窟の一番奥。日ごろは闇が漂う空間にそれはある。明かりにさらされ、いつもは見えぬ全容を見せる。解読不可能な文字が刻まれた岩。数百年前から村がそこに住む人が守り、伝え、封じてきたもの。これぞ上級魔壊族を封じる岩。
「これが封印か」
「ぼろぼろだねぇ」
「だな」
フーズ、イサラ、ローカスの言うとおり、目の前の岩はボロボロだった。いたるところにひびが走り、少しでも触ると割れそうな様相を保つ。ひびからは点滅する光が漏れる。イサラの魔法解除のときの光とは違い、嫌な感じをうける光。アリアが村を出る前に見たときと全く違う有様だった。
「封印が解ける日に近づくごとにひびが走っていったの。ピシリと音を立てたびに割れるんじゃないかと思ってたのよ」
そのときの様子を思い出しても、目の前の岩を見ても動じない祖母。アリアは彼女の血を濃く受け継いだのだろう。祖父は顔色がよくない。
「そこらの怪談より怖いな。封印が解ければ実害があるぶんたちが悪いし」
「そうならないようにさっさと儀式を始めましょう」
「そうしようかの」
アリアの言葉に賛同し、持ってきた本を開く。表紙には「サラ※ラ※ト写本二巻」とかすれた文字で書かれている。
「彼方からの道、闇に通じる民の血、遠く遠く帰る家に忘れられた鍵、夢の奥繋がる海」
祖父の口から意味の理解できぬ言葉が紡がれる。五分ほど続いて止まる。
「イサラちゃん、こっちに来てくれないか」
「うん」
「すまないが、このナイフで指先を切って血を出してもらえんか。ほんの少しだけでいい」
渡されたナイフを手に持ち指先に持っていく。フーズが何か言おうとする前にピッと刃を引く。指先に紅い線が引かれ、紅い玉が生じる。
「出したよ。このあとは?」
「血を岩につけてくれんか。うむ、ありがとう」
言われたとおりイサラは岩に血をすりつける。フーズとアリアがイサラの指先を水で洗い、消毒し、薄布とテープを当て治療する。
「あとは1時間ほど岩に触れ続けたらイサラちゃんの出番は終わりじゃ」
「ありがとうね、イサラちゃん。私たちが二週間毎日三時間、祝詞をあげれば封印の儀式はおわるわ。1時間だけ我慢しておいてね」
祖父母は無事に封印が進行し感謝の意を示す。
イサラが岩に触れて一時間。その間に岩にはいっていたひびが一本づつ消えていった。一時間経つ少し前には全てのひびは消え、岩から漏れていた光もなくなった。
あとから聞いたイサラの感想だが、触れたときに岩の欠片がパラパラと落ちていって、岩の脆さが怖かったらしい。
封印の儀式が始まって三日、四人はアリアの家で今後のことを話し合っていた。
「これで私たちの目的は全て果たしたわけですね」
「だねぇ。これから何しようかな〜」
「フィス姉ちゃんに会いに行くっていうのは決まってるけど、そのあとはな」
「そんなこと言ってたな。俺らは何も目的がないぞ」
「イサラたちについていくのもいいかもしれませんね」
話してみたものの今まで目的があって、それに一直線に進んできた四人は明確な目的が思い浮かばない。
「うーん…そうだね〜、一回村に戻ってお母さんたちと過ごすのもいいかな」
「この前は落ち着いて過ごしたわけじゃないからな、それもいいかもしれん。師匠にフィス姉ちゃんの詳しい居場所聞かなきゃいけないし」
「じゃあ一回村に戻るってことで」
イサラとフーズはどうするか一応決まった。
「俺たちはどうする?」
「私としてはイサラと別れたくはないですね」
「ふむ」
「それと村に長居はしたくありません」
その理由はこの三日でわかっていた。村人たちのアリアに対する態度が原因だ。よそよそしく村の一員と認めていない感じをうける。大半がそんな感じで拒絶は少数。親しく接するのは家族とごく少数。
村人の態度はハーフに対する偏見とアリアの母親が村外の出身だったことからきている。
小さい頃からこんな環境で育っていれば笑顔がなくなるのも当然か。マイナスの方向へ思考が進み、悪循環にはまっていく。家族のフォローがあればこそ村に居続けることができたのだろう。
だからこそアリアは仲間を大切に思う。自分の存在を認めてくれる相手を大事にする。イサラのことで怒ったときもこのことが起因の一つ。
アリアが再び笑うようになったのは村を出ていろんなことを経験したということもあるが、ローカスのおかげでもある。
「またマイクさんのところにやっかいになるのも悪いしな」
「そうですね。イサラたちはどれくらい期間、村に滞在するの?」
「どれくらいいようかフーズ?」
「一ヶ月くらいでいいじゃないか? そのあとドッドに向う。アフィーラに転移屋があったから、使って行けば時間かからないし」
ドッドは三つある人間の王国の一つ。ユウリン大陸にあり、ここから行くには船か転移屋を使うしかない。船を使うと時間がかかりすぎるので、大半の旅行者は値段が高くても転移屋を使う。
「それなら俺たちはアフィーラに戻ってるから、ドッドに行く前に嵐の坂亭に寄ってもらえばいいか」
「私はそれでいいです。そういうことでお願いできますか?」
アリアはイサラ、フーズを見て頼む。二人が了承したことで簡単ながらこれからのことが決まった。
このあと祖父母に儀式完了を待たずに村を出ることを話す。二人はわかっていたようで強く止めることはなかった。アリアの父親がもうすぐ帰ってくるので、会ってから行きなさいと言うのみ。いなくなるのは寂しいが笑顔が再びかげるのは避けたいのだろう。
数日後には四人は村を出た。イサラ、フーズ、ローカスは村を出るときに祖父母と父親からお礼を言われた。特にローカスが強く感謝された。アリアに笑顔が戻ったのは誰のおかげかわかっていたらしい。
「これからもアリアのことを頼む」と頭を下げられ、ローカスには「子供の顔を見せにきてくれ」と付け加えられた。
四人は話し合ったとおりに二手に別れる。
時間が過ぎて王都で再会し、ドッドから帰ってきて、塔に挑戦する。そのときにもトラブルに見舞われることになるが、それは別の機会に。きりがいいので彼らの話はここまで。機会が巡ってくれば、また語ることになるだろう。
イサラにかけられた魔法を解いた次の日には村を出る。もう少し滞在していったらいいのにと、何人にも言われたが、ゆっくりとはできないので簡単に事情を話して納得してもらった。
ハルトに何度もお礼を言って別れを告げる。用事が済んだハルトも自分の住む街へと帰る。方向が一緒ならば馬車で送ったのだが、違う方向なのでマイクに送られることになった。
「ありがとうハルト。またいつか会えるといいね」
「はいです。また会えるのを楽しみにしてるです」
何度目か、わからないイサラのお礼に笑って応える。
「また何かの魔法にかかっての再会は勘弁願いたいな」
「私は商売繁盛するから構わないですよ?」
フーズの冗談にハルトも冗談で返す。
フーズの背には大剣はない。破呪が使用不可能となってイサラが扱えなくなったのでイサラの家に置いてきた。イサラが成長するとまた使えるようになるかもしれないので、大事に保管してもらうようにと頼んでいる。
「それではお元気で」
「道中気をつけてな」
「お二人も無事目的達成してくださいです」
アリア、ローカスそれぞれと握手を交わす。
イサラたち四人は馬車に乗り込み出発する。それを少し見送りハルトとマイクも歩き出した。
馬車に乗って旅は順調に続く。途中で洪水で橋が壊れていたり、怪盗事件に巻き込まれたが順調っぽく日数が過ぎていった。
「アー姉、あとどれくらいでつくの?」
「そうね、あと二日半といったところね。馬車で一日、森の中を歩いて一日半」
イサラは馬を操るアリアの隣に座り話し掛ける。イサラの髪は縛られておらず、風に揺られている。魔法が解けたあの日から、イサラは髪を縛ることが少なくなった。
変わったことはもう一つある。少しだけ落ち着いたことだ。いままでのように限りある時間のなかで、多くのことを経験しようと急いでいたのがなくなった。生来の好奇心は抑えられないので少しだけとつく。はしゃいでいてもどこか余裕が感じられる。
「歩き? 馬車はどうするの?」
「俺の住んでた村に預けることになってる」
幌の中からローカスが答える。
「ロー兄の村はアー姉の村の近くにあるんだ」
「俺もアリアに会うまで森の中に村があるなんて知らなかったんだ。それなりに広い森だから隠れられたらみつけにくいしな」
「それで手紙がよく届くな?」
配達業者もみつけることができないんじゃないか? と疑問に思ったフーズが声に出す。
「一般の業者じゃなくて特殊な業者に頼みますから。一般の業者だと村を探せずに遭難します。決められた道順を辿らないと村に辿り着けないようになってます」
「上級魔壊族が封印された場所だもんな、そこまでしないと駄目ってことか」
そんなことを話しながら数時間後、日が落ちてローカスの故郷に到着した。ローカスの家族は突然帰ってきたローカスに驚いていたが、快く四人を迎えてくれた。
ローカスの態度からアリアに惚れていると見抜いた家族がアリアを嫁さん扱いしたり。ローカス弟のイサラを見る目が熱っぽかったりと楽しい一夜を過ごせた。
2
翌朝、馬車をローカス一家に預けて森に向う。遠くに見える森に向って1時間ばかり歩くと草原と木々の境目に到着する。すぐには森に入らずに淵に沿って歩くアリアについていく。見た目には周りと何も変わらない場所でアリアが止まった。
「ここが入り口の一つ。ここのほかにあと二つの入り口があって、これら以外から森に入ると村には辿り着けないの」
「まったく見分けがつかないね」
イサラは目をこらしてキョロキョロと違いを探す。フーズも違いを探してはいるもののわからない。
「もしかして」
何かに気付き、木に近づいて確認するローカス。細かく調べて確信が持てたのか納得顔。
「アリア、ここらへんの木ってさ、他の木と似てるけど違う種類の木じゃないか?」
「当たりです」
「やっぱりか。疑って見ないと気付かないなこりゃ」
「知ってる人にはわかりやすく、知らない人には目立たないようにっていう目的で仕掛けられたものだから。
ローカスはわかってると思うけど、獣とか襲いかかってくることがあるから注意してね」
アリアに続き、イサラ、フーズ、ローカスの順で入っていく。ある程度の警戒はしつつ、話しながら進む。森は深いが光が多くさしているので、暗くじめっとした雰囲気は欠片もない。腹を空かせた獣を追い払い、時々休憩する。アリアにしかわからない目印を頼りに進行方向を変え歩く。こういったことを何度か繰り返すと日が暮れてきた。
「今日はここで野宿です。拾っておいた小枝で火をつけて食事にしましょう」
ローカスが簡単なかまどを作り、火をつける。鍋を置いて魔術で出した水を中に入れる。拾った食べられるきのこと山菜をきざんで放り込み調味料で味付け。スープの完成。
金属の棒にハチミツをまぜたホットケーキのもとをつけて火の近くに置く。パンもどきの完成。
あとは拾った果物を洗い、切り分けて夕飯が完成した。多めに作ったので明日の朝飯にもなる。
「見張りは必要かな?」
夕飯を食べ終わり、あとは寝るだけという状況になってイサラがアリアに聞く。
「そうね…夜行性の獣は少ないし、火を怖がって近づくこともなさそうだけど、一応見張りは立てておいたほうがいいかと」
「順番はどうする? アリア、俺、フーズ、イサラの順でいいか?」
「私はそれでいいです」
「俺も」
「うん」
この順番に深い意味はない。アリアが最初に来たのはローカスの気遣い。途中で起こされるよりは最初か最後に見張り、まとめて眠ったほうがいいだろうと考えた。イサラに対してはアリアと似たような考えだが、体の問題で子供と同じように遅くまで起きていられないから、早めに寝せて早めに起こすということにした。
こんなふうに考えて見張りをたてたが何事もなく朝が来た。
「もうそんなに時間はかからないから。昼前には村につきます」
火の始末をして出発の準備を整えた四人。あとどれくらいで着くか話すアリアの口調は少し硬い。
アリアの言うとおり、昼の二時間前には村に着いた。
アリアを先頭に歩く四人に向けられる四種類の視線。大部分を占める驚き、次に安堵、疑惑、拒否。イサラたちの村と比べて、久々に帰って来たアリアに声をかけてくる村人は少ない。アリアの無事を祝う声はさらに。
アリアは他の家と比べて大きめの家に「ただいま」と言って入っていく。
「おやおやおや。お帰りアリアちゃん。後ろの方々にはいらっしゃいませ」
玄関で出くわしたのは柔和な表情の老婆。
「ただいま、おばあちゃん」
村に入って硬くなっていった雰囲気は、この家に入ったときから柔らかくなっていた。そのいつもと変わらぬ雰囲気のまま祖母に挨拶をする。
祖母の表情がかすかに変化するが、誰にも気付かれない程度の変化。その変化のあとにはさらに笑顔になった祖母がアリアの帰郷を嬉しそうにしている。村人からは感じることが少なかった、アリアに対する親愛が感じられた。
祖母に案内されリビングに到着。アリアにお茶の用意を頼むと祖母は祖父を呼んでくると言って部屋を出ていった。すぐに祖母と同じくらいの年齢の男を連れて戻って来る。
「ただいま、おじいちゃん」
祖母のときと同じように笑顔で挨拶をする。祖父の表情は驚きへと変わる。
「お、おかえり。アリアが…アリアが笑っておる。ばあさんの言うとおりじゃった」
「本当だって言ったでしょうに。長生きしてたらいいことがあるものね。アリアちゃんがまた笑ってくれる日がくるんだから」
「外に出したのは正解じゃったなぁ」
「あらあら、あんなに反対してたのに」
しみじみと夫婦で語り合う。アリアが笑っているのがよほど嬉しいのだろう。語りの主題であるアリアは頬に一筋の汗を流し呆れていた。わずかに頬が赤く染まっており、恥ずかしくもあるらしい。
「おじいちゃんもおばあちゃんもそんなことをしみじみ話さないで」
「いやいや、じいちゃんとばあちゃんの気持ちはわかるなぁ。俺も初めてアリアの笑顔を見たときは見惚れたもんだ」
若干ずれた同意の仕方をするローカスに祖父が「そうじゃろそうじゃろ」と爺馬鹿ぶりを発揮。しばらく小さい頃のどんなとこが可愛かっただの、旅の途中で見せたこんな仕草に見惚れただの盛り上がる。本題に入れたのは一時間後だったそうな。時間が結構ぎりぎりなことを理解しているのか、こいつらは。
ちなみに村に辿り着く道順でわざと遠回りな道を選んでいたのはアリアだけの秘密。
「満足した?」
「ああ」「ええ」「うむ」
イサラ、フーズと一緒に紅茶を楽しんでいたアリアは頃合いをみて話し掛ける。ローカス、祖父母の三人はアリアに満足した様子で答える。アリアはため息を一つつき、
「本題に入っていいのね?」
「その前にきちんとけじめをつけておかないことがある。イサラちゃんじゃったな?」
視線をアリアからイサラに向ける祖父。先ほどまでのほのぼのとした様子は消え真剣な表情になる。その様子につられてイサラ背筋を伸ばし向き合う。
「村のものが迷惑かけてすまんかった」
祖父は頭を下げる。その横で祖母も頭を下げている。上げた顔には悔恨の色が見える。
アリアが書いた手紙によってラズがどんなことをしたのかわかっている。幼子の命を散らす事態になりかけたこと、村人の上に立つものものとして村の一員の考えを見抜けなかったことを悔やみ頭を下げた。
「結局はさらわれただけで、あとはなにもならなかったんだから気にしなくていいよ。アー姉から聞いたけどさらった人たちはちゃんと罰を受けてるらしいから、私はそれでいいと思ってる。
だからフーズも機嫌を直して。ちゃんと謝ってもらったんだから」
フーズは村に入る前から徐々に機嫌が悪くなっていた。イサラに害を成すものを嫌うフーズは実際にイサラに手を出したラズを嫌っている。そしてラズが住んでいた村にもそれは及んだ。イサラはそんなフーズの心境をわかっていた。
「………」
「フーズ」
「…わかったよ。嫌うのはラズとあのときいた奴らだけだ。アリアのじいちゃんとばあちゃんに対しては普通に接するさ。他の奴らは接してから決める」
フーズはとりあえず気を落ち着かせる。祖父母は何を話しているかわかっていない。むやみに触れて暴発させることもないと、何を話しているのか聞くことはしなかった。
「今度こそ本題に入ろうかの」
「そうですね、おじいさん。こちらは事前にできる準備は全て済ませてありますよ。すぐにでも儀式を始めることができます」
「時間もないことだし、始めましょうか」
3
イサラたちと祖父母の六人は家を出て村の外れへと向う。祖父は家を出る前に自室から一本のナイフと一冊の本を持ち出してきた。儀式に使うものらしい。
一行の前に暗闇を内包した洞窟が現れる。祖父を先頭に洞窟に入っていく。イサラが一歩足を踏み入れると洞窟の両側の壁に明かりが灯る。
「ほお」
いままで幾度も通った道に現れた変化に祖父が感嘆の吐息をもらす。イサラとフーズは訝しげな目で祖父を見る。いま起こったことはいつも起こっていて見慣れているのではないかと思ったのだろう。
「光が灯るなど初めてじゃよ。いつもは松明やランプを使い道を照らすのだから」
手に持ったランプを見せ歩き出す。
明かりに照らされた道を辿った先、洞窟の一番奥。日ごろは闇が漂う空間にそれはある。明かりにさらされ、いつもは見えぬ全容を見せる。解読不可能な文字が刻まれた岩。数百年前から村がそこに住む人が守り、伝え、封じてきたもの。これぞ上級魔壊族を封じる岩。
「これが封印か」
「ぼろぼろだねぇ」
「だな」
フーズ、イサラ、ローカスの言うとおり、目の前の岩はボロボロだった。いたるところにひびが走り、少しでも触ると割れそうな様相を保つ。ひびからは点滅する光が漏れる。イサラの魔法解除のときの光とは違い、嫌な感じをうける光。アリアが村を出る前に見たときと全く違う有様だった。
「封印が解ける日に近づくごとにひびが走っていったの。ピシリと音を立てたびに割れるんじゃないかと思ってたのよ」
そのときの様子を思い出しても、目の前の岩を見ても動じない祖母。アリアは彼女の血を濃く受け継いだのだろう。祖父は顔色がよくない。
「そこらの怪談より怖いな。封印が解ければ実害があるぶんたちが悪いし」
「そうならないようにさっさと儀式を始めましょう」
「そうしようかの」
アリアの言葉に賛同し、持ってきた本を開く。表紙には「サラ※ラ※ト写本二巻」とかすれた文字で書かれている。
「彼方からの道、闇に通じる民の血、遠く遠く帰る家に忘れられた鍵、夢の奥繋がる海」
祖父の口から意味の理解できぬ言葉が紡がれる。五分ほど続いて止まる。
「イサラちゃん、こっちに来てくれないか」
「うん」
「すまないが、このナイフで指先を切って血を出してもらえんか。ほんの少しだけでいい」
渡されたナイフを手に持ち指先に持っていく。フーズが何か言おうとする前にピッと刃を引く。指先に紅い線が引かれ、紅い玉が生じる。
「出したよ。このあとは?」
「血を岩につけてくれんか。うむ、ありがとう」
言われたとおりイサラは岩に血をすりつける。フーズとアリアがイサラの指先を水で洗い、消毒し、薄布とテープを当て治療する。
「あとは1時間ほど岩に触れ続けたらイサラちゃんの出番は終わりじゃ」
「ありがとうね、イサラちゃん。私たちが二週間毎日三時間、祝詞をあげれば封印の儀式はおわるわ。1時間だけ我慢しておいてね」
祖父母は無事に封印が進行し感謝の意を示す。
イサラが岩に触れて一時間。その間に岩にはいっていたひびが一本づつ消えていった。一時間経つ少し前には全てのひびは消え、岩から漏れていた光もなくなった。
あとから聞いたイサラの感想だが、触れたときに岩の欠片がパラパラと落ちていって、岩の脆さが怖かったらしい。
封印の儀式が始まって三日、四人はアリアの家で今後のことを話し合っていた。
「これで私たちの目的は全て果たしたわけですね」
「だねぇ。これから何しようかな〜」
「フィス姉ちゃんに会いに行くっていうのは決まってるけど、そのあとはな」
「そんなこと言ってたな。俺らは何も目的がないぞ」
「イサラたちについていくのもいいかもしれませんね」
話してみたものの今まで目的があって、それに一直線に進んできた四人は明確な目的が思い浮かばない。
「うーん…そうだね〜、一回村に戻ってお母さんたちと過ごすのもいいかな」
「この前は落ち着いて過ごしたわけじゃないからな、それもいいかもしれん。師匠にフィス姉ちゃんの詳しい居場所聞かなきゃいけないし」
「じゃあ一回村に戻るってことで」
イサラとフーズはどうするか一応決まった。
「俺たちはどうする?」
「私としてはイサラと別れたくはないですね」
「ふむ」
「それと村に長居はしたくありません」
その理由はこの三日でわかっていた。村人たちのアリアに対する態度が原因だ。よそよそしく村の一員と認めていない感じをうける。大半がそんな感じで拒絶は少数。親しく接するのは家族とごく少数。
村人の態度はハーフに対する偏見とアリアの母親が村外の出身だったことからきている。
小さい頃からこんな環境で育っていれば笑顔がなくなるのも当然か。マイナスの方向へ思考が進み、悪循環にはまっていく。家族のフォローがあればこそ村に居続けることができたのだろう。
だからこそアリアは仲間を大切に思う。自分の存在を認めてくれる相手を大事にする。イサラのことで怒ったときもこのことが起因の一つ。
アリアが再び笑うようになったのは村を出ていろんなことを経験したということもあるが、ローカスのおかげでもある。
「またマイクさんのところにやっかいになるのも悪いしな」
「そうですね。イサラたちはどれくらい期間、村に滞在するの?」
「どれくらいいようかフーズ?」
「一ヶ月くらいでいいじゃないか? そのあとドッドに向う。アフィーラに転移屋があったから、使って行けば時間かからないし」
ドッドは三つある人間の王国の一つ。ユウリン大陸にあり、ここから行くには船か転移屋を使うしかない。船を使うと時間がかかりすぎるので、大半の旅行者は値段が高くても転移屋を使う。
「それなら俺たちはアフィーラに戻ってるから、ドッドに行く前に嵐の坂亭に寄ってもらえばいいか」
「私はそれでいいです。そういうことでお願いできますか?」
アリアはイサラ、フーズを見て頼む。二人が了承したことで簡単ながらこれからのことが決まった。
このあと祖父母に儀式完了を待たずに村を出ることを話す。二人はわかっていたようで強く止めることはなかった。アリアの父親がもうすぐ帰ってくるので、会ってから行きなさいと言うのみ。いなくなるのは寂しいが笑顔が再びかげるのは避けたいのだろう。
数日後には四人は村を出た。イサラ、フーズ、ローカスは村を出るときに祖父母と父親からお礼を言われた。特にローカスが強く感謝された。アリアに笑顔が戻ったのは誰のおかげかわかっていたらしい。
「これからもアリアのことを頼む」と頭を下げられ、ローカスには「子供の顔を見せにきてくれ」と付け加えられた。
四人は話し合ったとおりに二手に別れる。
時間が過ぎて王都で再会し、ドッドから帰ってきて、塔に挑戦する。そのときにもトラブルに見舞われることになるが、それは別の機会に。きりがいいので彼らの話はここまで。機会が巡ってくれば、また語ることになるだろう。
2006年05月05日
第16話
1
氷閃鳥の羽を手に入れた。そして今は宴会の真っ最中。
前回、氷閃鳥を倒しワンドを手に入れてから四日が過ぎ、定めた期限十日前になりようやく入手できた。
呼びの粉を使う覚悟をして移送陣に入り、目の前にいた氷閃鳥を倒したところ手に入った。気合いが空回りし少々物足りなさを感じたが、手に入れられたからOKと思い直す。結局、呼びの粉を使うことはなかった。
羽を手に入れた四人はそのまま移送陣に直行、先に進まずに協会に戻る。道具屋で鑑定してもらうため急いで外に出た。四人とも羽がどんな形をしているかは知っていたが、念のため鑑定してもらった。
「どうだ氷閃鳥の羽で間違いないか?」
「ん、氷閃鳥の羽だ。で売るのか?」
勢い込んで聞くローカスにいつもと変わらない態度で応じる道具屋。
「誰が売るか!」
鑑定結果が出て氷閃鳥の羽だと確定するとイサラ以外は歓声を上げる。その喜びっぷりに周りの人々はわけもわからず拍手を送る。
一人歓声を上げなかったイサラは紫宝玉を手に入れたときと同じように涙を流していた。涙は流れてはいるが笑顔だ。望まずにかけられた魔法が解けるのだから当然な反応か。泣き笑いのままフーズにしがみつく。フーズは笑い声を上げながらイサラの頭をなでる。
「これで魔法が解けるな」
「うん」
「時間かかったな」
「うん」
「魔法が解けたらフィス姉ちゃんにも会いに行こうな。魔法解けたよって」
「うん」
喜びのまま嵐の坂亭に戻り、宿全体を巻き込んでの宴会となった。この宿には騒ぎたい奴が多いので一時間もぜずにどんちゃん騒ぎになる。この騒ぎは宿を閉めても続き、終わったのは深夜一時だった。調子に乗って飲みすぎたせいか、次の日騒ぎに参加していた者たちのほとんどが二日酔いで苦しむこととなった。
酒を飲まなかったイサラを除いた三人も二日酔いからは逃れられず一日寝込む。出発の準備に使う予定だった一日を二日酔いで潰す。イサラが一人で必要なものを買いに出かけようとしたが、買い物の量の多さと以前誘拐されたという理由で止められた。
買い物を済ませ、宿を解約、馬車を手に入れるといった準備を整え、王都を出たのは氷閃鳥の羽を手に入れて三日目のことだった。
「いい天気だ」
王都を出て四日目、馬車を操縦しながら空を仰ぐローカス。塔で魔物相手に戦う日々と比べてあまりに平和な時間。
「操縦中によそ見するなよ危ないだろう」
フーズが馬車の中から声をかける。イサラとアリアは春の暖かな陽気に誘われて寄り添い昼寝中。
「少しくらいなら大丈夫だろ? 見渡す限りの草原と道しかないんだからな」
「それもそうだな」
幌の隙間から見える風景を見て頷く。
「お前たちの村につくまであとどれくらいだっけ」
少しの間、無言な状態が続いたが暇なのかフーズに話し掛ける。
「えーと、王都から馬車で一週間とちょっとだから…長くても六日」
「あと六日か〜。暇だ」
「気持ちはわかるけどな。気を抜きすぎるなよ、魔物や盗賊がいないわけじゃないんだから」
「わかってる。けど少しくらいなら何か起きてもいいんじゃないかと」
その言葉の数秒後、右前方の草むらがガサガサと揺れる。続いて左側の草むらも。ローカスは馬車を止め警戒態勢に入る。
「望みどおり何か起きたぞ?」
フーズの声はちょっとだけ冷たい。草むらから現れたのは八頭の狼。腹を空かせていてこちらを襲う気は満々だ。
「ほんとに何か起きるとは。……先に出て相手してるからアリアとイサラ起こしてくれ」
上手い言い訳が思い浮かばず、ごまかすように狼たちに向っていく。
「了解っと。おーい二人とも起きてくれ、狼が襲ってきたぞ」
適当に揺さぶって起こす。起きなくても構わないという気分だろう。ローカスに対する罰というわけではなく、あれくらいの狼ならローカス一人で大丈夫だと信じている。実際、ローカスはかすり傷で戦闘を終わらせた。
気持ち良さそうに眠る二人を起こすのはためらわれて、結局起こさなかったフーズがアリアの代わりに傷を消毒、治療し再出発する。
この後も時々襲ってくる魔物を撃退しながらたいしたトラブルもなく村に到着した。
2
村人たちは帰ってきたイサラとフーズを驚きの表情で迎える。二人は挨拶もそこそこにして師匠の住む家に歩いていく。二人の後ろを歩くアリアとローカスには訝しげな視線が向けられる。といっても拒絶ではなく、純粋にあれは誰だろうという疑問の視線。
「師匠入るぞー!」
フーズは言葉と共に家に入っていく。この家は広さは他の家と同じだが、隣に道場を持っていた。
返事を待たずに勝手に居間まで入っていくと初老になりかけの男が椅子に座り待っていた。髪に白いものが混じってはいるが、背筋はまっすぐで体全体に適度な筋肉がついている。年を経てきた重みが雰囲気として現れていて、大樹を思い起こさせる。そしていまだ現役といって通じるものを持っていた。
この男の名前はマイク・ガーレン。イサラとフーズの師匠だ。
「帰ってきたか。して土産は?」
「ない!」
「なんじゃとう!?」
そんなに驚くことか? というくらいに驚くマイク。
「本当かイサラ!?」
「うん、忘れてた。王都で買った飴ならあるよ?」
「飴よりも饅頭とかがよかったのう」
そう言いながらも飴を受け取る。肩を落とすその様子には最初に纏っていた厳格な雰囲気が感じられなかった。あまりの変化にローカスは呆然としている。アリアは微笑のままで動じていないように見える。
「んで、そちらの二人は?」
「アー姉とロー兄は紫宝玉と氷閃鳥の羽を探すのを手伝ってくれたんだよ」
「おお! それは礼を言わんとな。ありがとう」
「い、いえ、私もイサラに手伝って欲しいことがありますから。お互い様です」
頭を下げるマイクにつられてアリアも頭を下げる。
マイクは皆を席に座らせ、緑茶を出す。初見の者の自己紹介が終わったあと、マイクがイサラとフーズが村を出てからの話を聞いてくる。フーズもイサラも何度か家族やマイクに手紙を出したが、起きたこと全てを書いたわけではなかった。
大体を語り終わった頃にはイサラとフーズの頭にお叱りの一発が叩き込まれていた。破呪と氣の件に対してだった。イサラはやむおえない事情だったから軽めで済んだ。フーズは怒りで我を忘れて使ったとばれて、きつい一発をもらう。
「ただいまです」
話を終えてフーズが頭をさすっていると誰かが帰ってきた。イサラとフーズにも声に聞き覚えがない。扉を開け入ってきたのはアリアと同年代の女性。肩まで届かない白い髪、淡い青の目、150半ばの身長。動きやすい服装で背には何か入っている籠を背負っている。
「お帰り。どうじゃった、何かいいものはみつかったかね?」
「まあまあといったところです。ところでこの方たちは?」
籠を下ろし、扉のそばに置きながら聞いてくる。
「わしの弟子とその仲間じゃ。それとお前さんの客でもある」
「魔法の解除を望む人。必要なものはそろったですか?」
「そのようじゃな」
「さっそく準備始めるです。紫宝玉と氷閃鳥の羽をください」
手を出してくる。
「まあ待て。自己紹介くらいしてもいいじゃろう」
「師匠、この人が解除の魔法使いなのか?」
「うむ」
少し驚いた感じのフーズの問いに頷いて答える。
「なんというかもっと年取った人が来るもんだとばかり」
解除の魔法を独自に研究し使えるようになった魔法使いならば、フーズの言うとおり年を取った人物が来ていただろう。ただし世の中、一世代かぎりの魔法使いばかりではない。
「もしかして魔法を受け継ぐ家系なのか?」
以前、聞いたことのある知識を声に出すローカスに白髪の女性は頷く。
「はいです。うちは五世代前から解除の魔法を受け継いで、生業としてます。
私はハルト・ジュネルイン。六代目解除師です」
「ハルト嬢ちゃんはわしの友人の孫でな。解除の依頼を友人に頼んだんじゃが、引退しておってのお。代わりに嬢ちゃんを送ってくれたんじゃ。一人前として認められておるから腕のほうは心配せんでいい」
3
ハルトに紫宝玉と氷閃鳥の羽を渡し、九日が過ぎた。
この間にイサラ、フーズは久しぶりに家族と過ごす。アリアとローカスはマイクの家に滞在していた。久々の師匠と弟子の腕試しも行われる。ローカスも交えて行われた腕試しはマイクの全勝に終わった。
積み重ねられた修練の技と動作を見切る確かな目、自らの体を正確に動かす技能を持つマイクは完成された剣士の一つの型と言える。氣を使用し戦えば、勝てはしないが破呪状態のイサラともいい勝負できるだろう。欠点を挙げるとすれば、老いによる体力低下で全力の時間が短いことか。
いよいよ解除の魔法をかけることになりイサラとフーズはマイクの家に呼ばれた。家主であるマイクに案内され、ハルトが待つ道場に向う。アリアとローカスは先に行っている。イサラの家族も呼ばれてはいるものの家で祈っていると言い辞退した。
道場に入ると以前はなかった陣が目に入る。陣のそばには仕事道具を持つハルトが立つ。アリアとローカスは作業の邪魔にならないように端に寄っている。
「待ってたです、イサラ。こちらに来て陣の中に入ってください」
「わかった」
緊張した様子のイサラはぎこちない動きで陣の中へ入っていく。動きが鈍く、顔色が優れないのは緊張のせいだけではなく、魔法に対する拒絶感のせいでもある。
「始める前に規則なのでこれから行う儀式と使う道具の説明するです」
ハルトは両手に持つそれぞれの道具を全員に見せる。右手の氷閃鳥の羽はわかるが、左手の液体はわからない。色は紫宝玉と同じ色なので宝玉を加工したものだと推測できる。
「氷閃鳥の羽は邪を封じる力あるです。イサラに持ってもらいます」
マイクは羽をイサラに渡す。
「次にこの液体です。紫宝玉をハンマーで砕き、石臼でさらに砕き、すり鉢でもっと砕いて粉末します。この粉と永久凍湖の氷を溶かした水を混ぜ、日光と月光に一週間さらしたものです」
左手に持つ液体を振る。三角フラスコの中で紫の液体が光に反射し綺麗に閃く。
「儀式の説明に移るです。大雑把にいうと魔術と陣と液体を使い、魔法をイサラの体から追い出すです。追い出した魔法を羽に移して、燃やしたら終わりです」
早速始めるです、と言って魔言語を紡ぎ始める。
ハルトは目を閉じ朗々と三時間唱え続ける。途中で振りまいた液体は地に落ちることなくイサラを中心に舞っている。ハルトが魔言語を止めると液体がいっきに蒸発する。それを見届け再び紡ぎ始める。
さらに二時間が経過する。朝から始められた儀式は昼に突入した。見物人たちは誰も退出せずに儀式を見守る。イサラはずっと緊張が続いており辛そうな表情だ。
ハルトの目が開かれ魔言語が止まる。イサラの体から白い霞が出てきて、氷閃鳥の羽に吸い込まれていく。その過程で羽は真っ黒に染まっていく。
羽が染まりきると光の粒がイサラに降り注ぐ。光が降るのと同時に一言の呟きが聞こえた。
「あ」
静かな空間にとてもよく響いたそれはハルトから発せられた。
「終わりました」
何事もなかったかのように終わりを告げる。
「「待て待て待て待て!!!」」
当然のごとく最後の呟きに不安にさせられたフーズとローカスが突っ込む。マイクは「ほっほっほっほ」と笑ってはいるが頬に一筋の汗が流れているし、アリアにいたっては説明次第ではどうなるかわかりませんよ? とばかりに笑顔で怒気を放っている。
注目のイサラだが緊張のしすぎと呟きによる不安で血の気が引いて白い。顔色どころか見えている肌全てが白い。
「落ち着いてください。ちゃんと成功してるです。昼食をとったら説明するです」
遅めの昼食を取った後、待ち望んだ説明が始まる。
「始めに言いますがちゃんと成功してるです。話に聞いていた破呪というのも使えなくなってるはずです。試してみてださい」
「う、うん」
イサラは不安な様子で髪を縛る紐を解く。そこで止まり破呪を使おうとしない。成功としたと言われても実感が湧かず、ためらいがあるのだろう。
「プロが成功したって言ってるんだ、心配することないと思うぞ」
フーズがイサラの頭をポンポンと軽く叩きながら言う。その言葉でわずかに勇気を得たか、イサラは破呪を使う。数十秒過ぎて一分経過しても何も変化が起こらない。急な成長もせずに、力が増すこともない。
「フ、フーズ? 何も起こんないよ?」
「そ、そうだな。何も起こらないな」
「「ということは…解けた!!」」
破呪を使っても変化しないことから解除の確信をもてた二人は喜び出す。アリア、ローカス、マイクもフーズをバシバシ叩いたり、イサラをなでたりと喜びを表す。
ハルトは自分の使った魔法で喜んでもらえたのが嬉しく笑顔だ。
ひとしきり騒いだ後、説明が再開される。
「それで儀式の最後に呟いたことなのですけど」
「そういやその説明を聞きたかったんだ。嬉しくて忘れてた」
本気で忘れていた様子のフーズ。他の四人も似たような感じ。
「儀式の最後に光が注がれたです? いつもはあんなこと起こらないです。だから思わず呟いたです」
「そういや儀式の話を聞いたことあるけど、光が出たとは聞いてないのう」
「以前、似たような現象は起きたことなかったのか?」
ローカスがハルトに聞いてみる。聞かれたハルトは目を閉じ自分の経験だけではなく、提出された報告書も思い出してみるが、あのような現象は一度も起きたことがないと判断する。
「起きたことないです。イサラたちは何か原因となるようなこと思い出せないです?」
逆に問われて五人は考えてみる。イサラとフーズの記憶に何かひっかかる。似たようなことがここ数年で起きたような。
「何かひっかかるんだ。五年も前のことじゃない」
「フーズも? 私もなんだけど」
イサラとフーズはそろって頭を悩ませる。
「私たちに覚えがないってことは、出会う前にあった何かでしょうね」
その言葉で初めて王都に行った頃のことを思い出していく。宿に行って、協会に行って、説明を受けて、
「「思い出した!」」
二人の頭の中で思い起こされるのは挑戦の門。初めて触れたときに注いだ光と聞こえた言葉。あのときの光と同じだった。そのことを告げる。
「声? 俺が門を触ったときは聞こえなかったぞ」
「私もですね」
「わしもじゃな」
挑戦の門に触ったことがある者は声など聞かなかったと不思議な顔をする。
「それらのことが原因かもしれないです。害はないと思いますが、一応鑑定をうけることをおすすめするです」
ハルトのアドバイスに従い、村の鑑定士に見てもらうことにする。会いに行った鑑定士は九年前にイサラが魔法にかかったことを見てくれた人だった。魔法が解けたことやその際に起きたことを話し見てもらう。
「これはっ!?」
イサラを見ていた鑑定士が目を見開く。以前の鑑定士の目にはイサラの中に鎖に巻きつけられた青い玉が見えていた。その鎖が青い玉から何かを吸い取り、色が濁っていったことから寿命が削られているとわかった。
今は鎖はなくなっている。魔法解除を行ったことから、これは予想できた。では何に驚いているのか?
答えは青い玉の色、輝き。二年前、鑑定したときより、さらには初めて鑑定したときよりも強く鮮やかに放たれる蒼に目を疑う。いくら目をこすって瞬きを繰り返しても何も変わることなく蒼がある。
これが示すのはすなわち、
「…寿命が完全に元に戻ってる…」
呆然と告げられる。完全には戻らないとされていた寿命が、魔法をかけられる前と同じになっていた。
誰にも解明はできないし今後も謎のままだが、悔しさのなか前に進みつづけたイサラとフーズへ贈られた神様からの祝福の光が原因だった。
紫宝玉と氷閃鳥の羽を自分で手に入れるという手段をとらず、買っていたら完全回復といったことは起こらなかった。そういった意味ではフーズが我侭を通したおかげとも言える。誰にも知られることはないが。
なぜかはわからないがとにかくめでたいと喜び騒ぐ。この騒ぎはイサラ完全回復というニュースとともに村全体に広がって宴にまで発展した。
氷閃鳥の羽を手に入れた。そして今は宴会の真っ最中。
前回、氷閃鳥を倒しワンドを手に入れてから四日が過ぎ、定めた期限十日前になりようやく入手できた。
呼びの粉を使う覚悟をして移送陣に入り、目の前にいた氷閃鳥を倒したところ手に入った。気合いが空回りし少々物足りなさを感じたが、手に入れられたからOKと思い直す。結局、呼びの粉を使うことはなかった。
羽を手に入れた四人はそのまま移送陣に直行、先に進まずに協会に戻る。道具屋で鑑定してもらうため急いで外に出た。四人とも羽がどんな形をしているかは知っていたが、念のため鑑定してもらった。
「どうだ氷閃鳥の羽で間違いないか?」
「ん、氷閃鳥の羽だ。で売るのか?」
勢い込んで聞くローカスにいつもと変わらない態度で応じる道具屋。
「誰が売るか!」
鑑定結果が出て氷閃鳥の羽だと確定するとイサラ以外は歓声を上げる。その喜びっぷりに周りの人々はわけもわからず拍手を送る。
一人歓声を上げなかったイサラは紫宝玉を手に入れたときと同じように涙を流していた。涙は流れてはいるが笑顔だ。望まずにかけられた魔法が解けるのだから当然な反応か。泣き笑いのままフーズにしがみつく。フーズは笑い声を上げながらイサラの頭をなでる。
「これで魔法が解けるな」
「うん」
「時間かかったな」
「うん」
「魔法が解けたらフィス姉ちゃんにも会いに行こうな。魔法解けたよって」
「うん」
喜びのまま嵐の坂亭に戻り、宿全体を巻き込んでの宴会となった。この宿には騒ぎたい奴が多いので一時間もぜずにどんちゃん騒ぎになる。この騒ぎは宿を閉めても続き、終わったのは深夜一時だった。調子に乗って飲みすぎたせいか、次の日騒ぎに参加していた者たちのほとんどが二日酔いで苦しむこととなった。
酒を飲まなかったイサラを除いた三人も二日酔いからは逃れられず一日寝込む。出発の準備に使う予定だった一日を二日酔いで潰す。イサラが一人で必要なものを買いに出かけようとしたが、買い物の量の多さと以前誘拐されたという理由で止められた。
買い物を済ませ、宿を解約、馬車を手に入れるといった準備を整え、王都を出たのは氷閃鳥の羽を手に入れて三日目のことだった。
「いい天気だ」
王都を出て四日目、馬車を操縦しながら空を仰ぐローカス。塔で魔物相手に戦う日々と比べてあまりに平和な時間。
「操縦中によそ見するなよ危ないだろう」
フーズが馬車の中から声をかける。イサラとアリアは春の暖かな陽気に誘われて寄り添い昼寝中。
「少しくらいなら大丈夫だろ? 見渡す限りの草原と道しかないんだからな」
「それもそうだな」
幌の隙間から見える風景を見て頷く。
「お前たちの村につくまであとどれくらいだっけ」
少しの間、無言な状態が続いたが暇なのかフーズに話し掛ける。
「えーと、王都から馬車で一週間とちょっとだから…長くても六日」
「あと六日か〜。暇だ」
「気持ちはわかるけどな。気を抜きすぎるなよ、魔物や盗賊がいないわけじゃないんだから」
「わかってる。けど少しくらいなら何か起きてもいいんじゃないかと」
その言葉の数秒後、右前方の草むらがガサガサと揺れる。続いて左側の草むらも。ローカスは馬車を止め警戒態勢に入る。
「望みどおり何か起きたぞ?」
フーズの声はちょっとだけ冷たい。草むらから現れたのは八頭の狼。腹を空かせていてこちらを襲う気は満々だ。
「ほんとに何か起きるとは。……先に出て相手してるからアリアとイサラ起こしてくれ」
上手い言い訳が思い浮かばず、ごまかすように狼たちに向っていく。
「了解っと。おーい二人とも起きてくれ、狼が襲ってきたぞ」
適当に揺さぶって起こす。起きなくても構わないという気分だろう。ローカスに対する罰というわけではなく、あれくらいの狼ならローカス一人で大丈夫だと信じている。実際、ローカスはかすり傷で戦闘を終わらせた。
気持ち良さそうに眠る二人を起こすのはためらわれて、結局起こさなかったフーズがアリアの代わりに傷を消毒、治療し再出発する。
この後も時々襲ってくる魔物を撃退しながらたいしたトラブルもなく村に到着した。
2
村人たちは帰ってきたイサラとフーズを驚きの表情で迎える。二人は挨拶もそこそこにして師匠の住む家に歩いていく。二人の後ろを歩くアリアとローカスには訝しげな視線が向けられる。といっても拒絶ではなく、純粋にあれは誰だろうという疑問の視線。
「師匠入るぞー!」
フーズは言葉と共に家に入っていく。この家は広さは他の家と同じだが、隣に道場を持っていた。
返事を待たずに勝手に居間まで入っていくと初老になりかけの男が椅子に座り待っていた。髪に白いものが混じってはいるが、背筋はまっすぐで体全体に適度な筋肉がついている。年を経てきた重みが雰囲気として現れていて、大樹を思い起こさせる。そしていまだ現役といって通じるものを持っていた。
この男の名前はマイク・ガーレン。イサラとフーズの師匠だ。
「帰ってきたか。して土産は?」
「ない!」
「なんじゃとう!?」
そんなに驚くことか? というくらいに驚くマイク。
「本当かイサラ!?」
「うん、忘れてた。王都で買った飴ならあるよ?」
「飴よりも饅頭とかがよかったのう」
そう言いながらも飴を受け取る。肩を落とすその様子には最初に纏っていた厳格な雰囲気が感じられなかった。あまりの変化にローカスは呆然としている。アリアは微笑のままで動じていないように見える。
「んで、そちらの二人は?」
「アー姉とロー兄は紫宝玉と氷閃鳥の羽を探すのを手伝ってくれたんだよ」
「おお! それは礼を言わんとな。ありがとう」
「い、いえ、私もイサラに手伝って欲しいことがありますから。お互い様です」
頭を下げるマイクにつられてアリアも頭を下げる。
マイクは皆を席に座らせ、緑茶を出す。初見の者の自己紹介が終わったあと、マイクがイサラとフーズが村を出てからの話を聞いてくる。フーズもイサラも何度か家族やマイクに手紙を出したが、起きたこと全てを書いたわけではなかった。
大体を語り終わった頃にはイサラとフーズの頭にお叱りの一発が叩き込まれていた。破呪と氣の件に対してだった。イサラはやむおえない事情だったから軽めで済んだ。フーズは怒りで我を忘れて使ったとばれて、きつい一発をもらう。
「ただいまです」
話を終えてフーズが頭をさすっていると誰かが帰ってきた。イサラとフーズにも声に聞き覚えがない。扉を開け入ってきたのはアリアと同年代の女性。肩まで届かない白い髪、淡い青の目、150半ばの身長。動きやすい服装で背には何か入っている籠を背負っている。
「お帰り。どうじゃった、何かいいものはみつかったかね?」
「まあまあといったところです。ところでこの方たちは?」
籠を下ろし、扉のそばに置きながら聞いてくる。
「わしの弟子とその仲間じゃ。それとお前さんの客でもある」
「魔法の解除を望む人。必要なものはそろったですか?」
「そのようじゃな」
「さっそく準備始めるです。紫宝玉と氷閃鳥の羽をください」
手を出してくる。
「まあ待て。自己紹介くらいしてもいいじゃろう」
「師匠、この人が解除の魔法使いなのか?」
「うむ」
少し驚いた感じのフーズの問いに頷いて答える。
「なんというかもっと年取った人が来るもんだとばかり」
解除の魔法を独自に研究し使えるようになった魔法使いならば、フーズの言うとおり年を取った人物が来ていただろう。ただし世の中、一世代かぎりの魔法使いばかりではない。
「もしかして魔法を受け継ぐ家系なのか?」
以前、聞いたことのある知識を声に出すローカスに白髪の女性は頷く。
「はいです。うちは五世代前から解除の魔法を受け継いで、生業としてます。
私はハルト・ジュネルイン。六代目解除師です」
「ハルト嬢ちゃんはわしの友人の孫でな。解除の依頼を友人に頼んだんじゃが、引退しておってのお。代わりに嬢ちゃんを送ってくれたんじゃ。一人前として認められておるから腕のほうは心配せんでいい」
3
ハルトに紫宝玉と氷閃鳥の羽を渡し、九日が過ぎた。
この間にイサラ、フーズは久しぶりに家族と過ごす。アリアとローカスはマイクの家に滞在していた。久々の師匠と弟子の腕試しも行われる。ローカスも交えて行われた腕試しはマイクの全勝に終わった。
積み重ねられた修練の技と動作を見切る確かな目、自らの体を正確に動かす技能を持つマイクは完成された剣士の一つの型と言える。氣を使用し戦えば、勝てはしないが破呪状態のイサラともいい勝負できるだろう。欠点を挙げるとすれば、老いによる体力低下で全力の時間が短いことか。
いよいよ解除の魔法をかけることになりイサラとフーズはマイクの家に呼ばれた。家主であるマイクに案内され、ハルトが待つ道場に向う。アリアとローカスは先に行っている。イサラの家族も呼ばれてはいるものの家で祈っていると言い辞退した。
道場に入ると以前はなかった陣が目に入る。陣のそばには仕事道具を持つハルトが立つ。アリアとローカスは作業の邪魔にならないように端に寄っている。
「待ってたです、イサラ。こちらに来て陣の中に入ってください」
「わかった」
緊張した様子のイサラはぎこちない動きで陣の中へ入っていく。動きが鈍く、顔色が優れないのは緊張のせいだけではなく、魔法に対する拒絶感のせいでもある。
「始める前に規則なのでこれから行う儀式と使う道具の説明するです」
ハルトは両手に持つそれぞれの道具を全員に見せる。右手の氷閃鳥の羽はわかるが、左手の液体はわからない。色は紫宝玉と同じ色なので宝玉を加工したものだと推測できる。
「氷閃鳥の羽は邪を封じる力あるです。イサラに持ってもらいます」
マイクは羽をイサラに渡す。
「次にこの液体です。紫宝玉をハンマーで砕き、石臼でさらに砕き、すり鉢でもっと砕いて粉末します。この粉と永久凍湖の氷を溶かした水を混ぜ、日光と月光に一週間さらしたものです」
左手に持つ液体を振る。三角フラスコの中で紫の液体が光に反射し綺麗に閃く。
「儀式の説明に移るです。大雑把にいうと魔術と陣と液体を使い、魔法をイサラの体から追い出すです。追い出した魔法を羽に移して、燃やしたら終わりです」
早速始めるです、と言って魔言語を紡ぎ始める。
ハルトは目を閉じ朗々と三時間唱え続ける。途中で振りまいた液体は地に落ちることなくイサラを中心に舞っている。ハルトが魔言語を止めると液体がいっきに蒸発する。それを見届け再び紡ぎ始める。
さらに二時間が経過する。朝から始められた儀式は昼に突入した。見物人たちは誰も退出せずに儀式を見守る。イサラはずっと緊張が続いており辛そうな表情だ。
ハルトの目が開かれ魔言語が止まる。イサラの体から白い霞が出てきて、氷閃鳥の羽に吸い込まれていく。その過程で羽は真っ黒に染まっていく。
羽が染まりきると光の粒がイサラに降り注ぐ。光が降るのと同時に一言の呟きが聞こえた。
「あ」
静かな空間にとてもよく響いたそれはハルトから発せられた。
「終わりました」
何事もなかったかのように終わりを告げる。
「「待て待て待て待て!!!」」
当然のごとく最後の呟きに不安にさせられたフーズとローカスが突っ込む。マイクは「ほっほっほっほ」と笑ってはいるが頬に一筋の汗が流れているし、アリアにいたっては説明次第ではどうなるかわかりませんよ? とばかりに笑顔で怒気を放っている。
注目のイサラだが緊張のしすぎと呟きによる不安で血の気が引いて白い。顔色どころか見えている肌全てが白い。
「落ち着いてください。ちゃんと成功してるです。昼食をとったら説明するです」
遅めの昼食を取った後、待ち望んだ説明が始まる。
「始めに言いますがちゃんと成功してるです。話に聞いていた破呪というのも使えなくなってるはずです。試してみてださい」
「う、うん」
イサラは不安な様子で髪を縛る紐を解く。そこで止まり破呪を使おうとしない。成功としたと言われても実感が湧かず、ためらいがあるのだろう。
「プロが成功したって言ってるんだ、心配することないと思うぞ」
フーズがイサラの頭をポンポンと軽く叩きながら言う。その言葉でわずかに勇気を得たか、イサラは破呪を使う。数十秒過ぎて一分経過しても何も変化が起こらない。急な成長もせずに、力が増すこともない。
「フ、フーズ? 何も起こんないよ?」
「そ、そうだな。何も起こらないな」
「「ということは…解けた!!」」
破呪を使っても変化しないことから解除の確信をもてた二人は喜び出す。アリア、ローカス、マイクもフーズをバシバシ叩いたり、イサラをなでたりと喜びを表す。
ハルトは自分の使った魔法で喜んでもらえたのが嬉しく笑顔だ。
ひとしきり騒いだ後、説明が再開される。
「それで儀式の最後に呟いたことなのですけど」
「そういやその説明を聞きたかったんだ。嬉しくて忘れてた」
本気で忘れていた様子のフーズ。他の四人も似たような感じ。
「儀式の最後に光が注がれたです? いつもはあんなこと起こらないです。だから思わず呟いたです」
「そういや儀式の話を聞いたことあるけど、光が出たとは聞いてないのう」
「以前、似たような現象は起きたことなかったのか?」
ローカスがハルトに聞いてみる。聞かれたハルトは目を閉じ自分の経験だけではなく、提出された報告書も思い出してみるが、あのような現象は一度も起きたことがないと判断する。
「起きたことないです。イサラたちは何か原因となるようなこと思い出せないです?」
逆に問われて五人は考えてみる。イサラとフーズの記憶に何かひっかかる。似たようなことがここ数年で起きたような。
「何かひっかかるんだ。五年も前のことじゃない」
「フーズも? 私もなんだけど」
イサラとフーズはそろって頭を悩ませる。
「私たちに覚えがないってことは、出会う前にあった何かでしょうね」
その言葉で初めて王都に行った頃のことを思い出していく。宿に行って、協会に行って、説明を受けて、
「「思い出した!」」
二人の頭の中で思い起こされるのは挑戦の門。初めて触れたときに注いだ光と聞こえた言葉。あのときの光と同じだった。そのことを告げる。
「声? 俺が門を触ったときは聞こえなかったぞ」
「私もですね」
「わしもじゃな」
挑戦の門に触ったことがある者は声など聞かなかったと不思議な顔をする。
「それらのことが原因かもしれないです。害はないと思いますが、一応鑑定をうけることをおすすめするです」
ハルトのアドバイスに従い、村の鑑定士に見てもらうことにする。会いに行った鑑定士は九年前にイサラが魔法にかかったことを見てくれた人だった。魔法が解けたことやその際に起きたことを話し見てもらう。
「これはっ!?」
イサラを見ていた鑑定士が目を見開く。以前の鑑定士の目にはイサラの中に鎖に巻きつけられた青い玉が見えていた。その鎖が青い玉から何かを吸い取り、色が濁っていったことから寿命が削られているとわかった。
今は鎖はなくなっている。魔法解除を行ったことから、これは予想できた。では何に驚いているのか?
答えは青い玉の色、輝き。二年前、鑑定したときより、さらには初めて鑑定したときよりも強く鮮やかに放たれる蒼に目を疑う。いくら目をこすって瞬きを繰り返しても何も変わることなく蒼がある。
これが示すのはすなわち、
「…寿命が完全に元に戻ってる…」
呆然と告げられる。完全には戻らないとされていた寿命が、魔法をかけられる前と同じになっていた。
誰にも解明はできないし今後も謎のままだが、悔しさのなか前に進みつづけたイサラとフーズへ贈られた神様からの祝福の光が原因だった。
紫宝玉と氷閃鳥の羽を自分で手に入れるという手段をとらず、買っていたら完全回復といったことは起こらなかった。そういった意味ではフーズが我侭を通したおかげとも言える。誰にも知られることはないが。
なぜかはわからないがとにかくめでたいと喜び騒ぐ。この騒ぎはイサラ完全回復というニュースとともに村全体に広がって宴にまで発展した。
三つの塔の物語 設定
世界設定
文明レベルは高くない。複雑な構造の機械はなく、魔法が存在するファンタジー世界。全く機械がないのかというとそうでもない。遺跡から高度な機械が発見されることもある。たいてい壊れていたり、使用方法がわからず倉庫に保管されている。
この世界の名はない。二つの大陸といくつかの島で構成されている。
左の大陸をサング、右の大陸をユウリンと呼ぶ。
人間種族、精霊種族、獣人種族の三つの種族が住んでいる。魔壊族という存在もいるが、大陸には住んでおらず大壊穴というところに住んでいる。
人間はサングに二つ(アフィーラ、ツロウネ)、ユウリンに一つ(ドッド)の王国を持つ。
精霊種族は基本的に国を作らない。集団で暮らし、最大規模のものはどれもユウリンにある。
精霊種族は地のドワーフ、火のリザードマン、風のエルフ、水のウィッシュの四つで構成される。ドワーフのみ国を作っている。互いに積極的な交流はないが、毛嫌いしているということもない。
獣人はユウリンにフィッセという名前の国をもつ。
この世界には神様が存在している。全てを生み出した男神と女神。その子供の六子神。
男神ザラガード、女神フィレンス。
男神の子、朝神モルスト、昼神ライン、夜神ナイガ。
女神の子、陽神サニア、月神ムーア、星神スィー。
世界はこの八人の神によって創られた。
世界が誕生したのは四千万年前。塔が造られたのは一万六千年前。
現代の文明の前に二つの文明が存在した。
塔について
グラスロウ、アイリア、デザーダス。
三つの塔の名前。入り口はどこにもなく専用の転送装置で入るしかない。
グラスロウのみ最上階まで登頂されている。頂上には碑文の一部が記されている。その内容は伝えることができず見た張本人のみが内容をしる。
その者たちは「ウォーカーズ(歩き回るものたち)」と呼ばれている有名な冒険者。男二人女二人のパーティ。
ダンジョンは草原の大樹、大水晶群、砂漠の角とも呼ばれている。
噂によると蜃気楼の塔つまり四つ目が存在するとか。いまある移送陣では行けないため事実か確かめられない
塔挑戦最年少は八才。
塔にいる魔物はほとんがエネルギーによって創り出されたもの。だから倒すとアイテムを残し消える。
しかし少しだけ移送陣を通ってやってきた本物がいる。
そういう生きている魔物は、塔で生み出されたものよりは闘争本能が少ない。生き残ることを第一にしている。
魔術と魔法
魔法と魔術の違い。魔術は攻撃、回復、補助など冒険向きといった感じ。魔法は研究し求める奇跡を実現させる手段といった感じ。
魔術と魔法合わせて魔式と呼ぶ。この二つそうたいした違いがないんじゃないのかと思う人もいるだろう。
しかしまったく同じと言える部分は魔力を使うというところだけ。あとは効果も発動時間も使用目的も使用道具もまったく違うものになっている。
魔術は攻撃、回復、補助など冒険や生活にわりと手軽に使える代物。
魔術を使うさいに必要なものが四つある。力と想像力と属性道具と魔言語。力といっても筋肉とかじゃなく体力と精神力を合わせたもの。想像力は魔術をどんな形で現したいか。属性道具は無属性の力に属性をつけるため。魔言語は魔術をより明確な形で存在させる言葉。
流れとしては力と想像力を属性道具に通し魔言語を発したのち効果が現れる。慣れないうちは時間がかかるが熟練者だと長くても数秒で使用可能になる。
魔術は術者の想像力によって形を変えるので様々な魔術がある。教本が作られているのである程度は統一されているが、それは基本と中級くらいまでで上級になるとほとんどがオリジナル。最上級は完全にオリジナル。
魔術と違い手軽に使えるものじゃない。研究、材料集め、実行と月単位から年単位かかる。
始めに望みどおりの効果を出すための研究。次に儀式に使用する媒介を集める。これは自分で集める者が大半。魔法は魔法使いにとって秘匿すべきものだから媒介でさえ他人に知られるわけにはいかない。最後に効果を出すための儀式。たいてい数日間徹夜になる。そして魔法が発動する。失敗すると始めからやりなおし。
ここまでするものだから効果は魔術と比べ物にならないくらい強力。魔法は奇跡を実現させるための手段とも言われている。
事実、過去に死者蘇生や時間巻き戻しを実現させた魔法使いもいた。研究書類が残っていて必要な魔力、材料がそろえば誰にでも魔法は再現可能だが、研究書類を公開する魔法使いはごくわずか。
魔達術
魔術を磨き魔法に達するという目的で創られた三つ目の技法。
使用法は魔術+媒介アイテム+長めの詠唱。
使用する魔術を強化し効果を上昇、効果の変化を引き起こす。
創始者はできるかな? と思いつきで作り出した。魔法に達する可能性に気付いて発展させたのは別人。
欠点 魔力消費の多さ お金 取得にかける時間の多さ 隙(これは練習でどうにかなる。
属性
地火風水の基本属性。
地⇒金、火⇒熱、風⇒雷、水⇒氷の派生属性。
地⇒闇、火⇒光の派生亜属性。
時間、空間、聖、魔、生の特殊属性。
文明レベルは高くない。複雑な構造の機械はなく、魔法が存在するファンタジー世界。全く機械がないのかというとそうでもない。遺跡から高度な機械が発見されることもある。たいてい壊れていたり、使用方法がわからず倉庫に保管されている。
この世界の名はない。二つの大陸といくつかの島で構成されている。
左の大陸をサング、右の大陸をユウリンと呼ぶ。
人間種族、精霊種族、獣人種族の三つの種族が住んでいる。魔壊族という存在もいるが、大陸には住んでおらず大壊穴というところに住んでいる。
人間はサングに二つ(アフィーラ、ツロウネ)、ユウリンに一つ(ドッド)の王国を持つ。
精霊種族は基本的に国を作らない。集団で暮らし、最大規模のものはどれもユウリンにある。
精霊種族は地のドワーフ、火のリザードマン、風のエルフ、水のウィッシュの四つで構成される。ドワーフのみ国を作っている。互いに積極的な交流はないが、毛嫌いしているということもない。
獣人はユウリンにフィッセという名前の国をもつ。
この世界には神様が存在している。全てを生み出した男神と女神。その子供の六子神。
男神ザラガード、女神フィレンス。
男神の子、朝神モルスト、昼神ライン、夜神ナイガ。
女神の子、陽神サニア、月神ムーア、星神スィー。
世界はこの八人の神によって創られた。
世界が誕生したのは四千万年前。塔が造られたのは一万六千年前。
現代の文明の前に二つの文明が存在した。
塔について
グラスロウ、アイリア、デザーダス。
三つの塔の名前。入り口はどこにもなく専用の転送装置で入るしかない。
グラスロウのみ最上階まで登頂されている。頂上には碑文の一部が記されている。その内容は伝えることができず見た張本人のみが内容をしる。
その者たちは「ウォーカーズ(歩き回るものたち)」と呼ばれている有名な冒険者。男二人女二人のパーティ。
ダンジョンは草原の大樹、大水晶群、砂漠の角とも呼ばれている。
噂によると蜃気楼の塔つまり四つ目が存在するとか。いまある移送陣では行けないため事実か確かめられない
塔挑戦最年少は八才。
塔にいる魔物はほとんがエネルギーによって創り出されたもの。だから倒すとアイテムを残し消える。
しかし少しだけ移送陣を通ってやってきた本物がいる。
そういう生きている魔物は、塔で生み出されたものよりは闘争本能が少ない。生き残ることを第一にしている。
魔術と魔法
魔法と魔術の違い。魔術は攻撃、回復、補助など冒険向きといった感じ。魔法は研究し求める奇跡を実現させる手段といった感じ。
魔術と魔法合わせて魔式と呼ぶ。この二つそうたいした違いがないんじゃないのかと思う人もいるだろう。
しかしまったく同じと言える部分は魔力を使うというところだけ。あとは効果も発動時間も使用目的も使用道具もまったく違うものになっている。
魔術は攻撃、回復、補助など冒険や生活にわりと手軽に使える代物。
魔術を使うさいに必要なものが四つある。力と想像力と属性道具と魔言語。力といっても筋肉とかじゃなく体力と精神力を合わせたもの。想像力は魔術をどんな形で現したいか。属性道具は無属性の力に属性をつけるため。魔言語は魔術をより明確な形で存在させる言葉。
流れとしては力と想像力を属性道具に通し魔言語を発したのち効果が現れる。慣れないうちは時間がかかるが熟練者だと長くても数秒で使用可能になる。
魔術は術者の想像力によって形を変えるので様々な魔術がある。教本が作られているのである程度は統一されているが、それは基本と中級くらいまでで上級になるとほとんどがオリジナル。最上級は完全にオリジナル。
魔術と違い手軽に使えるものじゃない。研究、材料集め、実行と月単位から年単位かかる。
始めに望みどおりの効果を出すための研究。次に儀式に使用する媒介を集める。これは自分で集める者が大半。魔法は魔法使いにとって秘匿すべきものだから媒介でさえ他人に知られるわけにはいかない。最後に効果を出すための儀式。たいてい数日間徹夜になる。そして魔法が発動する。失敗すると始めからやりなおし。
ここまでするものだから効果は魔術と比べ物にならないくらい強力。魔法は奇跡を実現させるための手段とも言われている。
事実、過去に死者蘇生や時間巻き戻しを実現させた魔法使いもいた。研究書類が残っていて必要な魔力、材料がそろえば誰にでも魔法は再現可能だが、研究書類を公開する魔法使いはごくわずか。
魔達術
魔術を磨き魔法に達するという目的で創られた三つ目の技法。
使用法は魔術+媒介アイテム+長めの詠唱。
使用する魔術を強化し効果を上昇、効果の変化を引き起こす。
創始者はできるかな? と思いつきで作り出した。魔法に達する可能性に気付いて発展させたのは別人。
欠点 魔力消費の多さ お金 取得にかける時間の多さ 隙(これは練習でどうにかなる。
属性
地火風水の基本属性。
地⇒金、火⇒熱、風⇒雷、水⇒氷の派生属性。
地⇒闇、火⇒光の派生亜属性。
時間、空間、聖、魔、生の特殊属性。