2008年05月

2008年05月31日

東方SS ある日の美鈴

※このSSは美鈴のセリフのみで成り立っています。
 セリフのみ情景描写なしで光景を表現しようという実験作なのでご注意ください。




お嬢様どうされたんですか? 私の部屋に来るなんて珍しいですね。

暇だから? 咲夜さんはどうしたんですか?

小用で里に出かけているんですか。ええ、私はかまいませんよ。

どうぞ、そこの椅子に座ってください。

ウローン茶でいいですか?

それにしてもこんな時間にお嬢様が起きているのも珍しいですね。まだ日は沈んでませんよ。

早めに目が覚めた? あ〜たまにありますね、なにもないのに目が覚めることって。

熱いから気をつけてください。

私がこの時間に部屋にいるのも珍しい? 休みでもないのに?
それはですね、今日夜勤だからです。

はい、たまに夜も立っていますよ。知りませんでした?

そうですね、たしかにお嬢様たちが起きてますから警備として立つ必要はありません。それでも立っているのは、お嬢様が相手するまでもない客を追い返すためですね。雑魚なら私がでるまでもないんですが、たまに微妙に手強い妖怪がくるんですよ。もう少し強ければお嬢様の暇つぶしのために通すことができるような妖怪が。
そんな妖怪はほかの警備妖精じゃ相手はきついので私が追い返します。

はい、そのとおりです。いつそんな妖怪がくるのかわかりません。だから私もたまに夜に立っているんですよ。

え? いえいえ十分に睡眠とって起きたばかりですから、邪魔なんてそんなことはありません。

はい! これからも頑張りますよ! 好きで門番してますから。

働くことが好きっていうよりも、ここにいる人たちを守れていると実感できるからです。紅魔館の人たち皆好きですから。

もちろん、お嬢様も入ってますよ。

顔が赤いですよ? なんでもない平気? それならいいんですが。
おや誰かきましたね?

フランドール様いらっしゃいませ。

お嬢様がここにいる理由ですか? 早めに起きて咲夜さんがいなくて暇だから、私に話し相手になってくれと。
フランドール様は今日も? では準備しましょう。こちらに来てください。

これですか? フランドール様のチャイナドレスですよ。

以前、お嬢様と咲夜さんとパチュリー様が天人がどうとかで出かけましたよね? そのときフランドール様が暇だというので、今日のお嬢様と同じように話し相手になっていたんです。
そのときフランドール様が私の服を着てみたいと仰られたので、着替えてみたんですがやはりサイズが違っていて。それでも着たいと仰られたので、一から作ったのがこれです。ほかにも色違いで似たような服が二着ありますよ。

ええ、思いのほか気に入られたようなので、暇ができたら作っているんです。服ができるたびに喜んでもらえて、作った側としては嬉しいですね。
ウィッグをつけて……両側お団子にして完成です!

ええ、とても可愛いですよ。
うわっと甘えんぼさんですね。

え? お嬢様も着る? 私のだとサイズはあいませんし、フランドール様に聞いてみたらいかがです?

一度くらいならいいと思いますがフランドール様? 

あーたしかにフランドール様のために作ったものですから、フランドール様が駄目だというなら貸すわけにはいかないでしょうね。

たくさん服持っているじゃないですかお嬢様。そんなに着たがらなくても、自前で似たような服があるのでは?

それでは駄目?

無理強いは駄目ですよお嬢様。

ちょっ!? ここで暴れようとしないでください!
フランドール様も応戦しない!
グングニルとレヴァンテイン出さないでーっ!?

仕方ないじゃないですか。ここで暴れられたら私の部屋がなくなってしまいます!

だからって拳骨はない?
なに言ってるんですか! お互いに拳骨よりも痛い目にあわそうとしてたじゃないですか! 拳骨で済んだだけましでしょう?

お嬢様の分も作りますから、今日は我慢してください。わかりましたね?

いいお返事です。

って咲夜さんその布はなんですか? 

私の分も作れ? どうして会話を知ってるんです? いませんでしたよね?
たまに不思議ですよね咲夜さん。

作るのはかまいませんが、でもいつできるかわかりませんよ?
今作っているフランドール様のが終って、パチュリー様と小悪魔さんとお嬢様の作って、ようやく咲夜さんの分ですから。

いつできるか? そうですねー……だいたい半年後ですかね。

お嬢様のですか? 五ヶ月弱といったところです。

もっと早く作れ? 無理ですよー。門番が終ってできた時間に少しずつ進めてるんですから。

駄目です! 一ヶ月の休暇なんてもらえません!
門番という仕事が好きだって話したでしょう? それをほおってほかのことをする気はありません。

ああっわかりましたから、泣きそうにならないでください。
早めに仕事をあがって、その分の時間を服作りにあてます。これが妥協点です。
それならいいでしょう? 

では、そろそろ時間なので門に行きますね。
咲夜さん、すみませんがフランドール様の着替えをお願いします。
ええ、そこのクローゼットに入れてください。

漁っちゃ駄目ですからね!

ではいってきます。

2008年05月30日

すいか

格闘はシューティング以上に苦手だと再実感した
その記念にすいか描いてみた
すいか

ee383 at 18:54|PermalinkComments(0)TrackBack(0) 

2008年05月28日

ほたるだからリグル

今年も蛍を見に行ったので、リグルを書いてみた。
蛍が去年よりも少しだけ多くいたような気がします。
川が綺麗になったのか、偶然なのかわかりませんが、いいことなのだと思いました。
蛍とリグル

ee383 at 18:00|PermalinkComments(0)TrackBack(0) 

2008年05月26日

東方SS 咲夜な日々

 
 1 咲夜と秘境


 秘境という言葉に心惹かれるものは皆挑戦者。
 そして秘境というものに心惹かれる者が紅魔館に数名。その代表として日々秘境に挑むものあり。
 その者幾多の失敗を乗り越え、なお諦めぬ者なり。ゆえにいつの日か達成する者なり。

 日は暖かく、蝶がひらりひらりと優雅に飛び、花が野に咲き乱れる。
 風が温かく緩やかに吹いて、花の香りも運び、誰もが春だと認める日。
 そんな日に、紅魔館の玄関から庭にかけての道をずりずりとダンボールが移動している。
 怪しすぎるくらいに怪しいそれは、誰もが気にすることなくほおっておかれた。
 春だからという理由でスルーされているのかもしれないし、咲夜在中と書かれていたせいかもしれない。
 ほおっておかれた理由は不明だが、ダンボールは少しずつ前へと進む。

(ここまでは大丈夫なようね)

 ダンボールの中にいる咲夜は心の中で心境を呟き、でてもいない汗を腕で拭う。
 前面に開いた穴から視界を得て、目標に到達するまでの距離を測る。

(あと10分ってところかしら?)

 普段ならば2分もかからない距離が長く感じられ、舌打ちしたい気分になる。
 気分を落ち着けて咲夜は前へと進みだす。感情の揺れさえも目標は感じ取るのだ。乱れたままの心では目標を達成できないと、経験から咲夜は熟知している。

(まったくお仕置き目的で近づくときは寝こけているのに、こんなときは鋭いんだから。
 でも今日は成功させるわ。そのために香霖堂店主に無理言ってこのダンボール仕入れてもらったんだから。
 有名な傭兵と同じダンボールを手に入れた私の辞書に失敗という文字は存在しない!
 見ていてくださいお嬢様、咲夜は今日こそ我らの悲願を達成いたします!)

 気配を周囲に溶け込ませることを忘れずに咲夜は少しずつ進む。
 気配を消すと、そこにぽっかりと開いた違和感に気付くのだ。以前、気配を殺して進みばれた。そのことを教訓に気配の同化を覚えた。

 特殊なダンボールを購入したり特訓したり、それもすべて美鈴のスリットの中を覗くため。
 どんなに激しく動いても中身の見えない絶対領域な秘境を拝むためなのだ。

 そんなもの時間を止めれば簡単に覗けるだろうというのは言われなくても咲夜はわかっている。
 それでも能力を使わないのは、報酬というのはそれ相応の労働があって初めて価値が出てくるものだと考えていたから。
 汗水流して働いたあとのご飯が美味しいように、手塩にかけて世話をした花がすごく綺麗に見えるように、努力こそ報酬の価値をより高める。
 咲夜はいんちきでLvを上げたRPGにはなんの興味も抱かない人種だった。

 寝ている美鈴の足元まで辿り着いた咲夜が視線を上げようとしたとき、美鈴が目を覚ます。

(気付かれた!?)

 そんなバカなと咲夜は焦る。
 美鈴は咲夜に気配に気付いたわけではなかった。その証拠に視線は咲夜のいる下ではなく空へと向けられている。
 マスタースパークという掛け声とともに襲い掛かってきた衝撃によって咲夜はなにが起きたか悟った。
 それでも咲夜は諦めなかった。衝撃によってはためくスリットを低い位置から覗くことに成功したのだ。防御を捨てたかわりにだが。
 
 自室のベッドに包帯を巻き寝ている咲夜をレミリアが見舞う。
 そのレミリアに咲夜は報告した。自分が見て、心を焼き付けた光景を。
 秘境にあったのは七色の夢でしたと。
 レミリアは、役目を立派に果たした戦士に労わりの言葉をかけて部屋を出て行く。
 超小型の蝙蝠を飛ばして秘境到達に成功していたことをふせたまま。




 2 咲夜と日記


「お嬢様お願いがあります」

 怪我から復帰した咲夜が一冊のノートを携えレミリアの自室を訪れた。
 暗い部屋の中でもぞりと動く影が言う。

「なによ〜? もう少し寝かせてちょうだい」

 レミリアはシーツで顔を隠す。
 咲夜はもうそろそろ主が起きる頃だろうと思って訪れたのだが、少々早かったらしい。
 
「たまには早起きしてもよろしいと思いますよ?
 なので起きてください」

 早寝早起きは健康の秘訣というが、吸血鬼に関係あるのだろうか?
 そんなことは気にせず咲夜はシーツをはいでレミリアを起こす。

「もうっくだらないことだったら運命変えるわよ」

 渋々起きる。
 レミリアの着替えを手伝ったあと、咲夜は一冊のノートをテーブルに置いて用件を言った。

「このノートを一緒に見てもらえませんか?」
「そのノートは?」
「美鈴の部屋で拾った日記です」

 咲夜のセリフを聞いて噛み砕き理解したレミリアは、額に手を当て言う。

「咲夜? それは拾ったとは言わないの、盗んだっていうのよ?
 専門用語では、ぱくった、ぱちったともいうはずよ」
「些細なことです」
「些細なのは胸だけにしておきなさい」

 次の瞬間には咲夜の手に銀のナイフが握られていた。

「オーケー、ごめんなさい、謝るわ。だからそのガーリックパウダーをまぶしたナイフをしまいなさい。
 無表情でそれを持っていられると怖いわ」
「わかりました」

 手の中のナイフが消える。かわりにテーブルに置かれていたノートが握られている。

「では一緒に見てましょう」
「よく考えたら私が一緒に見る必要ないじゃない。
 一人で見ないの?」
「だって私に対する愚痴が書かれていたら嫌じゃないですか。
 そんなときお嬢様に慰めてもらわないと」
「悪いこと言わないわ、見るのやめたらどう?」
「それはどう言う意味なのでしょうか」
「だって…………まあいいわ、早く読みなさい」

 お仕置きに対する愚痴くらいは載ってそうだなどと言ったら、ナイフが飛んできそうで最後まで言うのをやめる。

「では」

 咲夜は適当なページを開いて読み上げていく。


 3月15日
 
 晴れて暖かく、いいお昼寝日和でした。

 3月16日

 風が花のいい匂いを運んできて、とてもリラックスした状態でお昼寝できました。

 3月17日

 雨音がリズミカルで丁度いい子守唄になってお昼寝を満喫できました。

 3月18日

 咲夜さんにお仕置きとしてナイフを刺されました。
 毎度ながら、正確にツボに刺してくる咲夜さんはすごいです。
 おかげで肩こりが解消されて、気持ちよくお昼寝できました。


「へーすごいわね、咲夜」
「いえ、狙ったわけではないのですが。
 お嬢様もどうですか?」
「ガーリックパウダーのまぶしてある銀のナイフじゃ健康とかいう前に大ダメージだから」

 だからさっさとしまえというレミリアの言葉に素直に従い、だしたナイフを消す咲夜。
 続きを読んでいく。
 その感想はというと、

「見事なまでにお昼寝記録日記ですね」
「そうね」

 というものだった。
 愚痴がなかったことにほっとする二人。

「ほかのことは書いてないのでしょうか?」
「んー何か余計なものをみつける前に、読むのを止めたほうがいいと思うわ」
「しかし咲夜さんラブとか、お嬢様大好きとか、書いてあるかもしれません」
「続きを読みなさい」
「はい」

 続きを読んでいくがどこまでもお昼寝記録だった。

「ある意味すごいわね。
 なにかほかのこと書いてないのかしら?」
「……妹様の相手をしたときならば、さすがにお昼寝以外のことを書いているのではないでしょうか?」
「あーさすがにフラン相手に寝ながら対応なんてことはできないでしょうね」

 フランドールの相手をした日付を思い出し、そのページを開いて読み上げる。


 1月16日

 今日はフランドール様と遊ぶ日でした。
 毎度同じように弾幕ごっこですが、なんとか生きる残るだけで精一杯です。
 全身痛いですけど、いい運動したのでよく眠ることができそうです。


「結局寝ることが書かれているじゃない」
「ですね」

 そのあとも寝る以外のことを探したもののみつからず、徒労に終った。
 なんだか悔しかった二人は、もっと日々を楽しみましょうと赤ペンで書き込み、美鈴の部屋に戻したのだった。

2008年05月24日

東方SS 河童と天狗と守矢一家と


 滝のそばで河童と天狗が将棋盤に似たものを挟んで向かい合っている。
 将棋にしては駒が多く盤が大きい、一般的な将棋にはない弓や壁と書かれた駒もある。それを二人とも真剣にみつめ、駒を動かしていく。
 駒が入り乱れ、戦局はだいぶ進んでいるように見える。
 河童が一手指すと、天狗がしまったという表情になった。

「これで王手だよ椛」
「うぅ……ない、わたしの負け」

 指された駒を見て考え込んでいた椛は、打つ手がないと判断して負けを認めた。
 勝ったにとりは嬉しそうに駒を片付けていく。

「これで87勝127敗っと」
「にとり強くなった。最近、わたし負け続けてる」

 負けがこんでいるらしい椛は悔しそうだ。

「百年以上やってたら腕も上がるよ」
「強い相手との将棋は楽しい。わたし強くなる、にとりももっと強くなる。もっともっと楽しくなる」
 
 本当に楽しみなのだろう椛はそのときのことを思い笑顔になる。

「でも最近ずっと将棋ばかりだったから、たまには違うことしない?」
「違うこと? いいよ付き合う」
「なにしようか……またサーフィンでもする?」
「それは30年前にやって里の半獣に怒られた。
 畑にまく水がなくなったって」

 にとりが川の水を操り、ビックウェイブだとか言ってサーフィンをしたことがあった。
 サーフィンをしていた本人たちは楽しかったが、畑仕事をしていた人間は水が減ったことで困り慧音に相談したのだ。
 原因を突き止めに来た慧音にサーフィンをしているところをみつかって説教と頭突きをくらった。
 そのときの痛みと足の痺れを思い出して二人は顔をしかめる。

「また説教はいやだね」
「うん」
「どこか遊びに行くって言っても碌な目にあわなかったし」

 紅魔館近くや無縁塚や太陽の畑などに行って碌な目にあわなかったことから、出かけるのも遠慮したい。

「守矢神社行く?
 外から来たから、わたしたちの知らないなにか知ってるかも」

 ここから近いとも椛は付け加えた。

「えっと、神社には人間がいるんでしょ?」
「現人神だから、人間とはちょっと違う」
「……それならいいかな」

 将棋の盤と駒を滝の裏に置いて二人は山頂へと飛んでいく。


 守矢神社では早苗が庭掃除をしている。
 地面にできた小さな影二つに気付いた早苗は空を見上げ、にとりと椛がきたのだとわかった。

「いらっしゃいませ。にとりさんと椛さん……でよかったんですよね?」

 目の前に下りてきた二人に挨拶をして、名前を聞く。
 多少知っている程度なので名前がうろ覚えな早苗は自信なさげだ。
 それに椛と椛の後ろに隠れて顔だけ出しているにとりは頷く。
 なぜにとりが椛の後ろに隠れているのかというと、現人神だと自分を納得させたものの人間そのものにしか見えない早苗を少し怖がっているからだ。あと人見知りなせいもある。
 当然、そんなにとりに早苗は疑問を感じる。

「にとりさんはどうして後ろにいるんですか?」
「にとり、人見知りだから」
 
 椛の簡潔な返答に早苗は納得した。

「神奈子様に御用ですよね? 案内します」

 ひとまず掃除を中止して、早苗は客二人を神奈子のところへと案内しようと社へと歩き出す。
 今まで来た妖怪は皆神奈子に用事があったから、今回もそうなのだろうと判断した。
 それを椛が止める。

「違う。今日は八坂様に用事はない。
 聞きたいことがあってきた」

 振り返った早苗は少し戸惑っていた。

「聞きたいことですか? それは私が答えることができるんですか?」
「うん」

 にとりが隠れ続けているので椛が話し続ける。

「いい暇潰しを知らない?」
「暇つぶしですか?」
「最近大将棋ばかりやってて、たまにはほかのことをしたくなった」
「んーそうですね。それだとやっぱり神奈子様と諏訪子様に聞いたほうがいいと思いますよ?
 お二方とも長い時間を生きてますから、そういったことは詳しいんじゃないでしょうか」
「そう。それじゃ案内頼める?」
「はい」

 早苗の案内で二人は神奈子のところへ通される。
 神奈子がいたのは社ではなく居住区の居間。諏訪子も一緒にいて、スーパーファミコンでぷよぷよをやっていた。
 ずっと椛の後ろにいたにとりは見慣れない機械を見て目を輝かせている。

「神奈子様、諏訪子様、お客様をお連れしました」
「もうちょっと待ってて、今いいところだから」

 神奈子がテレビ画面から目を離さずに言う。諏訪子にいたっては集中していて言葉を発することすらしない。

「……座っててください。お茶入れてきます」

 ゲームに夢中になる神様二人の様子に、少しだけ恥ずかしそうに顔を赤く染めた早苗が、にとりと椛に座るように言って台所へと向かった。
 二人は言われたとおり座って待つ。椛は神二人がなにをしているのかわからない、にとりは機械に興味津々といった様子だ。
 やがて決着がついたのか、二人は電源を消してにとりたちのほうへと向き直る。
 早苗もちょうどお茶と菓子を持ってきて、テーブルの真ん中に菓子を置いて、お茶をそれぞれの前においていく。

「私は掃除に戻りますね。
 ごゆっくりしていってください」

 そう言って早苗は庭へと戻っていった。
 諏訪子が一口サイズの薄皮饅頭をひょいっと口に放り込む。漉し餡がさらりと口の中で崩れ、口ざわりのよさに笑みを浮かべた。甘さの余韻が残っているあいだに、お茶を飲む。お茶の渋味と饅頭の甘さがちょうどよく、ついもう一口と饅頭に手が伸びる。
 それを見つつお茶を一口飲んで神奈子は口を開いた。

「それでなんのようだい?」
「その前にあの機械ばらしてもいい?」

 うずうずとした様子でにとりが聞く。

「駄目だよ。大事な暇つぶしの道具なんだから」
「残念だ。それの構造がわかれば量産して、私たちの暇も潰せるのに」
「あんた機械に詳しいのかい?」
「うん」
「そうか。でもこれだけ量産しても意味はないよ。
 この機械はテレビゲームっていう遊びを動かすための道具で、テレビゲームの入れられたカセットがなくちゃただの箱だ。
 あんたが機械に詳しくても、ゲームプログラムは作れないだろうしね」
「ゲームプログラム?」

 聞きなれない単語ににとりは首を傾げる。

「式神の簡易版だって思ってくれればいい」
「式神かー。たしかに私には無理だ」
「それで話を戻すけど用事は?」
「いい暇つぶしを知らないかなって」

 にとりの隣で椛もこくりと頷く。
 椛が静かなのは信仰する神を前にして緊張しているからだ。
 信仰するという点ではにとりも同じだが、椛とは違い緊張はせずわりとフランクに話している。
 椛は生真面目な性格ゆえに緊張していた。

「暇つぶしね」
「私たちも苦労したよ。今は早苗がいるし、外から持ってきたものでどうにかなっている。
 私たちが困るからこれを貸すわけにはいかない。時々遊びにくるくらいなら相手になるけど。
 今日はトランプでもする?」

 諏訪子がのりきで言う。持ってきたものでたしかに暇は潰せるが、ずっと神奈子が相手でたまには違う相手と遊びたいのだろう。
 それは神奈子も同じなようで、いいねとのりきでタンスからトランプを取り出す。
 にとりと椛は返答する間もなく、神二人を相手することになった。

「一番勝ちの多い人が何か一つ命令できる罰ゲームはどうだい?」
「いいね」
「いやえっと?」
「わうぅ。困った」

 口を挟む前にとんとんと決まっていき、罰ゲームありで遊ぶことになった。
 ばばぬきから始まり七並べ、ポーカー、ブラックジャック、ハーツと遊んでいく。
 結果、一位は言いだしっぺの神奈子だった。

「さあてなにを言おうか」

 くくっと妖しく笑う様子からなにを言い出すかわかったものではない。
 にとりと椛は若干怯え、諏訪子はのんびりとお茶をすすっている。

「ふむ、決めた」


 にとりと椛と早苗が空を飛んでいる。
 神奈子からの命令を実行するため守矢神社を出たのだ。
 命令は早苗をつれて幻想郷を案内することだった。

「案内なんて迷惑じゃなかったですか?」
「気にしないでいい。罰ゲームだし、暇潰しにもなる」

 話すのは早苗と椛のみ。にとりはまだ尻込みしている。
 ただ飛ぶだけというのも暇なもので、趣味などの自分のことを話していくようになる。
 椛がにとりに代わって、にとりのことを話していく。

「機械に詳しいんですか〜。
 修理とかってできます?」

 壊れている掃除機のことを思い出して駄目もとで聞いてみた。

「見てみないとわからない」
「それじゃ今度みてもらえませんか? 壊れてるから、修理できなくてもかまいませんから」
「どんなもの?」
「掃除をするための機械ですよ。ゴミを吸い込むんです」
「へーそんなものがあるんだ」

 話題が機械のことになると尻込みしていたことが嘘みたいに喋りだす。
 これがきっかけとなって、にとりは他の話題のことでも少しずつ話し出した。
 三人は幻想郷のあちこちを巡る。あちこちといっても危険そうな場所は避けたり、遠くから見るだけにとどめた。
 
「あ、ちょっと里に行っていいですか? 夕飯の材料を買いたいんです」

 巡り終わってその帰り、早苗が言う。
 にとりは里には近づけないので、椛と二人で里近くで早苗を待つことにした。
 先に帰っていいですよ、とは早苗の言葉。だが二人は早苗を待つことにする。
 
「お待たせしました」
「そんなに待ってない」
「うん」
「でも待たせたのは本当ですから」

 再び空を飛び守矢神社へと帰る。
 その途中で早苗が二人を夕食に誘う。

「今日、夕食食べていってくださいね」
「え? そこまで世話になれない」
「悪いしね」
「案内してもらったお礼がしたいんです。
 それにお二人分の材料も買ってきて、私と神奈子様だちだけでは量が多すぎなんです」

 余った材料は冷蔵庫に入れておけばいいのだがそれをあえて黙っておく。
 冷蔵庫のことを知らない二人はそれならと頷いた。
 その返答に早苗は笑みを浮かべる。


 神社に帰った早苗はさっそく台所へと向かい、気合を入れて調理を始める。
 にとりと椛は神二人のいる居間へと連れて行かれ、料理ができるまで待つことになった。
 神二人はまたスーパーファミコンを動かし、マリオカートをやっていた。
 二人が居間に入ってきて、ゲームが一段落つくと電源を切って向き直る。

「おつかれさん」
「案内だけだから疲れてはないよ」

 椛もこくりと頷く。
 諏訪子が身を乗り出して聞く。

「それで早苗と少しは仲良くしてくれた?」
「仲良く? そりゃ喧嘩とかはしなかったけど……まあ仲良くはしたのかな?」
「そーかそーか」

 神二人は嬉しそうに頷く。

「これからも仲良くしてやってくれ。
 まだこっち来たばかりで知り合いは多くなくてさ、神社に篭りがちだったんだあの子」
「もしかして案内を頼んだのって友達にならせるため?」
「まあ、友達になってくれれば嬉しいけど、その辺はあんたたちの自由だしね。
 時々会いに来てくれるようになればいいなって考えてたくらいだね」

 そのためにいかさましたんだから、とは諏訪子の言葉。
 そのことに神二人にわるびれた様子はない。早苗のために行動したといって、むしろ誇らしげにも見える。
 親馬鹿がいる、とにとりと椛に同じ考えが浮かぶ。
 しかし二人とも友が増えることには反対する気はなかった。

 この日からときどき、早苗とにとりと椛が一緒にいる場面が見られるようになる。

2008年05月21日

スペシャルアイテムは〜♪2

もう一回幽香チャレンジ
SAIのことがわかっても、即上手くなるわけじゃないよね
スペシャルアイテムはひまわり2

ee383 at 21:41|PermalinkComments(0)TrackBack(0) 

2008年05月20日

スペシャルアイテムは〜♪


ひまわり!

石鹸屋のD−89を四時間ばかり聞き続けたら幽香が描きたくなった
久々にSAIを使いました
レイヤーの重ね方と範囲指定の使い方をSAI使い始めて三ヶ月以上経ってようやく理解
スペシャルアイテムはひまわり

ee383 at 20:05|PermalinkComments(0)TrackBack(0) 

2008年05月19日

東方SS ハイテンションめーりん


「いぇえええええええええいっ!」

 その日、紅魔館で一匹の龍が生まれた。


 紅魔館の門前で紅の髪をなびかせた美鈴が咆哮を上げる。
 それは紅魔館のみならず湖の端から端まで響き渡った。

「なんて声あげているの」

 咆哮が響き渡りすぐに駆けつけたのは咲夜。
 
「これはこれは銀糸の髪が光をはじいて美しい瀟で洒な我らがメイド長!」
「瀟洒を区切る必要はないでしょう?」
「ノンノン!
 今の私はハイパーメーリン! 怖いものなど何も無い」

 甘い甘いと指を横に振り、まったく関係の無いことを言う。
 そして体裁きを見よとばかりに、拳や蹴りを繰り出し門を砕いていく。
 止めようとした門番隊も吹っ飛んでいく。

「ちょっと止めなさい!
 門番が門を壊してどうするの!」
「形ある物はいつか壊れるっ」
「そうはそうだけど、今はまったく関係ないでしょ!」

 まったく止まらない美鈴を実力行使で止めようとナイフを取り出す。
 それを察したのかくるりと回り咲夜を真正面に見据えた美鈴。
 思わずナイフを持ったまま咲夜が止まる。
 
「ミニスカートからすらりと出る太ももが私を魅了してやまない!」
「え?」
「スキアリ。イタダキマス♪」

 ずいっと美鈴が咲夜に近づく。
 場面が一瞬暗転したあとは、背を向けそれで全てを悟れと仁王立ちする美鈴と真っ赤な顔でいて悦びの表情で倒れ伏す咲夜がいた。
 美鈴はそのままその場を立ち去った。


「プリティエンジェル! グーテンアーベント!」

 フランドールの部屋を扉を蹴り開けて美鈴は乱入した。
 フランドールは寝ていたのかベッドにいて、驚きと眠たげな表情を半々で見せている。

「めーりん?」
「いえっす!」

 輝く笑顔でサムズアップ。

「どうしたの?」
「リピートアフタミー!
 I break you」
「?」

 美鈴が何をしたいのかわからないフランドールは、不思議そうな顔で美鈴を見ている。
 強制的に起こされて寝ぼけた状態でいることも、現状が理解できない要因の一つだろう。

「I break you! カモーン!」
「あいぶれいくゆー」

 わからないなりに美鈴に続いたフランドールを、うんうんと頷き満足気な表情で見ている。

「グッジョブフラン! You can go on to the next stage now!
 See you!」

 ウィンクつきの投げキッスをフランに飛ばし美鈴は去っていく。

「なんだったの?」

 そう言ってフランはポテンと横に倒れ、夢の中へとgo on to the next stage now。


「横と見せかけて下ぁっ!」
「ひああああ!?」

 図書館の床を突き破って美鈴は現れた。
 悲鳴は砕かれた床が直撃して気絶した小悪魔の悲鳴だ。

「私参上!」

 己の拳は天を突く拳だと、高く突き上げたポーズをとる。
 そのままのポーズでパチュリーに聞く。

「健康体かね? ラクトガール!」
「なにをしているの美鈴?」

 巻き上がった土埃に咳き込みながらパチュリーは問う。

「おおうっ相変わらずのクール&ドライ!
 さらに私の心を熱くする!
 ここで問題です!
 下は大火事、上は洪水なーんだ?」
「風呂よ」
 
 律儀に答えるパチュリー。
 それに少し溜めにつくり、

「そんなことはどうでもいいんです。
 レディ御手を」

 片膝を着き、手を差し出して真剣な表情でパチュリーに求める。

「嫌よ」
「断る」

 即答を即答で返し、パチュリーの手を取って踊りだす。

「止めなさい!」
「ははーはっ楽しいですねぇ」
「私はっ辛いだけよっ」
「うーん、つれない態度」

 結局パチュリーが疲れ果てるまでくるくると回り続けた。
 疲れと回転の酔いで顔を青くするパチュリーは気付く。

「昨日のあれが原因ね?」
「おおっとまだネタばれには早いぜ旦那!
 ばらすのはSSのさ・い・ご」

 やばげなことを口走り美鈴は図書館から出て行った。


 レミリアの部屋の扉がゆっくり開いていく。どれくらいゆっくりかというと毎秒一ミリずつだ。
 もどかしいので早送り。
 物音をさせずに扉を開いた美鈴は静かに気配を殺しレミリアの部屋に侵入する。

「ぬるいっぬるいぞ! これが最強種たる吸血鬼なのか!?
 我がライバルに相応しいという想いは思い違いだったのか」

 静かにした意味がなくなるくらい大声で叫ぶ。
 そのままゆっくりとベッドまで来た美鈴は膨らんでいないシーツを剥ぎ取る。
 
「なっ!? 誰もいない!?」
「こっちよ、侵入者さん」

 美鈴が声のした方向をみると、そこには優雅に椅子に座り笑みを浮かべたレミリアがいた。
 美鈴があれだけ暴れたのだ。起きていて当然だった。
 王者の覇気を備え、万人は全て私の僕という雰囲気を醸し出す様相は、逆らわずに従いたくなる者が続出するだろう。
 その姿まさにカリスマの塊! カリスマがフィーバーして、大放出して、残り僅かとなっている」
「言いたいほうだいね」
「しまった口が勝手に心情を!?」
「ふざけるのはよしなさい。私にはわかっているの。正体を現しなさい!
 謎のメキシカンMrミン!」

 レミリアはズビシっと指を美鈴に突きつけた。
 それに美鈴は動揺しつつも、含み笑いで強がる。

「ぐぅっ!? なぜ私が流れのジョーだとわかった」
「紅魔館の情報網をなめないことね」
「おやつをバナナにしなかった私の失策かっ。
 しかしっ美鈴姉さんの仇を討つまでは私は諦めない!」
「彼女ならば地下で意味も無く石臼を回しているわ」
「なんて残酷な! 血も涙もないのですか!」

 美鈴とレミリアのふざけていて意味の無い会話は続いていく。
 実のない会話を楽しみ、もう十分だと判断したレミリアがこの喜劇を終らせる。

「お疲れ様」

 たったそれだけで美鈴はばたんと倒れた。
 顔面から倒れたので痛そうだが、意識の無い美鈴には関係の無いことだ。


「それでどうだった? 私はそれなりに楽しめたけど」

 レミリアの部屋に咲夜、パチュリー、フランドールが集まって話し合っている。

「なんだかよくわからなかった」

 これはフランドール。

「採用はできません」

 思い出して顔を赤くし言うのは咲夜。

「私も咲夜と同じよ」

 図書館の惨状を思い出し顔をしかめて言うのはパチュリー。

「というか門番としての仕事を放棄していますから、採用するしない以前の問題かと」
「それもそうね、じゃあ不採用ね」

 咲夜の言葉にレミリアは頷く。
 なにを話し合っているのかというと、美鈴のシエスタを止めさせる方法だ。
 門番がサボっているのは紅魔館の対外的心象によくないという意見が出て、ならばどうにかしようと実行したのが今回の出来事の原因だ。
 美鈴がシエスタに移行すると、強制的にテンションMaxになるように催眠術をかけていたのだ。
 門番の仕事をせずに暴れるだけとわかったので、この方法は廃棄された。

 こうして生まれた龍は一日だけ暴れ回り、去っていった。

 あとに残ったのは、なにも覚えていないのに自分が原因だと言われて門と図書館を修理するいつも美鈴のみ。

2008年05月17日

東方SS 姉と呼ばせたくて


 日差しが強く、蝉の鳴き声がいつもよりも小さめな夏の日、どこに行くのでもなく日傘をさして紫が散歩していた。
 ゆるゆると吹く風は暑さを運んで、陽を遮っていても暑さが和らぐことはない。
 そんな中、紫は汗一つ流さず涼しげな表情で歩いている。そのくせ「暑いわね」などと本心から言っているのかわからない心情を漏らす。
 紫がそろそろ帰ろうかしらと考えていたとき、どこからか赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
 その声に惹かれるものがあった紫は、声のする方向へと歩いていく。
 
「……捨てるのならせめて里に近いところに捨てればいいのに。
 妖怪の餌にでもなれって思っていたのかしら?」

 紫の視線の先に赤ん坊はいる。地蔵がある小さなお堂の中で、ここにいると生きていると精一杯泣いている。
 生後一年も経っていないのではと思える大きさだ。
 近づいて赤ん坊を抱き上げる。抱いたままその場を去る。
 妖怪の餌か衰弱死したかもしれない赤ん坊は妖怪八雲紫に拾われた。
 誰もいなくなったその場で蝉たちが騒ぎ出した。まるで赤ん坊が拾われるまで遠慮していたかのように。


「ただいま」
「おかえりなさいませ紫様」

 主が帰って来たことを察した藍が玄関で紫を出迎える。
 笑みを浮かべていた顔は、紫の腕の中の赤ん坊を見て歪められた。
 嫌なものを見たという表情ではない。悲しみに耐えた笑みだ。

「その子が次の博麗の巫女ですか?」

 疑問符がついているが確信を持って聞かれた問いだ。

「そうよ」

 そしてその問いを認める。
 紫が赤ん坊を拾ったのは同情したからではない。
 博麗の巫女たる素質を赤ん坊に見出したからだった。赤ん坊になにも感じなければ、里近くにでも移動させたか、そのまま見捨てていただろう。

「名前はれいでいいわね」

 名を得て赤ん坊は幻想郷にその存在を確固たるものにした。
 藍はその名を聞いてさらになにかが刺激された表情になる。

「押入れに入れてある必要なものを出しておいて」
「わかりました」
 
 藍の変化に気付いているだろう紫はそれに触れることなく用事をいいつける。
 
 赤ん坊に必要なものを出す藍を見て、橙も藍と同じ表情となった。
 
 
 れいの世話は主に紫がする。
 藍と橙はできるだけれいに近寄らないようにしている。
 れいを嫌っているわけではないだろう。紫に頼まれれば、紫の用事が終るまで世話するのだから。
 れいと接点を減らし仲良くなることを避けているように見える。
 だがいつまでもそのままではいられなかった。紫は冬眠をする。その間、紫はれいの世話をできない。当然役割は藍と橙に回ってくる。
 そうなればもう情をもたずにはいられない。日々健やかに成長していく姿を見て喜びを見出し、体調を崩せば心配して看病し、自分たちの手に負えなければ医者へと連れて行き、危ないことをすれば叱る。笑った、泣いた、立った、歩いたとれいのすることに、三人は様々な反応を見せる。
 れいが来て三年もすれば、最初の隔意などどこへいったのかという態度でれいに接する。れいもそんな三人に懐いていく。

 三人にたくさんの愛情を注がれた赤ん坊は家族以外には懐かない、お茶が好きで、勘の鋭く、運のいい、活動的な女の子へと成長していった。


「それっ」
「あはははっれい、そっちにいったよ」
「えいっ」

 庭に楽しそうな笑い声が響く。
 藍と橙と五歳くらいに成長したれいが、紙風船を使い楽しそうに遊んでいる。
 ぽーんぽーんといったりきたりする紙風船を追い、れいの視線は上下左右と忙しい。そんなれいを見て藍と橙は笑いながら紙風船を受けやすいところへと投げてやる。
 紫は縁側に座りその様子を微笑ましそうに見ていた。
 少し疲れた様子のれいを見て藍と橙は休憩することにした。そのとき紫がれいを呼ぶ。

「れい、こっちにいらっしゃい」

 ぽんぽんと隣を叩いて、そこに座るように示す。
 れいはそこに座り、紫を見上げる。

「明日から修行を始めます」

 紫は微笑をひっこめて真剣な表情でれいの目を見て言う。
 れいはよくわかっていないのかきょとんとしている。

「らんおねえちゃん、しゅぎょうってなに?」
「……ん? ああ、修行か。修行というのは習い覚え練習し技術を身につけることだ」

 幼いれいにはわからないが、藍と橙は作った笑顔でいる。

「どうしてそれをするのおかあさん?」
「前から言ってたでしょ? れいは博麗の巫女になるって。そのために必要なことなのよ」
「わたしがそれをしないとだめなの?」
「そうねぇ、れいが巫女にならないと幻想郷に住んでる人たちが困ることになるわね」
「おかあさんとおねえちゃんたちもこまる?」
「ええ」
「する! しゅぎょうする!」

 縁側から降りて紫の真正面に立ったれいはそう宣言する。
 その表情は真剣で、いい加減な気持ちで言ったのではないとわかる。

「優しい子ね、れいは」
「おかあさんたちだいすきだもん!」

 家族以外はどうでもいいという宣言にほかならないのだが、この場にそれを気にするものはいない。
 藍と橙はそれを気にする余裕も無い。

 次の日から修行は始まった。
 厳しい修行となったが、れいがやめると言い出すことはなかった。
 家族のためという想いもあるが、上手くいくと三人から褒めてもらえた。これが嬉しくもっと褒めてもらいたくて頑張るという繰り返し。
 
 努力のかいがあってれいはどんどん実力をつけていった。元々の才能もあったのだろう、紫の見立てでは歴代の巫女の中で一番の実力をもつという確信に近い予想があった。その予想は外れていなかった。
 そしてれいが14歳になり、博麗の巫女に受け継がれてきた霊夢という名を襲名する。14歳という若さで巫女となったのはれいだけだ。これはれいの実力の高さを示している。
 そして三人とれいの別れも示していた。


「おかあさん、藍お姉ちゃん、橙お姉ちゃんおやすみなさい」
 
 巫女となる最終課題をクリアして疲れ果てたれいは三人よりも早くに寝た。
 れいのいない居間では三人がおせじにも明るいとはいえない雰囲気でいた。

「紫様、もう一日だけ待ってください」

 藍が紫に土下座している。隣には橙もいて、同じように土下座していた。

「記憶をいじるなら疲れ果てた今日がいいのだけど。れいの実力も上がって普段の状態だといじっている最中に怪しまれるのよ」
「それでもあの子が巫女となったことを祝ってあげたいのです」
「紫様、私からもお願いします。れいに祝ってあげるって約束したんです。
 約束も守ってあげられずに、このままお別れは嫌です!」
「………………わかったわ。こんなに早く「霊夢」となるなんて予想してなかったしね。
 いままでの子はもう二三年かかったというのに。
 でも明日だけよ」
「「はい」」

 次の日、朝から紫と藍は祝いの宴の準備に忙しかった。橙はれいを連れ出していた。
 れいのいない間に準備をすませ驚かそうという魂胆だ。
 れいの好物を中心にご馳走が作られていく。
 紫はいつもどおりだが、藍は美味しいものを食べてもらおうと真剣すぎるというくらい集中して料理を作り上げていく。
 
 家族だけの宴は盛り上がった。祝い事をしんみりとした雰囲気でやってはいけないと盛り上げたのだ、藍と橙が。
 祝ってくれる家族に、れいも嬉しそうに宴を楽しんでいた。
 初めて飲むお酒も美味しく感じられ、足元がおぼつかないほどに酔ってしまう。

「れい、眠そうね」
「まあだだぁいじょーぶぅ」
「とてもそうは見えないわよ。もう寝なさい。部屋まで連れて行ってあげる」
「だぁっこぉ?」
「ええ、久しぶりにね」
「えへへぇ」
 
 酔いのせいで顔の赤いれいを、紫はひょいっと抱き上げる。

「らんおねえちゃん〜ちぇんおねえちゃん〜おやぁすみぃ」

 二人はやや伏目がちにこくこくと頷きを返す。
 そんな二人を酔いのせいで怪しむことができず、れいは紫に抱かれて部屋を出て行った。
 二人だけが残った居間では、声無き泣き声がしていた。


「重くなったわね」
「おおきくなったもん〜」
「そうね、人間の成長は早いわ」

 そっと布団にれいを横たえる。
 その横に座り、さらさらとした黒髪をゆっくりと撫でていく。
 そして記憶の境目をいじって妖怪と一緒に暮らしていたという記憶を変えていく。
 博麗の巫女は中立の立場だ。妖怪にも人間にも肩入れしない存在。その役割に妖怪と暮らしたという思い出は邪魔になる。そう判断した紫はいままで育てた博麗の巫女たちと同じように記憶を変える。それは育てた巫女たちの記憶から、八雲家での思い出を消すということ。
 寂しげな表情で紫はれいの髪を撫で続ける。

「十四年間楽しかったわよ」

 妖怪から見て十四年という年数は長いとはいえない。ましてや長く生きてきた紫から見れば、あっという間に過ぎていったようなものだろう。
 けれどもゼロではない。たしかに共に過ごしたという記憶はある。いろいろな記憶が。
 だから紫の瞳から一筋流れた涙はきっと幻ではない。

「んう〜おかあさん〜、らんおねえちゃん〜、ちぇんおねえちゃん〜だいすきぃ」

 撫でられながら嬉しげにれいは呟いた。寝言なのだろう。
 しかし別れをれいなりに察して、どうしても伝えたかった想いなのかもしれない。
 どちらかはわからない。確実に言えることは、それを聞いた三人の心に届いたということ。


 記憶を変えられ霊夢は博麗神社で一人で暮らすようになる。
 八雲家のことは覚えていないし、人に育てられたと思っている。
 熱心にしていた修行はしていない。むしろ嫌うようになった。努力しても認めてもらえる人たちがいないという記憶にない記憶に影響をうけたせいなのかもしれない。
 八雲一家は霊夢に接触していない。

 
 時は過ぎて、春雪異変と永夜異変の間のとある日。
 霊夢は春雪異変で知り合った八雲一家に会うため、マヨヒガに来ていた。

「今日はなんのようだ?
 まだ傷は癒えていないから弾幕ごっこの相手をしろというのは無理だぞ」
「用っていう用はないのよ。ただ暇だったからなんとなく足がこっちにむいただけ。
 上がっていい?」
「ああ」

 許可をもらって家に上がる。初めてくる場所を珍しそうにあちこちと見ている様子に、藍は心にちくりとした痛みを覚えた。
 別れた巫女と出会うのはこれが初めてではない。幻想郷という閉鎖された場所にいるのだ、偶然出会うことは何度もあった。その巫女たちが八雲のことを少しでも思い出すことはまったくなかったが。
 急に訪れて邪険にされなかったことが縁となり、霊夢は暇なときマヨヒガへとちょくちょく訪れるようになった。
 新たな関係を築き、それなりな仲となっていく。
 八雲一家はそれに少しだけ寂しさを感じながらも、元気な元家族の訪れを楽しみにしていた。

 霊夢が拾われた日と同じように暑い夏の日。
 縁側に座り、よく冷えたスイカを四人でしゃくしゃくと食べている。パラリと塩がふられ甘味の増したスイカを美味しそうに霊夢と橙が食べる。その様子を懐かしげに紫と藍が見ている。
 食べることに夢中になっている霊夢の口元に、スイカの汁が垂れていることに気づいた藍がハンカチを取り出す。

「ほら、口元に垂れているぞ」

 そう言って汁を拭う。食べることをやめてされるがままの霊夢。
 藍が橙の口元も拭っている様子を見て、霊夢がぽつりと言う。

「藍ってお姉さんみたい」

 それに動揺しつつもなんとか隠すことに成功した藍。
 程度の差はあれ動揺したのは紫と橙も同じだ。

「おかしなことを言うな?
 だいだいこの場合、お母さんみたいというのが普通ではないか?」
「そうかもしれないけど。
 でもお姉さんみたいって思ったのよ」

 自分でも不思議なのか首を傾げている。

「ねねっ私は?」

 橙が不安と期待と興奮が混ざったものを精一杯抑えて、わざと軽い調子で聞く。もしかしたら再び霊夢の口から姉と呼ばれた自分の名が聞けるかも、そんな想いがあった。

「橙? んー……見た目だと妹だって言ってもいいのに、なんでかお姉さんって感じがする。
 どうしてだろ?」
 
 嬉しげな様子の橙を霊夢は不思議そうに見ている。

 世の中に完全なものは少ない。人の口に戸は立てられないように、大丈夫と思ってもいつかは漏れ出すものもある。時間が経てば朽ちるものもある。
 れいの家族への想いの強さ、力の強さ、八雲一家の気付かぬうちに霊夢に出していた親しみ、それらがあわさったものがゆっくりと時間をかけて、紫の記憶操作を突破できなくとも、滲み出したがゆえの言葉だ。

 藍は思い知った。
 自分たちのことは忘れても、巫女として存在し生きているのは自分たちの家族だと思うことで、これ以上傷つかぬように自分を偽っていたことに。
 元気だからいいじゃないかと思い込むことで、巫女のうちにある忘れられた家族から目を逸らしていたことを。
 
「(この子は私たちのことをわずかながらも覚えてくれたじゃないか。もしかすると今までの巫女たちも必死に思い出そうとしてくれていたかもしれない。
 それなのに私は忘れられて寂しいからと、巫女たちに会いにいくようなこともなく、会っても初めて会ったかのように振舞った。
 大馬鹿者だ私は)
 ……すまない」

 すでに死んでしまった家族への謝罪は蝉の鳴き声に消えて、誰かの耳に届くことはなかった。
 いつのまにか藍のそばに立って霊夢と橙にばれないよう、そっと頭を撫でた紫にだけは聞こえていたのかもしれない。
 激励と同意が少しだけ込められた淡い笑みで紫は藍を見ている。その様子から藍は、紫も過去に今の自分と同じ想いをしたのかもとなんとなく思う。だから紫は巫女たちに会いに行くのかとも思う。

 八雲一家と霊夢が家族ではない家族。家族に近いなにかとして付き合いだすまであともう少し。




 私のことはなんと呼ぶのかと紫が霊夢に聞いて、霊夢が冗談と照れ隠しで「紫おばあちゃん」と呼んで、数ヶ月早い冬眠に入ろうとした紫を三人で必死に止めるまで、あと数十秒。

2008年05月16日

東方SS 運命抵抗者


「そんなっまさか!?」

 目覚めたばかりのレミリアが驚いている。
 視点は定まっておらず、目の前のシーツを見ていないことはたしか。
 レミリアが見ていたのは運命。己にとって受け入れがたい運命だった。


 運命。それは誰でもなんにでも絶対あるもの。
 いくつもの顔を持ち、ときに優しく、ときに残酷で、気まぐれだ。
 求める者を嘲笑い、諦めた者に微笑みを贈ることもある。
 これから語るはそんな気ままなものに挑んだ姉の話である。


「お姉様呼んだ?」

 時は夕暮れ。低い位置から部屋に入り込もうとする日の光をカーテンは全身をもって遮る。
 己が身を焼こうとする光を遮った暗い部屋に、吸血鬼の姉妹がそろっている。
 二人して目覚めたばかりだ。

「ええ、こちらにおいでなさい」
「はーい」

 フランドールは姉レミリアが座る椅子の正面にある椅子に座る。
 テーブルに置かれているチョコチップクッキーを摘み口に運びながら用件を聞く。

「それでどうして呼んだの?」
「あなたの力が必要なの」

 率直な姉の言葉にフランドールはキョトンした表情を見せる。その表情は外見年齢に相応しい可愛いものだ。
 
「お姉様がそんなこと言うなんて珍しい」

 必要だなんて言われたのは495年生きていて初めてのことだった。
 レミリアは困ったことが起きても自分で動くか、それが無理ならば美鈴やパチュリーや咲夜に相談して対策を決めていた。
 今までそれで解決してきたし、これからもそれで十分だろう。
 正直、今後も困ったことが起きたとして自分の出番はない、フランドールはそう思っていた。
 故にレミリアの言葉は嬉しかった。大好きな姉に頼られて心が暖かくなっていた。
 その感情を隠すことなく、満面の笑顔を浮かべて抑えきれぬ興奮からシャラシャラと羽を揺らしフランドールはレミリアに聞く。

「何をすればいいの?」
「ありがとう」

 何をするのか聞くまでもなく了承の意を示した妹に万感の想いを込めて礼を言った。

「あなたにしてほしいのは、ある運命を壊すこと」
「壊すの? お姉様が変えちゃえばいいのに」
「変えるだけでは駄目なのよ。いくら変えても同じ結果に行き着いてしまう。
 そんな運命を見てしまったの」

 深刻なレミリアを見て、よほどのことなのかとフランドールは考える。
 そんな問題をほかの誰でもなく自分に相談してくれたことが、さらにフランドールを嬉しくさせた。

「ふーん。それで変わらないのなら、私の能力で大元を壊してしまえって?」
「そうよ。それに運命を変えることはあなたにとっても利益があること。
 さあもう時間がないわ、サポートするから壊してちょうだい」
「うん!」

 大好きな姉と一緒になにかを行えることが嬉しく、返事にも力が入る。
 やる気も満ちて今ならなんでもやれる、とまで思えてしまう。
 フランドールはレミリアが引き寄せた運命をよく見て、手の中に『目』を移動させた。

「えい!」

 手を握り締めるとそれはあっけなく壊れた。確実に壊せたという手ごたえもある。
 フランドールには運命をみることはできないので、それがどんな運命なのかわからない。
 しかしレミリアに、

「よくやったわフランドール。運命は壊れた」

 という称賛と笑みを贈られて、己がなにを為したかはわからなくとも嬉しかった。


 上機嫌な姉妹が夕食のため食堂に向かう。
 食堂に入って姉の顔が驚愕に染まる。妹はそんな姉を不思議そうに見ている。

「そんなっ確かに壊したはず!?」

 レミリアの視線の先にはほかほかと湯気をたてるチンジャオロース。ほかにもシュウマイと卵スープが湯気をたてていたが、レミリアの視線はチンジャオロースに注がれている。

「どうしたのお姉様?」

 聞くも姉からは返事はない。かといって食堂内におかしなところはない。いつも食堂で食べるわけではないが、違いがあればわかる程度には来ている。
 レミリアが見ているチンジャオロースもおかしなところはない。じつに美味しそうな匂いを放っている。
 呆然としているレミリアが何かを呟いている。フランドールは耳をよせそれを聞いてみた。
 
「どうしてピーマンが食卓に出てくるの? 咲夜の献立からピーマンという選択肢をフランドールに壊してもらったのに」

 答えは簡単だ。献立が思いつかない咲夜が美鈴に相談して、美鈴が夕食を作ったからだ。
 あくまでも壊したのは咲夜の献立の選択肢、美鈴の選択肢にはなにもしていない。
 その美鈴があまっているピーマンを見て、使おうと考えた。


 全てを悟ったフランドールは紅魔館を飛び出した。
 当然だろう。レミリアの様子から深刻な問題だと思っていたのに、ただ嫌いな食材を食卓にださないようにしていただけとわかったのだから。
 重大なことを相談してもらえたとか頼ってもらえたとか、すごく嬉しかっただけに反動もまた大きかった。
「お姉様のバカアアァっ!」と幻想郷中で暴れるフランドールを誰が責められようか。
 事実、フランドールを鎮めて事情を聞いた騒動の関係者は皆フランドールに同情した。

 レミリアには純粋な子共を裏切った罰としてピーマンのいっき喰いが命じられた。
 ついでとばかりに能力の無駄使いも禁じられた。

 ちなみにフランドールはピーマンをとくに嫌いではなく、レミリアに協力しても利益はなかった。

 この事件は発端の理由があまりに情けないことから、稗田の記録に記されることがなかった幻の事件である。