パズルゲーム温かい

2007年02月07日

九話


 耳をふさいで、目を閉じてLet`s洞窟探検。
 Let`sとかつけると楽しそうだけど、まったく楽しくなかった。
 結論からいうと、どうにかなった。体中傷だらけだけど。オーラで体覆ってこれだから、念修得してなかったら……想像したくないネ。
 天空闘技場に帰るのがちょっと怖い。亜紀がなんていうか。
 どうやって合格したかというと、「円」と制約をつけて動かせるようになったロープを使った。
 とりあえずロープを床や壁にぺたぺた当てて、伝わってくる振動のみをヒントに進む。怪しいものがあれば円を使い慎重に進む。
 罠の解除はできないから、罠にロープを当てて発動させたり、気づかずに触れて発動させた。怪我はその際に負った。
 矢が飛んできたり、岩が落ちてきたり、催涙ガスが出たりしたけど、一番怖かったのはあれだ。落とし穴。心の準備ができてないときに、足元がなくなって自由落下。遊園地でフリーフォールに乗ったことがあるけど、あれの何倍も怖かった。落とし穴だけで、竹槍が仕込まれてなかったのは運がよかった。不意をつかれてオーラでの防御が間に合わなかったから、大怪我するところだったし。
 リタイアはせずにすんだけど、ゴールに着いたときは全身傷だらけ。いままで一番多くオーラを使ったから、オーラもすっからかん。目も耳も使えないっていうきつい状況のおかげで精神的にも疲れた。途中で諦めなかったのは、集中しててリタイアできることを忘れてただけだ。
 洞窟を出たときに出迎えてくれたのは、俺たちが洞窟をうろついている間にゴールに先に着た試験官。黄色の目が印象に残っている人。
 ヘッドホンと目隠しを外してくれて初めて、自分がゴールしたとわかった。

「はい。ここがゴール」
「な、なに? あっゴールしたんだ」

 気配とか音とかたてないで近づいてきたから驚いた。

「ずいぶんとぼろぼろね?」
「罠にたくさんひっかかりましたから。正直、念がなかったら今ここにいません」
「そうみたいね。ゆっくり休んで疲れをとりなさい。第四試験が終わるまで、まだ時間はかかるわ」
「そうさせて……もらい……ます」
「ちょっとここで寝ないで!」

 緊張感が緩んで、すとーんと気絶するように寝たんであの後どうなったのか知らないけど、起きたら飛行船の中にいたんで誰かが運んでくれたんだろう。感謝。
 枕元に、起きたら指定の場所まで来るようにと書かれた紙があった。
 それを持って部屋に向かっているのが今。
 寝たくらいじゃ回復していない体をひきずって歩く。少しして目的の部屋に着いた。
 ノックしたほうがいいのか?

「……やってみるか」

 コンコンっと。

「入っていいぞい」

 おや? この声は、

「失礼します」
「起きたようじゃの」

 部屋に入ると、想像したとおりネテロ会長がいた。もしかして面接? 次の試験で最後か?

「こっちに来て座りなさい」
「あ、はい」

 扉近くで止まったままだった俺を呼ぶ。
 亜紀がネテロ会長は強いって言ってたけど、よくわからんね。隙があるのかないのかすらわからんし、強さが計れん。
 この人以上っていうんだから、キメラアントの王はどれくらい強いんだか。俺なんかが対面したら、即美味しい餌になるのは間違いないね。

「さて今から何をするかわかるかね?」

 なんて答えるか。まあ知らないと答えとこ。

「いえ、わかりません」
「ま、そうじゃろう。今からやるのは面接じゃ。第五試験には関係ないがの」
「関係ないんですか?」
「うむ。なんとなく受験生と話したかっただけじゃ」

 それだけ?

「ついでに最終試験の説明もする必要がある」
「そっちがついで!?」
「ほっほっほっほ。
 さて、お前さんは念が使えるな?」

 さらっと聞いてくるね、この人。
 試験中にさんざん使ったから、隠さなくてもいいよな。オーラとかでわかるだろうし。

「はい。修行を始めて半年もたってないけど」
「能力は縄を使った何からしいの」
「なんで知ってるんです?」

 少し警戒する。能力を知られることは避けたほうがいいって聞いたしな。

「試験官から報告がきとるからの。詳しいことは聞かんから安心するといい」
「プロハンターですもんね。わかって当然か」

 いやほんと、気づいて当然なのに思いつきもしなかった。余裕なかったんだなぁ。

「念は使い方によっては危険なものになる。使えない者にとってはなおさらじゃ。
 お前さんはそれを得る機会に恵まれたわけだが、それをどう使う?」

 急に真面目な顔になる。雰囲気も顔を真剣だけど、目にちらりと面白がる光が見えた。
 それはともかく、どう使うか……決まってる、帰るため。でもそれを正直に言っても信じてはくれないだろなぁ。

「……強くなって少々のトラブルに巻き込まれても生き残るため」

 これも本音だし、納得してくれるはずだ。

「ふむ、強くなりたいのなら念はうってつけじゃの」
「偶然、天空闘技場で念使いを見かけて頼み込んだんです」
「あそこか、たしかにみつけやすいじゃろうな。
 ところでハンター試験はどうじゃった?」

 いきなり話が変わったな。

「そうですね。ほとんど運で突破した感じがします。あとはクモワシの卵が美味しかった」
「ああ、クモワシの卵か。世界にはさらに美味しいものがあるぞい」
「いつか食べたいですね〜」

 あの味を思い出す。

「そろそろ試験の話をしようかの。といっても簡単じゃ。プロハンターと戦ってもらう。これだけ。勝つ必要はない。受験生が持っている何かを見たいがための試験じゃから

な」

 勝つ必要がないのはいいけど、それでも合格条件があいまいで不安が残る。
 せっかくここまできたんだから合格したい。

「明日の朝九時に受験生一人ずつスタート。試験会場には試験官と受験生のみで、わしたち試験官は別の部屋で見学じゃ。受験生は呼ばれるまで別の部屋で待機」
「試験終了の合図とかは?」
「試験の目的が果たされたと判断されたとき、見学している試験官が知らせる。ほかになにかあるかの?」
「残ってる受験生とか、それと寝てる俺を誰が運んでくれたんですか?」
「残ってるのはお前さんを含めて、四人。感覚二つ潰して洞窟探検はきつかったようじゃな。
 運んだのはビスケットクルーガーというプロハンターじゃ」

 ビスケに運ばれたの俺? っていうかまだいたんだ。もうどっか行ってるもんだと。
 たしか第三試験終了で60人近く残ってたはず。十五分の一減ったのか……念が使えてよかった。それにしても念使わずに突破した三人すごいな。

「面接はこれでおしまいじゃ。寝ていた部屋に戻ってゆっくりと過ごすといい。それと部屋にある書類に名前とか書き込んでおいてくれ。ハンター証を作るのに必要じゃからの」
「はい」


<ネテロ>

 話したかぎりじゃ、危険人物ではなさそうじゃの。
 念をどのように使うか、念のことをどうやって知ったのかは隠してはいたが。
 隠し事をしたいのなら、もう少し演技の練習をしないとの。色々と隠せてなかったし。
 ビスケのことを知ってるのは確定じゃな。ほんとどうやって知ったのやら。強くはあるが、飛びぬけた功績はたたておらず有名ではないんだがの。
 戸籍ないやら、飛び入り参加で合格やら、珍しい奴じゃな。


<日空>

 部屋に戻って、さくっと寝て次の日。朝食をどうしようか迷っていたとき、ホテルの従業員らしき人が持ってきてくれた。どこに集合かも教えてくれ、時間どおり九時ごろ試験会場につくことができた。

「時間になりましたので試験を始めます。
 説明は昨日したので省きます。それではホライゾンさんこちらへどうぞ」

 受験生の一人が試験官に連れられて、部屋を出て行く。
 残ったのは二十歳を越えてるっぽい女と三十越えてるっぽい男。連れられていったのは、俺と同じ年くらいの女の子。
 適当に会話しながら自分たちの出番がくるのを待つ。俺が呼ばれたのは一番最後だった。
 案内された場所にいたのは、ビスケ。
 ……えっとビスケと闘うん?

「貴方の相手は私。名前はビスケット=クルーガー。よろしく」
「はあ。……あ、寝てた俺を運んでくれたそうで、ありがとうございます」

 ぺこりと頭を下げる。マッチョ状態じゃないだけましだよな。あの状態だと一発KO確実だし。この状態でも瞬殺される可能性は高いけどな。

『それじゃ始めてくれ』

 会長の声がどこからか聞こえてきた。
 ビスケの雰囲気が緊張を帯びたものになり、武術の構えをとる。
 俺もさっさと準備しないと。オーラを全身に行き渡らせて。ビスケの能力って戦闘向きじゃないから常時「凝」はしなくてもいいかな。
 ビスケは凝してるだろうから、ロープを「陰」で隠しても無駄っぽい。

「……」

 ビスケは動かない。こっちも動きづらい。隙はみつけられんし、突っ込むしかないか。
 んで、特攻したら見事に投げられた。ポーンと空を舞った。
 受身はとれたので起き上がると、ビスケが追撃で目の前にいた。
 手加減してるらしいパンチをなんとか腕で受ける。スピードは遅めなのに、思いのほか重くひびく。
 ……「流」のこと忘れてた!
 亜紀以外じゃ念能力者との戦闘って初めてだから緊張してんのかな。
 一度離れて凝を行う。ビスケが振り分けているオーラの量が見える。
 ビスケが動く。蹴りや殴りを見て、こっちも流で防御する。ビスケが攻撃、俺が防御という状況が続く。攻防は徐々に速度を増していく。というかビスケが徐々に速度を上げていって、こっちがなんとかついていってる状況。
 すぐに防御がおいつかなくなり、殴られ後ろに飛ばされた。

 追撃がくると思って、すぐに起き上がったけどこない。ビスケは殴った場所から動かずに構えたまま。
 今度はこっちが仕掛ける番? なんとなくそんなことを思った。
 なんだか試験というよりは、訓練に付き合ってもらってるみたいだ。
 ロープを出す。ビスケとの距離は約10m。届かせるには十分すぎるほどの距離。
 俺の意思に従ってロープはビスケに迫る。
 ビスケは避けた。避けられても捕まえるため追わせる。そのことごとくをビスケは避ける。
 ここで疑問がわいた。何の変哲もないロープなのにビスケはなぜ避ける? 捕まえて引き寄せて殴るということもできるはず。
 ……もしかしてロープに特殊な効果を持たせてると思ってる?
 これが正しいならチャンスだ。ばれる前に不意をついて、攻撃を当てよう。捕まえる方法はある。ビスケがジャンプして避けたときがチャンス。
 そのチャンスはすぐに来た。足元を狙って動かしたロープを、ビスケは跳ねて避けた。
 これを最後のチャンスと思い込み、制約で使えるようになった能力を発動。
 ロープから三本のロープが生えて、空中にいるビスケを掴む。
 これが制約によって使えるようになった能力。本当はロープ全部を陰で隠して、捕らえて動けなくするっていう使い方の予定。動けない、動きが鈍っている間に攻撃、もしくは逃げる。
 掴んだビスケを引き寄せて、殴ろうとしたとき、

「女の子を殴るんじゃない!」

 驚異的なバランス感覚で体勢を立て直したビスケに殴られた。
 まだ殴ってないってかあんた女の子って年じゃないだろ! 吹っ飛ばされながら、そんなことを思っていると会長の声が聞こえた。

『試験終了じゃ』


<ビスケ>

 会長に頼んで、気になったコの相手にさせてもらうことにした。
 ほんとは第四試験で受験生の合格は決まっていた。第五試験があるのは、私の提案を聞いて会長が面白そうだと判断したから。
 闘ってみてわかったのは、実力を隠していたわけじゃないということ。特別なところなどない一般的な念能力者。
 肩透かしをくらったけど、無駄に相手するよりは訓練してやろうと気持ちを切り替えた。
 「堅」「流」「凝」どれも一応使えるみたいだね。まだまだ甘いが。
 最後のロープ分裂は少し驚いた。空中に跳んだときは身動き取れないからね、いい判断だと思う。
 慢心せずに鍛えていけば、そこそこの使い手になるだろう。


<日空>

 最後のダメージが深くて動けない俺を背負ったビスケに連れられて、試験官と受験生がそろった部屋に到着。
 ビスケは適当な椅子に俺を下ろして、試験官のいる場所へ歩いていった。

「これで全員そろったの。
 おめでとう。君たち四人、ハンター試験合格じゃ」

 結局一発も当てられなかったんですけど。合格もらっていいんかな。それを口には出さない。もらえた合格を取り消されたくないから。
 講習を受けて、最後にハンター証が配られた。
 会長から手渡される。
 ハンター証を見ると、住所不明になってる。戸籍ないし当然か。なくさないようにポケットにしまってと。

「昨日聞いたことをまた問うが、ハンターとなってお前さんはどうする?」
「……強くなって目的を果たすまで生き残る」
「無事に果たされるといいの」

 試験官たちに見送られて宿泊していたホテルを出る。無事に生き残ったこととハンターライセンスをとれたことが嬉しく、天空闘技場行きの飛行船乗り場まで全力で走った。
 にやけながら走っていたので、変な人だと思われただろう。
 嬉しさのあまりお金をおろし忘れて、飛行船に乗れなくて焦ったのは情けないので秘密だ。ATMが乗り場にあったので助かったが。

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