第11話第12.5話

2006年08月23日

第12話


 1
 舞踏会から2日過ぎてもいまだ人々は魔物襲撃事件のことを口にする。収まる気配はなくむしろ広がっていく。
 魔物は都には現れず、舞踏会場のみに現れた。このことから魔物は舞踏会があることを知っていて、何かしらの目的があって現れたと推測された。襲ってきた魔物は口が利けるようなタイプではないため目的を聞こうとしてもできず、それ以前に追い払うか殺すかしているので目的を知ることはできない。
 そんなことがあっても冒険者たちは相変わらず塔へと足を運ぶ。噂や騒動は上手く関わらないとお金にならなず、腹が膨れないので当然の行動。
 ルラたち四人も同じように協会へと来ていた。いつものと同じように指定の場所に集まり、移送陣に向おうとする四人を呼ぶ声がする。振り返り見るとシフォンがいた。

「おはようっ。みつかってよかった」

 会えたことを安堵するシフォン。四人はなぜ安堵しているかわからない。シフォンが何か言う前に理由がわかるはずもなし、わかったらテレパシストとしての才能がある。

「私たちを探してましたの?」
「うん。正確にはバルフさんに用事があるんだ」
「俺?」

 バルフはシフォンとの付き合いはほとんどない。だからわざわざ自分を指定して何か用事を頼まれることに首を傾げる。カイとルラに目でどんな用事かわかるかと問われるが首をふってわからないと答える。

「急ぎの用事でねっ、すぐに私の家に来て欲しい」
「いきなり言われてもな。これから塔に行こうとしてたんだが。予定を俺一人のせいで勝手に変えるわけには」
「私は構わないぞ」

 渋る様子のバルフにカイが構わないと告げる。ルラとリリヤも同じ。

「…じゃあ行くかな」
「ありがとうっ」

 シフォンはバルフを連れて協会を出て行く。協会前に止めてあった馬車でウィリア家へと向った。
 
「僕たちはどうしよう? 予定通り塔に入る?」
「それでいいと思うぞ。先に進まずLv上げとアイテム収集でもやっておこう」
「70階辺りなら三人でも大丈夫でしょう」

 現在彼らは94階に到達している。手持ちの武具では心もとなくなっているので新しく買おうと考えていた。そのためにお金は必要で資金集めができるのは大歓迎だった。
 バルフなしでの塔探索は滅多にないので、三人は気合を入れて移送陣に向った。初の三人戦闘などでぎこちなさはあったが特に大きな怪我はなく無事に探索を終えたのだった。

 ルラたちが塔で最初の戦闘をこなしているとき、バルフはウィリア家に到着した。門の前や玄関には私兵が立ち周囲を警戒している。私兵たちはどこかピリピリとしていて真面目すぎるほどに仕事をこなしている。馬車から下りたバルフを見て私兵は警戒した視線を送るが、シフォンが馬車から出てくると警戒を緩め視線を外す。
 シフォンに案内されて応接間に通される。

「ちょっとここで座ってて。お父さんを呼んでくる」

 そう言ってシフォンは応接間を出て行く。戻ってくるのに五分ほど。その間にお茶とお菓子が出されていた。
 バルフが出されたお茶を飲んでいると扉がノックされシフォンと40代の男が入ってくる。
 
「はじめまして。私はウィリア家当主スコット・D・ウィリア。このたびはわざわざ当家まで来ていただきありがとうございます」

 スコットは自己紹介とともにお礼を兼ねて頭を下げる。

「いや頭を下げなくてもいいだろ。ただ来ただけなんだからさ。まだ何も聞いちゃいないし、用事とやらを受けるとも言ってない」
「御足労願ったのはこちらなのだから礼儀としても当たり前のことをしたまでだよ」

 椅子に座りながら当たりのように言う。身分からみればスコットのほうが上だ。偉そうにしててもバルフは気にしない。それが当たり前だと思っているから。だがスコットはそういったことをあまり気にしないらしい。
 それか演技だという可能性もある。こちらから頼みごとをするのに偉そうにしていては断られると考えたのかもしれない。

「早速だが急ぎの用事とやらを聞かせてくれるか? ただし、必ずしも受けるとはかぎらないからとりあえずは知られても困らない情報だけ話してくれ」
「それならところどころぼかして話しましょう。
 実は二日前に我が家からあるものが盗まれた。それは大事なもので絶対に取り戻したいし、取り戻さなくてはいけないものなんだ。最悪この家の存続に関わる。
 依頼はその盗まれたものを取り戻してほしい」
「質問いいか?」
「どうぞ」
「この家は盗賊ギルドに金を出してないのか?」
「出している」

 貴族や金持ちは盗みや暗殺を防ぐため盗賊ギルドにお金を支払う。都市や大きな街にいる盗賊はほとんどがギルドに所属しているためお金を払うだけで料金以上の損失を防ぐことができる。バルフは盗みに入られたと聞いてギルドにお金を払っていないと思ったのだ。

「…そうか。次にどんな状況で盗まれたかわかるか?」
「二日前に舞踏会があったのは知ってるな? そのとき家族全員で参加したんだよ。それで護衛も何人か連れていった。その分、家の警備が薄くなりそこを狙われた。
 泥棒は複数で家に入り、盗まれた物のみを持って逃げた。警備も途中で気付いたんだが、手傷を負わせただけで逃げられた」

 そのせいで私兵たちはピリピリしているんだと付け加える。

「最後になんで俺に依頼したんだ? この家との繋がりなんてシフォンくらいしかないぞ。シフォンだって俺が盗賊の真似事できるなんて知らないだろうし」
「推したのは私じゃないよ。私はお父さんにおつかい頼まれて迎えにいっただけ。私がバルフさんと知り合いだってお父さん知らなかったし。始めは他の人が迎えにいく予定だったんだけど、私が知り合いだってわかったから交代したんだ」
「君を推したのはギルド幹部で君の師匠だよ」
「師匠!?」

 ここで師匠が出てくるとは思わず驚く。というかギルドに話を通してあるならそのままギルドに依頼すればいいじゃないかと心の隅で思う。
 バルフはこの依頼を断れなくなった。師匠が出てきた時点で受けなければならない。師匠の顔に泥をぬることになるし、何より師匠には恩と借りがある。

「詳しいことを話してくれ。この依頼受ける」
「受けてくれるか! ありがたい。
 取り戻してもらいたい物は家宝であり四代前の王から賜った錫杖だ。暗殺の危機にあった王を体をはって助けた際に賜ったもので、あの錫杖を王に対する忠誠の証としていたのだ。そんなものをなくしたと知られたら大変どころではないからな」

 本当に大変どころの騒ぎじゃないだろう。この国の王は世襲ではなく選任なので血の繋がりはない。そうは言ってもやはり先代王の褒美をなくしたと知られるとまずいことになる。ましてや市場で売られているのを見ましたなどと公表されると家の一大事。

「そんな大事、俺に依頼するなよ。なに考えてんだ師匠は」

 バルフがぼやきたくなるのも仕方ないことなんだろう。スコットの次の言葉でさらにテンションは下がる。

「なんでもギルドの恥じに関係しているらしい」
「こんなことを依頼されるバルフさんはすごいんだねっ」
「どうなんだろうなぁ」

 テンションは下がったまま首を傾げる。

「伝言がありますよ。この話を聞いたあとギルドの酒場に来いだそうです。なんでも詳しい話や打ち合わせをするんだとか」

 最初からバルフが依頼を受けるとわかった上での伝言。

「めんどくさい依頼だ。報酬ははずんでくれよ」
「ええ、わかってます。金貨で二十枚、全額後払いで。ギルドからも出るそうです」
「まあギルドにも関係するなら当然だな。これで報酬がたいしたことなかった日にゃ…どうしてくれよう」
「そこは交渉次第で。我が家の家宝、頑張って取り戻してください」
「頑張ってくださいっ」

 ウィリア親子の声援を背にウィリア家を出て行く。指示された通り、以前も来た情報屋の酒場に到着。マスターに話し掛けて大銀貨を置こうとするとマスターに止められる。

「お前が来たら耳無しの部屋へ通してくれって言われている。どこにあるかは覚えてるだろ」
「二階だろ」
「ああ、先に行ってろ。俺はお前が来たって伝えてくる」

 二階に上がり目立たない位置にある扉を開けて部屋に入る。この部屋は密談をしたいときに使われる部屋で魔法で防御されていて盗聴などされないようになっている。
 五分とたたないうちに師匠が入ってきた。

「よく来たな」
「よく来たなじゃないよ。めんどそうな仕事に巻き込んで」
「すまんな。でも俺の知るかぎりこの仕事をこなせそうな奴はお前以外に浮かばなかったんだ」
「師匠とか幹部連中なら俺よりも腕は上だろ」
「今回の仕事はギルドが表立って動けないんだ。だからギルド外の人材を使う必要がある」
「ギルドの恥じってやつに関係ありそうだな」
「まあな」

 師匠は顔をしかめている。

「今回のことはギルドの中級構成員が原因でな。そいつは報酬に釣られて保護料を払っている家に入った」
「ギルド員が入ったのか!? モグリがやったとばかり」

 バルフは驚く。お金を払っているということはギルドの管理領域ということだ。それを荒らすような真似をするのは自殺行為だとギルド員ならば充分わかっている。それは元ギルド員のバルフも同じ。ばれなければ問題ないとという考えもあるかもしれないが、盗賊ギルドは甘くはない。ギルドの目をごまかすには証拠を残さず完璧に仕事をこなす必要があるからだ。

「報酬を使って幹部になろうとしたみたいでな。少しくらい危ない橋を渡らないと幹部にはなれないと思ったらしい。実際その通りなんだが、へまをやらかしたら意味ないな」
「その馬鹿はどうしたんだ?」
「言わなくてもわかってるだろ。協力した奴らと一緒に処分した」

 なんの感慨もなく師匠は答える。想像どおりだったのでバルフは何も言わない。

「でそいつに依頼したのは貴族でな盗まれた物はその貴族の屋敷にある。俺たちギルドで物を取り返せればいいんだがその貴族も保護料払ってて入れない。その貴族が持っているということはわかっているが、盗まれたということを他の者に知られるのはまずいから表立って返せとも言えない」
「だから俺が選ばれたと。盗んでこいと。モグリなら盗みに入ってもギルドに関係ないからどうとでも言い訳できるから」
「うむ。入る前の準備や情報はギルドで用意する」

 ちょいと矛盾をはらんだ言葉がでる。ギルドが関われないからバルフに依頼がきた、なのにギルドが関わる。

「おかしくないか? ギルド今回の件に関われないんじゃ」
「わかってる。ギルド員は屋敷に入らない、でも計画を立てることはできるんだ。台本作製はギルド、役者はお前」
「黒に近い灰色って感じだ。なんか無茶してない?」
「ウィリア家と盗みを依頼した貴族じゃウィリア家のほうがギルドにとって大事だということだ。払う金は多く、付き合いも古い。縁が切れるのはもったいないと幹部連中は判断した。
 それにウィリア家はログオン派、相手はカルゴツ派だ」

 ログオン派やカルゴツ派というのは王候補の派閥のことだ。もう一つハルバーグ派というのがある。ログオン派は盗賊ギルドの一部と関係が深く、カルゴツ派は貴族が多めに集まっている。ハルバーグ派は商人ギルドの一部と関係が深い。
 カルゴツ派は権力を使い二つのギルドを抑圧しているのでギルドに嫌われている。ただログオン派もハルバーグ派もそれぞれの持てるものを使いそれぞれを邪魔してるので互いに嫌っているのは同じことだった。
 ついでにいうと探索者管理協会はどの派閥にも協力していない。運営費用など自力で稼いでいるし、それなりの権力は持つが政治に関わらないようにしているので独立組織として見られている。

「ふーん。いつから入れる?」
「今日からでも」
「じゃあ今日入るよ」

 本来ならば下準備が必要なことにすぐさま行動できるのはギルドが下準備を既に済ませていると確信しているからだった。そしてその確信は外れていない。

「わかった。少し待て見回りや屋敷内部の情報を持ってくる」

 用意された情報や屋敷見取り図を見ながら話し合う。
 侵入方法は屋敷にいるギルド関係者に普段使われていない部屋の窓の鍵を開けておいてもらうことになった。屋敷内外の警備の警備ルートや時間を考慮し深夜一時に侵入予定とした。
 錫杖がしまってありそうな場所を倉庫と宝物庫と家主の私室の三箇所に絞り込んだ。その三箇所を始めに回り、そこになかった場合、寝室と第二倉庫に行く予定になっている。
 錫杖目当てとばれないように適当な高級品を二つくらい盗むことにもなった。こうしておけばただの物取りだと言い訳もできるだろうとの考えだった。

「仕事のための道具はまだ持ってるか? ないならこちらから貸し出すが」
「持ってるよ。宿に置いてあるから取りにいくさ。ここに戻ってくりゃいいんだろ」
「ああ」
「んじゃ取ってくる」


 2
 時間は進んで計画決行1時間前。魔術で灯されていた明かりも次々と消えていき、明かりは星と半月のみ。それも時々雲に隠されて王都は暗闇に包まれている。少し前まで聞こえていた騒ぐ声も徐々に小さくなっていった。
 耳無しの部屋では黒い服に着替えたバルフが師匠と話をしている。腰に最小限の道具を入れたポーチを巻いて、靴は音が出ないように処理されたものをはいている。

「そろそろ出るよ」
「成功しろよ。でないとギルドや貴族から追われることになるからな」
「わかってるさ。ったく、師匠の依頼じゃなきゃこんな面倒なことしないのに。
 もう一度確認するけど、錫杖をもってここに帰還でいいんだな?」
「うむ」
「いってくる」

 バルフはすっぽりと頭を覆う黒い頭巾をかぶり部屋をでる。酒場の玄関から出ずに、二階の窓から飛び出る。靴と身に付けた技術のおかげで音をたてずに無事着地。目的地に向ってゆっくりと走り出した。
 夜闇にまぎれてバルフは走る。月明かりに照らされるとそこにいるとわかるが、影に入ると並大抵の者では気付けない。半年間のあいだに鈍った勘を確認しつつ、完全ではないが取り戻していく。

(到着っと)

 遠回りに走ってきたため四十分ほど時間がかかった。塀を越えて物陰に潜み、息を整えながら時間を待つ。時間が迫ってきて見回りがいなくなる。鍵の開いた窓から屋敷に入る。静かに素早く窓を閉め、一息つく。

(ここまで成功)

 扉に耳を当て廊下の音と気配を探る。近くを歩く気配が遠のいたのを確認して廊下に出る。頭に浮かべた地図をたどり、一番近かった倉庫へ。見回りをかわしながら倉庫へもぐりこむ。倉庫には生活用品が入れられていた。魔術で弱い明かりをつけ探す。隠し扉の有無も点検していく。

(それらしいものはなしか。次にいこう)

 次に向ったのは宝物庫。途中で見回りが二方向から挟みこむように来て遭遇しそうになる。

(やばっ)

 慌てて周囲を見回す。隠れることができそうな場所を探す。緊張で鼓動が早くなり汗も流れる。いちかばちかでみつけた扉を開け飛び込む。気配の確認をしなかったので、誰かいると即座に対処しなければならない。気絶させることを前提に静かにだけど急いで部屋の中を確認する。

(誰もいない。運がよかった〜)

 早まった鼓動を落ち着かせて、廊下の気配を探る。見回りは何事もなく通り過ぎたようで気配は遠のいていった。
 再び廊下に出て宝物庫へ。宝物庫入り口近くの角に身を潜め、鏡を使って警備を確認する。

(二人か。いるとは思ってたが、せめて一人ならなんとかできるんだが)

 少しの間侵入方法を考え込む。

(いい方法が思い浮かばないな。後回しにするか。先に私室に行こう)

 宝物庫は後回しにすることに決めてその場を静かに去る。道順を確認するため地図を思い浮かべると私室に着く途中に第二倉庫を通ることに気付く。ついでに調べていこうと決めた。
 第二倉庫にはガラクタが置かれていた。壊れた掃除道具、ほこりをかぶったピアノ、古ぼけた絵画、汚れたカーペット。廃棄処分の決まったもの、使われないものがたくさんある。それらをゴソゴソと見回っていく。一通り点検し終わった気の緩みから立てかけてあった箒に腕が触れる。

(あっ)

 一瞬呆けて手を伸ばし掴もうとするも、少し足らず倒れてしまう。カーンといい音をたて倒れた箒。現役ではやらなかった失敗に呆れ、慌てる。

(やっちまったー!)

 慌ててガラクタの影に隠れる。ドクンドクンと周囲に聞こえるんじゃないかと思うくらい体内で音をたてる心臓をどうにか落ち着かせ静かにする。五分たち十分たち心音が小さくなってきても動かず隠れ続ける。十五分たった頃、バルフはようやく動き出す。念を入れて扉の向こうの気配を探り、誰もいないと確信をもってから廊下へ出る。
 私室へ到着。扉を開けようとしたがここには鍵がかかっていた。腰のポーチからピッキングツールを取り出して開ける。幸い簡単な作りの鍵だったようで楽に入ることができた。
 部屋の中は机と棚、植物、美術品がある。仕事部屋も兼ねているようで机の上には書類の束が置かれていた。捜索を開始する。錫杖など入らない引出しも点検していく。

(ここにもなし)

 現時点で四時前。五時を過ぎると使用人が置き出してくるだろうからタイムリミットはあと一時間と少し。明日も忍び込むことになるかもしれないと思いつつ部屋をでる。ここでは机の上にあったレアメタルの文鎮をくすねてようとも思ったが明日来る可能性も考えてやめておいた。
 再び宝物庫近くに戻ってきた。先ほどの警備とは顔が違うことから交代したらしい。少し観察していると警備たちは眠そうにあくびをしている。

(…これならなんとかなるか?)

 ポーチから粉を取り出す。これを魔術で起こした弱い風で警備まで運ぶ。粉を吸い込んだ警備たちは徐々にまぶたが下がり始め、ついには壁に寄りかかって眠り込む。粉は無味無臭の睡眠薬だった。違和感をなくすため無味無臭に仕立てられたこの薬は効力が強いとはいえず相手に眠気がないと効かなかった。

(これでよし)

 警備たちを起こさぬように静かに宝物庫前に立つ。

(鍵は…かかってるな)

 私室の扉よりも頑丈で複雑な作りの鍵がつけられている。警備の腰に鍵がぶら下がっているのは確認済みなので慌てずに丁寧に鍵をとる。
 この辺りは専用の警備がいることもあって見回りのコースからは外れている。気まぐれをおこして立寄らないことを祈るのみ。
 何事もなく扉を開けて宝物庫に潜り込む。金銀宝石美術品がきちんと整理され収められていた。ぱっとみ錫杖はみあたらない。部屋隅の大きな金庫に近寄る。金庫には南京錠がつけられている。大きさ的に錫杖も入るサイズの金庫。

(あるとしたらこの中か………開いた!)

 金庫を開けて中を確認する。大きな宝石、金塊とともに目的の錫杖が置かれている。教えられた外観、描かれた絵と同じ物で本物に間違いなさそうだ。

(ビンゴッ!)

 一応罠が仕掛けられてないか調べて錫杖を手にとる。

(これであとは適当な物を盗って帰れば仕事は終わり)

 超高級品ではなく市場に流して問題無い程度の高級品を三つ見繕う。珍しい物のほうが高く売れるがそのぶんあしがつきやすい。腕のいい泥棒と思わせるためそこらへんも考えて盗む。動きを阻害されないように小さめのものを選んだ。警備がまだ寝ていることを扉越しに確認してから廊下に出る。
 近くの窓から外を見て警備がいなくなったのを確認してから外へ。はやる気持ちを抑えつつ慎重に塀へ近づいていく。塀を越えて屋敷から充分離れて酒場まであと半分といったところでようやく一息つく。集中力は落ちたものの警戒はしながら酒場に帰った。

「帰った」

 バルフは言いながら椅子に座り完全に緊張を解く。久々の現場はブランクのある身には辛かったらしく、塔探索のときよりも疲れていた。

「おつかれさん。それで錫杖は?」
「これ」

 盗んできたものごと渡す。師匠は間違いないかしっかりと確認して頷く。

「確かに受け取った。これで依頼は終了だ。
 それでどうだった半年振りの現場は?」
「疲れた疲れた。現役じゃしないようなミスもしたし、運良くばれなかったからよかったよ。早く宿に帰って寝たい」
「ミスか本当に腕が落ちたようだな」
「鈍ってる。現場から離れて半年もたつから当たり前なんだけど」
「報酬なんだが現金はウィリア家から受け取るだろ。ギルドからは別なものを用意しようかと思う。ただ現金がいいならギルドからもウィリア家と同じ額を渡すが?」
「どんな報酬か聞いてから決める」
「ギルドからは一回だけ大抵の無茶を聞くというものだ」
「は? …そりゃまた豪勢な」

 思った以上の報酬に驚く。どれくらいのものかというと今回のように保護料を支払っている家に忍び込むのに許可を出してくれたり、幹部でもないのにギルド員を使うことができる、さらには情報部が秘匿している国家機密級情報の閲覧だって可能だろう。

「なんでそこまでの報酬をだすんだ?」
「確かにこの報酬は高い。俺からは何も言えない、あえて言うなら金をもらっておくことを勧める」
「(金をもらっておいたほうが安全ということか。…意味なく気前が良くなるわけないからな……俺をギルドに縛りたい? 今回のが実力を測るテストを兼ねてたとしたら、達成できる人材は逃したくないか。今人材不足っぽいからなぁ。せっかく自由になったのにまた縛られるのもなんだし)金もらっとく」
「ん、それがいい。ウィリア家はいくら出すって言ってた」
「金貨二十枚」
「それくらいならここにもあるか」

 師匠はちょっと待ってろといい部屋をでる。情報屋へ金貨を取りに行ったようだ。言葉どおりすぐに戻って来た。手には金貨の入った袋を持っている。

「報酬だ」
「確かに二十枚。じゃ帰る」
「たまには顔を見せにこいよ」
「了解」

 バルフが酒場の外へ出ると東の空が白くなりはじめていた。さすがに今日の塔探索は勘弁願いたいと思ったバルフは宿に帰る前にルラの家に寄り不参加を告げる。ルラの家に寄ったのはしばらくは貴族の家に近寄りたくなかったからだ。
 宿に帰ったバルフは塔で魔物相手にしてるほうが気は楽だと思いつつ眠りについた。

ee383 at 20:32│Comments(0)TrackBack(0)第二部 

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