2007年12月

2007年12月18日

遅れたなぁ


もっと早くにアップできると思ってたんだけど。
別の話に熱中しすぎた。

煩悩がからむと、執筆スピードが速くなる。
それを、この二週間でよく理解した。
このスピードを常に出せれば、もっと更新速度が早くなるのに。

次は、シンジinザールブルグを書くつもり。


ee383 at 22:12|PermalinkComments(0)TrackBack(0)日記 

ふぇのにっき2


 118日目

 今日から祭が始まります。
 数日前から街は、祭にむけての準備に追われていました。しかし、忙しいと言っているわりには、トロンもアルゴールも街の人々もどこか楽しそうに作業をしていました。
 特にトロンは、祭が近づくにつれてテンションが高くなっていって心配になったほど。アルゴールが言うにはいつものことだから、気にしないでいいとのことでした。でも心配なので、気をつけておきます。何かあればすぐにワイナフのところへ連れて行くと決めて。

 街にはいつもより多くの人が集まり笑い声を響かせています。トロンもテンションの高さを維持したまま祭をむかえました。
 二つのイベントに、嬉々として参加するトロン。これほどまでに楽しそうなトロンを見るのは初めてです。アルゴールの言ったように、息抜きになって楽しめるのならば、心配する必要はなかったのかもしれない。
 などと思ってトロンの活躍を見ていたら、高所からトロンが飛び降りた。あのようなことをするならば、やはり気をつけておく必要はあると再認識した。
 イベントが終ると、トロンと競い合っていた男がやってきた。トロンの友人らしい。そういった人物に会うのは初めて。楽しそうに笑い話す二人を見て、危険はないと判断。
 ライルと別れると、私の参加するイベントの時間が迫っていた。ケーキ食べ放題……なぜか気分が高揚していきます。自己分析で、トロンと似たような状況だと結果が出た。これが楽しみだ、ということなんでしょうか。以前もケーキを食べる前に、似たような状態になりました。そのときも楽しみだと感じていたのですね。
 一時的にトロンと別れ予選会場へ。一歩会場へ入ると熱気が漂って、会場外と違う環境に戸惑う。密閉されているわけでもないのに、温度が明らかに違います。原因を探ると一応判明しました。参加者が出している熱気が、温度まで上げているようです。私と違い、ただ楽しみというわけではないようです。今の私では、楽しみ以外に何が発せられているのか理解できません。ただ言えることは、参加者のほとんどがトロン並のテンションだということです。
 予選で用意されたケーキは、苺のショートケーキではありませんでしたが、美味しかった。味わいつつ私なりに急いで食べたけれど、本選に出ることはできませんでした。
 他の参加者の食べる様子を見ていると、不可解な現象が起きていました。あきらかに口内に入りきらない容量を詰め込んでいるのに、喉に詰まらせることなく食べ続けている人が何人もいたのです。無理にあの現象を理解しようとすると、頭脳にノイズが走ったので見たことを消すことに。とりあえず、あれをできるようにならないと本選にでることは叶わないことは、理解できました。
 
 次の日も、その次の日もイベントに参加します。楽しめて収入もあってトロンは満足そうです。
 トロンが私を歌姫大会に登録しました。驚いた顔を見たいからだと言ってました。それと私の歌を聴いてみたいとも。こんな舞台に参加させなくとも、言ってもらえれば、いつでも歌いますが?
 舞台に立ち、記録内にある歌を記録どおりに歌う。あとから聞いた話ですが、この歌はアルゴールの思い出の歌だったようです。
 審査員の話では、私の歌は技術だけで心が篭っていないそうです。心を込めるとはどうすればいいのでしょう? 
 ………………駄目です、いくら考えてもわかりません。

 心を込めるということをトロンに聞いてみた。トロンも明確な答えはわからないとのこと。ヒントはもらいましたが、いまいちわかりません。
 歌い続けてみればわかるかもしれないと結論を出して、歌うことにしました。答えがでなくとも、トロンが嬉しそうに聞いてくれるので満足です。


 120〜125日目

 祭が終わりトロンのテンションも元に戻って一安心です。
 
 今日はトロンに料理を習いました。材料の種類、量を教えてもらったとおり正確に準備。調理手順も正確にこなしていく。
 出来上がって試食。味は、とても微妙でした。トロンが言うには、正確にやりすぎて、少しバランスが崩れただけで、全てが台無しになったのではないかと。少しは雑にしたほうがいいとアドバイスされました。
 
 今日は、ミレスに頼まれて親族の救助に向かいました。
 本来ならば入れない階層に入るのに、いくつか手順を踏みました。条件の一つ、レベル半減が総魔力量に影響しないか心配でしたが、特に不都合なく移動成功しました。
 クレアスは無事みつかりました。頼まれ事もされましたが、それも問題なく終りました。
 ただトロンがどこか抜けていることが判明したので、今後の注意点として気をつけることします。
 クレアスを無事ミレスの元へ届けることができました。そのことをトロンは喜んでいます。私も嬉しいか聞かれました。
 ……悪い感情は浮かんできません。この光景をよかったと思えているので、「はい」と答える。


 158日目
 
 夕食ができたのでアルゴールを呼びに行くと、反応がありません。ドアを開けると何かを作っています。
 夢中になっていて呼んでも気づかないので、部屋に入り何を作っているのか肩越しに見てみました。箱のようなものとしかわかりません。
 だから直接聞いてみることにしました。
「それはなんですか?」
「これか? これはトロンの誕生日プレゼントだ。家事で手が荒れてるからな。その荒れを治すための発明だ」
 アルゴールは集中しつつも、答えてくれました。
「ということは、その二つの穴に手を入れればいいのですか?」
「ああ、簡単に使えて便利だろってフェノス!?」
「はい?」
いまさら慌てて、それを隠そうとしても遅いです。それがなんなのか、自分で説明してくれました。
「このことはトロンには秘密にしててくれ、頼む!」
「秘密……なぜですか?」
 秘密にするようなことでしょうか? 
「いやな? ここ何年かプレゼントなんか渡したことなかったから、恥ずかしくてなぁ。驚かせたいっていのもあるな。
 あ! あとこれを作るのにお金使っちまったけど、知らないか聞かれたら、ちゃんと近日中に収入があるから大丈夫と言っておいてくれ。まあ、ばれないうちに返しておくつもりだが」
「トロンに不都合がないなら、秘密にしておきます」
 そう言うとアルゴールは、ほっとした表情を見せた。
 この言葉をのちに後悔するとは、今の私には予測できなかった。
「しかし、誕生日ですか……私も何かしたほうがいいのでしょうか」
「んー……そうだな、歌を歌ってやればいいんじゃないか? 出会えたことを祝う歌なんか、あいつは喜びそうだ」
 歌……そうしましょう。私も秘密にしたほうがいいのだろうか? 
 その日から、誕生日に聞かせる歌は、トロンのいないところでこっそりと練習した。
 

 160日目

 トロンが怒った。いままでで一番激しい怒りだった。
 トロンとアルゴールが喧嘩をした瞬間から、家に温かさがなくなった。温度は変わっていないのに、どこか冷たく感じる。この空気は嫌だ。いつもの温かい空気がいい。
 原因は、私にもあるかもしれない。お金のことだけでも、説明しておくべきだった。でも、もう遅い。


 170日目〜

 トロンが怒って十日が過ぎた。二人は、いまだ険悪なまま。家の空気も冷たいまま。
 私は何もできていない。どうやればいいのかも、わからない。わからないまま、トロンについて塔へ行く。
 私がメンテナンスのときも、トロンは一人で塔に行った。無理のしすぎだ。止めるには、実力行為しかないのか。
 実力行為で止めるか迷っている間に、トロンが怪我をしてしまった。まただ、また遅い。今回は、全責任が自分にある。
 トロンに手を上げてしまった。説得のためとはいえ、原因の一部は私にもあるのに、なんて無様。
 少しだけよかったと思えたのは、アルゴールのことを、私の考えを話して、トロンがいつもの雰囲気に戻ったこと。

 そして、トロンに負担をかけないため、消費品を買いに出かけた時、私は「消えた」
 消える直前の記憶も微かだ。
 フィランドの屋敷でお礼と称され、お茶とケーキを食べた。そして意識を失った先は、覚えていない。

 明確に意識が戻ったのは、トロンと戦っているときだ。そのより前にも、かすかに呼ばれたような感じがしたけど、意識が戻ることはなかった。
 
「おっようやく目を覚ましたわね」
 意識が戻ると、目の前に自分に似た誰かがいた。顔の造りは似ているけど、そこに篭るものが違う。私は、そこまで感情を表すことができない。
「どしたの? じっと私の顔なんか見てさ」
「いえ、なんでもありません。それより、あなたは誰なんですか? ここはどこ?」
 いろんな色がごちゃ混ぜな空間に、私と彼女は浮かんでいた。
 私はこんなところを知らない。来た覚えもない。
「私は幽霊だよ。すっごい昔に死んだ存在の魂の欠片。
 んでここは、あなたの中っていうのかなぁ。あなたと私の魂の中?」
 言いたいことが、よくわからない。私は創られた存在で、魂はもたないはず。それに幽霊がなぜ、私の目の前に?
「よくわからないって、顔してるね。では、説明してあげよう
 それにしても、ずいぶんと表情が出てきたね。生まれたときは、無表情に近かったのに」
 以前の私を知っている?
「なぜ、以前の私を知っているんですか? 今日初めて会ったのに」
「それも説明を聞けばわかるさ。
 私が死んだのは、今の文明が起きる前。今の文明の前の前のときだね。その文明は、今と違って魔術とかなくて、機械に特化してた。
 まあ、それは置いといて、私が死んだとき、父さんが私の体を機械化して生き返らせようとしたんだ。機械化っていうのは、今のゴーレムみたいにするってことでいいよ。
 でも、それは失敗した。そのさい、私の魂は、なんでか機械化の設計図にとりついた。
 それから、長い長い時間が流れた。原本が失われて、写本に取り付くことになって、また長い時間が過ぎた。
 長い時間で私の記憶と意思は、少しずつ削られていった。今こうやって、話してられるのは、気合いれてるから。
 あるとき、私は写本から離されて、ある体に入った。
 それからは、その体の持ち主の目を通して、色々と見てたよ。
 ああ、一回だけ表に出たことがあったっけ。あなたが熱暴走起こしたとき、一回だけ出られたんだよ。
 これで、私がどんなものかわかったでしょ?」
「えっと……私の中にいる幽霊? でも、それだと私の魂の中っていうのが、わからない」
「魂を共有してるってこと。いや、ほとんどあなたの魂といっていいかな。私は、ほんとごく僅かに残った意識の欠片だし」
「……もしかして、私があなたの魂をのっとったのでは?」
 もしそうだとしたら、私はこの人に謝っても許されないことをした。
「そうじゃない。私の魂は、もともと長すぎる時間を過ごしたせいで、白紙に近い状態になっていた。
 その白紙を利用してあなたが生まれた。あなたは、使えるものを使っただけ。気にする必要はないよ。
 時間がないから、この話題はこれくらいにして、本題にいこう」
 彼女が指をパチンと鳴らすと、四角の枠が浮かび上がり、その中にトロンが映った。
 誰かと戦っている。でもトロンは避けるだけで、反撃に出ない。体の動きも鈍くて、辛そうにしている。
「トロンは、あなたと戦っているんだ」
「……わたし……と?」
「うん。あなたはフィランドに記録を消されて、トロンたちのことを忘れてしまった。今の体は、フィランドのことをマスターだと認識している。
 プログラムのみで動いている体が、トロンと戦っている」
 トロンと戦っている? 私の体が? 私はこんなところで何をしている? トロンに負担かけどおしで、さらには攻撃を加えている? 一緒にいられることが好きだなんて言っておきながら私はっ。
「手伝ってあげるから、体を取り戻しなさい」
 何もできないと、落ち込みかけた私に彼女は、体を取り戻せと言った。
「……できる……のですか?」
「できなかったら言わないさ」
「でしたら、いますぐお願いします」
 疑い問答する間も惜しい、こうして離している間にも、トロンの動きは徐々に鈍くなっている。このままだと、今度は意味なく殴ってしまう。それは絶対したくない!
「それじゃ、始めるよ」
 彼女が目を閉じる。少しも動かずに、何かが変わっている様子もない。
 焦りが生まれてくる。でも、私にできることはない。逆に、何か行動を起こせば、邪魔をすることになるかもしれない。
 そのせいで、また後悔することになったら、それは私にとって決定的な何かになる。その何かが、なんなのかよくわからないけど、よくないことだとはわかる。
 だから、じっと耐える。耐える。耐える。
 やがて、彼女の体に変化が起こりだした。
「んっ……あとは、時間がくれば、いいだけ」
 そう言って彼女は笑う。だけど私には、この状況で笑える彼女がわからない。
 彼女は、足と手の先から少しずつ、白い光の粒になっている。
 なんとなくわかる。彼女が私のために、消えようとしていることが。
「……怖くないのですか?」
「怖い? ああ、私が消えること?
 そうだねぇ、怖かったかな?」
 怖かった? 今は怖くないと。
「いずれ私は、消えていたよ。それが少し早くなっただけ。
 そのまま消えてたら、怖いままだったろうね。
 でも今は、フェノスがいる。一人で消えない。誰かに看取られて逝ける。フェノスの記憶に残ることで、私がいたという証も残る。早くに死んで、何かを残せなかった私には、それが嬉しい。
 それと、証を残せることだけが、フェノスを助ける理由じゃないよ。
 私もトロンとアルゴールが好きだから。会話を交わしたことはないけど、見てるだけでも好きになれた。そんな人たちが、フェノスを助けたいって行動してるからね、私も手伝いたくなったの」
 彼女の顔に悔いはない。それどころか、自分の行動を誇っているようにも見えた。
 私には、それがとても眩しい。
「そろそろ時間だ。もう言うことはないかな?」
 首まで光が迫っている。
「名前、名前を聞いていません。教えてください。
 私には、あなたに報いることはできないけど、名前まで知らずにいるというのは……」
「ありゃ? そっか。自己紹介してなかったなぁ。
 改めて、はじめまして。ショーゴ・バイアンの一人娘ユミリア。ユミリア・バイアンと言います。
 そして、さようなら」
 そこまで言ってユミリアは消えた。今、私の目の前には、誰もいない。
 ユミリアは、最後まで笑顔だった。その笑顔は、私の記憶にずっと、ずっと刻まれた。


 172日目

 診療所のベッドで寝ているトロンを、じっと見ながら、自分に起きた変化を考える。
 これは、ユミリアがくれたものなんだろうか。
 日差し、風、シーツの感触、漂う香り、花の色。いままでよりも、すっと自分の中に入ってくる。
 以前と今、どちらの感じ方が自然かといえば、今のほうだと思う。
 トロンもユミリアも、こんな心地よい世界の中にいたのだろうか? 
 これから私は、こんな心地よい世界にいられるのだろうか?
 改めて、ユミリアに感謝した。
 受けた恩はとても大きくて、恩返しはできない。
 だから、ずっと覚えておく。忘れることなくずっと、この感謝とユミリアのことを覚えておく。
 そう決めると、トロンが目を覚ました。

ee383 at 22:06|PermalinkComments(0)TrackBack(0)第三部 

2007年12月07日

今日は日記だけ


刀語最終巻とsoundhorizon「聖戦のイベリア」を購入。
刀語面白かったです。最後はあのコンビで旅に出るとは全く予想してませんでした。
四季崎記紀が失敗したどうかは、時間が経たないとわからないんじゃないかなと思う。もしかするとあの結果も予知のうちかもしれないし。
皿場工舎が憐れですね。鞘だけ渡されたらそら忠誠心なくなるわ
聖戦のイベリアはとりあえず二時間ほど聞いてみた。このCDだけじゃ理解するには足りない?

今日はふぇのにっき書かずにほかの掌編書いてました。そっちアイデアがどんどん湧いてきて笑った。ふぇのにっきのアイデア湧けと。

書いてるエヴァクロスオーバーってもしかするとクロスオーバーじゃない?
エヴァからは1,5人しか行ってないから、異世界移動なだけなんじゃないかと思ってもみたり。チェロは初号機だけどオリキャラなので0,5人扱い。

ee383 at 23:18|PermalinkComments(0)TrackBack(0)日記 

2007年12月04日

初めての

 
 初めて架空請求がきました。
 始めは架空だって気づかずに憶えのない請求を思い出そうとしてた。
 思い出せるはずなかったけど。
 いつまでたっても思い出せないので、これはほおっておこう大事なものならもう一回連絡がくると考えて気にしないことに。
 その後ふと思い立って、ネットで会社の検索をしたら詐欺の記事がでてきました。
 ほおっておくという選択をした自分をちょっと褒めたくなりました。
 
 9話の3をアップ。書き上げるのに二週間。時間かけすぎだ。
 次のふぇのにっきで、今回語られていない部分を書きます。フェノスの中にいた人のことですね。
 実はこの人一回だけ出てます。

ee383 at 21:01|PermalinkComments(0)TrackBack(0)日記 

9話の3


 フェノスが家を出て行き親父が連れ戻しに出た後、俺の頭の中には一つの言葉が浮かんで、ただその場に座り込んでいた。
 また捨てられた。脳裏に浮かぶのはそれのみ。小さな頃につけられた傷は、時を経ても癒えたように見せかけていただけで簡単に傷口を晒した。俺はその痛みに耐えることができない。
 どのくらい時間が経ったかわからないけど、そのまま動かずにいつづけた。親父が帰ってくるまで。
「明かりもつけずに何してるんだ」
 親父が何か言ってる。でも答える気になれない。
 明かりがついたけど、心の中までは明るくできない。だから部屋の中が明るくなっても、さっきまでの暗い部屋と同じで暗いままに見える。
「落ち込むのは仕方ないが、いつまでそのままでいるつもりだ」
「…………」
「そうなる原因は俺たちにあるとはいえ……少しばかりうっとうしいな」
 音が耳障りだ。部屋に戻ろう。
 ゆらりと立ち上がり部屋へ戻ろうとする俺を親父が止める。
「お前はそのままで後悔しないのか? そのままその傷を抱えたままでいるのか?」
「…………」
 親父を無視して部屋へ歩く。そんな俺を気にせず親父は喋り続ける。
「フェノスは自分で離れたわけじゃなくて、離れさせられたのにな。無理矢理さらわれたフェノスをほおっておいたまま助けずにいじけ続けるのか?
 それはお前もフェノスを捨てたことになるだろ。何もせずに諦めているのだから」
「……そんなこと言ったって、現にフェノスは俺たちを捨ててフィランドのところに行ったじゃないか」
 呟きに近い声だったけど親父に届いていたようで反論が返ってくる。
「追いかけて話してわかったがフェノスは初期化されている。俺たちの記憶記録が消されてフィランドが主だと上書きされている。だから今のフェノスは外見はフェノスだが、中身は別物だ」
「それならなおさら助けても意味ないだろ!」
 記憶記録がないなら、連れ帰っても俺の知ってるフェノスじゃない。記憶喪失じゃないから俺たちの家族のフェノスには戻らない。本人がすぐそばにいるのに、また始めから別人との思い出を積み上げていくのか? そんなの辛い……。
 フェノスとしての人格を取り戻せないのに、本人はそばにいる。絶対っ無駄だとわかっているのにフェノスを取り戻そうとする! それで取り戻せないって再確認して落ち込むんだ、簡単に予想できる。 
「手がないわけじゃない。フェノスの記録はメンテナンスのさいに一応保存している。それをフェノスに渡せば、もしかするとそれがきっかけになって記憶も戻るかもしれん。正直、確率は低いがな。
 だが、何も行動を起こさんとその確率は低いどころかゼロだ」
 小さな希望にすがったとろこで、どうせ……。
「いつまでもトラウマなんかに引きずられるな。昔のことを忘れろとは言わんし、原因の俺が言えた義理じゃないけど、いつまでも後ろを見てないでフェノスと一緒に生きていく前を見ろ。今のままでいて、フェノスを助けに行かなかったらお前は絶対後悔する」
 無言で歩き出す俺を今度は止めない。言うべきことは言ったからなんだろう。
 その声は確かに俺に届いていた。諦めていた心をゆらゆらと揺らすぐらいに。あとは時間が経てば、その言葉が無駄かどうかわかるだろう。つまり俺次第。

 パタンとドアを閉めてベッドに倒れこむ。
 心は二分されている。このまま諦めてこれ以上傷つかないようにするか。それともフェノスを助けに行動をおこすか。
 ここで諦めたらこの先も同じことが起これば、同じ選択をするようになると思う。それはとても楽な生き方かもしれない。同時にとても哀しい生き方だとも思う。
 行動を起こして失敗すれば、俺は決定的な傷を負う。そのことがとても怖い。フェノスがいなくなることも怖いけど、また傷つくのがもっと怖い。そんな状態で、もしもフェノスが記憶記録をなくした状態で帰ってきても、俺はフェノスを受け入れないと思う。そのフェノスはとても悲しむだろう。それなら助けないほうがいいんじゃないかって囁きが聞こえてくる。
 行かないという想いが優勢で、ゆらゆらと心が揺れる。


 数分経ったのか数時間経ったのかわからないままベッドに伏せ続ける。
 暗い想いが俺の心を染め上げる中、明るく鮮明に浮かぶものもあった。それは夜闇が濃いほど月星が輝くように、強く光を放つ。きらきらと大切な思い出が、忘れるなとばかりに輝く。
 その輝きが沈み行く心を止めた。
 フェノスと過ごした日々、決して長く共に過ごしたわけじゃないけど大切な思い出。一番輝くのは初めて会ったとき、新たな家族を得たこと。欲しかったものを手に入れた歓喜。
 その想いに押されて少しだけ上向きになる。
 次に思い出すのは最近のこと。フェノスが俺たちと家族になったことを喜んでくれた。
 そのこと思い出しさらに上向きに。
 そうだ親父も言っていたじゃないか、フェノスは自らの意思で俺たちを捨てたんじゃないって、ならばもう一度取り戻そう大切な家族を。
 賭けは好きじゃないけど、一生に一度の大博打をはるのも悪くない。俺の知っているフェノスに戻ることを信じよう。
 不安だけど、それでも心の中にあった小さな期待が疼く。疼きは少しずつ大きくなって体を動かす。
「いつまでも負けてると思うなっ!」
 トラウマをはね退けようと、わざと強い口調で自分を奮い立たせる。少しは効果があったのか体に力が入る。さらに弱気を追い出そうと、立ち上がり両手で頬を叩く。気合は入った。
 正直、不安は今も心に巣くっている。それでもなんとかしよう。果たせてない約束もある。
 動いても動かないでも後悔する。それならなんとかしようと動いたほうがましだ。
 フェノスに思いのたけをぶつけよう。奇跡にすがるようだけど、可能性が少しでもあるなら奇跡だって信じる。
フェノスとの思い出が俺の背を押してくれて動く気力をくれた。

 親父のとこに行く。そこにはバウアーさんがいた。沈んでる間に来たんだろう、いつ来たのか全く気づかなかったから。
「やっときたか。もう少し遅かったら置いてくとこだったぞ。さっきよりかはましな顔つきだから、無駄な時間じゃなかったみたいだが」
「こっちに来い、これからやることを説明するから」
 バウアーさんに呼ばれて、テーブルのそばへ。
「やることと言ってもトロンがやることは、フェノスと対峙することだけどな」
「どうやってフェノスに会うのさ? フィランドの屋敷に行っても会うどころか入れもしないよ」
 まあ、それをどうにかする方法は考えているんだろうけど。
「このあと兵士がフィランドの屋敷に突入するから、その騒ぎに乗じて会いに行け」
 兵士がなんでフィランドの屋敷に行くんだろう? 不思議に思っている表情を読み取ったバウアーさんが理由を教えてくれる。
「フィランドの屋敷にはフェノスのほかにもゴーレムがある。それはフェノスと同じように盗んだやつもある。盗んだゴーレムの中に国の依頼を受けて作られた高性能なゴーレムがあったんだ。
 なんでそんなこと知っているかというと、フェノスを救出するさいに、フィランドを脅すための材料となるものを盗ってきてもらった。その資料の中にそんなゴーレムの資料も混ざっていたからだ」
 当たり前のように脅すとか言ってる。
「国の依頼で作られたゴーレムだと知らなかったのか、それとも知ってたのか。どちらにせよそんなものを所有しているのが知れたらまずいことだ。情報を流せば間違いなく騒動になる。
 その騒動に紛れていけ。そこから先はお前の役目だ。もとの嬢ちゃんに戻るのか戻らないのかトロン次第だな」
 最後の言葉に頷きで返す。ここまで大きな騒ぎを起こしてお膳立てしてくれてるんだ。頑張らないと。
「それにしてもフィランドって、趣味のためにかなりの無茶してるんだ」
「国のものに手を出すとは、さすがにやりすぎだな」
 親父も同意してくる。
「詳しいことはわからないが、始めは犯罪なんかしてなかったみたいだな。
 門番を買収して、脅して聞いた話だと無意味にゴーレムを集めているわけじゃないらしい。何らかの目的みたいなものがあったらしいが、徐々に違った方向へと進んだみたいだ。
 まあ、俺たちには関係ない話だ」
 そうだな、どんな理由があるにしろ俺がやるのは、フェノスを取り返すこと。それに変わりにはない。
 念のため鎧と予備のナイフを身につけていると、玄関がノックされた。
 壁越しに聞こえてくる声から、準備が整ったからバウアーさんを呼びにきたとわかった。
 親父に呼ばれて家を出る。
「それじゃ行こうか」

 日が暮れて魔法と松明が照らす道を俺たちは歩く。親父とこうして連れ立って歩くのって久しぶりだ。フェノスと一緒に行動する前は、長い間一人で歩いてたし、何年ぶりくらいかな。こんなことを考えるのはあとにして、今はフェノスを取り返すことを考えよう。
 フィランドの屋敷に近づくにつれて、人が多くなってきた。屋敷に入っていった兵士たちを見て何事かと集まった野次馬らしい。
 俺たちは野次馬を押しのけて門へ。そこにいた何人かの兵士に止められるも、バウアーさんが事前に話を通していたおかげで通ることができそうだ。
「ここから先はトロンだけで行くんだ」
 兵士と話し終わったバウアーさんが突然そんなことを言う。
「一緒に行かないの?」
「バウアーはまだ根回しに行かなくちゃいけないし、俺もフェノスがさらわれた事情を兵士に話さなきゃいかん。自由に動けるのはお前だけなんだ」
「というわけで屋敷の地図を渡すから行ってこい。赤い×印のついてるところにフィランドはいると思う。急げよ、まだフィランドが捕まったっていう報告は入ってない。抜け道から逃げられるぞ」
 そう言って渡された地図には、赤い×印がいくつかついていた。庭の隅と屋敷の地下、屋敷の二階の三ヶ所。地下と庭に抜け道があるんだろう。
 逃げられると厄介だ、急いで探そう。そう思って駆け出す俺の背に、
「頑張ってこい」
「家で待ってるからな」
 二人の声援が聞こえてきた。大きな声じゃないけどしっかりと聞こえ、力強く背中を押してくれた。

 走って向かうのは近かった屋敷内の地下。捜査を邪魔するフィランドに雇われた警備と兵士の間を駆け抜ける。警備も兵士も俺が部外者だと気づいているようだけど、すべきことに精一杯で俺のことまで手が出せない。数で抑えにこられると逃げるのは無理だから、今の状況はすごく助かった。
 痛み出している横腹を無視して地下室に入る。地下室の四隅に魔術の明かりが灯される。明かりのおかげで隅々までよく見えた。ぱっと見てフィランドはいないように見えたけど、一応見落としがないか見たあと、急いで二階へ。
 印がつけられていた二階の部屋は、動いていないゴーレムがたくさんいた。ほかにも捜査してる兵士もして、ここにはフィランドがいないとわかった。
 階段を駆け下りて、庭へ。必要のなくなった地図を捨てて急ぐ。印のついていた場所には倉庫みたいなものが建っていて、そこでも人が争っていた。
 聞こえてくることから判断すると、フィランドはすでにここの抜け道を通ったあとらしい。
「ここに入って追いつけるか?」
 ここで呟いてみてもどうにかなるわけじゃない。今は行動あるのみ。ならば追いかけよう。
 兵士を入らせないようにしている人たちの間を通り抜けて抜け道に入る。俺を追いかければ、そのできた隙間に兵士が入ってくるので誰も追いかけてくることはできなかった。待てという声だけが聞こえてくるけど、待つわけない。
 先にフィランドが通ったおかげか通路にはところどころ明かりがついている。それに別れ道がないおかげで迷う心配もないから助かった。
 人一人分の狭い通路を駆け抜ける。長い地下通路を走りぬけて最後にあった階段を登ると、どこかの小屋に出た。外から誰かの声が聞こえる……フェノスと知らない男の声だ。
「フェノスっ!」
 フェノスの名前を呼びながら小屋から出ると、そこには馬車に荷物を積んでいるフェノスと知らない男がいた。
 男は四十手前に見え、一般人では手に入れることのできそうにない質のいい服を着ている。
 この男がおそらく、
「フィランド」
「誰かと思えば、トロン君ではないかね。わざわざ見送りにきてくれたのか」
 俺のことを知ってるのか。
「そんなわけないだろ! フェノスを連れ戻しにきたんだ」
 俺の言葉にふぅっと溜息を吐くフィランド。心底馬鹿にされているように感じる。
「フェノスは私のものだ。そうだろうフェノス?」
「はい、私のマスターはフィランド様です」
 家から去ったときと同じように感情のこもらない声で答えた。その様子に耐え切れず大声で反論する。
「違う! フェノスは俺の俺たちの家族だ!
 親父に生み出されて、ケーキが好きで、歌うことが趣味で、俺と親父の喧嘩を嫌だと言って、俺たちと家族だと喜んでくれた!
 そんな感情の篭らない声を出させるんじゃない! 感情のない表情をさせるんじゃない! 今までフェノスが積み上げてきたものを否定させるんじゃない!」
 息がきれる。フィランドを睨みつけ、フェノスを奪ったことを怒る。言葉には怒りのほかに、フェノスに元に戻ってほしいと願いも込めている。
 そんな俺の感情を受けて、フィランドが同意するような顔になる。
「ああ、そうだな。感情がなくなったのは私としてもおしいことをしたと思っているよ。だがまあ時間が経てば感情も出てくるだろう。以前もあったのだから」
「このっ」
 怒りをぶつけられて言うことがそれか! さらに怒鳴ろうとする俺を遮って、
「いい加減時間もないことだし、さっさと話を終らせよう。
 いくら出せば納得すんだね?」
「…………は?」
 こいつの言いたいことがよくわからない。耳に入ってきはしたが、脳が理解することを拒んだような感覚。けれども体温が少しずつ上がってきている。本能は理解したんだろうか?
「金貨五千枚ほど出せば満足かね? 手元に残るのが少しのみになるが、フェノスならばそれくらいの価値はあるので、おしみなく出せる。それ以上欲しいというのなら宝石や美術品で渡すことになる。
 好きな金額を言ってみたまえ」
 フィランドの言葉の一文字一文字が俺の神経を逆なでしていく。
「金額を言え? 家族を売れと? ふざけるのもいい加減にしろっ」
「ふざける? 私は至極真面目に言ってるだが? 
 フェノスは容姿、行動、思考、柔軟性どれをとっても最高だ。私はいままで千を超えるゴーレムを見てきたが、その中でフェノスは群を抜いて優れている。フェノスこそ私が求めていたゴーレムだ!
 そうあの日、あの舞台に立ち、ゴーレムには発露することの困難な感情というものを僅かに滲ませ歌うフェノスを見たとき私は確信したのだ! あのゴーレムこそ探していた最高のゴーレムだと」
「だから奪ったのか」
「奪ったとは人聞きの悪い。フェノスは私のものだ。もともとが誰のものであっても関係ない。所有者として相応しいから今私のもとにあるのだ。持つべき者が持つのは当然のことだろう?
 その顔を見るとまだ納得してもらえてないみたいだね。仕方ない時間も少ないことだし、フェノス少し痛めつけてやりなさい」
「わかりました」
 フィランドの命令を受けてフェノスが進み出た。代わりにフィランドは馬車まで下がってこちらを見ている。
 フィランドが下がりきるまで動かないフェノス。巻き込むことがないと判断したのか俺に殴りかかってきた。
 ストレートを横に避けると、フェノスは殴りかかってきた腕を横に振って裏拳とする。無理に動くと足がもつれそうだと思い、腕を交差し裏拳を受ける。腕から伝わる衝撃が、胴体にまで響く。アバラが痛いっ。
「フェノスっやめろ」
 こっちの静止も聞かず、さらに横に蹴りを放ってくる。それは少し下がって避ける。蹴った足を踏み込みとして回り蹴り。もう一回後ろへ下がり避ける。そこへさらに蹴りがきた。一度攻撃は止まるだろうと思っていたところに、十分に勢いのついた蹴り。これは効いた。運が良かったすれば、ひびの入っているほうとは反対のアバラに蹴りがきたことか。それでも衝撃が痛みを増加させる。
 嫌な汗が出てきた。こっちはそんな状況でもフェノスは構わず、フィランドの命令を果たそうと迫ってくる。痛む横腹を無理矢理無視してフェノスの攻撃を避ける。
 通常ならばこんなコンディションでフェノスの攻撃を避けることなんて無理。それでも避けることができてきるのは、俺が強いからとか奇跡とかじゃなく、フェノス自身の動きも鈍っているから。さらにブレードや魔力弾を使ってこないってのもある。
 こんな状況で俺は期待する。もしかするとフェノスの動きが鈍かったり、持てるすべてを使ってこないのは、心のどこかで俺たちのことを覚えているのかもしれないからだと。だから俺を傷つけないように全力を出さない、出せない。
 根拠のない推測だし、過剰な期待からきた妄想かもしれない。でもその可能性があるなら、こんなに嬉しいことはない。記憶を記録を消されてなお残るほど俺たちのことを想ってくれたということだから。
 その欠片に届けと俺は呼ぶ。
「フェノス!」
 攻撃を避けながら、呼び続ける。フィランドの無駄だという顔が見えるが関係ない、そんなのは無視だ。
 体力の続く限り避け続け、呼び続けて、そして終わりがきた。斜めに振り上げる拳を避け損ねて、負傷している側の横腹に当たった。体の中から音がした。いままでとは比にならない痛みが体中を駆け巡る。さすがにこの痛みは誤魔化しきれず、その場にうずくまる。気絶だけはしまいとなんとか耐え切る。
「ようやく終りかね。この状況に飽き始めていたからちょうどよかった。
 フェノス、頭でも殴って気絶させてやれ。今の痛みからは解放されるだろ」
「わかりました」
 フェノスがゆっくり近づいてくる。痛みに耐えるためその様子を見るだけしかできない。振り上げられた拳が迫ってくる。
「フェノスっ」
 呟くようにでも強く想いを込めて名前を呼ぶ!
 衝撃はいつまでたってもこない。なぜなら、拳は止まっていたから。
「フェノス?」
 呼びかけてみても、止まったままで反応がない。
「どうした? 気絶させろと言っただろう」
 フィランドが呼びかけても動かない。ついでにいままで余裕な態度をとり続けていたフィランドの声から動揺が伝わってくる。
「フィランド様、戻りました。この先に障害となるような役人や魔物はいませんでした」
 男の声がした。誰かわからないけど、フィランドに敬意払ってるということは雇われた人か。まずい。
「ちょうどよかった、そこにいる奴を気絶させてくれ。フェノスに命じたんだが、なぜか止まってしまってな」
 頷いた男はこっちに近づいてくる。動かないフェノスの横で止まり、腰に佩いた剣を鞘つきのまま振り上げる。避けないといけないけど、痛みを耐えるので精一杯。
 スローモーションで剣が迫ってくる。意識のみが加速して剣の動きが遅く見えた。でもできるのは見ることだけで、指一本も動かせない。
 今度は耐え切れるのかなと、余裕があるのかないのかわからない思考をしていたとき、横から出された腕が剣を止めた。
 始めはこの腕が誰の腕かわからなかった。腕を辿って視線を横にずらしながら、推測していく。この場にいて、この行動を取れる者。この剣を防いで意味のある者。
 すごい音を鳴らす心臓が血と一緒に期待と不安を体中に巡らせる。
 やがて視線は顔に辿り着く。
「フェノス?」
 出た声は小さかったし、不安も込められていた。フェノスも顔をこっちにむけて、
「帰るのが遅くなってすみません」
 しっかりと俺を見てそう言った。すまなそうな表情で声にも謝意が篭っていた。さっきまでと違ってそこには感情が存在している。
「おかえり」
 それだけ言うのが精一杯で、溢れ出る涙をそのままに気を失った。フェノスが戻ってきた安堵で満たされて、気を抜いたせいだ。
 

 このあとのことはフェノスに聞いた。
 男を至近距離の魔力弾で吹っ飛ばしたあと、フィランドが再びフェノスを手に入れようとしたらしい。でもフェノス自身の抵抗とフィランドを探しに来た兵士のおかげで捕まることはなかった。フィランドはそのまま兵士に連れて行かれ、俺は医療知識のある兵士に応急手当を受けたあと、病院へと運ばれたようだ。
 気づいたとき俺はワイナフ先生の診療所にいた。横腹の痛みは引いていて、ずいぶん楽になっている。
「おはようございます」
 び、びっくりしたぁ横にフェノスがいるの気づかなかった。
「おはよう」
 挨拶しながら起きようとする俺をフェノスは止める。
「骨折箇所は治療されていて完全に治っていますが、今日一日は安静にするようにとワイナフ先生が言っていました」
「ワイナフ先生? ということはここは先生の診療所?
 あ〜激しい運動禁止だって言われてからなぁ。先生怒ってた?」
「始めは少し怒っていましたが、理由を話すと納得して怒りは治まったようです」
「よかった」
 フェノスがいることが夢かもしれないと頬を引っ張ってみた……ちゃんと痛い。一安心だ。そのまま、ぼーっと天井を見る。
 フェノスがそばにいることに嬉しさが湧いてくる。その満足感に身を任せてのんびりとする。そのまま会話もなく時間が過ぎていく。
「ごめんなさい」
 突然、フェノスが謝ってくる。なんで謝るのかさっぱりなんだけど。
「どしたの突然」
「私がもっと早く元に戻っていればトロンが怪我をすることはなかった」
「いや状況が状況だったし仕方ないよ」
 むしろそれを命じたフィランドのほうに怒りの感情は向くんだけどね。あとから牢獄行きだと知って多少溜飲は下がったけど。
「それでも……」
「気にしない! 喧嘩してやりすぎただけだって思えばいいよ。
 それよりも気になることがあるんだけどさ。親父の話だと、記録をフェノスに渡せて低い確率で元に戻る可能性があるって言ってたけど、それをしないで元に戻ってる。どうなってんの?」
「……それは協力してくれた人がいたから」
 フェノスは語る。フェオスの中にいたもう一人の話を。
 よかった。話をそらすのに成功したっぽい。フェノスが帰ってきてくれて嬉しいのに、そんな日に水をさす話題は嫌だ。このまま、気にしないでくれたらいいけど。
 話を聞きながらそんなことを考えた。
 どことなく柔らかくなったフェノスの声を聞いて過ごす。お見舞いに親父やバウアーさん、ラオがきて相手をしているうちに時間はどんどん過ぎていった。
 次の日、ワイナフ先生の診察をうけて退院の許可をもらう。
 フェノスと一緒に家への道を歩く。
「ただいま」
 玄関を開けそう言ったフェノスの声を聞いて、フェノスが帰って来たんだと実感が湧いた。
 

ee383 at 20:59|PermalinkComments(0)TrackBack(0)第三部