2008年03月
2008年03月30日
とくになにがあったわけじゃなし
最近日記を書いてなかった気がするので書く。
何が書けるわけでもないけど。
庭の垣根をじゃこじゃこと切って、小枝と葉を回収してたら、小さなとげが手に刺さりまくって、皮膚弱いなと思ったくらいか、かわったことは。
ゴールデンロア
ポート君とファロン嬢は存命中。六年目と三年目に突入。
ファロンのほうに若干死亡フラグがたってる気がしないでもない。
ファロンは二つくらい前の依頼で初めて、同行者に死者がでた。はじめてみる同業者の死をどう思ったんだろうなぁ。明日はわが身と達観したのか、怖がったのか、自分は大丈夫と慢心したのか。
ポートはたしか同行者に死者は出てないはず。茸と鉱脈ループだからなんだろな。少し前は討伐にも手を出してたけど。
世界樹
11階を放浪開始。
二階層ボスにうっかりと勝てたのが驚き。
駄目だろうな、今回は様子見と思って特攻したんだけど。
パラディンの挑発とファイアガードのおかげっぽい。
それでもギリギリな戦いだった。
東方SS ある雨の日のこと
ちくちくと針を刺す音が聞こえてきそうな部屋の中、椅子に座るアリスが新たな人形を作っている。
家の外はしとしとと小雨が降り、止む気配をみせない。この小雨は3日前から続いていた。
洗濯物を外に干すことができないが、その前に一ヶ月ほど雨が降らないという状況が続いたので、うっとうしいと思うものは少ない。
いつでも外出できるようにと、友の魔女に雨を止めてもらっていた吸血鬼が巫女に懲らしめられたが、今回は関係のない話だ。
集中して人形作りに精を出していたアリスに耳に微かに音が届く。一度気づくと無視することはできず、気になって作業が止まってしまう。
人形をテーブルにそっと置いて、音の聞こえてきた玄関に向かう。
開けるとそこにいたのは魔理沙だった。
「おぉー、いつもより出てくるのが遅かったからいないのかと思った」
「人形を作っていたのよ」
「そりゃ運がよかった」
人形を作っているときのアリスは集中してて、来ても気づかれないときがある。そのことに対して運がよかったと言っているのだろう。
その場で服についた水滴を払い、箒は玄関に置いて、家に入る。
「おっサンキュー上海」
上海人形が持ってきたタオルを礼を言って受け取る。
雨避けに来ていた外套と帽子を椅子に置いて、濡れた顔や髪を拭いていく。
「うっとうしい雨だなぁ。いつから降ってるんだ?」
「いつからって3日くらい前からだけど、知らないの?」
「5日前から魔法の研究で篭りっきりだったからな、知らなかったぜ」
一通り拭いてから魔理沙は椅子に座る。
コトリと紅茶で満たされたティーカップが置かれる。ふわりと湯気が漂い、いい匂いが鼻をくすぐる。
魔理沙が拭いている間に入れたものだ。
小さな鼻歌が聞こえていたので上機嫌なんだろうなと魔理沙は思う。
「ありがと。少し体が冷えてたんだ」
包み込むように両手で持つ。ティーカップからジーンと暖かさが伝わってきた。
そんな魔理沙を笑顔で見ながらアリスは聞く。
「研究って何してたの?」
「おいおい。魔法使いが研究内容を聞かれて、答えると思っているのか?
まっいいけど」
簡単に言葉を撤回し、ティーカップを傾ける。
ずずっと紅茶をすすり、その音にアリスは少し顔をしかめた。
「美味しいぜ」
「ありがと」
「それで研究内容だったな。
マスタースパークの威力をもっと上げようとしてたんだ」
それを聞いてアリスは呆れた表情になる。
今でも十分な火力を誇っているのだから当然だろう。
「……呆れたわ。今の威力で満足してないの?」
「満足したら、そこで止まる。だから私はまだまだ追及していく。
それに弾幕はパワーが信条だからな」
アリスにはいまいち納得できないような答えだが、魔理沙自身はそれで納得している。
「それで上手くいったの?」
「威力自体は少し上がったんだがなぁ……持続性がなくなったから成功とは言いがたいかな」
「一撃に全てをかけるって感じなのかしらね?」
「それであってると思うぜ」
蓬莱人形の持ってきたクッキーを食べながら頷く。
利点と欠点を考えてみて、思いついたことをアリスは口に出す。
「威力の代わりに命中精度が下がったのね。たしかに成功とは言いがたいかも」
「だろ?」
魔理沙に頷き返して紅茶を飲み、ふと気づいた。
「何か用事があってきたんでしょう?
なんの用なのかしら」
「今日は特に用事はないぜ。暇だったから来たんだ」
あっさりと答える。
それを聞いてアリスの表情が少し変わる。傷ついたような表情だ。
それはすぐに隠され硬い表情になる。
「……そう、私は忙しいの人形も作ってる途中だし、帰ってくれる?」
疑問系の形をとってはいるが命令に近い。
アリスの意を受け人形たちがティーカップやクッキーののった皿を下げていく。
「おいおい、お茶や菓子を出して歓迎したのにそれはないだろ。
それに人形作りっていったって急ぐようなものでもないだろう?」
「忙しいって言ったら忙しいの!
暇を潰したいなら霊夢やパチュリーのところへでも行けばいいじゃない」
「急にどうしたんだ?」
さっきまで上機嫌だったのに、急に不機嫌になる理由がさっぱりわからない。
「…………」
やや俯き気味でアリスは黙ったまま。
やがてぽつりぽつりと言葉がこぼれ出る。
「……来てくれて嬉しがった私が馬鹿みたいじゃない。
いつくるのかしらって楽しみにしてたのに……紅茶もクッキーも上手にできるように練習して……。
……暇なときくらいにしか私のところにこないなんて」
「暇なときにしかくる価値がないっていうんなら勘違いだぜ」
呟きを聞いて納得した魔理沙。
「……?」
「今日は休むって決めて、何しようか考えて一番始めに浮かんだのがアリスの顔だ。
霊夢やパチュリーやほかの誰でもなくな。
私はアリスに会いたくなったんだ」
「……それって」
「今日っていう一日を一緒に過ごしたくて来たんだぜ?
わかったんなら紅茶をもう一度いれてくれないか。まだ飲みたいんだ」
自分の言ったセリフが少し恥ずかしかったのか、赤く染めた顔をアリスから背けて催促する。
アリスも早とちりしたことが恥ずかしく顔を赤く染めて、台所へと小走りで向かう。
お茶を入れる間に、互いになんとか落ち着いて平静を装う。
「そ、それでこれから何をしようかしら」
「ゆっくりと考えればいいさ。時間はたくさんある。慌てずにゆったりと二人の時間を過ごそうじゃないか」
「……私はあなたがいるだけで満足よ」
聞こえないように呟いたつもりだろうが、しっかりと魔理沙の耳に届いていた。
「……まいったな」
「何が?」
「借りた物全部持ってくるのは大変そうだ」
なぜそんなことを言い出したのかアリスにはわからない。
「死んだら返すって言ってたじゃない。
そりゃ返ってくるのは嬉しいけど、どうして急にそんなことを?」
「さっきの殺し文句が効いたからだ。
私がいれば満足っていうな。一回死ぬくらいには強力なセリフだったぜ?」
聞こえたのかと再びアリスは顔を赤くした。さっきよりも赤い。頭から湯気が出そうな勢いだ。
そんな主人の様子を自意識のないはずの上海人形たちが、物陰から微笑ましそうに見ていた。
そんなある雨の日のなんでもない話。
2008年03月28日
鼻血マスター旅行記4
『レディバ頭巾ちゃん』
旅の途中で、もえもんセンターのない村にたどり着いた鼻血マスター一行。
これ以上進むと、山の中で野宿になるので、今日はここに泊まらせてもらおうということになった。
村長さんに、宿泊施設がないか聞いてみたところ、うちに泊まっていきなさいと誘われる。
ただし娯楽のない村で、村人は退屈しているので、何か宴会芸でも披露してもらえないかと頼まれる。
少女は、その場のノリで何も考えずOKし、仲間から説教をくらった。
説教がすんで、引き受けた宴会芸はどうしようかと話し合う。
なんやかんや話し合い、演劇をやることに。
演目は「赤頭巾ちゃん」。
主役は、全員一致でレディバとなった。
配役
赤頭巾→レディバ
母親→ジュゴン
お婆さん→フシギバナ
狼→鼻血マスター
猟師→レアコイル
届け物の桃→ミュウ(セリフが不完全なレディバをフォローするため。ピンクだから)
ナレーター→ハクリュー
村人に手伝ってもらい、広場に簡単な舞台を設置して、夕食後に開演となった。
一応、リハーサルは行ったが、素人が突発でやる演劇、アクシデントは寛大な心で流してくださいと、
ハクリューが注意事項を言ってから、劇は始まった。
むかしむかしあるところに、赤頭巾ちゃんという女の子がいました。
「赤頭巾、森に住むお婆さんのところへ、桃とワインを持っていってくださらない?」
娘にまで口調が丁寧な母親が、赤頭巾にお使いを頼みます。
(癖なんだから仕方ないですわ!)
(ナレーターに突っ込まないで)
「わかったー持ってく」
赤頭巾は、母親からワインと桃が入った籠を受け取ります。
「森に住む狼に気をつけるのですよ」
「気をつけるー。いってきます」
「いってらっしゃい」
家を出た赤頭巾は……赤頭巾は……
(ここら辺、リハーサルで飛ばしたっけ、どしよっか……何もなかったことでいいか?)
お婆さんの家に到着しました。
(展開早すぎです! 狼に会うイベントがあるでしょう!)
ああ、そうです! 少し巻き戻して、森で狼に出会いました。
「おっと、そこいく可愛いお嬢ちゃん待ちな!」
森に住む狼が、赤頭巾を発見し、話しかけてきました。
「あなたはだーれ?」
「オレは狼。可愛いものには目がない、可愛いものの狩人さ!」
(ちょっマスター! リハーサルとセリフ違いますわ!)
「ここを通りたければ、頭を撫でさせて、抱きつかせて、頬ずりさせな!」
なんと極悪非道な狼でしょうか!? 誰もが通っていいはずの道を我が物とし、欲望に満ちた要求をしています。
(あなたもセリフ違いますわ!)
(面白そうだからつい)
「そんなことでいいのー? いいよー」
心優しい赤頭巾は、最低な狼の要求をこころよく引き受けます。
思う存分赤頭巾を堪能した狼は、そのまま赤頭巾を持ち帰ろうとします。
(マスター! そこで持ち帰ったら劇が進みませんわ! やめてください!)
「ちっ、約束だ。通るがいい。
ああそうだ、ここら辺は綺麗な花が咲いているだろう?
お見舞いに持っていったら、そのばあさんは喜ぶんじゃないのか?」
「そうするー、ありがとー」
花をつんで、道草をくった赤頭巾は、お婆さんの家へと急ぎます。
あれだけは満足できなかった欲求不満な狼は、赤頭巾が道草している間に、お婆さんの家へと先回りします。
狼はお婆さんを食べて、お婆さんになりすまし赤頭巾を待ちます。
そして、なにも知らない赤頭巾がやってきました。
「お婆さん、桃とワインもってきたー」
「おお、お疲れ様。よくきたね。こっちへおいで」
「わかったー」
赤頭巾は、ベッドに寝ている狼に近づいていきます。
赤頭巾は、寝ているお婆さんの姿が変だと思い、聞きます。
「お婆さん、耳大きいねー」
「お前の声が、よく聞こえるために大きいのさ」
「目も光っていてこわいよー」
「怖がることはないさ、可愛いお前のことをよく見るためだから」
「手も大きいー」
「お前を撫でて、抱くためにこれぐらいは、大きくないと!」
「鼻血も流れてるー」
「お前が可愛すぎるからさ!」
(劇の間くらい、鼻血は流さないでマスター!)
「口も大きくてびっくりー」
「これは……もう我慢できない!」
正体を現した狼が赤頭巾をぺロリとひとのみに…………訂正します、力いっぱい抱きつきました。
(マスター! 台本と違いすぎます−!)
「なにやら」「さわがしいな」「どうしたのだろう?」
通りすがりの猟師が三人、騒がしいお婆さんの家に入ってきました。
「幼子が」「狼に」「捕まっている」
「「「助けないと!」」」
猟師が、赤頭巾を助けようとします。
「おっと、それ以上近づくな! この可愛いお嬢ちゃんが怪我するかもしれないぜ!」
なんと残虐な狼でしょう! 赤頭巾を人質にとって、猟師たちを近づけさせません。
(だからマスター! 話が違います!)
近づけない猟師たちの目の前で狼は、再び赤頭巾を堪能しています。
猟師は、赤頭巾を助けることができないのでしょうか!?
『レディバ! まもる! レアコイルは、マスターにスパーク!』
どこからともなく、声が聞こえてきました。この声はお婆さんだ!
膠着しかけた状況を動かしたのは、狼に食べられたはずのお婆さんだー!
孫可愛さに、狼のお腹の中から、声を出しているのかー!
お婆さんの指示によって、狼は退治されました。
「お婆さんありがとー」
「ああでもしないと、話が進みませんからね」
「「「ナイス判断」」」
猟師がお婆さんの判断を褒め称えます。
これは、話を進めたことか、狼退治の指示、どちらを褒めているのでしょう?
「くっくっく。これで終ったと思うな!
私が倒れても、第二第三の私が必ず現れてっ」
「赤頭巾、ソーラービーム」
「わかったー」
まだ生きていた狼に、お婆さんの指示のもと、赤頭巾がとどめをさしました。
このお婆さんけっこう酷いです。
こうして赤頭巾は、無事おつかいこなすことができました。
めでたし、めでたし。
(本来の話と違いすぎて、めでたさはないと思うのですが?)
話がめちゃくちゃだった演劇は、村人の盛大な拍手によって幕を閉じた。
知っている話よりは、めちゃくちゃでもアレンジが入っているほうが、面白いと村人は判断したらしい。
なぜ!? と不思議がるジュゴン。ほかのメンバーは、素直に拍手を喜んでいた。
旅の途中で、もえもんセンターのない村にたどり着いた鼻血マスター一行。
これ以上進むと、山の中で野宿になるので、今日はここに泊まらせてもらおうということになった。
村長さんに、宿泊施設がないか聞いてみたところ、うちに泊まっていきなさいと誘われる。
ただし娯楽のない村で、村人は退屈しているので、何か宴会芸でも披露してもらえないかと頼まれる。
少女は、その場のノリで何も考えずOKし、仲間から説教をくらった。
説教がすんで、引き受けた宴会芸はどうしようかと話し合う。
なんやかんや話し合い、演劇をやることに。
演目は「赤頭巾ちゃん」。
主役は、全員一致でレディバとなった。
配役
赤頭巾→レディバ
母親→ジュゴン
お婆さん→フシギバナ
狼→鼻血マスター
猟師→レアコイル
届け物の桃→ミュウ(セリフが不完全なレディバをフォローするため。ピンクだから)
ナレーター→ハクリュー
村人に手伝ってもらい、広場に簡単な舞台を設置して、夕食後に開演となった。
一応、リハーサルは行ったが、素人が突発でやる演劇、アクシデントは寛大な心で流してくださいと、
ハクリューが注意事項を言ってから、劇は始まった。
むかしむかしあるところに、赤頭巾ちゃんという女の子がいました。
「赤頭巾、森に住むお婆さんのところへ、桃とワインを持っていってくださらない?」
娘にまで口調が丁寧な母親が、赤頭巾にお使いを頼みます。
(癖なんだから仕方ないですわ!)
(ナレーターに突っ込まないで)
「わかったー持ってく」
赤頭巾は、母親からワインと桃が入った籠を受け取ります。
「森に住む狼に気をつけるのですよ」
「気をつけるー。いってきます」
「いってらっしゃい」
家を出た赤頭巾は……赤頭巾は……
(ここら辺、リハーサルで飛ばしたっけ、どしよっか……何もなかったことでいいか?)
お婆さんの家に到着しました。
(展開早すぎです! 狼に会うイベントがあるでしょう!)
ああ、そうです! 少し巻き戻して、森で狼に出会いました。
「おっと、そこいく可愛いお嬢ちゃん待ちな!」
森に住む狼が、赤頭巾を発見し、話しかけてきました。
「あなたはだーれ?」
「オレは狼。可愛いものには目がない、可愛いものの狩人さ!」
(ちょっマスター! リハーサルとセリフ違いますわ!)
「ここを通りたければ、頭を撫でさせて、抱きつかせて、頬ずりさせな!」
なんと極悪非道な狼でしょうか!? 誰もが通っていいはずの道を我が物とし、欲望に満ちた要求をしています。
(あなたもセリフ違いますわ!)
(面白そうだからつい)
「そんなことでいいのー? いいよー」
心優しい赤頭巾は、最低な狼の要求をこころよく引き受けます。
思う存分赤頭巾を堪能した狼は、そのまま赤頭巾を持ち帰ろうとします。
(マスター! そこで持ち帰ったら劇が進みませんわ! やめてください!)
「ちっ、約束だ。通るがいい。
ああそうだ、ここら辺は綺麗な花が咲いているだろう?
お見舞いに持っていったら、そのばあさんは喜ぶんじゃないのか?」
「そうするー、ありがとー」
花をつんで、道草をくった赤頭巾は、お婆さんの家へと急ぎます。
あれだけは満足できなかった欲求不満な狼は、赤頭巾が道草している間に、お婆さんの家へと先回りします。
狼はお婆さんを食べて、お婆さんになりすまし赤頭巾を待ちます。
そして、なにも知らない赤頭巾がやってきました。
「お婆さん、桃とワインもってきたー」
「おお、お疲れ様。よくきたね。こっちへおいで」
「わかったー」
赤頭巾は、ベッドに寝ている狼に近づいていきます。
赤頭巾は、寝ているお婆さんの姿が変だと思い、聞きます。
「お婆さん、耳大きいねー」
「お前の声が、よく聞こえるために大きいのさ」
「目も光っていてこわいよー」
「怖がることはないさ、可愛いお前のことをよく見るためだから」
「手も大きいー」
「お前を撫でて、抱くためにこれぐらいは、大きくないと!」
「鼻血も流れてるー」
「お前が可愛すぎるからさ!」
(劇の間くらい、鼻血は流さないでマスター!)
「口も大きくてびっくりー」
「これは……もう我慢できない!」
正体を現した狼が赤頭巾をぺロリとひとのみに…………訂正します、力いっぱい抱きつきました。
(マスター! 台本と違いすぎます−!)
「なにやら」「さわがしいな」「どうしたのだろう?」
通りすがりの猟師が三人、騒がしいお婆さんの家に入ってきました。
「幼子が」「狼に」「捕まっている」
「「「助けないと!」」」
猟師が、赤頭巾を助けようとします。
「おっと、それ以上近づくな! この可愛いお嬢ちゃんが怪我するかもしれないぜ!」
なんと残虐な狼でしょう! 赤頭巾を人質にとって、猟師たちを近づけさせません。
(だからマスター! 話が違います!)
近づけない猟師たちの目の前で狼は、再び赤頭巾を堪能しています。
猟師は、赤頭巾を助けることができないのでしょうか!?
『レディバ! まもる! レアコイルは、マスターにスパーク!』
どこからともなく、声が聞こえてきました。この声はお婆さんだ!
膠着しかけた状況を動かしたのは、狼に食べられたはずのお婆さんだー!
孫可愛さに、狼のお腹の中から、声を出しているのかー!
お婆さんの指示によって、狼は退治されました。
「お婆さんありがとー」
「ああでもしないと、話が進みませんからね」
「「「ナイス判断」」」
猟師がお婆さんの判断を褒め称えます。
これは、話を進めたことか、狼退治の指示、どちらを褒めているのでしょう?
「くっくっく。これで終ったと思うな!
私が倒れても、第二第三の私が必ず現れてっ」
「赤頭巾、ソーラービーム」
「わかったー」
まだ生きていた狼に、お婆さんの指示のもと、赤頭巾がとどめをさしました。
このお婆さんけっこう酷いです。
こうして赤頭巾は、無事おつかいこなすことができました。
めでたし、めでたし。
(本来の話と違いすぎて、めでたさはないと思うのですが?)
話がめちゃくちゃだった演劇は、村人の盛大な拍手によって幕を閉じた。
知っている話よりは、めちゃくちゃでもアレンジが入っているほうが、面白いと村人は判断したらしい。
なぜ!? と不思議がるジュゴン。ほかのメンバーは、素直に拍手を喜んでいた。
2008年03月27日
東方SS 蓬莱の薬は怖い薬
※少しシュール?
ふと疑問に思った。
特に理由はない。でも一度気になるとなかなか忘れることはできない。
だから考えて見ることにした。
疑問に思ったのは蓬莱の薬について。
薬っていうくらいだから、師匠に教えてもらって作っている薬と同じカテゴリーで括ることができるよね。
難易度の差は比べものにならないだろうけど。
薬は怪我や病気を治療するためのもの。塗ったり、飲んだり、注射したりするもの。
妹紅さんは服用したと言ってたから飲み薬だと思う。
ここでひっかかる。
蓬莱の薬の効果は不老不死。
飲み薬は体内にあるときのみ効果が得られる、と思うんだけど。
飲んで体内に吸収されて、いつまでも体内に存在し続ける薬というのはきいたことはない。
薬の効果はいつかきれるもの。永遠に効果の続く薬なんかあったらうちは商売あがったりだ。
蓬莱の薬も、薬と名がついているから同じなはず、たぶん。
でも効果はきれることなく続いている。それは姫様や妹紅さんをみればわかる。
蓬莱の薬とはなんのか?
効果はすでにわかっているからいいとして、その在り方に私は疑問を抱いたのだ。
考えていくつか推論ができた。
一つ目。
すごく持続性の高い薬で効果がきれる頃になると、再び服用しているのではないか?
この場合、薬を作ることのできる師匠と別行動していた妹紅さんが長生きしたことが疑問となってくる。
師匠が人間に渡した薬が一つだけではなく、たくさんあったとしたら今まで生きてきた理由となりえそうだけど。
今度は薬の消費期限の問題がでてくる。
断言するには弱いので、この考えは廃棄。
二つ目。
薬の効果は不老不死ではなく。肉体を変質させるのではないか?
変質した結果、副作用として不老不死を得た。そして穢れを生み出すようになってしまったのではないか?
しかしこの場合だと、肉体が欠損した場合に不都合がでてきそう。
髪の毛一本でも残ればそこから復活するらしいけど、実際そんな状況になって復活して、再生した体は変質した当時のままで
いられるだろうか?
肉体は日々変化している。爪が伸び、髪が伸び、古い皮膚は垢となる。歳月が経てば体はすっかり変わってしまっている。
そんな状況で、変質したままでいられるのだろうか?
三つ目。
師匠がすごくて、本当に永続する薬を作ってしまった。
短いけれども納得できてしまいそうではある。
四つ目。
薬と名はついているけど、本当は別の何か。
これは漠然としすぎて考えようがない。
三つ目が最有力候補?
ほかにも不思議な点はある。禁忌とされていた理由だ。
穢れを生み出すからっていうのは弱い気がする。
永遠に生きて穢れを生み出すからって、王族を処刑したり追放したりするだろうか?
何かほかに理由があるのかもしれない。
「ウドンゲ……こんなこと考えていたのね」
ウドンゲの部屋で永琳が、ウドンゲの書いたレポートを見ていた。
ウドンゲに少し用事があったのだが、部屋にはいなかったのだ。
部屋から出て行こうとしたとき、机の上のレポートが気になり立ち読みしているのが、今の状況。
永琳の表情は苦いものだ。
輝夜を罪人とした薬のことが書かれているのだから無理もない。
ほんの少しだけ感心したようなものも浮かんではいたが、すぐに消えた。
だが苦い表情の理由はそれだけではなかった。
「残念ながら三つ目は大はずれね。
近いのは二つ目かしら。
こんな予測までできるなんて、あの子も成長しているのね」
褒めてはいるが表情は苦いまま。
そのまま自室へと戻る。用事はあったが誰かに会うような気分ではなくなった。
自室の椅子に座り、俯き目を閉じる。思うのは覚えておきたくないこと。
できれば忘れたいが、忘れてはいけないこと。
すなわち蓬莱の薬の効果について。
蓬莱の薬はたしかに肉体を変質させる。それは長く生きるために変化するのだ。もとのままだと脳などに異常をきたす。
そして変化するのは肉体だけではなく、精神的にも。これは長寿化に対応するため必要だからだ。
さらに変化は魂にまで及ぶ。
問題となるのは魂の変化だ。この部分が禁忌となった原因だ。
この部分がなければ、永遠の命を得る薬とはなりえない。ただ寿命が延びる薬で終っていただろう。
魂の変化で起こる禁忌、それは御魂喰いとなること。
死者の魂を喰らうことによって魂を持続させる。自らの意思で止めることはできず、魂に欠損ができると自動的に補う。
喰われた魂は転生することができず消え行くのみ。
これが禁忌の秘薬と呼ばれた由縁だ。
同胞の安息を妨げ、さらには消滅させるのだから禁忌と呼ばれて当然だ。
このことは永琳しか知らないし、ほかの誰かに知らせるつもりもない。輝夜が御魂喰いのことを知らないのは、理解し作った者とただ飲んだ者の差。
知らせてどうなることでもない。すでに飲んでしまっているのだから。
これ以上の苦しみを輝夜と妹紅に背負わせるつもりはなかった。
怖くもあった。なんてものを作り出したのだと責めを受けることが。
永琳はこの薬を作りだした自分こそが罪人だと自嘲する。
永琳の気分に合わせるかのように、太陽が雲に遮られ部屋が暗くなる。それ以上の暗い笑みを浮かべ永琳は人知れず謝る。
輝夜と妹紅に罪を犯し続けさせていることを。それを打ち明けないことを。
ふと疑問に思った。
特に理由はない。でも一度気になるとなかなか忘れることはできない。
だから考えて見ることにした。
疑問に思ったのは蓬莱の薬について。
薬っていうくらいだから、師匠に教えてもらって作っている薬と同じカテゴリーで括ることができるよね。
難易度の差は比べものにならないだろうけど。
薬は怪我や病気を治療するためのもの。塗ったり、飲んだり、注射したりするもの。
妹紅さんは服用したと言ってたから飲み薬だと思う。
ここでひっかかる。
蓬莱の薬の効果は不老不死。
飲み薬は体内にあるときのみ効果が得られる、と思うんだけど。
飲んで体内に吸収されて、いつまでも体内に存在し続ける薬というのはきいたことはない。
薬の効果はいつかきれるもの。永遠に効果の続く薬なんかあったらうちは商売あがったりだ。
蓬莱の薬も、薬と名がついているから同じなはず、たぶん。
でも効果はきれることなく続いている。それは姫様や妹紅さんをみればわかる。
蓬莱の薬とはなんのか?
効果はすでにわかっているからいいとして、その在り方に私は疑問を抱いたのだ。
考えていくつか推論ができた。
一つ目。
すごく持続性の高い薬で効果がきれる頃になると、再び服用しているのではないか?
この場合、薬を作ることのできる師匠と別行動していた妹紅さんが長生きしたことが疑問となってくる。
師匠が人間に渡した薬が一つだけではなく、たくさんあったとしたら今まで生きてきた理由となりえそうだけど。
今度は薬の消費期限の問題がでてくる。
断言するには弱いので、この考えは廃棄。
二つ目。
薬の効果は不老不死ではなく。肉体を変質させるのではないか?
変質した結果、副作用として不老不死を得た。そして穢れを生み出すようになってしまったのではないか?
しかしこの場合だと、肉体が欠損した場合に不都合がでてきそう。
髪の毛一本でも残ればそこから復活するらしいけど、実際そんな状況になって復活して、再生した体は変質した当時のままで
いられるだろうか?
肉体は日々変化している。爪が伸び、髪が伸び、古い皮膚は垢となる。歳月が経てば体はすっかり変わってしまっている。
そんな状況で、変質したままでいられるのだろうか?
三つ目。
師匠がすごくて、本当に永続する薬を作ってしまった。
短いけれども納得できてしまいそうではある。
四つ目。
薬と名はついているけど、本当は別の何か。
これは漠然としすぎて考えようがない。
三つ目が最有力候補?
ほかにも不思議な点はある。禁忌とされていた理由だ。
穢れを生み出すからっていうのは弱い気がする。
永遠に生きて穢れを生み出すからって、王族を処刑したり追放したりするだろうか?
何かほかに理由があるのかもしれない。
「ウドンゲ……こんなこと考えていたのね」
ウドンゲの部屋で永琳が、ウドンゲの書いたレポートを見ていた。
ウドンゲに少し用事があったのだが、部屋にはいなかったのだ。
部屋から出て行こうとしたとき、机の上のレポートが気になり立ち読みしているのが、今の状況。
永琳の表情は苦いものだ。
輝夜を罪人とした薬のことが書かれているのだから無理もない。
ほんの少しだけ感心したようなものも浮かんではいたが、すぐに消えた。
だが苦い表情の理由はそれだけではなかった。
「残念ながら三つ目は大はずれね。
近いのは二つ目かしら。
こんな予測までできるなんて、あの子も成長しているのね」
褒めてはいるが表情は苦いまま。
そのまま自室へと戻る。用事はあったが誰かに会うような気分ではなくなった。
自室の椅子に座り、俯き目を閉じる。思うのは覚えておきたくないこと。
できれば忘れたいが、忘れてはいけないこと。
すなわち蓬莱の薬の効果について。
蓬莱の薬はたしかに肉体を変質させる。それは長く生きるために変化するのだ。もとのままだと脳などに異常をきたす。
そして変化するのは肉体だけではなく、精神的にも。これは長寿化に対応するため必要だからだ。
さらに変化は魂にまで及ぶ。
問題となるのは魂の変化だ。この部分が禁忌となった原因だ。
この部分がなければ、永遠の命を得る薬とはなりえない。ただ寿命が延びる薬で終っていただろう。
魂の変化で起こる禁忌、それは御魂喰いとなること。
死者の魂を喰らうことによって魂を持続させる。自らの意思で止めることはできず、魂に欠損ができると自動的に補う。
喰われた魂は転生することができず消え行くのみ。
これが禁忌の秘薬と呼ばれた由縁だ。
同胞の安息を妨げ、さらには消滅させるのだから禁忌と呼ばれて当然だ。
このことは永琳しか知らないし、ほかの誰かに知らせるつもりもない。輝夜が御魂喰いのことを知らないのは、理解し作った者とただ飲んだ者の差。
知らせてどうなることでもない。すでに飲んでしまっているのだから。
これ以上の苦しみを輝夜と妹紅に背負わせるつもりはなかった。
怖くもあった。なんてものを作り出したのだと責めを受けることが。
永琳はこの薬を作りだした自分こそが罪人だと自嘲する。
永琳の気分に合わせるかのように、太陽が雲に遮られ部屋が暗くなる。それ以上の暗い笑みを浮かべ永琳は人知れず謝る。
輝夜と妹紅に罪を犯し続けさせていることを。それを打ち明けないことを。
2008年03月26日
鼻血マスター旅行記3
時は12月の25日、クリスマス。
ふたご島とグレン島の間にある無人島に、たくさんのもえもんと一人の少女が、楽しそうに騒いでいる。
地面には何枚もシートが広げられ、その上にはジュースやお菓子、トランプなどの遊び道具が置かれている。
そこから少しだけ離れた所には、手製のカマドがいくつか。鍋と鉄板とフライパンが火にかけられて、料理が作られている。
そのカマドの一つのそばで、フシギバナと少女が話をしている。
「マスター、皆楽しそうですね」
「うん、皆楽しんでくれて、クリスマスパーティ開いたかいがあったよ」
二人は、仲間たちを見渡す。
少女の鼻には、ティッシュが詰められている。もえもんたちの笑顔にあてられたのか、いつものように鼻血を出したらしい。
「十月ごろから、お金を節約してると思ったら、こんなこと考えていたとは。
好きなお菓子や可愛い小物を買わなくなっているから、変だなぁと思っていたんですけど」
料理する手は、止めずにフシギバナは喋る。
少女は、それを見てるだけ。相変わらず料理を作ることは、禁止されている。
「食費や道具のお金を削るわけにはいかないからね。
そんなことしたら、もえもんバトルになったとき、あなたたちに負担かけることになるから。
それで、どこを削るか考えて、私の分が減ったというわけ。
それだけじゃ足りないから、バトルの賞金の一部もこっちに回してたけど」
「クリスマスって家族で過ごす人もいるって聞きましたけど、マスターは家に帰らなくてよかったのですか?」
料理を一品完成させて、話題も変える。
盛り付けは、少女も手伝った。
「皆と過ごしたかったからね。家でパーティ開くと、皆一緒っていうわけにはいかないし、うちそこまで広くない。
正月に一度帰るって、連絡は入れてあるよ」
「皆と一緒に過ごすためにですか。それで、皆を連れてここまで来たんですねぇ。
突然、連れて歩ける以上の仲間を出して、出発だー! とか言うから驚いたんですよ?」
フシギバナは、次の料理を作り始める。
プリンと何人かの楽しそうな歌声が流れてくる。
今でも技としての「歌」は使えないプリンだが、ああやって楽しそうに歌えてるんだから、
それでじゅうぶんじゃないかと少女は思っている。
「驚いてくれたんなら、成功だ。
ちなみに、この島を使うにあたって、カツラさんに許可はもらってあるから安心してね」
少女は、事前にカツラに許可をもらってあると告げる。
誰かの迷惑にならない場所で、広い場所を探していた少女は、以前グレン島に行く途中でみつけた無人島のことを思い出した。
それで、グレン島で一番偉そうなカツラに、使用許可をもらいにいったのだ。
ここらの島は、国の管理している島で、カツラのものではないのだが、一時的に使うくらいならば問題ないだろうと言われていた。
「ほんとにこういうことには、行動が早いです」
「いや〜それほどでも」
褒められていると受け取った少女は、照れる。
フシギバナは、若干の呆れを混ぜながらも褒めていたから、的外れな反応ではない。
「それにしても、仲間が増えました」
各々で、好きに過ごしている仲間たちを見ながらフシギバナは言う。
遊んでいる者や、各々の技や技同士を組み合わせて、宴会芸としている者もいる。
例えば、ギャロップがひのこを空に打ち上げて花火としている。
ジュゴンがれいとうビームで氷を作り出し、ストライクがそれを彫像に削っている。
ピカチュウがかげぶんしんを使い、その中の実体当てクイズをしている。
「始めは、あなたと二人で始めた旅だったのに、今では六十人。
可愛い子に囲まれて私は、幸せだよ。旅に出てよかった」
心底、幸せそうな少女。手を頬に当て、目も潤んで、鼻に詰めたティッシュも赤く染まって、本当に幸せそうだ。
「いろんな出会いがありましたし、いろんな出来事もありました」
「旅に出た始めのころは、もえもんリーグに参加するなんて考えてもなかったしね」
「まあカンナさんに、門前払いくらいましたが」
「さすがに皆Lv50以下だと、無理だった。
一人くらいは、なんとかなると思ってんだけどな。さすが四天王強かった。リベンジはできたから、少し満足だけど」
「でも、次のシバさんで負けました」
「カンナさんに勝ったときみたいに、鍛えてから挑戦すればいいよ。ゆっくりいこう、焦ったっていいことないない」
負けたことをあまり悔しく思っていない少女は、少し落ち込んだフシギバナを撫でて励ます。
チャンピオンになることが目的ではないから、少女は落ち込まないのだろう。
少女の目的は、もえもんとの出会い。その目的が順調に進んでいるのは、ここにいるもえもんたちを見ればわかる。
ちなみに、旅の間で一番落ち込んだのは、もえもんたちの悪戯で嫌いと言われたときだ。
そのときの落ち込み具合は、少女だけに世界の終わりが来たかのように、すごかったらしい。
このときの様子から、もえもんたちは、少女に対して安易に嫌いとは言わないように心に誓った。
「そうですね、ゆっくりといきましょう」
マスターが気にしていないのだから、自分がいつまでも落ち込んでいられないと、気分を変える。
「出会いといえば、すごい出会いもあったね」
「ファイアーさんとフリーザーさんですか?」
「そうそう、なんていったって伝説だよ? 出会えたことすら奇跡!
拝み倒しただけで、仲間になってもらえたのは、すごいと思わない?」
「拝み倒したおかげじゃなくて、別の理由があったと思いますけど?」
出血多量で死なれたら困るからとか、ぽや〜としているうちに捕まったとか。
話題の二人は、今何をしてるかというと。
ファイアーは、オニスズメが作っている料理をつまみ食いしたせいで、正座させられて説教を受けている。
拝み倒して仲間になってもらったのは、間違いない。
でも土下座しているときに、流れ出た鼻血が徐々に床に広がっていって、出血多量死を恐れて承諾したのも事実。
フリーザーは、プリンたちちびっ子に混ざって、楽しそうに歌っている。
初めて会ったときは、見下されているように見えたフリーザー。でも実際は、のんびりとした性格で、しょっちゅうぽやーっとしている。
初めて会ったときも、少女たちに気づかず、思考がどこか遠いところへ行っているだけだった。
そのおかげで、モンスターボールを一回投げただけで、捕まえることができた。
ボールから出して、改めて仲間になってもらおうと説得したときも、どこか軽い返事で承諾された。
こんな二人だから、伝説の威厳はあまり感じられない。
サンダーもどこかずれてそうだと思っているのは、フシギバナだけではないはずだ。
「フシギバナ? 手が止まってるよ」
「あっはい!」
少女に呼ばれて、慌てて作業する手を動かす。
少し手が止まっていただけなので、料理は駄目になっていない。
そこに、プリンたちがやってきた。
「マスター!」
「どしたの? 料理はまだできないから、遊んでていいよ?」
しゃがんで、駆け寄ってきたちびっ子たちに目線を合わせる。
「ちがうの! 料理じゃないの! 今日サンタさんくるんだよね?
マスターが話してくれた、真っ赤な服のおひげおじさん」
きらきらと期待に目を輝かせてちびっ子たちは、少女を見ている。
その中にフリーザーも混ざっているのは、なんというか少し違和感を感じないでもない。
ちびっ子たちとフリーザーの可愛さに、鼻の奥が熱くなるのを感じる少女。
少女はなんとか鼻血を耐えて、残念な知らせをちびっ子たちにする。
「それなんだけどね、残念なことにサンタさん忙しくてこれないんだって。
世界中の子供たちにプレゼントを配らないといけないから、無理もないんだけど」
「えー」
不満そうな声や残念そうな声、泣きそうな声が上がる。
それを聞いて、少女は慌てて付け加える。
「でもプレゼントは、受け取っておいたから!
ね? だから泣かないでー!」
慌ててなだめ始める少女。それが功を奏したのか、泣き出すようなことはなかった。
事前にサンタをどうしようかと悩み、忙しくてこれないということにしようと決めていた。
メタモンに頼んでサンタに変身してもらうという考えもあったが、メタモンもサンタを楽しみにしている側だったので、
この案は使えなかった。
「サンタさんからもらったプレゼントは、パーティの終わりに渡すから、遊んでてね?」
「わかったー」
サンタからのプレゼントはもらえるとわかって、なんとか納得したちびっ子たち。
少女の言うことを聞いて、シートのほうへと戻っていく。
「ふーなんとかごまかせた」
「お疲れ様ですマスター」
「あの子達の可愛い顔が見れたから、これくらいどうってことないわ。
それにしても、お父さんに感謝しないとね」
「お父さんですか?」
「うん。去年、サンタの正体がお父さんだってわかって、すごくがっかりしたの。
でもそのおかげで今年は、あの子たちにサンタがいないかもっていうことを、知られないように事前策を練れた。
サンタがいるって思ってたら、私は今年もあの子達側にいたわ」
もしそうだとしたら、すっごく苦労することになったんだろうなぁと思うフシギバナ。
そうしているうちに、料理が全品完成して、パーティを本格的に始める準備が整う。
フシギバナが、ぱんぱんと手を叩いて、皆の注目を集める。
「これからクリスマスパーティを本格的に始めます。
私たちのマスターで、このパーティを企画してくれたマスターから、開始の挨拶をもらいたいと思います。
静かに聞いてください」
フシギバナに集まっていた注目が、少女へと移る。
少女は緊張することなく、挨拶のため口を開く。
緊張していないかわりに、六十人の可愛い子たちを一度に見れて、デレっと相好を崩したが、もえもんたちは、
いつものことだとスルー。
表情を引き締めて、挨拶を始める。
「こういった挨拶はしたことないから、短くいこう。
私の仲間になってくれてありがとう。私を受け入れてくれてありがとう。
不甲斐ないマスターだけど、これからもよろしく!
それじゃ、今日は楽しもう!」
少女の挨拶にわあぁーっと大きな拍手が起きて、もえもんたちから「こちらこそ、よろしく!」と返事が返ってきた。
パーティは、盛り上がる。
お酒が入っているわけでもないのに、テンションは天井知らずに上がっていった。
楽しそうな笑い声は、夜更けまで辺りに響いていた。
ふたご島とグレン島の間にある無人島に、たくさんのもえもんと一人の少女が、楽しそうに騒いでいる。
地面には何枚もシートが広げられ、その上にはジュースやお菓子、トランプなどの遊び道具が置かれている。
そこから少しだけ離れた所には、手製のカマドがいくつか。鍋と鉄板とフライパンが火にかけられて、料理が作られている。
そのカマドの一つのそばで、フシギバナと少女が話をしている。
「マスター、皆楽しそうですね」
「うん、皆楽しんでくれて、クリスマスパーティ開いたかいがあったよ」
二人は、仲間たちを見渡す。
少女の鼻には、ティッシュが詰められている。もえもんたちの笑顔にあてられたのか、いつものように鼻血を出したらしい。
「十月ごろから、お金を節約してると思ったら、こんなこと考えていたとは。
好きなお菓子や可愛い小物を買わなくなっているから、変だなぁと思っていたんですけど」
料理する手は、止めずにフシギバナは喋る。
少女は、それを見てるだけ。相変わらず料理を作ることは、禁止されている。
「食費や道具のお金を削るわけにはいかないからね。
そんなことしたら、もえもんバトルになったとき、あなたたちに負担かけることになるから。
それで、どこを削るか考えて、私の分が減ったというわけ。
それだけじゃ足りないから、バトルの賞金の一部もこっちに回してたけど」
「クリスマスって家族で過ごす人もいるって聞きましたけど、マスターは家に帰らなくてよかったのですか?」
料理を一品完成させて、話題も変える。
盛り付けは、少女も手伝った。
「皆と過ごしたかったからね。家でパーティ開くと、皆一緒っていうわけにはいかないし、うちそこまで広くない。
正月に一度帰るって、連絡は入れてあるよ」
「皆と一緒に過ごすためにですか。それで、皆を連れてここまで来たんですねぇ。
突然、連れて歩ける以上の仲間を出して、出発だー! とか言うから驚いたんですよ?」
フシギバナは、次の料理を作り始める。
プリンと何人かの楽しそうな歌声が流れてくる。
今でも技としての「歌」は使えないプリンだが、ああやって楽しそうに歌えてるんだから、
それでじゅうぶんじゃないかと少女は思っている。
「驚いてくれたんなら、成功だ。
ちなみに、この島を使うにあたって、カツラさんに許可はもらってあるから安心してね」
少女は、事前にカツラに許可をもらってあると告げる。
誰かの迷惑にならない場所で、広い場所を探していた少女は、以前グレン島に行く途中でみつけた無人島のことを思い出した。
それで、グレン島で一番偉そうなカツラに、使用許可をもらいにいったのだ。
ここらの島は、国の管理している島で、カツラのものではないのだが、一時的に使うくらいならば問題ないだろうと言われていた。
「ほんとにこういうことには、行動が早いです」
「いや〜それほどでも」
褒められていると受け取った少女は、照れる。
フシギバナは、若干の呆れを混ぜながらも褒めていたから、的外れな反応ではない。
「それにしても、仲間が増えました」
各々で、好きに過ごしている仲間たちを見ながらフシギバナは言う。
遊んでいる者や、各々の技や技同士を組み合わせて、宴会芸としている者もいる。
例えば、ギャロップがひのこを空に打ち上げて花火としている。
ジュゴンがれいとうビームで氷を作り出し、ストライクがそれを彫像に削っている。
ピカチュウがかげぶんしんを使い、その中の実体当てクイズをしている。
「始めは、あなたと二人で始めた旅だったのに、今では六十人。
可愛い子に囲まれて私は、幸せだよ。旅に出てよかった」
心底、幸せそうな少女。手を頬に当て、目も潤んで、鼻に詰めたティッシュも赤く染まって、本当に幸せそうだ。
「いろんな出会いがありましたし、いろんな出来事もありました」
「旅に出た始めのころは、もえもんリーグに参加するなんて考えてもなかったしね」
「まあカンナさんに、門前払いくらいましたが」
「さすがに皆Lv50以下だと、無理だった。
一人くらいは、なんとかなると思ってんだけどな。さすが四天王強かった。リベンジはできたから、少し満足だけど」
「でも、次のシバさんで負けました」
「カンナさんに勝ったときみたいに、鍛えてから挑戦すればいいよ。ゆっくりいこう、焦ったっていいことないない」
負けたことをあまり悔しく思っていない少女は、少し落ち込んだフシギバナを撫でて励ます。
チャンピオンになることが目的ではないから、少女は落ち込まないのだろう。
少女の目的は、もえもんとの出会い。その目的が順調に進んでいるのは、ここにいるもえもんたちを見ればわかる。
ちなみに、旅の間で一番落ち込んだのは、もえもんたちの悪戯で嫌いと言われたときだ。
そのときの落ち込み具合は、少女だけに世界の終わりが来たかのように、すごかったらしい。
このときの様子から、もえもんたちは、少女に対して安易に嫌いとは言わないように心に誓った。
「そうですね、ゆっくりといきましょう」
マスターが気にしていないのだから、自分がいつまでも落ち込んでいられないと、気分を変える。
「出会いといえば、すごい出会いもあったね」
「ファイアーさんとフリーザーさんですか?」
「そうそう、なんていったって伝説だよ? 出会えたことすら奇跡!
拝み倒しただけで、仲間になってもらえたのは、すごいと思わない?」
「拝み倒したおかげじゃなくて、別の理由があったと思いますけど?」
出血多量で死なれたら困るからとか、ぽや〜としているうちに捕まったとか。
話題の二人は、今何をしてるかというと。
ファイアーは、オニスズメが作っている料理をつまみ食いしたせいで、正座させられて説教を受けている。
拝み倒して仲間になってもらったのは、間違いない。
でも土下座しているときに、流れ出た鼻血が徐々に床に広がっていって、出血多量死を恐れて承諾したのも事実。
フリーザーは、プリンたちちびっ子に混ざって、楽しそうに歌っている。
初めて会ったときは、見下されているように見えたフリーザー。でも実際は、のんびりとした性格で、しょっちゅうぽやーっとしている。
初めて会ったときも、少女たちに気づかず、思考がどこか遠いところへ行っているだけだった。
そのおかげで、モンスターボールを一回投げただけで、捕まえることができた。
ボールから出して、改めて仲間になってもらおうと説得したときも、どこか軽い返事で承諾された。
こんな二人だから、伝説の威厳はあまり感じられない。
サンダーもどこかずれてそうだと思っているのは、フシギバナだけではないはずだ。
「フシギバナ? 手が止まってるよ」
「あっはい!」
少女に呼ばれて、慌てて作業する手を動かす。
少し手が止まっていただけなので、料理は駄目になっていない。
そこに、プリンたちがやってきた。
「マスター!」
「どしたの? 料理はまだできないから、遊んでていいよ?」
しゃがんで、駆け寄ってきたちびっ子たちに目線を合わせる。
「ちがうの! 料理じゃないの! 今日サンタさんくるんだよね?
マスターが話してくれた、真っ赤な服のおひげおじさん」
きらきらと期待に目を輝かせてちびっ子たちは、少女を見ている。
その中にフリーザーも混ざっているのは、なんというか少し違和感を感じないでもない。
ちびっ子たちとフリーザーの可愛さに、鼻の奥が熱くなるのを感じる少女。
少女はなんとか鼻血を耐えて、残念な知らせをちびっ子たちにする。
「それなんだけどね、残念なことにサンタさん忙しくてこれないんだって。
世界中の子供たちにプレゼントを配らないといけないから、無理もないんだけど」
「えー」
不満そうな声や残念そうな声、泣きそうな声が上がる。
それを聞いて、少女は慌てて付け加える。
「でもプレゼントは、受け取っておいたから!
ね? だから泣かないでー!」
慌ててなだめ始める少女。それが功を奏したのか、泣き出すようなことはなかった。
事前にサンタをどうしようかと悩み、忙しくてこれないということにしようと決めていた。
メタモンに頼んでサンタに変身してもらうという考えもあったが、メタモンもサンタを楽しみにしている側だったので、
この案は使えなかった。
「サンタさんからもらったプレゼントは、パーティの終わりに渡すから、遊んでてね?」
「わかったー」
サンタからのプレゼントはもらえるとわかって、なんとか納得したちびっ子たち。
少女の言うことを聞いて、シートのほうへと戻っていく。
「ふーなんとかごまかせた」
「お疲れ様ですマスター」
「あの子達の可愛い顔が見れたから、これくらいどうってことないわ。
それにしても、お父さんに感謝しないとね」
「お父さんですか?」
「うん。去年、サンタの正体がお父さんだってわかって、すごくがっかりしたの。
でもそのおかげで今年は、あの子たちにサンタがいないかもっていうことを、知られないように事前策を練れた。
サンタがいるって思ってたら、私は今年もあの子達側にいたわ」
もしそうだとしたら、すっごく苦労することになったんだろうなぁと思うフシギバナ。
そうしているうちに、料理が全品完成して、パーティを本格的に始める準備が整う。
フシギバナが、ぱんぱんと手を叩いて、皆の注目を集める。
「これからクリスマスパーティを本格的に始めます。
私たちのマスターで、このパーティを企画してくれたマスターから、開始の挨拶をもらいたいと思います。
静かに聞いてください」
フシギバナに集まっていた注目が、少女へと移る。
少女は緊張することなく、挨拶のため口を開く。
緊張していないかわりに、六十人の可愛い子たちを一度に見れて、デレっと相好を崩したが、もえもんたちは、
いつものことだとスルー。
表情を引き締めて、挨拶を始める。
「こういった挨拶はしたことないから、短くいこう。
私の仲間になってくれてありがとう。私を受け入れてくれてありがとう。
不甲斐ないマスターだけど、これからもよろしく!
それじゃ、今日は楽しもう!」
少女の挨拶にわあぁーっと大きな拍手が起きて、もえもんたちから「こちらこそ、よろしく!」と返事が返ってきた。
パーティは、盛り上がる。
お酒が入っているわけでもないのに、テンションは天井知らずに上がっていった。
楽しそうな笑い声は、夜更けまで辺りに響いていた。
東方SS うどんげの永琳プチ観察日誌
以前こんな話を聞いたことがある。
何かに優れた者はその特化した才能の代わりに、何かを犠牲にしているらしいと。
私の師匠も天才と言える人。前述のことが本当なら、師匠も何かを犠牲にしていて不得手なものがあるはず。
……すごく気になる。
気になることは追求してみなさいと師匠も言っていたので、今日からしばらく師匠を観察してみることにした。
1日目
てゐが可愛かった。
2日目
駄目だ。1日目からさっそく脱線してしまった。
今日こそはと師匠を観察。
でも本当にてゐはとても可愛い。
悪戯もかまってほしくてしてくるんだし。やりすぎたときなんか、おずおずと謝ってくる。その普段見られない姿は涎ものだ。
思い出すだけでご飯五杯はいける!
3日目
また同じことを……。
気をとりなおして観察だ。3日目の正直って言うし頑張ろう。
今日の師匠は、妹紅さんとの殺し合いで破れた姫様の服を修復していた。
糸を通すのは苦手らしく近くにいた私に頼んだあとは、かろうじて目で追える速さで服を繕っていった。
あっというまに十着あった破れた服は修復された。
今日わかったことは、糸通しは苦手ということと裁縫は得意ということ。
糸通しの才能を削って薬作りの才能を特化させたとは考えにくいっていうか、ありえないと思うのでまだ観察は続ける。
4日目
今日は鳥肉パーティーだった。
永遠亭上空を群れて飛ぶ鳥を師匠が射落としたから。
矢をつがえて放つ、狙いを定める時間はほぼ0。これを淀みなく繰り返して、次々と当てていく。放った矢は全て外れることなく命中。
矢が鳥のいるところに飛ぶんじゃなくて、鳥が自ら矢に当たりにいくようだった。
それを当たり前にこなす師匠はすごくて綺麗だった。
今日わかったことは射撃が上手だということ。
うん、前から知ってたわ。
今日のことでちょっとした仮説ができた。
糸通しが苦手で、遠距離射撃は得意。近い距離は見づらくて、遠い距離はよく見える。
もしかして師匠、老眼ですか? 蓬莱の薬も年寄る波には勝てませんか?
知りたかったこととは違うので、追求はやめることにする。
5日目
薬作りの講義があった。
姫様が温泉に入りたいと言い出したので、庭の池を一時的に温泉にする薬を作ることに。
私が師匠から教えてもらいつつ薬を作っている間に、てゐとイナバたちが池の掃除をしていた。
てゐと一緒に露天風呂に入るため気合を入れて作った薬が完成した。
夕食を終えてから池に薬を投入。あっというまにホカホカと湯気が上がりだした。
タオルを体に巻いた姫様がいっちばーんと言いながら飛び込み、そして悲鳴を上げて飛び出た。涙目で駆けていく姫様ちょっと可愛かった。
ちょっとだけ触ってみると沸騰しているとわかった。温度調整が失敗してたらしい。
でも師匠は気持ちよさそうに入ってた。
熱さにとても耐性があるみたい。一瞬だけ蓬莱の薬の効果かなと思ったけど、姫様は駄目だったから違う。
6日目
特になし。
師匠が部屋に篭って薬を作っていたため。
7日目
姫様が朝帰り。そう言えば昨日の夕飯のときもいなかったような。師匠ばかり気にしてて、気づかなかった。
妹紅といちゃついて遅くなったのですかと聞いてみたら、違うと返事が返ってきた。
昨日は妹紅さんに負けて、リザレクションの前にルーミアちゃんが来て姫様を食べたらしい。すごくお腹がすいていたようで、一晩中食べててリザレクションが追いつかなくて、結局復活できたのは朝だったと。
そのあとご馳走様とお礼をルーミアちゃんに言われて、復活が遅れた理由を悟ったとのこと。
……姫様、「食べられ屋」をやってみたらどうです? 気絶してるときに食べられたら痛くもなんともないでしょう? 体をはった仕事ですよ?
8日目
昨日も師匠の観察ができなかった。
観察を始めて1週間がすぎた。始めの2日はてゐのことだけで終ってたけど。
このまま観察を続けても私の観察眼では目的達成は無理だと判断。
直接聞いてみることに。
今から行ってきます。
「師匠〜」
「なにかしら?」
かくかくしかじかと用件を伝えます。
「なるほど。たしかに心当たりはあるわ」
「ありますか」
「ええ。私って弟子を育てるのが下手なのよ。
あなた以外にも弟子をとったことはあるのだけど、薬を上手く作れるようにならなくてね」
「そうだったんですか〜。これで夜ぐっすりと眠ることができます!
ありがとうございました!」
どうりで温泉薬失敗したわけだ。思い返してみれば師匠から教えられた薬って成功したことなかったし、今まで成功したのって自分で本を見て作った薬だけだったっけ、すごく納得できた。
それにしても師匠はすごい。自分の短所をきちんと把握していて、それを話すことに躊躇しないんだもの。
恥をさらすことを躊躇わないなんて、なんてできた人だろう。尊敬の念はさらに高まりました。
今後もついていきます師匠!
追伸
食べられ屋のことを姫様に提案。姫様以外の永遠亭の皆には賛成されたけど。妹紅さんと慧音さんが反対したため却下。
姫様にできる簡単なお仕事だと思ったんだけどなぁ。
2008年03月24日
鼻血マスター旅行記2
『月の歌姫』
これは歌うことのできなかったプリンが歌えるようになるまでの物語。
その出会いは、プリンにとって、いいことだったのだろうか。
出会いはおつきみやま。特別な出会いではなかった。眠らされて、気づいたらモンスターボールの中。そして、一緒に旅をするように。
住み慣れた場所から離された悲しみはあったけれど、すぐにその悲しみは消えて、旅に夢中になり、主と仲間との楽しい生活が好きになった。
今がずっと続くのだと思っていた。けれど、プリンは忘れていた。そう思っていた以前の生活が、捕まって変わっていたことに。
今が楽しくて、昔を思い出すことをしなかった。だから、忘れてしまっていたのだ、自分が歌えないことを。
きっかけは、始めての戦い。主の歌えという言葉。
いつまでたっても、喉が音で震えることはなく、口から歌が響くことはない。
主は問う。なぜ歌わない?
プリンは答える。私は歌うことができない。
主は言った。プリンならば、歌えて当然だろう?
プリンは答える。でも私は歌えないのです。
昔が蘇る。
おつきみやまに響く仲間たちの歌声。ただ一人、その輪に加われず、過ごした寂しい日々。
当たり前のことができないプリンを、仲間は異端を見る目で見た。
プリンは仲間から離れた。しかし、完全に離れることなど、できはない。なぜなら一人は寂しいから。
いつかあの輪に誘われることを夢見て、離れた場から憧れ見た。
主は、プリンを離すことはなかった。
それをプリンは、共にいることを望まれた、と思ってしまった。
主は待っていたのだ、歌うことを。
主が見ていたのは、歌えぬプリンではなく、歌うという技。
ただプリンの歌う「歌」を望んでいただけだ。
時は少しばかり過ぎ、やがてそれがきた。
まてども、歌うことのできぬプリン。
主にとって、己の願望を果たせぬその存在は、邪魔なだけ。
ならば取る選択は、一つだけ。
どんな選択か、聞かなくともわかるだろう?
一度ぬくもりを知ったプリンには、一人で過ごす日々はとても辛すぎる。
かつての生活に戻るも、かつてと違い、あの輪をただ見るだけなど、できはしない。
ぬくもりの思い出は、寂しさを紛らわせることはなく、寂しさを強く強く感じさせる。
ぬくもりという、消すことのできない毒。その毒は、プリンの体と心を侵しつくしていた。
どれだけの幾十、幾百の昼夜を震えて過ごしたか。それはプリンにはわからない。
いつごろからかおつきみやまに、声が流れだす。
それは、哀しみの声。
そして気づく、己が「歌」を響かせていることに。
それは、哀しみの歌。
かつての輝きを想い、孤独の痛みを絞り出したもの。
私は歌えるのだと、私はここにいるのだと、だからもう一度共に行きたいと。
歌に込められた微かに混じる期待が、せつなさをより引き立たせた。
おつきみやまに響く歌声は、誰もを聞き入らせる。
聞かせたい人へは届かぬ歌を、プリンは毎日一人で歌う。
今日もおつきみやまに、歌は響く。
「やってきました、おつきみやま!」
「どうしていまさら、こんなところに」
おつきみやまの麓に、少女とフシギバナが立っている。少女は元気はつらつとし、フシギバナは少し疲れているように見える。
「シルフカンパニーでは、ロケット団がのさばっているんですよ? 先にあっちをどうにかしないでいいんですか?」
「人間よりも、もえもん! それが私のジャスティス!」
「ということは、ここにいるもえもんに用事があると」
呆れと納得した表情を両立させるフシギバナ。
「そうなの! 噂でね『おつきみやまには、とても綺麗な声で歌うもえもんがいる』って聞いて、いてもたってもいられなくて!
ちょうど暇だったから、来てみたわけよ。綺麗な声で歌うもえもん……とっても可愛いんでしょうねぇ」
「暇って、シルフカンパニーはどうするんですか……聞いてませんね」
少女はうっとりと、まだ見ぬもえもんを想像する。鼻から血が。どうやら姿を知らないもえもんで、興奮できたらしい。どんだけ妄想力が高いのか。
フシギバナは、流れ出した鼻血をティッシュで拭う。それが様になっているということは、何度も繰り返した行為なんだろう。溜息なんてついてると、幸せが逃げるぞフシギバナ。
「さあ、目的のもえもんを探しにしゅっぱ〜つ」
天気は快晴。山の中は、木々に光が遮られて、とても過ごしやすそうだ。散歩にはもってこいの、散歩日和。
「ふと思ったんですけど」
山に入って、少ししてフシギバナが言う。
「なーに?」
目的のもえもんを探すため視線は、あちこちへと向けながら少女は聞き返す。
「どうして連れてきたの私だけなんですか? 探すっていうなら、人数は多いほうがいいでしょ?」
「理由は三つ。一つ目は、あまり大人数でくると、相手が驚くかなって思ったのさ。
んで二つ目、ジム戦で疲れてるあの子たちを、さらに疲れさせるわけにはいかないから。あなたは、今回のエリカ戦はあまり出番がなくて、疲れてないっしょ?」
「それなら、預けている子たちでもよかったんじゃ? あの子たちは全く疲れてませんよ?」
その二つの理由では、完全には納得できないフシギバナ。
「そこで最後の理由。久しぶりにフシギバナとゆっくり過ごしたかった。
最近、他の子たちばかり相手してて、フシギバナとのコミュニケーションが足りてなかったと思うわけです。
フシギバナも皆のリーダーみたいな感じで、忙しかったでしょ? それで、ゆっくりとできてないんじゃないかなって。たまには、お姉さん役から解放してあげたいなぁと」
「そうでしたか……でも一番手のかかる子と一緒だと、ゆっくりできるかどうか」
「はうっ。あはははっ、それは、その……ね?」
言葉とは逆に、フシギバナは嬉しそうな顔で、言い繕う少女を見ていた。自分のことを考えての行動が、嬉しかったんだろう。大切に想われていると、実感できたから。
「皆の姉役は楽しいですよ、だから特に疲れてはいません。でも、ありがとうございます」
二人は、上機嫌でもえもん探しを続けていた。けれど、いっこうにみつからないので、一度休憩することに。
「みつかりませんね?」
「そだねぇ。歌でも聞こえてきたら、その方向に向かうんだけど」
フシギバナが作った弁当を食べつつ話す。
少女も、もえもんたちに手作り弁当を食べてもらいたい、と思って作ったことはあるのだが、鼻血が混ぜるため禁止された。
その際、愛がたっぷり混ざっているからいいじゃないかと反論したのだが、愛があっても血の混ざったものは、誰でもひく。
「もっと詳しい情報はなかったんですか?」
「んー……」
少女が思い出そうとしていると、弁当の匂いにつられたか、プリンたちが茂みから姿を現した。
「可愛いっ」
一秒前の思考を放棄して、目の前のプリンたちに少女は夢中になる。
「マスター……あっ」
これが少女にとって当たり前の反応だとわかってはいても、呆れることをやめられないフシギバナ。そのとき、何か閃いたらしい。
「あなたたちに、聞きたいことがあるんだけど?」
思いついたことは、わからないことは聞けばいい、ということだったようだ。
「いーよ。でも、かわりにそれちょうだい?」
首を傾げてプリンは、食べかけの弁当を指差す。
「ご飯がほしいの? どんどん食べて!」
少女が自分の弁当を差し出した。もらった食べ物を美味しそうに食べるプリンたち。
「マスター。私と一緒にたべませんか。食べたぶんだけじゃ、足りないでしょう?」
しばらく、食べる音だけが辺りに響く。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまー」
「「「ごちそうさまー」」」
「それじゃ、話を戻して。このあたりに、きれいな歌声のもえもんがいるって聞いたんだけど、あなたたち知らない?」
片付けながらフシギバナが聞く。
「あの子のことだ」
「あの子のことだね」
「そうだね」
プリンたちは、頷きあう。
詳しい情報を求める二人に、プリンたちは知っていることを話す。
それは、異端視されていたプリンが、人に連れられ山を出て、傷つき帰ってきた話。
そしてプリンたちは、二人に頼む。あの子の傷を少しでもいいから、癒してあげてほしいと。私たちでは、無理だからと。
プリンにとって歌うということは、楽しいこと。だから、歌声にも楽しさが込められ、さらに楽しく歌うことができる。
でもあのプリンは違う。歌には哀しみが込められていた。プリンたちにとってそれは、衝撃だった。同じプリンが、哀しみを歌うようになる。そんなことをできるまでに、何があったのかと考えて、気づく。自分たちが、行ったことを。しでかしてしまったことの重さを。
哀しみの歌は、毎日流れる。そのたびに自分たちの罪を認識させられる。謝ろうにも、少しでも誰かが近づけば逃げてしまう。人と旅に出て鍛えられたあの子とは、動きが違いすぎて会うことすらできない。
だから、会えたら伝えてほしい。いまさらだけど、一緒に歌おう? 仲間外れにして、ごめんなさい、と言っていたと。
プリンたちに、詳しい場所を教えてもらった二人は、早速そこへ向かう。
少女は、探していた相手に会えるから喜びに満ちている、というわけではなく、苦い表情だった。
「どうしたんです?」
いつもとは雰囲気の違う少女に、フシギダネが心配そうに聞く。
「んー……ちょっとね。昔を思い出しちゃった」
口調は軽いが、表情がそれを裏切る。
「昔……ですか? それは私に会うよりも前?」
「うん。私のこの性格ってね、生まれつきって言っていいほど、前からのものなんだ。
それで、今と同じようによく暴走してねー。皆から、変だ、おかしい、気持ち悪いって言われて、のけ者にされたものだよ。
そのときのことを思い出して、ちょっとだけ気分が沈んじゃった」
「笑いながら言うことじゃないと思いますけど。
暴走を抑えようとか、性格を少しだけでも変えようとかしなかったんですか?」
「そんな器用なことができるんなら、今ここにいないなぁ。それどころか、旅にすら出てないだろうね。
私が旅に出た理由は、こんな狭い町にいるから、のけ者にされるんだ。だから、旅に出れば、自分と同じ人に会える。自分を受け入れてくれる人に会えるっていう理由だし」
「受け入れてくれる人もいなかったんですか?」
「なんだか質問ばかりだよ? まあ、いいけどね。
受け入れてくれる人は、いた。お父さんとお母さん。でも、当たり前すぎて気づけてなかった。旅に出て、やっと気づいたよ」
「今は、見つかりましたか?」
そう聞いたフシギバナの声は。緊張し震えていた。自分たちは、少女を受け入れている。それは断言できる。
だけど、それが届いていないとしたら? 少女が、いまだ哀しみを感じていたとしたら? 私たちでは、力になれていないのかもしれない。それを知るのが、怖い。
「同じ人は、たしかにいた。そして、受け入れてくれる人にも会えた。私の大事な大事な仲間たちにね」
そういった少女は、付き合いの長いフシギバナでも、初めて見るほどの、親愛の込められた微笑みを浮かべていた。
その微笑みは、フシギバナの不安を吹き飛ばして、フシギバナの心に、大事な宝物として刻まれた。
「辛気臭い話になっちゃったね。明るく行こう!
どんな話題がいいかな〜……そうだ! 帰ったら一緒にお風呂入ろう。久しぶりに、フシギバナの体の成長具合を」
「いいですよ。一緒に入りましょう」
「あら? えらく素直に。いつもは、もう少し難色示すのに」
「いいことがありましたから。それにしても、悩みなんかなさそうなマスターにも、暗めの過去があったんですね」
「過去に傷を持ついい女と呼んでくれい」
少女は、手を鉄砲の形にして、あごに持っていき、ふふんと笑う。
「はいはいって、あら? もしかしてこれが?」
向かう先から聞こえてくる歌。綺麗でいて、哀しい歌。この歌にあてられたのか、鳥や虫は鳴くことをせず、歌声のみが響く。
「綺麗だけど、どこかむかついてくるのは、同属嫌悪ってやつなのかしら」
歌を聞いた少女の表情に、浮かぶのは不快だという感情。事情を知らなければ、綺麗さとせつなさだけを感じていただろう。しかし、事情を知った今、その感情は浮かびにくかった。
「この先にいるんですね。静かに行きましょう」
ここから先は、一言も話さずに、足音も立てないようにゆっくりと進んでいく。
やがて木々の隙間から、一人歌うプリンの姿が見えた。
「なにあの子!? なんだかすっごい母性本能湧くんだけど!? ほら鼻血がっ」
少女が、プリンの微弱なかまってオーラを感じ取った。少女のもえもんへの愛が、感じ取らせたのか? そうだとしたら、どこまで好きなんだと聞いてみたい。
「マスターが鼻血を出しているのは、いつものことでしょう。それと母性と鼻血は全く関係ありません。
それよりも騒ぐとみつかりますよ」
「了解。さて都合のイイコトに追い風。フシギバナ、ねむりごな」
「ここからじゃ、届いても効果は薄いですよ?」
「それでも動きは鈍るはず、そこをつるのむちで捕まえよう」
ひそひそと小声で話し、逃げられないように作戦を立てる。そのおかげで、プリンはいまだ二人に気づかず、歌い続けていた。
「いきますっねむりごな」
フシギバナから出たねむりごなは、風に流されて、プリンのもとへ。一分ほど、ねむりごなを風に流すと、プリンの歌が途切れ始めた。
「ここからだと、これ以上の効果はでません」
「それじゃ、いっきにいくわよ!」
二人は、茂みから出て作戦を実行する。
プリンは、なぜだか眠くなっていたところに、突然他人が現れて、驚き固まってしまった。そのおかげでフシギダネは、プリンを簡単に捕まえることができた。
「成功!」
プリンは、なんとか逃げようとじたばた暴れる。だがつるのむちは、攻撃を与えない代わりに、プリンをがんじがらめにしてた。それは、あとでちゃんと解けるか、フシギバナが心配になるほど。
逃げられないとわかったプリンは、暴れるのをやめて二人を見る。いや、睨みつけると言ったほうがいいのかもしれない。
「わたしをどうするつもり?」
「うっふっふっふ、どうしようかしら。あーんなことや、こーんなことを」
「動けない相手に、何するつもりですか」
手をわきわきと動かす少女に、フシギバナがつっこむ。
「どんなことって、撫でて、抱き上げて、頬ずりして、連れ帰って、一緒にお風呂入って、抱き枕」
即答した。
「いつもと一緒ですか……私はてっきり」
若干、頬を赤く染めて、目をそらすフシギバナ。
「てっきり?」
「いやっそのですねっ、え〜と、あの、もっと過激な……」
だんだんと声が小さくなっていく。
「?」
フシギバナが何を言いたいのか、さっぱりわかっていない様子の少女。その手の知識はさっぱりらしい。
その変な雰囲気を破ったのはプリン。
「連れ帰るって、わたしを仲間にでもするつもり?」
「できれば、したいわねっ」
少女は、力いっぱい頷いた。
「あなたは、わたしに何を求めているの? 歌? 役立つ戦闘能力? それなら、ほかをあたって」
ぬくもりという毒に犯されたプリンは、ぬくもりを求めつつも、同じ苦しみをうけることを否定する。でも、誰かと共にあることを否定しきれてはいない。それは、歌に無意識のうちに込められた、わずかな期待が証明している。
そして、前の主がしてくれなかった、してほしかったことを、当たり前のように、やると口にした少女に興味が湧き出していた。
だから問うたのだ。関心がなければ、口さえもきかなかったはずだ。
「私があなたに求めているもの? そんなの決まっているわ! 可愛さよ!」
プリンが想像していたものとは、ずれた答えが返された。
「一緒にいて笑ってほしい。可愛い仕草で、萌えさせてほしい。抱きつきたいし、抱きついてほしい。一緒に旅してほしい。ほかにも、いろいろしたいわね!」
それは欲にまみれた、本能の叫び。隣に立つフシギバナは、呆れている。まあ、ちょっと笑いもしているが。
少なくとも、綺麗な言葉ではない。なれど、心の底からの言葉だから、本気でそう思って出た言葉ゆえに、届いた。
どこに? そんなの決まっている。プリンの心にだ。つけられた傷に染み込むように、わずかに残っていた期待にまでだ。
この人ならば、この人ならば、今度こそ、わたしのほしかったものをくれるんじゃないのか。ふくらみ始めた期待が叫ぶ。
ふくらむ期待に背を押されて、プリンの口から言葉がこぼれ出る。
「わ、わたしは、歌う道具じゃない」
「うん」
「わたしは、強くもない」
「うん」
「わたしは、あなたに何一つ返すことができない……かも」
「そんなことはないよ。一緒にいてくれるだけで、私は嬉しいもの」
「わ、わたしは……」
「私と、いや違うわね。私“たち”と一緒にいかない?」
そう言って少女は、手を差し出した。そばに立つフシギバナは喋らない。けれど、瞳が語る。一緒にいこうと。
緩められたつるのむちから、震える手が出て、少女の手に伸びる。そして重ねられた。
「これからよろしく、プリン」
プリンは答えない。泣いて答えられないから。でも、首は何度も縦にふられていた。
仲間のもとへと帰る。
プリンは、少女に背負われていた。久しぶりに感じるあたたかさを、力いっぱい感じようと、強く抱きつく。
そんなプリンに、少女が話しかけた。
「ねえ、プリン」
「なに、マスター」
この呼び方は、フシギダネを真似たもの。
「もっと歌を覚えようか。今の歌も綺麗なんだけど、ちょっと暗いからねぇ」
「覚えたらマスター嬉しい?」
「一緒に歌える歌が増えるのは、嬉しいよ」
一緒に歌えると聞いて、プリンの笑顔はさらに輝く。
「覚える!」
「それじゃ、何を覚えよっか。JAMなんか、元気があって楽しいんじゃないかな?
ああっでも、少しだけ、ほんの少しだけ、昭和かれすすきを聞きたいかも」
「それがどんな歌かわかりませんが、なぜかプリンには歌わせては駄目だと思うので、やめてください」
そんなことを話ながら、三人は仲間の待つ、もえもんセンターに歩いていった。
これは歌うことのできなかったプリンが歌えるようになるまでの物語。
その出会いは、プリンにとって、いいことだったのだろうか。
出会いはおつきみやま。特別な出会いではなかった。眠らされて、気づいたらモンスターボールの中。そして、一緒に旅をするように。
住み慣れた場所から離された悲しみはあったけれど、すぐにその悲しみは消えて、旅に夢中になり、主と仲間との楽しい生活が好きになった。
今がずっと続くのだと思っていた。けれど、プリンは忘れていた。そう思っていた以前の生活が、捕まって変わっていたことに。
今が楽しくて、昔を思い出すことをしなかった。だから、忘れてしまっていたのだ、自分が歌えないことを。
きっかけは、始めての戦い。主の歌えという言葉。
いつまでたっても、喉が音で震えることはなく、口から歌が響くことはない。
主は問う。なぜ歌わない?
プリンは答える。私は歌うことができない。
主は言った。プリンならば、歌えて当然だろう?
プリンは答える。でも私は歌えないのです。
昔が蘇る。
おつきみやまに響く仲間たちの歌声。ただ一人、その輪に加われず、過ごした寂しい日々。
当たり前のことができないプリンを、仲間は異端を見る目で見た。
プリンは仲間から離れた。しかし、完全に離れることなど、できはない。なぜなら一人は寂しいから。
いつかあの輪に誘われることを夢見て、離れた場から憧れ見た。
主は、プリンを離すことはなかった。
それをプリンは、共にいることを望まれた、と思ってしまった。
主は待っていたのだ、歌うことを。
主が見ていたのは、歌えぬプリンではなく、歌うという技。
ただプリンの歌う「歌」を望んでいただけだ。
時は少しばかり過ぎ、やがてそれがきた。
まてども、歌うことのできぬプリン。
主にとって、己の願望を果たせぬその存在は、邪魔なだけ。
ならば取る選択は、一つだけ。
どんな選択か、聞かなくともわかるだろう?
一度ぬくもりを知ったプリンには、一人で過ごす日々はとても辛すぎる。
かつての生活に戻るも、かつてと違い、あの輪をただ見るだけなど、できはしない。
ぬくもりの思い出は、寂しさを紛らわせることはなく、寂しさを強く強く感じさせる。
ぬくもりという、消すことのできない毒。その毒は、プリンの体と心を侵しつくしていた。
どれだけの幾十、幾百の昼夜を震えて過ごしたか。それはプリンにはわからない。
いつごろからかおつきみやまに、声が流れだす。
それは、哀しみの声。
そして気づく、己が「歌」を響かせていることに。
それは、哀しみの歌。
かつての輝きを想い、孤独の痛みを絞り出したもの。
私は歌えるのだと、私はここにいるのだと、だからもう一度共に行きたいと。
歌に込められた微かに混じる期待が、せつなさをより引き立たせた。
おつきみやまに響く歌声は、誰もを聞き入らせる。
聞かせたい人へは届かぬ歌を、プリンは毎日一人で歌う。
今日もおつきみやまに、歌は響く。
「やってきました、おつきみやま!」
「どうしていまさら、こんなところに」
おつきみやまの麓に、少女とフシギバナが立っている。少女は元気はつらつとし、フシギバナは少し疲れているように見える。
「シルフカンパニーでは、ロケット団がのさばっているんですよ? 先にあっちをどうにかしないでいいんですか?」
「人間よりも、もえもん! それが私のジャスティス!」
「ということは、ここにいるもえもんに用事があると」
呆れと納得した表情を両立させるフシギバナ。
「そうなの! 噂でね『おつきみやまには、とても綺麗な声で歌うもえもんがいる』って聞いて、いてもたってもいられなくて!
ちょうど暇だったから、来てみたわけよ。綺麗な声で歌うもえもん……とっても可愛いんでしょうねぇ」
「暇って、シルフカンパニーはどうするんですか……聞いてませんね」
少女はうっとりと、まだ見ぬもえもんを想像する。鼻から血が。どうやら姿を知らないもえもんで、興奮できたらしい。どんだけ妄想力が高いのか。
フシギバナは、流れ出した鼻血をティッシュで拭う。それが様になっているということは、何度も繰り返した行為なんだろう。溜息なんてついてると、幸せが逃げるぞフシギバナ。
「さあ、目的のもえもんを探しにしゅっぱ〜つ」
天気は快晴。山の中は、木々に光が遮られて、とても過ごしやすそうだ。散歩にはもってこいの、散歩日和。
「ふと思ったんですけど」
山に入って、少ししてフシギバナが言う。
「なーに?」
目的のもえもんを探すため視線は、あちこちへと向けながら少女は聞き返す。
「どうして連れてきたの私だけなんですか? 探すっていうなら、人数は多いほうがいいでしょ?」
「理由は三つ。一つ目は、あまり大人数でくると、相手が驚くかなって思ったのさ。
んで二つ目、ジム戦で疲れてるあの子たちを、さらに疲れさせるわけにはいかないから。あなたは、今回のエリカ戦はあまり出番がなくて、疲れてないっしょ?」
「それなら、預けている子たちでもよかったんじゃ? あの子たちは全く疲れてませんよ?」
その二つの理由では、完全には納得できないフシギバナ。
「そこで最後の理由。久しぶりにフシギバナとゆっくり過ごしたかった。
最近、他の子たちばかり相手してて、フシギバナとのコミュニケーションが足りてなかったと思うわけです。
フシギバナも皆のリーダーみたいな感じで、忙しかったでしょ? それで、ゆっくりとできてないんじゃないかなって。たまには、お姉さん役から解放してあげたいなぁと」
「そうでしたか……でも一番手のかかる子と一緒だと、ゆっくりできるかどうか」
「はうっ。あはははっ、それは、その……ね?」
言葉とは逆に、フシギバナは嬉しそうな顔で、言い繕う少女を見ていた。自分のことを考えての行動が、嬉しかったんだろう。大切に想われていると、実感できたから。
「皆の姉役は楽しいですよ、だから特に疲れてはいません。でも、ありがとうございます」
二人は、上機嫌でもえもん探しを続けていた。けれど、いっこうにみつからないので、一度休憩することに。
「みつかりませんね?」
「そだねぇ。歌でも聞こえてきたら、その方向に向かうんだけど」
フシギバナが作った弁当を食べつつ話す。
少女も、もえもんたちに手作り弁当を食べてもらいたい、と思って作ったことはあるのだが、鼻血が混ぜるため禁止された。
その際、愛がたっぷり混ざっているからいいじゃないかと反論したのだが、愛があっても血の混ざったものは、誰でもひく。
「もっと詳しい情報はなかったんですか?」
「んー……」
少女が思い出そうとしていると、弁当の匂いにつられたか、プリンたちが茂みから姿を現した。
「可愛いっ」
一秒前の思考を放棄して、目の前のプリンたちに少女は夢中になる。
「マスター……あっ」
これが少女にとって当たり前の反応だとわかってはいても、呆れることをやめられないフシギバナ。そのとき、何か閃いたらしい。
「あなたたちに、聞きたいことがあるんだけど?」
思いついたことは、わからないことは聞けばいい、ということだったようだ。
「いーよ。でも、かわりにそれちょうだい?」
首を傾げてプリンは、食べかけの弁当を指差す。
「ご飯がほしいの? どんどん食べて!」
少女が自分の弁当を差し出した。もらった食べ物を美味しそうに食べるプリンたち。
「マスター。私と一緒にたべませんか。食べたぶんだけじゃ、足りないでしょう?」
しばらく、食べる音だけが辺りに響く。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまー」
「「「ごちそうさまー」」」
「それじゃ、話を戻して。このあたりに、きれいな歌声のもえもんがいるって聞いたんだけど、あなたたち知らない?」
片付けながらフシギバナが聞く。
「あの子のことだ」
「あの子のことだね」
「そうだね」
プリンたちは、頷きあう。
詳しい情報を求める二人に、プリンたちは知っていることを話す。
それは、異端視されていたプリンが、人に連れられ山を出て、傷つき帰ってきた話。
そしてプリンたちは、二人に頼む。あの子の傷を少しでもいいから、癒してあげてほしいと。私たちでは、無理だからと。
プリンにとって歌うということは、楽しいこと。だから、歌声にも楽しさが込められ、さらに楽しく歌うことができる。
でもあのプリンは違う。歌には哀しみが込められていた。プリンたちにとってそれは、衝撃だった。同じプリンが、哀しみを歌うようになる。そんなことをできるまでに、何があったのかと考えて、気づく。自分たちが、行ったことを。しでかしてしまったことの重さを。
哀しみの歌は、毎日流れる。そのたびに自分たちの罪を認識させられる。謝ろうにも、少しでも誰かが近づけば逃げてしまう。人と旅に出て鍛えられたあの子とは、動きが違いすぎて会うことすらできない。
だから、会えたら伝えてほしい。いまさらだけど、一緒に歌おう? 仲間外れにして、ごめんなさい、と言っていたと。
プリンたちに、詳しい場所を教えてもらった二人は、早速そこへ向かう。
少女は、探していた相手に会えるから喜びに満ちている、というわけではなく、苦い表情だった。
「どうしたんです?」
いつもとは雰囲気の違う少女に、フシギダネが心配そうに聞く。
「んー……ちょっとね。昔を思い出しちゃった」
口調は軽いが、表情がそれを裏切る。
「昔……ですか? それは私に会うよりも前?」
「うん。私のこの性格ってね、生まれつきって言っていいほど、前からのものなんだ。
それで、今と同じようによく暴走してねー。皆から、変だ、おかしい、気持ち悪いって言われて、のけ者にされたものだよ。
そのときのことを思い出して、ちょっとだけ気分が沈んじゃった」
「笑いながら言うことじゃないと思いますけど。
暴走を抑えようとか、性格を少しだけでも変えようとかしなかったんですか?」
「そんな器用なことができるんなら、今ここにいないなぁ。それどころか、旅にすら出てないだろうね。
私が旅に出た理由は、こんな狭い町にいるから、のけ者にされるんだ。だから、旅に出れば、自分と同じ人に会える。自分を受け入れてくれる人に会えるっていう理由だし」
「受け入れてくれる人もいなかったんですか?」
「なんだか質問ばかりだよ? まあ、いいけどね。
受け入れてくれる人は、いた。お父さんとお母さん。でも、当たり前すぎて気づけてなかった。旅に出て、やっと気づいたよ」
「今は、見つかりましたか?」
そう聞いたフシギバナの声は。緊張し震えていた。自分たちは、少女を受け入れている。それは断言できる。
だけど、それが届いていないとしたら? 少女が、いまだ哀しみを感じていたとしたら? 私たちでは、力になれていないのかもしれない。それを知るのが、怖い。
「同じ人は、たしかにいた。そして、受け入れてくれる人にも会えた。私の大事な大事な仲間たちにね」
そういった少女は、付き合いの長いフシギバナでも、初めて見るほどの、親愛の込められた微笑みを浮かべていた。
その微笑みは、フシギバナの不安を吹き飛ばして、フシギバナの心に、大事な宝物として刻まれた。
「辛気臭い話になっちゃったね。明るく行こう!
どんな話題がいいかな〜……そうだ! 帰ったら一緒にお風呂入ろう。久しぶりに、フシギバナの体の成長具合を」
「いいですよ。一緒に入りましょう」
「あら? えらく素直に。いつもは、もう少し難色示すのに」
「いいことがありましたから。それにしても、悩みなんかなさそうなマスターにも、暗めの過去があったんですね」
「過去に傷を持ついい女と呼んでくれい」
少女は、手を鉄砲の形にして、あごに持っていき、ふふんと笑う。
「はいはいって、あら? もしかしてこれが?」
向かう先から聞こえてくる歌。綺麗でいて、哀しい歌。この歌にあてられたのか、鳥や虫は鳴くことをせず、歌声のみが響く。
「綺麗だけど、どこかむかついてくるのは、同属嫌悪ってやつなのかしら」
歌を聞いた少女の表情に、浮かぶのは不快だという感情。事情を知らなければ、綺麗さとせつなさだけを感じていただろう。しかし、事情を知った今、その感情は浮かびにくかった。
「この先にいるんですね。静かに行きましょう」
ここから先は、一言も話さずに、足音も立てないようにゆっくりと進んでいく。
やがて木々の隙間から、一人歌うプリンの姿が見えた。
「なにあの子!? なんだかすっごい母性本能湧くんだけど!? ほら鼻血がっ」
少女が、プリンの微弱なかまってオーラを感じ取った。少女のもえもんへの愛が、感じ取らせたのか? そうだとしたら、どこまで好きなんだと聞いてみたい。
「マスターが鼻血を出しているのは、いつものことでしょう。それと母性と鼻血は全く関係ありません。
それよりも騒ぐとみつかりますよ」
「了解。さて都合のイイコトに追い風。フシギバナ、ねむりごな」
「ここからじゃ、届いても効果は薄いですよ?」
「それでも動きは鈍るはず、そこをつるのむちで捕まえよう」
ひそひそと小声で話し、逃げられないように作戦を立てる。そのおかげで、プリンはいまだ二人に気づかず、歌い続けていた。
「いきますっねむりごな」
フシギバナから出たねむりごなは、風に流されて、プリンのもとへ。一分ほど、ねむりごなを風に流すと、プリンの歌が途切れ始めた。
「ここからだと、これ以上の効果はでません」
「それじゃ、いっきにいくわよ!」
二人は、茂みから出て作戦を実行する。
プリンは、なぜだか眠くなっていたところに、突然他人が現れて、驚き固まってしまった。そのおかげでフシギダネは、プリンを簡単に捕まえることができた。
「成功!」
プリンは、なんとか逃げようとじたばた暴れる。だがつるのむちは、攻撃を与えない代わりに、プリンをがんじがらめにしてた。それは、あとでちゃんと解けるか、フシギバナが心配になるほど。
逃げられないとわかったプリンは、暴れるのをやめて二人を見る。いや、睨みつけると言ったほうがいいのかもしれない。
「わたしをどうするつもり?」
「うっふっふっふ、どうしようかしら。あーんなことや、こーんなことを」
「動けない相手に、何するつもりですか」
手をわきわきと動かす少女に、フシギバナがつっこむ。
「どんなことって、撫でて、抱き上げて、頬ずりして、連れ帰って、一緒にお風呂入って、抱き枕」
即答した。
「いつもと一緒ですか……私はてっきり」
若干、頬を赤く染めて、目をそらすフシギバナ。
「てっきり?」
「いやっそのですねっ、え〜と、あの、もっと過激な……」
だんだんと声が小さくなっていく。
「?」
フシギバナが何を言いたいのか、さっぱりわかっていない様子の少女。その手の知識はさっぱりらしい。
その変な雰囲気を破ったのはプリン。
「連れ帰るって、わたしを仲間にでもするつもり?」
「できれば、したいわねっ」
少女は、力いっぱい頷いた。
「あなたは、わたしに何を求めているの? 歌? 役立つ戦闘能力? それなら、ほかをあたって」
ぬくもりという毒に犯されたプリンは、ぬくもりを求めつつも、同じ苦しみをうけることを否定する。でも、誰かと共にあることを否定しきれてはいない。それは、歌に無意識のうちに込められた、わずかな期待が証明している。
そして、前の主がしてくれなかった、してほしかったことを、当たり前のように、やると口にした少女に興味が湧き出していた。
だから問うたのだ。関心がなければ、口さえもきかなかったはずだ。
「私があなたに求めているもの? そんなの決まっているわ! 可愛さよ!」
プリンが想像していたものとは、ずれた答えが返された。
「一緒にいて笑ってほしい。可愛い仕草で、萌えさせてほしい。抱きつきたいし、抱きついてほしい。一緒に旅してほしい。ほかにも、いろいろしたいわね!」
それは欲にまみれた、本能の叫び。隣に立つフシギバナは、呆れている。まあ、ちょっと笑いもしているが。
少なくとも、綺麗な言葉ではない。なれど、心の底からの言葉だから、本気でそう思って出た言葉ゆえに、届いた。
どこに? そんなの決まっている。プリンの心にだ。つけられた傷に染み込むように、わずかに残っていた期待にまでだ。
この人ならば、この人ならば、今度こそ、わたしのほしかったものをくれるんじゃないのか。ふくらみ始めた期待が叫ぶ。
ふくらむ期待に背を押されて、プリンの口から言葉がこぼれ出る。
「わ、わたしは、歌う道具じゃない」
「うん」
「わたしは、強くもない」
「うん」
「わたしは、あなたに何一つ返すことができない……かも」
「そんなことはないよ。一緒にいてくれるだけで、私は嬉しいもの」
「わ、わたしは……」
「私と、いや違うわね。私“たち”と一緒にいかない?」
そう言って少女は、手を差し出した。そばに立つフシギバナは喋らない。けれど、瞳が語る。一緒にいこうと。
緩められたつるのむちから、震える手が出て、少女の手に伸びる。そして重ねられた。
「これからよろしく、プリン」
プリンは答えない。泣いて答えられないから。でも、首は何度も縦にふられていた。
仲間のもとへと帰る。
プリンは、少女に背負われていた。久しぶりに感じるあたたかさを、力いっぱい感じようと、強く抱きつく。
そんなプリンに、少女が話しかけた。
「ねえ、プリン」
「なに、マスター」
この呼び方は、フシギダネを真似たもの。
「もっと歌を覚えようか。今の歌も綺麗なんだけど、ちょっと暗いからねぇ」
「覚えたらマスター嬉しい?」
「一緒に歌える歌が増えるのは、嬉しいよ」
一緒に歌えると聞いて、プリンの笑顔はさらに輝く。
「覚える!」
「それじゃ、何を覚えよっか。JAMなんか、元気があって楽しいんじゃないかな?
ああっでも、少しだけ、ほんの少しだけ、昭和かれすすきを聞きたいかも」
「それがどんな歌かわかりませんが、なぜかプリンには歌わせては駄目だと思うので、やめてください」
そんなことを話ながら、三人は仲間の待つ、もえもんセンターに歩いていった。
2008年03月23日
東方SS がんばり小町はなかったことに?
さあ今日も仕事を頑張るか。
目が覚めて思ったことだ。らしくないとわかってはいるが仕方ない。
もっと寝ていたいという欲望を振り切って、気持ちのいい布団から出る。
パジャマのまま台所に立ち、朝食の準備。
しっかり食べないともたないからのは、ここ数日でよくわかってる。
味噌汁とご飯と漬物とシシャモをかきこんで、ご馳走様と手を合わせる。
茶碗を桶に漬け込んで、顔を洗うなど出かける準備をすませていく。
仕事着に着替えて、気合を入れる。
「今日も一日頑張るかね」
鏡を見ておかしなとこはないか確認。
壁に立てかけていた大鎌を持って、死神である小野塚小町は家を出た。
三途の河にかかった橋で大きな台車に幽霊を乗せて運ぶ、そんな勤労なあたいを見て驚く人はもういない。始めこそ驚かれはしたが、もう慣れたんだろう。
能力も使い走りながら橋の下を見る。
「まだまだか。あと何日こんな生活続ければいいのかねぇ。
さぼってばかりの日々に早く戻りたいよ」
橋の下ではようやく水が戻ってきた三途の河が見える。でも深さが足りず船をだすことはできない。
橋の上ではあたいと同じように、死神が台車を使って幽霊を運んでいる。
あたいのように移動用の能力がないあいつらは、体力が持つように一度に運ぶ幽霊の数を少なくしている。
そのぶんあたいが頑張らないといけないのだ。
こんなことになった原因は一応あたいにあるので文句も言えないし、さぼることもできやしない。
原因のおおもとは映姫様にあるような気がするけど、間違ったことは仰ってないしなぁ。
ただこんなことになったのが予想外なだけで。
それでも思っちまうのはいけないことなのか。真面目に働くんじゃなかったと。
その日もあたいはさぼっているところを映姫様にみつかって説教を受けていた。
長い説教の最後に映姫様はいつものように、
「小町、あなたに今できる善行は真面目に働くことです」
と言って説教を終えた。
正直、今まで何度も聞いてて聞き飽きた言葉だけど、このときはなんでか、
「わかりました。今日はもう無理なので、明日真面目に働きます」
と答えた。これは偽りじゃなく、本当にそう思って答えたんだ。
たまには言うとおりにしてみようと思っただけなんだがね。
映姫様もいい加減に答えたのではないとわかったのだろう、嬉しそうに頷いてくれた。
いい笑顔だったんで気合も高まった。
そして次の日、宣言どおりあたいは頑張った。死神になって初めてといえるほど、仕事に集中した。能力も使ってたくさんの幽霊を運んだ。
いつもは五人ほど運んで一日の業務を終えるあたいが、その十倍の数を運んだんだから褒めてほしい。
50人という数はあたいがいままでに運んだ最高人数。それだけじゃなく歴代の死神の中でもナンバーワンだった。
映姫様も「やればできるじゃないですか」と、とても喜んでくださった。くたくただったあたいはそんな映姫様に言葉少なに答えて家に帰った。
そんな状態だったから、どうしたんだと聞いてくる同僚の相手もできなかったよ。
このとき理由を答えていれば、もしかすると後の惨事を防げたかもしれない。いまさらどうしようもないことだけど。
夕食も食べずになんとか湯浴みを済ませて布団にもぐりこむ。
あとはそのまま朝までぐっすり。
目を覚ましたのはトントントントンという音を台所から聞いたから。
懐かしい音で、寝ぼけた頭に「ああ、昔かあさんが朝食の準備してくれてた音だ」と浮かんだ。
とそこでがばりと起きた。あたいは一人暮らしだから、そんな音が聞こえてくるはずないんだ。
ご飯まで食べていく変な泥棒かと思って足音を忍ばせて台所に向かうと、そこにいたのはエプロンを身につけて料理している映姫様。
ふーっと安堵の息を吐いて、何しているんですかと声をかけた。
「おはようございます。見てわかるでしょう?」
「ええ、わかります。でもなんで朝食を作っているのかはわかりません」
そう言うと。
「ご褒美といいますか、なんというか。
昨日あなたすごく疲れていたでしょう? 普段使わない能力まで使って働いたから」
「はい」
「それで料理を作るのも億劫なのではと思ってですね、昨日ここに来たのです。
案の定、料理もせずに寝ていました。
夕飯を作ったあと起こしてみたのですが、熟睡してて起きなかったのですよ」
「はあ、すみません」
なんとなくだけど誰かに声をかけられたような? あれは映姫様だったのか。
「謝ることはありません。それほど疲れていただけですから。
それでもせっかく作った料理を一緒に食べることができないのは寂しいと思いまして。
家主の了承を得ず、勝手に宿泊し、朝食として温めなおし準備をしていたというわけです。
ですから謝るのは私のほうですね。勝手に泊まり申し訳ありません」
「い、いえ映姫様が謝ることはありませんよ!
あたいのことを思ってしてくれたことですから。
ありがたいと思ってます」
本当に、だから映姫様は好きなんだ。
さぼってばかりのあたいを見捨てずに気にかけて、今回のようなこともしてくださる。
「そう言ってくれますか。
さあ食べましょう。正直、料理はあまり得意ではないので恥ずかしいのですが」
「少しくらい不味かろうが食べますよ。あたいのための料理ですから」
久しぶりの一人ではない食卓に、部下おもいの上司が作ってくれた料理。
あたいは幸せ者だ。
料理は映姫様も言っていたとおり美味しいというほどでもなかった。
でも想いが込められていたぶんだけ、暖かかで食が進んだ。
後日ふと思ったことがある。映姫様はどうやってあたいの家に入ったのか?
鍵はかけたはずなんだ。ピッキン……いやいやまさかね? 窓から入ったのさ、きっとそうだ。
そのあとは映姫様と一緒に職場である三途の河にむかった。
そしたら河付近が騒がしかったんだ。どうしたんだろうと思っていたら見たことのない光景が目に入ってきた。
三途の河が枯れてた。
長いこと船頭してるけど、三途の河は枯れるどころか、水位が減ったところすら見たことがないのに。
いま目の前にあるのは向こう岸まで地続きで、幽霊の魚がぴちぴちと跳ねている地面だけ。
何があったんだろう?
映姫様なら知ってるかなと隣を見たら、映姫様も呆然としていた。
おもわず天狗から写真機を借りてきて、撮って残しておきたいくらい可愛らしい表情だ。
愛らしい映姫様をずっと見ていたかったけど、そういうわけにもいかなかった。
幽霊たちが向こう岸へと移動し始めたからだ。水がないので渡れると思ったらしい。
慌ててその場にいた死神たちが止める。でも止める必要はなかった。水があった部分に踏み入ろうとして止まったから。
進もうとしても進めないところを見ると、水はなくても幽霊が三途の河跡地を渡ることはできないらしい。
勝手に動くことは免れたけど、別の問題が出てきた。幽霊を向こう岸へと運べないのだ。
今取れる手段といったら幽霊を背負っていくこと。それはさすがに勘弁だ。知らない奴に触れられるのはいい気分じゃない。
「小町」
いつもの真面目な顔に戻った映姫様があたいを呼ぶ。
「はい?」
「私を向こう岸へと運んでもらえますか? ほかの閻魔たちならば、この状況の原因を知っているかもしれません」
「了解です」
映姫様に背を向けて屈む。
「乗ってください」
「……はあ」
なぜか溜息をついた映姫様はしぶしぶといった感じで負ぶさる。
もしかして抱っこのほうがよかったのだろうか?
見た目どおり軽い映姫様を背負って、あっという間に岸に到着。もうちょっと背負っていたかった。能力使うんじゃなかったか。
「映姫様が調べている間、あたいはどうしましょう?」
「そうですね……ほかの死神を手伝って幽霊を運んではどうです?」
そう言って指差す方向には、板に幽霊を乗せて二人がかりで飛んでくる死神の姿が。
船をこぐのとは費やす体力が違うのか、こっち側にきたときにはその死神二人はばてていた。
「……すごく疲れそうですよ?」
「それでも幽霊を運ばないわけにはいかないでしょう?
体を壊さない程度に手伝ってくるのです」
「……わかりました」
昨日も疲れて、今日も疲れるのか。
適度に休憩を入れながら幽霊を運んでいると、映姫様が差し入れを持ってやってきた。
その表情はどこか困っているようにも見えた。
どうしたのですかと聞くと、なんともいえない表情で説明を始めた。
簡単に言うとこの状況の原因は私にあるらしい。直接的ではなく間接的にだが。
真面目に働いて歴代トップの記録すら叩きだしたあたいを見て、同僚が騒ぎ、中有の出店連中も驚いて、その騒ぎを天狗の記者が聞きつけ新聞にして、といった具合にどんどん繋がっていき、最後には八雲紫にまで騒ぎは届いた。騒ぎに巻き込まれた際に、操作しようとした隙間を誤って三途の河の水源に開けた。その隙間に三途の水が流れ込んであっという間に水はすっからかん。
という理由らしい。なんであたいが真面目に働いたくらいで、ここまで大変な状況になるんだろうな?
不条理だと思っていると、映姫様は続きを話していた。
「河が元通りになるまで、一時的に橋をかけることになりました。
明日には橋はかかっていますから、幽霊を運ぶ際にはその橋を使ってください」
「わかりました。でも橋って一日でできるもんですか?」
「今日は運よく満月です。上白沢慧音に協力してもらい、橋は元からあったという歴史を作ってもらえることになりました」
「へーそれは助かる話です」
回想に浸っている間に橋の終わりが近づいてきた。ここからはスピードを落とさないとね。
「到着だよ。降りた降りた」
七人ほど乗っていた幽霊を下ろす。
「あとは真っ直ぐ進めばいいからね」
それだけ言って来た道を戻る。一日に十往復以上するから、歴代記録はさらに伸びている。
まあ、どうでもいいことさね。そんなことよりも早くさぼれるようになりたい。
そんなことを思いながら、その日最後の仕事を始めた。
橋の終わりに映姫様が立っている。悔しそうな申し訳なさそうな顔をして。
少し離れたところには上白沢慧音の姿も見える。
最後の客を見送ってから、映姫様に近寄る。
「どうされたんです? そんな顔して」
映姫様は言いづらそうに話し始める。
「……十王がある判断を下しました。
それは三途の河が枯れたという事実をなくすことです。
橋を作ったときと同じように上白沢慧音に依頼し、原因の歴史を食べてもらうことになりました」
慧音がいるのはそのためか。
原因というと……あたいが真面目に働いたことだ。
それで三途の河が元に戻るなら、あたいは構わないんだけどさ。
「私は反対したのですが、ただでさえ滞っていた審判に支障がでて、比岸にいる幽霊の数も増えて、比岸や中有辺りの秩序が保てないと説得され承諾せざるおえませんでした。
本当に申し訳ありません」
そう言って映姫様は頭を下げるけど、なんで謝るのかあたいにはわからない。
「三途の河が元に戻るならば、いいことじゃないですか。
どうして映姫様が謝るんです?」
「なかったことにするということは、あなたの頑張りをなかったことにするということですよ。ここ十日の働きが全てなくなるのです。
私はそれが無念でならないのです」
あたいの頑張りを守ることができなくて、謝ってくれたのか。
本人はたいして気にしていないのに、あたいこそ申し訳なくなってくる。
そんなに想ってくださって、ありがとうと言いたい。
でも今は映姫様にこんな表情をやめてもらうほうが先だ。
「気になさらないでください。自業自得だと思っていますから。
普段からもう少し真面目だったら、こんなことにはなっていませんでした。
だから映姫様がそんな表情をなさる必要はありませんよ」
「ですが」
「本当に大丈夫ですから。ありがとうございます」
あ、でも一つだけ心残りがあるな。
映姫様が料理を作ってくれて、一緒に食べたこともなかったことになるのはちょっと残念だ。
……それも自業自得か。
「ここにいるってことはすぐにでも始めるんだろ?」
慧音に話しかける。
「ああ、そうだ。だがお前はそれでいいのか?」
「いいさ。だからさっさと始めとくれ」
「……わかった」
頷くと慧音は力を解き放った。
あたいはさぼっているところを映姫様にみつかって説教を受けている。
長い説教の最後に映姫様はいつものように、
「小町、あなたに今できる善行は真面目に働くことです」
と言って説教を終えた。
……なんだか今日の説教以前も聞いたような気が? 何度も説教されているからそう思ったのか?
「聞いているのですか小町?」
「あ、はい。ちゃんと聞いてます」
「あなたはやればできるのですから、もう少し真面目になりなさい」
ん? やればできるって映姫様なに言ってるんだろう?
自慢じゃないが真面目に働いたことはないけどね?
でも、そう言われて悪い気はしない。
「それじゃ今日は無理ですから、明日ほどほどに頑張ります。
頑張りすぎて体壊さない程度に」
普段の3倍くらい頑張ればいいかね。それでやっとほかの死神の平均だけど。
「仕方ありませんね」
軽い苦笑を見せる映姫様。なんだか一瞬いい笑顔も見えた気もする。気のせいか?
ま、そんなことより。
「映姫様、これから一緒にご飯食べに行きません?」
「……まだ少し仕事が残っているのですが」
「終るまで待ちますよ。遅くなるようなら、あたいが作ります」
「……わかりました。少し待っててください。すぐに終らせてきます」
「はい、待ってます」
いってらっしゃいと見送る。なんとなく急いでいるように見えたのは、映姫様も楽しみしてくださっていると思っていいのかな。
映姫様と一緒の食事って久しぶりだね。楽しみだ。
たしか映姫様の手料理は食べたことがなかったはず。一緒に作って食べるのもいいかな。
うん、決めた。材料買って一緒に作ろう! 何を作ろうか、映姫様の好物ってなんだったっけな〜。
献立を考えていたから映姫様を待つ間、暇なんかすることなく楽しく待てた。
こんな時間をくださった映姫様には感謝だ。
明日は頑張って仕事するかね。ほどほどに。
歴史を食べるというのは慧音だけの能力だ。
歴史をどんなふうにして食べ消すのか、ほかの誰にも理解はできないだろう。
だから指定された歴史を全て消したかなど誰にもわかりはしない。
もちろん矛盾がでてくると困るから、残すとしてもほんの少しだけだろうが。
例えば、あまりに無念そうな映姫を慮って、小町と映姫の記憶にうっすらとだけ残すとか。
所詮は憶測だし、そもそも慧音以外は覚えておらず確認のしようがないこと。
いま確実なのは、これからのことで楽しそうにしている小町と映姫だけ。
2008年03月22日
鼻血マスター旅行記
1
「ねえますたー?」
「何?」
「どうしてますたーはそんなに笑顔なの?」
「それはね、フシギダネと一緒にいられるからよ」
「ねえますたー?」
「何?」
「どうしてますたーはわたしを先に歩かせるの?」
「それはね、フシギダネの後姿が一番好きだからよ」
「ねえますたー?」
「何?」
「どうしてますたーはいつも鼻血を流してるの?」
「それはね、いつもフシギダネに萌えてるからよっ!」
力強くそう言いきったマスターのいい笑顔は今でも覚えている。
それと血液不足で何度か旅が中断したのも、今ではいい思い出です。
フシギバナ、暇つぶしに病院待合室で仲間への語り
その一部を抜粋
2
うちのマスターは変わってます。
マスターとの初めての出会いは、マサラタウン近くの草むらでした。
時々見かける人間とは違って、鼻血をたらしながら仲間のフシギダネを見ている姿が印象的な変人でした。
私をみつけたマスターは、当時の仲間から聞いていた私たちを捕まえるモンスターボールというものを使わずに鼻血を出しつつ走りよって掴みかかってきました。
その姿に普通にひいて固まった私は、あっさりと捕まってしまいました。
あとでモンスターボールを使わなかった理由を聞いたところ、「持っていなかったけどこの運命の出会いを逃したくない」というよくわからない理由でした。
マスターと一緒に旅を始めてマスターの変人度が高いということを思い知らされました。
他のマスターの仲間に無駄だとわかっていてモンスターボールを何度も投げて、バトル後に説教されながら私たちを鼻血を出しながら見てたり(説教はたいてい私たちへの同情で終ります)、野生ポケモンにかじられながら素手で捕まえようとするのはざらです。私たちへの愛で、血液をトマトジュースで代用なんかもしてみせたりもしました。
マスターほどの人間はほとんどいませんが、時々稀にマスターと気の合う人がいます。その人たちも変人です。特にマスターが師匠と仰ぐ人は、マスターを超えます。
名前は教えてもらっていませんが「RO団のトップ」と呼んでくれと頼まれました。
たぶんというか確実に、旅先で悪さをしているロケット団の一番偉い人なんでしょうけどマスターは全く気づいていません。
ロケット団員を倒して萌えもんを悪さに使うなんて許せないと怒っている姿は、笑っていいのか呆れていいのか困ってしまいます。
こんなマスターですから私たちで支えないと駄目だと日々確信していきます。
マスターが呼んでいるので今日の日記はここまで。
ピジョンの日記より抜粋
3
「マスター見て見てー」
「んー? ぶふぅっ」
ヒトカゲに呼ばれたマスターが、その方向を見て、飲んでいたお茶を噴き出した。
いつも鼻血をたらすなどおかしな行為で、私(ピジョン)たちを驚かすマスターをして、驚かせた光景。
それは、いつのまにか湖に入ったヒトカゲのシンクロナイズドスイミングだった。
マスターの驚きを見て、満足したヒトカゲが、こっちに泳いでくる。って危なっ!? 炎は水につけちゃ駄目ー!?
水から上がったヒトカゲが、ふらりとその場に座り込む。
「体が濡れて力がでないよぅ」
昨日見た、菓子パンヒーローと同じこと言ってる場合じゃないでしょ!?
「それを言いたいがために、体をはったのね!?
この状況で言っても、洒落にならないから!
ああっでも! ヒトカゲのレアな水着姿が見られて、喜んでいる自分が可愛いっ」
「マスター落ち着いて!? 早く水をふかないとー!」
慌てつつも、ヒトカゲの水着姿を堪能するマスターはすごいと思う。
リュックの隅に転がっていた「げんきのかけら」で、事態はどうにか収まった。
4
「ますたーこんなのひろった」
「見せてみて、ポニータ」
「うん」
「こ、これは!? 伝説の非行の石!?」
「すごいもの?」
「全ての萌えもんに使用でき、使えば萌えもんが似合わないサングラスをつけて悪ぶるという。
かのなめネコもこれを使って、世の中を席巻したらしいわ。
ポ、ポニータに使っていい?」
「やめい」
萌えに命をかけるトレーナーは、仲間のリザードによって気絶させられた。
その間に非行の石は捨てられ、非行の石はトレーナーが見た夢だったということになったとさ。
5
『マスターの欲には果てがない』
「マスター」
「何?」
「最近、よく私にフェザーダンス使わせますよね、どうしてですか?
苦手な相手ならわかるんですけど、得意な相手にも、使わせてますよ?」
「え、えーと……あっケーキ買ってこようか? ピジョンの好きなモンブラン!」
「誤魔化さないでください」
「言わなくちゃ駄目?」
「その反応は、変な目的のためなんでしょうけど、一応聞いておきたいです」
「……羽を集めてたの」
「羽ですか?」
「うん。羽をたくさん集めて、ピジョンの香りの枕を作ろうと思って」
「顔を赤らめながら言わないでください。ついでに鼻血も拭いてください。
それにしても、私たちを抱き枕にするだけじゃ、満足できなかったんですか?」
「抱き枕をしてるときは、一人しか可愛がれないじゃない? それで、もっと贅沢にするにはって考えた結果」
「羽枕だと?」
「うん」