2009年11月
2009年11月29日
2009年11月23日
感謝の34
感想、ウェブ拍手ありがとうございます
Kouさん
転生したのはカズキ一人ではありませんでした
とはいってもこれ以上はいませんが
彼らは、前世ではカズキと同じ誕生日と血液型でした
一話冒頭の占いで、カズキと同じように該当した人たちです
この世界で生き返ったのが日本人しかいないのは偶然です
ほかの該当して運悪く死亡した人たちは、ほかのゲームや漫画や小説の世界に行ったことになってます
ほかの人たちもカズキと同じようにこの世界に影響を与えていきます
いい影響も与えますし、悪い影響も与えます
一番引っ掻き回すのは魔物に転生した人の予定
あと最後の人は物語中盤に出てくるはずです
》転生者がいっぱい居るぅ〜w
》まさかこんなにたくさんのトリッパー!
はい、上記で書いたように一人ではありませんでした
彼らの行動結果はカズキとアークたちの旅にも関係してきます
Kouさん
転生したのはカズキ一人ではありませんでした
とはいってもこれ以上はいませんが
彼らは、前世ではカズキと同じ誕生日と血液型でした
一話冒頭の占いで、カズキと同じように該当した人たちです
この世界で生き返ったのが日本人しかいないのは偶然です
ほかの該当して運悪く死亡した人たちは、ほかのゲームや漫画や小説の世界に行ったことになってます
ほかの人たちもカズキと同じようにこの世界に影響を与えていきます
いい影響も与えますし、悪い影響も与えます
一番引っ掻き回すのは魔物に転生した人の予定
あと最後の人は物語中盤に出てくるはずです
》転生者がいっぱい居るぅ〜w
》まさかこんなにたくさんのトリッパー!
はい、上記で書いたように一人ではありませんでした
彼らの行動結果はカズキとアークたちの旅にも関係してきます
生まれ変わってドラクエ 幕間2
本日休みとなっているカズキは、いつもはできない二度寝を堪能している。秋も深まり冷えこんできた屋外に対し、布団の中は温かく快適。いつまでも寝ていられるような気がしたが、さすがに十時前にもなると眠気は去る。
布団をはねのけベッドから立ち上がったカズキは全身をグッと伸ばし、わずかに残っていた眠気を払う。
成長期に入ってぐんぐんと背が伸びたカズキは、すでに少年とは呼べず青年の域に足を踏み入れている。わずかにあどけなさが残っているのが名残といえるだろう。
今カズキは十五才、ルイーダの酒場に来て四年が過ぎていた。
カズキは三年もすれば村に帰るようになっていた。しかしいまだアリアハンにいる。村がなくなったとか、飢饉がさらに続いたというわけではない。村よりもアリアハンのほうが好奇心が満たせるので、こっちに留まることにしたのだ。
村は無事に飢饉を乗り越えており、出稼ぎに出した者たちを受け入れるだけの収穫力は維持できるようになっていた。だから村人としては足りない労働力確保のためにも戻ってほしかったのだが、カズキと同じように戻らない者がいた。
こちらに馴染み、正社員に採用されるなど生活を確立し、こっちのほうがいいと判断した者が何人もいたのだ。
結局村に戻ったのは十人弱だ。追い出したような状況であるため、戻って来いと強く言うこともできずにいる。
さらには村への仕送りも止める者が続出した。すでに飢饉を乗り越えピンチとはいえない状態だ、自分のためにお金を使ってもいいだろうと考えたのだ。村人にはそれを否定はできない。当然だろう、自分で稼いだお金だ。ピンチを脱した今使い道に口を挟めない。
村への仕送りを止めた中に、稼ぎ頭の一人であるカズキもいる。村への仕送りはやめたが、家族への仕送りは続けているのだが。
カズキが酒場で働き続けることは、ルイーダにとって不満はなかった。三年も経てば立派に仕事をこなせるようになり、辞められれば開いた穴を埋めるのにいろいろと悩むことになる。
しかしずっと家族から離れっぱなしだったのだ、このままでいさせるのも思うところがあった。
だから再雇用のときの話し合いで、年に二度十日間の休暇を与えて家族と過ごせるようにと手を打った。
これに喜んだのはカズキではなく、ガウムたちだ。ようやく一緒に暮らせるようになったというのに、一向に帰ってこない息子を帰郷させてくれるように計らってくれたのだから感謝しないはずがない。休暇を過ごしアリアハンへと戻る息子に、丹精込めて作った野菜をお土産として毎回持たせるほどだ。しかもカズキに鑑定させ一番いいできのものを渡すくらい感謝していた。
カズキがいまだルイーダの酒場にいるのは、こういった理由があったのだった。
身だしなみを整えたカズキは財布を懐に入れると部屋から出て、酒場に向かう。
酒場では酒を飲んでいる者は少ない。さすがに昼にもなっていないのだから、飲もうと思う者は少ないのだろう。
ほとんどの者は壁に貼られた依頼紙から仕事を探したり、訓練相手を探したりしている。
カズキはカウンターで書類を読んでいるルイーダに挨拶する。
「おはよーセラ姉さん」
仕事時ではルイーダさんかマスターと呼ぶが、プライベートでは名前で呼ぶくらいには仲良くなっている。
ルイーダとは役職名みたいなもので、セラシエールというのが本名だということをカズキは働き始めて三週間経った頃に知った。
大きな街にはここと同じようなルイーダの酒場があるということも、その頃教えてもらった。
ルイーダの酒場は冒険者登録所であり、仕事斡旋所でもある。ルイーダとは、昔こういった組織を作った者の名前なのだという。
ルイーダの酒場がここ一つだけだと、世界中の冒険者が集まることになる。カズキは、ここの冒険者がそこまで多くないことにそれらの説明を受け納得したのだった。
ちなみにルイーダの酒場の代表者は、男でもルイーダと呼ばれている。
「おはようっていうにはちょっと遅いわよ。いままで寝てた?」
「うん。布団が気持ちよくて」
「私も布団から出たくなかったわ」
そう言いながら十分堪能してきたカズキに、羨ましげな視線を送る。
「三日すれば休みがあるから、そのときに堪能すればいいじゃない」
「そうさせてもらうわ。
それで朝食どうする? 昼まで我慢する?」
「外で果物かなにか買って食べるよ」
「ということは出かけるのね。なにか用事があるのかしら?」
「なにもないよ。ただぶらぶらとしてこようかなって」
「そ。いってらっしゃい」
「いってきまーす」
顔なじみの冒険者たちからも気をつけるんだぞ、などと声をかけられながらカズキは酒場を出る。
「どこに行こうか」
とりあえず大通りに出たカズキは行き先が特に思いつかない。好奇心を刺激するような探索してない場所はない。
四年も暮らしていれば、王都がいくら広いといっても行ける場所には行っている。行っていないのはスラム街や城周辺だ。前者は危ないからとセラシエールたちに止められているからで、後者は貴族の屋敷があり一般人がうろつくには不相応な場所だ。
「まあ、目的なく歩くってのもいいか」
いくら考えても行き先が決まらず、結局は適当に歩くことにした。
武器屋、防具屋、道具屋、よろず屋、食品店、小物屋、露店などなどをお菓子片手に軽く覘いていく。中には顔なみじもいて、そういった場所では少し話しもした。
そうやってすごしているうちに昼食の時間となり、目に入った食堂へと入る。
昼食を済ませたカズキはすることもないし、もう酒場に戻ろうかと思い歩き始める。
大通りの十字路に差し掛かったときだ。城の方角から見知った顔が歩いてくるのが見えたカズキは声をかける。
「アーク!」
呼ばれた十二才ほどの少年は 声のした方向を見てカズキに気づいた。
「兄ちゃん」
アークと呼ばれた少年は背に木刀を背負い、体のところどころに擦り傷を作っている。
四年後の旅立ちのために今から厳しい特訓を行っていて、そのためについた傷だ。
アークはオルテガの子供、未来の勇者だ。
カズキとアークの出会いは特別なものではない。今日のように休日をもらい、行ける場所には行って暇だったカズキが屋外でギターの練習をしていたとき、音色につられて近寄ってきた少年がアークだった。レンと同い年の少年を邪険に扱えるわけもなく、いろいろな曲を聞かせたり、手持ちのお菓子をあげるといった経緯で仲良くなった。そのあとは住む場所が近いこともあり、何度も会ってさらに仲良くなっていったのだ。
「今日の訓練は終わったのか?」
「うん。兄ちゃんは休み?」
「そのとおり。することないんで帰ろうと思ってたところ」
「暇なんだ……僕についてこない?」
「どこか行くのか?」
「外にある薬草園に魔物退治に行く! 朝、大人たちがこまってるって話しているの聞いたんだ」
「魔物退治? 薬草園に魔物が出る……ああ、そういえばそんな依頼があったような」
「こまってる人を助けるのは勇者のつとめだからね!」
強い意志の篭った目でアークは言う。勇者として順調に成長しているようだ。そのことに対し少し思うところがあるカズキだがなにも言わない。
思考の誘導をされているように感じている、けれども悪い方向へと導いているわけでもないので王たちの行いを間違っているとは断言できないのだ。魔王討伐にはこれくらいしなければならないのかもなと想像するだけで思考を止めている。
「そうは言ってもなぁ、危ないだろうに。
依頼として出てるんだから冒険者に任せておけばいいだろう?」
「時間がたてばたつほどひがいは大きくなるんだよ!」
「そりゃそうだけど」
「大丈夫、大丈夫! スライムやおおがらすなら何度か戦ったことあるし、勝てない相手じゃない!」
「うーん」
このままではアーク一人でも行くだろう。一人で行かせたくはないとカズキは考える。誰か知り合いの冒険者に同伴してもらえるのが一番なのだが、すでに退治依頼を受けられていると依頼の横取りと受け取られる可能性もあり、頼んだ冒険者には余計な手間をかけさせることになる。
ついていけば危なくなる前に止めることができるか、と考えカズキはアークと並んで歩き出す。
依頼が出たのが一昨日の昼なのですでに解決している可能性もある。自分たちの行動が、無駄な行動で終わることを望み農園へと向かった。
目的の畑に到着したが誰もいない。場所はここであっている。
畑は木の柵で囲まれていて、一応防備は整えられている。何種類もの草が整然と植えられていて、二人が立っている位置からは荒らされている様子は見えない。
「誰もいないし、もう依頼を果たし終えたんじゃないかな」
「そうなのかな? でもまだ終わってないかもしれないから、少し待機する」
「まあいいけど、長くは待機しないからね。遅くなると親御さんが心配するし」
「うん」
頷いたアークは見回りのつもりか畑の周囲を歩き出す。カズキもついていく。手には、念のため農具小屋に立てかけられていたスコップを握っている。このようなものでも素手よりは安心できる。
歩きながらカズキは畑に植えられている草に視線を向け、ステータスを見てみる。この畑は手入れが行き届いているようでどれも上質なものばかりだ。ここにあるものを使えば上質の薬草ができるだろう。
薬草は薬草という名前の草ではない。加工済みの高性能傷薬を薬草と呼んでいるのだ。見た目は丸薬だ。
ここに植えられている草は血止め、消毒、怪我治癒促進、体力回復の効果をそれぞれもっている。これらを煎じるなり煮詰めるなりして一つに混ぜ、仕上げに教会で祈りを捧げ精霊に祝福してもらい完成したものを薬草と呼ぶのだ。草を一つにまとめたものはただ傷薬と呼ぶ。
両者の違いは即効性があるかないか。元がただの草なのだ、それらを混ぜたところで呪文染みた効果はない。
薬草一つで一般人が四日ほど過ごせる金額なのは、最後の仕上げにお金がかかっているからだ。薬草の代金の半分は人件費なのだ。ぼったくりともいえるかもしれないが、効果の高い傷薬なのだから人々はその値段に納得している。教会にとっても大事な収入源だ。
それとゲームで買える薬草の値段は最高品質のものだ。もっと回復量をおとしたものならば、安くて5ゴールドで買える。その場合は回復量は10程度だろうが。一般人ならばその回復量でも十分だ。
薬草の高値には魔物の活発化にも原因がある。魔物が活発化したということは、相手をする冒険者が怪我をする機会も増えたということだ。冒険者たちはより効果の高い薬草を求め、農家はそれに応えた。それにより手間などがかかり、効果は上がったが値段も上昇した。二十年前は高くとも6ゴールドほどだったのだ。
ちなみに毒消し草も薬草と同じだ。満月草はそうでもなく、満月草単品で麻痺毒に高い効果を発揮するので教会に持っていくことはない。ただし生産に手間がかかるので値段が高めになっている。
歩き回って一時間になろうとしている。その間になんの変化もなくカズキはそろそろ戻ろうかと考え始める。
アークに声をかけようとしたとき、かすかにいくつかの物音が聞こえてきた。
「なんの音?」
「……これはスライムが跳ねる音っぽい」
戦ったときに覚えたのかアークは音のする方向を見ながら言った。視線の先には小さな青い塊がいくつか見えた。
アークは背から木刀をとり、音のする方向へ走っていく。
「ちょっ、仕方ないな!」
止める間もなく走り出したアークを追ってカズキも走り出す。一度スライムに殺されかけたカズキは体が小さく震えていた。トラウマ気味になっていたのだ。あのときは小さく一人だったが、今は成長しているし武器もあるし仲間もいると、自身を励ましスライムに立ち向かうことができた。
畑に侵入したスライムたちに突っ込んだアークは木刀を振るい、スライムを殴り飛ばす。
殴り飛ばされたスライムはその攻撃では倒れず起き上がる。アークを見る目は当然敵意に満ちている。回りのスライムたちも仲間が攻撃されたことで、注意をアークに向ける。
つぎつぎと体当たりを仕掛けてくるスライムたちを、アークは余裕をもって避けていく。ついでとばかりに近づいてきたスライムを木刀で殴っていく。
アークは才能があるのだろう。見たかぎりで苦戦していない。体ができあがっていない今でさえ、これほどの戦いぶりを見せているのだからきっと強くなる。
「いきなり突っ込むな!」
おいついたカズキはそう言いながらスコップをスライムに叩きつける。勢いのついたその攻撃はスライムがダメージを受けていたこともあって止めとなる。ただしスコップは古かったのか、衝撃に耐え切れず刃先がもげてしまい、ただの棒になってしまった。
「スライムくらいなら余裕だって。兄ちゃんも倒せてるし、これくらいの数なら大丈夫だよ!」
「攻撃力さらに下がった状態なんだけどなっ」
口では気乗りしないことを言っているが、スライムを倒したことでスライムに対する恐怖は薄れた。おかげで体の動きはよくなり、致命的なダメージをうけることはなくなった。
恐怖が薄れたといっても余裕はなく、必死になって元スコップを振るっていく。
余裕があれば各個撃破していくことを思いついただろう。カズキにはスライムたちのステータス確認ができて、効果的にそれを行うことができるのだから。
「これで終わりっと!」
アークが最後の一匹に木刀を叩きつけた。
七匹いたスライムたちは全てゴールドにその姿を変えた。
戦い終わり二人は肩で息をしながら、地面に座り込んだ。スライムの攻撃を避けきれなかったカズキはもちろんのこと、アークも動き続け体力を消耗していた。
「な、なんとかなった」
「だから大丈夫って言ったでしょ」
勝ったことを喜び笑うアークに同意しようとしたとき、炎の波が一帯を吹きぬけた。
カズキはダメージと火傷に耐えることが精一杯で周囲の確認が難しい。さらにはすぐに立ち上がれたアークと違い、ダメージを受けていたカズキは動くことすら難しい。
「あれも魔物?」
アークの視線の先には全身をローブで隠した人型の魔物がいる。周りにはいっかくうさぎとおおありくいが侍っている。
「……あれはたぶんまほうつかいだ」
カズキは、なんとか顔を動かして見えたリーダー格らしき魔物の正体をアークに教える。
「ギラ」
魔法使いはもう一度呪文を使う。
防御体勢を整えることができたアークと違い、カズキはまともにギラを受ける。そこでカズキの意識はなくなった。
最後の瞬間に考えていたのは、まほうつかいがどうしてギラを使えるのかということだった。
「兄ちゃん? 兄ちゃん!?」
呼びかけても返事のないカズキにアークはたちまち不安が沸き起こる。大切に育てられてきたアークは人が傷つき倒れるという場面は初めてなのだ。
アークの師匠役も覚悟なしにこんな場面に立ち会えば動揺が起きることは想像できており、もう少ししたら教え込むつもりだったのだ。その場面がこんな時期にくるとは予想していなかった。
こんなことになったのは魔物に対する恐怖心が小さいことが原因だ。一般人にとっては魔物は基本的に怖いもの。しかし幾度か街外に連れられ兵士たちが蹴散らす姿を見たり、戦ったことのあるアークにとっては、それほど恐怖心を煽る存在ではない。
怖いもの知らずな一面と筋がいいと褒められ続け生まれた慢心からくる行動の結果、素人二人で魔物と戦うという状況となった。
「っぅうわあぁっ!」
体が震えていることに気づかず、アークは大声を上げてまほうつかいに突撃する。いっかくうさぎなどが阻むが、まほうつかいしか見えていないアークにはたいして障害となっていない。
いっかくうさぎの角などで、体に傷を負いながらまほうつかいに木刀の切っ先を突き刺す。
今日の戦闘で一番の手ごたえを感じたアークは、これで相手は倒れただろうと考える。
アークの予想通り大ダメージを受けたまほうつかいだが、所持していた薬草をすぐに飲み込み傷を治療した。ローブ下に着ているみかわしの服がなければ、即死だったかもしれない。
「そんな!?」
倒れず、それどころかダメージが皆無のように動くまほうつかいに恐怖心を抱く。
滅茶苦茶に木刀を振りまわるアークにいっかくうさきがつぎつぎと突撃し、ダメージを負わせていく。
ついに地面に倒れたアークをまほうつかいが見下ろす。
「ううっ」
なんとか立ち上がろうとするアークに向かって、まほつかいは指を突きつける。
メラの呪文文字が描かれ、指先に炎が生まれた。それはじょじょに大きくなっていく。
アークの恐怖心を煽るためにゆっくりと呪文を発動させているのだろう。
そしてとどめとなる言葉が発せられた。
「メラ」
バレーボール大の炎球がアークにぶつかり、破裂した。
周囲には肉の焼ける匂いが立ち込める。
人間を食べる魔物にとっては、なによりのご馳走の匂いかもしれない。この場にはそんな魔物はいないので、関心が向けられることはなかった。もしこの場にそんな魔物がいたら二人はきっと食べられて復活もできなかっただろう。
カズキが目を覚ましたのは自室だ。ギラを受けて倒れ、半日以上経っていた。
起きた当初は悪い夢だったのかと思ったが、テーブルに置かれていた手紙で現実だったのだとわかった。
手紙はセラシエールからで、アークが倒れてから今に至るまでの説明がされていた。
アークが倒れたあと、まほうつかいたちは仕事を請けて様子見にきた冒険者たちと交戦した。冒険者たちはまほうつかいたちを追い払うことに成功したあと、倒れている二人に気づいた。
彼らはカズキやアークの顔を知っており、急いで教会に運び込んだ。復活の儀式が行われ、鍛えられているアークはすぐに気づいたが、一般人のカズキは眠り続けた。原因が疲労からくる昏睡とわかり、セラシエールや顔見知りの冒険者たちはほっと胸を撫で下ろす。
そしてアークから事情を聞いて、大人たちによって説教大会が開かれたのだった。
カズキもこれから説教だ。原因の多くはアークにあるが、やはり年長者として強く止めるべきだったし、冒険者たちから魔物の怖さを聞かされているにもかかわらず魔物と戦うという愚行。これらに対しての説教だ。
セラシエールからの涙ぐみながらの説教が一番きいたようだ。カズキの訃報に一番心を痛めたのは、カズキを弟のように感じているセラシールなのだ。
カズキは説教をする人たちにただただ謝るしかなかった。
今回の敗戦でカズキはやはり魔物は怖いものという認識を得た。それだけですんだ。自身の戦闘力のなさに落ち込むことはない。もとからたいして自信があったわけではない。スライム程度ならなんとかなると、確信を得られただけ収穫はあった。
一方アークはというと、積み上げていた自信が崩れていた。慢心していたので、周囲は自信が崩れていたことはたいして心配していない。敗戦を知ってくれることは悪いことではない、負けなしだと今回のように慢心することがあるからだ。これを教訓としてくれればと考えていた。
心配していたのは、この敗戦が原因で旅に出ることを拒否するようにならないかということだ。勇者がバラモス討伐に出ないことは国の面子にも関わる。心の傷を癒す準備もそれとなくしていたのだが、アークは少し落ち込んでいたものの自身で立ち直った。火に対して少しだけ怯えは残ってはいるが。
この心の強さに王たちは勇者の気質を見出し、安堵していた。
これ以降アークは、気を引き締めさらに修練に励むことになる。
カズキもまた魔物に襲われることになったときのため、逃げることが可能なように体力作りに励む。
カズキとアークが旅立つことになる四年前の出来事である。
5へ
布団をはねのけベッドから立ち上がったカズキは全身をグッと伸ばし、わずかに残っていた眠気を払う。
成長期に入ってぐんぐんと背が伸びたカズキは、すでに少年とは呼べず青年の域に足を踏み入れている。わずかにあどけなさが残っているのが名残といえるだろう。
今カズキは十五才、ルイーダの酒場に来て四年が過ぎていた。
カズキは三年もすれば村に帰るようになっていた。しかしいまだアリアハンにいる。村がなくなったとか、飢饉がさらに続いたというわけではない。村よりもアリアハンのほうが好奇心が満たせるので、こっちに留まることにしたのだ。
村は無事に飢饉を乗り越えており、出稼ぎに出した者たちを受け入れるだけの収穫力は維持できるようになっていた。だから村人としては足りない労働力確保のためにも戻ってほしかったのだが、カズキと同じように戻らない者がいた。
こちらに馴染み、正社員に採用されるなど生活を確立し、こっちのほうがいいと判断した者が何人もいたのだ。
結局村に戻ったのは十人弱だ。追い出したような状況であるため、戻って来いと強く言うこともできずにいる。
さらには村への仕送りも止める者が続出した。すでに飢饉を乗り越えピンチとはいえない状態だ、自分のためにお金を使ってもいいだろうと考えたのだ。村人にはそれを否定はできない。当然だろう、自分で稼いだお金だ。ピンチを脱した今使い道に口を挟めない。
村への仕送りを止めた中に、稼ぎ頭の一人であるカズキもいる。村への仕送りはやめたが、家族への仕送りは続けているのだが。
カズキが酒場で働き続けることは、ルイーダにとって不満はなかった。三年も経てば立派に仕事をこなせるようになり、辞められれば開いた穴を埋めるのにいろいろと悩むことになる。
しかしずっと家族から離れっぱなしだったのだ、このままでいさせるのも思うところがあった。
だから再雇用のときの話し合いで、年に二度十日間の休暇を与えて家族と過ごせるようにと手を打った。
これに喜んだのはカズキではなく、ガウムたちだ。ようやく一緒に暮らせるようになったというのに、一向に帰ってこない息子を帰郷させてくれるように計らってくれたのだから感謝しないはずがない。休暇を過ごしアリアハンへと戻る息子に、丹精込めて作った野菜をお土産として毎回持たせるほどだ。しかもカズキに鑑定させ一番いいできのものを渡すくらい感謝していた。
カズキがいまだルイーダの酒場にいるのは、こういった理由があったのだった。
身だしなみを整えたカズキは財布を懐に入れると部屋から出て、酒場に向かう。
酒場では酒を飲んでいる者は少ない。さすがに昼にもなっていないのだから、飲もうと思う者は少ないのだろう。
ほとんどの者は壁に貼られた依頼紙から仕事を探したり、訓練相手を探したりしている。
カズキはカウンターで書類を読んでいるルイーダに挨拶する。
「おはよーセラ姉さん」
仕事時ではルイーダさんかマスターと呼ぶが、プライベートでは名前で呼ぶくらいには仲良くなっている。
ルイーダとは役職名みたいなもので、セラシエールというのが本名だということをカズキは働き始めて三週間経った頃に知った。
大きな街にはここと同じようなルイーダの酒場があるということも、その頃教えてもらった。
ルイーダの酒場は冒険者登録所であり、仕事斡旋所でもある。ルイーダとは、昔こういった組織を作った者の名前なのだという。
ルイーダの酒場がここ一つだけだと、世界中の冒険者が集まることになる。カズキは、ここの冒険者がそこまで多くないことにそれらの説明を受け納得したのだった。
ちなみにルイーダの酒場の代表者は、男でもルイーダと呼ばれている。
「おはようっていうにはちょっと遅いわよ。いままで寝てた?」
「うん。布団が気持ちよくて」
「私も布団から出たくなかったわ」
そう言いながら十分堪能してきたカズキに、羨ましげな視線を送る。
「三日すれば休みがあるから、そのときに堪能すればいいじゃない」
「そうさせてもらうわ。
それで朝食どうする? 昼まで我慢する?」
「外で果物かなにか買って食べるよ」
「ということは出かけるのね。なにか用事があるのかしら?」
「なにもないよ。ただぶらぶらとしてこようかなって」
「そ。いってらっしゃい」
「いってきまーす」
顔なじみの冒険者たちからも気をつけるんだぞ、などと声をかけられながらカズキは酒場を出る。
「どこに行こうか」
とりあえず大通りに出たカズキは行き先が特に思いつかない。好奇心を刺激するような探索してない場所はない。
四年も暮らしていれば、王都がいくら広いといっても行ける場所には行っている。行っていないのはスラム街や城周辺だ。前者は危ないからとセラシエールたちに止められているからで、後者は貴族の屋敷があり一般人がうろつくには不相応な場所だ。
「まあ、目的なく歩くってのもいいか」
いくら考えても行き先が決まらず、結局は適当に歩くことにした。
武器屋、防具屋、道具屋、よろず屋、食品店、小物屋、露店などなどをお菓子片手に軽く覘いていく。中には顔なみじもいて、そういった場所では少し話しもした。
そうやってすごしているうちに昼食の時間となり、目に入った食堂へと入る。
昼食を済ませたカズキはすることもないし、もう酒場に戻ろうかと思い歩き始める。
大通りの十字路に差し掛かったときだ。城の方角から見知った顔が歩いてくるのが見えたカズキは声をかける。
「アーク!」
呼ばれた十二才ほどの少年は 声のした方向を見てカズキに気づいた。
「兄ちゃん」
アークと呼ばれた少年は背に木刀を背負い、体のところどころに擦り傷を作っている。
四年後の旅立ちのために今から厳しい特訓を行っていて、そのためについた傷だ。
アークはオルテガの子供、未来の勇者だ。
カズキとアークの出会いは特別なものではない。今日のように休日をもらい、行ける場所には行って暇だったカズキが屋外でギターの練習をしていたとき、音色につられて近寄ってきた少年がアークだった。レンと同い年の少年を邪険に扱えるわけもなく、いろいろな曲を聞かせたり、手持ちのお菓子をあげるといった経緯で仲良くなった。そのあとは住む場所が近いこともあり、何度も会ってさらに仲良くなっていったのだ。
「今日の訓練は終わったのか?」
「うん。兄ちゃんは休み?」
「そのとおり。することないんで帰ろうと思ってたところ」
「暇なんだ……僕についてこない?」
「どこか行くのか?」
「外にある薬草園に魔物退治に行く! 朝、大人たちがこまってるって話しているの聞いたんだ」
「魔物退治? 薬草園に魔物が出る……ああ、そういえばそんな依頼があったような」
「こまってる人を助けるのは勇者のつとめだからね!」
強い意志の篭った目でアークは言う。勇者として順調に成長しているようだ。そのことに対し少し思うところがあるカズキだがなにも言わない。
思考の誘導をされているように感じている、けれども悪い方向へと導いているわけでもないので王たちの行いを間違っているとは断言できないのだ。魔王討伐にはこれくらいしなければならないのかもなと想像するだけで思考を止めている。
「そうは言ってもなぁ、危ないだろうに。
依頼として出てるんだから冒険者に任せておけばいいだろう?」
「時間がたてばたつほどひがいは大きくなるんだよ!」
「そりゃそうだけど」
「大丈夫、大丈夫! スライムやおおがらすなら何度か戦ったことあるし、勝てない相手じゃない!」
「うーん」
このままではアーク一人でも行くだろう。一人で行かせたくはないとカズキは考える。誰か知り合いの冒険者に同伴してもらえるのが一番なのだが、すでに退治依頼を受けられていると依頼の横取りと受け取られる可能性もあり、頼んだ冒険者には余計な手間をかけさせることになる。
ついていけば危なくなる前に止めることができるか、と考えカズキはアークと並んで歩き出す。
依頼が出たのが一昨日の昼なのですでに解決している可能性もある。自分たちの行動が、無駄な行動で終わることを望み農園へと向かった。
目的の畑に到着したが誰もいない。場所はここであっている。
畑は木の柵で囲まれていて、一応防備は整えられている。何種類もの草が整然と植えられていて、二人が立っている位置からは荒らされている様子は見えない。
「誰もいないし、もう依頼を果たし終えたんじゃないかな」
「そうなのかな? でもまだ終わってないかもしれないから、少し待機する」
「まあいいけど、長くは待機しないからね。遅くなると親御さんが心配するし」
「うん」
頷いたアークは見回りのつもりか畑の周囲を歩き出す。カズキもついていく。手には、念のため農具小屋に立てかけられていたスコップを握っている。このようなものでも素手よりは安心できる。
歩きながらカズキは畑に植えられている草に視線を向け、ステータスを見てみる。この畑は手入れが行き届いているようでどれも上質なものばかりだ。ここにあるものを使えば上質の薬草ができるだろう。
薬草は薬草という名前の草ではない。加工済みの高性能傷薬を薬草と呼んでいるのだ。見た目は丸薬だ。
ここに植えられている草は血止め、消毒、怪我治癒促進、体力回復の効果をそれぞれもっている。これらを煎じるなり煮詰めるなりして一つに混ぜ、仕上げに教会で祈りを捧げ精霊に祝福してもらい完成したものを薬草と呼ぶのだ。草を一つにまとめたものはただ傷薬と呼ぶ。
両者の違いは即効性があるかないか。元がただの草なのだ、それらを混ぜたところで呪文染みた効果はない。
薬草一つで一般人が四日ほど過ごせる金額なのは、最後の仕上げにお金がかかっているからだ。薬草の代金の半分は人件費なのだ。ぼったくりともいえるかもしれないが、効果の高い傷薬なのだから人々はその値段に納得している。教会にとっても大事な収入源だ。
それとゲームで買える薬草の値段は最高品質のものだ。もっと回復量をおとしたものならば、安くて5ゴールドで買える。その場合は回復量は10程度だろうが。一般人ならばその回復量でも十分だ。
薬草の高値には魔物の活発化にも原因がある。魔物が活発化したということは、相手をする冒険者が怪我をする機会も増えたということだ。冒険者たちはより効果の高い薬草を求め、農家はそれに応えた。それにより手間などがかかり、効果は上がったが値段も上昇した。二十年前は高くとも6ゴールドほどだったのだ。
ちなみに毒消し草も薬草と同じだ。満月草はそうでもなく、満月草単品で麻痺毒に高い効果を発揮するので教会に持っていくことはない。ただし生産に手間がかかるので値段が高めになっている。
歩き回って一時間になろうとしている。その間になんの変化もなくカズキはそろそろ戻ろうかと考え始める。
アークに声をかけようとしたとき、かすかにいくつかの物音が聞こえてきた。
「なんの音?」
「……これはスライムが跳ねる音っぽい」
戦ったときに覚えたのかアークは音のする方向を見ながら言った。視線の先には小さな青い塊がいくつか見えた。
アークは背から木刀をとり、音のする方向へ走っていく。
「ちょっ、仕方ないな!」
止める間もなく走り出したアークを追ってカズキも走り出す。一度スライムに殺されかけたカズキは体が小さく震えていた。トラウマ気味になっていたのだ。あのときは小さく一人だったが、今は成長しているし武器もあるし仲間もいると、自身を励ましスライムに立ち向かうことができた。
畑に侵入したスライムたちに突っ込んだアークは木刀を振るい、スライムを殴り飛ばす。
殴り飛ばされたスライムはその攻撃では倒れず起き上がる。アークを見る目は当然敵意に満ちている。回りのスライムたちも仲間が攻撃されたことで、注意をアークに向ける。
つぎつぎと体当たりを仕掛けてくるスライムたちを、アークは余裕をもって避けていく。ついでとばかりに近づいてきたスライムを木刀で殴っていく。
アークは才能があるのだろう。見たかぎりで苦戦していない。体ができあがっていない今でさえ、これほどの戦いぶりを見せているのだからきっと強くなる。
「いきなり突っ込むな!」
おいついたカズキはそう言いながらスコップをスライムに叩きつける。勢いのついたその攻撃はスライムがダメージを受けていたこともあって止めとなる。ただしスコップは古かったのか、衝撃に耐え切れず刃先がもげてしまい、ただの棒になってしまった。
「スライムくらいなら余裕だって。兄ちゃんも倒せてるし、これくらいの数なら大丈夫だよ!」
「攻撃力さらに下がった状態なんだけどなっ」
口では気乗りしないことを言っているが、スライムを倒したことでスライムに対する恐怖は薄れた。おかげで体の動きはよくなり、致命的なダメージをうけることはなくなった。
恐怖が薄れたといっても余裕はなく、必死になって元スコップを振るっていく。
余裕があれば各個撃破していくことを思いついただろう。カズキにはスライムたちのステータス確認ができて、効果的にそれを行うことができるのだから。
「これで終わりっと!」
アークが最後の一匹に木刀を叩きつけた。
七匹いたスライムたちは全てゴールドにその姿を変えた。
戦い終わり二人は肩で息をしながら、地面に座り込んだ。スライムの攻撃を避けきれなかったカズキはもちろんのこと、アークも動き続け体力を消耗していた。
「な、なんとかなった」
「だから大丈夫って言ったでしょ」
勝ったことを喜び笑うアークに同意しようとしたとき、炎の波が一帯を吹きぬけた。
カズキはダメージと火傷に耐えることが精一杯で周囲の確認が難しい。さらにはすぐに立ち上がれたアークと違い、ダメージを受けていたカズキは動くことすら難しい。
「あれも魔物?」
アークの視線の先には全身をローブで隠した人型の魔物がいる。周りにはいっかくうさぎとおおありくいが侍っている。
「……あれはたぶんまほうつかいだ」
カズキは、なんとか顔を動かして見えたリーダー格らしき魔物の正体をアークに教える。
「ギラ」
魔法使いはもう一度呪文を使う。
防御体勢を整えることができたアークと違い、カズキはまともにギラを受ける。そこでカズキの意識はなくなった。
最後の瞬間に考えていたのは、まほうつかいがどうしてギラを使えるのかということだった。
「兄ちゃん? 兄ちゃん!?」
呼びかけても返事のないカズキにアークはたちまち不安が沸き起こる。大切に育てられてきたアークは人が傷つき倒れるという場面は初めてなのだ。
アークの師匠役も覚悟なしにこんな場面に立ち会えば動揺が起きることは想像できており、もう少ししたら教え込むつもりだったのだ。その場面がこんな時期にくるとは予想していなかった。
こんなことになったのは魔物に対する恐怖心が小さいことが原因だ。一般人にとっては魔物は基本的に怖いもの。しかし幾度か街外に連れられ兵士たちが蹴散らす姿を見たり、戦ったことのあるアークにとっては、それほど恐怖心を煽る存在ではない。
怖いもの知らずな一面と筋がいいと褒められ続け生まれた慢心からくる行動の結果、素人二人で魔物と戦うという状況となった。
「っぅうわあぁっ!」
体が震えていることに気づかず、アークは大声を上げてまほうつかいに突撃する。いっかくうさぎなどが阻むが、まほうつかいしか見えていないアークにはたいして障害となっていない。
いっかくうさぎの角などで、体に傷を負いながらまほうつかいに木刀の切っ先を突き刺す。
今日の戦闘で一番の手ごたえを感じたアークは、これで相手は倒れただろうと考える。
アークの予想通り大ダメージを受けたまほうつかいだが、所持していた薬草をすぐに飲み込み傷を治療した。ローブ下に着ているみかわしの服がなければ、即死だったかもしれない。
「そんな!?」
倒れず、それどころかダメージが皆無のように動くまほうつかいに恐怖心を抱く。
滅茶苦茶に木刀を振りまわるアークにいっかくうさきがつぎつぎと突撃し、ダメージを負わせていく。
ついに地面に倒れたアークをまほうつかいが見下ろす。
「ううっ」
なんとか立ち上がろうとするアークに向かって、まほつかいは指を突きつける。
メラの呪文文字が描かれ、指先に炎が生まれた。それはじょじょに大きくなっていく。
アークの恐怖心を煽るためにゆっくりと呪文を発動させているのだろう。
そしてとどめとなる言葉が発せられた。
「メラ」
バレーボール大の炎球がアークにぶつかり、破裂した。
周囲には肉の焼ける匂いが立ち込める。
人間を食べる魔物にとっては、なによりのご馳走の匂いかもしれない。この場にはそんな魔物はいないので、関心が向けられることはなかった。もしこの場にそんな魔物がいたら二人はきっと食べられて復活もできなかっただろう。
カズキが目を覚ましたのは自室だ。ギラを受けて倒れ、半日以上経っていた。
起きた当初は悪い夢だったのかと思ったが、テーブルに置かれていた手紙で現実だったのだとわかった。
手紙はセラシエールからで、アークが倒れてから今に至るまでの説明がされていた。
アークが倒れたあと、まほうつかいたちは仕事を請けて様子見にきた冒険者たちと交戦した。冒険者たちはまほうつかいたちを追い払うことに成功したあと、倒れている二人に気づいた。
彼らはカズキやアークの顔を知っており、急いで教会に運び込んだ。復活の儀式が行われ、鍛えられているアークはすぐに気づいたが、一般人のカズキは眠り続けた。原因が疲労からくる昏睡とわかり、セラシエールや顔見知りの冒険者たちはほっと胸を撫で下ろす。
そしてアークから事情を聞いて、大人たちによって説教大会が開かれたのだった。
カズキもこれから説教だ。原因の多くはアークにあるが、やはり年長者として強く止めるべきだったし、冒険者たちから魔物の怖さを聞かされているにもかかわらず魔物と戦うという愚行。これらに対しての説教だ。
セラシエールからの涙ぐみながらの説教が一番きいたようだ。カズキの訃報に一番心を痛めたのは、カズキを弟のように感じているセラシールなのだ。
カズキは説教をする人たちにただただ謝るしかなかった。
今回の敗戦でカズキはやはり魔物は怖いものという認識を得た。それだけですんだ。自身の戦闘力のなさに落ち込むことはない。もとからたいして自信があったわけではない。スライム程度ならなんとかなると、確信を得られただけ収穫はあった。
一方アークはというと、積み上げていた自信が崩れていた。慢心していたので、周囲は自信が崩れていたことはたいして心配していない。敗戦を知ってくれることは悪いことではない、負けなしだと今回のように慢心することがあるからだ。これを教訓としてくれればと考えていた。
心配していたのは、この敗戦が原因で旅に出ることを拒否するようにならないかということだ。勇者がバラモス討伐に出ないことは国の面子にも関わる。心の傷を癒す準備もそれとなくしていたのだが、アークは少し落ち込んでいたものの自身で立ち直った。火に対して少しだけ怯えは残ってはいるが。
この心の強さに王たちは勇者の気質を見出し、安堵していた。
これ以降アークは、気を引き締めさらに修練に励むことになる。
カズキもまた魔物に襲われることになったときのため、逃げることが可能なように体力作りに励む。
カズキとアークが旅立つことになる四年前の出来事である。
5へ
2009年11月18日
感謝の33
感想、ウェブ拍手ありがとうございます
Quoさん
経験上ことを荒立てることを嫌う人たちが集まってますから、村や島の雰囲気はおだやかになりますね
あと陽平の力で支配しているともいえる状態です。魔物たちには力を示した方が話しの進みがよくなりますから
アールさん
地味にマルチーナの名前も入ってたり
Kouさん
驚くこと間違いなしですね。大樹大神殿にも降臨してませんし。というか人型の姿をもってることすら知ったら驚くかも
自重しない魔法使いたちの陽平に対しての認識は、過去そういった魔法使いがいたというものですね
陽平は彼らにここ三百年ほど関わってません。普通の魔法使いは三百年もすれば死んでますから、陽平のことも死亡しているのではと思ってます
五百年を生きたルチアという例外もいますので、もしかすると生きてる? とも考えてますが
樹の世界へのBADサイド考えてたら、陽平が召喚されて三百年ほどで世界が滅びるという結果に。
悪い方へと考えていたせいでもあるんだけど、世界が滅びるとは
ああでも、エスティアの説得失敗しても滅びてたか
だとすると陽平って世界にとって疫病神に近いのかもしれないなぁ
Quoさん
経験上ことを荒立てることを嫌う人たちが集まってますから、村や島の雰囲気はおだやかになりますね
あと陽平の力で支配しているともいえる状態です。魔物たちには力を示した方が話しの進みがよくなりますから
アールさん
地味にマルチーナの名前も入ってたり
Kouさん
驚くこと間違いなしですね。大樹大神殿にも降臨してませんし。というか人型の姿をもってることすら知ったら驚くかも
自重しない魔法使いたちの陽平に対しての認識は、過去そういった魔法使いがいたというものですね
陽平は彼らにここ三百年ほど関わってません。普通の魔法使いは三百年もすれば死んでますから、陽平のことも死亡しているのではと思ってます
五百年を生きたルチアという例外もいますので、もしかすると生きてる? とも考えてますが
樹の世界へのBADサイド考えてたら、陽平が召喚されて三百年ほどで世界が滅びるという結果に。
悪い方へと考えていたせいでもあるんだけど、世界が滅びるとは
ああでも、エスティアの説得失敗しても滅びてたか
だとすると陽平って世界にとって疫病神に近いのかもしれないなぁ
生まれ変わってドラクエ 幕間1 それぞれの事情
元42才男性サラリーマンの場合。
はっきりとした意識が持てた頃には、ここは弥生時代かと思った。
服装や建物が歴史の教科書で見たものと似ていたからだ。そばに有名人と同じ名の少女もいたしな。
乳兄妹の彼女は小さい頃から聡明で愛らしく、将来絶対美人になるだろうと予測できるほどだ。
彼女が飛びぬけて聡明なおかげで、たびたび漏らした俺の幼児らしからぬ言動も誤魔化せた。一時期は彼女も俺と同じように生まれ変わったのではと疑った。それは勘違いだったが。
ここが地球とは違うと思い始めたのは、不可思議な現象を知った頃だ。神通力と呼ばれるもので、俺にもあった。それでも大昔ならば現代の常識は通じないかという考えもあったのだが、初めて魔物と出会ったときに、ここは地球とは違うのだとわかった。
生まれ変わったことにはたいして後悔や不満は抱かなかった。妻や家族がいれば抱いたのだろう。しかし両親はすでに他界し、結婚もせず独り身だった。仕事にも大きな情熱は持っておらず、あっちに対して未練というものはなかった。せいぜいがタバコ吸えなくなるのは残念、というものだ。
むしろ死を与えられたのに、何の因果かもう一度人生を送ることができることを幸運と思い過ごしてきた。危険はあるし、技術の違いで戸惑うことはある。けれども充実している人生と思える。
それは大事な存在をこの手で守ることができているからだろう。
前世ではここまでの感情を他人に抱かなかった。身分の違いから伴侶とするには難しい。けれどもそばで守っていると実感できるだけで、こんなにも幸せになれるとは思っていなかった。
あの子のためならば、どんなに厳しい修練にも耐えることができるし、疲れをおして仕事に就くことも苦痛ではない。
そんな大事な存在であるあの子には小さい頃から、暗い影がつきまとっていた。小さな頃は薄い影だった。大きくなるにつれてじょじょに濃さを増している。
この影は死の衣だ。俺はそれを知っていた。
意識がはっきりとした頃から、俺はそれをまとった人を見てきた。当初はなんなのかさっぱりわからなかったが、あるとき漆黒をまとった近しい者が現れた。そして漆黒の衣をまとった者は三日後に死んだ。その後何人か同じように漆黒の衣をまとった者を見たが例外はなかった。
あの子と他の者には違いがある。
死の衣は死ぬ一年前からまとうものだ。あの子のように長年まとっている者はいない。
それほどまでにあの子の死は強く決定づけられているのだろうか?
だとしたら俺はそれを覆したい。
だから俺は一層修練に力を入れた。殺される運命ならば、それを阻止できる力を得るため。
俺はどんな小さなことも見逃さないように、あの子を見守り続ける。俺には努力で得た地位があり、その地位はあの子の近くにいることを可能とさせている。
死の運命よ、くるならこいっ。
ヒミコは俺が絶対守ってみせる!
元17才女子高生の場合
最悪だわ。彼氏がいて高校生活もバイトも楽しくて、人生これからってときに死んじゃったのよ?
んで次に気づいたら、外国人に覗き込まれてる。ここどこよ!? って感じだったわ。
とりあえず生まれかわり? そんなのが起きたってわかったけど、運がいいのか悪いのかさっぱりだわ。
文化も技術水準も違う場所に生まれかわったんだから、プラスマイナスで考えてマイナスよね。魔物なんてものがいて危ないしっ。
携帯もテレビもない、ご飯も慣れたものじゃない。話しも合わない。シャワーもないのよ! 風呂が一般的じゃなくて、川で水浴びってどういうこと!?
もう一度生きる機会を与えてくれるのはいいけど、前と似たような場所にしてほしかったわ。
正直不満だらけ!
だから私は小さい頃から無愛想な子だった。現状に満足できないんだから、笑顔なんて浮かべられないわ。
そんな私にこっちの両親でさえ、少しは疎ましさを感じてたっぽい。家から放り出すことがなかったのは、それでも自分たちの子だからっていう愛情があったからかしら? 無愛想でも悪さはしてなかったしね。むしろ周囲の人と比べて優秀な部類に入ってたと思う。
なんでか私の知っていること以外のことが頭の中にたくさん入ってるのよ。道具の扱い方に困っても、どう使うのって頭の中で問うと、使い方が頭に浮かんでわかっちゃう。天才っていうのとは違うと思う。天才ってのは知識を使いこなす知恵がある人のことを指すと思うから。私にあるのは知識だけ。頭の中にインターネットが備わってる感じ。便利だけど、どうして私はこんなになってるんだろう? それを聞いても答えは浮かばない。
かわりに暇つぶしにいろいろな知識を見てたら、ここがどこかわかった。
スライムっていうんだっけ? 魔物の種類を流し見てたら、それがいることがわかった。ドラゴンクエストのCMでちらっと見たことあるから、それに関係する世界なんだろうなってわかった。
まあ、それがわかったところでなんの解決にもならないんだけどね。
これからどう過ごしていけばいいのかわからずに、惰性で生きてた十二才の頃に、転機が訪れた。
お爺ちゃんが村の東、遠く離れた場所に村を作りたいって言いだした。理由はよくわからないんだけど、若い頃に遠出してみつけた土地に村を作るのが夢だったんだって。
家族も村の人たちも反対した。村の外は危ないし、この村での暮らしに不満はないからね。
反対にあってもお爺ちゃんは諦めなかった。一人でも行くって言って旅支度始めた。私はお爺ちゃんっていってるけど、年齢はまだ五十。肉体的にはまだまだ元気で、多少の荒事にも平気。これから先は衰えていくんだろうけど。
だからかな? 老いる前に夢を叶えて一花咲かせたいって思った、のかな?
そんなお爺ちゃんが少し羨ましかった。不満を持っているけど動かず現状を変えようとしない私と違って、夢を叶えようと動いているお爺ちゃんが。
私の視線に気づいたのか、始めからそうするもつもりだったのか、お爺ちゃんは村を出る前の晩に私に聞いてきた。
『一緒にくるか?』
この問いに私は反射的に頷いて、差し出された手をとった。
今になって考えると、現状を変える最大のチャンスがきたって本能的に理解してたから頷いたんだね。
このときに頷いたことを私は胸を張って誇ることができる。
村を作るのは大変だけど、その分だけ充実もしてる。家を作ったり道具を作ったりということでわからないことがあれば、聞けばわかるから滞るってこともない。
人材集めや交渉は主にお爺ちゃんが担当してる。村を作るのが夢なんだから、私や移住してきた人にだけに任せるつもりはないみたいで毎日はりきってる。
少しずつ大きくなっていく街は自分ごのみに作ったから、毎日お風呂に入れてシャワーも浴びられる。ご飯も和食っぽい食堂作った。かなり満足できてる。
この調子で私に住みやすい街にしていこうと思っている。
元23才男性フリーターの場合
俺の時代きたーっ!
そんなことを考えて頃もありました。
だってそうだろ? トラックに突っ込まれて事故死。別の世界に転生。こんなテンプレなんだから、勇者に生まれるか、勇者の仲間に相応しい実力の持ち主に生まれなきゃ嘘ってもんだよ。
それがきめんどうしだってお! ねーよ!
目を覚ましてすぐに、きめんどうしって呼ばれてまさかなって思ったさ。でも少しの希望を持って水に反射する自分の顔を見たときの絶望感!
一週間落ち込んだね! いやね? 呪文が使えるのはちょいと嬉しい。でも人間がよかったです。贅沢を言えば俺tueeっできる人間がよかったけど、きめんどうしになるくらいなら普通の人間のほうがまだまし。
テンションの低かった俺を心配してくれた魔物が二体いる。まほうつかいとじごくのきしだ。同じ時期に生まれた俺の元気のなさが心配だったらしい。
性別的にはじごくのきしが女で、まほうつかいが男。まほうつかいは全身が隠れて性別わからなかったから、実は美少女ってことを期待してた。でも脱いで見せてもらったら、真っ白なのっぺらぼうがいた。見えないからって手を抜きすぎだろう。そんなわけで淡い期待は露と消えた。
二体はいい奴らだ。人間の感性とは違うんだけど、俺も魔物だからかたいして気にならない。
過ごすうちに魔物に生まれちまったもんは仕方ねえ、慣れりゃいいもんだって考えるようになっていった。一度死にかけたけことがあったけどな。でもそんな俺に衝撃を走らせることがあった。
生まれて二年ほど経った頃のことなんだが、じごくのきしの骨の曲線に色気を感じちまった。さすがに魔物として生きていくのもいいかなと思えなくなった。
骨だぜ? あばら骨の曲線。あの滑らかな丸みに色気って……。
俺は正気に戻った。骨に色気を感じるような生活は嫌だと。人間の女に色気を感じたいと。
どうにかならないかといろいろ考えて、辿り着いた考えがある。
モシャスだ。モシャスなら人間になれる。しかもどんな人間にもなれるから強くてイケメンに変化できる。モテモテになれる。
それから頑張った、超頑張った。んでゆっくりながらも成長したりして、モシャスも習得した。
でも忘れてたわ。あれって短時間のみなんだよね。また落ち込んだよ。せめて娼婦と一回やれるだけの時間でももってくれればいのに。
まあ得たものもあったんだ。なんでかわからないけど昇進した。理由は落ち込んでいる間に説明されたような気がする、聞いてなかったけどな!
得た地位でできることは、三十人ほどの部下に命令できるというもの。命令できる立場になり、多少の無理はできると気づいた。モシャスの改良版を部下に研究させようと。上手い具合に魔法おばばが二人いたから、そいつらに命じた。長時間、もしくは任意の時間変化していられるモシャスを作り出せと。
こじつけの理由も一応ある。潜入捜査や潜入工作に役立つという理由。
すでに長時間の他種族変化能力を持った魔物はいると反論されたが、作戦の幅を広めるためと言い返したら渋々と納得した。魔物は力こそ正義って考えで、魔法おばばよりも俺のほうが強いから命じられれば断れないんだ。だから魔法おばばは反論はしても従う気はあった。ただ気が乗らないと意思表明したかったんだな。無視したけど。
昇進はしたけどじごくのきしとまほうつかいとの交友は変わらなかった。地位のおかげで手に入るアイテムとかあげてた。死んでほしくないし。
じごくのきしには鉄の盾二枚と力のルビー。六本とも剣っていうのは攻撃力の面で見ると十分だけど、反面防御力に不安がある。だから少し攻撃力は落ちるけど、盾を両手に持ってもらった。落ちた分の攻撃力には少し届かないけど、力のルビーでカヴァーする。
魔法使いにはみかわしの服と薬草とギラとスクルトの呪文書。呪文がメラだけってのは不安だしね。ギラで広範囲攻撃、スクルトで味方の防御力を上げて盾になってもらう。万が一のときは避ける。
あげたアイテムのおかげか二人の実力が上がり、部下を持てるようになった。これで生存確率はさらに上がるだろう。
そのうちバラモス配下のじごくのきしとまほうつかいは、侵攻作戦に参加して簡単には会えなくなった。ちなみに俺はバラモスブロスの配下だ。
会うときは俺が会いに行っている。アレフガルドはいつも真っ暗なので、日を浴びるついでだ。
生活自体はわりとのんびりしたものだ。アレフガルドはゾーマが征服したも同然。だから人間との戦いは俺は経験したことはない。じごくのきしと魔法使いはそれを聞くと、羨ましげな視線を向けてくる。あいつらは侵攻中だから戦いに忙しくのんびりとできないのだそうだ。
こちらもこちらで上司同士の訓練に巻き込まれ、死にかけることはあるんだけどなぁ。なんでかよく誘われる。あっちのほうが強いので断れない。重傷は負うけど、死にはしない。そんな絶妙な手加減で攻撃してくる。
少しずつ成長してるから、戦っていられる時間が延びてる。でも毎回の気絶は勘弁してもらいたい。
そんなこと言ってたらまたお呼びがかかった。
なんとか生き残ろう。手加減はされても、全力でなければ死ぬ可能性もあるのだから。
???の場合
鋼が空気を縦横と切り裂く。その音はある程度熟達した者の出す音だと思う。周囲にいる者と比べてだけど。
日々の修練はかかしておりません。周囲の者は止めるように言ってはきますが、口だけでそれ以上はなにもしない。
私の地位故に反感を買うことを恐れているのか、戒める気力すら削がれているのか。
私には好都合です。修練を心置くなく行えるのですから。
幼い頃から振り続けたおかげで、剣は体の一部ともいえます。
本当は剣を体の一部とするよりも、宝石や絹を一部といえるまでに着こなすことを周囲の者は望んでいるのでしょう。
私もそういった思いがないとはいえません。ですがそれを上回る、強さへの思いがあることも事実。
望む強さを得て私が行いたいのは魔王殺し。
誰もが諦めてしまったそれを私は成し遂げたい。
でもここで剣を振るうだけでは無理だということもわかっています。
いまだ一度の実戦すら経験のない私です。魔王殺しなど高望みなのでしょう。
それでも私は望みを諦めるつもりはない。
ルビスよ。私の願いは不相応なものなのでしょうか?
ルビスよ。私が願いを成し遂げる機会を与えてはいただけないでしょうか?
ルビスよ。私の声が聞こえているのなら、どうかお声だけでも聞かせてください。
幕間2へ
はっきりとした意識が持てた頃には、ここは弥生時代かと思った。
服装や建物が歴史の教科書で見たものと似ていたからだ。そばに有名人と同じ名の少女もいたしな。
乳兄妹の彼女は小さい頃から聡明で愛らしく、将来絶対美人になるだろうと予測できるほどだ。
彼女が飛びぬけて聡明なおかげで、たびたび漏らした俺の幼児らしからぬ言動も誤魔化せた。一時期は彼女も俺と同じように生まれ変わったのではと疑った。それは勘違いだったが。
ここが地球とは違うと思い始めたのは、不可思議な現象を知った頃だ。神通力と呼ばれるもので、俺にもあった。それでも大昔ならば現代の常識は通じないかという考えもあったのだが、初めて魔物と出会ったときに、ここは地球とは違うのだとわかった。
生まれ変わったことにはたいして後悔や不満は抱かなかった。妻や家族がいれば抱いたのだろう。しかし両親はすでに他界し、結婚もせず独り身だった。仕事にも大きな情熱は持っておらず、あっちに対して未練というものはなかった。せいぜいがタバコ吸えなくなるのは残念、というものだ。
むしろ死を与えられたのに、何の因果かもう一度人生を送ることができることを幸運と思い過ごしてきた。危険はあるし、技術の違いで戸惑うことはある。けれども充実している人生と思える。
それは大事な存在をこの手で守ることができているからだろう。
前世ではここまでの感情を他人に抱かなかった。身分の違いから伴侶とするには難しい。けれどもそばで守っていると実感できるだけで、こんなにも幸せになれるとは思っていなかった。
あの子のためならば、どんなに厳しい修練にも耐えることができるし、疲れをおして仕事に就くことも苦痛ではない。
そんな大事な存在であるあの子には小さい頃から、暗い影がつきまとっていた。小さな頃は薄い影だった。大きくなるにつれてじょじょに濃さを増している。
この影は死の衣だ。俺はそれを知っていた。
意識がはっきりとした頃から、俺はそれをまとった人を見てきた。当初はなんなのかさっぱりわからなかったが、あるとき漆黒をまとった近しい者が現れた。そして漆黒の衣をまとった者は三日後に死んだ。その後何人か同じように漆黒の衣をまとった者を見たが例外はなかった。
あの子と他の者には違いがある。
死の衣は死ぬ一年前からまとうものだ。あの子のように長年まとっている者はいない。
それほどまでにあの子の死は強く決定づけられているのだろうか?
だとしたら俺はそれを覆したい。
だから俺は一層修練に力を入れた。殺される運命ならば、それを阻止できる力を得るため。
俺はどんな小さなことも見逃さないように、あの子を見守り続ける。俺には努力で得た地位があり、その地位はあの子の近くにいることを可能とさせている。
死の運命よ、くるならこいっ。
ヒミコは俺が絶対守ってみせる!
元17才女子高生の場合
最悪だわ。彼氏がいて高校生活もバイトも楽しくて、人生これからってときに死んじゃったのよ?
んで次に気づいたら、外国人に覗き込まれてる。ここどこよ!? って感じだったわ。
とりあえず生まれかわり? そんなのが起きたってわかったけど、運がいいのか悪いのかさっぱりだわ。
文化も技術水準も違う場所に生まれかわったんだから、プラスマイナスで考えてマイナスよね。魔物なんてものがいて危ないしっ。
携帯もテレビもない、ご飯も慣れたものじゃない。話しも合わない。シャワーもないのよ! 風呂が一般的じゃなくて、川で水浴びってどういうこと!?
もう一度生きる機会を与えてくれるのはいいけど、前と似たような場所にしてほしかったわ。
正直不満だらけ!
だから私は小さい頃から無愛想な子だった。現状に満足できないんだから、笑顔なんて浮かべられないわ。
そんな私にこっちの両親でさえ、少しは疎ましさを感じてたっぽい。家から放り出すことがなかったのは、それでも自分たちの子だからっていう愛情があったからかしら? 無愛想でも悪さはしてなかったしね。むしろ周囲の人と比べて優秀な部類に入ってたと思う。
なんでか私の知っていること以外のことが頭の中にたくさん入ってるのよ。道具の扱い方に困っても、どう使うのって頭の中で問うと、使い方が頭に浮かんでわかっちゃう。天才っていうのとは違うと思う。天才ってのは知識を使いこなす知恵がある人のことを指すと思うから。私にあるのは知識だけ。頭の中にインターネットが備わってる感じ。便利だけど、どうして私はこんなになってるんだろう? それを聞いても答えは浮かばない。
かわりに暇つぶしにいろいろな知識を見てたら、ここがどこかわかった。
スライムっていうんだっけ? 魔物の種類を流し見てたら、それがいることがわかった。ドラゴンクエストのCMでちらっと見たことあるから、それに関係する世界なんだろうなってわかった。
まあ、それがわかったところでなんの解決にもならないんだけどね。
これからどう過ごしていけばいいのかわからずに、惰性で生きてた十二才の頃に、転機が訪れた。
お爺ちゃんが村の東、遠く離れた場所に村を作りたいって言いだした。理由はよくわからないんだけど、若い頃に遠出してみつけた土地に村を作るのが夢だったんだって。
家族も村の人たちも反対した。村の外は危ないし、この村での暮らしに不満はないからね。
反対にあってもお爺ちゃんは諦めなかった。一人でも行くって言って旅支度始めた。私はお爺ちゃんっていってるけど、年齢はまだ五十。肉体的にはまだまだ元気で、多少の荒事にも平気。これから先は衰えていくんだろうけど。
だからかな? 老いる前に夢を叶えて一花咲かせたいって思った、のかな?
そんなお爺ちゃんが少し羨ましかった。不満を持っているけど動かず現状を変えようとしない私と違って、夢を叶えようと動いているお爺ちゃんが。
私の視線に気づいたのか、始めからそうするもつもりだったのか、お爺ちゃんは村を出る前の晩に私に聞いてきた。
『一緒にくるか?』
この問いに私は反射的に頷いて、差し出された手をとった。
今になって考えると、現状を変える最大のチャンスがきたって本能的に理解してたから頷いたんだね。
このときに頷いたことを私は胸を張って誇ることができる。
村を作るのは大変だけど、その分だけ充実もしてる。家を作ったり道具を作ったりということでわからないことがあれば、聞けばわかるから滞るってこともない。
人材集めや交渉は主にお爺ちゃんが担当してる。村を作るのが夢なんだから、私や移住してきた人にだけに任せるつもりはないみたいで毎日はりきってる。
少しずつ大きくなっていく街は自分ごのみに作ったから、毎日お風呂に入れてシャワーも浴びられる。ご飯も和食っぽい食堂作った。かなり満足できてる。
この調子で私に住みやすい街にしていこうと思っている。
元23才男性フリーターの場合
俺の時代きたーっ!
そんなことを考えて頃もありました。
だってそうだろ? トラックに突っ込まれて事故死。別の世界に転生。こんなテンプレなんだから、勇者に生まれるか、勇者の仲間に相応しい実力の持ち主に生まれなきゃ嘘ってもんだよ。
それがきめんどうしだってお! ねーよ!
目を覚ましてすぐに、きめんどうしって呼ばれてまさかなって思ったさ。でも少しの希望を持って水に反射する自分の顔を見たときの絶望感!
一週間落ち込んだね! いやね? 呪文が使えるのはちょいと嬉しい。でも人間がよかったです。贅沢を言えば俺tueeっできる人間がよかったけど、きめんどうしになるくらいなら普通の人間のほうがまだまし。
テンションの低かった俺を心配してくれた魔物が二体いる。まほうつかいとじごくのきしだ。同じ時期に生まれた俺の元気のなさが心配だったらしい。
性別的にはじごくのきしが女で、まほうつかいが男。まほうつかいは全身が隠れて性別わからなかったから、実は美少女ってことを期待してた。でも脱いで見せてもらったら、真っ白なのっぺらぼうがいた。見えないからって手を抜きすぎだろう。そんなわけで淡い期待は露と消えた。
二体はいい奴らだ。人間の感性とは違うんだけど、俺も魔物だからかたいして気にならない。
過ごすうちに魔物に生まれちまったもんは仕方ねえ、慣れりゃいいもんだって考えるようになっていった。一度死にかけたけことがあったけどな。でもそんな俺に衝撃を走らせることがあった。
生まれて二年ほど経った頃のことなんだが、じごくのきしの骨の曲線に色気を感じちまった。さすがに魔物として生きていくのもいいかなと思えなくなった。
骨だぜ? あばら骨の曲線。あの滑らかな丸みに色気って……。
俺は正気に戻った。骨に色気を感じるような生活は嫌だと。人間の女に色気を感じたいと。
どうにかならないかといろいろ考えて、辿り着いた考えがある。
モシャスだ。モシャスなら人間になれる。しかもどんな人間にもなれるから強くてイケメンに変化できる。モテモテになれる。
それから頑張った、超頑張った。んでゆっくりながらも成長したりして、モシャスも習得した。
でも忘れてたわ。あれって短時間のみなんだよね。また落ち込んだよ。せめて娼婦と一回やれるだけの時間でももってくれればいのに。
まあ得たものもあったんだ。なんでかわからないけど昇進した。理由は落ち込んでいる間に説明されたような気がする、聞いてなかったけどな!
得た地位でできることは、三十人ほどの部下に命令できるというもの。命令できる立場になり、多少の無理はできると気づいた。モシャスの改良版を部下に研究させようと。上手い具合に魔法おばばが二人いたから、そいつらに命じた。長時間、もしくは任意の時間変化していられるモシャスを作り出せと。
こじつけの理由も一応ある。潜入捜査や潜入工作に役立つという理由。
すでに長時間の他種族変化能力を持った魔物はいると反論されたが、作戦の幅を広めるためと言い返したら渋々と納得した。魔物は力こそ正義って考えで、魔法おばばよりも俺のほうが強いから命じられれば断れないんだ。だから魔法おばばは反論はしても従う気はあった。ただ気が乗らないと意思表明したかったんだな。無視したけど。
昇進はしたけどじごくのきしとまほうつかいとの交友は変わらなかった。地位のおかげで手に入るアイテムとかあげてた。死んでほしくないし。
じごくのきしには鉄の盾二枚と力のルビー。六本とも剣っていうのは攻撃力の面で見ると十分だけど、反面防御力に不安がある。だから少し攻撃力は落ちるけど、盾を両手に持ってもらった。落ちた分の攻撃力には少し届かないけど、力のルビーでカヴァーする。
魔法使いにはみかわしの服と薬草とギラとスクルトの呪文書。呪文がメラだけってのは不安だしね。ギラで広範囲攻撃、スクルトで味方の防御力を上げて盾になってもらう。万が一のときは避ける。
あげたアイテムのおかげか二人の実力が上がり、部下を持てるようになった。これで生存確率はさらに上がるだろう。
そのうちバラモス配下のじごくのきしとまほうつかいは、侵攻作戦に参加して簡単には会えなくなった。ちなみに俺はバラモスブロスの配下だ。
会うときは俺が会いに行っている。アレフガルドはいつも真っ暗なので、日を浴びるついでだ。
生活自体はわりとのんびりしたものだ。アレフガルドはゾーマが征服したも同然。だから人間との戦いは俺は経験したことはない。じごくのきしと魔法使いはそれを聞くと、羨ましげな視線を向けてくる。あいつらは侵攻中だから戦いに忙しくのんびりとできないのだそうだ。
こちらもこちらで上司同士の訓練に巻き込まれ、死にかけることはあるんだけどなぁ。なんでかよく誘われる。あっちのほうが強いので断れない。重傷は負うけど、死にはしない。そんな絶妙な手加減で攻撃してくる。
少しずつ成長してるから、戦っていられる時間が延びてる。でも毎回の気絶は勘弁してもらいたい。
そんなこと言ってたらまたお呼びがかかった。
なんとか生き残ろう。手加減はされても、全力でなければ死ぬ可能性もあるのだから。
???の場合
鋼が空気を縦横と切り裂く。その音はある程度熟達した者の出す音だと思う。周囲にいる者と比べてだけど。
日々の修練はかかしておりません。周囲の者は止めるように言ってはきますが、口だけでそれ以上はなにもしない。
私の地位故に反感を買うことを恐れているのか、戒める気力すら削がれているのか。
私には好都合です。修練を心置くなく行えるのですから。
幼い頃から振り続けたおかげで、剣は体の一部ともいえます。
本当は剣を体の一部とするよりも、宝石や絹を一部といえるまでに着こなすことを周囲の者は望んでいるのでしょう。
私もそういった思いがないとはいえません。ですがそれを上回る、強さへの思いがあることも事実。
望む強さを得て私が行いたいのは魔王殺し。
誰もが諦めてしまったそれを私は成し遂げたい。
でもここで剣を振るうだけでは無理だということもわかっています。
いまだ一度の実戦すら経験のない私です。魔王殺しなど高望みなのでしょう。
それでも私は望みを諦めるつもりはない。
ルビスよ。私の願いは不相応なものなのでしょうか?
ルビスよ。私が願いを成し遂げる機会を与えてはいただけないでしょうか?
ルビスよ。私の声が聞こえているのなら、どうかお声だけでも聞かせてください。
幕間2へ
2009年11月15日
感謝の32
感想、ウェブ拍手、誤字指摘ありがとうございます
Kouさん
中の人の精神年齢が三十過ぎてますし、村から出るのも出張と捉えてるだけ。村にいるよりも魔物の脅威は少ない。カズキは落ち込む要素どこにあるの? と思ってます
しっかり明記してなかったけど、舞台はオリジナルではなくドラクエ3に+αした世界。なのですでにバラモスが暴れてるし、オルテガも出立してますね。まあゲームの進行状況と少し違ってますが
勇者の性別は男、出会うのは働き初めて三ヶ月ほど経ってからという予定
あとカズキは一流の楽士には慣れないです。強みが誰も知らない曲を多く知ってるだけで、表現力自体は腕を上げても二流がいいところ
未悠さん
商人見習いはなれますね。これから売買交渉を学べば商人にもなれます。遊び人も可能。
盗賊はあります。スーファミの世界観で考えてますから
エンヴィルさん
誤字あとで直しときます。指摘ありがとうございます
goheiさん
お金については細かいこと考えてなかったんですよね
アリアハンの宿屋代金から考えていってこうなりました
冒険者はお金がかかるとしてます。貯めるならいっきにお金持ちになれます。でも冒険者を続けるならば薬草とかにかかる費用、武器の購入と維持にかかる費用。さらには宿も冒険者専用は高めというふうに設定してます。一泊で大怪我が治り疲れも取れる宿は、専用の設備を持ち、マッサージなどのサービスを行ってるはずだと思いますし。優れている分、値段も高い。ゲーム後半になるにつれ、宿代が高くなるのは、そういった設備などがさらに優秀になって値段も高くなってると妄想しました
だから収入と支出で考えると一般人よりもお金持ちが多い。でも続けていくと必ず高い出費がある
冒険者の強さも最大でレベル二十近くということにしてます。国の精鋭騎士団辺りでも同じくらい。世界中の冒険者のレベルを平均すると十前半となります。
オルテガやサイモンといった英雄たちは規格外、だからバラモス退治に送り出されたわけなんですが
平均的な冒険者では、魔物を倒しまくってのお金稼ぎは難しい。なので基本的な対応は追い払う。その方法だとお金は落としませんから、経済破綻にはならないかなと
弱い魔物を倒しまくるのも無理っぽいかなと、魔物だって無限にいるわけではありませんし
>>生まれ変わってドラクエとても面白かったです
ありがとうございます。次からもそういってもらえるようがんばります
Kouさん
中の人の精神年齢が三十過ぎてますし、村から出るのも出張と捉えてるだけ。村にいるよりも魔物の脅威は少ない。カズキは落ち込む要素どこにあるの? と思ってます
しっかり明記してなかったけど、舞台はオリジナルではなくドラクエ3に+αした世界。なのですでにバラモスが暴れてるし、オルテガも出立してますね。まあゲームの進行状況と少し違ってますが
勇者の性別は男、出会うのは働き初めて三ヶ月ほど経ってからという予定
あとカズキは一流の楽士には慣れないです。強みが誰も知らない曲を多く知ってるだけで、表現力自体は腕を上げても二流がいいところ
未悠さん
商人見習いはなれますね。これから売買交渉を学べば商人にもなれます。遊び人も可能。
盗賊はあります。スーファミの世界観で考えてますから
エンヴィルさん
誤字あとで直しときます。指摘ありがとうございます
goheiさん
お金については細かいこと考えてなかったんですよね
アリアハンの宿屋代金から考えていってこうなりました
冒険者はお金がかかるとしてます。貯めるならいっきにお金持ちになれます。でも冒険者を続けるならば薬草とかにかかる費用、武器の購入と維持にかかる費用。さらには宿も冒険者専用は高めというふうに設定してます。一泊で大怪我が治り疲れも取れる宿は、専用の設備を持ち、マッサージなどのサービスを行ってるはずだと思いますし。優れている分、値段も高い。ゲーム後半になるにつれ、宿代が高くなるのは、そういった設備などがさらに優秀になって値段も高くなってると妄想しました
だから収入と支出で考えると一般人よりもお金持ちが多い。でも続けていくと必ず高い出費がある
冒険者の強さも最大でレベル二十近くということにしてます。国の精鋭騎士団辺りでも同じくらい。世界中の冒険者のレベルを平均すると十前半となります。
オルテガやサイモンといった英雄たちは規格外、だからバラモス退治に送り出されたわけなんですが
平均的な冒険者では、魔物を倒しまくってのお金稼ぎは難しい。なので基本的な対応は追い払う。その方法だとお金は落としませんから、経済破綻にはならないかなと
弱い魔物を倒しまくるのも無理っぽいかなと、魔物だって無限にいるわけではありませんし
>>生まれ変わってドラクエとても面白かったです
ありがとうございます。次からもそういってもらえるようがんばります
樹の世界へ遠章 隠れ里島ミルティア
小波が打ち寄せる砂浜に、突然集団が現れる。
サーカシア村から転移魔法で移動してきた陽平たちだ。
こういった移動に慣れている陽平とイツキは平然としているが、初めての経験な移住希望者たちは、事前に説明を受けていたにもかかわらず突然変わった景色に驚いて、きょろきょろと周囲を見渡している。
ここは三つの大陸から離れた場所にある大きめの島だ。周囲を見渡しても小島すらなく、転移といった移動方法がなければ出て行くことは難しい。
島には二つの山と一つの湖がある。どちらの山も標高千メートルもない。湖は一周するのに一時間以上かかる。二つの山から流れてくる水を受け止め作られた湖だ。
配置は北西と北東に山、その真ん中からやや南に湖。湖から二本の川が南西と南に流れている。現在位置の砂浜は島の南端。村は島の南部、南西に流れる川のそばにある。
こっちだという陽平の案内に従い、皆歩き出す。砂浜から、草がないだけの舗装されていない小道を通り草原に上がる。道は緩やかな坂になっていて、草原はそのまま小高い丘になっている。右手にはそのまま草原が続き、左手には林が見える。遠目に塔が見える。魔法によって補修されているが、外見は昔から変わらない陽平の家だ。
「あっちに見えるのが俺の家だ。困ったことがあれば相談にくるといい。まあ、大抵のことは村人に聞けば解決するし、来たときに留守にしてることもあるけど」
「うちのマスターはじっとしていられない性分でして」
一行は道に沿って歩く。二十分ほど歩くと、狩りをしている集団に出会う。それは魔物の集団で、移住者六人は警戒し身構えた。
狩りをしている魔物は、ブラックスケイルという名前の蛇系獣人だ。上半身が褐色の肌の人で、下半身が黒い鱗の蛇だ。ラミアという魔物よりも攻撃的ではないので、人と関わりをもつことがある。
移住者たちに大丈夫と言って、陽平は集団に声をかけた。
陽平の話している言葉は、現在世界で使われてる共通語ではない。よって移住者たちには陽平がなにを言っているのかさっぱりだ。
三分ほどのやりとりで、話しは終わり集団は狩りのため獲物を求めて移動していく。
「さあ、村に行こう」
「あの魔物たちを退治しなくていいんですか?」
移住者の一人が聞く。
「彼らもこの島の住民なんだよ。昔関わった依頼で行くあてがなくなったから誘ったんだ。
相手を故意に傷つけたりしないかぎりは友好的なやつらだよ。村とも交流があるから、何度も会うことになる。
ほかにも魔物が住んでいるけど、ブラックスケイルと同じように基本的には無害だから、気にする必要はないさ。どうしても無理ってなら、会ったときに指で×の形を作れば、受け入れられてないって理解できるようになっている」
「問題とか起きてないんですか?」
「起きてるけど、それは個人同士での問題。気に入らないから喧嘩するとか酔っ払い同士のふざけあいとかだね。殺し合いまでいくこともない。種族同士での問題は起きてないよ、最近はね。
昔は習慣の違いで争ったこともあった。でも過ごしているうちに、あれは駄目でこれは良しって互いに学習していったから問題にはならなくってる」
「共存できてるってことですか?」
「まあね」
「……うーん」
納得できない部分がありそうな移住者たちの心が、陽平にはよくわかる。その部分は移住者がここにくるたび感じるものだからだ。
見た目の違いや、刷り込まれている知識での忌避だ。
「魔物だからっていう理由で納得できないんだろうけど、君らも改造されている今まっとうな人間じゃないんだよ? むしろ魔物に近いってことを自覚するようにね」
思いやりに欠けた言葉だが、そこを理解させることで忌避感を減らせるということを経験上陽平は知っている。
今まで移住してきた者たちの多くがそうだったように、ショックを受けたような表情となる。
何か言いたげな彼らを制し、続ける。
「なりたくてなったわけじゃないってのは知っている。でもなってしまった以上、元には戻れない。
ここではおかしいということは当たり前のことで、改造されたことは特別じゃないんだ。村人は君たちを受け入れる。なぜなら彼らも改造されたり、そんな人たちの子孫だから。
この島では、視線を気にせず怯えず暮らせるんだよ。隠さずにすむんだ。人外になっても幸せへの道はある。
だから人ではないってことに劣等感を感じないでいいんだ。むしろ改造された部分を長所と捉えてくる人もいる」
こんなことを言われても戸惑うばかりだ。
「ちなみに私もマスターも人間ではありませんよ。
私は人型模倣ゴーレムですし、マスターは魔法使いです。
この島には純粋な人間はそう多くいません」
安堵させるためにイツキは自分たちの正体をばらす。
その言葉は移住者たちの新たな疑問を抱かせた。
「まほう…つかい? いないはずじゃ!? いたのは昔だけで今はもう存在しないって」
魔法使いが現存することに驚いている。そのインパクトが強く、ゴーレムに明確な自我があることに驚けないでいる。
だが納得もしている。魔術では不可能な大人数の転移をこなしてみせたのだ。あれが魔法ならば納得いく。
「魔法使いは昔よりも少ないけどいまだ存在してるよ。
魔術が世界に広まってから魔法使いの数は少しずつ減ってきた。それで表にでる魔法使いも減って、ここ二百年くらいはまったく表にでていない。だから絶滅したって思われてるんだろうね」
「減ってきてるってことは、いずれ本当に絶滅するってことですか?」
「かもしれない。でもそれは当分先のことだろうね。百年二百年じゃあ絶滅しない。
なぜかって? それは魔法使いを探し集めている奴らがいるから。魔法使いを集めてどうこうしようって考えてるわけじゃない。ただ組織を維持しようと集めている。
魔法使いのみで構成される魔法研究目的の組織。少なくとも三千年以上存続している組織だから、自分たちの代でなくなるのはおしいんだろうな」
「あんたが魔法使いなら、あんたもそこに所属しているのか?」
この問いに陽平は首を横に振る。そして断言する。
「昔、二度ほど敵対してね。あそこには所属するつもりはない」
一度目の敵対はずいぶん前のことだ。そのときは組織に所属する魔法使いが大樹の使者の魂と人間の魂の違いを研究するため、ササールアの魂が大樹のもとへと帰る際に掠め取ったのだ。そのために仲間の協力を得て、大樹大神殿に乗り込んで逃げていった。
陽平たちは神殿と他国に所属する魔法使いたちの協力の得て、魂を奪還し大樹の下へと返すことに成功した。
二度目の敵対は一度目から百五十年ほど経った頃だ。新しく作った魔法の実験と称して、マルチーナを蘇生。動きはどのようなものかと調べるため暴れるように命じ、操られたマルチーナは街一つを壊滅させた。
そのマルチーナを殺して止めたのが陽平で、その場で観察していた魔法使いを捕らえたのも陽平だった。
二度の敵対で組織を潰したのだが、研究記録を持った生き残りが必ずいて、組織は復活するのだ。
話しながら一行は村を目指していた。丘の頂上にきた一行の眼下に建物の群が見える。あれがこれから住むことになる村だ。村のそばには畑や農場があり、小さく働いている人が見えた。
村を目指し、坂を下る。
畑のそばに近づくと、近づいてくる集団に気づいていた村人が声をかけてきた。彼の腕は人間のものではなく、怪力を誇る魔物のものだ。
「長老、帰ってきたんですね。イツキさんもおかえりなさい」
「ただいま」
「ただいまもどりました」
「そっちの人たちは新しい移住者ですか?」
「そのとおり、仲良くしてやってくれ」
「もちろんですよ!
ようこそミルティアへ! 私たちはあなたたちを歓迎しますよ! 困ったことがあれば、誰にでも相談してください」
移住者たちは手放しで迎えてくれる村人に魔物と一緒であっても大丈夫かもしれない、と少しだけ思えてきた。
見るからに自分たちと同じ境遇の人間がここでの暮らしに不満なさそうにしているのを感じ取れたことも、彼らにとっていい収穫だった。
「今日は歓迎の宴ですね。
あ、そうだ。ゴロムス様がきてますよ」
「ゴロムスが? 今日きたのか?」
「いえ、昨日からですね。三日間の休みをもらえたそうで」
「帰ってきたのはタイミングよかったんだな」
「ですね」
「ゴロムスって大樹の使者と同じ名前ですよね?」
移住者の一人が恐る恐るといった感じで確認してくる。同姓同名なのだろうと思ってはいるが、様づけしているのでもしかしてという思いもほんの少しある。
「本人です。
この島は大樹の使者の休憩所のようなものになっています。
ここにはマスターの許可のないものは立ち入れませんから、大樹大神殿の高官であろうと追ってこれません。ですので日々のしがらみから開放されリラックスできる場所として多くの大樹の使者が滞在してきました」
イツキの説明で、この島のことが移住者たちの理解を超えた。
魔法使いの住処で、隠れ里で、魔物と共存して、大樹の使者の休憩所。もしかすると自分たちは場違いなとろこに来てしまったのではと、混乱する頭で考えた。
ちなみに陽平とイツキしか知らないが、大樹もうろついているときがある。
「混乱するのはよくわかる」
うんうんと村人が頷き言う。
「いい言葉を教えてあげよう。
『こまけーこたぁいいんだよ!』
気にするな! 悠々自適な生活ができるんだ! 多少変でも流せ!
それがここで楽しく生きていくコツだ!」
実際にここで暮らして得た経験からの助言なので説得力は高かった。
移住者たちは先達の教えだと、心に刻んでおくことにした。けれども宴で竜が参加している場面を見て驚くことになるのだから、本当の意味でこの言葉に納得するのはもう少し先のことだろう。
農作業を再開した男に別れを告げて、一行は村に入る。村の中は和洋折衷といった感じだ。陽平自身が落ち着く環境を求めたらこうなったのだった。
陽平とイツキに気づいた村人たちが次々と声をかけている。誰もがにこやかで、二人のことを厭っている者はいないようだ。
「ここが役所みたいなところ。ここである程度の個人情報を書類に書き込んでもらって、住むところに案内してもらったり、仕事の紹介をしてもらったり、ここに住む上での規則を教えてもらったりする」
陽平が説明している間に、イツキが中に入り移住者をつれてきたことを職員に伝えた。
書類準備を整えた職員に移住者たちのことを任せて、陽平とイツキは塔へと戻る。
移住者たちはこのあと、移住者用アパートに連れて行かれ、そこが住居となる。いずれは別のアパートや、一軒家に移動することになる。書類から得られる情報や本人の希望から職種は決められる。明日からその職種の職場に案内されるはずだ。
役所で仕事を手伝わなかったり、島の外に気軽に出ていることから二人が村の運営に関わりが薄いことが予想できるだろう。
昔は陽平が陣頭に立ち村を動かしていたこともあった。それは村とはいえない状態から五十年までの期間だ。それから後は村人だけで大丈夫だろうと、手出しするのをやめた。時々相談にのったり、発展の方向性に軽く口出しするくらいだ。
村人の自主性を育てるためにといった理由で隠居すると宣言したのだが、実際は面倒になったのだ。運営に関わっているとそれだけで時間が潰れ、ほかのことができない。そのことに三十年ほど我慢できたが、それ以降は我慢できずに自分が関わらずとも大丈夫なように動きはじめたのだ。そして二十年かけてしっかりと枠組みを作り上げた。
そのときはここまで長生きするとは思っていなかったので、自分がいなくとも大丈夫なようにという考えがなかったわけでもない。
といった具合に村の成長を見守り続けて今に至る。
旅装を解いて、島を囲う結界の確認や魔力貯蔵タンクの残量を調べたあと、二人はゴロムスを探すため村へと出る。
駆け回る子供たちにゴロムスの行方を聞くと、いつものように酒場にいるという情報を得ることができた。もともと二人は酒場に向かっていたので、予想通りだった。
酒造に隣接した酒場に近づくと、賑やかなな声が聞こえてきた。その声の中にゴロムスの声も混ざっている。
扉を開き入ると視線が集まり、次々におかえりなさいという言葉がとんでくる。
その中の一人が立ち上がり、二人に近づく。この人物がゴロムスだ。
年は六十ほど。背筋は伸びて初老ということを感じさせない。髪はそっていて、眉や目の色から大樹の使者と判断できる。日に焼けた肌に、がっしりとしたやや筋肉質な体つきからは大神殿のトップとは想像しにくい。工房で働くことがよく似合いそうな外見だ。
「おう! おかえり!」
「ただいま」
「ただいまもどりました」
「姉ちゃんは相変わらず固いなぁ」
「これもある意味素だからなぁ」
陽平以外にはこれで通しているのだ。砕けた姿は陽平にしか見せていない。大樹にもこの状態で接しているのだ。徹底している。
イツキはテレ屋な部分がある。陽平だけ素を見せるのは甘えているから。そんな自分を陽平以外に見せるのは恥ずかしいので、ほとんどの人には丁寧な対応となる。
「五十年以上の付き合いで、一回見る機会あっただけだから、こっちが素と言われれば一応納得できるけどな」
「一回でも見られる機会があったのはこちらの不手際ですね」
イツキはほんのりと頬を赤くしつつ、少し悔しげな表情を浮かべている。
「もう一回くらいは見たいんだけどな」
「無理じゃないかな。一回も見たことのない大樹の使者って何人もいるし」
「残念だ」
そう言って酒を飲むため席に戻ろうとすゴロムスを陽平が止めた。
「夜に宴会開くから、もうやめとけ」
「宴会? なにか特別なことあるのか?」
「新しい移住者連れてきたから歓迎の宴が開かれる。
というわけで酒のほうよろしく」
後半の言葉は酒場の主人へと向けたものだ。
「宴会をするならやめとこうか。
陽平さんはこれから暇か? 暇なら話し相手になってほしいんだが」
「少しだけなら相手になれる。俺からも話したいことあったし」
「じゃあ、外で話そうぜ。
ごっそさん。相変わらず上手かったよ」
ゴロムスは酒屋の主人に声をかけ、外へと足をむけた。
酒代は、大樹大神殿からゴロムスが上手いと思った酒を何本か持ってきて渡していたので払わなくていい。
こうやってゴロムスが外から持ち込む物や陽平たちがお土産として買ってくるものは、村人にとって貴重なものとなっていた。
この島では物々交換と貨幣の両方が使えるのだ。魔物たちが貨幣を使わないぶん、物々交換のほうが主流なのかもしれない。
三人は村の端に置かれている東屋に座って話し始めた。
「話ってなんだ?」
「これを大樹に渡すってことを知っていてもらいたかったんだ」
陽平がバッグから取り出したのは、イツキが固めた人工根晶だ。
「これは大樹からの依頼で潰してきた魔力増幅炉からとれた人工根晶。
増幅炉があったっていう証拠だな。ゴロムスが確認して、帰って神官長に報告すれば現物はいらんだろ?」
「何度かしてることだしな。
まあ、いつものように確認させてもらうぞ?」
差し出された手に人工根晶をのせる。
それをゴロムスは太陽に透かしたり、こんこんと叩いてみたりと検証していく。この行動にたいして意味はない。調べたという事実ができるだけだ。
三分もかからずに調べることをやめ、ゴロムスは人工根晶を陽平に返す。
「用事はこれで終わりだな?
前回会ってからどこでなにやってたか聞かせてくれ!」
子供の頃と同じ目の輝きを見せるゴロムスに、陽平とイツキは笑みを浮かべて話し出す。
話は昼食で一時中断し、二時過ぎまで続けられた。
久しぶりにイツキの手料理を食べることができたゴロムスは上機嫌で散歩に出て行った。
「俺は今のうちにスリアのところ行くけど。イツキはどうする?」
「そうですね……ついていきます」
「わかった」
「ではお土産のクッキーかなにか買ってきます」
財布を片手に村の菓子店へと歩いていくイツキを見送り、陽平はのんびりと椅子にもたれかかる。
十五分ほどして戻ってきたイツキへと腕を伸ばす。差し出された手をイツキは握る。
陽平は転移の式符を取り出し、大樹スリアのもとへと転移した。
「いらっしゃーい」
陽平とイツキがくることを察知してたスーリアは、微笑みながら二人を出迎える。波打つエメラルドグリーンの長髪に均整のとれた容姿を持つ美女だ。今回はクリーム色のセーターにギンガムチェックの茶のスカートで身を包んでいる。
この姿は本来のものではない。対人会話用に作った人型に意識の一部を入れて動かしているのだ。陽平と会うようになって作られたものだ。
三人がいる場所は柔らかな白一色の光に満ちた空間だ。しかし天を見ても太陽はない。ここは地上ではないのだ。どこかというと海の底。大樹の根っこの大元だ。寄生樹に核があったように、大樹にも核があり、ここに大樹の核があるのだ。その核は保管にちょうどいいので人型の中にある。
いつも使う椅子に座る前に、陽平は持ってきた人工根晶を渡す。ついでとイツキも持ってきたお菓子を渡した。
スリアは受け取った人工根晶を胸に抱く。すると人工根晶は体に吸い込まれていった。核に吸収されたのだ。世界から無理に奪われた魔力が核に吸収され、再び世界維持に使われる。
「テーブルにカップがいくつか?」
「ああ、お客さんがきてたのよ」
「へー客かぁ……客ぅっ!?」
客と聞いて陽平がとても驚いた。
当然だろう。スリアと会うようになって千年以上経つが、初めて自分以外にここを訪れた者がいるのだから。
「ここに気づいて、来ることができるって魔法使いくらいだよな? この時代にそこまで実力のある魔法使いがいたんだ。もしかしてクランターレ?」
クランターレとは陽平が敵対したことのある魔法使いの集まりのことだ。好奇心でのみ動く困り者たちだが、積み重ねられた知識を得た彼らの実力は高水準を誇る。
「違う違う。この世界の人たちじゃないわ。
アルフィーネ姉さんのところの住人が相談にきたの。世界的危機に陥ってアルフィーネ姉さんの協力を仰ぎたいけど、姉さんにはそのための力がなくて私を紹介したらしいわ」
「アルフィーネってたしか次女だっけ? ウノルクが寄生樹で長女だったような?」
二つの名前をずいぶんと昔に聞いたことあり、うっすらと思い出す。
「私の記憶にもそのようになっていますね」
「それであってるわよ。三姉妹の一番下が私」
「それで次女に力がないってのはどうして? 同じ大樹なんだろう?」
「アルフィーネ姉さんはウノルク姉さんが放棄した世界も支えているから、それだけで精一杯なのよ。それ以外できずに常に眠っている状態。下手にアルフィーネ姉さんが動くとそれこそ本当に世界滅亡の危機」
「だから同種で余力のあるスリアのところに寄越したのか。
なんか対応でどじとかしてない? どじで世界滅亡とか向こうの人たち報われないぞ?」
「失礼な。きちんとアルフィーネ姉さんが少しだけ動ける分のエネルギーを結晶にして渡したわ。
やっぱりあっちの世界のことはアルフィーネ姉さんのほうが詳しいし、解決策も持っているんじゃないかと思ったわけよ」
「ナイス判断と思われます」
「向こうに手伝いに行ったりしたら、うっかりやらかすかもしれないしねぇ」
一応大樹はこの世界では一番偉いのだが、これまでの付き合いで全幅の信頼を寄せるには不安があるとわかっている二人だ。
大巨獣のときのうっかりは伊達ではない。
もっとも、うっかりのみがスリアの性格ではない。長く世界を見守ってきたことから、包み慈しむ雰囲気もあるのだ。その雰囲気を壊すうっかりをすることも確かだが。
「そこまで言うならこれから向こうに行って、きちんとやれるんだと証明してこようかしら」
「やめておいたほうがいいです。行くとしてもこちらの世界維持の処理をしていく必要があり、それに時間がかかって向こうの事件が終わっている可能性が高いです」
「あ、後処理していかないと行けないのか。忘れてた」
「忘れるな!? あっち救って帰ってきたら、こっちが滅びてたとか洒落にならんっ」
「やーね、冗談よさすがに」
パタパタと手を振ってスリアは笑う。
行くのが冗談なのか、処理を忘れていたことが冗談なのか、どちらが冗談なのか問うてみたいイツキだったが自重した。
用事を終えたあとはイツキの持ってきたお菓子を広げ、なごやかな茶会が開かれた。
スリアが手ずから入れるお茶は、イツキにはいまだ手の届かない領域にある。生まれて千年未満のイツキと人型を得て修練を積んだ千年の経験を持つスリアの差だ。その技術を盗もうとじっとスリアの作業を見るイツキを、スリアは微笑ましそうに小さく小さく笑みを浮かべ好きなようにさせている。わかりやすく笑みを浮かべると、イツキのテレ屋な部分が反応し、見ることをやめてしまう。それはそれで寂しいのだ。自分が磨いたものを受け継いでもらえるというのはスリアも嬉しいのだから。
「夜に村で宴があるんだ、参加する?」
「久しぶりに行ってみようかしら。どれくらい行ってなかったんだっけ?」
「三十年ほどかと」
「わりと最近ね、百年くらい行ってなかったと思ってた」
長く生きているので、時間経過の感覚が人間とは違うのだろう。陽平もイツキも似たような感覚になってはいるが、月単位でいまだ十年単位を最近とはいえない。
出かけるならと、スリアは人型を調整し髪と目の色を陽平と同じ黒に変える。大樹としての気配も抑え、街を出歩いても一般人としてしか見られない姿となった。
さあ行きましょうと、スリアは手を陽平へ差し出す。その手を陽平がとるよりも先にイツキが握る。そしてイツキが陽平の手を握る。
「大好きなお父さんを独占したいのかしら?」
面白そうに笑うスリアに応えず、イツキは顔を陽平とスリアから見えない方向へと向けた。顔は見えないが、耳が赤く染まっていて恥ずかしがっているのだなと、よくわかる。
イツキはスリアに対してはこういった感情を見せることが多い。スリアと陽平の付き合いは自分と陽平よりも長いため、ときどき知らない思い出話しをされてのけもの気分を味わうことがある。そんなとき陽平をとられた感じがするのだ。寂しさからスリアに対抗することがあるのだ。
三人は村に転移し、宴の準備をのんびりと手伝う。お茶ではスリアに負けるイツキもこういった作業や料理では誰よりも上手にこなすことができる。スリアが興味があるのはお茶だけで、料理や家事はできないのだ。
日が傾いていくうちに、各地へと使いに走った村人と一緒に、島中の生き物が土産を片手に集まり始めた。
その中に竜もいて、そのままでは大きすぎるので陽平により人間へと変化させてもらい、宴に参加する。
大人も子供も魔物も竜も魔法使いも、皆が集まり宴が始まる。
賑やかな宴は夜が更けても、歓声や音楽が途切れることなく続いていった。
この宴で移住者たちは魔物たちへの偏見がだいぶ減った。そういう効果を見越しての騒ぎでもあったのだろう。
なにはともあれ、島は昔からの平穏が続いていくことに変わりはない。
不運と再会と
サーカシア村から転移魔法で移動してきた陽平たちだ。
こういった移動に慣れている陽平とイツキは平然としているが、初めての経験な移住希望者たちは、事前に説明を受けていたにもかかわらず突然変わった景色に驚いて、きょろきょろと周囲を見渡している。
ここは三つの大陸から離れた場所にある大きめの島だ。周囲を見渡しても小島すらなく、転移といった移動方法がなければ出て行くことは難しい。
島には二つの山と一つの湖がある。どちらの山も標高千メートルもない。湖は一周するのに一時間以上かかる。二つの山から流れてくる水を受け止め作られた湖だ。
配置は北西と北東に山、その真ん中からやや南に湖。湖から二本の川が南西と南に流れている。現在位置の砂浜は島の南端。村は島の南部、南西に流れる川のそばにある。
こっちだという陽平の案内に従い、皆歩き出す。砂浜から、草がないだけの舗装されていない小道を通り草原に上がる。道は緩やかな坂になっていて、草原はそのまま小高い丘になっている。右手にはそのまま草原が続き、左手には林が見える。遠目に塔が見える。魔法によって補修されているが、外見は昔から変わらない陽平の家だ。
「あっちに見えるのが俺の家だ。困ったことがあれば相談にくるといい。まあ、大抵のことは村人に聞けば解決するし、来たときに留守にしてることもあるけど」
「うちのマスターはじっとしていられない性分でして」
一行は道に沿って歩く。二十分ほど歩くと、狩りをしている集団に出会う。それは魔物の集団で、移住者六人は警戒し身構えた。
狩りをしている魔物は、ブラックスケイルという名前の蛇系獣人だ。上半身が褐色の肌の人で、下半身が黒い鱗の蛇だ。ラミアという魔物よりも攻撃的ではないので、人と関わりをもつことがある。
移住者たちに大丈夫と言って、陽平は集団に声をかけた。
陽平の話している言葉は、現在世界で使われてる共通語ではない。よって移住者たちには陽平がなにを言っているのかさっぱりだ。
三分ほどのやりとりで、話しは終わり集団は狩りのため獲物を求めて移動していく。
「さあ、村に行こう」
「あの魔物たちを退治しなくていいんですか?」
移住者の一人が聞く。
「彼らもこの島の住民なんだよ。昔関わった依頼で行くあてがなくなったから誘ったんだ。
相手を故意に傷つけたりしないかぎりは友好的なやつらだよ。村とも交流があるから、何度も会うことになる。
ほかにも魔物が住んでいるけど、ブラックスケイルと同じように基本的には無害だから、気にする必要はないさ。どうしても無理ってなら、会ったときに指で×の形を作れば、受け入れられてないって理解できるようになっている」
「問題とか起きてないんですか?」
「起きてるけど、それは個人同士での問題。気に入らないから喧嘩するとか酔っ払い同士のふざけあいとかだね。殺し合いまでいくこともない。種族同士での問題は起きてないよ、最近はね。
昔は習慣の違いで争ったこともあった。でも過ごしているうちに、あれは駄目でこれは良しって互いに学習していったから問題にはならなくってる」
「共存できてるってことですか?」
「まあね」
「……うーん」
納得できない部分がありそうな移住者たちの心が、陽平にはよくわかる。その部分は移住者がここにくるたび感じるものだからだ。
見た目の違いや、刷り込まれている知識での忌避だ。
「魔物だからっていう理由で納得できないんだろうけど、君らも改造されている今まっとうな人間じゃないんだよ? むしろ魔物に近いってことを自覚するようにね」
思いやりに欠けた言葉だが、そこを理解させることで忌避感を減らせるということを経験上陽平は知っている。
今まで移住してきた者たちの多くがそうだったように、ショックを受けたような表情となる。
何か言いたげな彼らを制し、続ける。
「なりたくてなったわけじゃないってのは知っている。でもなってしまった以上、元には戻れない。
ここではおかしいということは当たり前のことで、改造されたことは特別じゃないんだ。村人は君たちを受け入れる。なぜなら彼らも改造されたり、そんな人たちの子孫だから。
この島では、視線を気にせず怯えず暮らせるんだよ。隠さずにすむんだ。人外になっても幸せへの道はある。
だから人ではないってことに劣等感を感じないでいいんだ。むしろ改造された部分を長所と捉えてくる人もいる」
こんなことを言われても戸惑うばかりだ。
「ちなみに私もマスターも人間ではありませんよ。
私は人型模倣ゴーレムですし、マスターは魔法使いです。
この島には純粋な人間はそう多くいません」
安堵させるためにイツキは自分たちの正体をばらす。
その言葉は移住者たちの新たな疑問を抱かせた。
「まほう…つかい? いないはずじゃ!? いたのは昔だけで今はもう存在しないって」
魔法使いが現存することに驚いている。そのインパクトが強く、ゴーレムに明確な自我があることに驚けないでいる。
だが納得もしている。魔術では不可能な大人数の転移をこなしてみせたのだ。あれが魔法ならば納得いく。
「魔法使いは昔よりも少ないけどいまだ存在してるよ。
魔術が世界に広まってから魔法使いの数は少しずつ減ってきた。それで表にでる魔法使いも減って、ここ二百年くらいはまったく表にでていない。だから絶滅したって思われてるんだろうね」
「減ってきてるってことは、いずれ本当に絶滅するってことですか?」
「かもしれない。でもそれは当分先のことだろうね。百年二百年じゃあ絶滅しない。
なぜかって? それは魔法使いを探し集めている奴らがいるから。魔法使いを集めてどうこうしようって考えてるわけじゃない。ただ組織を維持しようと集めている。
魔法使いのみで構成される魔法研究目的の組織。少なくとも三千年以上存続している組織だから、自分たちの代でなくなるのはおしいんだろうな」
「あんたが魔法使いなら、あんたもそこに所属しているのか?」
この問いに陽平は首を横に振る。そして断言する。
「昔、二度ほど敵対してね。あそこには所属するつもりはない」
一度目の敵対はずいぶん前のことだ。そのときは組織に所属する魔法使いが大樹の使者の魂と人間の魂の違いを研究するため、ササールアの魂が大樹のもとへと帰る際に掠め取ったのだ。そのために仲間の協力を得て、大樹大神殿に乗り込んで逃げていった。
陽平たちは神殿と他国に所属する魔法使いたちの協力の得て、魂を奪還し大樹の下へと返すことに成功した。
二度目の敵対は一度目から百五十年ほど経った頃だ。新しく作った魔法の実験と称して、マルチーナを蘇生。動きはどのようなものかと調べるため暴れるように命じ、操られたマルチーナは街一つを壊滅させた。
そのマルチーナを殺して止めたのが陽平で、その場で観察していた魔法使いを捕らえたのも陽平だった。
二度の敵対で組織を潰したのだが、研究記録を持った生き残りが必ずいて、組織は復活するのだ。
話しながら一行は村を目指していた。丘の頂上にきた一行の眼下に建物の群が見える。あれがこれから住むことになる村だ。村のそばには畑や農場があり、小さく働いている人が見えた。
村を目指し、坂を下る。
畑のそばに近づくと、近づいてくる集団に気づいていた村人が声をかけてきた。彼の腕は人間のものではなく、怪力を誇る魔物のものだ。
「長老、帰ってきたんですね。イツキさんもおかえりなさい」
「ただいま」
「ただいまもどりました」
「そっちの人たちは新しい移住者ですか?」
「そのとおり、仲良くしてやってくれ」
「もちろんですよ!
ようこそミルティアへ! 私たちはあなたたちを歓迎しますよ! 困ったことがあれば、誰にでも相談してください」
移住者たちは手放しで迎えてくれる村人に魔物と一緒であっても大丈夫かもしれない、と少しだけ思えてきた。
見るからに自分たちと同じ境遇の人間がここでの暮らしに不満なさそうにしているのを感じ取れたことも、彼らにとっていい収穫だった。
「今日は歓迎の宴ですね。
あ、そうだ。ゴロムス様がきてますよ」
「ゴロムスが? 今日きたのか?」
「いえ、昨日からですね。三日間の休みをもらえたそうで」
「帰ってきたのはタイミングよかったんだな」
「ですね」
「ゴロムスって大樹の使者と同じ名前ですよね?」
移住者の一人が恐る恐るといった感じで確認してくる。同姓同名なのだろうと思ってはいるが、様づけしているのでもしかしてという思いもほんの少しある。
「本人です。
この島は大樹の使者の休憩所のようなものになっています。
ここにはマスターの許可のないものは立ち入れませんから、大樹大神殿の高官であろうと追ってこれません。ですので日々のしがらみから開放されリラックスできる場所として多くの大樹の使者が滞在してきました」
イツキの説明で、この島のことが移住者たちの理解を超えた。
魔法使いの住処で、隠れ里で、魔物と共存して、大樹の使者の休憩所。もしかすると自分たちは場違いなとろこに来てしまったのではと、混乱する頭で考えた。
ちなみに陽平とイツキしか知らないが、大樹もうろついているときがある。
「混乱するのはよくわかる」
うんうんと村人が頷き言う。
「いい言葉を教えてあげよう。
『こまけーこたぁいいんだよ!』
気にするな! 悠々自適な生活ができるんだ! 多少変でも流せ!
それがここで楽しく生きていくコツだ!」
実際にここで暮らして得た経験からの助言なので説得力は高かった。
移住者たちは先達の教えだと、心に刻んでおくことにした。けれども宴で竜が参加している場面を見て驚くことになるのだから、本当の意味でこの言葉に納得するのはもう少し先のことだろう。
農作業を再開した男に別れを告げて、一行は村に入る。村の中は和洋折衷といった感じだ。陽平自身が落ち着く環境を求めたらこうなったのだった。
陽平とイツキに気づいた村人たちが次々と声をかけている。誰もがにこやかで、二人のことを厭っている者はいないようだ。
「ここが役所みたいなところ。ここである程度の個人情報を書類に書き込んでもらって、住むところに案内してもらったり、仕事の紹介をしてもらったり、ここに住む上での規則を教えてもらったりする」
陽平が説明している間に、イツキが中に入り移住者をつれてきたことを職員に伝えた。
書類準備を整えた職員に移住者たちのことを任せて、陽平とイツキは塔へと戻る。
移住者たちはこのあと、移住者用アパートに連れて行かれ、そこが住居となる。いずれは別のアパートや、一軒家に移動することになる。書類から得られる情報や本人の希望から職種は決められる。明日からその職種の職場に案内されるはずだ。
役所で仕事を手伝わなかったり、島の外に気軽に出ていることから二人が村の運営に関わりが薄いことが予想できるだろう。
昔は陽平が陣頭に立ち村を動かしていたこともあった。それは村とはいえない状態から五十年までの期間だ。それから後は村人だけで大丈夫だろうと、手出しするのをやめた。時々相談にのったり、発展の方向性に軽く口出しするくらいだ。
村人の自主性を育てるためにといった理由で隠居すると宣言したのだが、実際は面倒になったのだ。運営に関わっているとそれだけで時間が潰れ、ほかのことができない。そのことに三十年ほど我慢できたが、それ以降は我慢できずに自分が関わらずとも大丈夫なように動きはじめたのだ。そして二十年かけてしっかりと枠組みを作り上げた。
そのときはここまで長生きするとは思っていなかったので、自分がいなくとも大丈夫なようにという考えがなかったわけでもない。
といった具合に村の成長を見守り続けて今に至る。
旅装を解いて、島を囲う結界の確認や魔力貯蔵タンクの残量を調べたあと、二人はゴロムスを探すため村へと出る。
駆け回る子供たちにゴロムスの行方を聞くと、いつものように酒場にいるという情報を得ることができた。もともと二人は酒場に向かっていたので、予想通りだった。
酒造に隣接した酒場に近づくと、賑やかなな声が聞こえてきた。その声の中にゴロムスの声も混ざっている。
扉を開き入ると視線が集まり、次々におかえりなさいという言葉がとんでくる。
その中の一人が立ち上がり、二人に近づく。この人物がゴロムスだ。
年は六十ほど。背筋は伸びて初老ということを感じさせない。髪はそっていて、眉や目の色から大樹の使者と判断できる。日に焼けた肌に、がっしりとしたやや筋肉質な体つきからは大神殿のトップとは想像しにくい。工房で働くことがよく似合いそうな外見だ。
「おう! おかえり!」
「ただいま」
「ただいまもどりました」
「姉ちゃんは相変わらず固いなぁ」
「これもある意味素だからなぁ」
陽平以外にはこれで通しているのだ。砕けた姿は陽平にしか見せていない。大樹にもこの状態で接しているのだ。徹底している。
イツキはテレ屋な部分がある。陽平だけ素を見せるのは甘えているから。そんな自分を陽平以外に見せるのは恥ずかしいので、ほとんどの人には丁寧な対応となる。
「五十年以上の付き合いで、一回見る機会あっただけだから、こっちが素と言われれば一応納得できるけどな」
「一回でも見られる機会があったのはこちらの不手際ですね」
イツキはほんのりと頬を赤くしつつ、少し悔しげな表情を浮かべている。
「もう一回くらいは見たいんだけどな」
「無理じゃないかな。一回も見たことのない大樹の使者って何人もいるし」
「残念だ」
そう言って酒を飲むため席に戻ろうとすゴロムスを陽平が止めた。
「夜に宴会開くから、もうやめとけ」
「宴会? なにか特別なことあるのか?」
「新しい移住者連れてきたから歓迎の宴が開かれる。
というわけで酒のほうよろしく」
後半の言葉は酒場の主人へと向けたものだ。
「宴会をするならやめとこうか。
陽平さんはこれから暇か? 暇なら話し相手になってほしいんだが」
「少しだけなら相手になれる。俺からも話したいことあったし」
「じゃあ、外で話そうぜ。
ごっそさん。相変わらず上手かったよ」
ゴロムスは酒屋の主人に声をかけ、外へと足をむけた。
酒代は、大樹大神殿からゴロムスが上手いと思った酒を何本か持ってきて渡していたので払わなくていい。
こうやってゴロムスが外から持ち込む物や陽平たちがお土産として買ってくるものは、村人にとって貴重なものとなっていた。
この島では物々交換と貨幣の両方が使えるのだ。魔物たちが貨幣を使わないぶん、物々交換のほうが主流なのかもしれない。
三人は村の端に置かれている東屋に座って話し始めた。
「話ってなんだ?」
「これを大樹に渡すってことを知っていてもらいたかったんだ」
陽平がバッグから取り出したのは、イツキが固めた人工根晶だ。
「これは大樹からの依頼で潰してきた魔力増幅炉からとれた人工根晶。
増幅炉があったっていう証拠だな。ゴロムスが確認して、帰って神官長に報告すれば現物はいらんだろ?」
「何度かしてることだしな。
まあ、いつものように確認させてもらうぞ?」
差し出された手に人工根晶をのせる。
それをゴロムスは太陽に透かしたり、こんこんと叩いてみたりと検証していく。この行動にたいして意味はない。調べたという事実ができるだけだ。
三分もかからずに調べることをやめ、ゴロムスは人工根晶を陽平に返す。
「用事はこれで終わりだな?
前回会ってからどこでなにやってたか聞かせてくれ!」
子供の頃と同じ目の輝きを見せるゴロムスに、陽平とイツキは笑みを浮かべて話し出す。
話は昼食で一時中断し、二時過ぎまで続けられた。
久しぶりにイツキの手料理を食べることができたゴロムスは上機嫌で散歩に出て行った。
「俺は今のうちにスリアのところ行くけど。イツキはどうする?」
「そうですね……ついていきます」
「わかった」
「ではお土産のクッキーかなにか買ってきます」
財布を片手に村の菓子店へと歩いていくイツキを見送り、陽平はのんびりと椅子にもたれかかる。
十五分ほどして戻ってきたイツキへと腕を伸ばす。差し出された手をイツキは握る。
陽平は転移の式符を取り出し、大樹スリアのもとへと転移した。
「いらっしゃーい」
陽平とイツキがくることを察知してたスーリアは、微笑みながら二人を出迎える。波打つエメラルドグリーンの長髪に均整のとれた容姿を持つ美女だ。今回はクリーム色のセーターにギンガムチェックの茶のスカートで身を包んでいる。
この姿は本来のものではない。対人会話用に作った人型に意識の一部を入れて動かしているのだ。陽平と会うようになって作られたものだ。
三人がいる場所は柔らかな白一色の光に満ちた空間だ。しかし天を見ても太陽はない。ここは地上ではないのだ。どこかというと海の底。大樹の根っこの大元だ。寄生樹に核があったように、大樹にも核があり、ここに大樹の核があるのだ。その核は保管にちょうどいいので人型の中にある。
いつも使う椅子に座る前に、陽平は持ってきた人工根晶を渡す。ついでとイツキも持ってきたお菓子を渡した。
スリアは受け取った人工根晶を胸に抱く。すると人工根晶は体に吸い込まれていった。核に吸収されたのだ。世界から無理に奪われた魔力が核に吸収され、再び世界維持に使われる。
「テーブルにカップがいくつか?」
「ああ、お客さんがきてたのよ」
「へー客かぁ……客ぅっ!?」
客と聞いて陽平がとても驚いた。
当然だろう。スリアと会うようになって千年以上経つが、初めて自分以外にここを訪れた者がいるのだから。
「ここに気づいて、来ることができるって魔法使いくらいだよな? この時代にそこまで実力のある魔法使いがいたんだ。もしかしてクランターレ?」
クランターレとは陽平が敵対したことのある魔法使いの集まりのことだ。好奇心でのみ動く困り者たちだが、積み重ねられた知識を得た彼らの実力は高水準を誇る。
「違う違う。この世界の人たちじゃないわ。
アルフィーネ姉さんのところの住人が相談にきたの。世界的危機に陥ってアルフィーネ姉さんの協力を仰ぎたいけど、姉さんにはそのための力がなくて私を紹介したらしいわ」
「アルフィーネってたしか次女だっけ? ウノルクが寄生樹で長女だったような?」
二つの名前をずいぶんと昔に聞いたことあり、うっすらと思い出す。
「私の記憶にもそのようになっていますね」
「それであってるわよ。三姉妹の一番下が私」
「それで次女に力がないってのはどうして? 同じ大樹なんだろう?」
「アルフィーネ姉さんはウノルク姉さんが放棄した世界も支えているから、それだけで精一杯なのよ。それ以外できずに常に眠っている状態。下手にアルフィーネ姉さんが動くとそれこそ本当に世界滅亡の危機」
「だから同種で余力のあるスリアのところに寄越したのか。
なんか対応でどじとかしてない? どじで世界滅亡とか向こうの人たち報われないぞ?」
「失礼な。きちんとアルフィーネ姉さんが少しだけ動ける分のエネルギーを結晶にして渡したわ。
やっぱりあっちの世界のことはアルフィーネ姉さんのほうが詳しいし、解決策も持っているんじゃないかと思ったわけよ」
「ナイス判断と思われます」
「向こうに手伝いに行ったりしたら、うっかりやらかすかもしれないしねぇ」
一応大樹はこの世界では一番偉いのだが、これまでの付き合いで全幅の信頼を寄せるには不安があるとわかっている二人だ。
大巨獣のときのうっかりは伊達ではない。
もっとも、うっかりのみがスリアの性格ではない。長く世界を見守ってきたことから、包み慈しむ雰囲気もあるのだ。その雰囲気を壊すうっかりをすることも確かだが。
「そこまで言うならこれから向こうに行って、きちんとやれるんだと証明してこようかしら」
「やめておいたほうがいいです。行くとしてもこちらの世界維持の処理をしていく必要があり、それに時間がかかって向こうの事件が終わっている可能性が高いです」
「あ、後処理していかないと行けないのか。忘れてた」
「忘れるな!? あっち救って帰ってきたら、こっちが滅びてたとか洒落にならんっ」
「やーね、冗談よさすがに」
パタパタと手を振ってスリアは笑う。
行くのが冗談なのか、処理を忘れていたことが冗談なのか、どちらが冗談なのか問うてみたいイツキだったが自重した。
用事を終えたあとはイツキの持ってきたお菓子を広げ、なごやかな茶会が開かれた。
スリアが手ずから入れるお茶は、イツキにはいまだ手の届かない領域にある。生まれて千年未満のイツキと人型を得て修練を積んだ千年の経験を持つスリアの差だ。その技術を盗もうとじっとスリアの作業を見るイツキを、スリアは微笑ましそうに小さく小さく笑みを浮かべ好きなようにさせている。わかりやすく笑みを浮かべると、イツキのテレ屋な部分が反応し、見ることをやめてしまう。それはそれで寂しいのだ。自分が磨いたものを受け継いでもらえるというのはスリアも嬉しいのだから。
「夜に村で宴があるんだ、参加する?」
「久しぶりに行ってみようかしら。どれくらい行ってなかったんだっけ?」
「三十年ほどかと」
「わりと最近ね、百年くらい行ってなかったと思ってた」
長く生きているので、時間経過の感覚が人間とは違うのだろう。陽平もイツキも似たような感覚になってはいるが、月単位でいまだ十年単位を最近とはいえない。
出かけるならと、スリアは人型を調整し髪と目の色を陽平と同じ黒に変える。大樹としての気配も抑え、街を出歩いても一般人としてしか見られない姿となった。
さあ行きましょうと、スリアは手を陽平へ差し出す。その手を陽平がとるよりも先にイツキが握る。そしてイツキが陽平の手を握る。
「大好きなお父さんを独占したいのかしら?」
面白そうに笑うスリアに応えず、イツキは顔を陽平とスリアから見えない方向へと向けた。顔は見えないが、耳が赤く染まっていて恥ずかしがっているのだなと、よくわかる。
イツキはスリアに対してはこういった感情を見せることが多い。スリアと陽平の付き合いは自分と陽平よりも長いため、ときどき知らない思い出話しをされてのけもの気分を味わうことがある。そんなとき陽平をとられた感じがするのだ。寂しさからスリアに対抗することがあるのだ。
三人は村に転移し、宴の準備をのんびりと手伝う。お茶ではスリアに負けるイツキもこういった作業や料理では誰よりも上手にこなすことができる。スリアが興味があるのはお茶だけで、料理や家事はできないのだ。
日が傾いていくうちに、各地へと使いに走った村人と一緒に、島中の生き物が土産を片手に集まり始めた。
その中に竜もいて、そのままでは大きすぎるので陽平により人間へと変化させてもらい、宴に参加する。
大人も子供も魔物も竜も魔法使いも、皆が集まり宴が始まる。
賑やかな宴は夜が更けても、歓声や音楽が途切れることなく続いていった。
この宴で移住者たちは魔物たちへの偏見がだいぶ減った。そういう効果を見越しての騒ぎでもあったのだろう。
なにはともあれ、島は昔からの平穏が続いていくことに変わりはない。
不運と再会と
2009年11月09日
感謝の31
感想、ウェブ拍手ありがとうございます
未悠さん
成長による伸び率はレベル差に関係なく、最大で10としてます。それ以上はどんなに厳しい訓練をしても現状維持のみ
賢さは例外にしてますが
賢さは知っていることが多ければ多いほど高くなります
年取ってぼけるとガクンと下がります
賢さ=呪文の強さ、MPの多さではないです
kouさん
世界が平和だったらガウムと同じように畑仕事してました
それか言われるように鑑定士
でも今回でルイーダの酒場に行ったので、ほかに道ができました
あとこの主人公わりと好奇心が強いです。ルイーダの酒場を職場としたのも好奇心が大きな割合を占めてますから
だから今後、その好奇心を刺激されるようなことがあると……
最近来客数が増えてますね
某所で紹介されたエヴァ関連なのでしょうか
その某所がどこだかわからないんですが、ありがたいことです
アルカディアではなかったはず
でもエヴァの更新は絶望的という
あとエヴァとマリーエリーのアトリエのクロスとしてるけど、よく考えたら来訪系だよね。以前も似たようなこと言ったっけ?
生まれ変わってドラクエ 4
カズキがあと二ヶ月ほどで十一才になろうかという頃だ。村は飢饉にみまわれていた。
しかも二年続けての極端な不作で、収穫を終えたばかり時期でも節約する必要があり、収穫祭を開く余裕は欠片もなかった。
原因は天候不順、降水量不足、害虫の大量発生などなど。どれか一つならば不作だけですんだのだが、二年かけてあらゆる難がアリアハン大陸北部に襲い掛かってきた。
一年目は、各家庭の蓄えや村の共同貯蓄で問題なく乗り越えることができた。二年目もきりつめなんとか乗り越えることが可能と思われている。
だが二年続けての不作で、この先も同じだったらと不安を抱いたレーベの市場まとめ役が来年以降の収穫について高名な占い師に占ってもらったところ、芳しくない結果がでたのだ。その結果はレーベ周辺の村にあっという間に伝わった。
所詮占いだと強がる者もいる一方で、信じる者もいるわけで彼らはこれからの対策を練る。占いがなくとも最悪を想定し行動することは誰もが思いつく。
カズキの住む村も、大人たちが集まり毎日これからのことを話し合っていた。
連日の話し合いにより、わりと早くどうすればいいかの結論は出ていた。食料が足りないのは人数が多いからだ。ならば人数を一時的にでも減らせばいいのではと考え、誰もがそれには一応納得した。
減らす方法は村から一定数の人間を出す、出稼ぎにでも行ってもらうのがいいだろうと話し合われ、ツテを頼り働き先を紹介してもらうことになった。
減らす人数は基本的に各家庭から一人。オイローのように出稼ぎに出るのは無理といった者もいるので、状況により除外されることもある。もっともオイローはジェキンスの手伝いをすることで居候させてもらうことになっていたの。
除外を考慮し、村からでる人数は五十名ほどとなる。この中にはカズキも入っていた。
カズキの家は五人家族だ。ここから一人出すとしたらカズキしか選べないのだ。
ガウムは畑仕事に必要で、リーネも働き手でさらに育児や家事に必要、レンとリリィは七才と三才で出稼ぎに出すには若すぎる。
最初はガウムが出ると言っていたのだが、そうなると残ったカズキに畑仕事が回ってくる。けれども体力不足とノウハウの関係で、畑仕事にはいまだ向いていないのだ。そこそこの成果は残せるだろう。今が普通の状況ならば問題はない。しかし今求められているのは少しでも多くの収穫物を生み出せる即戦力、それをカズキに期待するには無理があった。
それにカズキは出稼ぎ員として期待がかけられていた。文字の読み書きができ、計算ができ、目利きができる。売り手としての経験も少しだけある。農夫としては頼りなくとも、商人としての戦力は期待できるものを持っている。
これらに理由によってカズキはアリアハンへと出稼ぎにでることになった。
大陸北部にはレーベも入っている。レーベも不作の煽りを受け、外部の人間を受け入れることはとても難しい。となると出稼ぎ先はアリアハンになるのだ。
出発の日がきて、カズキは着替えなどを入れたリーネ手製のリュックを背負い玄関に立つ。手にはオイローがくれた餞別のギター。
見送る家族はリリィを除いた全員が寂しげだ。リリィは兄がいなくなるということをいまいち理解していないのだろう。
「すまんな、俺が行けたらよかったんだが」
「何度も謝らなくてもいいよ。アリアハンに行くのは楽しみでもあるんだから」
「……そっか。アリアハンは大きい都市だ。誘惑もいろいろあるから気をつけるんだぞ?」
カズキが自分たちに心配をかけないよう空元気を出していると思い、ガウムはさらに悲しげな顔になる。
カズキとしては納得済みで、言葉通り本当に楽しみにしている。
「兄ちゃん」
「ん?」
「行っちゃやだよう!」
「……あー……ごめん」
なにか言おうにも思いつかず謝るしかできない。
レンはガウムのズボンをぎゅっと握る。そのレンの頭をガウムが無言でなでる。カズキも泣き止まそうとレンの頭をなでた。
「リリィの相手頼んだぞ? 父さんも母さんも忙しくなるからリリィの相手できる時間が少なくなる。リリィが寂しくて泣くかもしれない。そのリリィを泣き止ませることができるのは、いつもそばにいれるレンなんだからな。リリィの好きな歌覚えてるか?」
「……うんっ」
ごしごしと目元をぬぐいレンは頷いた。偉いぞと励ましと褒めるための笑顔を贈る。
「カズキ」
「なに?」
リーネがカズキの名前を呼びながら抱きしめる。
「三年だけっ三年もすればきっと持ち直すからっ。そうしたらまた一緒に暮らせるようになるからっ」
「うん、わかってる」
「病気にならないようにね。怪我もしないように気をつけるのよ? あなたしっかりしているようで、どこか抜けてるんだから」
抜けているのは、前世での価値観で行動してこちらの人間とは違った行動になってしまったときのことを指している。
例えば海に行きたいと言って両親を驚かせたこともあった。カズキはただ涼みに行きたかっただけだ。しかし地球と違い、こちらの海や川には魔物が出る。とても遊びに行くようなところではないのだ。海に遊びに行くという発想は、行く場所の安全を確保できる財力などを持ったお偉いさんの考えだ。
リーネは抱きしめたままいろいろと忠告していく。その声が震えていることは、この場にいる全員がわかった。
「それから、それから……。
それからね? 辛くなったらいつでも帰ってきていいの。あなたに期待している人たちは怒るかもしれないけど、そんなことに遠慮なんかしないで。私たちはあなたの帰りを喜んで迎えるから」
「ん、わかった」
嬉しさでうっすらと眼が潤む。愛されているんだなとすごく実感できたのだ。
リーネから離れたカズキは、不思議そうな顔をしてるリリィを一撫でする。それに上機嫌な笑みを返すリリィ。
「いってきます!」
心配かけないようにとカズキは元気一杯に歩き出す。
アリアハンへの期待と少しだけの寂しさがカズキの胸の中にあった。
一度も振り返らないカズキを家族はずっと見続けていた。
村の入り口には二台の大型馬車と一台の荷馬車がある。それに三十人ほどが乗り込む予定だ。残りの二十名は自分たちで出稼ぎ場所まで行くことになっている。
馬車の近くには護衛役の冒険者が四人いる。
カズキが乗り込んだ馬車にはすでに七人の先客がいた。彼ら雰囲気は暗い。住み慣れた場所から知らない場所へと行くことの不安、邪魔だと村から追い出されたという思い込み、続いた不作で将来に対して湧いた不安、これらが彼らの気分を暗くしていた。
カズキのように行く先が楽しみだと思えている者は少ない。
カズキは彼らからできるだけ離れて座る。こんな小さな子まで、という哀れみの視線が鬱陶しいからだ。カズキも不安な気持ちが全くないわけではない。けれども好奇心のほうが大きいのだ。
やがて二台の馬車に全員が乗り込み、出発する。誰もが徐々に小さくなっていく故郷を見失うまいと見続けていた。
出発し一時間ほど経った頃、景色を見るのにも飽きてきたカズキはその場に相応しそうな歌をギターを弾きつつ歌う。
それはドナドナだった。
聞いていた御者がカズキに話しかける。
「なんだか悪いことをしている気になるから、その歌やめてくれ」
馬車に乗せた人たちを売りに行くという気分になったのだろう。
ならば暗さを一蹴しようと、カズキはJAMのGONGを歌いだす。
「うるさい」
今度は賑やかすぎたらしい。
次はと考え、遠くに峠の茶屋らしきものが見えたので。天城越えをできるだけこぶしをきかせて歌いきった。
少し物騒な歌だが、御者は思わず聞き入ったようで止めることはなかった。
歌いきって満足したカズキはとりあえずこれで最後と、出てきた村を思いつつふるさとを歌う。
出てきた村のことを思い出した人たちが涙を流す。もう一台の馬車にもカズキの歌は聞こえていて、そっちに乗っている者たちも泣き出した。歌を聞いた者たちは、出てきて間もないのにホームシックになりかけていた。
「……坊主、暇なら相手してやるから歌うのをやめて隣にこい」
「いいの?」
「このまま歌わせ続けるともっと暗い雰囲気に包まれかねないからなぁ」
涙を流し続ける人たちの間を擦り抜けカズキは御者台に座る。
「景色見飽きてたんだ」
「お前さんはほかの連中と違って暗くないなぁ」
「売られたんだったら暗くなってたんだろうけどね、一時的に追い出されただけならまだ平気」
「そうか。まあ、暗いとこっちまで気が滅入るから俺としては助かるんだが」
「ここからどれくらいでアリアハンに着くの?」
「ところどころにある村で補給して、多く見積もって十日といったところか。歩きだと十五日くらいかねぇ」
「途中でレーベに寄る?」
「いんや、寄らないな。寄ってほしかったのか?」
「そこに知り合いがいるから、挨拶くらいはできるかなって思っただけ」
「寄ったら挨拶くらいは行かせてもかまわなかったんだけどな」
残念だと呟いて、カズキはギターでゆるやかに曲を弾き出す。今回は歌はない。弾くのはドラクエ3のフィールド曲冒険の旅だ。
御者や冒険者たちは初めて聞く曲だったが、こういった野外の移動にぴったりだと聞き入る。沈んでいた者たちも少しだけ気がまぎれた様子だ。
「その年でそれだけやれるのはすごいな」
「練習したからね」
「その腕なら酒場に雇われるってのも選択肢の一つだな」
「酒場ってルイーダの酒場?」
「俺が言ったのはそっちじゃないんだが、ルイーダの酒場のこと知ってるのか?」
「父さんがアリアハンに行ったことあって、そのときの話にでてきたから」
「なるほどな。
坊主はそれのほかになにかできるのか?」
「読み書き、計算、ある程度の目利きくらい」
「ほおー、本当にそれだけできるならいいところを紹介できるな。
ちょいとこれを見て、どれくらいの価値があるか言ってみな」
御者は腰に下げていたナイフをカズキに渡す。本当に目利きができるのか、できたとしてその力量はどれほどか試すためだろう。
カズキはギターを太ももの上に置いて、ナイフを両手で持つ。鞘から少しだけ抜くと綺麗に磨かれた刀身が出てきた。
ステータスウィンドウを開き、ナイフの状態を見ていく。
「名前は聖なるナイフ。それなりに使い込まれていて、大事にすればあと三年はゆうにもつ。売るとしたらこの状態からいうと130ゴールドくらいかな」
「やるじゃないか! ある程度なんてとんでもないな。それだけできれば十分だろ」
「そうなのかな?」
「こりゃ働き先は喜ぶな」
「僕らの働き先ってもう決まってんの?」
「ああ、二つの商店、一つの工房、四つの農園だ。ルイーダの酒場からも頼まれちゃいるが、紹介しても長続きしないだろうから連れて行く気はないな」
「どうして?」
「荒くれ者が集まる場所だ、その雰囲気に馴染めないって奴は多い。それに酒場だからな酔いに任せて暴れる奴もいる。巻き込まれると力量差から大怪我じゃすまないこともあるんだ」
「僕はちょっと興味があるなぁ。いろいろと面白そうな話聞けそうだし」
「やめとけやめとけ。給金はいいが、いい職場とはいえん。
坊主が小突かれたらすぐに骨折れちまうぞ」
「でも子供に絡むほど落ちぶれた人はいないと思うけど。そこのところはどうなの?」
「さすがにいない……か? 最低限の常識は持っていると信じたいな。
ああ、よく考えるとお前さん夜遅くまでは働けないから、騒動に巻き込まれにくいな。そうなるとわりのいい仕事なのか。真昼間から酒飲んで暴れる奴はほとんどいないしな。
雇っている冒険者たちに話を聞いて、よく考えてそれでも行きたいならルイーダに紹介する。それでいいか?」
「その方向でお願い」
アリアハン到着まで、まだまだ時間はあるのだ。それまでじっくりと考える時間はある。その結果、大丈夫だと判断できたら紹介するつもりだ。
話しが一段落つき、カズキは再びギターを弾き出す。今度はアレフガルドフィールド曲だ。足りない音は口笛で補う。
ギターの音色の響かせ、馬車はアリアハンへと向かう。
出発し十日、一行は無事に王都外壁前へと到着していた。
道中に出た魔物は護衛がしっかり仕事をこなし、追い払い蹴散らされていた。
村を出て三日も経てば、いつまでも落ち込んでいられないと立ち直る者が出てきた。最年少のカズキが落ち込んでいないのに、いつまでも年上の自分たちが落ち込んでいるのは情けないという感情もあった。
移動のみで暇を持て余したカズキはいろいろな曲を弾き歌った。皆、次から次に歌われる知らない歌を楽しみにするようになっていた。
カズキの紹介先はルイーダとなっている。旅の間に冒険者たちに話しを聞いて、大丈夫そうだと判断した御者が紹介することに決めたのだ。
話しを聞いたり、曲のリクエストを受けたりと交流を持ったことで、カズキは冒険者たちと仲良くなり、彼らがときどきカズキの様子を気にかけると言ったことも御者が紹介しようと決めた一因だ。
一行は馬車を下りて、門をくぐる。
人の多さ街の広さに、カズキを含めた出稼ぎ組は驚きを通り越し呆気にとられた。
王都アリアハンは総人口約十万人だ。出稼ぎ組が大きなところだと考えていたレーベの五十倍、世界でもトップレベルの大都市だ。規模の違いに驚くのは当然だろう。
カズキは前世でここ以上の街に住んでいたのだが、村での生活に慣れきって久々の大都市に度肝を抜かれていた。
「いつまでも驚いているんじゃない。移動するぞ」
御者をしていた男クロードが手を叩いて、カズキたちを正気に戻させる。
ここまで護衛をしていた冒険者たちは、すでに報酬をもらいルイーダの酒場へと帰っていた。無事帰還と依頼終了を知らせに行ったのだ。
クロードは田舎者丸出しのカズキたちを連れて、自身の所属する商会に戻る。
商会に着くとクロードは、カズキたちを団体用待合室に置いて、帰還の報告を済ませるために事務所に向かう。長に素早く報告を済ませ、数人の部下を連れて待合室に戻る。部下たちに出稼ぎ組を職場へと案内させるのだ。誰がどこに行くかは旅の間に決められていた。
部下たちは自分がどこへ案内するか述べ、人を集める。集まった人に行く先に間違いないか確認し、部下たちは出稼ぎ組を連れて商会を出る。
広々としている待合室にはクロードとカズキの二人だけが残っている。
「俺たちも行こう」
そう言ってクロードはルイーダの酒場へと歩き出す。二人は王都を十字に裂く大通りの西通りを進み、西門が間近に迫ると今度は北へと進路を変える。
ルイーダの酒場は王都の北東にある。つまりゲームと同じ位置だ。
「あれがルイーダの酒場だ」
クロードも指差す方向に、周囲の建物よりも一回り大きな建物が見えた。古く歴史のありそうな二階建て。鎧を着た三十過ぎの男やローブ姿の若い女や僧衣姿の青年など様々な人種が出たり入ったりと賑やかだ。冒険者を狙ってか露店も開かれ、彼らも賑やかさの一因だろう。
クロードは通いなれたように動じることなく建物へと入っていく。その後ろをカズキは興奮と緊張が入り混じった様子でついていった。
建物内部を歩き奥にあるカウンターを目指す二人だが、目立っていた。カズキのような子供がここにくることは珍しいのだ。集まる視線にどう反応すればいいのかわからず、カズキはクロードについていくことだけを考え足を動かす。視線には押されているが、酒場の雰囲気自体には楽しげなものを感じ、表情には不安といった感情は一切ない。
やがてクロードは足を止める。カズキの足も止まる。カズキの視線の先には、冒険者たちと話している二十才ほどの美女がいる。話している相手は強面の男だが、臆することなく対応している。
冒険者の話しが終わったところでクロードは女に声をかけた。
「ルイーダ」
「ん? クロード。どしたの? なにか用事?」
「働き手を探していただろう? 見所のある奴を連れてきた」
「ああ! ケイスたちから話しは聞いているよ。私の驚くところを見たいらしくて、詳しいことは聞かせてもらえなかったけどね」
ケイスとはカズキたちを護衛してきた冒険者だ。報告ついでに、簡単にカズキのことを話したのだろう。
「どこにいるの?」
「こいつだ」
クロードの背後にいたカズキを、ルイーダに見える位置に移動させる。
カズキを見たルイーダはポカンとした顔となる。一応、カズキは一礼しておいた。
「驚いた。驚いたから本命を連れてきて」
どうやらルイーダはカズキのことを、クロードが用意した驚かし要員だと思ったらしい。
本命はどこだとルイーダの視線があちこちに移動する。
「冗談ではなく、本当にカズキをここに紹介するんだ」
「……ここは冒険者御用達の酒場だよ? こんな子供が働けるはずないじゃない。
それにこの子になにをさせる気よ?」
「こう見えて中々優秀だぞ? 俺のところで雇いたいくらいだ」
「じゃあ、そうすればいいじゃない」
「カズキがここがいいって言うんだ」
「カズキと言ったね。悪いことは言わない、クロードのとこに行ったほうがいい。子供が働けるような場所じゃないよ」
ルイーダは視線をカズキに合わせて言った。そこには邪険するような感情はなく、カズキのためを思っての言葉だとわかる。
「でもここが一番楽しそう。実際ここにきて、そう思った」
「ここの雰囲気に物怖じしない度胸は買いなんだけどねぇ。それに楽しいだけじゃないんだよ?」
カズキの目を見て、このまま断っても納得しそうにないと読み取ったルイーダは一応面接することにした。ここで働くには能力不足と指摘すれば納得し帰っていくだろう、と考えたのだ。
「クロード、この子なにができるの?」
「読み書き、計算、目利き、弾き語りだな」
「へー、この年でそれだけね」
じゃあ、と言ってルイーダは棚から一本のワインを取る。
「ここに書かれている文字と大まかな価値を言ってごらん」
「文字はいいとして、価値は無理だろう? 子供に酒の価値はわからん」
「ここは酒場だよ? 酒の知識がなくてどうするの」
「それはそうだが」
これで追い返すつもりなのだろうとクロードにはルイーダの考えがわかった。そしてこの予想は外れないだろうと確信が持て、うちに有力な人材が入ってくることになるなと考える。それはそれは都合がいいので、これ以上の反論はしない。
「作った人がミネル・トーゼンさんで、名前はヴァッシュゼーデでいいのかな。十年物で、これ一本売るとすると35ゴールドくらい。封を開けずに満タンだったら、もう少し値段は上」
ステータスを読み取ったカズキの鑑定に、ルイーダとクロードは目を見開き驚く。ラベルに書かれているのは作成者とワイン名のみ。味の確認をせずに年代を当てられるとは微塵も予想していなかった。というかこんな真似はルイーダにも無理だ。値段も正確なものだった。
「な、中々やるじゃない。
次は計算よ。
一個で銀貨四枚のオレンジがある。そのオレンジが五十個入る箱が七つあって、そのうち六つが満タンで、残り一箱は三十個入っている。交渉の結果、箱一杯買った分は一割引きとなった。
合計金額はいくら?」
「…………銀貨1200枚」
一分ほど考えて出た金額を答えた。
ルイーダはちらりとクロードを見る。クロードはあっていると頷く。
「正解らしいね」
おおーっと周囲から感嘆の声が上がった。三人の会話を聞いていた冒険者たちだ。彼らの中にはいまだ計算中の者もいる。
「じゃあ最後だ。
私の知らない曲で、そうだねノリのいいものを一曲弾いてごらん」
これはルイーダの自爆だ。ここでルイーダの知っている曲の中から一曲弾けと言われていれば、カズキは弾けなかった。こちらの曲はほとんど知らないのだ。
カズキはギターを構え、前世で弾き慣れた曲を弾き出した。
テキーラが酒場に響き渡る。テレビでベンチャーズの特集があり、そのときに流れたのを聞いて気に入り、練習したのだ。こちらに生まれてあまり弾いてなかったが、どうにかつっかえることなく弾ききった。
終わると同時に冒険者から惜しみない拍手が送られた。少量のおひねりも飛んだ。
注文に応えきったカズキを、ルイーダは一応認める。
「あ〜うん、降参! 雇ってあげる。
みんな聞いたわね! 今日から雇うことになったカズキよ! 怪我なんかさせるんじゃないわよ!」
威勢のいい返事と歓迎の言葉が同時に酒場に響いた。
この日からカズキのアリアハン暮らしが始まる。その日のうちに雇用条件をきちんと決め、さっそく働き始めた。
カズキに与えられた仕事は、明るいうちは掃除や仕入れの手伝い、暗くなるとギターでリクエストをとって弾き続ける。夜更けまでは起きていられないし、ルイーダも早めにカズキを寝かせるので疲れが溜まることはなかった。
ときどき一日の儲けの計算も任される。きたばかりの者に金勘定を任せていいのかと思い尋ねると、盗んで逃げた場合は冒険者が差し向けられると聞いて納得した。捕まえることを依頼として出すのだ。一般人では冒険者に敵わない。腕力は当然として、捜査追跡能力も比べ物にならないだろう。
アリアハンでの暮らしは充実したものになる。
自給自足ができないので、お金の使用頻度は高いが使いすぎないように気をつけている。本人だけではなくルイーダたちも注意していた。出稼ぎに来て、物価の違いや賭け事や詐欺に遭い破産する者がいることを知っていたからだ。
周囲のおかげもあってお金に困ることはなかった。単純に収入の方が多かったせいでもあるが。
おひねりがもらえたり、ソルティドックや清酒やスルメなどメニューにない品を提案しそのアイデア料がもらえたからだ。
村への仕送りの分と生活費を減らしても、子供が持つには多いお金がカズキの財布に入る。ルイーダはカズキに承諾もらいお金の一部を銀行に預ける。そのお金は雇用期間の三年で千ゴールド貯まった。これは人一人宿屋暮らしで、一年間働かずに暮らせる金額だ。
落ち込むこともあった。接客については不慣れだったので、ちょっとしたトラブルもあった。冒険者にもいい人ばかりではなく絡まれることもあった。
そんなときは周囲の励ましがあり、いつまでも落ち込むことなく元気になれた。
ちなみに一番落ち込んだのは店でのトラブルではない。働き始めて一年と少ししてまとまった休みがもらえたので、キメラの翼で故郷へと帰った。そのときに友達と遊んでいるリリィをみつけ話しかけたら、首を傾げられた。顔を忘れられていたのだ。兄がいるということは覚えていたようで、説明するとすぐに思い出してもらえたのだが。
カズキにもっとこまめに帰ってこようと決意させる出来事だった。
ほかにも神田川を歌い酒場をしんみりさせてみたり、宮廷楽士に曲を教えてみたり、乱闘時にいろいろなゲームの戦闘BGMを弾いてみたりと、こういった小さな出来事はあったが、特に大きな出来事はなく日々は過ぎていった。
幕間1へ
しかも二年続けての極端な不作で、収穫を終えたばかり時期でも節約する必要があり、収穫祭を開く余裕は欠片もなかった。
原因は天候不順、降水量不足、害虫の大量発生などなど。どれか一つならば不作だけですんだのだが、二年かけてあらゆる難がアリアハン大陸北部に襲い掛かってきた。
一年目は、各家庭の蓄えや村の共同貯蓄で問題なく乗り越えることができた。二年目もきりつめなんとか乗り越えることが可能と思われている。
だが二年続けての不作で、この先も同じだったらと不安を抱いたレーベの市場まとめ役が来年以降の収穫について高名な占い師に占ってもらったところ、芳しくない結果がでたのだ。その結果はレーベ周辺の村にあっという間に伝わった。
所詮占いだと強がる者もいる一方で、信じる者もいるわけで彼らはこれからの対策を練る。占いがなくとも最悪を想定し行動することは誰もが思いつく。
カズキの住む村も、大人たちが集まり毎日これからのことを話し合っていた。
連日の話し合いにより、わりと早くどうすればいいかの結論は出ていた。食料が足りないのは人数が多いからだ。ならば人数を一時的にでも減らせばいいのではと考え、誰もがそれには一応納得した。
減らす方法は村から一定数の人間を出す、出稼ぎにでも行ってもらうのがいいだろうと話し合われ、ツテを頼り働き先を紹介してもらうことになった。
減らす人数は基本的に各家庭から一人。オイローのように出稼ぎに出るのは無理といった者もいるので、状況により除外されることもある。もっともオイローはジェキンスの手伝いをすることで居候させてもらうことになっていたの。
除外を考慮し、村からでる人数は五十名ほどとなる。この中にはカズキも入っていた。
カズキの家は五人家族だ。ここから一人出すとしたらカズキしか選べないのだ。
ガウムは畑仕事に必要で、リーネも働き手でさらに育児や家事に必要、レンとリリィは七才と三才で出稼ぎに出すには若すぎる。
最初はガウムが出ると言っていたのだが、そうなると残ったカズキに畑仕事が回ってくる。けれども体力不足とノウハウの関係で、畑仕事にはいまだ向いていないのだ。そこそこの成果は残せるだろう。今が普通の状況ならば問題はない。しかし今求められているのは少しでも多くの収穫物を生み出せる即戦力、それをカズキに期待するには無理があった。
それにカズキは出稼ぎ員として期待がかけられていた。文字の読み書きができ、計算ができ、目利きができる。売り手としての経験も少しだけある。農夫としては頼りなくとも、商人としての戦力は期待できるものを持っている。
これらに理由によってカズキはアリアハンへと出稼ぎにでることになった。
大陸北部にはレーベも入っている。レーベも不作の煽りを受け、外部の人間を受け入れることはとても難しい。となると出稼ぎ先はアリアハンになるのだ。
出発の日がきて、カズキは着替えなどを入れたリーネ手製のリュックを背負い玄関に立つ。手にはオイローがくれた餞別のギター。
見送る家族はリリィを除いた全員が寂しげだ。リリィは兄がいなくなるということをいまいち理解していないのだろう。
「すまんな、俺が行けたらよかったんだが」
「何度も謝らなくてもいいよ。アリアハンに行くのは楽しみでもあるんだから」
「……そっか。アリアハンは大きい都市だ。誘惑もいろいろあるから気をつけるんだぞ?」
カズキが自分たちに心配をかけないよう空元気を出していると思い、ガウムはさらに悲しげな顔になる。
カズキとしては納得済みで、言葉通り本当に楽しみにしている。
「兄ちゃん」
「ん?」
「行っちゃやだよう!」
「……あー……ごめん」
なにか言おうにも思いつかず謝るしかできない。
レンはガウムのズボンをぎゅっと握る。そのレンの頭をガウムが無言でなでる。カズキも泣き止まそうとレンの頭をなでた。
「リリィの相手頼んだぞ? 父さんも母さんも忙しくなるからリリィの相手できる時間が少なくなる。リリィが寂しくて泣くかもしれない。そのリリィを泣き止ませることができるのは、いつもそばにいれるレンなんだからな。リリィの好きな歌覚えてるか?」
「……うんっ」
ごしごしと目元をぬぐいレンは頷いた。偉いぞと励ましと褒めるための笑顔を贈る。
「カズキ」
「なに?」
リーネがカズキの名前を呼びながら抱きしめる。
「三年だけっ三年もすればきっと持ち直すからっ。そうしたらまた一緒に暮らせるようになるからっ」
「うん、わかってる」
「病気にならないようにね。怪我もしないように気をつけるのよ? あなたしっかりしているようで、どこか抜けてるんだから」
抜けているのは、前世での価値観で行動してこちらの人間とは違った行動になってしまったときのことを指している。
例えば海に行きたいと言って両親を驚かせたこともあった。カズキはただ涼みに行きたかっただけだ。しかし地球と違い、こちらの海や川には魔物が出る。とても遊びに行くようなところではないのだ。海に遊びに行くという発想は、行く場所の安全を確保できる財力などを持ったお偉いさんの考えだ。
リーネは抱きしめたままいろいろと忠告していく。その声が震えていることは、この場にいる全員がわかった。
「それから、それから……。
それからね? 辛くなったらいつでも帰ってきていいの。あなたに期待している人たちは怒るかもしれないけど、そんなことに遠慮なんかしないで。私たちはあなたの帰りを喜んで迎えるから」
「ん、わかった」
嬉しさでうっすらと眼が潤む。愛されているんだなとすごく実感できたのだ。
リーネから離れたカズキは、不思議そうな顔をしてるリリィを一撫でする。それに上機嫌な笑みを返すリリィ。
「いってきます!」
心配かけないようにとカズキは元気一杯に歩き出す。
アリアハンへの期待と少しだけの寂しさがカズキの胸の中にあった。
一度も振り返らないカズキを家族はずっと見続けていた。
村の入り口には二台の大型馬車と一台の荷馬車がある。それに三十人ほどが乗り込む予定だ。残りの二十名は自分たちで出稼ぎ場所まで行くことになっている。
馬車の近くには護衛役の冒険者が四人いる。
カズキが乗り込んだ馬車にはすでに七人の先客がいた。彼ら雰囲気は暗い。住み慣れた場所から知らない場所へと行くことの不安、邪魔だと村から追い出されたという思い込み、続いた不作で将来に対して湧いた不安、これらが彼らの気分を暗くしていた。
カズキのように行く先が楽しみだと思えている者は少ない。
カズキは彼らからできるだけ離れて座る。こんな小さな子まで、という哀れみの視線が鬱陶しいからだ。カズキも不安な気持ちが全くないわけではない。けれども好奇心のほうが大きいのだ。
やがて二台の馬車に全員が乗り込み、出発する。誰もが徐々に小さくなっていく故郷を見失うまいと見続けていた。
出発し一時間ほど経った頃、景色を見るのにも飽きてきたカズキはその場に相応しそうな歌をギターを弾きつつ歌う。
それはドナドナだった。
聞いていた御者がカズキに話しかける。
「なんだか悪いことをしている気になるから、その歌やめてくれ」
馬車に乗せた人たちを売りに行くという気分になったのだろう。
ならば暗さを一蹴しようと、カズキはJAMのGONGを歌いだす。
「うるさい」
今度は賑やかすぎたらしい。
次はと考え、遠くに峠の茶屋らしきものが見えたので。天城越えをできるだけこぶしをきかせて歌いきった。
少し物騒な歌だが、御者は思わず聞き入ったようで止めることはなかった。
歌いきって満足したカズキはとりあえずこれで最後と、出てきた村を思いつつふるさとを歌う。
出てきた村のことを思い出した人たちが涙を流す。もう一台の馬車にもカズキの歌は聞こえていて、そっちに乗っている者たちも泣き出した。歌を聞いた者たちは、出てきて間もないのにホームシックになりかけていた。
「……坊主、暇なら相手してやるから歌うのをやめて隣にこい」
「いいの?」
「このまま歌わせ続けるともっと暗い雰囲気に包まれかねないからなぁ」
涙を流し続ける人たちの間を擦り抜けカズキは御者台に座る。
「景色見飽きてたんだ」
「お前さんはほかの連中と違って暗くないなぁ」
「売られたんだったら暗くなってたんだろうけどね、一時的に追い出されただけならまだ平気」
「そうか。まあ、暗いとこっちまで気が滅入るから俺としては助かるんだが」
「ここからどれくらいでアリアハンに着くの?」
「ところどころにある村で補給して、多く見積もって十日といったところか。歩きだと十五日くらいかねぇ」
「途中でレーベに寄る?」
「いんや、寄らないな。寄ってほしかったのか?」
「そこに知り合いがいるから、挨拶くらいはできるかなって思っただけ」
「寄ったら挨拶くらいは行かせてもかまわなかったんだけどな」
残念だと呟いて、カズキはギターでゆるやかに曲を弾き出す。今回は歌はない。弾くのはドラクエ3のフィールド曲冒険の旅だ。
御者や冒険者たちは初めて聞く曲だったが、こういった野外の移動にぴったりだと聞き入る。沈んでいた者たちも少しだけ気がまぎれた様子だ。
「その年でそれだけやれるのはすごいな」
「練習したからね」
「その腕なら酒場に雇われるってのも選択肢の一つだな」
「酒場ってルイーダの酒場?」
「俺が言ったのはそっちじゃないんだが、ルイーダの酒場のこと知ってるのか?」
「父さんがアリアハンに行ったことあって、そのときの話にでてきたから」
「なるほどな。
坊主はそれのほかになにかできるのか?」
「読み書き、計算、ある程度の目利きくらい」
「ほおー、本当にそれだけできるならいいところを紹介できるな。
ちょいとこれを見て、どれくらいの価値があるか言ってみな」
御者は腰に下げていたナイフをカズキに渡す。本当に目利きができるのか、できたとしてその力量はどれほどか試すためだろう。
カズキはギターを太ももの上に置いて、ナイフを両手で持つ。鞘から少しだけ抜くと綺麗に磨かれた刀身が出てきた。
ステータスウィンドウを開き、ナイフの状態を見ていく。
「名前は聖なるナイフ。それなりに使い込まれていて、大事にすればあと三年はゆうにもつ。売るとしたらこの状態からいうと130ゴールドくらいかな」
「やるじゃないか! ある程度なんてとんでもないな。それだけできれば十分だろ」
「そうなのかな?」
「こりゃ働き先は喜ぶな」
「僕らの働き先ってもう決まってんの?」
「ああ、二つの商店、一つの工房、四つの農園だ。ルイーダの酒場からも頼まれちゃいるが、紹介しても長続きしないだろうから連れて行く気はないな」
「どうして?」
「荒くれ者が集まる場所だ、その雰囲気に馴染めないって奴は多い。それに酒場だからな酔いに任せて暴れる奴もいる。巻き込まれると力量差から大怪我じゃすまないこともあるんだ」
「僕はちょっと興味があるなぁ。いろいろと面白そうな話聞けそうだし」
「やめとけやめとけ。給金はいいが、いい職場とはいえん。
坊主が小突かれたらすぐに骨折れちまうぞ」
「でも子供に絡むほど落ちぶれた人はいないと思うけど。そこのところはどうなの?」
「さすがにいない……か? 最低限の常識は持っていると信じたいな。
ああ、よく考えるとお前さん夜遅くまでは働けないから、騒動に巻き込まれにくいな。そうなるとわりのいい仕事なのか。真昼間から酒飲んで暴れる奴はほとんどいないしな。
雇っている冒険者たちに話を聞いて、よく考えてそれでも行きたいならルイーダに紹介する。それでいいか?」
「その方向でお願い」
アリアハン到着まで、まだまだ時間はあるのだ。それまでじっくりと考える時間はある。その結果、大丈夫だと判断できたら紹介するつもりだ。
話しが一段落つき、カズキは再びギターを弾き出す。今度はアレフガルドフィールド曲だ。足りない音は口笛で補う。
ギターの音色の響かせ、馬車はアリアハンへと向かう。
出発し十日、一行は無事に王都外壁前へと到着していた。
道中に出た魔物は護衛がしっかり仕事をこなし、追い払い蹴散らされていた。
村を出て三日も経てば、いつまでも落ち込んでいられないと立ち直る者が出てきた。最年少のカズキが落ち込んでいないのに、いつまでも年上の自分たちが落ち込んでいるのは情けないという感情もあった。
移動のみで暇を持て余したカズキはいろいろな曲を弾き歌った。皆、次から次に歌われる知らない歌を楽しみにするようになっていた。
カズキの紹介先はルイーダとなっている。旅の間に冒険者たちに話しを聞いて、大丈夫そうだと判断した御者が紹介することに決めたのだ。
話しを聞いたり、曲のリクエストを受けたりと交流を持ったことで、カズキは冒険者たちと仲良くなり、彼らがときどきカズキの様子を気にかけると言ったことも御者が紹介しようと決めた一因だ。
一行は馬車を下りて、門をくぐる。
人の多さ街の広さに、カズキを含めた出稼ぎ組は驚きを通り越し呆気にとられた。
王都アリアハンは総人口約十万人だ。出稼ぎ組が大きなところだと考えていたレーベの五十倍、世界でもトップレベルの大都市だ。規模の違いに驚くのは当然だろう。
カズキは前世でここ以上の街に住んでいたのだが、村での生活に慣れきって久々の大都市に度肝を抜かれていた。
「いつまでも驚いているんじゃない。移動するぞ」
御者をしていた男クロードが手を叩いて、カズキたちを正気に戻させる。
ここまで護衛をしていた冒険者たちは、すでに報酬をもらいルイーダの酒場へと帰っていた。無事帰還と依頼終了を知らせに行ったのだ。
クロードは田舎者丸出しのカズキたちを連れて、自身の所属する商会に戻る。
商会に着くとクロードは、カズキたちを団体用待合室に置いて、帰還の報告を済ませるために事務所に向かう。長に素早く報告を済ませ、数人の部下を連れて待合室に戻る。部下たちに出稼ぎ組を職場へと案内させるのだ。誰がどこに行くかは旅の間に決められていた。
部下たちは自分がどこへ案内するか述べ、人を集める。集まった人に行く先に間違いないか確認し、部下たちは出稼ぎ組を連れて商会を出る。
広々としている待合室にはクロードとカズキの二人だけが残っている。
「俺たちも行こう」
そう言ってクロードはルイーダの酒場へと歩き出す。二人は王都を十字に裂く大通りの西通りを進み、西門が間近に迫ると今度は北へと進路を変える。
ルイーダの酒場は王都の北東にある。つまりゲームと同じ位置だ。
「あれがルイーダの酒場だ」
クロードも指差す方向に、周囲の建物よりも一回り大きな建物が見えた。古く歴史のありそうな二階建て。鎧を着た三十過ぎの男やローブ姿の若い女や僧衣姿の青年など様々な人種が出たり入ったりと賑やかだ。冒険者を狙ってか露店も開かれ、彼らも賑やかさの一因だろう。
クロードは通いなれたように動じることなく建物へと入っていく。その後ろをカズキは興奮と緊張が入り混じった様子でついていった。
建物内部を歩き奥にあるカウンターを目指す二人だが、目立っていた。カズキのような子供がここにくることは珍しいのだ。集まる視線にどう反応すればいいのかわからず、カズキはクロードについていくことだけを考え足を動かす。視線には押されているが、酒場の雰囲気自体には楽しげなものを感じ、表情には不安といった感情は一切ない。
やがてクロードは足を止める。カズキの足も止まる。カズキの視線の先には、冒険者たちと話している二十才ほどの美女がいる。話している相手は強面の男だが、臆することなく対応している。
冒険者の話しが終わったところでクロードは女に声をかけた。
「ルイーダ」
「ん? クロード。どしたの? なにか用事?」
「働き手を探していただろう? 見所のある奴を連れてきた」
「ああ! ケイスたちから話しは聞いているよ。私の驚くところを見たいらしくて、詳しいことは聞かせてもらえなかったけどね」
ケイスとはカズキたちを護衛してきた冒険者だ。報告ついでに、簡単にカズキのことを話したのだろう。
「どこにいるの?」
「こいつだ」
クロードの背後にいたカズキを、ルイーダに見える位置に移動させる。
カズキを見たルイーダはポカンとした顔となる。一応、カズキは一礼しておいた。
「驚いた。驚いたから本命を連れてきて」
どうやらルイーダはカズキのことを、クロードが用意した驚かし要員だと思ったらしい。
本命はどこだとルイーダの視線があちこちに移動する。
「冗談ではなく、本当にカズキをここに紹介するんだ」
「……ここは冒険者御用達の酒場だよ? こんな子供が働けるはずないじゃない。
それにこの子になにをさせる気よ?」
「こう見えて中々優秀だぞ? 俺のところで雇いたいくらいだ」
「じゃあ、そうすればいいじゃない」
「カズキがここがいいって言うんだ」
「カズキと言ったね。悪いことは言わない、クロードのとこに行ったほうがいい。子供が働けるような場所じゃないよ」
ルイーダは視線をカズキに合わせて言った。そこには邪険するような感情はなく、カズキのためを思っての言葉だとわかる。
「でもここが一番楽しそう。実際ここにきて、そう思った」
「ここの雰囲気に物怖じしない度胸は買いなんだけどねぇ。それに楽しいだけじゃないんだよ?」
カズキの目を見て、このまま断っても納得しそうにないと読み取ったルイーダは一応面接することにした。ここで働くには能力不足と指摘すれば納得し帰っていくだろう、と考えたのだ。
「クロード、この子なにができるの?」
「読み書き、計算、目利き、弾き語りだな」
「へー、この年でそれだけね」
じゃあ、と言ってルイーダは棚から一本のワインを取る。
「ここに書かれている文字と大まかな価値を言ってごらん」
「文字はいいとして、価値は無理だろう? 子供に酒の価値はわからん」
「ここは酒場だよ? 酒の知識がなくてどうするの」
「それはそうだが」
これで追い返すつもりなのだろうとクロードにはルイーダの考えがわかった。そしてこの予想は外れないだろうと確信が持て、うちに有力な人材が入ってくることになるなと考える。それはそれは都合がいいので、これ以上の反論はしない。
「作った人がミネル・トーゼンさんで、名前はヴァッシュゼーデでいいのかな。十年物で、これ一本売るとすると35ゴールドくらい。封を開けずに満タンだったら、もう少し値段は上」
ステータスを読み取ったカズキの鑑定に、ルイーダとクロードは目を見開き驚く。ラベルに書かれているのは作成者とワイン名のみ。味の確認をせずに年代を当てられるとは微塵も予想していなかった。というかこんな真似はルイーダにも無理だ。値段も正確なものだった。
「な、中々やるじゃない。
次は計算よ。
一個で銀貨四枚のオレンジがある。そのオレンジが五十個入る箱が七つあって、そのうち六つが満タンで、残り一箱は三十個入っている。交渉の結果、箱一杯買った分は一割引きとなった。
合計金額はいくら?」
「…………銀貨1200枚」
一分ほど考えて出た金額を答えた。
ルイーダはちらりとクロードを見る。クロードはあっていると頷く。
「正解らしいね」
おおーっと周囲から感嘆の声が上がった。三人の会話を聞いていた冒険者たちだ。彼らの中にはいまだ計算中の者もいる。
「じゃあ最後だ。
私の知らない曲で、そうだねノリのいいものを一曲弾いてごらん」
これはルイーダの自爆だ。ここでルイーダの知っている曲の中から一曲弾けと言われていれば、カズキは弾けなかった。こちらの曲はほとんど知らないのだ。
カズキはギターを構え、前世で弾き慣れた曲を弾き出した。
テキーラが酒場に響き渡る。テレビでベンチャーズの特集があり、そのときに流れたのを聞いて気に入り、練習したのだ。こちらに生まれてあまり弾いてなかったが、どうにかつっかえることなく弾ききった。
終わると同時に冒険者から惜しみない拍手が送られた。少量のおひねりも飛んだ。
注文に応えきったカズキを、ルイーダは一応認める。
「あ〜うん、降参! 雇ってあげる。
みんな聞いたわね! 今日から雇うことになったカズキよ! 怪我なんかさせるんじゃないわよ!」
威勢のいい返事と歓迎の言葉が同時に酒場に響いた。
この日からカズキのアリアハン暮らしが始まる。その日のうちに雇用条件をきちんと決め、さっそく働き始めた。
カズキに与えられた仕事は、明るいうちは掃除や仕入れの手伝い、暗くなるとギターでリクエストをとって弾き続ける。夜更けまでは起きていられないし、ルイーダも早めにカズキを寝かせるので疲れが溜まることはなかった。
ときどき一日の儲けの計算も任される。きたばかりの者に金勘定を任せていいのかと思い尋ねると、盗んで逃げた場合は冒険者が差し向けられると聞いて納得した。捕まえることを依頼として出すのだ。一般人では冒険者に敵わない。腕力は当然として、捜査追跡能力も比べ物にならないだろう。
アリアハンでの暮らしは充実したものになる。
自給自足ができないので、お金の使用頻度は高いが使いすぎないように気をつけている。本人だけではなくルイーダたちも注意していた。出稼ぎに来て、物価の違いや賭け事や詐欺に遭い破産する者がいることを知っていたからだ。
周囲のおかげもあってお金に困ることはなかった。単純に収入の方が多かったせいでもあるが。
おひねりがもらえたり、ソルティドックや清酒やスルメなどメニューにない品を提案しそのアイデア料がもらえたからだ。
村への仕送りの分と生活費を減らしても、子供が持つには多いお金がカズキの財布に入る。ルイーダはカズキに承諾もらいお金の一部を銀行に預ける。そのお金は雇用期間の三年で千ゴールド貯まった。これは人一人宿屋暮らしで、一年間働かずに暮らせる金額だ。
落ち込むこともあった。接客については不慣れだったので、ちょっとしたトラブルもあった。冒険者にもいい人ばかりではなく絡まれることもあった。
そんなときは周囲の励ましがあり、いつまでも落ち込むことなく元気になれた。
ちなみに一番落ち込んだのは店でのトラブルではない。働き始めて一年と少ししてまとまった休みがもらえたので、キメラの翼で故郷へと帰った。そのときに友達と遊んでいるリリィをみつけ話しかけたら、首を傾げられた。顔を忘れられていたのだ。兄がいるということは覚えていたようで、説明するとすぐに思い出してもらえたのだが。
カズキにもっとこまめに帰ってこようと決意させる出来事だった。
ほかにも神田川を歌い酒場をしんみりさせてみたり、宮廷楽士に曲を教えてみたり、乱闘時にいろいろなゲームの戦闘BGMを弾いてみたりと、こういった小さな出来事はあったが、特に大きな出来事はなく日々は過ぎていった。
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