第12話三日坊主で終わった日記

2006年08月30日

第12.5話


 1
 朝起きてバルフからの伝言をフォルンから伝えてもらったルラは寝ぼけた顔でお仕事お疲れ様ですとバルフの泊まる宿へ頭を下げる。何してるんだと父に見られながらご飯を食べて協会へ向った。
 リリヤとカイと合流してバルフを待つ。ルラの頭からはバルフが来ないということが抜け落ちていた。

「遅いなバルフ」
「そうですわね。今まで遅刻はしたことなかったのに」

 ルラは黙ったままバルフが来ないことを思い出そうとしている。

「ルラ? さっきから静かですわね」
「うん。何かを忘れてるんだ。それを思い出そうとして………ああっ!」

 ぽんっと手を叩く。思い出せてすっきりしたのか眉間によっていたしわがとれ晴れやかな表情になっている。
 思い出したのはどんなことなのか知りたそうにリリヤとカイがルラを見る。

「バルフさん今日も来ないって。仕事が終わったの朝で宿に帰って寝るってさ。母さんに伝言託してた」
「…来ないはずだな」
「無駄な時間を過ごしましたわ」
「ご、ごめんね。これ聞いたとき半分寝てたし」

 テンションが一段階下がった二人にルラはパタパタと腕を上下に振りつつ謝る。

「これからどうしましょうか。今日も三人で探索に行きます?」
「なんかな〜気が抜けていまいちやる気が。私たちも休養日でいいんじゃないか」
「それなら装備品を買いに行きません? 全部を換えることはできないでしょうけど暇潰しにはなりますわ」
「僕はそれでいいよ。でもお金をとりに帰らなくちゃ」
「私もだな」

 一度解散して一時間後にここに集合となった。
 それぞれ探索をしながらこつこつ貯めたお金を持って集まった。リリヤとカイは家から与えられたお金は持ってきていない。自分の装備は自分が稼いだお金で買いたかったからだ。
 リリヤとルラはいつもバルフと一緒に買い物をしている。装備品やアイテムの目利きはバルフが担当していた。今回のように自分で選ぶというのは初めてだ。カイは三人と組む前は一人でこなしていたが、さほど長い期間ではない。このまま買いにいくと騙されたりしてお金を無駄にするかもしれないと三人は気付く。

「どうするか」
「商人の娘息子といっても目利きはできませんし。そもそも扱っているものが武具ではありませんし」
「誰かに聞いてみるのがいいよね。そうだカフィル姉さんはどうかな? 商人だし知り合いにお勧めの武具商人がいるかも」
「カフィルさんか。いいと思う、行ってみよう」

 どう動くか決めた三人はカフィルが店を出す場所へ向う。人々が行き交う向こう側にカフィルの店が見える。ちょうど客が買い物を終えたところで受け取ったお金をしまっている。

「カフィル姉さん」
「ん? ルー坊か。珍しいなこんな時間にくるなんてさ。いつもはもっと遅いのに。リリヤ嬢とカイもおはよう」
「おはよう」
「おはようございます」
「何の用事できたんだい。アイテムを売りに来たんじゃないだろ。昨日買い取ったしな」
「うん。聞きたいことがあって。僕たち装備品を買いたくて、でもバルフが今日はいなくてさこのまま行ったら騙されたりするんじゃないかなって」
「そうだね。なるかもしれない」

 簡単に想像できたのかうんうんと頷くカフィル。

「それでアドバイスをもらえないかしら。お勧めのお店とかあったら教えてもらいたくて来ましたの」
「いいよ。私の知っているところでいいなら紹介する。買いたいのは何?」
「僕はナイフか双剣。篭手と靴も欲しいかな」
「私は篭手か靴か鎧の下に着る丈夫な服ですわ」
「私は防具全般だな」
「Lvはたしか100に届くくらいだったよな」

 カフィルは考える。知っている店で条件に該当する店を探す。紹介するとしたら中級ランクの店で十分だろう。少し早いが防御を高くして悪いことはない。

「そうさね、シャイラホ武具店ってところかね。Lv的にちょうどいいし品揃えもそれなりにある。まあ店主はちょっとほらふきなところがあるけど商売自体には関係ないし」
「ほらってどんなことを言うんだ?」
「商品を手に入れる際に体験したこととか。苦労したのはたしかだったんだろうけど、それを数倍に誇張して話してたよ」
「それくらいなら害はなさそうですわね」
「笑い話の一つとして聞いておけばいいさ。それで場所はこっから西に歩いてカートン靴屋を右へそのまま歩いて行けば看板が見えてくる」
「ありがとうカフィル姉さん」

 気にするなと手を振り笑うカフィル。カフィルに別れを言って教えてもらったとおりに歩く。ウィンドウショッピングをしながら十分ほど歩いて看板が見えた。
 店内には何人かの客がいてそこそこ儲かっているようだ。店主は客の相手をしていて威勢良くいらっしゃいと挨拶をしてきた後は再び客の相手に戻る。
 武器防具はきちんと整理されて種類別に置かれている。一般用とは別に特に値段の高い武具は展示用コーナーが作られてそこに置かれていた。そこにある物は他の武具とは値段の0の数があきらかに違う。

「あの斧高いね30万シル金貨30枚だって」
「その二つ隣の槍も高いぞ。今の私たちには絶対買えないな」
「買っても扱えませんけどね。目的のものを探しましょう」

 特別品から目を離し自分たちに買えるものに目を移す。といっても一般品もそれなりに高い。欲しい物全ては買えないだろう。

「私は鎧だけ探すかな。全部を揃えなおすは無理だ」
「私たちもそうですわ」
「僕はナイフ見てくるよ」

 ルラは二人から離れて武器コーナーへ。リリヤとカイは欲しいものが近くにあるので一緒に探す。
 棚に並べれられたのと壁に飾られたものを合わせて二十本。これがこの店にあるナイフの数。あとは双剣も三組。それを前にしてルラは悩む。どれも手持ちのお金で買える。だがどれが今使っているナイフよりいいものか判断つきかねた。とりあえず一番高いものを手にとってみた。

「重っ。これは扱いづらいなぁ。他はどうだろ」

 壁に戻して他のナイフを見る。

「いらっしゃい。ナイフがいるのかい」

 客の相手を終えた店主が近寄ってきた。

「あ、はい。ナイフを買おうと思ったんだけど、どれがいいのかわからなくて」
「ふむ。今持ってるナイフを見せてくれるか? それを見て似ていて質のいい奴を探してやろう」
「お願いします」

 ルラは腰からナイフ二本を抜き渡す。店主は渡されたナイフを鑑定する。時間はかからずにルラに返す。

「そっちのナイフよりもいいものはこの店にはない。もう1本よりいいもので使いやすそうなものなら、これなんかどうだ」

 いいものだと言われたのはフォルンからもらったナイフだった。
 店主が渡してきたのは三番目に高いものだ。持ってみると重さも同じくらいで扱いやすいものだった。軽く振ってみる。

「これいいな。これにしよ」
「まいどあり」
「ついでにリリたちの装備も選んでもらえませんか?」
「かまわない。あっちにいる嬢ちゃんたちだな?」

 ルラと店主は一緒にリリヤたちのほうへ。リリヤとカイはあれこれと手にとって自分たちに合うものを探してる。

「リリ、まだ決まってないならおじさんに選んでもらったら?」
「ルラは決まりましたの?」
「うん。選んでもらったから」
「私たちも選んでもらうか」

 カイとリリヤも店主に欲しいものを伝える。使っている装備を確認して、注文と予算を聞いて店主はよさげなものを探す。カイにはハーフアーマーをリリヤには服と篭手を探し出してきた。

「この鎧はレギルメタル製だ。レギルメタルっていうのはレギル鉱石から作られた金属で、重量強度ともに鋼と同等だ。ただ少しばかり魔力を遮断する効果を持ってるから魔術に対する防御力も持つ。
 こっちの服は衝撃を吸収する布で作られてる。受ける衝撃を二割くらい減らしてくれる。
 篭手のほうはカフェイド合金製だ。カフェイド合金は銅とフェウタンって金属の合金で強度は若干鋼に劣るが、断然軽い。
 これらでどうだ?」

 二人は勧められたものを手にとってみる。店主の言葉どおりの品物で使い勝手もよさそうに感じた。買うこと決めてお金を払う。今使っているものは引き取ってもらった。ルラのナイフは思い出の品なので自分で持っておく。机の中に大事にしまっておくつもりだ。
 選んでもらったお礼を言って少し話す。

「ほらをふくと聞いてましたけど、全く言いませんでしたわね」
「そう言えばカフィル姉さんが言ってたっけ」
「カフィルの知り合いかい?」
 
 店主はカフィルの名前に反応する。

「いつもアイテムを買い取ってもらってる。カフィルに紹介されてこの店に来たんだ」
「そうかい。今度礼を言っとこうかね」
「親父さんはカフィル姉さんといつ知り合ったの? 僕は父さんとカフィル姉さんが商売相手だったから小さいときから会ってたんだ」
「俺はだな…」

 何かを懐かしむ顔になる。出会った頃のことでも思い出しているのだろう。

「俺は以前冒険者でなぁ。カフィルと会ったのはその頃だ。若手のホープだった俺は戦闘能力は高かったが頭のほうは弱くてよく騙されてた。アイテムを売るときも勘定をごまかされてたんだ。あるときいつものようにアイテムを売って騙されていたとき、それをちょうど見ていたカフィルが相手の商人にすごい剣幕で怒鳴ってくれて正しい代金を手に入れることができた。それがきっかけだ」
「カフィルさんそんなことやってましたのね」
 
 三人は店主の話に感心している。その反応を見て店主は嬉しそうにしていた。
 後日、この話をカフィルにしたところ、ところどころ間違っていることが判明。本当にほらふきなんだと実感した三人だった。
 アドバイスとして世間話は要注意とカフィルに教えられた。商売に関しては信じられることも。商品について嘘をつくと、売れなくなって生活が成り立たなくなるから真面目になるということだ。
 嘘を見抜いた客には割引サービスをやっているから、客は嘘をつかれても怒るということはないらしい。
 現時点では三人は気付いていないので感心したまま店をでた。

「そろそろお昼だけどどうする?」
「適当な店に入って食べればいいんじゃないか」

 その意見に反対はなく。近くの食堂に入って昼食を済ませる。そのあとはバルフに会いに行き、明日のことを確認。いつもどおりに集まることになり解散となった。

ee383 at 20:51│Comments(0)TrackBack(0)第二部 

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