2006年08月

2006年08月30日

三日坊主で終わった日記


前回の日記からはや何週間?
文字通り三日坊主で終わったことにちょっと感心してみたり。

この何週間の間にフリーゲームに手を出してました。
シルフェイド見聞録とシルフェイド幻想譚が面白かった。
見聞録は笑い、幻想譚ははまる面白さです。
幻想譚で以前倒せなかった敵を一撃で倒せて村を守れたときはすっごく嬉しかったということもありました。
スケイルが一番使いやすかったですね。

あとはプログラミングの勉強も始めました。
RPGを作りたくて始めたんですがRPGツクール買えばいいじゃんと気付いたのは始めて四日目のことでした。
勉強して損はないだろと思い続けてますけどね。
でも数学苦手だったということも思い出してみたり。


ee383 at 21:03|PermalinkComments(0)TrackBack(0)日記 

第12.5話


 1
 朝起きてバルフからの伝言をフォルンから伝えてもらったルラは寝ぼけた顔でお仕事お疲れ様ですとバルフの泊まる宿へ頭を下げる。何してるんだと父に見られながらご飯を食べて協会へ向った。
 リリヤとカイと合流してバルフを待つ。ルラの頭からはバルフが来ないということが抜け落ちていた。

「遅いなバルフ」
「そうですわね。今まで遅刻はしたことなかったのに」

 ルラは黙ったままバルフが来ないことを思い出そうとしている。

「ルラ? さっきから静かですわね」
「うん。何かを忘れてるんだ。それを思い出そうとして………ああっ!」

 ぽんっと手を叩く。思い出せてすっきりしたのか眉間によっていたしわがとれ晴れやかな表情になっている。
 思い出したのはどんなことなのか知りたそうにリリヤとカイがルラを見る。

「バルフさん今日も来ないって。仕事が終わったの朝で宿に帰って寝るってさ。母さんに伝言託してた」
「…来ないはずだな」
「無駄な時間を過ごしましたわ」
「ご、ごめんね。これ聞いたとき半分寝てたし」

 テンションが一段階下がった二人にルラはパタパタと腕を上下に振りつつ謝る。

「これからどうしましょうか。今日も三人で探索に行きます?」
「なんかな〜気が抜けていまいちやる気が。私たちも休養日でいいんじゃないか」
「それなら装備品を買いに行きません? 全部を換えることはできないでしょうけど暇潰しにはなりますわ」
「僕はそれでいいよ。でもお金をとりに帰らなくちゃ」
「私もだな」

 一度解散して一時間後にここに集合となった。
 それぞれ探索をしながらこつこつ貯めたお金を持って集まった。リリヤとカイは家から与えられたお金は持ってきていない。自分の装備は自分が稼いだお金で買いたかったからだ。
 リリヤとルラはいつもバルフと一緒に買い物をしている。装備品やアイテムの目利きはバルフが担当していた。今回のように自分で選ぶというのは初めてだ。カイは三人と組む前は一人でこなしていたが、さほど長い期間ではない。このまま買いにいくと騙されたりしてお金を無駄にするかもしれないと三人は気付く。

「どうするか」
「商人の娘息子といっても目利きはできませんし。そもそも扱っているものが武具ではありませんし」
「誰かに聞いてみるのがいいよね。そうだカフィル姉さんはどうかな? 商人だし知り合いにお勧めの武具商人がいるかも」
「カフィルさんか。いいと思う、行ってみよう」

 どう動くか決めた三人はカフィルが店を出す場所へ向う。人々が行き交う向こう側にカフィルの店が見える。ちょうど客が買い物を終えたところで受け取ったお金をしまっている。

「カフィル姉さん」
「ん? ルー坊か。珍しいなこんな時間にくるなんてさ。いつもはもっと遅いのに。リリヤ嬢とカイもおはよう」
「おはよう」
「おはようございます」
「何の用事できたんだい。アイテムを売りに来たんじゃないだろ。昨日買い取ったしな」
「うん。聞きたいことがあって。僕たち装備品を買いたくて、でもバルフが今日はいなくてさこのまま行ったら騙されたりするんじゃないかなって」
「そうだね。なるかもしれない」

 簡単に想像できたのかうんうんと頷くカフィル。

「それでアドバイスをもらえないかしら。お勧めのお店とかあったら教えてもらいたくて来ましたの」
「いいよ。私の知っているところでいいなら紹介する。買いたいのは何?」
「僕はナイフか双剣。篭手と靴も欲しいかな」
「私は篭手か靴か鎧の下に着る丈夫な服ですわ」
「私は防具全般だな」
「Lvはたしか100に届くくらいだったよな」

 カフィルは考える。知っている店で条件に該当する店を探す。紹介するとしたら中級ランクの店で十分だろう。少し早いが防御を高くして悪いことはない。

「そうさね、シャイラホ武具店ってところかね。Lv的にちょうどいいし品揃えもそれなりにある。まあ店主はちょっとほらふきなところがあるけど商売自体には関係ないし」
「ほらってどんなことを言うんだ?」
「商品を手に入れる際に体験したこととか。苦労したのはたしかだったんだろうけど、それを数倍に誇張して話してたよ」
「それくらいなら害はなさそうですわね」
「笑い話の一つとして聞いておけばいいさ。それで場所はこっから西に歩いてカートン靴屋を右へそのまま歩いて行けば看板が見えてくる」
「ありがとうカフィル姉さん」

 気にするなと手を振り笑うカフィル。カフィルに別れを言って教えてもらったとおりに歩く。ウィンドウショッピングをしながら十分ほど歩いて看板が見えた。
 店内には何人かの客がいてそこそこ儲かっているようだ。店主は客の相手をしていて威勢良くいらっしゃいと挨拶をしてきた後は再び客の相手に戻る。
 武器防具はきちんと整理されて種類別に置かれている。一般用とは別に特に値段の高い武具は展示用コーナーが作られてそこに置かれていた。そこにある物は他の武具とは値段の0の数があきらかに違う。

「あの斧高いね30万シル金貨30枚だって」
「その二つ隣の槍も高いぞ。今の私たちには絶対買えないな」
「買っても扱えませんけどね。目的のものを探しましょう」

 特別品から目を離し自分たちに買えるものに目を移す。といっても一般品もそれなりに高い。欲しい物全ては買えないだろう。

「私は鎧だけ探すかな。全部を揃えなおすは無理だ」
「私たちもそうですわ」
「僕はナイフ見てくるよ」

 ルラは二人から離れて武器コーナーへ。リリヤとカイは欲しいものが近くにあるので一緒に探す。
 棚に並べれられたのと壁に飾られたものを合わせて二十本。これがこの店にあるナイフの数。あとは双剣も三組。それを前にしてルラは悩む。どれも手持ちのお金で買える。だがどれが今使っているナイフよりいいものか判断つきかねた。とりあえず一番高いものを手にとってみた。

「重っ。これは扱いづらいなぁ。他はどうだろ」

 壁に戻して他のナイフを見る。

「いらっしゃい。ナイフがいるのかい」

 客の相手を終えた店主が近寄ってきた。

「あ、はい。ナイフを買おうと思ったんだけど、どれがいいのかわからなくて」
「ふむ。今持ってるナイフを見せてくれるか? それを見て似ていて質のいい奴を探してやろう」
「お願いします」

 ルラは腰からナイフ二本を抜き渡す。店主は渡されたナイフを鑑定する。時間はかからずにルラに返す。

「そっちのナイフよりもいいものはこの店にはない。もう1本よりいいもので使いやすそうなものなら、これなんかどうだ」

 いいものだと言われたのはフォルンからもらったナイフだった。
 店主が渡してきたのは三番目に高いものだ。持ってみると重さも同じくらいで扱いやすいものだった。軽く振ってみる。

「これいいな。これにしよ」
「まいどあり」
「ついでにリリたちの装備も選んでもらえませんか?」
「かまわない。あっちにいる嬢ちゃんたちだな?」

 ルラと店主は一緒にリリヤたちのほうへ。リリヤとカイはあれこれと手にとって自分たちに合うものを探してる。

「リリ、まだ決まってないならおじさんに選んでもらったら?」
「ルラは決まりましたの?」
「うん。選んでもらったから」
「私たちも選んでもらうか」

 カイとリリヤも店主に欲しいものを伝える。使っている装備を確認して、注文と予算を聞いて店主はよさげなものを探す。カイにはハーフアーマーをリリヤには服と篭手を探し出してきた。

「この鎧はレギルメタル製だ。レギルメタルっていうのはレギル鉱石から作られた金属で、重量強度ともに鋼と同等だ。ただ少しばかり魔力を遮断する効果を持ってるから魔術に対する防御力も持つ。
 こっちの服は衝撃を吸収する布で作られてる。受ける衝撃を二割くらい減らしてくれる。
 篭手のほうはカフェイド合金製だ。カフェイド合金は銅とフェウタンって金属の合金で強度は若干鋼に劣るが、断然軽い。
 これらでどうだ?」

 二人は勧められたものを手にとってみる。店主の言葉どおりの品物で使い勝手もよさそうに感じた。買うこと決めてお金を払う。今使っているものは引き取ってもらった。ルラのナイフは思い出の品なので自分で持っておく。机の中に大事にしまっておくつもりだ。
 選んでもらったお礼を言って少し話す。

「ほらをふくと聞いてましたけど、全く言いませんでしたわね」
「そう言えばカフィル姉さんが言ってたっけ」
「カフィルの知り合いかい?」
 
 店主はカフィルの名前に反応する。

「いつもアイテムを買い取ってもらってる。カフィルに紹介されてこの店に来たんだ」
「そうかい。今度礼を言っとこうかね」
「親父さんはカフィル姉さんといつ知り合ったの? 僕は父さんとカフィル姉さんが商売相手だったから小さいときから会ってたんだ」
「俺はだな…」

 何かを懐かしむ顔になる。出会った頃のことでも思い出しているのだろう。

「俺は以前冒険者でなぁ。カフィルと会ったのはその頃だ。若手のホープだった俺は戦闘能力は高かったが頭のほうは弱くてよく騙されてた。アイテムを売るときも勘定をごまかされてたんだ。あるときいつものようにアイテムを売って騙されていたとき、それをちょうど見ていたカフィルが相手の商人にすごい剣幕で怒鳴ってくれて正しい代金を手に入れることができた。それがきっかけだ」
「カフィルさんそんなことやってましたのね」
 
 三人は店主の話に感心している。その反応を見て店主は嬉しそうにしていた。
 後日、この話をカフィルにしたところ、ところどころ間違っていることが判明。本当にほらふきなんだと実感した三人だった。
 アドバイスとして世間話は要注意とカフィルに教えられた。商売に関しては信じられることも。商品について嘘をつくと、売れなくなって生活が成り立たなくなるから真面目になるということだ。
 嘘を見抜いた客には割引サービスをやっているから、客は嘘をつかれても怒るということはないらしい。
 現時点では三人は気付いていないので感心したまま店をでた。

「そろそろお昼だけどどうする?」
「適当な店に入って食べればいいんじゃないか」

 その意見に反対はなく。近くの食堂に入って昼食を済ませる。そのあとはバルフに会いに行き、明日のことを確認。いつもどおりに集まることになり解散となった。

ee383 at 20:51|PermalinkComments(0)TrackBack(0)第二部 

2006年08月23日

第12話


 1
 舞踏会から2日過ぎてもいまだ人々は魔物襲撃事件のことを口にする。収まる気配はなくむしろ広がっていく。
 魔物は都には現れず、舞踏会場のみに現れた。このことから魔物は舞踏会があることを知っていて、何かしらの目的があって現れたと推測された。襲ってきた魔物は口が利けるようなタイプではないため目的を聞こうとしてもできず、それ以前に追い払うか殺すかしているので目的を知ることはできない。
 そんなことがあっても冒険者たちは相変わらず塔へと足を運ぶ。噂や騒動は上手く関わらないとお金にならなず、腹が膨れないので当然の行動。
 ルラたち四人も同じように協会へと来ていた。いつものと同じように指定の場所に集まり、移送陣に向おうとする四人を呼ぶ声がする。振り返り見るとシフォンがいた。

「おはようっ。みつかってよかった」

 会えたことを安堵するシフォン。四人はなぜ安堵しているかわからない。シフォンが何か言う前に理由がわかるはずもなし、わかったらテレパシストとしての才能がある。

「私たちを探してましたの?」
「うん。正確にはバルフさんに用事があるんだ」
「俺?」

 バルフはシフォンとの付き合いはほとんどない。だからわざわざ自分を指定して何か用事を頼まれることに首を傾げる。カイとルラに目でどんな用事かわかるかと問われるが首をふってわからないと答える。

「急ぎの用事でねっ、すぐに私の家に来て欲しい」
「いきなり言われてもな。これから塔に行こうとしてたんだが。予定を俺一人のせいで勝手に変えるわけには」
「私は構わないぞ」

 渋る様子のバルフにカイが構わないと告げる。ルラとリリヤも同じ。

「…じゃあ行くかな」
「ありがとうっ」

 シフォンはバルフを連れて協会を出て行く。協会前に止めてあった馬車でウィリア家へと向った。
 
「僕たちはどうしよう? 予定通り塔に入る?」
「それでいいと思うぞ。先に進まずLv上げとアイテム収集でもやっておこう」
「70階辺りなら三人でも大丈夫でしょう」

 現在彼らは94階に到達している。手持ちの武具では心もとなくなっているので新しく買おうと考えていた。そのためにお金は必要で資金集めができるのは大歓迎だった。
 バルフなしでの塔探索は滅多にないので、三人は気合を入れて移送陣に向った。初の三人戦闘などでぎこちなさはあったが特に大きな怪我はなく無事に探索を終えたのだった。

 ルラたちが塔で最初の戦闘をこなしているとき、バルフはウィリア家に到着した。門の前や玄関には私兵が立ち周囲を警戒している。私兵たちはどこかピリピリとしていて真面目すぎるほどに仕事をこなしている。馬車から下りたバルフを見て私兵は警戒した視線を送るが、シフォンが馬車から出てくると警戒を緩め視線を外す。
 シフォンに案内されて応接間に通される。

「ちょっとここで座ってて。お父さんを呼んでくる」

 そう言ってシフォンは応接間を出て行く。戻ってくるのに五分ほど。その間にお茶とお菓子が出されていた。
 バルフが出されたお茶を飲んでいると扉がノックされシフォンと40代の男が入ってくる。
 
「はじめまして。私はウィリア家当主スコット・D・ウィリア。このたびはわざわざ当家まで来ていただきありがとうございます」

 スコットは自己紹介とともにお礼を兼ねて頭を下げる。

「いや頭を下げなくてもいいだろ。ただ来ただけなんだからさ。まだ何も聞いちゃいないし、用事とやらを受けるとも言ってない」
「御足労願ったのはこちらなのだから礼儀としても当たり前のことをしたまでだよ」

 椅子に座りながら当たりのように言う。身分からみればスコットのほうが上だ。偉そうにしててもバルフは気にしない。それが当たり前だと思っているから。だがスコットはそういったことをあまり気にしないらしい。
 それか演技だという可能性もある。こちらから頼みごとをするのに偉そうにしていては断られると考えたのかもしれない。

「早速だが急ぎの用事とやらを聞かせてくれるか? ただし、必ずしも受けるとはかぎらないからとりあえずは知られても困らない情報だけ話してくれ」
「それならところどころぼかして話しましょう。
 実は二日前に我が家からあるものが盗まれた。それは大事なもので絶対に取り戻したいし、取り戻さなくてはいけないものなんだ。最悪この家の存続に関わる。
 依頼はその盗まれたものを取り戻してほしい」
「質問いいか?」
「どうぞ」
「この家は盗賊ギルドに金を出してないのか?」
「出している」

 貴族や金持ちは盗みや暗殺を防ぐため盗賊ギルドにお金を支払う。都市や大きな街にいる盗賊はほとんどがギルドに所属しているためお金を払うだけで料金以上の損失を防ぐことができる。バルフは盗みに入られたと聞いてギルドにお金を払っていないと思ったのだ。

「…そうか。次にどんな状況で盗まれたかわかるか?」
「二日前に舞踏会があったのは知ってるな? そのとき家族全員で参加したんだよ。それで護衛も何人か連れていった。その分、家の警備が薄くなりそこを狙われた。
 泥棒は複数で家に入り、盗まれた物のみを持って逃げた。警備も途中で気付いたんだが、手傷を負わせただけで逃げられた」

 そのせいで私兵たちはピリピリしているんだと付け加える。

「最後になんで俺に依頼したんだ? この家との繋がりなんてシフォンくらいしかないぞ。シフォンだって俺が盗賊の真似事できるなんて知らないだろうし」
「推したのは私じゃないよ。私はお父さんにおつかい頼まれて迎えにいっただけ。私がバルフさんと知り合いだってお父さん知らなかったし。始めは他の人が迎えにいく予定だったんだけど、私が知り合いだってわかったから交代したんだ」
「君を推したのはギルド幹部で君の師匠だよ」
「師匠!?」

 ここで師匠が出てくるとは思わず驚く。というかギルドに話を通してあるならそのままギルドに依頼すればいいじゃないかと心の隅で思う。
 バルフはこの依頼を断れなくなった。師匠が出てきた時点で受けなければならない。師匠の顔に泥をぬることになるし、何より師匠には恩と借りがある。

「詳しいことを話してくれ。この依頼受ける」
「受けてくれるか! ありがたい。
 取り戻してもらいたい物は家宝であり四代前の王から賜った錫杖だ。暗殺の危機にあった王を体をはって助けた際に賜ったもので、あの錫杖を王に対する忠誠の証としていたのだ。そんなものをなくしたと知られたら大変どころではないからな」

 本当に大変どころの騒ぎじゃないだろう。この国の王は世襲ではなく選任なので血の繋がりはない。そうは言ってもやはり先代王の褒美をなくしたと知られるとまずいことになる。ましてや市場で売られているのを見ましたなどと公表されると家の一大事。

「そんな大事、俺に依頼するなよ。なに考えてんだ師匠は」

 バルフがぼやきたくなるのも仕方ないことなんだろう。スコットの次の言葉でさらにテンションは下がる。

「なんでもギルドの恥じに関係しているらしい」
「こんなことを依頼されるバルフさんはすごいんだねっ」
「どうなんだろうなぁ」

 テンションは下がったまま首を傾げる。

「伝言がありますよ。この話を聞いたあとギルドの酒場に来いだそうです。なんでも詳しい話や打ち合わせをするんだとか」

 最初からバルフが依頼を受けるとわかった上での伝言。

「めんどくさい依頼だ。報酬ははずんでくれよ」
「ええ、わかってます。金貨で二十枚、全額後払いで。ギルドからも出るそうです」
「まあギルドにも関係するなら当然だな。これで報酬がたいしたことなかった日にゃ…どうしてくれよう」
「そこは交渉次第で。我が家の家宝、頑張って取り戻してください」
「頑張ってくださいっ」

 ウィリア親子の声援を背にウィリア家を出て行く。指示された通り、以前も来た情報屋の酒場に到着。マスターに話し掛けて大銀貨を置こうとするとマスターに止められる。

「お前が来たら耳無しの部屋へ通してくれって言われている。どこにあるかは覚えてるだろ」
「二階だろ」
「ああ、先に行ってろ。俺はお前が来たって伝えてくる」

 二階に上がり目立たない位置にある扉を開けて部屋に入る。この部屋は密談をしたいときに使われる部屋で魔法で防御されていて盗聴などされないようになっている。
 五分とたたないうちに師匠が入ってきた。

「よく来たな」
「よく来たなじゃないよ。めんどそうな仕事に巻き込んで」
「すまんな。でも俺の知るかぎりこの仕事をこなせそうな奴はお前以外に浮かばなかったんだ」
「師匠とか幹部連中なら俺よりも腕は上だろ」
「今回の仕事はギルドが表立って動けないんだ。だからギルド外の人材を使う必要がある」
「ギルドの恥じってやつに関係ありそうだな」
「まあな」

 師匠は顔をしかめている。

「今回のことはギルドの中級構成員が原因でな。そいつは報酬に釣られて保護料を払っている家に入った」
「ギルド員が入ったのか!? モグリがやったとばかり」

 バルフは驚く。お金を払っているということはギルドの管理領域ということだ。それを荒らすような真似をするのは自殺行為だとギルド員ならば充分わかっている。それは元ギルド員のバルフも同じ。ばれなければ問題ないとという考えもあるかもしれないが、盗賊ギルドは甘くはない。ギルドの目をごまかすには証拠を残さず完璧に仕事をこなす必要があるからだ。

「報酬を使って幹部になろうとしたみたいでな。少しくらい危ない橋を渡らないと幹部にはなれないと思ったらしい。実際その通りなんだが、へまをやらかしたら意味ないな」
「その馬鹿はどうしたんだ?」
「言わなくてもわかってるだろ。協力した奴らと一緒に処分した」

 なんの感慨もなく師匠は答える。想像どおりだったのでバルフは何も言わない。

「でそいつに依頼したのは貴族でな盗まれた物はその貴族の屋敷にある。俺たちギルドで物を取り返せればいいんだがその貴族も保護料払ってて入れない。その貴族が持っているということはわかっているが、盗まれたということを他の者に知られるのはまずいから表立って返せとも言えない」
「だから俺が選ばれたと。盗んでこいと。モグリなら盗みに入ってもギルドに関係ないからどうとでも言い訳できるから」
「うむ。入る前の準備や情報はギルドで用意する」

 ちょいと矛盾をはらんだ言葉がでる。ギルドが関われないからバルフに依頼がきた、なのにギルドが関わる。

「おかしくないか? ギルド今回の件に関われないんじゃ」
「わかってる。ギルド員は屋敷に入らない、でも計画を立てることはできるんだ。台本作製はギルド、役者はお前」
「黒に近い灰色って感じだ。なんか無茶してない?」
「ウィリア家と盗みを依頼した貴族じゃウィリア家のほうがギルドにとって大事だということだ。払う金は多く、付き合いも古い。縁が切れるのはもったいないと幹部連中は判断した。
 それにウィリア家はログオン派、相手はカルゴツ派だ」

 ログオン派やカルゴツ派というのは王候補の派閥のことだ。もう一つハルバーグ派というのがある。ログオン派は盗賊ギルドの一部と関係が深く、カルゴツ派は貴族が多めに集まっている。ハルバーグ派は商人ギルドの一部と関係が深い。
 カルゴツ派は権力を使い二つのギルドを抑圧しているのでギルドに嫌われている。ただログオン派もハルバーグ派もそれぞれの持てるものを使いそれぞれを邪魔してるので互いに嫌っているのは同じことだった。
 ついでにいうと探索者管理協会はどの派閥にも協力していない。運営費用など自力で稼いでいるし、それなりの権力は持つが政治に関わらないようにしているので独立組織として見られている。

「ふーん。いつから入れる?」
「今日からでも」
「じゃあ今日入るよ」

 本来ならば下準備が必要なことにすぐさま行動できるのはギルドが下準備を既に済ませていると確信しているからだった。そしてその確信は外れていない。

「わかった。少し待て見回りや屋敷内部の情報を持ってくる」

 用意された情報や屋敷見取り図を見ながら話し合う。
 侵入方法は屋敷にいるギルド関係者に普段使われていない部屋の窓の鍵を開けておいてもらうことになった。屋敷内外の警備の警備ルートや時間を考慮し深夜一時に侵入予定とした。
 錫杖がしまってありそうな場所を倉庫と宝物庫と家主の私室の三箇所に絞り込んだ。その三箇所を始めに回り、そこになかった場合、寝室と第二倉庫に行く予定になっている。
 錫杖目当てとばれないように適当な高級品を二つくらい盗むことにもなった。こうしておけばただの物取りだと言い訳もできるだろうとの考えだった。

「仕事のための道具はまだ持ってるか? ないならこちらから貸し出すが」
「持ってるよ。宿に置いてあるから取りにいくさ。ここに戻ってくりゃいいんだろ」
「ああ」
「んじゃ取ってくる」


 2
 時間は進んで計画決行1時間前。魔術で灯されていた明かりも次々と消えていき、明かりは星と半月のみ。それも時々雲に隠されて王都は暗闇に包まれている。少し前まで聞こえていた騒ぐ声も徐々に小さくなっていった。
 耳無しの部屋では黒い服に着替えたバルフが師匠と話をしている。腰に最小限の道具を入れたポーチを巻いて、靴は音が出ないように処理されたものをはいている。

「そろそろ出るよ」
「成功しろよ。でないとギルドや貴族から追われることになるからな」
「わかってるさ。ったく、師匠の依頼じゃなきゃこんな面倒なことしないのに。
 もう一度確認するけど、錫杖をもってここに帰還でいいんだな?」
「うむ」
「いってくる」

 バルフはすっぽりと頭を覆う黒い頭巾をかぶり部屋をでる。酒場の玄関から出ずに、二階の窓から飛び出る。靴と身に付けた技術のおかげで音をたてずに無事着地。目的地に向ってゆっくりと走り出した。
 夜闇にまぎれてバルフは走る。月明かりに照らされるとそこにいるとわかるが、影に入ると並大抵の者では気付けない。半年間のあいだに鈍った勘を確認しつつ、完全ではないが取り戻していく。

(到着っと)

 遠回りに走ってきたため四十分ほど時間がかかった。塀を越えて物陰に潜み、息を整えながら時間を待つ。時間が迫ってきて見回りがいなくなる。鍵の開いた窓から屋敷に入る。静かに素早く窓を閉め、一息つく。

(ここまで成功)

 扉に耳を当て廊下の音と気配を探る。近くを歩く気配が遠のいたのを確認して廊下に出る。頭に浮かべた地図をたどり、一番近かった倉庫へ。見回りをかわしながら倉庫へもぐりこむ。倉庫には生活用品が入れられていた。魔術で弱い明かりをつけ探す。隠し扉の有無も点検していく。

(それらしいものはなしか。次にいこう)

 次に向ったのは宝物庫。途中で見回りが二方向から挟みこむように来て遭遇しそうになる。

(やばっ)

 慌てて周囲を見回す。隠れることができそうな場所を探す。緊張で鼓動が早くなり汗も流れる。いちかばちかでみつけた扉を開け飛び込む。気配の確認をしなかったので、誰かいると即座に対処しなければならない。気絶させることを前提に静かにだけど急いで部屋の中を確認する。

(誰もいない。運がよかった〜)

 早まった鼓動を落ち着かせて、廊下の気配を探る。見回りは何事もなく通り過ぎたようで気配は遠のいていった。
 再び廊下に出て宝物庫へ。宝物庫入り口近くの角に身を潜め、鏡を使って警備を確認する。

(二人か。いるとは思ってたが、せめて一人ならなんとかできるんだが)

 少しの間侵入方法を考え込む。

(いい方法が思い浮かばないな。後回しにするか。先に私室に行こう)

 宝物庫は後回しにすることに決めてその場を静かに去る。道順を確認するため地図を思い浮かべると私室に着く途中に第二倉庫を通ることに気付く。ついでに調べていこうと決めた。
 第二倉庫にはガラクタが置かれていた。壊れた掃除道具、ほこりをかぶったピアノ、古ぼけた絵画、汚れたカーペット。廃棄処分の決まったもの、使われないものがたくさんある。それらをゴソゴソと見回っていく。一通り点検し終わった気の緩みから立てかけてあった箒に腕が触れる。

(あっ)

 一瞬呆けて手を伸ばし掴もうとするも、少し足らず倒れてしまう。カーンといい音をたて倒れた箒。現役ではやらなかった失敗に呆れ、慌てる。

(やっちまったー!)

 慌ててガラクタの影に隠れる。ドクンドクンと周囲に聞こえるんじゃないかと思うくらい体内で音をたてる心臓をどうにか落ち着かせ静かにする。五分たち十分たち心音が小さくなってきても動かず隠れ続ける。十五分たった頃、バルフはようやく動き出す。念を入れて扉の向こうの気配を探り、誰もいないと確信をもってから廊下へ出る。
 私室へ到着。扉を開けようとしたがここには鍵がかかっていた。腰のポーチからピッキングツールを取り出して開ける。幸い簡単な作りの鍵だったようで楽に入ることができた。
 部屋の中は机と棚、植物、美術品がある。仕事部屋も兼ねているようで机の上には書類の束が置かれていた。捜索を開始する。錫杖など入らない引出しも点検していく。

(ここにもなし)

 現時点で四時前。五時を過ぎると使用人が置き出してくるだろうからタイムリミットはあと一時間と少し。明日も忍び込むことになるかもしれないと思いつつ部屋をでる。ここでは机の上にあったレアメタルの文鎮をくすねてようとも思ったが明日来る可能性も考えてやめておいた。
 再び宝物庫近くに戻ってきた。先ほどの警備とは顔が違うことから交代したらしい。少し観察していると警備たちは眠そうにあくびをしている。

(…これならなんとかなるか?)

 ポーチから粉を取り出す。これを魔術で起こした弱い風で警備まで運ぶ。粉を吸い込んだ警備たちは徐々にまぶたが下がり始め、ついには壁に寄りかかって眠り込む。粉は無味無臭の睡眠薬だった。違和感をなくすため無味無臭に仕立てられたこの薬は効力が強いとはいえず相手に眠気がないと効かなかった。

(これでよし)

 警備たちを起こさぬように静かに宝物庫前に立つ。

(鍵は…かかってるな)

 私室の扉よりも頑丈で複雑な作りの鍵がつけられている。警備の腰に鍵がぶら下がっているのは確認済みなので慌てずに丁寧に鍵をとる。
 この辺りは専用の警備がいることもあって見回りのコースからは外れている。気まぐれをおこして立寄らないことを祈るのみ。
 何事もなく扉を開けて宝物庫に潜り込む。金銀宝石美術品がきちんと整理され収められていた。ぱっとみ錫杖はみあたらない。部屋隅の大きな金庫に近寄る。金庫には南京錠がつけられている。大きさ的に錫杖も入るサイズの金庫。

(あるとしたらこの中か………開いた!)

 金庫を開けて中を確認する。大きな宝石、金塊とともに目的の錫杖が置かれている。教えられた外観、描かれた絵と同じ物で本物に間違いなさそうだ。

(ビンゴッ!)

 一応罠が仕掛けられてないか調べて錫杖を手にとる。

(これであとは適当な物を盗って帰れば仕事は終わり)

 超高級品ではなく市場に流して問題無い程度の高級品を三つ見繕う。珍しい物のほうが高く売れるがそのぶんあしがつきやすい。腕のいい泥棒と思わせるためそこらへんも考えて盗む。動きを阻害されないように小さめのものを選んだ。警備がまだ寝ていることを扉越しに確認してから廊下に出る。
 近くの窓から外を見て警備がいなくなったのを確認してから外へ。はやる気持ちを抑えつつ慎重に塀へ近づいていく。塀を越えて屋敷から充分離れて酒場まであと半分といったところでようやく一息つく。集中力は落ちたものの警戒はしながら酒場に帰った。

「帰った」

 バルフは言いながら椅子に座り完全に緊張を解く。久々の現場はブランクのある身には辛かったらしく、塔探索のときよりも疲れていた。

「おつかれさん。それで錫杖は?」
「これ」

 盗んできたものごと渡す。師匠は間違いないかしっかりと確認して頷く。

「確かに受け取った。これで依頼は終了だ。
 それでどうだった半年振りの現場は?」
「疲れた疲れた。現役じゃしないようなミスもしたし、運良くばれなかったからよかったよ。早く宿に帰って寝たい」
「ミスか本当に腕が落ちたようだな」
「鈍ってる。現場から離れて半年もたつから当たり前なんだけど」
「報酬なんだが現金はウィリア家から受け取るだろ。ギルドからは別なものを用意しようかと思う。ただ現金がいいならギルドからもウィリア家と同じ額を渡すが?」
「どんな報酬か聞いてから決める」
「ギルドからは一回だけ大抵の無茶を聞くというものだ」
「は? …そりゃまた豪勢な」

 思った以上の報酬に驚く。どれくらいのものかというと今回のように保護料を支払っている家に忍び込むのに許可を出してくれたり、幹部でもないのにギルド員を使うことができる、さらには情報部が秘匿している国家機密級情報の閲覧だって可能だろう。

「なんでそこまでの報酬をだすんだ?」
「確かにこの報酬は高い。俺からは何も言えない、あえて言うなら金をもらっておくことを勧める」
「(金をもらっておいたほうが安全ということか。…意味なく気前が良くなるわけないからな……俺をギルドに縛りたい? 今回のが実力を測るテストを兼ねてたとしたら、達成できる人材は逃したくないか。今人材不足っぽいからなぁ。せっかく自由になったのにまた縛られるのもなんだし)金もらっとく」
「ん、それがいい。ウィリア家はいくら出すって言ってた」
「金貨二十枚」
「それくらいならここにもあるか」

 師匠はちょっと待ってろといい部屋をでる。情報屋へ金貨を取りに行ったようだ。言葉どおりすぐに戻って来た。手には金貨の入った袋を持っている。

「報酬だ」
「確かに二十枚。じゃ帰る」
「たまには顔を見せにこいよ」
「了解」

 バルフが酒場の外へ出ると東の空が白くなりはじめていた。さすがに今日の塔探索は勘弁願いたいと思ったバルフは宿に帰る前にルラの家に寄り不参加を告げる。ルラの家に寄ったのはしばらくは貴族の家に近寄りたくなかったからだ。
 宿に帰ったバルフは塔で魔物相手にしてるほうが気は楽だと思いつつ眠りについた。

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2006年08月13日

第11話


 1
 朝。外は雨であいにくと目覚めの気持ちいい朝とはいかなかった。今日も塔へと行くため起きだしたリリヤは朝食を済ませるため軽く身支度を整えて食堂へ向う。先に起きていたドリンとウォックス、使用人たちに挨拶をして朝食を済ませる。時間を気にしながら食後のお茶を楽しんでいるときにドリンが話しかけてきた。

「リリヤ、明日は暇かい?」
「明日ですの?」

 明日は塔探索は休みになる予定で特に何も用事をいれていないことを確認する。

「何も用事はありませんわ」
「そうか。明日城で夕方から舞踏会があるんだ。それに同行してくれ」
「舞踏会ですか。あまり行きたいとは思いませんわ」

 渋い表情になっていることから本当に行きたくないのだろう。

「そう言わずに参加しなさい。最近、こういった集まりに参加してないだろう? たまにはいいじゃないか」
「兄様も一緒に行きますの? 私だけじゃないのなら行きますわ」
「俺? 行ってもいいぞ。でも知らなかったよ、明日舞踏会があるなんて」

 ウォックスが参加の意志を示すとドリンの表情が微かに歪む。二人に気付かれないうちにもとに戻したのは、
さすが凄腕の商人といったところか。

「伝えてなかったか? ど忘れしていたみたいだな。それは置いといて、ウォックスが一緒なら参加するんだな?」
「はい」

 忘れていたと言うのは嘘だ。ウォックスが共にいると貴族たちがリリヤに近付けなくなるので知らせていなかった。ウォックスがいるこの場で知らせたのは会話が予想できていたということとウォックスに用事が入っていて参加できないことを狙っていた。

「わかった。ドレスとかの準備は今日の夜からしとくようにな」
「わかりました。それでは部屋に戻ります」

 塔に行く準備のため部屋に戻る。鎧を着込んだりしているうちにちょうどいい時間となり屋敷を出た。雨の中、普段よりは若干人の通りが少ない道を歩いて協会に向う。表に人が少ない分、協会内は人が多い。決めている集合場所に着いたとき、そこにはカイがいた。

「おはようございます」
「おはよう」

 ルラとバルフが来るまで雑談をしている二人。リリヤが朝食のときのことを思い出してカイに聞く。

「カイさんは明日の舞踏会に行くんですの?」
「舞踏会…明日あるのか? 私は知らないが」
「明日の夕方からお城であるらしいですわ。今朝お父様に参加するように言われまして」

 参加するとはいってもやっぱり乗り気でないのか不満そうだ。

「私は相続権放棄してるし参加しなくてもいいのではないかな。私は普段から参加することが少ないから知らせなかったのだと思う」
「私もあまり参加していませんわ。セオルディさんみたいのが集まってきて楽しめませんもの」
「私はドレスを着るのが苦手でなぁ。体を締め付けられてまで踊りたくない」
「ドレス着てると食事がしにくいですし」
「そうだな。王宮料理人の作る料理は美味しいのにな」

 花より団子な二人揃ってため息をつく。

「カイさん、明日の舞踏会参加してくれません?」
「んーあんまり参加したくないな。なぜ私を誘うんだ?」
「知り合いがいたほうが少しは楽しく過ごせると思って」
「わからんでもないな。ああいった場所は政治の駆け引きの場でもあるから楽しむといった気分になりにくい」

 少し黙って考える。迷うそぶりをみせたものの参加することを告げる。それを聞いてリリヤは嬉しそうに笑う。ちょうどそのときルラとバルフが着た。リリヤが笑っている様子を見て、なぜ笑っているのかわからず聞いてみるがリリヤとカイは秘密と言って答えない。不思議そうに首を傾げる二人を連れて塔に向う。


 2
 舞踏会当日。リリヤはいつもより一時間ばかり遅く起きる。塔に行った次の日の起床時間は大抵このくらい。
 朝食を済ませたあとは魔術と魔達術の勉強をこなす。早めに昼食をとり一時間のんびりと過ごす。そのあと約二時間休憩をいれつつ剣を振るなどして体を動かす。
 動いて流れた汗を流したあとは使用人に化粧、ドレスの着付け、装飾品の選定を手伝ってもらい、舞踏会への準備を済ませていく。髪は櫛を入れてストレート、薄く化粧をして、薄い黄色のドレスを身に付ける。装飾品を身につけていくなかにいつもつけている録音石のネックレスがある。リリヤは使用人にドレスに合わないと言われるが外すことはなかった。
 準備が整った頃には家を出るのにちょうどいい時間となっていた。
 部屋のドアがノックされドアの向こうからウォックスの声がする。

「リリヤそろそろ出るぞ。準備は終わったか?」
「終わりましたわ。あなたたち手伝ってくれてありがとう。先に出てくれる?」
「わかりましたお嬢様」

 使用人たちは一礼して部屋を出て行く。小物を片付けるふりをして属性道具を身につけリリヤも部屋を出る。本当は剣も隠して持っていきたかったが、さすがにばれたら洒落にならないので諦めた。誰かを害するつもりはないし思ってもいない。それでもただ持っているだけで疑われることは間違いない。隠しとおせる技術を持っていないので持っていけなかった。

「年が経つごとにリリヤは母さんに似てくるな」

 リリヤを通して亡き母親を思い出しているようでウォックスの目に懐かしさが宿る。

「お母様に似ていると言われるのは嬉しいですけど、私自身も見てほしいですわ」
「あ〜すまんな。似合ってるよ。ルラも今の姿を見たら見惚れるんじゃないか?」
「たいして反応しない気がしますけど」
「いや、そこまで鈍感じゃないだろ」

 部屋から離れて玄関に向う。玄関前には馬車が用意されていて、そのそばにドリンが立っている。ドリンもウォックスと同じ黒のタキシード姿。リリヤのドレス姿を見たとき、ドリンも妻のことを思い出した。ウォックスと違って何も言わなかったので、いきなり上機嫌に笑い出し、理由のわからない周囲を不思議がらせた。
 
 馬車が城に集う。普段、馬車を置く場所だけでは足りないので兵士の訓練所、進入禁止の庭まで解放された。豪華に飾られた馬車など様々な馬車が止められ、そこから貴族たちが舞踏会会場へと歩いていく。その中にルグルド家の三人、コルノア家の姿も見える。何を勘違いしたか吸血鬼風に仮装した者も見える。

 会場はきらびやかに飾り付けられていた。天井のシャンデリア、壁の小宝石つきカーテンと装飾品、テーブルの上の花瓶、大皿、銀の食器。どれもそれ自体が光を放つ。それらに人も負けていない。色とりどりの宝石でドレスで装飾品で着飾った女性たちがそこらじゅうにいる。男たちは宝石を身に付けてはいないが着ているものは上等なもの。今この場に集まっている貴重品を全てお金に換えると村一つ一年近く養えるんじゃないだろうか。
 人々は互いに挨拶を交わし雑談に興じている。ドリンも早速挨拶に回っている。
 六時を知らせる鐘が鳴り会場中央に司会者が立つ。挨拶をしてから舞踏会始まりの宣言をする。待機していた楽団が音を奏で始める。人々はそれぞれ動く。雑談を再開するもの、踊り始めるもの、食事をとるもの。
 
 リリヤはウォックスを連れてカイを探す。会場四隅のどれかで待ち合わせしているのでそこを回る。いないと思って他を探そうとしていたとき声をかけられた。

「リリヤどこにいくつもりだ?」

 声に振り返るとカイがいた。いつも髪をまとめ、男っぽい話し方をするカイがドレス姿だったのでつい見過ごしたらしい。
 カイは髪をストレートにして、青のドレスを着ている。飾りは少なく髪飾りとネックレスのみ。化粧もして外見は綺麗な令嬢なのに言葉遣いが違和感を招く。カイのそばにはリリヤと同じ年くらいの少年がいる。

「カイさんここにいたんですね。気付けませんでした」
「その可能性はあるかもしれないと思っていたよ。化粧をしてドレスを着たとき、さんざん家族に笑われたからな。酷いと思わないか?」

 カイの愚痴にそばに立つ少年が苦笑いを浮かべる。

「私も感想を言う前にお母様に似てると言われましたわ。嫌ではないんですけど、目の前に立つ私を見てくれてもいいと思いませんか?」

 ウォックスも少年と同じ苦笑いを浮かべる。
 互いに家族を紹介する。カイの弟の名前はフェルエン。コルノア家を継ぐことが決まっている。カイはフェルエンを可愛がっているようだ。
 四人で話しているとリリヤに声がかけられる。その声にリリヤは聞き覚えがあった。

「久しぶりっ」

 振り返るとそこには思い出した顔と同じ顔があった。

「シフォンさん。お久しぶりです」
「三ヶ月ぶりくらいかな?」
「そのくらいだったと思いますわ」
「すまないがリリヤ、私たちにもわかるように紹介してくれないか」

 シフォンのことを知らない三人を代表してカイが話し掛ける。

「ああっほったらかしになってすみません。こちらはシフォン・D・ウィリア。友達ですの。塔で護衛の依頼を受けたときに知り合いました。それ以来時々会ってました」
「ここ最近は用事があって会えなかったけどね。
 はじめましてシフォン・D・ウィリアです。次はいつ会えるかわからないけどよろしくお願いしますっ」

 リリヤ以外の三人も挨拶と自己紹介をしていく。
 しばらく話していると、ウォックスが知り合いに呼ばれた。

「リリヤ俺も挨拶してくる」
「わかりました」

 ウォックスはポケットから何かを取り出しリリヤたち四人に渡す。渡したのは小粒の白い錠剤。四人はこれが何かの薬だとしかわからない。

「兄様これは?」
「酔い止めだ。効果は抜群だぞ。酒を勧められるかもしれないからな、酔わないように飲んでおいたほうがいい。酔って醜態なんかさらしたくないだろう?」

 以前貴族の娘を酔わせて強行手段にでた馬鹿な奴がいたので、念のために飲ませておいたほうがいいと判断し準備していた。これは薬の効果を消すこともできる。眠り、麻痺、催眠を阻止できる高級品。このことを知らせずに渡した。
 ちゃんと四人が飲んだのを確認してウォックスは離れていく。

「姉さん僕も知り合いのところにいってくるよ」
「わかった。失礼のないようにな」
「うん」
 
 フェルエンも離れていき回りの人に隠れて見えなくなった。三人は飲物を飲み食べ物をつまみながら雑談を続ける。誰かと踊るということは頭に浮かびすらしないらしい。

「私も塔に行こうと思ってるんだっ。今は準備中で体力つけたり、剣を習ったり、知識を学んでるところ」
「準備を整えるのはいいことだな。知識や技術がなく挑めるほど塔は甘いところじゃない」
「うん、私もそう思って一年くらいは準備に費やすことにしてる。リリヤはどれくらい準備に費やした?」
 
 シフォンの疑問に目を逸らす。準備期間なんかなかったとは言いにくい。リリヤは剣や魔術を習ってはいたが、ルラは何も知らずに探索したのだ。知られたら呆れられるのは間違いない。
 
「そ、そうですね…だいたい……だいたい…さ、三ヶ月くらい」
「ほんとに?」

 シフォンは聞き返す。額に汗をたらし、視線を合わせない様子を見れば怪しむのも当然だろう。

「別に準備期間が短くても恥ずかしいことではないんだ。本当のことを言ってたらどうだ? ちなみに私は半年ほどだ」
「えーと……い、一ヶ月だったかしら?」
「まだ挙動不審だよ」
「もっと短そうだな」
「本当は十五日くらいかな」
「いやおもいきって十日ってのはどうだ?」
「「正解は?」」

 二人に迫られ無言で耐えていたリリヤだが、少しして耐え切れなくなりボソリと声を出す。

「一日ですわ」
「「は?」」
「一日って短すぎるだろ!?」
「ほとんど準備してないんじゃ? 装備くらいは整えることができる程度?」

 想像の斜め上をいく回答に驚く。回りの人が声の大きさに反応し注目しても気にしない、できない。
 リリヤたち以外にも少なからず準備期間が短く塔へ行く冒険者はいる。そういった冒険者の大半が生活に支障の出る怪我、もしくは死亡といった事態に陥っている。
 ドリンはともかくフォルンはリリヤとルラが塔に行けばそうなる可能性が高いとわかっていた。それでも準備に時間を割くことをしなかったのは、時間が足りなくなるから。与えられた時間で準備に時間を割くと確実に目的の階層まで辿り着けなくなる。だからフォルンは荒療治を選択した。危険度低い罠にかかることで、どんな場所にあるか、どのように発動するか、どんなタイプの罠があるか体で覚えさせようとした。
 バルフと会えた事は二人にとってとても幸運なことだった。罠にかかって死ぬという可能性は低くなり、様々な知識も教えてもらうことができたから。

「よく生きてるね?」
「まったくだ」
「運がいいことは協会で聞こえてくる話で充分わかってます。バルフさんに会えたことで今こうしていられることもです」


 3
 舞踏会場二階。そこに魔術による幻でただの壁に偽装された隠し部屋がいくつかある。会場側からは見えないが部屋からは会場を見渡せる、防音処理もされたその部屋の一つを使っている者たちがいた。
 テーブルにはワインとつまみがいくつか。二十前半の男とおそらく二十後半の女が向かい合い、食事を楽しんでいる。

「いい酒だ。それに料理も美味い」
「侯爵家のあなたならこれくらいはいつも食べているでしょう?」
「我が家の現状を知っているのにつまらないことを聞くんだな」
「あらごめんなさいね。そこまで困っているとは思っていなかったから」

 悪びれた様子もなく微笑んでいる。男のほうはその様子に怒ることもなくワインを口に運ぶ。

「それで俺をこんなところに呼び出したのはなぜだ。ただ食事を共にしたかったわけじゃないんだろ」
「一緒に食事をしたかったのも本音よ。呼び出した目的は顔見せ」
「あんたに会うことが目的なのか?」

 男は不思議に思う。目の前の女とは既に数度会っている。いまさらこんなところで自己紹介もないだろう。それ以外に目的があるらしいが男にはわからない。

「確認するのは私じゃなくて、あなたの未来のお嫁さんよ。妻の顔を知らないなんて失礼でしょう?」
「妻…ね。なんか親父がそんなこと言ってたな」
「あの子がお嫁さんよ」

 女が指差す先には騒ぐ三人がいた。

「あの黄色のドレスの子。どうなかなか可愛いと思わない」
「ガキじゃないか。俺としてはあんたのほうが好みなんだけどな」
「光栄ね。でも私はすでに売れてるの。あの子と一緒になれば家を再び貴族の中枢に戻せるのよ」
「ふーん。俺が知るかぎりじゃ、あっちは結婚を嫌がってるらしいぞ。なにか弱味を握っているわけじゃないんだろ。この話は潰れると思うが?」

 男も馬鹿じゃない。父親から話を聞いたとき情報を集め、貴族連中の目的を推測している。そして答えは時期を考えれば簡単に答えはでた。男の家は歴史が古い。建国当時から存続する。その過程で得たいろいろな繋がりや貸しによる発言力をなくすのはあまりにもおしい。そこで貴族は家の再興を手伝う代わりに権力の提供を要求した。
 その上で男は父親ほど乗り気じゃない。

「そうかもしれない。でもなんとかするのは私たちの役目」
「なんとかできるのか。あそこの長男は厄介だって聞いてるが」

 興味本位の問い。情報を集める過程でウォックスの才を知ったが故の興味。

「確かにあの子は厄介だけど。まだまだこちらの狸や狐には及ばないわ。十年の経験を積めば対抗なんて簡単にできるようになるんでしょうけど」
「十年ほどで政治の化け物たちを相手にできるのか。そいつはすごいな。もしかしたらロードになりうるのか」
「戦乱の世ならともかく、この平穏な時代にロードなんて邪魔なだけよ」
「そうかもしれないが。先が楽しみな奴には違いなっ!?」

 男が言い終わる前に揺れが会場を襲う。原因は天井に穴が空いたことだ。爆発系の魔術であけたのか黒煙が舞い漂う。壁の欠片が降り注ぐ。大きな欠片が仮装した貴族に命中した。会場は悲鳴が響き、安全な所へと皆が動こうとして混乱している。
 煙が薄れて天井が見えてきたと同時に動く影も見える。影は煙を散らしながら会場内へと飛び込んできた。影は魔物、それも魔壊族が使役する上位種だった。塔の階層で表すと二百階クラス。そこらの森や草原じゃまず出てくることのない、邪気の強い場所に行かなければ会うことすらできない魔物たちだった。
 魔物は身に持つ牙爪を振るい、火を氷を風を雷を放ち思うがまま暴れる。怪我人死者を量産し、なお暴れる。
 警備の兵士が奮闘し魔物を相手取る。会場には重要人物が集まるためここに詰めていた兵士たちは腕利きが多く、殲滅することに成功した。被害をゼロに抑えることなど無理だった。

 リリヤとカイとシフォンは天井が破壊されたあと、家族の無事を確認しようと探し、無事みつけだした。無傷とはいかなかったが、幸い死へと繋がるような怪我はしていなかった。
 家族の無事を確認したリリヤとカイは兵士に加勢しようと考えたが、魔物を見て何も準備していない今の状況では足手まといにしかならないと判断。家族のそばで家族を守っていた。

 数日後に出された報告書によりこの騒ぎによる死傷者の数は約70%に及んだとわかった。誰がどんな目的でこの騒動を起こしたのかはこのときの調査ではわからなかった。数年後にとある冒険者たちに提出された情報で魔王パセスホールによる仕業だと判明。
 この騒動で死亡した重要人物もいたため、この騒ぎは数年後の王交代に少なからず影響を与えた。

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