2007年09月
2007年09月30日
いろいろ届いた
注文してたものが届いた。
リトルバスターズにザールブルグの錬金術師にゲームパッドコンバーター。
ザールブルグの錬金術師は、一度終ったものの続き。読めて嬉しいです。
先生しているマリーを見ておおーっと思ったり、他のキャラのその後も見られて面白いです。
あの終り方は、続きがあるのかと思ってしまいます。そうだと嬉しい。
ゲームパッドが使えるようになったので、東方紅魔卿の体験版をダウンロード。
三面までしかないのに、ノーマルで死なずにそこまで行けない。コンテニューとボム使ってやっと。
ルナティックもやってみた……あれは無理だ。目がおいつかない。でも楽しかったと思えた。
シンジinザールブルグは以前書いてたものに追いついた。
ここからは、書き溜めてないのでのんびりと。
次は三つの塔。外伝っぽいもの。半分は出来てるから、あっぷにそう時間はかからないはず……たぶん。
リトルバスターズと東方やるからなぁ。
シンジinザールブルグ 7話
第七話 再会
季節は春。陽射しは柔らかく、野には草花が芽吹き、日々を過ごしやすくなっている。人々も活気づきはじめ、通りや広場では子供の声が多く響くようになった。
シンジが錬金術をやろうと決めて一ヶ月と少したっていた。
「俺のふるさとに遊びにこないか?」
食堂の手伝いが終わり、今日は街に出ずに保健室でコーリングとお茶を飲んでいる。今日のコーリングの白衣には大きなビックリマークが描かれている。
のんびりと話していたときにこの一言が出た。
「ふるさと?」
「そう。ここから片道5日ほど歩いたところにある。それほど大きくはないけど温泉が湧いてて、年中湯治客がやってくるんだ。毎年最低一回は姉ちゃんと一緒に帰ってる。毎回それほど忙しくないこの時期にね。本当はもっと寒い時期に帰れたほうが温泉に入るにはちょうどよさそうなんだが、旅をするには冬は厳しい季節だし」
「温泉は魅力的ですけど……久しぶりに家族に会うんでしょ? 僕は邪魔になるから遠慮しておきます」
自分の家族を思い出し、一家団欒なんか覚えがないことにへこみながら辞退する。
血の繋がらない偽りの家族のことも思い出したが、結局バラバラになったこともへこんだ一因。
「それは気にしなくていいさ。姉ちゃんもいいって言ってるし、イングリド先生にも許可はもらってある」
「すでに許可がでてるって、最初から連れて行くつもりじゃ?」
「まあな。イングリド先生もこの世界をもっと知ってもらうために、ちょうどいいって言ってたし。この街だけがこの世界じゃないからね、他の場所を見るのもいい経験だ」
「そんなものですか?」
「そんなものだろ。というわけで旅行に必要なものを買いにいこう」
アカデミーを出た二人は職人通りを歩いている。寒かったときとは違う品並べの露店を、シンジは珍しそうに見ながら歩く。
「買い物に出たのはいいんですけど、何か特別な物がいるんですか? 着替えはあるし物を入れるリュックも持ってる、ほかになにか……」
シンジは何が必要か思い出そうと首をひねる。そんなシンジを見てコーリングは必要なものを上げていく。
「途中までは乗合馬車に乗って、あとは歩きになる。二日ほど歩いて村に到着する。その間の携帯食料が必要になるんだ。ほかにも夜になると冷えるから毛布かマントといった防寒具、水を殺菌浄化する浄化炭などなど」
「へーいろいろとあるんだ。お金たりるかな?」
「大丈夫だろう。高級品とか買わなけりゃ。一般的な品を買っていけば、高い買い物になることもないだろ」
買い物をすませながら歩いていると、向かいから両手に荷物をかかえ、ちょっとふらつきながら歩くエリーが見えた。エリーは荷物に夢中になり周りがあまりみえてないらしい。
「エリーさん、大丈夫ですか? 手伝いますよ」
「シンジくん?」
エリーの手のなかからひょいっと荷物を取る。コーリングも邪魔にならない程度に受け取っている。
「シンジ君ありがとね。コーリングさんも。さっきまでダグラスが手伝ってくれてたんだ。今は騎士団の急用で呼ばれてお城にいったけど。一人で持つにはちょっと多くて困ってたんだよ」
「それじゃ僕たちはいいタイミングでとおりがかったんだ」
「荷物もちのタイミングとしては、ちょうどいいときにとおりがかったのはたしかだな」
「本当にありがと」
「べつにいいですよ。エリーさんにもお世話になってますから。それにしてもこんなにたくさん何を?」
「これから調合でアトリエにこもりっきりになるからその間の食料をできるだけ買いだめしたんだよ。痛みやすい食材は今日明日くらいのしか買えなかったけど。
シンジ君たちは何してたの?」
「僕たちは旅行の準備を」
「俺は付き添いみたいなものだな。必要な物がどこで売ってるかとか案内してた」
「へー旅行に」
「コーリングさんたちの里帰りに誘われて、温泉もあるからどうだ? って」
「温泉かぁ、しばらく行ってないな〜」
シンジたちをやや羨ましそうに見る。調合終ったらヴィラント山に行こっかな、なんて聞こえてくる。
歩きつつ最近あったことや採集先で起こったことを話していたときに、ある話題がでた。
「そういえば二人は知ってる? 一週間前から幽霊がでるって噂。昼夜関係なく街のあちこちにでるんだって」
「俺は知ってる。ルイ姉ちゃんが見たってさ。突然目の前に現れたと思ったら『ここにもいない』って言ったあとまた消えたらしい」
「僕も噂くらいは聞いてます。綺麗な銀の髪を持つ女の子だって。探してる人をみつけることができれば、未練がなくなって成仏するんでしょうか?」
「ん〜どうだろうね〜。女の子が昔の人ならその探してる人がすでにいないって可能性もあるよね。その場合はいつまでも探しつづけるんだろうし」
「いつまでもいない人を探しつづける…。それは寂しいですね。僕にできるのは探し人が見つかることを祈ることだけでしょうね」
「あくまでも可能性だ。いないってきまったわけじゃないだろう? 幽霊をみかけたらどうにかして話を聞いて手伝う、とかやれるさ」
特に害が出たわけではないので、三人ともその幽霊を怖がっていない。それは街の人たちも同じだった。街の外には、ただうろつくだけの幽霊よりも怖い魔物や盗賊がいるからだ。
そんなことを話しているうちにエリーの家についた。窓から妖精たちが踊っているのが見える。何気に全員、息の合った同じ動作で踊っているのがすごい。
「ついた〜。二人ともありがとう」
エリーは荷物を受け取り「ちょっと待ってて」と言って家に入る。そして一つの籠を持ってでてきた。妖精たちは踊りをやめて、食材をどんどんしまっていく。
「はい。これはお礼だよ。私が作ったチーズケーキ。けっこう上手にできたんだ。まだまだ改良の余地はあるけどね」
「ありがとうございます」
「んで、こっちは旅のお守り」
エリーは小さな袋を差し出す。受けとって触った感じでは中身は粉っぽい。
「これは?」
「しびれ薬。魔物や盗賊に襲われたらこれをばら撒いて逃げるといいよ」
「お守りっていうか直接的な防衛手段って感じだな」
「そう? 直接的っていうならメガフラムとかあるけど、そっちのほうがよかった?」
「それってたしか強力な爆弾……そんな危険なものをふるさとに持ち込みたくはないぞ」
ありがたく、しびれ薬をもらい帰路に着く。残りの買い物を済ませたころには空が赤く染まりかけていた。
多くの人が家に帰ろうと歩くなかから、ふとシンジは視線を感じた。顔を向けると歩く人々のなかにいて一人足を止めてシンジを見つめる少女がいた。人々に紛れてすぐに見失いそうな体躯なのに、シンジは見失うことなくその少女と見つめ合う。
銀の髪は夕日色にそまり、肌は興奮からかわずかに赤く、瞳はシンジをとらえて離さない。視線から感じられる感情は歓喜。別れてそして再び出会えたことに対する喜びの感情。
「やっとみつけた」
囁きといってもいいほど小さな声は、雑踏のざわめきに消えることなくシンジの耳まで届いた。
この言葉に続く言葉は行動で示された。すなわち抱擁。銀の少女はシンジに走りより抱きついた。いや抱きつこうとした。肌と肌は触れ合わず、するりと抜ける。それでも少女は出会えたことで満足なのか形だけの抱擁を続ける。偽りの抱擁といえども触れ合う部分から感じるはずのないわずかな暖かさが伝わってきた。
一方シンジは困惑していた。見覚えのない少女からうけるあまりにも強い喜びの感情。人違いじゃないのかと口にだすわけにもいかず、この子が噂の幽霊なのかな? と心の中で思う。しかし少女がシンジと呟いたことで人違いではないか、という思いも消える。だからますます会った覚えのない少女にたいして困惑する。
なお人々が行き交う通りで抱き合っていればそれなりに目立つわけで、シンジたちに注目が集まり始めていた。
「シンジ、とりあえず移動しないか? このままここにいたら目立ってしょうがない」
「そ、そうですね。ねえ? 移動するよ、ついてきてね?」
戸惑いに恥ずかしさが混じる。
いまだにシンジに抱きつき喜び浸る少女に声をかけアカデミーへと足早に帰る。
「私の名前はチェロ。ほんとはシンジに名前をつけてもらいたかったのよ? でもパメラが名前がないと不便だからって。だからなるべくシンジに関係あるものを思い出してこの名前にしたの。
どう? 似合ってる?」
自己紹介をした際の銀の少女チェロの言葉だ。
目立つのを避けるためアカデミーに帰ってきた三人はそのまま保健室へと入っていった。
移動しているからといって目立たなくなるわけもなく、むしろかわいい少女が空中に浮きながら抱きついていれば視線は集まる。しかしここは錬金術が盛んな都。人々は錬金術で浮いているのだろうと思い、少しの注意を向けるだけですます。
ここで言えることは幽霊と噂されていた少女は、今は人々の目にはっきりと見えている。
「僕は碇シンジ。このアカデミーで食堂の手伝いをしてる」
「あなたがシンジだってことは知ってるよ」
「俺はコーリング。この保健室で助手やら雑用やらやっている」
「あなたのことは知らないわね。はじめまして」
荷物をおろし椅子にすわって自己紹介となった。チェロは抱きつくのをやめたが、シンジのそばに座っている。シンジは隣にすわるチェロを見て尋ねる。
「君は」
「せっかく名前があるんだから名前で呼んで」
「チェロさん?」
「さんはつけなくていいわ」
名前を呼ばれたことで嬉しそうに笑いチェロは言う。コーリングは初めて名前を呼んでもらったような反応だな、いや名前がない自分でつけたと言っていたから初めてなのか、と思いつつ口に出さずに二人を見ている。
「チェロは僕のことを知ってる? 知ってるから抱きついてきたりしたんだよね?」
抱きつかれたことを思い出し、顔が赤くなるのを抑えようとする。その努力のおかげか、わずかに赤くなるだけですむ。
「もちろん知ってる。何年も一緒にしたわけじゃないけど、それに劣らないくらい共にいたわ。そうね初めて会ったのは一年くらい前? もうちょっと時間はたってるかな?」
「一年以上前ってことは会ったのは地球……しかも使徒と戦い始めたころ」
シンジは呟く。記憶をたどり目の前の少女のこと思い出そうとする。使徒と戦っている間に起きたことなどが思い浮かんで、シンジの纏う雰囲気が重くなっていく。
その様子を見て、チェロとコーリングは表情を曇らせる。
「まあ始めから私のことをわかってくれるとは思ってなかったけどね。わかってくれたらそれはそれでとても嬉しいことだけど。魂すら以前と少し違うし、姿形はさらに変わってるから」
「姿が違うってそりゃわからないわな」
暗い雰囲気を晴らすが如く、チェロはわざと明るい声を出す。コーリングもそれにのって、口を挟む。
「あのときから会った女の子。綾波、アスカ、委員長、マヤさん、ミサトさん、リツコさん……」
シンジは、とりあえず出会った人たちを口に出してみる。しかしどの人とも雰囲気が違う気がした。しまいにはもしかしてペンペン!? などと思考がずれ始める。思考が変な方向へとそれたおかげで、雰囲気も軽くなる。
「なんかどんどん明後日の方向にむいてるみたいだから言っちゃうわよ?」
「うんお願い。でも会ったことはあるんだと……思う。雰囲気というか気配みたいな懐かしい? 感じはうけるんだ」
「それだけでもわかってくれて嬉しいわ。まったく会ったことないって言われるとあのつながりはなんだったの? って思うから。
私はあっちじゃね、初号機と呼ばれていた存在をベースにした存在」
チェロのさらりとした発言にシンジの動きは止まる。まったく予期していなかった正体に脳がフリーズする。コーリングはあいかわらず傍観者。初号機って名前じゃないよな? とか考えてはいるが口にださない。
シンジがかたまり何の反応も示さずチェロとコーリングがティータイムを始めて少し、ドアがノックされシンジは動き始めた。チェロは飲めないので香りを楽しんでいただけだ。
ノックして入ってきたのはイングリドだった。
「コーリングここに「初号機だって!!??」っどうしたの?」
イングリドが何か聞こうとしたときに、シンジのセリフがかぶった。シンジはイングリドに気づいておらず、チェロのほうにむいている。
「あの、えっと、だって、いや、だから、そのね?」
動き出したはいいが、まだに混乱してるっぽい。イングリドは視線で何が起こったのかコーリングに問うも、コーリングは首を横にふってわからないことを伝える。
「とりあえず落ち着いて。はい深呼吸。吸ってーはいてー吸ってー」
「すーはーすーはーふぅ」
「落ち着いた?」
「なんとか」
みためは世話のかかる兄を相手する妹。仕切りなおしてシンジはチェロに問う。
「ええとね、ほんとに初号機? いや初号機って言葉自体知ってることが証拠にはなるんだけど、あまりにも姿が違うから。それにね女の子だったってことも知らなかったし」
「そこらへんも含めてちゃんと説明するね。その前にもう一回自己紹介かな」
チェロはイングリドを見る。つられてシンジもそちらを見てイングリドがいることに気付く。さっきと同じ自己紹介をしてチェロは話し始めた。
「(といってもどれくらい言ってもいいのか、ん〜?)」
さきほど雰囲気が重くなったことから、向こうの話は精神的に危ないと感じたチェロ。全てを話すべきではないと判断した。
「チェロ?」
「あ〜ごめんね。とりあえず思いつくまま説明するよ。私が初号機っていうのはもう言ったとおり、もっと詳しく言うと身体から抜け出した魂が今の私。身体は向こうに置いてきたわ。碇ユイの魂が今も眠ってるでしょうね」
「母さん……」
そのシンジの呟きはどんな心情を込められたのか。一つの言葉に様々な想いが込められていて三人にはわからなかった。
「私の性別が女になったのは碇ユイが原因なの。もともと私に性別はなかったんだけど、十年も一緒にいればさすがに影響うけてね。ほかに聞きたいことある?」
「僕やチェロがここにいる理由はわかる?」
「シンジがここにいる理由は『世界』が干渉してここに送ったから。私がここにいるのはシンジを追いたいって思っていたら、『世界』が送ってくれたの」
「世界? 世界って全世界とかの世界のこと?」
漠然としたチェロの表現にシンジは理解できなかったのか聞き返す。
「その世界よ。言い換えると地球の魂かな。意志とも言えるけど、シンジは長い間存在しているものには魂が宿るってきいたことない? 地球は億単位の時間を経ているから魂があってもおかしかくないでしょ」
「マリーかエリーが妖精の木の声を聞いたとか言ってたけど、それと同じかしらね?」
イングリドが身近な過去の体験談を思い出し理解しようとする。
「でもなんでその『世界』さん? が僕をここに送ってくれたんだろう」
「(ん〜これは言わないほうがいいかな? 余計なことまで言っちゃいそうだし)それは私にもわからないな」
「そっか。じゃあ今むこうがどうなっているかわかる?」
「(これも言わないほうがいいよね)私もこっちにいるからわからないの」
ここでシンジは少し間をおく。そしておそるおそるといった感じで話し掛ける。
「……とりあえずこれが最後の質問」
「?」
チェロは、シンジがなぜそういった態度をとるのかわからないので、首をかしげてシンジを見る。
「チェロは……チェロはどうして僕を追ってきたの? 僕はチェロに何もしてあげられてないよ。逆に傷つけて痛い思いばかりさせてた。嫌われるならわかるけど、街で会ったときに感じられた喜びは何?」
ここ最近は出ていなかったイングリドとシンジが初めて会ったときの雰囲気が漂う。イングリドは何か言いたそうにするが、ぐっとこらえて様子をみる。コーリングも表情が歪められている。
「だってシンジだけじゃない」
「?」
うつむかれて小さめの声で発せられた言葉に、今度はシンジが首をかしげる。
「碇ユイは私を押さえつけて動けないようにしてた。綾波レイは私を通して碇ゲンドウを求めてた!」
始めは小さい声もだんだんと大きくなっていく。
「私と一緒に在って、私に触れて、私を認めてくれた。計画のための、人々の未来のための道具としてじゃなく。シンジといたときは私が私として存在してられた!」
「でも僕はなにも知らずに乗ってただけで……いまもなにも知らなくて」
「それでいいの! 何も知らないってことは『私』を必要としてくれて一緒にいてくれたってことだから」
「ただ流されて、戦うため生き残るためだったとしても?」
「計画」「戦う」「生き残る」といった言葉にイングリドとコーリングはピクリと反応を示す。だが何も言葉を発することなく静かなままで、シンジとチョロの会話を聞く。
「うん。それでよかった。だから私と会ったことを悔やまないで……私が私でいられたことを消さないでほしい」
そういって上げられた顔は泣き顔でキラキラと輝く涙が流れていた。
寄り添う二人を見ながらイングリドは、シンジの過去を考えていた。
シンジは過去を誰にも教えていない。誰も自分の過去を知らないということが、心を安定させている一つの要因なのだ。
それをわかっているイングリドは、今までは気にはなっても聞くことはしなかった。しかし、今はチェロがいる。シンジのいないときに、チェロが許す範囲で聞いてみようと思うのだった。
2007年09月26日
シンジinザールブルグ 6話
第六話 未来の悩み
シンジがザールブルグにやってきて二ヶ月ほどたった。3月に入り寒さも緩み出し、春がすぐそこまできている。この二ヶ月の間何事も無く過ごせてきたわけでもなく、小さな騒ぎの中を平和にすごしていた。思い起こせばシンジの脳内に鮮やかに映し出される記憶。
ルアンに気に入られたシンジの実力に疑問を持ち、料理勝負を持ちかけた食堂の先輩(将来の夢、料理店を持つこと)。その騒ぎが元になってアカデミー内料理コンテスト(アマチュアのみ)まで発展した。食堂の先輩や学生の料理上手を抑えシンジが優勝。勝因は皆が食べたことのない味の料理で印象付けたこと。作った料理は肉じゃがもどき。調味料が同じものがなかったので、味見して近いものを使ったためもどきとなった。勝負を持ちかけた先輩は4位だった。またこのコンテストでルアンがザールブルグで五本の指に入る料理人と判明。
用事があったイングリドの代わりに、ヘルミーナに勉強を教えてもらった。勉強自体はなにごともなく終わるも、そのあとのお茶会で新薬の実験につきあい幽体離脱を体験。霊体となったシンジに誰も気付かなかったので、少しも騒ぎにならずに終了。無事に身体に戻る。
ほかにも、のど自慢大会でエリーとチェロで競演。影からみてたスキンヘッドの男が印象的だった。チェロはイングリドがプレゼント。
錬金術に少しふれる。エリーの工房で妖精たちにまじって中和剤(緑)を作った。
疲れをとるために祝福のワインを飲みすぎ酔ったローレンシウム姉弟にからまれた。ルイーゼはホンワカ度が増しスローペースで話し続け、コーリングは意味不明なマシンガントーク。
などなど賑やかな日々。そういったなかで、多くはないがシンジが心からの微笑みを浮かべることもあった。それに見ほれた人がもう一度見たくて新たな騒ぎを起こすといったことも。
平穏でいて賑やかな日々の中、ほんの少しほんの少しずつシンジの心は癒されていく。もし癒しきれるのなら十数年はかかるペースだけれど。
そんないつもの勉強会。
「……この国も20年ほど前に戦争をしていました。……今日はここまでにしておきましょう」
「ありがとうございました」
「もう少しくだけていいと言っているのに」
「教えてもらっている立場だから、ちゃんと敬意は払わないと」
「それならば普段はもう少しくだけられるわね。丁寧なのもいいのだけれど、始終のその調子だとちょっとした壁を感じるの」
「やれるだけやってみます」
「ええ。それにしても文字の習得にまだまだ時間がかかると思っていたのだけど思ったよりも早かったわね」
「文字が使えないと普段の生活に困るから」
現在シンジは、日常会話程度ならば文章にできるようになっている。暇なときにコーリングに教えてもらったり、生活に困るのでいままでになく頑張ったということもあるが、本来もつ資質の高さもある。
行ったことは最悪の部類に入るが、けっして無能ではなく有能なゲンドウ、三賢者とまで呼ばれたユイ。この二人の子供であるシンジが受け継いだ資質は高水準を誇る。
誘導された性格によって抑えられていた能力が、やる気と優秀な先生のおかげでここにきて発揮されていた。文字の習得だけでなく、教えてもらった知識もほぼあますとこなく吸収している。
少し考えていたイングリドは、お茶を飲んでいるシンジに問いかける。
「ねえシンジ。あなた錬金術をやってみない?」
「ほへ? 僕が錬金術を?」
飲んでいたお茶を飲む手を止めて、聞き返すシンジ。
「そうよ。ヘルミーナと話していてシンジにやらせてみたいってことになってね。あなたはのみこみが早いし、私たちにない知識も持っているでしょう? 私たちがいままで見たことのない錬金術を見ることができるんじゃないかっていう興味があるの」
「えっと、いますぐ決めないといけませんか?」
「急いで答えを出す必要はないわ。ゆっくり考えて答えを聞かせてちょうだい。入学試験まで数ヶ月の余裕があることだし」
この誘いは、イングリドの言葉のとおり錬金術の発展、可能性をみたいという想いも込められているが、シンジを数年はここザールブルグに留めておきたいといったことも含まれている。むしろ後者の想いのほうが強いかもしれない。
シンジはよく考えておくという返事をして部屋に戻る。
次の日、食堂の手伝いを終えて街にでようと廊下を歩いていると近くの部屋から女性がでてきた。
「シンジじゃない。どこへ?」
「あっヘルミーナさん。街をぶらぶらしてこようと思って」
「そう。気をつけて行きなさい。ところでイングリドから聞いている?」
「錬金術をやってみないかってことですか?」
忘れていない。むしろ、それをどうするか考えるのに少し疲れたから散歩に出ようとしている。
「そうよ」
「まだ決めてなくて」
「あせらないでゆっくりと考えればいい。時間はまだあることだし」
「イングリドさんと同じこと言ってます」
シンジはくすりと笑う。ヘルミーナはイングリドと同じと言われ顔をしかめ、シンジの小さな笑顔につられて微笑むといったことを同時に行う、奇妙な表情になる。
ヘルミーナと別れてアカデミー入り口に向う。
街に出て考えごと半分、のんびり半分といった感じで歩いていると誰かに声をかけられた。
「……シンジ君! お〜い聞こえてる?」
「は、はい! 聞こえてます」
「やっと気付いてくれたね」
「あっエリーさん。こんにちは」
「こんにちは」
「何かご用ですか?」
「え〜と特に用事はないんだけどね。ちょっと声をかけただけだったんだけど……何か悩み事でもあるの?」
「悩みってほどのことじゃないんですけど、ちょっと考え事があって。……そうだ! 聞きたいことがあるんです。いいですか?」
「聞きたいこと? いいよ。それで何を聞きたいの?」
「エリーさんはどうして錬金術士になろうと思ったんですか?」
この質問にエリーは、少し考え込む。そして、懐かしそうに微笑みを浮かべる。
「私が錬金術士になったわけ? 何年か前に重い病気だった私を助けてくれた人が、錬金術士だったんだ。世の中には素晴らしい人がいて素晴らしい力を持っているんだ、私もそんな人になりたいなって、誰かに頼りにしてもらえる人になりたいなって思ったのがきっかけだよ。
このことがシンジ君の考え事に関係あるの?」
「イングリドさんに錬金術をやってみないかって言われて」
「やってみようか迷っているの?」
「錬金術をやることに不満はないです。エリーさんに少し教えてもらったことで興味がわいたから。……今まで将来やりたいことは何かって考えたことなくて、これから何がやりたいんだろうって考えてたんです。こんな中途半端な気持ちで錬金術をやっていいものなのかな」
「いそいで答えを出す必要はないんじゃないかな。これから過ごしていくなかで見つかるかもしれないし。いま錬金術をやっているからといってずっと続けていかなきゃいけないっていうわけじゃないしね。
錬金術に触れてみるのもいい経験になるかもしれない、これくらいの気持ちでもいいと思うよ」
なるほどとシンジは納得する。
「……ありがとうございます。参考になりました」
「うん。役に立てて嬉しいよ。じゃ、もういくね」
「はい」
シンジは、エリーが雑踏にみえなくなるまで見送って歩き出した。足取りはさきほどよりは軽くなっていた。
何度か通い顔見知りになった屋台のおばちゃんからジュースを買いベンチに座る。ぽけ〜としながらジュースを飲み人の流れを見ていると、何か考え事をしているシンジと同年代の少年が目の前を通る。特に気にせずぽけ〜としているとゴツンと音がした。少年が木のそばで額をおさえしゃがみこんでいた。近づいて声をかける。
「あの……大丈夫?」
「痛ったぁ。ああ大丈夫。ぶつかるまで木に気付かないとは我ながらすごい集中力だ。師匠が集中力だけはあるってほめたとおりだな」
「大丈夫そうだね。またぶつからないよう気をつけて」
「ちょっと待った。聞きたいことがあるんだけど」
「えっと何?」
いい人ばかりではないとイングリドに教え込まれていたシンジは、警戒しつつ返事を返す。
「これから数時間暇?」
「……うん、特に何か予定があるわけじゃないけど」
シンジがそう答えた瞬間、少年の目がキュピーンと光った。
「そうかそうか。ちょっと一緒に来てほしいとこがあるんだ」
「ええと、お金はありませんごめんなさい。ほかを当たってください。では!」
「待て何か勘違いしてないか? べつにかつあげとかそんなんじゃない。ちょっと街の外、近くの森へ一緒に行ってほしいだけなんだ」
「なんのために? やっぱり外でかつあげ?」
「だからなんでそうなる。用事というか試したいことがあって。一人で行くには心もとなく、かといって傭兵を雇うほどのものでもない。知り合いに声をかけたが用事があると断られたんだ。それでどうしようか悩んでた」
「それで僕と一緒に行ってほしいと?」
「そういうこと」
シンジは悩む。イングリドとの危ないところへいかないという約束を思い出す。だが興味もあった。街の外はどんなふうになっているのか。少し悩み、
「……いいよ。だけど保護者がわりの人に心配かけたくないから、あまり時間はかけられないよ」
「一緒に来てくれるか、ありがとう。まだ言ってなかったが俺の名前はアラカトル。アルでいいよ」
「僕は碇シンジ。ちょっと前からアカデミーでお世話になっているんだ。よろしく」
「ん? もしかしてちょっと前に噂になった『空からの落とし者』? アカデミーの庭に落ちて、そのまま世話になってるって聞いたけど」
「その名前は知らないけどたぶん合ってるよ。でも噂になってたんだ」
「もっぱら酒場でな。マスターに銀貨100枚払って聞いたからな。その噂話でマスターは結構儲けたんじゃないか?」
「わざわざお金払ってまで聞くことじゃないと思うけど」
「噂話はお金払わないと聞けないし、内容には当たり外れがあるからなぁ」
話しながら歩き出す。門の前にはたくさんの人が並んでいる。門番に目的地などを告げ出て行く。入ってくる者もいてこちらのほうが審査が厳しい。危険物や指名手配犯を街にいれないようにするためなので当たり前のことだが。
シンジたちの順番がきてなにも問題なく通れた。初めてでた街の外は草花の緑、空の青が目に鮮やかで圧倒される。似たような風景は前の世界でみたことがあるが、その中に存在する生命の違い、自然の自然らしさに目を奪われる。
みとれて立ち止まるシンジにアルが声をかける。
「どうした? なにか珍しいものでもある?」
「いや、なんでもないよ。ただ平和だなって」
「騎士団ががんばってるしな。魔王も数年前に錬金術士とその仲間に倒された。騒動の元になるようなことがないからな」
「錬金術士って魔王退治もしなきゃならないの!?」
「違うと思うぞ。その錬金術士が規格外なだけだと思う……多分な。いや……たしか、去年の武闘大会で優勝したのも錬金術士だったから特殊でもないのか?」
その二人の錬金術師は特殊な部類にはいるのだが、錬金術師に詳しいわけではないアルには、違いはわからない。
シンジは帰ったらイングリドに、錬金術師はそういったこともするのか聞いてみようと思った。
近くにあるので、すぐに森へと入ることができた。木で太陽の光が遮られ、森に入る前と比べると少し肌寒い。かすかに雪がとけ残る獣道をアルについて歩く。遠くから虫や鳥、獣の鳴き声が聞こえてくる。
「そういえば森になにか用事でもあるの? ついてきてほしいとは聞いたけど、目的を聞いてなかったよ」
「そういや言ってなかったな。目的は二つの意味での腕試しだな。一つは剣の上達具合、もう一つは剣の出来具合。今、俺が持ってる剣は自分で造ったんだ」
そういってアルは誇らしそうに、腰に下げてある剣をぽんっと叩く。
「……自分で造った……すごいね」
「師匠に比べたらまだまだだ」
「じゃあ将来は鍛冶屋になるの?」
「世界一のな。それだけじゃないぞ。世界一の剣士にもなる! 自分で造った最高の剣で世界最高の剣士になる。考えただけでもわくわくしてくる」
アルの目が楽しそうに輝く。シンジにはその目が眩しく見えた。
「大きな夢だね。夢を持つことになった要因とかあるの?」
「ん〜そうだな? 始めは最高の剣士になろうとしてたんだ。それで剣を振り回したりしてたんだけど、どうも剣がしっくりこなくて武器屋をいろいろ回っていたんだ。
ある日、たまたま鍛冶屋の剣を打つ音を聞いて閃いた。ないなら造ればいいじゃんってな。どんな剣がほしいかよくわかるのは自分だからな。すぐに師匠に弟子入りした。始めの頃はやめときゃよかったって後悔してたんだけど、だんだん武器を造るのが楽しくなって世界一の鍛冶屋を目指し出した」
「剣士の夢は諦めなかったの? 鍛冶屋の修行で忙しかったんじゃ?」
「俺は欲張りだから、両方の夢を追ってた。どちらも楽しくて諦めるなんて考えなかったよ。なりたいものが一つじゃないといけないなんて決まってないし。毎日忙しいけど充実してる」
「そっかぁ……うん、ありがとう」
「なんで礼を言うんだ? 俺は何もしてないと思うが」
「ちょっと考え事があったんだけど。それの参考になったから」
「ふーん。っ!? 来た!」
回りの茂みからガサガサと音がする。視線の先には青い毛皮の狼が五匹現れた。静かに唸り飛び掛るタイミングを計っているようにも見える。
アルはおちついて剣を抜き、シンジはわずかに緊張し身体をかたくする。
「青ウォルフ……そこまで強くはないけど、数が少しやっかいか。シンジ」
「なに?」
「襲い掛かって来るやつだけ相手にしててくれ。無理に倒そうとしなくていい」
「ええ!?」
「それじゃ。いくぞ!」「ウォン!!」
アルが飛び出すのと同時にウォルフも動く。向ってきた一匹を一撃で切り伏せ、ほかを見回し牽制する。残りの四匹は一斉に動く。
二匹、アルのわきを通りシンジに向う。シンジは、そばに落ちていた丈夫そうな枝を拾い立ち向かう。エヴァ量産型以来の戦闘に緊張はとれないものの、なんとか二匹の攻撃を避ける。使徒よりも遅く攻撃のバリエーションが少ない青ウォルフは、シンジにとって強敵とはいえず、動きはぎこちなくとも充分以上わたりあえる。そして棒を思い切り振りぬく……そう己の身体能力が上がっていることを知らずに。
結果、青ウォルフは森の奥へと消え、手の中の棒も砕け散った。己の起こした現象に気を取られ、思わず緊張も戦意も消え青ウォルフのことを忘れる。
「シンジ!!」
「っ!?」
隙だらけのシンジを見逃すわけもなく青ウォルフは襲い掛かる。アルに呼ばれ気付いたときは遅く、避けられるようなタイミングでもなくギュッと目を瞑る。すぐにくるはずの衝撃に耐えようとするものの衝撃はこない。おかしく思い目をあけると、目の前にアカイカベがあった。数ヶ月前まで見慣れていたアカイカベが。青ウォルフはATフィールドに阻まれシンジに近付けない。
離れたところから青ウォルフの悲鳴が上がる。アルが三匹目を倒したとこだった。残り一匹になった青ウォルフは、戦意をなくし逃げていった。
「うん、こんなもんか。シンジ大丈夫だったか?」
「……怪我はないよ」
「それにしても力強いんだな。青ウォルフがあんなふうに飛んでいくのは初めてみたよ」
「僕も驚いた。前はあんなに強くなかったし。ATフィールドが使えたことにも驚いたけど」
「あの防御用の魔法か、急に使えるようになったのか?」
「魔法? う、うん、そう魔法。でもなんでだろう」
「今はいろいろと成長期ってことで納得しといたらどうだ。あとで何か理由を思いつくかもしれないし」
アルのアバウトな考えにシンジは、少し感心する。深く考えてもどうにもなりそうにないから、そのほうがいいなと思う。
「……そうだね。今はそう思っておく」
「それじゃ帰るか」
帰りは何事も無く森を抜け街に入ることができた。アルの世話になっている工房を教えてもらい別れた。
アカデミーに帰り、いつものように食堂で食事をとり風呂に入り勉強の時間になる。
勉強も終わり雑談タイム。街の外に出て青ウォルフに遭ったと話し、怪我がないか心配される。何も怪我がないとわかり一安心されるという場面があった。ほかにも身体能力向上、ATフィールドのことも話す。そして、
「イングリドさん……僕、錬金術やってみます」
「そう、わかったわ。書類だしておくわね。入学試験のほうはこのペースで勉強を続けていれば大丈夫でしょう」
「錬金術をやろうと思った理由を聞かないんですか?」
「そうね……あなたが自分で悩んで考えて決めたことだから、聞かなくても大丈夫でしょう」
ここまで信頼してくれることを嬉しく思い、感謝するシンジ。
「……ありがとうございます」
「今日はここらでお開きにしましょう。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
同時刻、どこかの丘。一人の少女が月と星の光の下で微笑んでいる。銀の髪は肩まで届き、蒼い瞳は綺麗に澄む。150cmにも満たない10才ほどの少女。容姿は可愛い。シンジに似ているようで似ていない。
どこか違和感のつきまとう少女はクスリと笑い小さな口を開く。
「作られた箱庭、偽りの楽園……か。何も知らずに過ごしているんでしょうね。破滅はすぐそこまで来ているわよ。
なんてね♪ 一回言ってみたかったのよね。雰囲気出てたかな? でも一人でやってもむなしい。パメラがいれば何か感想聞かせてくれたかなぁ。
シンジ待っててね。もうすぐ会えるから」
影のない少女は歩き出す。このときから数週間後、ザールブルグで幽霊の噂が流れ始めた。
2007年09月24日
涼しくなってきたような?
新聞や天気予想をみると、30度とかなってるけど、外に出ると八月に比べて涼しくなってる。過ごしやすくて、いい季節になってきた。
でも気づくと蝉がまだ鳴いてたりする。夏の名残ですね〜。
グレンラガンが来週で終る。
今週アニキが出てきて、相変わらずかっこよかった!
やっぱり死んだグレン団は、カミナのとこにいってたな。楽しくカミナが死んだあとのことを話して騒いでたんだろうな。
自分のためにドラクエ短編書いてたら20kb越えて笑った。10kb越すくらいの分量だと思ってたのに。まだ書き終わってません。30kbはいかないはず。
絶望先生10巻購入。
第3の選択、うけ狙いですることあるわ。
2007年09月23日
シンジinザールブルグ 5話
第5話 平穏の始まり
話しのあとイングリドと一緒に夕食を食べたシンジは、明日の朝も一緒にご飯を食べる約束をして自分の部屋に戻る。
夕食時もシンジを珍しそうに見る人は多かった。そのうちイングリドやルイーゼから理由を聞いた人がさらに話を広めて珍しそうに見られることはなくなるだろう。事実、人の噂もなんとやら、一ヶ月もたたずにこんな状況はおさまりシンジがいて当たり前と気にしなくなった。
今日買ってきたものを整理しながら、自分の状況も整理していく。量産型エヴァにロンギヌスコピーで貫かれ意識が戻れば異世界。その過程をいくら思い出そうとしても、意識のない時のことは思い出せるわけがなく、軽く智恵熱を起こしかけてベッドにもぐりこんだ。
睡眠は充分にとったはずだがシンジはすぐに寝息をたてる。今が夢であってほしいようなほしくないような、そんなことを心のひとかけらで想いながら。
量産型エヴァ戦やそれ以前のことを夢にみることもなく、深く眠るシンジ。
実は夢おちでしたということもなく、どこからか聞こえる鐘の音で目を覚ます。朝6時を知らせる大時計の音。イングリドと約束した時間まではまだたっぷりとある。誰の世話もしなくてよく、朝ゆっくりとできることに少し感動しながら身支度を整えていった。
「おはようございます」
「おはようシンジ。ゆっくり眠れた?」
「はい、熟睡できました」
「それはよかった。朝食のあとに食堂の職員たちに挨拶することになっています。すでに昨日のうちに新しく手伝いが入るという話はしてありますから」
「ちょっと緊張します」
「料理長は人に無茶を押し付けるようなことはしないわ。無理だと思ったら料理長に言えばどうにかしてくれます。これで全部とは言わないけど、少しは緊張が解けるといいのだけど」
「……ありがとうございます。少しだけど、緊張とけました」
イングリドの気遣いに感謝するシンジ。
ゆっくりと朝食を食べ、食堂から人が少なくなるまで時間をつぶす。8時30分をすぎると寝坊した学生以外はほとんどいなくなる。お茶を飲んでいた二人のそばに、コック姿の女が近づいていく。
「おはようイングリド」
「あら? おはようルアン。そちらから来たのですか、もう少しすればこちらから声をかけたのに」
「学生も少なくなって時間が余っているから気にしないでいいさ。それでそっちが新しい手伝いかい?」
「そうよ。よろしく頼むわね」
「えっと、碇シンジです。よろしくお願いします」
シンジは立ち上がり料理長に礼をする。
「元気は少々足りないが礼儀のいい子だね。あたしはルアン。この食堂で料理長をしている。よろしく頼むよ。イングリドは授業があるんだろ? もう行っていいよ。あとはあたしに任せときな」
「そう? じゃあ私はいくけど本当にシンジのこと頼みますよ」
「はいはい。さっさといかないと遅刻するよ。教師が遅刻なんてするもんじゃない」
「シンジ、またあとでね」
「はい」
シンジとルアンに見送られ食堂を出て行く。食堂に残ってる学生もほとんどいなくなり、食堂入り口で職員がCLOSEの看板を置いていた。
ルアンの外見は茶色の髪に金の眼。身長はシンジより高く、肩にかかる髪を後ろで一つに縛っている。キリッとしていて綺麗というよりかっこいい。イングリドよりやや若いといった感じ。
「心配性だねえ。とって喰いやしないってのに。大事にされてるね」
「大事かどうかはわかりませんけど、すごくお世話になってます」
「そうかい。それじゃこれからの話をしよう。昼に入って手伝う、これは聞いてるね?」
「はい。お世話になります」
「うん。それで手伝うところなんだけど調理、材料の皮むきや下ごしらえの調理補佐、皿洗いやゴミ捨ての裏方、料理を客に渡したり番号を呼んだりの給仕の4つ。入ってもらいたいのは調理、その次に補佐……なんだけどお前さんの腕がわからないからね、試しに何か作ってもらいたいんだ。いいかい?」
「かまいませんけど、どんなのを何人分作れば?」
「そうだねえ、何か軽いものをここにいる全員にいきわたるくらい」
「……じゃあサンドウィッチでいいですか?」
「ああ。材料はなんでも使っていいよ。着替えなくていいから早速作ってもらおうか。お前たちもこっち見てないで仕事する!」
いつのまにかシンジとルアンのやりとりを全員が注目していた。ルアンは注目を散らし自分も仕事を始める。
シンジも厨房に入り材料を見ることから始める。数種類の具を作ろうと考え、今ある材料から何を作れるか考えていく。必要な材料をそろえ調理を始めるシンジの手並みに、仕事をしながら見ていた人たちは感心した顔つきになる。やがてゆで卵、鶏肉、生クリームと果物、朝食の残りを使ったポテトサラダの4種類のサンドウィッチがテーブルに並んだ。
ルアンが皆に声をかけ休憩をとる。
「ルアンさんできました」
「うん。皆ちょっと休憩だよ。このサンドウィッチを食べとくれ」
皆、次々とサンドウィッチを手にとっていく。どんどん減っていき数分でなくなった。反応は上々、シンジに「上手かった」といって仕事に戻るものもいた。
「中々のもんだね。手際も良かったし。朝食で余った材料を使ってくれたのも助かったよ。いつもなら、捨てるか自分たちで喰えるだけ喰うってことになるからね」
「何でも使っていいって言われたから、使っただけなんですけど」
「感謝くらい素直にうけとっときな。これなら調理に入ってもやっていけるね。決まりだ。ただちょっと気になるんだが」
「なんですか?」
「鶏肉のサンド、食べたことのない味付けだったね。あれは?」
自分の知らない味に調理人として興味がそそられたルアン。好奇心と探究心を隠しもせずに聞く。
今後もシンジは自分の知っている味を披露していく。それはルアンにとって興味深く刺激になり、ルアンの腕をさらにあげることになる。錬金術ではなく料理で、シンジが世界に影響を与えた瞬間だった。
和風の料理がメニューに上がる日も遠くない。
「僕の住んでたとこの味付けなんですけど……ダメでしたか?」
「いやダメってこたないさ。ただ気になっただけだからね。ついてきな制服をあげよう。昼だけっていっても人手が増えるのは助かるね」
「邪魔にならないよう頑張ります」
「頑張りな。お前さんはまだまだ発展途上だ、努力すれば腕は上がっていく。どんな取り柄でも伸ばしといて損はないよ」
「はい」
こうして初日のバイトは始まった。忙しい時間帯もなんとか乗り越え、遅めの昼食をとり部屋に戻る。イングリドはシンジが上手くやっているか心配し、1時間以上食堂に居座り仕事ぶりを見続けた。そして途中から心配は消えて、安心した様子になっていた。
仕事を終えて部屋に戻り1時間休憩する。疲れをとったシンジは部屋をでた。まだまだ行ったことのない場所だらけのアカデミーを探検気分で歩き回る。
売店のそばを通りすぐに戻って来たらルイーゼに声をかけられた。
「シンジ君どうしたの?」
「どうしたのって?」
「すぐに戻ってきたでしょ? それでどうしたのかなって思って」
「この先に扉があったんですけど開かなくて、それで戻ってきたんです」
「ああ、それで。この先の扉は許可された学生と教師しか入れないの。図書館があるのよ」
「図書館か。それじゃ入れても意味なかったですね。字よめないし」
「あらそうなの?」
「はい。これから覚えようって思ってて」
「頑張ってね」
「はい」
「ルイーゼさんこんにちわ〜」
商品を手に持った客が声をかけてきた。シンジは昨日見た人だと気付く。
「エリーさんこんにちは。今日はそのビーカーを買うの?」
「昨日ちょっと失敗しちゃって、そのせいでいくつかビーカーが割れちゃったんだぁ」
エリーはあははと頭に手をやり笑っている。
「怪我しないように気をつけてね」
「えへへ、気をつけます」
「どんな失敗したの?」
「失敗っていうか完成したフラム数個がテーブルから落ちて暖炉に入っちゃって爆発。暖炉の灰を巻き上げて掃除が大変でした」
「昨日の爆発と煙はそれだったんだ」
シンジは思い出しおもわず呟く、エリーは呟きに気付きばつの悪い顔を向ける。
「見てたんだね。あはは〜かっこ悪いとこ見られちゃった」
「小さい子供もいましたけど大丈夫でした?」
「子供? ……ああ! 妖精さんのこと。大丈夫だったよ」
「妖精?」
「うん。あたしが雇っている妖精さん。錬金術の調合や材料の採取をしてくれて頼りになる子たちなんだ。
あ! あたしはエリー。エルフィール・トラウム。あなたは?」
人好きのする笑顔を浮かべるエリー。シンジもつられて笑顔を見せる。
「僕は碇シンジです」
「イカリ……珍しい名前だね。アカデミーにいたっけ、聞いたことないなぁ?」
「エリーさん、シンジ君はおとといザールブルグに来たばかりよ。今は食堂で働いてるの。シンジ君のことはちょっとした噂になったんだけど」
「あたし最近工房にこもりっきりだったから」
フラムと依頼の品を作るために工房から一歩も外にでなかったエリーは、シンジのこともここ最近起きた出来事も知らなかった。
「それじゃ知らなくて当たり前ね」
エリーの事情がわかりルイーゼは納得した。
少しだけ雑談し別れる。エリーから工房にいつでも遊びにきてもいいよと誘われた。
その後、探検などで時間を潰したおかげで夕食にちょうどよい時間となった。夕食をとり、早めに風呂に入ったあと、勉強のためイングリドの部屋に向う。
今日の勉強はこれから何をするか話し合い、後半は文字を教えてもらった。明日からは前半に常識知識、歴史、後半に文字というふうになっていく。勉強を終えお茶を飲みながら今日あったことを話す。
「どうでした今日一日すごしてみて、何か大変だったところとかありましたか?」
「えーと……なかったです。食堂の人たちもよくしてくれます。忙しかったけど嫌じゃなかったです。作ったサンドウィッチもおいしいって言ってもらえたし、あれは嬉しかったですね」
「そうですか、よかった。では働くところは食堂で決まりね。何か嫌なことや変わったことがあったらいつでも言ってね。一人では解決できないこともありますから」
話し終わり「おやすみなさい」と挨拶し部屋をでる。
ベッドにもぐり、今日みたいな日が続くのなら安心して過ごしていけると思いつつ目を閉じた。
2007年09月18日
シンジinザールブルグ 4話
第4話 出会い
どこに何があるかわからないシンジは、とりあえず適当に歩いてみることにした。回りを見て歩いているシンジがゆっくりなのは当たり前だが、道を歩く人々もシンジよりやや早いくらいのペース。特に急ぐ用事がない者以外はのんびりと歩いていた。
何を買おうか頭のなかでリストを作っているとき、向かいからコーリングが歩いてきた。その隣には見知らぬ女がいる。
「コーリングさん」
「ん、シンジ君か。何してるんだ?」
「散歩ついでに買い物をしようと思って出てきたんです。生活に必要なものを買い揃える必要がありますから」
「ふむ。そういやお金とか住むとことかどうなったんだ?」
「それは……」
イングリドから聞いたことを短くまとめ話す。女はコーリングを急かすわけでもなく、一緒にシンジの話を聞いていた。
「そうか、アカデミーの寮に入れたのか。暇になったらいつでも保健室にくるといい。いないときもあるけどな」
「はい。それじゃ僕は買い物にいきます」
「もう少し話していてもいいんじゃないか? 時間はたくさんあるだろうに」
「僕はいいんですけど、コーリングさんたちは大丈夫なんですか時間」
「あら、私たちもまだ大丈夫よ。そうよねコーリング」
「まあ大丈夫だろ、保健室には先生がいるし、売店が開いてなくても諦める……か?」
今、売店に来ている客にご愁傷様と心の中で呟く。
「いつもこれくらいに休憩取ってるから皆わかってるんじゃないかしら」
そういいながらも女は、手を頬に当て小首をかしげる。あまり心配していないから大丈夫なのだろう。
「ねえコーリング、立ちっぱなしで話すのもなんだからそこのベンチに座らない? 自己紹介もまだだし」
「そうだな。座ろうかシンジ君」
すいているベンチをみつけ、シンジをまんなかにはさんで座る。ちらついていた雪はやみ、陽射しを遮るものはなく、寒い季節に暖かな光が気持ちいい。
「まずは私からね。私はルイーゼ・ローレンシウム。コーリングの姉。アカデミーの売店の店員をしているの。あまり向いてないようだけどね。
売店は錬金術に関連する道具や本を売っているのよ。ほかにも少しだけど日用品も扱ってるわね。珍しい錬金術の材料や錬金術で作り出した道具の買い取りもやっているの。
私は休憩以外は9時頃から18時頃まで売店にいるから来てくれれば会えるわ。これからよろしくね」
微笑みながら手を差し出す。シンジは差し出された手を軽く握って応える。
「はい、よろしくおねがいします」
「次は俺か?」
「あなたはしなくていいんじゃないの? まだ自己紹介してなかったとか」
「もうしてるよ。ちょっと言ってみただけ」
「じゃあ僕ですね。名前は碇シンジ。昨日ザールブルグに来ました。アカデミーの食堂で手伝いをすることになってます。イングリドさんやほかの教師さんたちのおかげで寮に住めるようになりました」
「シンジ君は何をしにザールブルグに来たの? 聞いてもいいのかしらコーリング」
「俺に聞かれても(本当のこと言ってもいいのか?)」
「えっとですね。ここに来たのは偶然です。知り合いの錬金術の発明、これは長距離を移動するためのものなんですけど、成功したっていうか予想外に動きすぎて空から落ちてくるっていうことになったんです」
「そうだったの」
「イングリドさんにそのことを話したらせっかく来たんだからしばらく滞在していったら? って話になって」
これはもちろん作り話。人に空から落ちてきた理由をきかれたら、こう言うようにイングリドからアドバイスを受けていた。錬金術ならば少しぐらいの非常識は慣れっこだし簡単に納得するだろうとのこと。
一般の人は「エトランジェ」の存在は知らないので、異世界から来たといっても信じられないから分かりやすい理由を作った。本当のことを知っているコーリングは当然信じてはいないがルイーゼはシンジの話を信じた。錬金術ならばありえない話じゃないと思ったんだろう。
「高いところから落ちたんでしょう怪我はない? 見たところ大丈夫そうだけど。それにお家のかたが心配しているんじゃ?」
「大丈夫です。運良くあの道具がクッションになってくれたみたいで、あれはこなごなになっちゃいましたけど。家にはここにしばらくいるって手紙をだしましたから」
「それくらいですんで良かったわ。道具よりも命の方が大切だものね」
シンジの無事を心から祝うかのように微笑む。シンジもつられて少し微笑んだ。作った笑みではなく、こちらに来て初めての自然な笑み。人を引きつける綺麗な笑みだった。
事情を知るコーリングは笑いながらも、シンジが微笑んでいることに内心驚いていた。ルイーゼが何か特別なことをしたのではない。当たり前の反応を当たり前のようにしただけ。怪我人がいたら心配し、無事ならば安心し祝う。以前の世界ではその当たり前のことができない人が多かったのだが。
「そうだ。ルイーゼさん。僕のこと聞かれたらさっき言ったことを相手に伝えてもらえませんか?」
「いいけど、どうして? 個人的なこと話されて嫌じゃない?」
シンジの意図がわからないルイーゼは、キョトンとしたあと聞き返す。
「イングリドさんから僕のことが噂になってるって聞いて、僕は目立つのは好きじゃないんです。理由がわかれば興味はなくなるでしょう?」
「わかったわ。聞かれた答えておくわね」
「ありがとうございます」
「そろそろ行こうかルイ姉ちゃん」
時間が迫ってきたのかコーリングが立ち上がり、ルイーゼを誘う。
「もう時間? もう少し話していたかったけど仕方ないわね……シンジ君またね」
ルイーゼは名残惜しそうに立ち上がる。
「はい」
「シンジ君、買い物だっていってたな。それならお城まで行って真正面の通りに行くといい。その通りは職人通りって言われてて、大抵のものはそこでそろう。じゃ、またな」
「はい。ありがとうございます」
コーリングたちと別れて歩き出す。目的地は教えてもらった職人通り。とりあえずお城に向う。
城は目立つので迷うことはなかった。アカデミーからでも見えていたお城が目の前に見える。白く大きな城は威風堂々と何事にも耐えて見せると建つ。テレビでは見たことるが、実物の城など初めて見るシンジはしばらく見つづけていた。そのシンジに黒いマントで全身を包んだめがねの男が近づいてきて横に立ち、一緒に城をみる。
「どうしたんだい、城になにかついてる?」
「えっと、お城を見たのは初めてでみとれてたんです」
「君は旅人かなにか?」
「ちょっと近いです。昨日この街に引っ越してきました。昨日は慌ただしくて見る暇なかったから」
「どこから来たの?」
「……遠いところからです。遠くてこことは全く違う街から」
帰ることのできない故郷を思い浮かべる。辛い思い出の多いところだけど、二度と帰れないとなると寂しく感じる。
「そっか」
シンジの寂しさ辛さを僅かながら感じ取った男は、一言そう述べるのみ。
「……そうだ!」
男は何かを思いつくと、マントの中でごそごそ何かを探る。目的のものをすぐに見つけたのか手を出す。マントの隙間から白い上下の服が見えた。
「これをあげよう。引越し祝いだよ」
男の手には一枚のカード。シンジは受け取りよく見てみる。
「これはなんですか?」
「これを持っていれば一回だけ城に入ることができるんだ。仮の通行許可証だよ」
「こんなの貰っていいんですか?」
「いいよ。入れるのは謁見の間とそこの通路くらいで、どこにでもいけるわけじゃないし。これを見せて誰にもらったか聞かれたらブレドルフに貰ったっていえばいい」
いたずらをしかける子供の顔で言う。男は「じゃあね」といって城の中に入っていった。
「……お城に住んでるお偉いさんなのかな? 僕も買い物に行こう」
カードをコートのポケットにしまい職人通りに向う。色々ある店から必要なものを探していく。買うときになると必ず軽い世間話になり、引っ越してきたとわかるとオマケをくれたり割引してくれたりした。
帰路につくシンジは両手にけっこうな量の荷物を持っていた。アカデミーに戻ってきたシンジは、売店によってルイーゼに挨拶してから部屋に戻る。荷物を置いてイングリドの部屋に向う。ノックをするとイングリドが出てきた。
「おかえりなさい。さあ部屋に入って」
「……ただいま……」
ミサトのことを思い出し、すぐに振り払い部屋に入る。イングリドはちょうど背を向けていたためシンジの様子はわからなかった。
部屋の中は整理整頓されていた。それでも物は多かった。ひと目で実験器具とわかるようなもの、全く使用方法がわからないものが色々ある。椅子に座るよう勧められ、目の前にお茶を置かれる。
「必要な物はそろった?」
「はい。最低限はあると思います。足りなければそのときに買うって感じです」
「街はどんな感じ? 過ごしやすそう?」
「今日感じたかぎりでは過ごしやすそうです。
この街はどこか暖かいですね。……以前住んでたとこはここよりも便利でした。街の移動手段は充実してたし、欲しい物は何でもそろいました。でもどこか冷たかった。全部が冷たいわけじゃなかったけど、居心地が悪いって感じなのかな。この街は居心地がいいです。
まるで街に、ここにいてもいいよって言われてるみたいって何言ってるんでしょうね僕」
「そう。街で何があったか聞かせてくれる?」
シンジがこの街を気に入ってくれて、嬉しく思うイングリド。
シンジは話す。ローレンシウム姉弟にあったこと。マントの男のこと。店の人たちのこと。イングリドは静かに微笑みながら話を聞く。
「これ貰ったんです。これがあれば一回だけお城に入れるって」
イングリドはシンジが差し出したカードを見て、軽く驚く。
「これは通行許可証……だれに貰ったの?」
「えっと、そう聞かれたら『ブレドルフに貰った』って言えばいいって」
「……国王また街にでたのね。こればっかりはなおらないのかしら」
「え? あの人王様なんですか?」
「そうブレドルフ・シグザール。最近即位したばかりの王様よ。以前よりは街にでる回数が減ったのが救いかしらね」
「……たんなる思い付きですけど、国を上手く治めるために街に出ているのかもしれないです」
とあることを思い出したシンジは、それに基づいた推測をする。
「どういうこと?」
「街にでるということは、それだけ国民の生活を身近に見ることができるから、今国民が何を求めているのかすぐにわかるじゃないですか」
「そういう考え方もあるわね。でもそこまで考えてるのかしら」
「推測というか、以前見た物語でそういう話があったんです」
「どういう話なの?」
「『暴れん坊将軍』っていう話なんですけど。簡単にまとめると、毎回王様が街に出て、事件に巻き込まれて悪人を自らばったばったと退治していく話です」
「そ、そう、国王自ら……。(うちの国王はやってないでしょうね?)」
「まだありますよ。『水戸黄門』は引退した国王に近いお偉いさんが、お供をつれて国中を巡り悪人を退治していくんです。『印籠』っていう王家に連なる証拠を止めとばかりに見せるんです」
「(ヴィント様はそんなことなさらない……はず)」
イングリドの頭の中に笑いながら暴れるブレドルフや、今までのストレス解消とばかりに国中を巡るヴィントが浮かびかける。その想像を振り払い話を続ける。
「ほ、ほかには何かあった?」
「そうですね。職人通りでちょっとした騒ぎがありました。買い物していると、赤い屋根の家から爆発音がして緑や橙とかの服をきた子供がわらわらと出てきたんです。最後に黒く汚れた女の人が出てきたんですけど、危ないところに近寄らないようするって思い出して、そのまま素通りしてきました」
「(エルフィール……実験失敗したのね。近いうちに行ってみるとしましょう)」
イングリドの頭の中に、真っ黒になりながらも笑っているエルフィールが浮かぶ。
近日中の予定にエルフィール訪問を書き加えたあと、イングリドはシンジと話しを続けた。
2007年09月16日
シンジinザールブルグ 3話
第3話 説明
1時間目の講義を休講にしてイングリドは図書館へと来ていた。講義の最中ということもあり朝から図書館へとくる学生はいないようでイングリドの足音だけが静けさのなか響く。奥へと歩いていき目立つところのない壁に触れる。天井から階段が現れるも、驚くことなく当たり前のように上がっていく。
アカデミーの校長ドルニエの秘密の書斎、ここの主人に用事があるようだ。
「ドルニエ校長」
「イングリドか、おはよう。何か用かね?」
本を探していたドルニエは、イングリドに呼ばれ本を探す手を止めて振り返る。
「おはようございます。昨夜アカデミーの敷地内へと現れた来訪者のことで相談が」
「そのことは任せていたはずだが……何か問題でもあったのか」
「シンジ、ああ彼の名前は碇シンジというんですが。彼は『エトランジェ』です」
「それは本当かね?」
時間を積み重ね深みのある表情に驚きを表して聞き返す。
「はい。彼と話してわかったことです。校長はネルフやシト、ダイサンシントウキョウといった単語に聞き覚えは? 私にはありませんでした」
「ふむ……私にもないな。だがそれだけでは断定はできないと思うが」
「他にもシンジから聞いた世界規模の事件がこちらでは全く噂にもなっていない点やシンジにこちらの知識が無い点から判断しました」
「そうか。それが全て偽り、彼の作り話だという可能性は?」
一つの組織の頂点に立つものとして慎重になるドルニエ。ここの知識や道具は、使いようにっては戦争にとても役立つものばかりだ。それを求めて入り込んできた調査員なのかもしれないと考えていた。
「それはありえません。彼の傷の深さは……演じきれるようなものではありませんから」
「……酷いのか」
「身体はなんともないようですけど、心のほうが」
「子供とも言っていいような少年だと聞いた。子供は、未来への希望に満ち溢れて無限の可能性を秘めている大事な宝物だ。私たちでその輝きを取り戻すことができればいいのだが」
「私も助けを求めてきたときは全力で答えるつもりでいます。下手に触れられたくないところまで踏み込んで傷を広げるようなことがあってはいけませんから、必要以上の手助けはできませんが」
「私も他の者もそうしたほうがいいのだろうな」
このあとはシンジの住む部屋などについて話し合われた。部屋は教職員の空き部屋を用意することになった。
シンジが再び眠りついて約3時間ほど過ぎた。
講義は午前中で終わる。9時〜12時まで途中10分の休憩をはさむ2講義。講義についていけない人のために、ときどき補習が行われるもののそれも15時まで。
今日の講義が終わり食堂へ向うもの、自宅へ帰るもの各々の予定をこなそうと動き出した生徒たちのざわめきが保健室まで入ってくる。その音に呼ばれるようにシンジは目を覚ました。シーツの衣擦れの音が聞こえたか保険医? が近づいてくる。
「よう、起きたな」
「おはようございます……あれ? 僕一回起きたような気が……」
そこまで言って寝る前のことが頭に浮かんだようで顔が赤く染まる。イングリドを探しているのかキョロキョロと室内を見回す。
「ん? イングリド先生を探しているのか?」
「はい。お礼を言いたくて」
「先生なら君が寝たのを確認したあと講義をしに行ったよ。講義が終わった後にまた様子を見に来るって言ってたからもうすぐ会えるはずさ」
「ありがとうございます、えっと……名前聞いてましたっけ?」
「そういや言ってなかったな。俺はコーリング。ここの教師補佐。医療を少しかじったから保険医の助手もやっている」
「さっきと口調が違うような」
「ああ、シンジ君がどんな状態かわからなかったから、余計な刺激を与えないようにわざとああいった話し方をしていたんだ」
「余計な刺激ってハリセンで叩かれたんですけど?」
「あははは、気にしない気にしない」
コーリングの外見はくすんだ金の短髪に藍色の目、180cmで、ある程度鍛えられている。容貌は可も無く不可も無くといった感じ。年は20代前半、裾の短めの白衣の背に楽観主義と書かれた文字が特徴的と言えるかもしれない。
コンコンと小さめなノックがされ、そっと扉を開けてイングリドが入ってきた。
「コーリング、シンジの様子は……って起きていますね」
「ちょうど起きたところですよ」
「イングリドさん。さっきはありがとうございました。眠る前より何かが少し軽くなった気がします」
暗い雰囲気が全てなくなったわけじゃないが、たしかに少し薄らいだ感じがする。
「(少し……ね)お礼なんていいわ。それよりもお腹すいてない? 食堂に行ってお昼にしようと思うのだけれど。そのあとにこれからのことを話し合うつもりよ」
「あ、はい。行きます」
「コーリングはどうします。一緒に行きますか?」
「俺はいいです。ルイ姉ちゃんと一緒に食べる約束してますから」
「そう? それでは行きましょうかシンジ」
「はい」
ベッドから出て靴をはき立ち上がろうとする。
「大丈夫? 一人で歩くのが辛いなら手伝いますよ」
「大丈夫です。本当に怪我一つしてませんし体調も普段どおりですから。このとおり」
その場で軽く飛んだりして体を動かす。その様子をみて安心した表情になるイングリド。
「それじゃコーリングさん失礼します」
「ちょっと待った。その格好じゃ寒いだろうからこれを着ていくといい」
近くのクローゼットからクリーム色のコートを出して渡す。ここはストーブがあって暖かいが窓の外には雪がちらついている。たしかにシンジの格好では寒いだろう。シンジの格好はプラグスーツではなく学生服の上下夏服仕様。
「いいんですか? これコーリングさんのじゃ」
「予備のコートだからかまわないさ。返すのはいつでもいい。それと何か困ったことがあったら相談にのるぞ。用事がなくてもたまには話し相手になってくれ」
「そのときは、よろしくお願いします」
ぺこりとお辞儀をして扉を閉める。イングリドに先導され食堂に向う。シンジの体調を考えているのか、または周囲を見物できる余裕をもたせているのか、ゆっくりと歩いていく。シンジが見て関心を示していると思ったものは、一つ一つどんなものなのか説明してくれた。
やがてシンジは、なぜか注目を集めていることに気付く。
「イングリドさん?」
「何かしら? 説明で分かりづらいところでもあった?」
「違うんです。なぜか皆、僕たちを見てる気がして、それでなんでだろうって思って」
「ああ、そのこと。それはシンジあなたが空から降ってきた人だって皆が噂しているからよ。保健室に運ばれるときに見物人がたくさん集まっていたから、あなたの顔を見た人もいるでしょうし」
「空から降ってきただけで噂になるんですか?」
確かにシンジがいた世界でも、きゅうに空から降ってくる人はそうはいない。準備さえ整えられれば可能だが。しかしだからこそ、現状のように道行く人の注目を集めるほど珍しいことでもない。
「シンジにとっては違うかもしれないけど、私たちにとって空は未知の領域なのよ。錬金術で空を飛ぶ道具を作ることはできるらしい、それでも多くの人にとっては空とは見上げるもの、届かぬ場所。その未知の領域からきた人はどんな人なのか? 興味があるんでしょう。
シンジは住んでいた世界が違うってだけで、ほかは私たちと何も変わらないんだから気にする必要もないわ」
「……はい、気にしないことにします」
「ええ、それがいいわね」
食堂に着く。ちょうどお昼時ということもあり人が多くにぎわっている。
あいている席をみつけシンジを座らせると、イングリドは料理をとりにいく。周囲の人たちにちらちらと視線を向けられシンジは居心地が悪そうにしている。イングリドがってきてからは気にならない程度には減った。
両手で持たれたトレイには二枚の深皿とコップ、小さなバスケットが乗っている。深皿にはおいしそうな匂いのシチュー、バス
ケットにはカットされたパンが入っていた。シンジは目の前に出されたそれをじっと見る。
「シチューとパンだ……」
「シチューは嫌いだった?」
「嫌いじゃないです。ただこの世界にもシチューがあるんだなあって」
「?」
イングリドはシンジの言いたいことがいまいちわからないのか、不思議そうな顔をしている。
「えっと、ここが異世界だって聞いて身構えてたところがあったんですけど、知ってるものが出てきて構えが取れたんです。知らないものが多そうだけど、知ってるものもあるんだって思えて安心したっていうのかな」
「不安がなくなったのならいいことね。さあ冷めないうちに食べましょう」
「はい、いただきます」
シンジが今まで食べたもので上位にはいる美味しさだった。料理人の腕がいいということもあるし、材料もいいのだろう。少しも残さずペロリと平らげた。
「ごちそうさまでした。おいしかったです」
「口にあってよかったわ。食器を返してくるからちょっと待ってて」
再びイングリドにつれられ移動していく。たくさんの部屋のある場所に案内され、七階まで上がり、とある一室で止まる。他の部屋の扉には文字の刻まれたプレートが貼り付けられていたがここには貼られていない。
イングリドが扉を開け入る。中はベッドやクローゼットなど生活に最低限必要なものがそろっている。掃除はされているものの生活感はなく、使われていなかったことがわかる。
生活感のなさがレイの部屋を思い出させ、少し気分が沈む。
二部屋にわかれており寝室とシンジにはわからないが研究室となっている。窓からはザールブルグの街並みを一望できる。
「ここがあなたの部屋です」
「え? 今日からここで暮らすんですか?」
「そうですよ」
「どうして見ず知らずの僕なんかをおいてくれるんですか」
俯き暗い声で聞く。
「すでに話したとおり、こちらにも利益があるからです。それに放り出すのも後味が悪いしね」
「僕にはもったいないくらい」
それはこの部屋のことなのか、待遇のことなのかイングリドには判断つかなかった。だからイングリドは部屋のこととして話を続ける。
「そんなことは気にしなくていいのよ。空いてる部屋がここしかなかったってだけだから。三つ隣に私の部屋がありますから、困ったことがあったら気兼ねなくいらっしゃい」
椅子に座る。イングリドは懐から小さな袋を取り出し机に置く。袋からは金属がこすれる音がした。
「今日からあなたはここで暮らしていくのですが、そのことにあたっていくつか伝えることがあります。これは私たち学院関係者が勝手に話し合って決めたことですから何か不満があったら遠慮なく言っていいのよ」
「ここまでやってもらって不満なんか」
「とりあえず聞いてちょうだい……」
内容は、
1、生活のリズムは学生に合わせること。これは食堂や大浴場の使用が学生の生活に合わせて運用されているため。
2、講義があっている間は学院の雑用を手伝うこと。これは働かざるもの喰うべからず(というわけではなく、動いていれば気がまぎれる、何もしていない居候といった遠慮を少しでもなくせるように、給料といってこれからの生活費を渡すことができるといった理由から)
3、夜8時〜10時の間にイングリドからこの世界の知識を教えてもらうこと。
この他には食堂、大浴場の利用時間、施設の場所、寮の門限などなど。( )の中は話していない裏事情。
「といったところね。何か変更したい点はあった?」
「えっと……ありません」
「そう。雑用のことなんだけどシンジなにか得意なことある? あるのならそれに関係したことをやってもらおうと思っているの」
少し考える。浮かんだのは家事をこなしている自分の姿だった。楽しかったころのことを思い出し少し顔が綻ぶも、すぐに消える。
「家事なら人並み以上にできると思います」
「家事ね……洗濯は各自でやるし掃除は人が足りてる……食堂を手伝ってもらうことにしましょう。9時〜14時まで手伝うことになると思うけどそれでいいかしら?」
「はい、わかりました」
「それでは明日からということで、勉強も明日からにしましょう。
今日は身の回りの品物をそろえに街に出てもらいます。この袋には生活費と必要資金の大銀貨20枚が入っています。銀貨100枚で大銀貨1枚。宿屋暮らしならば一ヶ月、銀貨1500枚ほどで暮らすことができます。今日持っていくのは大銀貨6枚、それだけあれば充分だと思うわ」
ドルニエと話し合ったときに決めた資金は銀貨1500枚だったが、不安がったイングリドのポケットマネーから銀貨500枚追加されている。
こちらに来たばかりのシンジを外に出すことにイングリドは不安があった。もう少し落ち着いてからでもいいのではと思ったが、このゆったりとした街の雰囲気を感じてもらえば、心も少しは癒されるのではとドルニエに説得された。
「買い物しながら散歩して街に慣れるといいでしょう」
「何かやっちゃいけないこととかありますか?」
「盗みや人を傷つけたりすることは当たり前ですがダメです。それ以外となると特に注意点は……そうですね危険と思われるところには近づかないこと、街の外にはでないことぐらいかしら。誰か一緒にいってもらったほうがいいのかも」
「一人で大丈夫ですよ。方向音痴というわけじゃないし、危ないところには近寄りませんから」
「それならいいのだけど。暗くなる前に戻って帰ってきてね。それから帰ってきたら一声かけて、たぶん部屋にいると思うから」
「はい」
イングリドにアカデミー入り口まで見送られてシンジは街に出かけていった。
2007年09月15日
シンジinザールブルグ 2話
第2話 目覚め
女は部屋に入ってきてシンジのそばに立つ。立ち振る舞いは堂々としており、自らに確かな自信をもっているとわかる。今その端正な顔立ちは。シンジを気遣うような表情となっている。
シンジはその表情を見て、ユイとは似ていないが母親はこんな表情をするのかなとわずかに思う。
「もう起きていて大丈夫? 辛いのなら寝たままでもいいのよ」
「……いえ大丈夫です。どこも怪我とかしてないですから」
「そうなの? 随分と丈夫な身体なのね」
昨日見た光景を思い出しながら感心する。事情を知らない人からみれば、怪我していて当たり前の状況だったのだから。
シンジは丈夫という自らに似合わない言葉に首をかしげている。
女は近くにあった椅子に座り話を続ける。
「色々聞きたいことはあるけれど、まずは自己紹介からでしょうね。わたしはイングリド。ここ王立アカデミーで教師をしています」
「僕は碇シンジ14才です」
「碇? あまり聞かない名前ね。どうしてここにいるかわかるかしら?」
「……すみません、わかりません。寝るか気絶かわからないけど意識を失う前は別のところにいたのは覚えてるんですけど」
意識を失う前のことを思い出して、視線が下がる。
そんなシンジを見てイングリドは、うかつに触れてはいけない雰囲気を感じとる。
「……あなたはアカデミーの敷地内で倒れていました。まるで空から落ちてきたみたいに小さなクレーターを作って。空から落ちてくるような覚えは?」
「……ある……のかな。でも……それなら僕だけで落ちてくるわけないし。ほかに何か大きなものは落ちてきませんでしたか?」
「あなただけよ。どこか他のところに落ちたとしても大きなものが落ちたのならすぐ噂くらいたつはず。でもそんな噂は聞いていません」
「そう…ですか」
「質問をかえましょうか。あなたはどこから来たのかしら? 名前も服装もここらではあまり見ないからこの国の出身ではなさそうね」
「日本の第3新東京です」
「ニホン? ダイサンシントウキョウ?」
イングリドはシンジの言葉を聞いて目を細める。
「えっとここってヨーロッパですか? だとしたらドイツにあるNERVに問い合わせてくれたら僕のことたぶんわかると思いますけど」
相手の姿や部屋の雰囲気から、なんとなくヨーロッパに近いところだと判断したシンジ。しかしどことなく違和感も感じていた。その違和感を解消させようとするほど、気持ちに余裕がないため、ヨーロッパに近い場所というところで思考は止まっていた。
「ヨーロッパ? ここはシグザール王国のザールブルグっていう城下町なんだけど。ネルフっていうのは何かの組織かしら? ここら辺では聞いたことないわ」
二人は徐々にお互いの話がどこかおかしいと気付き始めた。シンジは世界各国にNERV支部があることくらい知っていたし、良い悪いどちらにしろ評判になっていて多くの人たちがNERVの名を知っているとも思っていた。イングリッドにしても王立と名のつく学院の教師、保有する知識、入ってくる情報量はかなりなもの。その中に一つもわからない単語が並べば疑うのも道理。
そんななかイングリッドの脳裏に一つの推測が浮かぶ。それを表に出さずに続ける。
「あなたの住んでいた国の特徴を教えてもらえないかしら? 私が国の名前を知らなかっただけかもしれないし、特徴に該当する国がわかるかもしれません」
「あ、はい。えっと……僕が住んでた国は島国で昔は四季があったそうだけど、今は年中夏です。僕が住んでいた第3新東京というところにさっき言ったNERV本部があります。ここ数ヶ月の間に使徒っていう怪物が何度も攻めて来るっていう大きな事件がありました」
シンジは、自分のことには触れずに自国の特徴や最近起こった事件などを喋っていった。話す間、意識的に数ヶ月の出来事を思い出すことを避けていた。
イングリドは静かに聞き、自らの持つ知識と照らし合わせ、先ほどの推測を確信へと変えていった。
「もういいですよ。ありがとう。おかげで確信が持てました」
「確信ですか?」
「ええ。ここはあなたが住んでいた国ではありません。ここまではいいですね?」
「はい。それはなんとなくわかります」
「それではここはどこか?……信じられないかもしれませんがここはあなたが住んでいた世界ではありません。
珍しいことではありますがあなたは世界を越えて来たようです」
「は?」
いきなり語られた事実にシンジは驚き固まる。この瞬間だけは、常時は発していた陰鬱な雰囲気がなくなった。
普通の人は「あなたは世界を越えました」と言われて「そうですか」とすぐに納得できるわけがない。シンジも珍しい体験をしてきてるとはいえ常識人の範疇にいる、戸惑うのも当たり前のことだった。
「信じられないかもしれません。ですが話を聞いて私のもつ知識、情報と照らし合わせて判断した結果、この答えがでたのです。過去に何度か前例があることが確信の源ですね。私たちは、あなたのように世界を越えて来た者を『エトランジェ』と呼んでいます。
それとあなたが語った大きな事件。それは規模から言うと、情報を規制してもなんらかの形で世界中に知れ渡るほどのようですが、そんな情報はなにも入ってきていません。国王も知らないでしょうね」
「そんな! 確かに使徒のことは隠していたみたいだけど。でも何も知らないなんて……」
一国のトップと言うなら世界中の情勢に気を配るだろうし、それならばNERVや使徒のことを知らないというのは絶対におかしい。それくらいシンジにもわかる。
「そうですね、今度はこの国の特徴を話しましょう。あなたの判断の手助けになると思いますよ」
「…お願いします」
「ここはシグザール王国の王都ザールブルグ。シグザールのなかでは1番錬金術が盛んな場所で、このアカデミーには国中から錬金術を習いたい者達が集まってきます。
街のまわりは騎士団のおかげで比較的安全ですが、少し離れると盗賊や魔物が生息しています。
はるか西、海を越えたところにエル・バドール大陸があり、錬金術の総本山学術都市ケントニスがあります……」
聞けば聞くほど、シンジが知っている自分の世界とは違うとわかる。大陸の名前を覚えてなくてもエル・バドールなんて名前の大陸はなかったとわかる。騎士団、盗賊はいたかもしれないけど、流石に魔物が日常的にでるなんて覚えはない。極めつけは、
「錬金術でしたっけ? 確か金を作ることを目的としたっていう」
「それを最終的な目的としている人もいます。だけどそれ以外に自ら目標をたて日夜研究努力している人たちもいるわ」
「有名…なんですか?」
「この国ではポピュラーな分野でしょう。世界でみると知らない人もいると思います。けれど何らかの恩恵は受けているでしょうね」
「どういうことをやっているんですか?」
「すべてのものは元素の組み合わせでできているらしいわ。錬金術はその元素を好きなように組み合わせて新たなものを生み出す技術。簡単に言うと、いくつかの材料を加工し組み合わせまったく新しいものを作るの。
例えばこれも錬金術で作ったものです」
ふところから取り出してみせる。イングリドの手の平には一つ指輪が転がっている。それを指にはめる。するとイングリドの姿が一瞬にして消える。
「これはルフトリングと呼ばれるもの。効力は姿を消せるというものです。これは錬金術を5年ほど学び、資料さえあれば誰でも……」
このときイングリドの頭のなかに一人の金髪すっとこどっこい娘が浮かんだらしい。
「…いえ、ほとんどの者たちが作ることができるものです」
喋りながらリングを外す。リングをつまんだ格好のイングリドが目の前に現れる。当たり前のことだがシンジにはなぜ言い直したのかはわからない。まあそんな余裕もないか。人が目の前で急に消えたり現れたりして呆然としていたのだから。
「ええっとここが僕がいたところとは違うってことは理解しました。心はまだ納得してませんけど。
でも僕がいたところじゃ錬金術は名前だけで誰かが取り組んでるって聞いたことありませんでしたし、指輪一つで姿を消すなんて技術もなかったから」
「今すぐ信じろというつもりはありません。ゆっくり時間をかけて納得していくしかないでしょうね」
「もとの世界に戻ることってできるんですか?」
「残念ながら。自ら帰還の手段をもっていた人はいますが、それ以外の人たちはこの世界で暮らしていきました。文献によると今まで帰ることができたのは一人。百年ほど前に来たゼルレッチという人です。この世界に来たのは事故と語っていたようですね」
「そう…ですか。じゃあ僕もこれからこの世界で生きていくんだ」
少しだけ、ほんの少しだけシンジは、見知らぬ世界で生きていくことに安心を覚えた。あっちは辛いことが多すぎたから。
「そのことですが、しばらくここで暮らさない? 行く当てはないからあなたにとってもいい話だと思うけど」
「……申し出はありがたいんですけど、僕なんかがここにいて迷惑なんじゃ?」
「これから困るってわかっているのに追い出せるわけないでしょう。こうやって私たちと出会ったのも何かの縁、ここで暮らしながらこの世界の知識を身につけていくといいわ」
「……ありがとうございます」
自然と頭を下げる。本当に感謝したときは自然とこういった行動がでるんだなぁと心に浮かぶ。
「それにこの話はもちらにもメリットがあることだから迷惑なんかじゃないのよ」
「メリットですか?」
「ええ。錬金術は有から別の有を作り出す技術。そこへ新しい知識、技術、思想が加われば以前とは違うものができるかもしれない。
ではその『新しいもの』はどこから手に入れるか? そこで出てくるのがあなたたち『エトランジェ』なの。過去、あなたたちのおかげで錬金術は思考の袋小路を抜けたことだってあるのよ」
「僕は自分が役立つものをもってるとは思えません」
今までことを思い出してうつむく。思い出されるのは友を傷つけたときのこと、殺したときのこと、憧れた少女に行ったこと、拒絶してしまった少女のこと。ネガティブな思考は更にネガティブな思考を呼び深みにはまる。
目覚めたときからあったどこか危うげな雰囲気がここにきて暴走しようとしていた。
「……私にはあなたがいた世界で何があったのかわかりません。なぜそこまで自分を卑下するのかも。良くないこと辛いことがあったとしか推測するしかない。
しかしここはあなたがいた世界ではないのです。自分以外に自分を知るものはなく、これから接していき人となりを知っていくしかありません。
もう一度、始めからやり直すチャンスを得たとは考えられない? 以前の想いを引きずって決して幸せとはいえないだろう人生を送るつもりですか?」
「ぼ、僕には幸せになる資格なんか……」
「幸せになるのに資格なんかありませんよ。誰にだって幸せになることはできます。ただ道を誤ってそのチャンスを不意にしてしまう人もいるのだけど。
あなたもそんな人と同じ道を歩むつもりなの? あなたにだってあなたの幸せを望む人はいるでしょう。あなた自身が知らなくてもきっといます。そんな人の想いも無駄にするつもり?」
「僕は……」
シンジの肩が震えだし瞳から涙が溢れる。イングリドが抱き寄せると大声で泣き始めた。
そして泣き疲れて眠る。眠る前に一言「幸せになってもいいのかな」と呟き。
「何があったんでしょうね?」
「わからないわね。でも並大抵のことじゃないでしょうね」
「14才でしたよね? 俺がこれくらいのときは何も考えずに幸せを当たり前のものとして受け止めてましたよ」
「私たちはこの子の傷を癒してあげられるかしら?」
「イングリド先生なら大丈夫じゃないですか? 先生の言葉を受けて考えが少し上向きになったみたいだし。抱き合う様子は横から見てて親子みたいでしたよ」
「確かにこれくらいの子がいてもおかしくはないけれど」
「まあそれくらい真摯にシンジ君のこと考えてあげられてるってことじゃないですかね」
イングリドはシンジのあどけない寝顔を見て髪を撫でる。表情は親が子をみるものに近い。
「眠るときだけじゃなく普段もこういった表情で過ごせるようになってほしいわね」
「俺たちの努力次第、シンジ君の努力次第ですね。ネガティブになろうとしても今回みたいに引き上げる人が回りにいればなるようになるでしょ」
男の言葉にそうねと呟きイングリドは、シンジを見守っていた。まるで悪夢から守ろうとするかのように。
シンジinザールブルグ 1話
*これは以前書いたものをちょっと書き直したものです。
エヴァとエリーのアトリエとのクロスで、設定はアトリエに準拠しています。
といっても越智善彦版アトリエです。それと「南からの留学生」も入るかもしれません。
書くペースはすごく遅いです。
あと最強シンジ、ハーレムではありませんので、それらを求める人には面白くないかもです。
「…行ってしまったね」
「…ええ」
空中に浮かぶ一組の男女。虚空を見つめ寂しさを漂わせ呟く。
「なんとか『力』だけでも贈れてよかったよ。人並み以上の身体能力とATフィールドの操作くらいだけどね。シンジ君が気付かなかったら宝の持ち腐れで終わるかもしれないね。まあシンジ君を追っていったヒトが教えるかな。本当なら君もついていきたかったんじゃないのかい?」
「もちろんよ。でも気付いた頃には間に合わなかったわ」
「しかし予想外だったよ。サードインパクトの影響で空間に穴が開くなんて驚愕に値するよ。驚いたってことさ」
「サードインパクトに空間に穴をあけるエネルギーなんてなかったわ。別の原因があるはず」
「調べてみるかい?」
「いいえ」
「そうだね。どんな原因があろうとこんな世界に一人でいるよりはいいか。それにそんな時間もないし」
「ええ」
二人が見回す世界は死の世界。全ての生物がLCLと変化し一つになった世界。唯一の「個」となるはずだった者は空間の迷い子となった。
二人はエヴァ弐号機パイロット、惣流・アスカ・ラングレーが浜辺に横たわっていることを知っていた。だがその不安定さにも気づいていた。長くはもたないだろうと。
「たどり着いた世界で幸せになってほしいね」
「そうね。だけどそれは碇君しだい。その手助けとなる贈り物はしたわ」
「それなら知識も贈ったほうがよかったんじゃないかい?」
「滅びの道を辿った世界の知識なんてないほうがいい。それに耄碌用無し爺さんたちの計画も知ってしまうから。知らないほうがいい真実もある」
「確かにゼーレの考えなんか知らないほうがいいか。ないとは思うけど万が一ゼーレの思想に感化されたりしたら大変だからね。
それはそうとシンジ君無事に異世界にいけるかな? 次元のハザマに閉じ込められなければいいけど」
「大丈夫よ。碇君運はいいもの」
「そうだったね。奇跡を起こさなきゃ生き残れない作戦をいくつもこなしてきたんだっけ」
話しつづけている二人の身体が徐々に薄くなっていく。もとから半透明だった体は、今では薄くなりすぎて、そこにいると言われないと気づかないほど。
「そろそろ時間のようだね。体を維持できない」
「……」
「できるだけ早く目覚めたいものだね。そうすればシンジ君とまた会える」
「だいだいどれくらいで目覚めるか予想できる?」
「早くて数年。遅くて万単位」
「そう。おやすみ、タブリス」
「おやすみ、リリス」
眠りの挨拶を交わし二人は消えた。
ただ一人残っていたアスカも一言呟いてLCLとなった。
これでこの世界に動くものはいなくなった。風さえ吹かぬ世界は、たった今ただ存在するだけの、何の変化も起こさない世界となった。
シンジINザールブルグ
一話 世界移動
季節は冬。時刻は夜。早々と太陽が沈み冷たい風が街を吹き抜ける。
城についで大きな建物の上空で空間に変化が起きている。しかし誰も気付く者などいない。真っ暗な夜空に派手な変化が起きているわけでもないし、冷たい風に追われ背を丸め足早に家路につく者がほとんどなので無理もない。
誰にも気付かれずに変化は進む。脆い割れ物かのように空間にひびが入っていきポロポロと欠片が落ちていく、という滅多に見ることのできない光景が繰り広げられ、ある程度の大きさに穴があくとそこからシンジが出てきた。意識はなく自らの状況に気付かぬまま落下していく。シンジが出た後の空間は、役割は果たしたとばかりにさっさと閉じていった。
さてシンジが置かれている状況だが、現れた場所は上空数十メートル。建物に換算して約十階以上。
ここで問題です十階から落ちた場合、人はどうなるでしょう?
答え:重傷orそれ以上。
答えどおりの結果となろうとした瞬間、シンジと地面の間に赤い盾が現れてシンジを守る。知らぬ間に展開されたATフィールドは役目を終えるとすぐに消えた。シンジの無意識自己防衛本能が働いたおかげか無傷で地面に横たわる。
しかしこのATフィールド消したのは地面衝突の衝撃のみ、衝突音は消してはくれなかった。その結果けっして小さいとは言えない音が付近に響いた。音の発生原因はシンジが地面に衝突したことではなくATフィールドが地面をえぐりとった音だったりする。
音に驚いた人たちが集まってくる。音の原因である小さなクレーターを覗く人たち。その中にオッドアイと水色の髪を持つ女がいた。
太陽が登る前。暗い部屋の中、並べられたベッドの一つでシンジは眠っている。部屋には薬品や医療器具がおかれており保健室といった感じ。シンジのそばには薬品の入ったビンが置かれていて誰かが治療してくれたのだとわかる。
山頂あたりが白み始めた頃、今までの習慣のおかげかシンジは目を覚ました。だがまだ眠いのか寝ぼけた様子で回りを見回している。
「ここどこ? えっと寝る前は〜……!?」
寝ぼけたシンジの脳裏に戦自や量産型エヴァやエヴァ弐号機などのことが浮かび眠気が吹き飛ぶ。思わず手で顔を覆ったときロンギヌスコピーで貫かれた傷が目に入った。この傷がいままでのことが夢ではないと示していた。
「…アスカ…綾波…」
シンジがここにはいない少女たちのことを考えていると人が入って来た。いや戻って来たというほうが正しいか。寒くないように厚手のローブを着込んだ男はシンジに気付くと近寄ってくる。
「目が覚めたのかい? どこか痛いところは? 気分はどうだい?」
「……」
シンジは男に気付かない。男はめげずにもう一回聞いてみる。反応なし。男はどうするか考えすぐに思いつく。聞いてないシンジに先に謝りどこからか取り出したハリセンで頭を叩く。スパーンといい音が部屋に響いた。思考が驚きとともに無理矢理引き戻される。
「%♪&¥#!?」
「気付いたかい? ごめんよ、君が気付いてくれなくてさちょっと叩いてみた」
「えっとすみません。考え事していて」
「いやいいよ。それよりこれから聞くことに答えてくれるかな?」
「はい。答えることができることなら」
「大丈夫。ただ体調に関して聞くだけだから。どこか痛いところはないかい?」
「いえ、どこも痛くないです」
「ふむ。気分が悪いとかは?」
「よくはないですけど、これは精神的なものだから」
「自分でどこかおかしいなぁって思うところは?」
「…特にはないです」
「そうか。質問はこれで終わり。とりあえず今はベッドで寝ててくれるかい? あとで別の人が話を聞きにくるから。用事があるなら僕を呼んでくれればいいよ。そこの机で書類片付けてるから」
「はい」
シンジは再びアスカとレイのことを考え始め、沈み込む。
ニ時間後、保険医っぽい人が持ってきてくれた朝食を食べ終えたすぐあとに、シンジに客がきた。シンジは知らないが、ここで治療を受けられるように指示したオッドアイの女だった。
エヴァとエリーのアトリエとのクロスで、設定はアトリエに準拠しています。
といっても越智善彦版アトリエです。それと「南からの留学生」も入るかもしれません。
書くペースはすごく遅いです。
あと最強シンジ、ハーレムではありませんので、それらを求める人には面白くないかもです。
「…行ってしまったね」
「…ええ」
空中に浮かぶ一組の男女。虚空を見つめ寂しさを漂わせ呟く。
「なんとか『力』だけでも贈れてよかったよ。人並み以上の身体能力とATフィールドの操作くらいだけどね。シンジ君が気付かなかったら宝の持ち腐れで終わるかもしれないね。まあシンジ君を追っていったヒトが教えるかな。本当なら君もついていきたかったんじゃないのかい?」
「もちろんよ。でも気付いた頃には間に合わなかったわ」
「しかし予想外だったよ。サードインパクトの影響で空間に穴が開くなんて驚愕に値するよ。驚いたってことさ」
「サードインパクトに空間に穴をあけるエネルギーなんてなかったわ。別の原因があるはず」
「調べてみるかい?」
「いいえ」
「そうだね。どんな原因があろうとこんな世界に一人でいるよりはいいか。それにそんな時間もないし」
「ええ」
二人が見回す世界は死の世界。全ての生物がLCLと変化し一つになった世界。唯一の「個」となるはずだった者は空間の迷い子となった。
二人はエヴァ弐号機パイロット、惣流・アスカ・ラングレーが浜辺に横たわっていることを知っていた。だがその不安定さにも気づいていた。長くはもたないだろうと。
「たどり着いた世界で幸せになってほしいね」
「そうね。だけどそれは碇君しだい。その手助けとなる贈り物はしたわ」
「それなら知識も贈ったほうがよかったんじゃないかい?」
「滅びの道を辿った世界の知識なんてないほうがいい。それに耄碌用無し爺さんたちの計画も知ってしまうから。知らないほうがいい真実もある」
「確かにゼーレの考えなんか知らないほうがいいか。ないとは思うけど万が一ゼーレの思想に感化されたりしたら大変だからね。
それはそうとシンジ君無事に異世界にいけるかな? 次元のハザマに閉じ込められなければいいけど」
「大丈夫よ。碇君運はいいもの」
「そうだったね。奇跡を起こさなきゃ生き残れない作戦をいくつもこなしてきたんだっけ」
話しつづけている二人の身体が徐々に薄くなっていく。もとから半透明だった体は、今では薄くなりすぎて、そこにいると言われないと気づかないほど。
「そろそろ時間のようだね。体を維持できない」
「……」
「できるだけ早く目覚めたいものだね。そうすればシンジ君とまた会える」
「だいだいどれくらいで目覚めるか予想できる?」
「早くて数年。遅くて万単位」
「そう。おやすみ、タブリス」
「おやすみ、リリス」
眠りの挨拶を交わし二人は消えた。
ただ一人残っていたアスカも一言呟いてLCLとなった。
これでこの世界に動くものはいなくなった。風さえ吹かぬ世界は、たった今ただ存在するだけの、何の変化も起こさない世界となった。
シンジINザールブルグ
一話 世界移動
季節は冬。時刻は夜。早々と太陽が沈み冷たい風が街を吹き抜ける。
城についで大きな建物の上空で空間に変化が起きている。しかし誰も気付く者などいない。真っ暗な夜空に派手な変化が起きているわけでもないし、冷たい風に追われ背を丸め足早に家路につく者がほとんどなので無理もない。
誰にも気付かれずに変化は進む。脆い割れ物かのように空間にひびが入っていきポロポロと欠片が落ちていく、という滅多に見ることのできない光景が繰り広げられ、ある程度の大きさに穴があくとそこからシンジが出てきた。意識はなく自らの状況に気付かぬまま落下していく。シンジが出た後の空間は、役割は果たしたとばかりにさっさと閉じていった。
さてシンジが置かれている状況だが、現れた場所は上空数十メートル。建物に換算して約十階以上。
ここで問題です十階から落ちた場合、人はどうなるでしょう?
答え:重傷orそれ以上。
答えどおりの結果となろうとした瞬間、シンジと地面の間に赤い盾が現れてシンジを守る。知らぬ間に展開されたATフィールドは役目を終えるとすぐに消えた。シンジの無意識自己防衛本能が働いたおかげか無傷で地面に横たわる。
しかしこのATフィールド消したのは地面衝突の衝撃のみ、衝突音は消してはくれなかった。その結果けっして小さいとは言えない音が付近に響いた。音の発生原因はシンジが地面に衝突したことではなくATフィールドが地面をえぐりとった音だったりする。
音に驚いた人たちが集まってくる。音の原因である小さなクレーターを覗く人たち。その中にオッドアイと水色の髪を持つ女がいた。
太陽が登る前。暗い部屋の中、並べられたベッドの一つでシンジは眠っている。部屋には薬品や医療器具がおかれており保健室といった感じ。シンジのそばには薬品の入ったビンが置かれていて誰かが治療してくれたのだとわかる。
山頂あたりが白み始めた頃、今までの習慣のおかげかシンジは目を覚ました。だがまだ眠いのか寝ぼけた様子で回りを見回している。
「ここどこ? えっと寝る前は〜……!?」
寝ぼけたシンジの脳裏に戦自や量産型エヴァやエヴァ弐号機などのことが浮かび眠気が吹き飛ぶ。思わず手で顔を覆ったときロンギヌスコピーで貫かれた傷が目に入った。この傷がいままでのことが夢ではないと示していた。
「…アスカ…綾波…」
シンジがここにはいない少女たちのことを考えていると人が入って来た。いや戻って来たというほうが正しいか。寒くないように厚手のローブを着込んだ男はシンジに気付くと近寄ってくる。
「目が覚めたのかい? どこか痛いところは? 気分はどうだい?」
「……」
シンジは男に気付かない。男はめげずにもう一回聞いてみる。反応なし。男はどうするか考えすぐに思いつく。聞いてないシンジに先に謝りどこからか取り出したハリセンで頭を叩く。スパーンといい音が部屋に響いた。思考が驚きとともに無理矢理引き戻される。
「%♪&¥#!?」
「気付いたかい? ごめんよ、君が気付いてくれなくてさちょっと叩いてみた」
「えっとすみません。考え事していて」
「いやいいよ。それよりこれから聞くことに答えてくれるかな?」
「はい。答えることができることなら」
「大丈夫。ただ体調に関して聞くだけだから。どこか痛いところはないかい?」
「いえ、どこも痛くないです」
「ふむ。気分が悪いとかは?」
「よくはないですけど、これは精神的なものだから」
「自分でどこかおかしいなぁって思うところは?」
「…特にはないです」
「そうか。質問はこれで終わり。とりあえず今はベッドで寝ててくれるかい? あとで別の人が話を聞きにくるから。用事があるなら僕を呼んでくれればいいよ。そこの机で書類片付けてるから」
「はい」
シンジは再びアスカとレイのことを考え始め、沈み込む。
ニ時間後、保険医っぽい人が持ってきてくれた朝食を食べ終えたすぐあとに、シンジに客がきた。シンジは知らないが、ここで治療を受けられるように指示したオッドアイの女だった。