2010年03月
2010年03月18日
感謝の46
感想ウェブ拍手ありがとうございます
予定では竜殺しを昨日あげると言っておきながら一日遅れてしまいました、申し訳ない
》調子に乗ってるなぁ転生・鬼面童子。 モシャスの実験も成功してるようだし、でも言動がまんま厨二患者、ダイ大のフレイザードを思い出します。 調子に乗ったあげく自滅しそうなキャラですが・・・果たしてどうなるのか?
中二病を意識したわけではないのですが、それっぽくなってしまった。哀れ鬼面童子
鬼面童子はしばらく出番なしですね。次出てくるのはオーブ集めの頃の予定。そのときにちょっとした驚きを提供する予定。もしかしたらお前それ反則だろ!? とつっこみもらえるかもしれません。まあ、あくまで予定
予定では竜殺しを昨日あげると言っておきながら一日遅れてしまいました、申し訳ない
》調子に乗ってるなぁ転生・鬼面童子。 モシャスの実験も成功してるようだし、でも言動がまんま厨二患者、ダイ大のフレイザードを思い出します。 調子に乗ったあげく自滅しそうなキャラですが・・・果たしてどうなるのか?
中二病を意識したわけではないのですが、それっぽくなってしまった。哀れ鬼面童子
鬼面童子はしばらく出番なしですね。次出てくるのはオーブ集めの頃の予定。そのときにちょっとした驚きを提供する予定。もしかしたらお前それ反則だろ!? とつっこみもらえるかもしれません。まあ、あくまで予定
2010年03月09日
感謝の45
感想ウェブ拍手ありがとうございます
》RPGは基本、クエストクリアー⇒イベント消化の繰り返しですが、不確定要素がからんでくると先が分かりませんね。 カンダタもなんかおかしかったし・・・ 続きも楽しみに待っています。
絡ませた不確定要素をきちんと解消できるのか、少し不安があったり
鬼面童子を決めたとおりに動かせるかな
カンダタについても、いまだきちんと設定決めてませんし。まあしばらくでてこないのでその間に決めればいいんですが
世界樹の迷宮3発売まであと一ヶ月きりました!
楽しみですね!
メインパーティーはもう決めました。ファランクス、モンク、ゾディアック、パイレーツ、ウォリアーの予定。ウォリアーに変更があるかも
といっても全クラスパーティーに入れてみる予定なんですけどね
サブクラスとか鍛冶とか今までにない要素もあって、早くこい4月といった感じです
生まれ変わってドラクエ 14後
順調に魔物たちの数が減っていきあと六匹といったところで、二匹の魔物が建物から出てきた。
「魔法おばばだ!」
「ベギラマがくるぞ! 全員防御しろ!」
魔物の正体をカズキが知らせ、一匹が使おうとしている呪文文字を読み取りオルクが知らせる。
高温の炎風が、味方のはずの魔物とカズキたちの間を吹きぬけた。
魔物たちは倒れ伏し消えていき、カズキたちは床に膝をついている。
急いで全員のステータスを確認したカズキの目には、10近くにまで減った前衛たちのHPが映っていた。
「全員、薬草使え! もう一度きたら耐え切れないぞ!
前衛は魔法おばばに近づくまでに、もう一回使え!」
ピンチだと魔法おばばに知らせることになるが、それでも知らせないと危ない状態なのだ。
全員がカズキの指示に従い、薬草を飲む込む。
アークたちは体の痛みが引いていき、立ち上がる。
「「ヒャド!」」
もう一度ベギラマを使おうとした魔法おばばへと、カズキとアロアがヒャドを飛ばす。
魔法おばばはベギラマの使用を間に合わせ、近寄ってくるアークたちへとベギラマを飛ばす。だがそれは運の悪いことにヒャドによって威力が散らされていた。
アークたちは炎風の中を駆け抜けて、魔法おばばへと接近する。
「アロア、魔法おばばにボミオス!」
「はいっ!」
攻撃呪文では三人を巻き込むので、援護を飛ばすように頼む。
アロアがマホトーンを使えるといいのだが、あいにく僧侶用の呪文なので使えない。
ボミオスは効果を及ぼし、目に見えて動きが鈍る。
急いで勝負を決めるとアークたちは苛烈に攻める。
魔法おばばたちは勢いに押され、ベギラマを使うどころか反撃もできず、防御や回避に精一杯だ。
魔法おばばたちのHPがあと一撃といったところまで減ったとき、彼女たちはアークたちをふりきって空中に逃げ、建物の屋根に下りた。そして手を繋ぎ、それぞれ空いた手で呪文文字を描き出す。
「イオ!」
魔法おばばが三人から離れたことで、巻き込む心配のなくなったアロアが呪文を使う。
それに防御する様子も見せずに、魔法おばばはなにかしらの呪文を使う準備を続ける。
カズキとアークの飛ばしたヒャドとメラにも耐え、準備は終わりに近づき、あとは呪文名を唱えるだけとなる。
ここでアークとアロアとオルクといった魔法の素質が常人よりもある者は、魔法おばばから放たれる魔力の気配に背筋を冷やす。アークとオルクは思わずあとずさり、アロアはその場に座り込み体を抱いて震えだす。カズキとグラッセは彼らの様子を見て、戸惑うことしかできない。
カズキがこの気配を感じることができたのなら、例えとして着火間近の複数のダイナマイトを想像したかもしれない。
逃げるには圧倒的に時間が足りない。魔法おばばの口は呪文名を唱えようと開きだしている。
どうしようかと焦るアークは頭に浮かんだ呪文を急いで使う。それの効果のことまで考えが至ってはいなかったが、この場でその行動は正しく皆の命を救うものだった。
「「合体ベギラマ!」」
「アストロン!」
魔法おばばとアークの言葉が同時に響く。
魔法おばばたちが繋いだ手を中心として、ベギラマをはるかに超える炎が四方八方に広がっていく。一番最初の犠牲者は、発動者である魔法おばばたちだった。
最初にこれを使わなかったのは、いまだ未完成の技術だったからなのだろう。このままでは負けると判断し、一か八かに賭けて使用し、賭けに負けたようだ。いや発動自体はしたので完全に負けたわけではないのか。
屋根に上がったときベギラマの連発をしなかったのは、アークたちがくる前に行っていた実験で魔力を消費しており余裕がなかったからだ。
他人同士での合体呪文はジェキンスたちによって使用不可と研究結果がでていた。魔法おばばたちが失敗したのは、それを知らなかったからだろうか? それともなにか勝算があっての使用だったのだろうか? それは使った者たちにしかわからない。
いわゆる暴走という結果となった合体呪文だが、その威力と効果範囲は上位であるベギラゴンを超えている。魔法おばばたちはこれを狙ったわけではない。暴走だからこそ、そこまでの威力となったのだ。
アークの使ったアストロンはギリギリのところで間に合った。金属化したアークたちは炎熱に晒される。重量が増したはずのアークたちは熱波に押され床に転がされた。
体が金属化しても意識はある。視界が白に近い朱色一色に染まり、動けずに押されるまま転がったカズキは驚いていた。合体呪文という発想を魔物たちができ、なおかつ実現にまで至っていたのだ。自分たちしか考えていなかったことと思っていたところに、いきなり使用され驚くなというほうが無理だろう。
ここがよく似た世界だとして、魔物たちが自然と思い浮かぶことなのだろうかと考えているうちにアストロンは解け、炎にあぶられ熱くなった地面から身を起こす。
すぐそばではグラッセが震えているアロアに手を貸し、立ち上がらせている。
「……すごい威力だった」
呆然としたアークが呪文発動中心地を見ながら言う。
屋根は吹き飛んでおり、建物全体も焼け焦げている。
「なんだったんだあれは?」
呪文を得意とするエルフのオルクが、初めて見た呪文に戸惑いと驚きを半々といった感じの表情を見せている。
「俺たち、たちっていうのはアークたちじゃなくて、俺の知り合いのことを指すんだけど、その人たちはあれを合体呪文と呼んでるよ」
「兄さん、あれ知ってるの?」
「ああ、実のところ俺たちが初めて生み出した技術だと思ってたんだけど、まさか魔物が使うなんて……」
「人間も魔物もとんでもないものを考え出すものだな」
自分たちの想像を超える発想をしてみせた者たちにオルクは、複雑な思いを抱いている。このまま人との関係を絶っていれば、いずれ世界情勢から孤立してしまうのではと不安が湧いている。
「俺たちの合体呪文は完成とはいえないんだ。中位呪文から上の合体は試せていないし、他人同士で呪文を合体させることは無理だって判断してた」
「でもあいつらは一応こなしてみせたな?」
グラッセの言葉にカズキは頷く。
「自爆覚悟だったのか、それとも俺たちの知らない成果を出していたのか。
確実にいえることは、これから先の魔物との戦いが想像以上に厳しいものだということ」
「ああ、そうか。ほかの魔物も使ってくる可能性があるのか……」
当たり前のように合体呪文を使ってくる魔物たちを想像し、五人はぞっとした思いを抱いた。
「とりあえず、ここにきた目的を果たそう!
あの建物の中に王女に繋がるヒントがあるかもしれない!」
寒気を振り払うかのように元気な様子でアークは建物を指差す。
空元気でも誰か一人元気な様子を見せたことで、皆の気分は幾分か晴れる。皆を引っ張るものとして、こういう気遣いは褒められるものだろう。
薬草で傷を癒した五人は、合体呪文による被害でぼろぼろになった建物に入っていく。今日の最大の山場は越え、あとは探索だけだと考えながら。
それが甘い考えだと知るまでもう少し。
建物の中は大きく三つの部屋にわけることができる。仕事部屋、生活部屋、倉庫。仕事部屋と倉庫が同じ大きさで、生活部屋は屋根やベッドを必要としない魔物がいるせいか広めの空間を必要としなかったらしい。あとはキッチンと個室があり、これで全部だ。
魔物が隠れている可能性も考えて、五人は全員一緒に行動していく。さきほどの戦闘でこの階層の魔物は全員倒したのだろう、魔物の影もない。
最初に生活部屋を漁り、スライムピアス、小さなメダル、祈りの指輪をみつけた。
次に倉庫を漁る。入っていたのは魔物たちの食料や薪、台車、土、様々な生物の骨などだ。ここで一番一行の目をひいたのは泥人形のパーツとパーツを作る型だ。
「カズキ?」
パーツに近づき触りだすカズキにオルクが声をかける。
それに応えず、カズキはパーツを集めだす。カズキは試しに一体組み上げてみることにしたのだ。それは難しいことではなく、すぐに泥人形は完成する。だがそれだけでは動かず、なにが足りないのかと周囲をよく探す。
「これか?」
作業台に無造作に積まれている石を泥人形の胸に押し込んでみた。ただの石ならば、わざわざ作業台に置かないだろうと思ったのだ。その予想は当たりで、泥人形は動きを見せる。
立ち上がり、二十秒ほどじっとしていた泥人形は、目の前にいる人間つまりカズキに向かって拳を振り上げた。
「うわっ!」
それを後ろに飛び避ける。
「なにしてんだ!」
オルクが剣を振るい泥人形を倒す。
「ありがと」
「ありがとじゃないだろう。わざわざ魔物を作ってなにがしたいんだ?」
「いや、俺でも作ることはできるのかなと」
「できたから満足しただろ? 次に行こうぜ」
グラッセが入り口から声をかける。
「すぐ行くから先に行ってて」
カズキは作業台の石を何個かと、ここにある土を別々の袋に入れていく。
それを見てオルクは首を傾げる。
「持っていくのか?」
「うん。もしかするとだけどね、研究によっては魔物と敵対する泥人形が作れるかも」
「泥人形か、ぴったりな名前だな。
だけど魔物を味方として使う、ね。そう上手くいくのか?」
ドラクエ4以降やモンスターズも遊んだカズキとしては、抵抗なく受け入れられることだ。しかしオルクとしては賛成しかねるのだろう。魔物は魔物、人間やエルフなどと敵対しかしないと考えているのだ。そしてこれは大半の人間とエルフの共通認識でもある。
この世界には魔物使いはいないのだ。魔物の闘技場には魔物を捕まえることを生業とする者がいる。だが彼らは魔物を罠にかけ戦い弱らせて捕まえているだけで、仲間にしているわけではない。
「これは魔物っていうより動く人形で、魔物側に使われているから魔物って認識になってると思うんだ。
そう考えると味方としても使えそうと思えてこない?」
「実際に味方となって動くところを見れば、納得もできるかもしれんな」
カズキが生まれるずっと前から魔物と戦っていたオルクとしては、ここらへんが譲歩できるラインなのだろう。
「そっか、残念」
研究をしてもらう相手としてエルフも考慮に入れていたのだ。
渡す相手はやはりジェキンスだなと考えつつ、作業を終える。手についた土をパンパンと払い、立ち上がる。
この行動による生まれた研究結果は現代では役に立つことはなく、カズキやジェンキスが死んだあとのはるか未来、メルキドのゴーレム誕生にかかわることになる。その結果ドラクエ1のゴーレムより強くなり、アークの子孫が苦戦することになるのだが、カズキにはまったく予想できないことだ。
「さっアークたちのところに行こう」
オルクを促して、倉庫を出る。
一足先に仕事部屋を漁っていたアークたちに合流し、一緒に漁っていく。
さきほどの戦いの影響か部屋の中は荒れており、薬品の入った瓶も割れて異臭がしている。
ここは実験器具とメモ用紙ばかりで、めぼしいものはない。メモ用紙も魔物が使う文字で書かれており、解読不可能だ。
異臭のこともあり五人はここの探索を切り上げる。
次は仕事部屋の隣にある個室だ。
「夢見るルビーか!?」
部屋に入ってすぐにオルクが大声を出した。視線は壁際の棚に向けられている。そこに大きなルビーが置かれていた。ほったらかされていたのか埃を被っている。
オルクは夢見るルビーを手に取り、布で拭いていく。
その間にアークたちは、ほかの場所と同じようにここも漁っていく。
研究結果をまとめたっぽい資料が多く出てきたのだが、メモ用紙と同じく使われている文字は魔物のもので誰にも読むことができない。
「一応持ち帰ったほうがいいのかな?」
アークは手に持った資料の束をどうすればいいのか悩む。持ち帰ったところで誰も読むことはできず、役に立たないのではと思っているのだ。
それでもなにかの役に立つかもしれないというアドバイスを受けて荷物の中に入れる。
この行動は正解だった。資料の中にはアンに行われたことや行き先が書かれていたのだ。魔物に捕まったのではという予想は当たっていた。
これらについて読み解くことができないので、なにが書かれていようが今は無意味なのだが。
ほかには合体呪文や泥人形や夢見るルビーに関してが書かれている。夢見るルビーについてはどうにもならないという結果が出ていて、だからほったらかしにされていたのだ。夢見るルビーはエルフの中でも、とある才を持つ者のみ使えるので、魔物ではどうしようもなくて当然だ。
「ほかにめぼしいものはないし帰るか。
結局王女についてはなにもわからなかったな。夢見るルビーが取り返せたことは喜ぶことができるが」
「これからエルフたちはどう動くと思う?」
カズキの問いにオルクは、夢見るルビーをしまった小袋を触りつつ答える。
「ノーヒントで探し回るだろうな。世界中を動き回れる人材は多くないし、俺も久々に旅に出ることになりそうだ。
あとはほかの場所にいる仲間も頼ってみるとかだな」
「あそこ以外にもエルフの村ってあるんですか?」
エルフの拠点は洞窟北の村だけだと思っていたアーク。
「一番の拠点の俺たちの村だが、もう一ヶ所エルフが集まっているところがある。居候って感じだがな。まあ人間は知らないだろ」
そんなところあったかとカズキは考え、竜の女王の城が思い浮かんだ。記憶が確かならばそこにもエルフはいたはずだと。
人間が知っていてはおかしい知識なので、口に出すことはしない。
「そんな場所があるんですね」
「ただ世界中を歩き回っても行けない場所だよ」
そんなことを話しつつ五人は建物を出る。
誰もリレミトを使えないので、帰りも歩きだ。階段のある通路に向かい、すぐに全員の足が止まる。
階段へと続く通路の奥は、松明の明りが届かず陰なっていて見通しがきかない。だがそこになにかいて、こちらに歩いてきているとわかる。気配を読むといったことが得意ではないカズキとアロアにさえわかるほど、圧倒的な気配の持ち主がそこにいる。
「人間とエルフ?」
陰から姿を現したのは人間のように見えるなにか。見た目は二十代の白髪で赤目の美男子。劇場で働けば、一日で多くの固定客を掴めそうなほど顔立ちが整っている。
だがカズキたちは目の前の存在を決して人間とは認めないだろう。人間が持つ雰囲気と質や濃さが根本的に違い、魔物のそれと近い。
カズキたちが今まで戦ってきた魔物とは格があまりに違う。そこにいるだけで戦意を削ぎ、体が震えだす。それほどに凶悪な気配を持っていた。これと比べたらエルフたちの敵意は、心地よい春風のようなものだ。
ここが洞窟内でなければ、五人は迷わずキメラの翼を使い逃げることを選択した。
男の視線がアークに向けられる。視線の圧力だけで、アークは実際に押されているように感じられた。
「もしかして勇者? ……俺ならこのイベントは飛ばすってのに、ここにくるなんてよほどのお人好しなんだな」
カズキを除いた全員が、目の前の存在が言っていることを理解できない。言葉が特殊というわけではない、人の使う言葉を使っている。
理解できたカズキは驚く。放たれた言葉と同じことをしようと思っていたのだ。そしてなによりイベントという言葉そのものが前世で馴染みのあるものだ。こちらにきてカズキはイベントという言葉を聞いたことがない。
目の前の存在が自分と同じなのかと思うも、恐怖で口は開かず問いかけることはできない。ただ見続けることしかできない。
そんなカズキのことを男はまったく気にしない。
「しかも研究室をぼろぼろにしてくれちゃって」
「やったのは俺たちじゃない!」
どうにか口を開いたアークに、ふーんとどうでもよさそうに相槌を返す。
「誰がやろうがどうでもいいさ。
それよりもちょうどいい機会だ。勇者がどれくらいの強さか一度試してみたかったんだ。
かかってきな、もんでやる」
男は獰猛に笑う。より濃密な気配が放たれた。カズキたちはその場に立っているだけで、体力を削られていくような錯覚を感じている。
「どうした? こないのか? ならこっちからいくぜ?」
気配に押され、動けないでいたアークに男が襲い掛かる。
男は素早く動いたわけではない。だからアークは迫ってくる拳をとっさに盾で防ぐことに成功した。だが吹っ飛ばされる。
「アーク!?」
アークが防御の上から呆気なく殴り飛ばされたことで全員は、自分たちと相手の力量差を悟る。行動を起こさねば、なにもできずに死んでいくことになると全員が動き出す。
「おおぉっ!」
「はあっ!」
グラッセとオルクが攻撃をしかける。
男は左手でグラッセの蹴りを、右手でオルクの剣を受け止める。
二人は止められたことを気にせず、ペースを気にせず攻め続ける。
男はときどき受け止めることに失敗しているが、まともに入った攻撃に顔を顰めることなく、余裕の表情で二人を相手している。
「アロア! スクルト!」
「は、はい!」
カズキはアロアに援護を頼み、アークへと近寄り薬草を使う。
「薬草だ、飲めるか?」
苦しげな様子をみせるアークの口に無理矢理薬草をねじ込む。薬草をなんとか飲み込み、アークはホイミを使いさらに自身を癒す。
とりあえず回復した様子を見て、カズキもグラッセたちに加勢するため武器を手に走り出す。
カズキが攻撃に加わっても男の余裕は変わらない。それどころかカズキは攻撃力の低さから、相手すらされていない状況だ。ならばと至近距離からのヒャドを使うが、これもたいした効果はあげない。少しだけ気にするそぶりを見せただけだ。
カズキはダメージを与えることから、足を引っ掛けたりと行動の邪魔となるような攻撃に変えて、武器を振るっていく。これは気に障ったようで、男はグラッセとオルクの攻撃を無視してカズキへと向き直り、カズキの胸倉を掴んで水路へと放り投げた。
「これでも喰らえっ!」
カズキと入れ替わるように、剣にメラを付与したアークが勢いをつけて接近し、男に剣を叩き込む。
「!?」
燃える剣を見て驚きの表情を見せた男は腕を十字に組み、初めて明確な防御体勢をとった。
男の腕にぶつかった剣は、よほど力を入れたのだろう、曲がってしまう。
それほど勢いのある攻撃を受けて男はよろめくこともしない。
カズキにステータスを見る余裕があれば、10ほどしかダメージを与えていないことがわかり、あまりの力量差に気が触れた笑いが出ていたかもしれない。
「……渾身の攻撃がこの程度、ね。防御する必要もなかった?」
男は十字を解くと、真正面にいるアークを掴み投げ飛ばす。続いてグラッセとオルクをアークのいる方向に蹴り飛ばした。
「弱い、弱いっ、弱すぎるっ! 魔法剣なんてものを使うとは思わなかったが、この鬼面童子と対等に戦うにはまだまだ力がたりない!
もっともっとだ! 力をつけろ、強くなれ! そしてまた俺と戦い、俺の糧となれっ!」
期待はずれといった表情を浮かべた男は、芝居がかった仕草をまじえて言った。
「今日は見逃してやる。だからこの程度の呪文で死ぬなよ?」
鬼面童子の指が素早く動き、呪文文字を描いていく。
「バギクロス」
置き土産としてバギ系上位の呪文を放つ。
アークを中心として鋭い刃を含んだ竜巻がいくつも発生し、アークたちを切り刻んでいく。風の刃はアークたちだけではなく、床や壁や建物も切り刻み吹き飛ばした。
血だらけになるアークを見たあと、鬼面童子はリレミトを使い去っていった。
戦いが終わり、その場で息をしているのはレベルと魔法耐性の高いオルク、余波に巻き込まれただけのカズキとアロアだ。アークとグラッセは事前に受けていたダメージもあって、バギクロスに耐えることができなかったのだ。
兄とアークの死体を見て悲鳴を上げるアロアをどうにかなだめ、カズキとグラッセは薬草を使い、帰るだけの体力を確保する。
体力と傷は回復したが、気力が底を尽きかけていた。だがここでじっとしていてもどうにもならず、なけなしの気力を振り絞り洞窟入り口を目指す。戦いなどできる状態ではないので、聖水を使い戦いは避ける。
どうにか洞窟を出た三人はキメラの翼でカザーブに飛び、教会でアークとグラッセの蘇生をしてもらう。
生き返った二人だが、三人と同じように気力が尽きかけた状態で、神父への礼もそこそこに宿を目指す。
ぼろぼろな五人に、なにごとかあったのかと驚く宿の主人になにも応えることなく、案内された部屋のベッドに倒れ込むと、すぐに夢すら見ない眠りに落ちていった。
15へ
「魔法おばばだ!」
「ベギラマがくるぞ! 全員防御しろ!」
魔物の正体をカズキが知らせ、一匹が使おうとしている呪文文字を読み取りオルクが知らせる。
高温の炎風が、味方のはずの魔物とカズキたちの間を吹きぬけた。
魔物たちは倒れ伏し消えていき、カズキたちは床に膝をついている。
急いで全員のステータスを確認したカズキの目には、10近くにまで減った前衛たちのHPが映っていた。
「全員、薬草使え! もう一度きたら耐え切れないぞ!
前衛は魔法おばばに近づくまでに、もう一回使え!」
ピンチだと魔法おばばに知らせることになるが、それでも知らせないと危ない状態なのだ。
全員がカズキの指示に従い、薬草を飲む込む。
アークたちは体の痛みが引いていき、立ち上がる。
「「ヒャド!」」
もう一度ベギラマを使おうとした魔法おばばへと、カズキとアロアがヒャドを飛ばす。
魔法おばばはベギラマの使用を間に合わせ、近寄ってくるアークたちへとベギラマを飛ばす。だがそれは運の悪いことにヒャドによって威力が散らされていた。
アークたちは炎風の中を駆け抜けて、魔法おばばへと接近する。
「アロア、魔法おばばにボミオス!」
「はいっ!」
攻撃呪文では三人を巻き込むので、援護を飛ばすように頼む。
アロアがマホトーンを使えるといいのだが、あいにく僧侶用の呪文なので使えない。
ボミオスは効果を及ぼし、目に見えて動きが鈍る。
急いで勝負を決めるとアークたちは苛烈に攻める。
魔法おばばたちは勢いに押され、ベギラマを使うどころか反撃もできず、防御や回避に精一杯だ。
魔法おばばたちのHPがあと一撃といったところまで減ったとき、彼女たちはアークたちをふりきって空中に逃げ、建物の屋根に下りた。そして手を繋ぎ、それぞれ空いた手で呪文文字を描き出す。
「イオ!」
魔法おばばが三人から離れたことで、巻き込む心配のなくなったアロアが呪文を使う。
それに防御する様子も見せずに、魔法おばばはなにかしらの呪文を使う準備を続ける。
カズキとアークの飛ばしたヒャドとメラにも耐え、準備は終わりに近づき、あとは呪文名を唱えるだけとなる。
ここでアークとアロアとオルクといった魔法の素質が常人よりもある者は、魔法おばばから放たれる魔力の気配に背筋を冷やす。アークとオルクは思わずあとずさり、アロアはその場に座り込み体を抱いて震えだす。カズキとグラッセは彼らの様子を見て、戸惑うことしかできない。
カズキがこの気配を感じることができたのなら、例えとして着火間近の複数のダイナマイトを想像したかもしれない。
逃げるには圧倒的に時間が足りない。魔法おばばの口は呪文名を唱えようと開きだしている。
どうしようかと焦るアークは頭に浮かんだ呪文を急いで使う。それの効果のことまで考えが至ってはいなかったが、この場でその行動は正しく皆の命を救うものだった。
「「合体ベギラマ!」」
「アストロン!」
魔法おばばとアークの言葉が同時に響く。
魔法おばばたちが繋いだ手を中心として、ベギラマをはるかに超える炎が四方八方に広がっていく。一番最初の犠牲者は、発動者である魔法おばばたちだった。
最初にこれを使わなかったのは、いまだ未完成の技術だったからなのだろう。このままでは負けると判断し、一か八かに賭けて使用し、賭けに負けたようだ。いや発動自体はしたので完全に負けたわけではないのか。
屋根に上がったときベギラマの連発をしなかったのは、アークたちがくる前に行っていた実験で魔力を消費しており余裕がなかったからだ。
他人同士での合体呪文はジェキンスたちによって使用不可と研究結果がでていた。魔法おばばたちが失敗したのは、それを知らなかったからだろうか? それともなにか勝算があっての使用だったのだろうか? それは使った者たちにしかわからない。
いわゆる暴走という結果となった合体呪文だが、その威力と効果範囲は上位であるベギラゴンを超えている。魔法おばばたちはこれを狙ったわけではない。暴走だからこそ、そこまでの威力となったのだ。
アークの使ったアストロンはギリギリのところで間に合った。金属化したアークたちは炎熱に晒される。重量が増したはずのアークたちは熱波に押され床に転がされた。
体が金属化しても意識はある。視界が白に近い朱色一色に染まり、動けずに押されるまま転がったカズキは驚いていた。合体呪文という発想を魔物たちができ、なおかつ実現にまで至っていたのだ。自分たちしか考えていなかったことと思っていたところに、いきなり使用され驚くなというほうが無理だろう。
ここがよく似た世界だとして、魔物たちが自然と思い浮かぶことなのだろうかと考えているうちにアストロンは解け、炎にあぶられ熱くなった地面から身を起こす。
すぐそばではグラッセが震えているアロアに手を貸し、立ち上がらせている。
「……すごい威力だった」
呆然としたアークが呪文発動中心地を見ながら言う。
屋根は吹き飛んでおり、建物全体も焼け焦げている。
「なんだったんだあれは?」
呪文を得意とするエルフのオルクが、初めて見た呪文に戸惑いと驚きを半々といった感じの表情を見せている。
「俺たち、たちっていうのはアークたちじゃなくて、俺の知り合いのことを指すんだけど、その人たちはあれを合体呪文と呼んでるよ」
「兄さん、あれ知ってるの?」
「ああ、実のところ俺たちが初めて生み出した技術だと思ってたんだけど、まさか魔物が使うなんて……」
「人間も魔物もとんでもないものを考え出すものだな」
自分たちの想像を超える発想をしてみせた者たちにオルクは、複雑な思いを抱いている。このまま人との関係を絶っていれば、いずれ世界情勢から孤立してしまうのではと不安が湧いている。
「俺たちの合体呪文は完成とはいえないんだ。中位呪文から上の合体は試せていないし、他人同士で呪文を合体させることは無理だって判断してた」
「でもあいつらは一応こなしてみせたな?」
グラッセの言葉にカズキは頷く。
「自爆覚悟だったのか、それとも俺たちの知らない成果を出していたのか。
確実にいえることは、これから先の魔物との戦いが想像以上に厳しいものだということ」
「ああ、そうか。ほかの魔物も使ってくる可能性があるのか……」
当たり前のように合体呪文を使ってくる魔物たちを想像し、五人はぞっとした思いを抱いた。
「とりあえず、ここにきた目的を果たそう!
あの建物の中に王女に繋がるヒントがあるかもしれない!」
寒気を振り払うかのように元気な様子でアークは建物を指差す。
空元気でも誰か一人元気な様子を見せたことで、皆の気分は幾分か晴れる。皆を引っ張るものとして、こういう気遣いは褒められるものだろう。
薬草で傷を癒した五人は、合体呪文による被害でぼろぼろになった建物に入っていく。今日の最大の山場は越え、あとは探索だけだと考えながら。
それが甘い考えだと知るまでもう少し。
建物の中は大きく三つの部屋にわけることができる。仕事部屋、生活部屋、倉庫。仕事部屋と倉庫が同じ大きさで、生活部屋は屋根やベッドを必要としない魔物がいるせいか広めの空間を必要としなかったらしい。あとはキッチンと個室があり、これで全部だ。
魔物が隠れている可能性も考えて、五人は全員一緒に行動していく。さきほどの戦闘でこの階層の魔物は全員倒したのだろう、魔物の影もない。
最初に生活部屋を漁り、スライムピアス、小さなメダル、祈りの指輪をみつけた。
次に倉庫を漁る。入っていたのは魔物たちの食料や薪、台車、土、様々な生物の骨などだ。ここで一番一行の目をひいたのは泥人形のパーツとパーツを作る型だ。
「カズキ?」
パーツに近づき触りだすカズキにオルクが声をかける。
それに応えず、カズキはパーツを集めだす。カズキは試しに一体組み上げてみることにしたのだ。それは難しいことではなく、すぐに泥人形は完成する。だがそれだけでは動かず、なにが足りないのかと周囲をよく探す。
「これか?」
作業台に無造作に積まれている石を泥人形の胸に押し込んでみた。ただの石ならば、わざわざ作業台に置かないだろうと思ったのだ。その予想は当たりで、泥人形は動きを見せる。
立ち上がり、二十秒ほどじっとしていた泥人形は、目の前にいる人間つまりカズキに向かって拳を振り上げた。
「うわっ!」
それを後ろに飛び避ける。
「なにしてんだ!」
オルクが剣を振るい泥人形を倒す。
「ありがと」
「ありがとじゃないだろう。わざわざ魔物を作ってなにがしたいんだ?」
「いや、俺でも作ることはできるのかなと」
「できたから満足しただろ? 次に行こうぜ」
グラッセが入り口から声をかける。
「すぐ行くから先に行ってて」
カズキは作業台の石を何個かと、ここにある土を別々の袋に入れていく。
それを見てオルクは首を傾げる。
「持っていくのか?」
「うん。もしかするとだけどね、研究によっては魔物と敵対する泥人形が作れるかも」
「泥人形か、ぴったりな名前だな。
だけど魔物を味方として使う、ね。そう上手くいくのか?」
ドラクエ4以降やモンスターズも遊んだカズキとしては、抵抗なく受け入れられることだ。しかしオルクとしては賛成しかねるのだろう。魔物は魔物、人間やエルフなどと敵対しかしないと考えているのだ。そしてこれは大半の人間とエルフの共通認識でもある。
この世界には魔物使いはいないのだ。魔物の闘技場には魔物を捕まえることを生業とする者がいる。だが彼らは魔物を罠にかけ戦い弱らせて捕まえているだけで、仲間にしているわけではない。
「これは魔物っていうより動く人形で、魔物側に使われているから魔物って認識になってると思うんだ。
そう考えると味方としても使えそうと思えてこない?」
「実際に味方となって動くところを見れば、納得もできるかもしれんな」
カズキが生まれるずっと前から魔物と戦っていたオルクとしては、ここらへんが譲歩できるラインなのだろう。
「そっか、残念」
研究をしてもらう相手としてエルフも考慮に入れていたのだ。
渡す相手はやはりジェキンスだなと考えつつ、作業を終える。手についた土をパンパンと払い、立ち上がる。
この行動による生まれた研究結果は現代では役に立つことはなく、カズキやジェンキスが死んだあとのはるか未来、メルキドのゴーレム誕生にかかわることになる。その結果ドラクエ1のゴーレムより強くなり、アークの子孫が苦戦することになるのだが、カズキにはまったく予想できないことだ。
「さっアークたちのところに行こう」
オルクを促して、倉庫を出る。
一足先に仕事部屋を漁っていたアークたちに合流し、一緒に漁っていく。
さきほどの戦いの影響か部屋の中は荒れており、薬品の入った瓶も割れて異臭がしている。
ここは実験器具とメモ用紙ばかりで、めぼしいものはない。メモ用紙も魔物が使う文字で書かれており、解読不可能だ。
異臭のこともあり五人はここの探索を切り上げる。
次は仕事部屋の隣にある個室だ。
「夢見るルビーか!?」
部屋に入ってすぐにオルクが大声を出した。視線は壁際の棚に向けられている。そこに大きなルビーが置かれていた。ほったらかされていたのか埃を被っている。
オルクは夢見るルビーを手に取り、布で拭いていく。
その間にアークたちは、ほかの場所と同じようにここも漁っていく。
研究結果をまとめたっぽい資料が多く出てきたのだが、メモ用紙と同じく使われている文字は魔物のもので誰にも読むことができない。
「一応持ち帰ったほうがいいのかな?」
アークは手に持った資料の束をどうすればいいのか悩む。持ち帰ったところで誰も読むことはできず、役に立たないのではと思っているのだ。
それでもなにかの役に立つかもしれないというアドバイスを受けて荷物の中に入れる。
この行動は正解だった。資料の中にはアンに行われたことや行き先が書かれていたのだ。魔物に捕まったのではという予想は当たっていた。
これらについて読み解くことができないので、なにが書かれていようが今は無意味なのだが。
ほかには合体呪文や泥人形や夢見るルビーに関してが書かれている。夢見るルビーについてはどうにもならないという結果が出ていて、だからほったらかしにされていたのだ。夢見るルビーはエルフの中でも、とある才を持つ者のみ使えるので、魔物ではどうしようもなくて当然だ。
「ほかにめぼしいものはないし帰るか。
結局王女についてはなにもわからなかったな。夢見るルビーが取り返せたことは喜ぶことができるが」
「これからエルフたちはどう動くと思う?」
カズキの問いにオルクは、夢見るルビーをしまった小袋を触りつつ答える。
「ノーヒントで探し回るだろうな。世界中を動き回れる人材は多くないし、俺も久々に旅に出ることになりそうだ。
あとはほかの場所にいる仲間も頼ってみるとかだな」
「あそこ以外にもエルフの村ってあるんですか?」
エルフの拠点は洞窟北の村だけだと思っていたアーク。
「一番の拠点の俺たちの村だが、もう一ヶ所エルフが集まっているところがある。居候って感じだがな。まあ人間は知らないだろ」
そんなところあったかとカズキは考え、竜の女王の城が思い浮かんだ。記憶が確かならばそこにもエルフはいたはずだと。
人間が知っていてはおかしい知識なので、口に出すことはしない。
「そんな場所があるんですね」
「ただ世界中を歩き回っても行けない場所だよ」
そんなことを話しつつ五人は建物を出る。
誰もリレミトを使えないので、帰りも歩きだ。階段のある通路に向かい、すぐに全員の足が止まる。
階段へと続く通路の奥は、松明の明りが届かず陰なっていて見通しがきかない。だがそこになにかいて、こちらに歩いてきているとわかる。気配を読むといったことが得意ではないカズキとアロアにさえわかるほど、圧倒的な気配の持ち主がそこにいる。
「人間とエルフ?」
陰から姿を現したのは人間のように見えるなにか。見た目は二十代の白髪で赤目の美男子。劇場で働けば、一日で多くの固定客を掴めそうなほど顔立ちが整っている。
だがカズキたちは目の前の存在を決して人間とは認めないだろう。人間が持つ雰囲気と質や濃さが根本的に違い、魔物のそれと近い。
カズキたちが今まで戦ってきた魔物とは格があまりに違う。そこにいるだけで戦意を削ぎ、体が震えだす。それほどに凶悪な気配を持っていた。これと比べたらエルフたちの敵意は、心地よい春風のようなものだ。
ここが洞窟内でなければ、五人は迷わずキメラの翼を使い逃げることを選択した。
男の視線がアークに向けられる。視線の圧力だけで、アークは実際に押されているように感じられた。
「もしかして勇者? ……俺ならこのイベントは飛ばすってのに、ここにくるなんてよほどのお人好しなんだな」
カズキを除いた全員が、目の前の存在が言っていることを理解できない。言葉が特殊というわけではない、人の使う言葉を使っている。
理解できたカズキは驚く。放たれた言葉と同じことをしようと思っていたのだ。そしてなによりイベントという言葉そのものが前世で馴染みのあるものだ。こちらにきてカズキはイベントという言葉を聞いたことがない。
目の前の存在が自分と同じなのかと思うも、恐怖で口は開かず問いかけることはできない。ただ見続けることしかできない。
そんなカズキのことを男はまったく気にしない。
「しかも研究室をぼろぼろにしてくれちゃって」
「やったのは俺たちじゃない!」
どうにか口を開いたアークに、ふーんとどうでもよさそうに相槌を返す。
「誰がやろうがどうでもいいさ。
それよりもちょうどいい機会だ。勇者がどれくらいの強さか一度試してみたかったんだ。
かかってきな、もんでやる」
男は獰猛に笑う。より濃密な気配が放たれた。カズキたちはその場に立っているだけで、体力を削られていくような錯覚を感じている。
「どうした? こないのか? ならこっちからいくぜ?」
気配に押され、動けないでいたアークに男が襲い掛かる。
男は素早く動いたわけではない。だからアークは迫ってくる拳をとっさに盾で防ぐことに成功した。だが吹っ飛ばされる。
「アーク!?」
アークが防御の上から呆気なく殴り飛ばされたことで全員は、自分たちと相手の力量差を悟る。行動を起こさねば、なにもできずに死んでいくことになると全員が動き出す。
「おおぉっ!」
「はあっ!」
グラッセとオルクが攻撃をしかける。
男は左手でグラッセの蹴りを、右手でオルクの剣を受け止める。
二人は止められたことを気にせず、ペースを気にせず攻め続ける。
男はときどき受け止めることに失敗しているが、まともに入った攻撃に顔を顰めることなく、余裕の表情で二人を相手している。
「アロア! スクルト!」
「は、はい!」
カズキはアロアに援護を頼み、アークへと近寄り薬草を使う。
「薬草だ、飲めるか?」
苦しげな様子をみせるアークの口に無理矢理薬草をねじ込む。薬草をなんとか飲み込み、アークはホイミを使いさらに自身を癒す。
とりあえず回復した様子を見て、カズキもグラッセたちに加勢するため武器を手に走り出す。
カズキが攻撃に加わっても男の余裕は変わらない。それどころかカズキは攻撃力の低さから、相手すらされていない状況だ。ならばと至近距離からのヒャドを使うが、これもたいした効果はあげない。少しだけ気にするそぶりを見せただけだ。
カズキはダメージを与えることから、足を引っ掛けたりと行動の邪魔となるような攻撃に変えて、武器を振るっていく。これは気に障ったようで、男はグラッセとオルクの攻撃を無視してカズキへと向き直り、カズキの胸倉を掴んで水路へと放り投げた。
「これでも喰らえっ!」
カズキと入れ替わるように、剣にメラを付与したアークが勢いをつけて接近し、男に剣を叩き込む。
「!?」
燃える剣を見て驚きの表情を見せた男は腕を十字に組み、初めて明確な防御体勢をとった。
男の腕にぶつかった剣は、よほど力を入れたのだろう、曲がってしまう。
それほど勢いのある攻撃を受けて男はよろめくこともしない。
カズキにステータスを見る余裕があれば、10ほどしかダメージを与えていないことがわかり、あまりの力量差に気が触れた笑いが出ていたかもしれない。
「……渾身の攻撃がこの程度、ね。防御する必要もなかった?」
男は十字を解くと、真正面にいるアークを掴み投げ飛ばす。続いてグラッセとオルクをアークのいる方向に蹴り飛ばした。
「弱い、弱いっ、弱すぎるっ! 魔法剣なんてものを使うとは思わなかったが、この鬼面童子と対等に戦うにはまだまだ力がたりない!
もっともっとだ! 力をつけろ、強くなれ! そしてまた俺と戦い、俺の糧となれっ!」
期待はずれといった表情を浮かべた男は、芝居がかった仕草をまじえて言った。
「今日は見逃してやる。だからこの程度の呪文で死ぬなよ?」
鬼面童子の指が素早く動き、呪文文字を描いていく。
「バギクロス」
置き土産としてバギ系上位の呪文を放つ。
アークを中心として鋭い刃を含んだ竜巻がいくつも発生し、アークたちを切り刻んでいく。風の刃はアークたちだけではなく、床や壁や建物も切り刻み吹き飛ばした。
血だらけになるアークを見たあと、鬼面童子はリレミトを使い去っていった。
戦いが終わり、その場で息をしているのはレベルと魔法耐性の高いオルク、余波に巻き込まれただけのカズキとアロアだ。アークとグラッセは事前に受けていたダメージもあって、バギクロスに耐えることができなかったのだ。
兄とアークの死体を見て悲鳴を上げるアロアをどうにかなだめ、カズキとグラッセは薬草を使い、帰るだけの体力を確保する。
体力と傷は回復したが、気力が底を尽きかけていた。だがここでじっとしていてもどうにもならず、なけなしの気力を振り絞り洞窟入り口を目指す。戦いなどできる状態ではないので、聖水を使い戦いは避ける。
どうにか洞窟を出た三人はキメラの翼でカザーブに飛び、教会でアークとグラッセの蘇生をしてもらう。
生き返った二人だが、三人と同じように気力が尽きかけた状態で、神父への礼もそこそこに宿を目指す。
ぼろぼろな五人に、なにごとかあったのかと驚く宿の主人になにも応えることなく、案内された部屋のベッドに倒れ込むと、すぐに夢すら見ない眠りに落ちていった。
15へ
生まれ変わってドラクエ 14前
四人はエルフに案内され、隠れ里にやってきた。
駆け落ちした女王の娘だと言われたアロアは再び顔を隠している。アンに似ていることでエルフたちが騒ぐと予想されたからで、無用な騒ぎを起こさないために隠すようエルフから頼まれたのだ。
アロアを見たエルフたちは最初は驚き戸惑っていたが、少し落ち着くと彼ら特有の判別法でもあるのか別人だと判断した。それは魔法に優れた才を持つエルフや一部の魔物にのみできる魔力を探るといったもので、アロアとアンの魔力の質の違いから別人だと断じたのだった。
しかし魔力を除けばあまりに似ているため、エルフに取り入るために変装でもしたのかと疑いを持つ。そしてそっくりに変装できるということは、本人を見たことがあるということだ。王女がどこにいるのかも知っているのではないかとアークと話していたエルフがアロアに激しく詰め寄り、アロアが怯えたことでグラッセがエルフを投げ飛ばす、といったこともあった。
険悪な雰囲気になりかけたが、そこはカズキたちと話してたエルフがとりなし、なにか事情があるのか聞く。
カズキたちとしても敵対する気はないので、アロアに起きたことを素直に話す。
それを聞いたエルフたちは離れてなにかを話し合い、なんらかの結論を出し案内すると言い出したのだった。
「敵意が心地いいとでもいえばいいのか」
お世辞にも歓迎ムードとはいえない現状が少しでも和めばいいと思いカズキは言ってみるが、たいして変化はない。
「兄さん、余裕があるね」
エルフたちが四人を見る視線は冷たいものだ。魔物から発せられる殺意とはまた違った居心地の悪さを四人は味わっている。
カズキだけは好奇心から村の中をきょろきょろと見渡していたりする。その際、エルフと視線が合うとすぐにそらされる。
美男美女が多く今のままでも目の保養になるが、どうせならば笑っているところを見たいと思いつつ歩く。
村は人間の村とたいした違いはない。木が多く、涼しげでのんびり暮らすにはいいところという感想をカズキは持つ。
村に入って二十分ほど歩くと、村で一番大きな建物に到着した。城というよりは屋敷といったところか。
「ここが女王のいるところ……」
「そうだ。勝手な言動は慎めよ」
建物を見るアークに、言い合っていたエルフは言った。
わかっているとぶっきらぼうに返答し、エルフから顔をそらす。
相性が悪いのかと人当たりのいいアークにしては珍しい態度に、カズキは内心首を傾げている。
四人は客室らしきところに案内され、しばし待つように言われる。一人残ったのは愛想のいいエルフだ。
「すまんが武器はこの部屋に置いていってもらえないか」
カズキたちは当然のこととして素直に従う。
「防具はどうしたら?」
テーブルの上に荷物と剣を置いてアークが聞く。
「そのままでいい。いちいち脱ぐのもめんどいだろ?
ま、念のために武器を隠していないか調べさせてもらうが」
カズキたちはボディチェックを受けていく。アロアだけは外套を脱いで、簡単なチェックですまされる。セクハラする気はないのだろう。女のエルフを連れてこないのは、検査に協力してくれる者がいないということとアロアの姿を無闇に見せたくないせいだ。
チェックが終わり、だしてもらったハーブティを飲んで迎えを待つ。
「……遅い、ですね」
待つには少々長い時間が流れ、アロアが不安そうな声で言う。
「話し合いが長引いているんだろうさ」
「話し合いですか?」
「アン王女の安否に繋がることだからな。これからどう動いたらいいのか真剣に話し合っているんだろう」
「どういうことですなんですか?」
「お前さんにかけられている魔法のことは知っているか?」
「モシャスに近いものじゃないかとカズキさんは言ってました」
「そうだな。俺たちもそうじゃないかと結論づけた」
ここに来る前にカズキたちから離れて行った話し合いでのことだろう。
「そのモシャスなんだが、使う際には変身対象のことをよく知っているか、そばにいるかしないと使えない。
お前さんが魔法をかけられたときは王女はそばにいなかったんだろう?」
アロアは頷き、そのとき近くにいたグラッセも頷く。
「だとしたら魔物たちは王女のことをよく知っていたということになる。
つまり王女は駆け落ちした後魔物に捕らえられたかもしれない、と考えられる」
またしても変化が起きているのかと、カズキの心拍数が上がる。
エルフの話に納得はできるのだ。
駆け落ちしたのが十年以上前のこと。ゲームの中では二人は心中していたが、カズキの予想では心中は駆け落ちしてすぐに行われた。あの洞窟は魔物がいて暮らすのに適した場所ではないし、生きるならばそのような危険場所ではなく別の土地に向かうだろう。
つまりすぐに心中したのならば、五年前にアロアが変身させられるのは無理なのだ。
だが魔物たちはモシャスを使用できた。それはエルフの言うようにアンのことを見知っていたからなのだろう。
今は死んでいるとしても少なくとも五年前まではアンは生きていて、魔物に捕らえられていた。それはカズキの知っている展開とは違う。
どうして流れが変わったのかと考えていると、謁見準備が整ったか五人を呼びにきた。話はそこで中断され、全員部屋を出る。
案内され大広間に入ると、少人数のエルフと玉座に座る女王がいた。待っていたエルフたちの目つきは険しい。少人数なのは、人間を見るのも嫌なエルフが多かったからなのだろうか。
「アロアと言うのでしたね、外套を取りなさい」
口を開いたと思った女王はいきなり命じてくる。声は思わず聞きほれそうな綺麗な音だが、温かみはない。
アロアは威圧感に押され、おずおずと外套を脱ぐ。
現れた姿に女王と側近は目を見開いた。
「アン」
先ほどの冷たさを感じさせない懐かしさの篭った声と感情に揺れた瞳で、女王はアロアを見る。だがそれも一瞬ですぐに元に戻る。
「魔力の質が同じならばアンだと信じたでしょうね。
ですがここまで似ているならば、魔物と共にいるという話に信憑性は出てきますか。
いつまでその姿を晒しているのです。人間などに娘の姿を真似られるなど不快極まりない。さっさと外套をまといなさい」
「その言い方はないだろ! アロアだってこうなりたくてなったわけじゃない!」
アロアを貶すような言葉にグラッセが怒鳴る。大事な妹を貶され黙っていられるような男ではないのだ。
カズキもアークも女王の発言にはむっとしている。アロアは言葉に込められた感情の重さに怯えている。ここまで強い感情は向けられたことはないのだ。
「誰が発言を許しました? 精霊に選ばれし者ならばともかく、ただの人間が気安く言葉を向けるでない!」
「くっ」
民を率いる者としての威厳と人間への嫌悪感を同時に放つ女王の迫力に、グラッセは気圧される。
なにも言い返せないグラッセから興味をなくし女王は視線をアークへと向ける。
「アークというそうですね? あなたの願いはノアニールの解放だとか。私にそのつもりはありません。このまま立ち去り、二度と姿を見せないでください」
明確な拒絶の言葉にアークもたじろぐが、なんとか口を開き解放を願う。
だが女王の態度は変わらない。
ならばと伝える気のなかった駆け落ちした男の父親の言葉を伝える。
「人間の命など差し出されても迷惑なだけ、死にたいのならばいずこででも勝手に朽ち果てるといいわ」
「それはないだろ! あの人にはなんの落ち度もないはずだ! それなのにあんたの八つ当たりに巻き込まれた人々を見続けて責任を感じて、解決のためなら命までかけるといってるのに!」
「罪ならばあの男の親、それだけで十分!」
アークと女王の言い合いは、感情と感情のぶつけ合いになっている。
統治者である女王としては常に冷静でいるべきなのだろうが、娘がいなくなってから人間に関連することは親としての想いが表に出てしまい感情的になりやすくなってしまうのだ。
それほどまでに娘を愛しているということか。
「親であることが罪とかふざけるな!
だいたい駆け落ちしようと言い出したのは、あんたの娘かもしれないだろうが!」
「森の外を知らないあの子にそのような発想はできないわ」
「どうだか! こうなったら、あんたの娘を探し出して直接聞き出してやる!
頭を下げる練習でもしてるんだな!」
アークは女王に背を向け大広間を出て行く。グラッセもアロアの手をとってアークのあとを追う。
一人残ったカズキに視線が集まる。物理的な圧力すら持ちそうなきつい視線に気圧されつつカズキは口を開く。
アークの暴走ともいえる状態を見て、カズキは落ち着いた。一緒に感情に任せた行動をとるとフォローできなくなる、といった考えが頭に浮かんだのだ。
それにここで一緒に帰ってしまうと、アンをみつけてもただ働きになってしまう可能性がある。
「あーなんというか思いがけず娘さん探すことになったけど、もし見つけたらノアニールの魔法解いてもらえます?」
「お前たちに見つけることができるのか?」
馬鹿にしたように側近の一人が問いかけてくる。
「あんたらよりは確率高いと踏んでるよ。
なにせこっちは魔王に敵対する勇者がいるんだ。今後もアークは勇者として行動し、名を広げていくだろうさ。そんなアークの命を狙い魔物が集まってくる。その会った魔物の中に高位の奴もいるかもしれないし、そいつから情報を聞きだせるかもしれない。
黙ってても魔物が近づいてくるこっちと比べて、そっちはどうだ? 情報を持っていそうな地位の高い魔物を探し出すところからやらなきゃいけないだろ?
あんたらも魔王とことを構えてみるか? そうすれば魔物たちがエルフ排除に集まってくるだろうが、人間に比べて数の少ないエルフがどこまで抵抗できるんだろうな?」
外見上は落ち着いているように見えるが、内心緊張で心臓をバクバクとさせながらカズキは話している。
戦闘能力の一番低い自分がどうしてアウェーで一人ではったりを混ぜて交渉してるんだろう、という考えからは必死に意識を逸らしている。
「我らエルフは皆優れた魔法使いだ。例え魔物が多くとも、物の数ではないわ!」
「戦争は数だと誰かが言ってたぞ? それにここに攻め込まれて森に囲まれていて火でも放たれれば、すぐに混乱して実力を発揮できなさそうだけどな?
そこでノアニールを解放してくれると約束するなら、アークを説得して娘さんをここに連れてこよう」
「どういうことかしら?」
「アークはさ、娘さんをみつけて真相を聞きだすとしか言ってない。みつけてもここに連れてくるとは一言も言ってない。むしろあんたたちが探していることを告げて隠れるように助言するかもしれない」
実際は一度くらいは帰るように言うのだろうと予想している。生きて発見できたらの話だが。
エルフたちはざわりと揺れた。
今でさえみつけることができていないのに、隠れられたらもうお手上げだ。
先ほどの説明で、エルフたちよりもカズキたちのほうがアンをみつけやすいと考えが誘導されている。実際のところはったりで、カズキも確率とかどうなるのかわかっていないのだが。
「いいでしょう。娘をここに連れ戻してきたときノアニールにかけた魔法を解きましょう」
冷静になったのかアークたちを利用する方が、アンをみつやすいと判断できたのだろう。
「約束を違えることない女王としての言葉と受け取っても?」
「かまいません」
「交渉成立ですね。それでは失礼いたします」
アンが死んでいたり、みつけることができないとノアニールの人間は眠りっぱなしなのだが、そのときはもう諦めてもらうしかないとカズキは思っている。それ以上カズキにはできることはないのだ。あとはロマリアの魔法使いが解呪の研究を成功させることを祈るだけとなる。
一礼し、女王に背を向ける。こんなところからはさっさとおさらばと足早に大広間から出て行く。そのあとを愛想のいいエルフが追った。
「おーい、ちょっと待ってくれ」
「はいな?」
カズキは足を止め振り返る。
「部屋わかるのか?」
「一応覚えてますよ」
「そうか。でも案内としてついていこう。人間が一人で歩いていると怪しまれるからな」
「えっと、ありがとうございます」
「お前さんたちはこれからどう動く?」
カズキの隣を歩きつつ、今後の予定を問いかける。
「アークたちと相談して決めることになりますね。でも俺としては南にあるという洞窟に行ってみたい。
魔物がいるとはいえ隠れるのにちょうどいい場所だから、そこに一時的にでも滞在した可能性がある。なんらかの痕跡が残っているかも」
流れが変わっていてもなんらかのヒントはあるかもしれないので、カズキはそこに行ってみたかった。
「そうか、それならばちょうどいい。俺もそこに行きたかったんだ。共に行ってくれるように頼むつもりだった」
「なにか理由でも?」
「あそこは王女のお気に入りの場所だったのさ」
「お気に入りって危ない場所なんじゃ? 魔物がいるって聞きましたよ」
「危なくなったのは、二十年近く前からだ。その前も魔物や獣はいたが、聖水を使えば安全に行ける場所だった。
あの洞窟には、傷を癒し魔力を回復させる場があってな。昔は俺たちもよく使っていたんだ。
王となる者はそこで身を清めるなんて風習もある。今は危険ということで侵入を禁じられているがな」
「そうなんですか。そこまでは知らなかったです」
ゲームでは知りようのない話にカズキは面白みを感じている。
「知っていたら驚きだ。
とにかくあそこは王女のお気に入りだから、なにか情報があるかもしれないってことだ」
話しているうちに客室に到着する。
扉を開けると、武器を帯び、荷物も持って準備を整えた三人がカズキを待っていた。
「兄さん! 遅いから心配したよ!」
「ごめんごめん、ちょっとした話をしてただけ。
南の洞窟に王女の足取りを掴める情報があるかもしれないらしい、次の目的地はそこに行きたいんだけどどう?」
「俺はそこでいいよ。特に目的地とか決めてなかったし」
グラッセとアロアも頷いて同意する。
「じゃ、少し待っててくれ、俺も出る準備を整えてくる」
「わかりました」
エルフは走って部屋を出て行く。
その様子を見てアークは首を傾げる。
「あの人もついてくるの?」
「あの人も南の洞窟に行きたかったらしいよ。王女のお気に入りの場所だったって情報をくれたし。
嫌なのか?」
「うぅ、女王にああいう態度だった手前、顔を合わせづらい」
「俺はエルフって種族が嫌いになりそうだ」
これまで碌なエルフに対して記憶がないグラッセは、同行に不満そうだ。
「まあ同行するのも少しの間だし我慢してくれ。
洞窟に行ったことがあるようで、道案内には持ってこいだしね。
それにあの人は中々の変り種だから、強く責めるようなことは言わないと思うな。話題にしなければ普通に接してくれんじゃないか?」
「そうだといいなぁ」
少しして戻ってきたエルフと共に四人は村を出る。
洞窟まで約二日の行程だった。その間にカズキとオルクは打ち解けていた。オルクというのが同行しているエルフの名前だ。
最初ほかの三人はオルクへと態度がぎこちなかった。それにオルクは気にする様子を見せず、文句も言わない。そのおかげか洞窟に到着した頃にはぎこちなさは消えて、差し当たりのない関係を保つことができるようになっていた。だが思うところはあるようで、カズキのように打ち解けることはなかったのだが。
「ここが目的の洞窟だ。地下四階からなる洞窟で、地下二階に回復の場がある」
入り口近くの地面には、最近のものらしい何者かが歩いた跡がある。エルフのものではなく、人間もここにくるのは難しいので、十中八九魔物のものだろう。
「どこが王女のお気に入りだったか知ってるのか?」
グラッセの問いにオルクは首を横に振る。
「ここがお気に入りということ以外、詳しいことは聞いてない」
「そっか。じゃあそれっぽいところに心当たりは?」
「最下層かもしれん。最下層には地底湖があってな、王女は天井や壁にはりついたヒカリゴケの反射が綺麗だと言っていた」
「じゃあ、一度最下層まで一直線に降りて、そこにヒントがなければ探索しながら上がっていくって感じでいいかな?」
アークの言葉に全員が頷く。
松明に火をつけて五人は洞窟に入っていく。
オルクが一度隅々まで探索しているので、迷うことなく進むことができる。
出てくる魔物もなんなく倒すことができている。四人でも苦戦しないところに、四人よりもレベルが10上のオルクがいるのだから当然だ。
だが問題がなにもないというわけではなかった。問題というかカズキだけが感じた戸惑いだ。
それはほかの魔物と同じように戦い、問題なく倒すことができた魔物に感じたものだ。
一目見てカズキの胸中に疑惑が広がった。そこにいたのは泥人形だ。
ドラクエ3に泥人形はいないはずなのだ。カズキが覚えているかぎりでは一度たりとも出てきていない。なのに目の前にいる、どういうことなのかと考え動きに精彩を欠き、余計な怪我を負う始末だ。
そのぎこちなさをアークに指摘されたが、足が滑っただけとその場は誤魔化した。
洞窟を進みながらカズキは考え続け、一つの推測が頭に浮かぶ。ここがドラクエ3によく似た、ドラクエ3とは違う世界なのではということ。それならば今までにもあった違いに納得がいくのだ。
カズキには思い至らなかった。自分以外に転生した者がいることを。ゲームの世界に転生すること事態が珍しすぎる現象なのだから、ほかに転生した者がいて世界に影響を与えていることなど、初めから考えるに値しないと思考から外していたのだ。
別にどのように考え結論付けようがカズキの勝手だ。それによってすでに起きていることが変わることなどない。事態はカズキが生まれてくる前から動き出していたのだから。その結果の一つが、存在し得ないはずの魔物がいることだ。そして最下層でさらなる変化を身をもって知ることになる。
「ここが最下層?」
アロアが疑問の声を上げる。ほかの四人も同じように疑問を感じているのだろう、表情にでている。
オルクの話では地底湖のはずの最下層は、水面よりも床の面積のほうが大きく、湖というよりは部屋の端を走る水路といったほうがいい。魔物たちが埋め立て床を広げたのだろう。アンが綺麗といっていた面影はどこにもない。
変わったのは湖だけではない。ここまでの階層にはなかった、建築物もあるのだ。こちらも魔物の手によるものだろう。
「どうなってんだ!? 昔とまったく違うぞっ!?」
驚きを隠しきれず、思わず大きな声を出したオルク。その声は魔物たちの注目を集めることとなる。
ここにくるまでにアークたちは侵入を知らせないといった気遣いはしていない。よって魔物たちは重要箇所に集まり警戒態勢に入っていた。
その重要箇所はここだ。数はざっと五十。その全部がカズキたちに向かい動き出す。
「アロア! イオをできるだけ連発して!」
接近戦に入る前に数を減らすためアークは指示を飛ばす。
アロアは急いでイオを使う。爆発の範囲内にいた魔物たちが体勢を崩す。だがこの一撃で倒れるほど軟弱ではなかった。
爆発に続き、朱色の閃熱が魔物たちに襲い掛かる。ギラ以上の閃熱、ベギラマだ。
「魔法はあまり得意じゃないが、これでも足しにはなるだろ」
手を突き出しオルクが言った。
さらにカズキがヒャドを使い、もう一度アロアがイオを使ったところで、魔物たちはカズキたちの近くまで到達する。
アロアとオルクの魔法により、二十匹は倒れ、残りも傷を負っているものがいて、無傷なものは少なくなっている。
「俺とグラッセとオルクさんは突撃! 兄さんはアロアの護衛!」
そう言ってアークは魔物たちに突っ込んでいく。グラッセとオルクもそのあとに続いた。それを見てアロアはスクルトを使う。
アークたちは魔物の反撃を気にせず、武器を振るっていく。一振り二振りで魔物は倒れていくので、速攻で倒していったほうが戦闘が早く終わり怪我も少なくなると判断したのだ。
カズキとアロアは戦っている三人に当てないよう、離れた位置にいる魔物へとメラやヒャドを飛ばしていく。
14後へ
駆け落ちした女王の娘だと言われたアロアは再び顔を隠している。アンに似ていることでエルフたちが騒ぐと予想されたからで、無用な騒ぎを起こさないために隠すようエルフから頼まれたのだ。
アロアを見たエルフたちは最初は驚き戸惑っていたが、少し落ち着くと彼ら特有の判別法でもあるのか別人だと判断した。それは魔法に優れた才を持つエルフや一部の魔物にのみできる魔力を探るといったもので、アロアとアンの魔力の質の違いから別人だと断じたのだった。
しかし魔力を除けばあまりに似ているため、エルフに取り入るために変装でもしたのかと疑いを持つ。そしてそっくりに変装できるということは、本人を見たことがあるということだ。王女がどこにいるのかも知っているのではないかとアークと話していたエルフがアロアに激しく詰め寄り、アロアが怯えたことでグラッセがエルフを投げ飛ばす、といったこともあった。
険悪な雰囲気になりかけたが、そこはカズキたちと話してたエルフがとりなし、なにか事情があるのか聞く。
カズキたちとしても敵対する気はないので、アロアに起きたことを素直に話す。
それを聞いたエルフたちは離れてなにかを話し合い、なんらかの結論を出し案内すると言い出したのだった。
「敵意が心地いいとでもいえばいいのか」
お世辞にも歓迎ムードとはいえない現状が少しでも和めばいいと思いカズキは言ってみるが、たいして変化はない。
「兄さん、余裕があるね」
エルフたちが四人を見る視線は冷たいものだ。魔物から発せられる殺意とはまた違った居心地の悪さを四人は味わっている。
カズキだけは好奇心から村の中をきょろきょろと見渡していたりする。その際、エルフと視線が合うとすぐにそらされる。
美男美女が多く今のままでも目の保養になるが、どうせならば笑っているところを見たいと思いつつ歩く。
村は人間の村とたいした違いはない。木が多く、涼しげでのんびり暮らすにはいいところという感想をカズキは持つ。
村に入って二十分ほど歩くと、村で一番大きな建物に到着した。城というよりは屋敷といったところか。
「ここが女王のいるところ……」
「そうだ。勝手な言動は慎めよ」
建物を見るアークに、言い合っていたエルフは言った。
わかっているとぶっきらぼうに返答し、エルフから顔をそらす。
相性が悪いのかと人当たりのいいアークにしては珍しい態度に、カズキは内心首を傾げている。
四人は客室らしきところに案内され、しばし待つように言われる。一人残ったのは愛想のいいエルフだ。
「すまんが武器はこの部屋に置いていってもらえないか」
カズキたちは当然のこととして素直に従う。
「防具はどうしたら?」
テーブルの上に荷物と剣を置いてアークが聞く。
「そのままでいい。いちいち脱ぐのもめんどいだろ?
ま、念のために武器を隠していないか調べさせてもらうが」
カズキたちはボディチェックを受けていく。アロアだけは外套を脱いで、簡単なチェックですまされる。セクハラする気はないのだろう。女のエルフを連れてこないのは、検査に協力してくれる者がいないということとアロアの姿を無闇に見せたくないせいだ。
チェックが終わり、だしてもらったハーブティを飲んで迎えを待つ。
「……遅い、ですね」
待つには少々長い時間が流れ、アロアが不安そうな声で言う。
「話し合いが長引いているんだろうさ」
「話し合いですか?」
「アン王女の安否に繋がることだからな。これからどう動いたらいいのか真剣に話し合っているんだろう」
「どういうことですなんですか?」
「お前さんにかけられている魔法のことは知っているか?」
「モシャスに近いものじゃないかとカズキさんは言ってました」
「そうだな。俺たちもそうじゃないかと結論づけた」
ここに来る前にカズキたちから離れて行った話し合いでのことだろう。
「そのモシャスなんだが、使う際には変身対象のことをよく知っているか、そばにいるかしないと使えない。
お前さんが魔法をかけられたときは王女はそばにいなかったんだろう?」
アロアは頷き、そのとき近くにいたグラッセも頷く。
「だとしたら魔物たちは王女のことをよく知っていたということになる。
つまり王女は駆け落ちした後魔物に捕らえられたかもしれない、と考えられる」
またしても変化が起きているのかと、カズキの心拍数が上がる。
エルフの話に納得はできるのだ。
駆け落ちしたのが十年以上前のこと。ゲームの中では二人は心中していたが、カズキの予想では心中は駆け落ちしてすぐに行われた。あの洞窟は魔物がいて暮らすのに適した場所ではないし、生きるならばそのような危険場所ではなく別の土地に向かうだろう。
つまりすぐに心中したのならば、五年前にアロアが変身させられるのは無理なのだ。
だが魔物たちはモシャスを使用できた。それはエルフの言うようにアンのことを見知っていたからなのだろう。
今は死んでいるとしても少なくとも五年前まではアンは生きていて、魔物に捕らえられていた。それはカズキの知っている展開とは違う。
どうして流れが変わったのかと考えていると、謁見準備が整ったか五人を呼びにきた。話はそこで中断され、全員部屋を出る。
案内され大広間に入ると、少人数のエルフと玉座に座る女王がいた。待っていたエルフたちの目つきは険しい。少人数なのは、人間を見るのも嫌なエルフが多かったからなのだろうか。
「アロアと言うのでしたね、外套を取りなさい」
口を開いたと思った女王はいきなり命じてくる。声は思わず聞きほれそうな綺麗な音だが、温かみはない。
アロアは威圧感に押され、おずおずと外套を脱ぐ。
現れた姿に女王と側近は目を見開いた。
「アン」
先ほどの冷たさを感じさせない懐かしさの篭った声と感情に揺れた瞳で、女王はアロアを見る。だがそれも一瞬ですぐに元に戻る。
「魔力の質が同じならばアンだと信じたでしょうね。
ですがここまで似ているならば、魔物と共にいるという話に信憑性は出てきますか。
いつまでその姿を晒しているのです。人間などに娘の姿を真似られるなど不快極まりない。さっさと外套をまといなさい」
「その言い方はないだろ! アロアだってこうなりたくてなったわけじゃない!」
アロアを貶すような言葉にグラッセが怒鳴る。大事な妹を貶され黙っていられるような男ではないのだ。
カズキもアークも女王の発言にはむっとしている。アロアは言葉に込められた感情の重さに怯えている。ここまで強い感情は向けられたことはないのだ。
「誰が発言を許しました? 精霊に選ばれし者ならばともかく、ただの人間が気安く言葉を向けるでない!」
「くっ」
民を率いる者としての威厳と人間への嫌悪感を同時に放つ女王の迫力に、グラッセは気圧される。
なにも言い返せないグラッセから興味をなくし女王は視線をアークへと向ける。
「アークというそうですね? あなたの願いはノアニールの解放だとか。私にそのつもりはありません。このまま立ち去り、二度と姿を見せないでください」
明確な拒絶の言葉にアークもたじろぐが、なんとか口を開き解放を願う。
だが女王の態度は変わらない。
ならばと伝える気のなかった駆け落ちした男の父親の言葉を伝える。
「人間の命など差し出されても迷惑なだけ、死にたいのならばいずこででも勝手に朽ち果てるといいわ」
「それはないだろ! あの人にはなんの落ち度もないはずだ! それなのにあんたの八つ当たりに巻き込まれた人々を見続けて責任を感じて、解決のためなら命までかけるといってるのに!」
「罪ならばあの男の親、それだけで十分!」
アークと女王の言い合いは、感情と感情のぶつけ合いになっている。
統治者である女王としては常に冷静でいるべきなのだろうが、娘がいなくなってから人間に関連することは親としての想いが表に出てしまい感情的になりやすくなってしまうのだ。
それほどまでに娘を愛しているということか。
「親であることが罪とかふざけるな!
だいたい駆け落ちしようと言い出したのは、あんたの娘かもしれないだろうが!」
「森の外を知らないあの子にそのような発想はできないわ」
「どうだか! こうなったら、あんたの娘を探し出して直接聞き出してやる!
頭を下げる練習でもしてるんだな!」
アークは女王に背を向け大広間を出て行く。グラッセもアロアの手をとってアークのあとを追う。
一人残ったカズキに視線が集まる。物理的な圧力すら持ちそうなきつい視線に気圧されつつカズキは口を開く。
アークの暴走ともいえる状態を見て、カズキは落ち着いた。一緒に感情に任せた行動をとるとフォローできなくなる、といった考えが頭に浮かんだのだ。
それにここで一緒に帰ってしまうと、アンをみつけてもただ働きになってしまう可能性がある。
「あーなんというか思いがけず娘さん探すことになったけど、もし見つけたらノアニールの魔法解いてもらえます?」
「お前たちに見つけることができるのか?」
馬鹿にしたように側近の一人が問いかけてくる。
「あんたらよりは確率高いと踏んでるよ。
なにせこっちは魔王に敵対する勇者がいるんだ。今後もアークは勇者として行動し、名を広げていくだろうさ。そんなアークの命を狙い魔物が集まってくる。その会った魔物の中に高位の奴もいるかもしれないし、そいつから情報を聞きだせるかもしれない。
黙ってても魔物が近づいてくるこっちと比べて、そっちはどうだ? 情報を持っていそうな地位の高い魔物を探し出すところからやらなきゃいけないだろ?
あんたらも魔王とことを構えてみるか? そうすれば魔物たちがエルフ排除に集まってくるだろうが、人間に比べて数の少ないエルフがどこまで抵抗できるんだろうな?」
外見上は落ち着いているように見えるが、内心緊張で心臓をバクバクとさせながらカズキは話している。
戦闘能力の一番低い自分がどうしてアウェーで一人ではったりを混ぜて交渉してるんだろう、という考えからは必死に意識を逸らしている。
「我らエルフは皆優れた魔法使いだ。例え魔物が多くとも、物の数ではないわ!」
「戦争は数だと誰かが言ってたぞ? それにここに攻め込まれて森に囲まれていて火でも放たれれば、すぐに混乱して実力を発揮できなさそうだけどな?
そこでノアニールを解放してくれると約束するなら、アークを説得して娘さんをここに連れてこよう」
「どういうことかしら?」
「アークはさ、娘さんをみつけて真相を聞きだすとしか言ってない。みつけてもここに連れてくるとは一言も言ってない。むしろあんたたちが探していることを告げて隠れるように助言するかもしれない」
実際は一度くらいは帰るように言うのだろうと予想している。生きて発見できたらの話だが。
エルフたちはざわりと揺れた。
今でさえみつけることができていないのに、隠れられたらもうお手上げだ。
先ほどの説明で、エルフたちよりもカズキたちのほうがアンをみつけやすいと考えが誘導されている。実際のところはったりで、カズキも確率とかどうなるのかわかっていないのだが。
「いいでしょう。娘をここに連れ戻してきたときノアニールにかけた魔法を解きましょう」
冷静になったのかアークたちを利用する方が、アンをみつやすいと判断できたのだろう。
「約束を違えることない女王としての言葉と受け取っても?」
「かまいません」
「交渉成立ですね。それでは失礼いたします」
アンが死んでいたり、みつけることができないとノアニールの人間は眠りっぱなしなのだが、そのときはもう諦めてもらうしかないとカズキは思っている。それ以上カズキにはできることはないのだ。あとはロマリアの魔法使いが解呪の研究を成功させることを祈るだけとなる。
一礼し、女王に背を向ける。こんなところからはさっさとおさらばと足早に大広間から出て行く。そのあとを愛想のいいエルフが追った。
「おーい、ちょっと待ってくれ」
「はいな?」
カズキは足を止め振り返る。
「部屋わかるのか?」
「一応覚えてますよ」
「そうか。でも案内としてついていこう。人間が一人で歩いていると怪しまれるからな」
「えっと、ありがとうございます」
「お前さんたちはこれからどう動く?」
カズキの隣を歩きつつ、今後の予定を問いかける。
「アークたちと相談して決めることになりますね。でも俺としては南にあるという洞窟に行ってみたい。
魔物がいるとはいえ隠れるのにちょうどいい場所だから、そこに一時的にでも滞在した可能性がある。なんらかの痕跡が残っているかも」
流れが変わっていてもなんらかのヒントはあるかもしれないので、カズキはそこに行ってみたかった。
「そうか、それならばちょうどいい。俺もそこに行きたかったんだ。共に行ってくれるように頼むつもりだった」
「なにか理由でも?」
「あそこは王女のお気に入りの場所だったのさ」
「お気に入りって危ない場所なんじゃ? 魔物がいるって聞きましたよ」
「危なくなったのは、二十年近く前からだ。その前も魔物や獣はいたが、聖水を使えば安全に行ける場所だった。
あの洞窟には、傷を癒し魔力を回復させる場があってな。昔は俺たちもよく使っていたんだ。
王となる者はそこで身を清めるなんて風習もある。今は危険ということで侵入を禁じられているがな」
「そうなんですか。そこまでは知らなかったです」
ゲームでは知りようのない話にカズキは面白みを感じている。
「知っていたら驚きだ。
とにかくあそこは王女のお気に入りだから、なにか情報があるかもしれないってことだ」
話しているうちに客室に到着する。
扉を開けると、武器を帯び、荷物も持って準備を整えた三人がカズキを待っていた。
「兄さん! 遅いから心配したよ!」
「ごめんごめん、ちょっとした話をしてただけ。
南の洞窟に王女の足取りを掴める情報があるかもしれないらしい、次の目的地はそこに行きたいんだけどどう?」
「俺はそこでいいよ。特に目的地とか決めてなかったし」
グラッセとアロアも頷いて同意する。
「じゃ、少し待っててくれ、俺も出る準備を整えてくる」
「わかりました」
エルフは走って部屋を出て行く。
その様子を見てアークは首を傾げる。
「あの人もついてくるの?」
「あの人も南の洞窟に行きたかったらしいよ。王女のお気に入りの場所だったって情報をくれたし。
嫌なのか?」
「うぅ、女王にああいう態度だった手前、顔を合わせづらい」
「俺はエルフって種族が嫌いになりそうだ」
これまで碌なエルフに対して記憶がないグラッセは、同行に不満そうだ。
「まあ同行するのも少しの間だし我慢してくれ。
洞窟に行ったことがあるようで、道案内には持ってこいだしね。
それにあの人は中々の変り種だから、強く責めるようなことは言わないと思うな。話題にしなければ普通に接してくれんじゃないか?」
「そうだといいなぁ」
少しして戻ってきたエルフと共に四人は村を出る。
洞窟まで約二日の行程だった。その間にカズキとオルクは打ち解けていた。オルクというのが同行しているエルフの名前だ。
最初ほかの三人はオルクへと態度がぎこちなかった。それにオルクは気にする様子を見せず、文句も言わない。そのおかげか洞窟に到着した頃にはぎこちなさは消えて、差し当たりのない関係を保つことができるようになっていた。だが思うところはあるようで、カズキのように打ち解けることはなかったのだが。
「ここが目的の洞窟だ。地下四階からなる洞窟で、地下二階に回復の場がある」
入り口近くの地面には、最近のものらしい何者かが歩いた跡がある。エルフのものではなく、人間もここにくるのは難しいので、十中八九魔物のものだろう。
「どこが王女のお気に入りだったか知ってるのか?」
グラッセの問いにオルクは首を横に振る。
「ここがお気に入りということ以外、詳しいことは聞いてない」
「そっか。じゃあそれっぽいところに心当たりは?」
「最下層かもしれん。最下層には地底湖があってな、王女は天井や壁にはりついたヒカリゴケの反射が綺麗だと言っていた」
「じゃあ、一度最下層まで一直線に降りて、そこにヒントがなければ探索しながら上がっていくって感じでいいかな?」
アークの言葉に全員が頷く。
松明に火をつけて五人は洞窟に入っていく。
オルクが一度隅々まで探索しているので、迷うことなく進むことができる。
出てくる魔物もなんなく倒すことができている。四人でも苦戦しないところに、四人よりもレベルが10上のオルクがいるのだから当然だ。
だが問題がなにもないというわけではなかった。問題というかカズキだけが感じた戸惑いだ。
それはほかの魔物と同じように戦い、問題なく倒すことができた魔物に感じたものだ。
一目見てカズキの胸中に疑惑が広がった。そこにいたのは泥人形だ。
ドラクエ3に泥人形はいないはずなのだ。カズキが覚えているかぎりでは一度たりとも出てきていない。なのに目の前にいる、どういうことなのかと考え動きに精彩を欠き、余計な怪我を負う始末だ。
そのぎこちなさをアークに指摘されたが、足が滑っただけとその場は誤魔化した。
洞窟を進みながらカズキは考え続け、一つの推測が頭に浮かぶ。ここがドラクエ3によく似た、ドラクエ3とは違う世界なのではということ。それならば今までにもあった違いに納得がいくのだ。
カズキには思い至らなかった。自分以外に転生した者がいることを。ゲームの世界に転生すること事態が珍しすぎる現象なのだから、ほかに転生した者がいて世界に影響を与えていることなど、初めから考えるに値しないと思考から外していたのだ。
別にどのように考え結論付けようがカズキの勝手だ。それによってすでに起きていることが変わることなどない。事態はカズキが生まれてくる前から動き出していたのだから。その結果の一つが、存在し得ないはずの魔物がいることだ。そして最下層でさらなる変化を身をもって知ることになる。
「ここが最下層?」
アロアが疑問の声を上げる。ほかの四人も同じように疑問を感じているのだろう、表情にでている。
オルクの話では地底湖のはずの最下層は、水面よりも床の面積のほうが大きく、湖というよりは部屋の端を走る水路といったほうがいい。魔物たちが埋め立て床を広げたのだろう。アンが綺麗といっていた面影はどこにもない。
変わったのは湖だけではない。ここまでの階層にはなかった、建築物もあるのだ。こちらも魔物の手によるものだろう。
「どうなってんだ!? 昔とまったく違うぞっ!?」
驚きを隠しきれず、思わず大きな声を出したオルク。その声は魔物たちの注目を集めることとなる。
ここにくるまでにアークたちは侵入を知らせないといった気遣いはしていない。よって魔物たちは重要箇所に集まり警戒態勢に入っていた。
その重要箇所はここだ。数はざっと五十。その全部がカズキたちに向かい動き出す。
「アロア! イオをできるだけ連発して!」
接近戦に入る前に数を減らすためアークは指示を飛ばす。
アロアは急いでイオを使う。爆発の範囲内にいた魔物たちが体勢を崩す。だがこの一撃で倒れるほど軟弱ではなかった。
爆発に続き、朱色の閃熱が魔物たちに襲い掛かる。ギラ以上の閃熱、ベギラマだ。
「魔法はあまり得意じゃないが、これでも足しにはなるだろ」
手を突き出しオルクが言った。
さらにカズキがヒャドを使い、もう一度アロアがイオを使ったところで、魔物たちはカズキたちの近くまで到達する。
アロアとオルクの魔法により、二十匹は倒れ、残りも傷を負っているものがいて、無傷なものは少なくなっている。
「俺とグラッセとオルクさんは突撃! 兄さんはアロアの護衛!」
そう言ってアークは魔物たちに突っ込んでいく。グラッセとオルクもそのあとに続いた。それを見てアロアはスクルトを使う。
アークたちは魔物の反撃を気にせず、武器を振るっていく。一振り二振りで魔物は倒れていくので、速攻で倒していったほうが戦闘が早く終わり怪我も少なくなると判断したのだ。
カズキとアロアは戦っている三人に当てないよう、離れた位置にいる魔物へとメラやヒャドを飛ばしていく。
14後へ
2010年03月01日
生まれ変わってドラクエ 13
ノアニールのすぐそばに、年季の入ったテントがいくつか並んでいる。仮設として建てたテントだが、当初の予想を裏切って十年以上ここに設置され続けている。
テントを使っているのは、ノアニール護衛に派遣されたロマリア兵たちだ。護衛全員がテント暮らししているわけではなく、護衛でも街中を警備している兵は宿などを使っている。外のテントは街周辺担当兵の一時休憩や仮眠に使われているのだ。
「街に入るには兵の許可をもらわないといけないんだ。顔見知りがいるから問題なく入れるよ」
何度もここにきているグラッセが先導する。兵たちもグラッセのことを覚えているようで、軽く挨拶してくる。
グラッセは挨拶ついでに警備リーダーは誰か聞く。
返ってきた人物の名前に覚えのあったグラッセはその人物を探し、街に入る許可をもらう。信用を得ているおかげか、すぐに許可が下りた。
勝手に入れず許可制なのは、盗人対策だ。ここにいるロマリア兵は魔物の相手だけではなく、ノアニール住民の財産目当ての人間の相手もしているのだ。
「しかし目的のための本はすでにみつけたんだろ? いまさら用事はないんじゃないのか?」
四十代ほどの兵士がパイプに火を入れつつ聞く。
「今日はそっちの用事できたんじゃないんだ。この街のことを被害を受けずにすんだ住人に聞きたくて」
「ほー問題解決のためにきたのかい? そういう依頼でも受けたのか?」
「いや、こいつがなにかやれないかって」
グラッセはアークを引っ張り、兵の前に立たせる。
兵はアークを見て、目を見開いた。
「……オルテガ様? いや若すぎる。もしかしてオルテガ様の息子さんか?」
「父のことを知ってるんですか?」
「やっぱり息子さんか。オルテガ様の若かりし頃にどことなく似ている。
オルテガ様のことは詳しくは知らない。二度遠くから見た程度だ」
「そうですか」
「それにしてもオルテガ様の息子か。俺たちにはどうにもできなかったが、あんたにならどうにかできるかもしれんな。そう思わせるだけの雰囲気がある」
「まだまだですよ、こいつは。大きなものを背負うにはもう少し時間がほしいところです」
アークをプレッシャーや過度の期待から守ろうと、カズキは言う。その言葉がどれくらい効果があるかわからないし、そもそも効果があるのかもわからない。さらには余計なお世話かもしれない。
それでも戦闘面では立たない自分の役割は、こういったメンタル面でのフォローや雑用だと思っているので、言わずにはいられない。
アークは期待をかけられれば、応えるだろう。無茶なものでも無理して応えそうだ。しかし中には勇者ではなくともできることがあるだろう。そんなものまで背負う必要はないとカズキは思っている。
なにもかも背負うといつか潰れる。潰れずとも負担になる。そうなればアークの目的である魔王討伐に支障がでてくる。
魔王を倒せない勇者に世間はどんな反応を見せるのか。いいものではないはずだ。
アークをそんな目にあわせたくないとカズキは考えている。だからアークの目的達成に支障がないようにフォローに回るのだ。
「……勇者とはいえ見たところいまだ十代半ば。大人があれこれと期待を押し付けるには若いか」
オルテガという存在を見たことがあるせいか、勇者が動けばなんとかなると思っていたのだろう。それだけオルテガがすごかったのかもしれない。
「もう少し経ってから期待かけてください」
「そうさせてもらうか。それまでは俺もできるだけ頑張ってみるかね。
ま、できることはここの警備だけなんだがな」
許可をもらった四人はテントを出て、街に入る。
「静かな街」
アークは人影がすごく少ない街の中を見渡し言った。
ノアニールは街の規模として決して小さいものではない。これだけ大きければ生活音も大きいだろう。けれどもノアニールは木々のざわめき、鳥や虫の声がよく聞こえるところだ。
アークたちをのぞけば、歩いている者は街中を巡回している兵くらいなものだ。犬や猫といった動物の姿もない。
初めてここにきたアークとアロア、人々が眠っていると知っていたカズキも、この状況に驚きを隠せていない。
「俺も初めてきたときは驚いた。警護にきている兵たちも同じだろうな。
誰かが仮初の死を与えられた街って言ったけど、ぴったりな表現だと思ったよ。生きてはないんだけど死んでもない、そんな街だよ」
「住民って全員家の中にいるのか?」
ゲームでは野ざらしだったことを思い出し、カズキは聞く。
「大きな建物に全員集められているって話だ。
兵たちがここにきた当初は外にいた人もいたらしいけど、雨風にさらされたままってのは見ている側としても気分のよくないものだったらしい。たとえ動かず、年をとらず、怪我もしない不気味な存在だとしてもな」
「一ヶ所に集められてるの?」
アロアの言葉にグラッセは頷く。
「なんの変化もないっていっても定期的な診断はする必要があるって考えたようでな、診断しやすいように一ヶ所に集めたって言ってたな」
ずらりと並んだ今にも動き出しそうな物言わぬ人の列は、不気味の一言に尽きるらしい。特に夜は不気味さが一層増して、近づく者は皆無という話だ。
四人は静かな街を、唯一起きている住民の家を目指し歩く。街の静けさにつられたのか会話は少ない。
「ここみたいだ」
目的の家に到着し見上げる。四人はなんとなくだが、人が暮らしているという家の雰囲気を感じ取る。家が生きているというのだろうか? 空き家となっているところとこことは違いがあるのだ。
アークがノックすると、少しして扉が開いた。
出てきたのは七十手前に見える老人だ。
「どちらさまですかな?」
見た目よりも声は若い。背筋も伸びていて、老けて見えるだけなのかもしれない。
「この街のことを聞いて、なにかできないかと尋ねてきました。
なにか知っていることがあれば聞かせてもらえないでしょうか?」
ストレートに聞きすぎて、これは駄目だろうとカズキは内心溜息を吐く。だから老人が四人を招き入れたことに驚く。
老人からすれば、力になってくれる者ならば誰でも頼りたい心境なのだ。息子の行いで街一つが異変に見舞われ、十年以上もこのままだ。この十年で自分にやれることはすべてやっても、どうにもできない。ならば誰かの手を借りたいと思っても無理ないのかもしれない。
「あなたがたはこの街についてどれほどのことをお知りでしょうか?」
「西に住むエルフによって住人が眠らされてること。原因は人間の男とエルフの女が結婚を認めてもらえないことで、エルフの宝を持ち出した。
こんなところです」
「要点はつかめているんですね。
ではそれに付け加えましょう。人間の男は私の息子なのです。子の罪は私の罪ということなのか、私だけは眠ることなく未来を閉ざされた街を見続けることになりました。
街中を駆けていた子供たち、幸せそうに寄り添っていた恋人たち、笑いあっていた家族。そのすべてが一瞬にして止まってしまいました。
私は何度かエルフに会いに行き、魔法を解くよう頼みましたが、まるで相手にされません。
どうにかして魔法を解けないかと、街にある本を調べてみましたが、そんな方法はどこにもありませんでした。
お願いします。異変を解決しろとあつかましいことは言いません。エルフに会って、私の話を聞いてもらえるように伝えてもらえませんでしょうか?
関係者である私が行くから神経を逆なでしているのかもしれないのです。だから関係のないあなたがたの方が話を聞いてもらえるかもしれません。
私の命を差し出せば魔法が解けるのならば喜んで差し出すと、その覚悟があると伝えてもらいたいのです」
そう言って頭を下げる。命を差し出すという言葉は本気だろう。老人は話している最中嘘偽りのない目をしていたのだから。
「わかりました。絶対その言葉をエルフに届けます!」
頭を下げ続ける老人にエークは力強く言い切った。
ここまでの覚悟を持っていることにアークは感銘を受け、絶対に解決してみせると心の中で誓っている。
「ありがとうございますっ」
老人はアークの手をとって礼を言う。よほど嬉しいのか、握る手には強く力が込められていた。
家を出た四人は、兵士たちも使っている宿に泊めてもらう。
何人もが使っているので余っている部屋ほとんどなく、四人は一緒の部屋だ。夜這いするなよというグラッセの言葉に、アークはするかと言葉で、カズキは裏手突っ込みで答えた。
「ちょっと話したいことがある」
後は寝るだけといった感じでのんびりしていた三人に、カズキは今後のことをどうするか問いかける。
「今後って、どういうこと兄さん?」
「このままエルフに会いに行っても追い返されそうだと思ったんだよ。
エルフには会うことはできるだろうし、そのときに会話もできる。でもこちらの要求が女王まで届くかはわからない。
人間のせいで娘は家出、宝も行方不明だから人間に対して悪感情しかないと思うんだ」
ロマリア王にはアリアハン王の紹介状や勇者ということで会えたが、エルフの女王に紹介状は効果はないだろうし、勇者ということも効果あるかはわからない。
「たしかにそうかもな」
「そういった感情を持ってるってのはわかるけど、誠意を持って話せばわかってくれるんじゃ?」
「私は……エルフたちがどういった対応してくるかわかりません」
「まあ、俺のも予測でしかないよ。
アークの言うように話して素直に応じてもらえたら楽なんだけど、そうならない場合もあるわけだ。
そこで真正面から行って駄目だった場合の対策として、エルフが興味を持つような策もほしいなと」
このままただ会いに行くのではなく、ほかに対応策の一つでも考えておいたほうがいいとカズキは思ったのだ。
それはエルフに嘘をつくようなものではないのが望ましい。これ以上悪感情を与えては今後一切話を聞いてもらえなくなる可能性がある。
「興味を持つようなことって言っても、俺は娘さんと宝のことしか思いつかないよ」
「俺もだな」
「私も」
「俺もなわけで、だからそれらに関してロマリアで情報を集めてこようと思う。その間にでもなにかほかに案がないか考えといて」
「一人で行くんですか?」
「そんなに時間かからないから一人で十分だよ。キメラの翼使って一時間もかからず帰ってくる」
ついでに保存のきく食材も買ってこようと考えている。ここから女王のいるところまで長時間かかるだろうから、長持ちのする食料はあっても邪魔にはならないだろう。
「ほんとに一人で大丈夫? 俺も行こうか?」
「大丈夫だよ。いくらかお金使うけどいい?」
「必要なお金だろうし聞かなくてもいいよ」
「んじゃ、明日の朝にでも行ってくるとするよ」
話し合いはこれで終わり、四人は寝ることにした。
夜が明けてだいたい九時を過ぎあたりでカズキはロマリアへと飛ぶ。
向かったのは以前と同じくルイーダの酒場だ。
「おはようございます」
「ん……あんたか」
カウンターで書類に書き込む手を止めて、ルイーダは軽く手を挙げ挨拶する。
「顔覚えてたんですね」
「忘れてたが、顔見て思い出した。
今日はなんの用だ?」
「今日も情報を買いに。
エルフ関連について聞きたいことが。ノアニール出身の男がエルフの女と駆け落ちしたことは知ってますか?」
「ノアニールがああなった原因なんだろう?」
「ええ。それでその二人の行方なんか知ってたりします?」
「いや知らん。少なくともロマリアには来てないと思う」
「そうですか」
「エルフについてはあんたのほうがなにか情報持っているんじゃないのか?」
「へ?」
思っていない指摘にカズキは驚く。ゲーム知識があることがばれたのかと心音が早くなる。
「あんたたちの連れがエルフらしいじゃないか」
そっちのことかと胸を撫で下ろす。
「ってどうしてそのことを知ってるんですか? グラッセたちは隠してたみたいなのに」
「グラッセというのはエルフのそばにいた男のことか?
お前さんがここに始めて顔を見せた日、街中でちょっとした騒ぎがあったんだ。その騒ぎの原因は荒くれ者たちがエルフをさらおうとしたこと。荒くれ者の一人が、偶然突風でフードが外れたところを見たらしくてな、エルフだと知ったらしい。そのエルフがお前さんたちの連れとなっている。
そんな情報が俺の元に入ってきているんだ」
「そういや追われてたっけ。そんな理由だったんだ」
出会ったときのことについてカズキとアークは聞いてなかった。出会ったときのインパクトが強く、忘れていたのだ。
「聞きたいことはこれだけか?」
「大きなルビー、しかも中になにか像の入ったやつ。それが売りに出されたって話を聞いたことある?」
本来ならばエルフの村近くの洞窟にあるのだろうが、カンダタあたりから流れがおかしいので、もしかするとノアニール関連でも変化があるかもしれないと思ったのだ。
「ない。そんな特徴のあるものなら情報はすぐに入ってくる。だが少しも流れてはきていない」
即答だ。思い出す必要がないくらい、本当に覚えがないのだろう。
「そっか」
少なくともロマリア周辺では売りに出されていないと判明した。ノアニールイベントは変化ないのかもしれないという判断材料の一つになった。
「あとは一つ相談にのってもらいたいことが」
「なんだね?」
「実は、エルフにノアニールの魔法を解いてもらいたいと言いに行くことになったんだ。
でも真っ正直に行っても門前払いされるかもしれなくて、なんとかエルフに女王に会うことができる方法はないものかと」
「どうしてそんな厄介なことを引き受けたんだ?
そうだな……正直思いつかない。コネでもあればいんだろうが、エルフにコネのある人間なんかいるかわからん。
会うだけなら奇襲をかけて守りを突破する、なんて無茶をすればいいんだろうが。それを行うためには前提として、エルフの村までエルフにみつからず移動しなきゃならん。だがまず間違いなく村に着くまでに捕まるだろうな」
「ですよね。
話しを聞いてもらってありがとうございます。情報料はいくらですか?」
「役に立てなくてすまんな。金はこれだけだ」
ルイーダが示したお金を出し、カズキは酒場を出る。
露店などで必要なものを買って、ノアニールへと戻る。
宿へと向かう途中で、カズキは一つの案が浮かんだ。実行できるか確認のため足を老人の家へと向ける。
「こんにちは」
庭で洗濯をしている老人に声をかける。
「おや、あなたは昨日の。なにか御用ですか?」
「ちょっと聞きたいことがありまして」
「なんでも聞いてください」
服を洗う手を止め、立ち上がる。老人は動作がきびきびとしていて、やはり見た目とずれがある。
「あなたはエルフの村に行ったことはあります?」
「一度だけ。街がこうなった事情を女王から直接話すとエルフたちに連れて行かれました」
「そうですか。ありがとうございます。
後日、ちょっとした協力を頼むかもしれません。危険はないはずですし、そのときはお願いしていいですか?」
「どのようなことをすれば?」
「キメラの翼でエルフの村まで連れて行ってもらうかもしれません」
カズキが考えた案とは、老人にエルフの村まで連れて行ってもらうというもの。
これならばいるかもしれない斥候のエルフにみつからず、村まで直接移動でき、村入り口からエルフの女王のところまで駆け抜ければ、会うことは可能だ。
ただこれを行った場合は、エルフたちのカズキたちへの心証は最低値になる可能性がある。だからこれは門前払いを受けたあとに使用するつもりの案だ。
「その程度でしたらかまいませんよ。なんならこのあと同行しましょうか?」
「いえ、今日は同行してもらわなくて大丈夫ですよ」
いきなり村に侵入することになり話を聞いてもらえなくなる可能性があると説明し、老人に納得してもらう。
「では俺たちはこれから街を出て、森に向かいますので」
「よろしくお願いします」
深く頭下げた老人に見送られ、今度こそカズキは仲間の待つ宿へと向かう。
カズキは三人に考えたことを話し、強行手段を取るかもしれないことを伝える。
アークは少し不満がありそうで、グラッセは納得、アロアは不安そう、といった三者三様の反応を見せる。
いきなりそんなことはしないと言って、アークにどうにか納得してもらい、四人は街を出る。
カザーブとはまた違った魔物と戦い、対処の仕方を覚えていき、少しずつ強くなっていく。特にアークは戦いに熱が入っている。
カンダタとの戦いで己の実力不足を痛感し、もっと強くならなくてはと思ったのだろう。熱が入りすぎ、抜けきらない疲労のせいで戦闘による怪我が増し、特訓をカズキに何度も止められるという光景が何度か見られた。カズキはグラッセとも相談し、無茶をしていると判断したのだ。
カンダタを意識しすぎて、きちんと成長しているというカズキの言葉を最初は信じていなかったアークだが、ステータスを見ることができることを思いださせ、その場は無理矢理納得させた。
そして一日きちんと休んで疲れをとり体調を整えさせてから、カズキはアークを魔物と戦わせた。戦いが楽になっていることで、アークはようやく己の成長を認めた。疲れが取れたから、それだけではなく魔物を斬る手ごたえが違い、体の動きのきれも以前とは違っていた。
魔物との戦いで実感を得て納得したアークに、カズキは体調管理の大切さを再確認させる。アリアハンを旅していたときは理解していたことなのだが、カンダタの存在と旅に慣れたという慢心が忘れさせたのかもしれない。疲れは成長を台無しにさせるという実体験もしたことで、アークは体調管理を二度と忘れないように心に刻む。
落ち着いたアークと旅を再開しノアニールを出て十日ほど経った頃、どこまでも続くと思われた平原は行き止まりとなり、森に入るしかない場所までやってきた。
ここからあと二日ほどでエルフの村に着くはずと、頭に思い浮かべた地図からカズキは判断する。
さあ入ろうと四人が森に足を踏み入れようとしたとき、制止する声が周囲に響いた。
「誰だ!?」
グラッセの誰何に応えるように、木陰から三人のエルフが姿を現した。
「ここより先はエルフの住処である。わかったのなら引き返せ! 知ってなお進もうとするならば多少の怪我は覚悟してもらう」
話すエルフとは別のエルフたちが弓を引き絞り、四人へと矢を向ける。
アークが一歩踏み出す。そのアークへと矢が向けられる。
「俺たちは頼みごとがあってきたんだ。エルフの女王の会わせてほしい」
「お前は……」
エルフたちはアークを見て、驚いたようにわずかに表情を変える。顔を横に振り表情を元に戻す。
「頼みごとだと?」
「ノアニールを元に戻してもらいたいんだ」
「どんな願いかと思えば。話すだけ無駄だ。女王はその願いを聞き入れることはない! 帰るがいい!」
「そんな!? ノアニールの人々はもう十年以上もあのままだ! 罪としては十分なはずだろう!?」
「女王は王女を失い今も嘆き悲しんでおられるっ。その嘆きがはれるまではノアニールの時が動き出すことはない!
それほどに罪深いことをしたのだ人間は!」
「いなくなった二人のことを認めていればそんな悲しみを感じることにならなかったはずだろ! その腹いせにノアニールの人たちに八つ当たりしてるだけだ! 罪深いっていうならエルフの女王だって同じだ!」
「人間との結婚など認められるか! 野蛮な種族に娘を嫁がせるはずないだろう!」
「街一つおかしくしといて、どっちが野蛮だ!」
アークとエルフの言い合いは続く。
カズキたちはそれに口を挟まない。
「カズキ、あれ止めなくていいのか?」
「止めたところでどうなるわけでもないし、ほっとこ」
「それがいいと思うな。どうせ女王のところに連れて行くしかないんだ」
聞き覚えのない声がカズキに同意し、聞き逃せないことを言う。
カズキとアークとアロアが声の方向を見ると、いつのまにか弓を向けていたエルフの一人が立っていた。
足音どころか、風の動きすら感じさせずに移動してきたエルフに、三人は驚いている。
「えっと、なんで隣に? 人間って野蛮なんだから話すなんてもってのほかなんじゃ?」
「野蛮なんて思ってるのはアン王女を特に可愛がってた奴だけだ。ほとんどのエルフはもともとは少し苦手意識を持っていただけだ。今は駆け落ちのせいで嫌っているがな」
「そうなんですか。苦手や嫌いってわりには、あなたはそれを感じさせませんね?」
「俺は世界中を旅したことがあるから慣れてるんだよ。旅してれば嫌でも人間に会うからな。多くの人間に会えば、いい奴も悪い奴もいるとわかる。人間一人の行動を人間全てに当てはめることは無意味だ。
そしてお前たちは邪悪ではない、だからとりあえず嫌うってことはしない」
「邪悪ではないって会ったばかりでよくわかりますね?」
「三日前から監視してたからな。それで判断した」
「監視って気づかなかったが?」
グラッセには誰かに見られていたという覚えがない。旅をしている以上、魔物に対して警戒している。常に気をはっているわけではないが、それでも見られていればアークかグラッセが気づくはずなのだ。
「遠くから見てたからな。タカの目って魔法を使っていた」
「盗賊用の魔法? エルフも使えたんだ」
「旅をしている間に盗賊に教えてもらったんだ。エルフ全員使えるわけじゃない」
「なるほど。おそらくあなたはエルフの中では珍しい部類なんでしょうね」
「まあな」
変人と認めたように頷くエルフに、カズキたちは改めて変わっていると思う。
「ところで、どうして女王に会うことになるんですか?」
先ほどの言葉を疑問に思っているアロアが聞く。
「言い合いをしている男が精霊に選ばれた者だからな。あいつの発言をエルフは無視できないんだ」
「精霊に選ばれた者ですか? 以前カズキさんから聞きましたね」
「俺たちエルフは神と精霊を強く信奉している。その精霊と関わりの深い者を無視できないのさ」
女王に会うために頭を悩ませたのは無駄だったなぁとカズキは内心溜息を吐いた。
これが主人公補正かご都合主義というものだろうかと、少し黄昏もした。
「さっき驚いたように見えたのは、アークが勇者とわかったからか」
エルフが驚いてみせた理由にグラッセは納得した。
「その通り。
雑談はこれまでにして本題に入ろうか。そのために近づいたんだし」
近寄ってきたことに理由があるとわかり、カズキとグラッセは警戒に身が強張る。
「警戒しなくてもいい。無理は言うつもりはない。
このあとお前さんたちを里に連れて行くだけわけだが、そこに不審者を連れて行きたくはない。
ここまで言えばわかるな? 姿を隠した者なんぞ怪しい以外なんでもない。そこの嬢ちゃんフードを外してくれ」
村に不審者を入れたくはないということは、カズキたちも理解できた。
カズキはグラッセとアロアを見る。
アロハは暫し迷った様子を見せたが、フードに手をかける。
「いいのか?」
「うん。問題ないんじゃないかな? あのときのように追い回されることはないと思う」
言いながらアロアはフードを取った。
現れた素顔を見て、エルフは呆然としている。
カズキたちはアロアがエルフということに驚いていると思ったのだが、それはエルフが漏らした呟きで否定された。
「……アン王女?」
どういうことだとカズキはアロアを見る。自分とアークに語った経歴を偽っていたいたのかと考えた。
だがそうではないらしいとわかった。なぜなら言葉を向けられたアロアも戸惑っているからだ。
14前へ
テントを使っているのは、ノアニール護衛に派遣されたロマリア兵たちだ。護衛全員がテント暮らししているわけではなく、護衛でも街中を警備している兵は宿などを使っている。外のテントは街周辺担当兵の一時休憩や仮眠に使われているのだ。
「街に入るには兵の許可をもらわないといけないんだ。顔見知りがいるから問題なく入れるよ」
何度もここにきているグラッセが先導する。兵たちもグラッセのことを覚えているようで、軽く挨拶してくる。
グラッセは挨拶ついでに警備リーダーは誰か聞く。
返ってきた人物の名前に覚えのあったグラッセはその人物を探し、街に入る許可をもらう。信用を得ているおかげか、すぐに許可が下りた。
勝手に入れず許可制なのは、盗人対策だ。ここにいるロマリア兵は魔物の相手だけではなく、ノアニール住民の財産目当ての人間の相手もしているのだ。
「しかし目的のための本はすでにみつけたんだろ? いまさら用事はないんじゃないのか?」
四十代ほどの兵士がパイプに火を入れつつ聞く。
「今日はそっちの用事できたんじゃないんだ。この街のことを被害を受けずにすんだ住人に聞きたくて」
「ほー問題解決のためにきたのかい? そういう依頼でも受けたのか?」
「いや、こいつがなにかやれないかって」
グラッセはアークを引っ張り、兵の前に立たせる。
兵はアークを見て、目を見開いた。
「……オルテガ様? いや若すぎる。もしかしてオルテガ様の息子さんか?」
「父のことを知ってるんですか?」
「やっぱり息子さんか。オルテガ様の若かりし頃にどことなく似ている。
オルテガ様のことは詳しくは知らない。二度遠くから見た程度だ」
「そうですか」
「それにしてもオルテガ様の息子か。俺たちにはどうにもできなかったが、あんたにならどうにかできるかもしれんな。そう思わせるだけの雰囲気がある」
「まだまだですよ、こいつは。大きなものを背負うにはもう少し時間がほしいところです」
アークをプレッシャーや過度の期待から守ろうと、カズキは言う。その言葉がどれくらい効果があるかわからないし、そもそも効果があるのかもわからない。さらには余計なお世話かもしれない。
それでも戦闘面では立たない自分の役割は、こういったメンタル面でのフォローや雑用だと思っているので、言わずにはいられない。
アークは期待をかけられれば、応えるだろう。無茶なものでも無理して応えそうだ。しかし中には勇者ではなくともできることがあるだろう。そんなものまで背負う必要はないとカズキは思っている。
なにもかも背負うといつか潰れる。潰れずとも負担になる。そうなればアークの目的である魔王討伐に支障がでてくる。
魔王を倒せない勇者に世間はどんな反応を見せるのか。いいものではないはずだ。
アークをそんな目にあわせたくないとカズキは考えている。だからアークの目的達成に支障がないようにフォローに回るのだ。
「……勇者とはいえ見たところいまだ十代半ば。大人があれこれと期待を押し付けるには若いか」
オルテガという存在を見たことがあるせいか、勇者が動けばなんとかなると思っていたのだろう。それだけオルテガがすごかったのかもしれない。
「もう少し経ってから期待かけてください」
「そうさせてもらうか。それまでは俺もできるだけ頑張ってみるかね。
ま、できることはここの警備だけなんだがな」
許可をもらった四人はテントを出て、街に入る。
「静かな街」
アークは人影がすごく少ない街の中を見渡し言った。
ノアニールは街の規模として決して小さいものではない。これだけ大きければ生活音も大きいだろう。けれどもノアニールは木々のざわめき、鳥や虫の声がよく聞こえるところだ。
アークたちをのぞけば、歩いている者は街中を巡回している兵くらいなものだ。犬や猫といった動物の姿もない。
初めてここにきたアークとアロア、人々が眠っていると知っていたカズキも、この状況に驚きを隠せていない。
「俺も初めてきたときは驚いた。警護にきている兵たちも同じだろうな。
誰かが仮初の死を与えられた街って言ったけど、ぴったりな表現だと思ったよ。生きてはないんだけど死んでもない、そんな街だよ」
「住民って全員家の中にいるのか?」
ゲームでは野ざらしだったことを思い出し、カズキは聞く。
「大きな建物に全員集められているって話だ。
兵たちがここにきた当初は外にいた人もいたらしいけど、雨風にさらされたままってのは見ている側としても気分のよくないものだったらしい。たとえ動かず、年をとらず、怪我もしない不気味な存在だとしてもな」
「一ヶ所に集められてるの?」
アロアの言葉にグラッセは頷く。
「なんの変化もないっていっても定期的な診断はする必要があるって考えたようでな、診断しやすいように一ヶ所に集めたって言ってたな」
ずらりと並んだ今にも動き出しそうな物言わぬ人の列は、不気味の一言に尽きるらしい。特に夜は不気味さが一層増して、近づく者は皆無という話だ。
四人は静かな街を、唯一起きている住民の家を目指し歩く。街の静けさにつられたのか会話は少ない。
「ここみたいだ」
目的の家に到着し見上げる。四人はなんとなくだが、人が暮らしているという家の雰囲気を感じ取る。家が生きているというのだろうか? 空き家となっているところとこことは違いがあるのだ。
アークがノックすると、少しして扉が開いた。
出てきたのは七十手前に見える老人だ。
「どちらさまですかな?」
見た目よりも声は若い。背筋も伸びていて、老けて見えるだけなのかもしれない。
「この街のことを聞いて、なにかできないかと尋ねてきました。
なにか知っていることがあれば聞かせてもらえないでしょうか?」
ストレートに聞きすぎて、これは駄目だろうとカズキは内心溜息を吐く。だから老人が四人を招き入れたことに驚く。
老人からすれば、力になってくれる者ならば誰でも頼りたい心境なのだ。息子の行いで街一つが異変に見舞われ、十年以上もこのままだ。この十年で自分にやれることはすべてやっても、どうにもできない。ならば誰かの手を借りたいと思っても無理ないのかもしれない。
「あなたがたはこの街についてどれほどのことをお知りでしょうか?」
「西に住むエルフによって住人が眠らされてること。原因は人間の男とエルフの女が結婚を認めてもらえないことで、エルフの宝を持ち出した。
こんなところです」
「要点はつかめているんですね。
ではそれに付け加えましょう。人間の男は私の息子なのです。子の罪は私の罪ということなのか、私だけは眠ることなく未来を閉ざされた街を見続けることになりました。
街中を駆けていた子供たち、幸せそうに寄り添っていた恋人たち、笑いあっていた家族。そのすべてが一瞬にして止まってしまいました。
私は何度かエルフに会いに行き、魔法を解くよう頼みましたが、まるで相手にされません。
どうにかして魔法を解けないかと、街にある本を調べてみましたが、そんな方法はどこにもありませんでした。
お願いします。異変を解決しろとあつかましいことは言いません。エルフに会って、私の話を聞いてもらえるように伝えてもらえませんでしょうか?
関係者である私が行くから神経を逆なでしているのかもしれないのです。だから関係のないあなたがたの方が話を聞いてもらえるかもしれません。
私の命を差し出せば魔法が解けるのならば喜んで差し出すと、その覚悟があると伝えてもらいたいのです」
そう言って頭を下げる。命を差し出すという言葉は本気だろう。老人は話している最中嘘偽りのない目をしていたのだから。
「わかりました。絶対その言葉をエルフに届けます!」
頭を下げ続ける老人にエークは力強く言い切った。
ここまでの覚悟を持っていることにアークは感銘を受け、絶対に解決してみせると心の中で誓っている。
「ありがとうございますっ」
老人はアークの手をとって礼を言う。よほど嬉しいのか、握る手には強く力が込められていた。
家を出た四人は、兵士たちも使っている宿に泊めてもらう。
何人もが使っているので余っている部屋ほとんどなく、四人は一緒の部屋だ。夜這いするなよというグラッセの言葉に、アークはするかと言葉で、カズキは裏手突っ込みで答えた。
「ちょっと話したいことがある」
後は寝るだけといった感じでのんびりしていた三人に、カズキは今後のことをどうするか問いかける。
「今後って、どういうこと兄さん?」
「このままエルフに会いに行っても追い返されそうだと思ったんだよ。
エルフには会うことはできるだろうし、そのときに会話もできる。でもこちらの要求が女王まで届くかはわからない。
人間のせいで娘は家出、宝も行方不明だから人間に対して悪感情しかないと思うんだ」
ロマリア王にはアリアハン王の紹介状や勇者ということで会えたが、エルフの女王に紹介状は効果はないだろうし、勇者ということも効果あるかはわからない。
「たしかにそうかもな」
「そういった感情を持ってるってのはわかるけど、誠意を持って話せばわかってくれるんじゃ?」
「私は……エルフたちがどういった対応してくるかわかりません」
「まあ、俺のも予測でしかないよ。
アークの言うように話して素直に応じてもらえたら楽なんだけど、そうならない場合もあるわけだ。
そこで真正面から行って駄目だった場合の対策として、エルフが興味を持つような策もほしいなと」
このままただ会いに行くのではなく、ほかに対応策の一つでも考えておいたほうがいいとカズキは思ったのだ。
それはエルフに嘘をつくようなものではないのが望ましい。これ以上悪感情を与えては今後一切話を聞いてもらえなくなる可能性がある。
「興味を持つようなことって言っても、俺は娘さんと宝のことしか思いつかないよ」
「俺もだな」
「私も」
「俺もなわけで、だからそれらに関してロマリアで情報を集めてこようと思う。その間にでもなにかほかに案がないか考えといて」
「一人で行くんですか?」
「そんなに時間かからないから一人で十分だよ。キメラの翼使って一時間もかからず帰ってくる」
ついでに保存のきく食材も買ってこようと考えている。ここから女王のいるところまで長時間かかるだろうから、長持ちのする食料はあっても邪魔にはならないだろう。
「ほんとに一人で大丈夫? 俺も行こうか?」
「大丈夫だよ。いくらかお金使うけどいい?」
「必要なお金だろうし聞かなくてもいいよ」
「んじゃ、明日の朝にでも行ってくるとするよ」
話し合いはこれで終わり、四人は寝ることにした。
夜が明けてだいたい九時を過ぎあたりでカズキはロマリアへと飛ぶ。
向かったのは以前と同じくルイーダの酒場だ。
「おはようございます」
「ん……あんたか」
カウンターで書類に書き込む手を止めて、ルイーダは軽く手を挙げ挨拶する。
「顔覚えてたんですね」
「忘れてたが、顔見て思い出した。
今日はなんの用だ?」
「今日も情報を買いに。
エルフ関連について聞きたいことが。ノアニール出身の男がエルフの女と駆け落ちしたことは知ってますか?」
「ノアニールがああなった原因なんだろう?」
「ええ。それでその二人の行方なんか知ってたりします?」
「いや知らん。少なくともロマリアには来てないと思う」
「そうですか」
「エルフについてはあんたのほうがなにか情報持っているんじゃないのか?」
「へ?」
思っていない指摘にカズキは驚く。ゲーム知識があることがばれたのかと心音が早くなる。
「あんたたちの連れがエルフらしいじゃないか」
そっちのことかと胸を撫で下ろす。
「ってどうしてそのことを知ってるんですか? グラッセたちは隠してたみたいなのに」
「グラッセというのはエルフのそばにいた男のことか?
お前さんがここに始めて顔を見せた日、街中でちょっとした騒ぎがあったんだ。その騒ぎの原因は荒くれ者たちがエルフをさらおうとしたこと。荒くれ者の一人が、偶然突風でフードが外れたところを見たらしくてな、エルフだと知ったらしい。そのエルフがお前さんたちの連れとなっている。
そんな情報が俺の元に入ってきているんだ」
「そういや追われてたっけ。そんな理由だったんだ」
出会ったときのことについてカズキとアークは聞いてなかった。出会ったときのインパクトが強く、忘れていたのだ。
「聞きたいことはこれだけか?」
「大きなルビー、しかも中になにか像の入ったやつ。それが売りに出されたって話を聞いたことある?」
本来ならばエルフの村近くの洞窟にあるのだろうが、カンダタあたりから流れがおかしいので、もしかするとノアニール関連でも変化があるかもしれないと思ったのだ。
「ない。そんな特徴のあるものなら情報はすぐに入ってくる。だが少しも流れてはきていない」
即答だ。思い出す必要がないくらい、本当に覚えがないのだろう。
「そっか」
少なくともロマリア周辺では売りに出されていないと判明した。ノアニールイベントは変化ないのかもしれないという判断材料の一つになった。
「あとは一つ相談にのってもらいたいことが」
「なんだね?」
「実は、エルフにノアニールの魔法を解いてもらいたいと言いに行くことになったんだ。
でも真っ正直に行っても門前払いされるかもしれなくて、なんとかエルフに女王に会うことができる方法はないものかと」
「どうしてそんな厄介なことを引き受けたんだ?
そうだな……正直思いつかない。コネでもあればいんだろうが、エルフにコネのある人間なんかいるかわからん。
会うだけなら奇襲をかけて守りを突破する、なんて無茶をすればいいんだろうが。それを行うためには前提として、エルフの村までエルフにみつからず移動しなきゃならん。だがまず間違いなく村に着くまでに捕まるだろうな」
「ですよね。
話しを聞いてもらってありがとうございます。情報料はいくらですか?」
「役に立てなくてすまんな。金はこれだけだ」
ルイーダが示したお金を出し、カズキは酒場を出る。
露店などで必要なものを買って、ノアニールへと戻る。
宿へと向かう途中で、カズキは一つの案が浮かんだ。実行できるか確認のため足を老人の家へと向ける。
「こんにちは」
庭で洗濯をしている老人に声をかける。
「おや、あなたは昨日の。なにか御用ですか?」
「ちょっと聞きたいことがありまして」
「なんでも聞いてください」
服を洗う手を止め、立ち上がる。老人は動作がきびきびとしていて、やはり見た目とずれがある。
「あなたはエルフの村に行ったことはあります?」
「一度だけ。街がこうなった事情を女王から直接話すとエルフたちに連れて行かれました」
「そうですか。ありがとうございます。
後日、ちょっとした協力を頼むかもしれません。危険はないはずですし、そのときはお願いしていいですか?」
「どのようなことをすれば?」
「キメラの翼でエルフの村まで連れて行ってもらうかもしれません」
カズキが考えた案とは、老人にエルフの村まで連れて行ってもらうというもの。
これならばいるかもしれない斥候のエルフにみつからず、村まで直接移動でき、村入り口からエルフの女王のところまで駆け抜ければ、会うことは可能だ。
ただこれを行った場合は、エルフたちのカズキたちへの心証は最低値になる可能性がある。だからこれは門前払いを受けたあとに使用するつもりの案だ。
「その程度でしたらかまいませんよ。なんならこのあと同行しましょうか?」
「いえ、今日は同行してもらわなくて大丈夫ですよ」
いきなり村に侵入することになり話を聞いてもらえなくなる可能性があると説明し、老人に納得してもらう。
「では俺たちはこれから街を出て、森に向かいますので」
「よろしくお願いします」
深く頭下げた老人に見送られ、今度こそカズキは仲間の待つ宿へと向かう。
カズキは三人に考えたことを話し、強行手段を取るかもしれないことを伝える。
アークは少し不満がありそうで、グラッセは納得、アロアは不安そう、といった三者三様の反応を見せる。
いきなりそんなことはしないと言って、アークにどうにか納得してもらい、四人は街を出る。
カザーブとはまた違った魔物と戦い、対処の仕方を覚えていき、少しずつ強くなっていく。特にアークは戦いに熱が入っている。
カンダタとの戦いで己の実力不足を痛感し、もっと強くならなくてはと思ったのだろう。熱が入りすぎ、抜けきらない疲労のせいで戦闘による怪我が増し、特訓をカズキに何度も止められるという光景が何度か見られた。カズキはグラッセとも相談し、無茶をしていると判断したのだ。
カンダタを意識しすぎて、きちんと成長しているというカズキの言葉を最初は信じていなかったアークだが、ステータスを見ることができることを思いださせ、その場は無理矢理納得させた。
そして一日きちんと休んで疲れをとり体調を整えさせてから、カズキはアークを魔物と戦わせた。戦いが楽になっていることで、アークはようやく己の成長を認めた。疲れが取れたから、それだけではなく魔物を斬る手ごたえが違い、体の動きのきれも以前とは違っていた。
魔物との戦いで実感を得て納得したアークに、カズキは体調管理の大切さを再確認させる。アリアハンを旅していたときは理解していたことなのだが、カンダタの存在と旅に慣れたという慢心が忘れさせたのかもしれない。疲れは成長を台無しにさせるという実体験もしたことで、アークは体調管理を二度と忘れないように心に刻む。
落ち着いたアークと旅を再開しノアニールを出て十日ほど経った頃、どこまでも続くと思われた平原は行き止まりとなり、森に入るしかない場所までやってきた。
ここからあと二日ほどでエルフの村に着くはずと、頭に思い浮かべた地図からカズキは判断する。
さあ入ろうと四人が森に足を踏み入れようとしたとき、制止する声が周囲に響いた。
「誰だ!?」
グラッセの誰何に応えるように、木陰から三人のエルフが姿を現した。
「ここより先はエルフの住処である。わかったのなら引き返せ! 知ってなお進もうとするならば多少の怪我は覚悟してもらう」
話すエルフとは別のエルフたちが弓を引き絞り、四人へと矢を向ける。
アークが一歩踏み出す。そのアークへと矢が向けられる。
「俺たちは頼みごとがあってきたんだ。エルフの女王の会わせてほしい」
「お前は……」
エルフたちはアークを見て、驚いたようにわずかに表情を変える。顔を横に振り表情を元に戻す。
「頼みごとだと?」
「ノアニールを元に戻してもらいたいんだ」
「どんな願いかと思えば。話すだけ無駄だ。女王はその願いを聞き入れることはない! 帰るがいい!」
「そんな!? ノアニールの人々はもう十年以上もあのままだ! 罪としては十分なはずだろう!?」
「女王は王女を失い今も嘆き悲しんでおられるっ。その嘆きがはれるまではノアニールの時が動き出すことはない!
それほどに罪深いことをしたのだ人間は!」
「いなくなった二人のことを認めていればそんな悲しみを感じることにならなかったはずだろ! その腹いせにノアニールの人たちに八つ当たりしてるだけだ! 罪深いっていうならエルフの女王だって同じだ!」
「人間との結婚など認められるか! 野蛮な種族に娘を嫁がせるはずないだろう!」
「街一つおかしくしといて、どっちが野蛮だ!」
アークとエルフの言い合いは続く。
カズキたちはそれに口を挟まない。
「カズキ、あれ止めなくていいのか?」
「止めたところでどうなるわけでもないし、ほっとこ」
「それがいいと思うな。どうせ女王のところに連れて行くしかないんだ」
聞き覚えのない声がカズキに同意し、聞き逃せないことを言う。
カズキとアークとアロアが声の方向を見ると、いつのまにか弓を向けていたエルフの一人が立っていた。
足音どころか、風の動きすら感じさせずに移動してきたエルフに、三人は驚いている。
「えっと、なんで隣に? 人間って野蛮なんだから話すなんてもってのほかなんじゃ?」
「野蛮なんて思ってるのはアン王女を特に可愛がってた奴だけだ。ほとんどのエルフはもともとは少し苦手意識を持っていただけだ。今は駆け落ちのせいで嫌っているがな」
「そうなんですか。苦手や嫌いってわりには、あなたはそれを感じさせませんね?」
「俺は世界中を旅したことがあるから慣れてるんだよ。旅してれば嫌でも人間に会うからな。多くの人間に会えば、いい奴も悪い奴もいるとわかる。人間一人の行動を人間全てに当てはめることは無意味だ。
そしてお前たちは邪悪ではない、だからとりあえず嫌うってことはしない」
「邪悪ではないって会ったばかりでよくわかりますね?」
「三日前から監視してたからな。それで判断した」
「監視って気づかなかったが?」
グラッセには誰かに見られていたという覚えがない。旅をしている以上、魔物に対して警戒している。常に気をはっているわけではないが、それでも見られていればアークかグラッセが気づくはずなのだ。
「遠くから見てたからな。タカの目って魔法を使っていた」
「盗賊用の魔法? エルフも使えたんだ」
「旅をしている間に盗賊に教えてもらったんだ。エルフ全員使えるわけじゃない」
「なるほど。おそらくあなたはエルフの中では珍しい部類なんでしょうね」
「まあな」
変人と認めたように頷くエルフに、カズキたちは改めて変わっていると思う。
「ところで、どうして女王に会うことになるんですか?」
先ほどの言葉を疑問に思っているアロアが聞く。
「言い合いをしている男が精霊に選ばれた者だからな。あいつの発言をエルフは無視できないんだ」
「精霊に選ばれた者ですか? 以前カズキさんから聞きましたね」
「俺たちエルフは神と精霊を強く信奉している。その精霊と関わりの深い者を無視できないのさ」
女王に会うために頭を悩ませたのは無駄だったなぁとカズキは内心溜息を吐いた。
これが主人公補正かご都合主義というものだろうかと、少し黄昏もした。
「さっき驚いたように見えたのは、アークが勇者とわかったからか」
エルフが驚いてみせた理由にグラッセは納得した。
「その通り。
雑談はこれまでにして本題に入ろうか。そのために近づいたんだし」
近寄ってきたことに理由があるとわかり、カズキとグラッセは警戒に身が強張る。
「警戒しなくてもいい。無理は言うつもりはない。
このあとお前さんたちを里に連れて行くだけわけだが、そこに不審者を連れて行きたくはない。
ここまで言えばわかるな? 姿を隠した者なんぞ怪しい以外なんでもない。そこの嬢ちゃんフードを外してくれ」
村に不審者を入れたくはないということは、カズキたちも理解できた。
カズキはグラッセとアロアを見る。
アロハは暫し迷った様子を見せたが、フードに手をかける。
「いいのか?」
「うん。問題ないんじゃないかな? あのときのように追い回されることはないと思う」
言いながらアロアはフードを取った。
現れた素顔を見て、エルフは呆然としている。
カズキたちはアロアがエルフということに驚いていると思ったのだが、それはエルフが漏らした呟きで否定された。
「……アン王女?」
どういうことだとカズキはアロアを見る。自分とアークに語った経歴を偽っていたいたのかと考えた。
だがそうではないらしいとわかった。なぜなら言葉を向けられたアロアも戸惑っているからだ。
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