第一部

2006年09月21日

外伝 月剣士

 1
 戦場に雨が降る。赤い色をした雨が。草木は赤に濡れ、大地には物言わぬたんぱく質が横たわる。戦場ではいまだ叫び声、悲鳴、金属音、爆発が響く。声よ枯れろとばかりに響く声には、ただただ生存を望む感情が込められていた。
 始まりの鐘が告げられてすでに数時間。戦いは終わりに向かっている。人の勝利という形で。対する魔物は退くくことなど知らぬとばかりに前へと歩を進める。味方の屍を越えて向ってくる様に怯えた人間を切り裂いてその屍さえ越えて。
 
「団長! クラスト大隊ならびにフォッツェン大隊担当区域殲滅ほぼ完了とのことです!」

 多くの兵と同じように鎧を血で染めた兵が剣を振るう女に報告をする。団長と呼ばれた女は剣を止めることなく指示を飛ばす。互いに兜に隠れて表情はよみにくい。

「あとはここだけか……月界を使う、回りの兵に離れるよう伝えて! いっきに終わらせる!」
「了解です! 団長もお気をつけて」

 報告をした兵だけでなく、回りで聞いていた兵たちも伝達の声を上げながら女から離れていく。数分もかからずに女の回り半径100mから味方がいなくなった。魔物は残った女に襲い掛かるが女が怯むことはなかった。
 女は見事な撤退ぶりねと微笑し剣を地面に突き刺す。女を中心に光が広がっていく。月と同じ色の光は触れた魔物に小さくはない傷を負わせながらもなお広がる。光から逃げる魔物はあらかじめ離れた兵士たちが相手をする。
 遠くから見れば地上に現れた半分だけの月だ。その月は人のいる場所に届く前に消えた。
 立っているものは団長と呼ばれた女だけで魔物は全て死んでいるか重傷を負って倒れている。女も大技を使い疲れ果てたようで片膝をついて息を整える。そこに報告をした兵士が駆け寄ってくる。

「団長! 大丈夫ですか?」
「私のっ心配はいいからっ…息のある魔物にとどめをっ!」
「すでに指示はだしていますから大丈夫です。だからゆっくりと息を整えてください」

 兵士の言うとおり息のある魔物は兵士たちによって次々ととどめをさされていく。団長の体力が戻ったときには魔物はほぼ殲滅完了していた。
 戦場に銅鑼が響く。戦いの終了を知らせる銅鑼だ。続いて声が響いた。生き残ったことを喜ぶ声、勝利を祝う声、散っていった仲間を悼む声、ただ心からの感情をだした意味不明な声。

「無事終わりましたね団長」
「まだ死体処理や提出書類とかの仕事が残ってるけどねぇ。まあひとまずは無事を祝いましょうか。陣地に戻って作戦成功の宴会をひらくわよ」
「了解です! 皆に伝えてきて」
「警戒は怠らないようにっていうのも付け加えておいて」

 兵士は部下に伝令を言付ける。伝令が各隊に知らせると歓声がそこらから上がる。
 部下たちの声を聞きながら団長は兜を外す。収まっていた青の長髪が風に流されるまま揺れる。普段ならばきつい印象を与える瞳は今は安堵に彩られている。薄い黄色の光沢を放つ剣を鞘に収めて歩き出す。

「セーナ私たちも帰るわよ」
「はい」

 兵士たちが去ったあとは物言わぬ死体のみが残り、辺りは静寂が支配した。しばらくして死肉狙いの動物が集い、遠くから賑やかな声が聞こえてくるまで静寂は続いた。
 
 日は暮れたがあちこちに焚かれたかがり火のおかげで結構明るい。手持ちの食料、狩りで捕まえた動物をふんだんに使い戦闘で腹が減った兵士たちに振舞われる。酒も出されて皆上機嫌だ。
 明るい雰囲気の中を団長が歩く。鎧は外していて剣を腰に帯びているだけだ。行く先々で出される料理と酒を適度につまみ、兵士たちと話をしてまた別の集団に向う。警戒に立つ兵士にも声をかけていく。

「団長こんなとこにいたんですか! 休んでなきゃだめですよ。月界は負担が大きいって自分で言ってたでしょう」
「皆が騒いでるのに私だけ仲間外れってのはやだよ。それに仲間とのスキンシップは大事だ」
「わからないでもないですけど、全部隊を歩き回るのは体調がいいときにしてください! テントに戻りますよ」
「わかった。ほとんど回ったから戻るよ」

 自分用に立てられたテントに戻ると寝床に連行され眠るまで見張られた。顔には聞こえてくる歓声が羨ましいという表情が浮かんでいた。
 次の日は死体の処理で一日が潰れた。魔物と人は区別してそれぞれを数ヶ所掘った穴に集め、魔術で出した高温の炎で焼却処理。穴を再び土で埋めて終了とした。そのまま土葬にしないのはアンデットとして復活する場合があるので、それを防ぐため。集めておいた遺品は家族の下へ届けられる。
 その翌日は死者へ黙祷を捧げたあと王都へ帰った。


 2
「真円騎士団第三師団団長フィスト・アウォック入室!」

 衛兵の声とともにフィスタが女王のいる玉座の間に入る。着ているものは戦場のような実戦的な装備ではなく、派手さを控えた装飾用装備だ。ただ剣だけは戦場で使っていたものと同じもの。
 両脇に立っている家臣団に見られつつ、女王の10m手前で止まり、片膝をついて臣下の礼をとる。家臣たちの視線は好奇心、羨望、不信と様々だ。
 
「立ちなさいフィスト」

 女王が声をかけて下を向いたままのフィストを立たせる。

「このたびの殲滅戦ご苦労様でした。無事に成功したと聞いてほっとしていますよ。そして団長としての初任務成功も祝福しています」
「はっありがとうございます」
「次に機会があったときも同じように成功を収めてくれると信じています」
「お任せください」
「あなたと第三師団に褒賞と休暇を与えます。ゆっくりと疲れを癒してください」

 はっと返事をしてフィストが他の家臣と同じように端に並ぶと、そのまま朝礼へと進んだ。
 朝礼が終わったあとフィストは自室に戻る。この部屋は地位の高い武官用の部屋で広めに作られている。場所は城のそば。隣には兵舎があり、兵士訓練用のグランドも近くにある。
 鎧を脱ぎ、服のみとなってお茶をいれて一息つく。部下たちは今ごろ褒賞金を受け取っている頃だろう。そしてそのまま街へとくりだすのか。そんなことを考えていると扉を開ける音が聞こえた。
 ノックも何も聞こえなかった来訪にフィストは怪しむことも慌てることもなく客を待つ。誰が来たのか予想がついているようだった。

「久しぶり〜フィスタ!」

 やってきたのはフィストと同じ色の髪をもつ二十才くらいの綺麗な女性だった。久しぶりと言いながら抱きついてくる。挨拶の軽いハグかとおもいきやフィスタの胸に顔をうずめて幸せそうにしている。

「久しぶりって二週間前に会ったばかりだし。それにこの国ではフィストって名乗ってるって言ってるじゃないの」
「二週間も経てば私にとって充分久しぶりなの! それに周囲に誰もいないし盗聴もされてないから本名を言っても大丈夫〜」
「あなたが言うなら誰も聞いてないんでしょうけど、気をつけてよ?」

 自信満々に断言する女性に全く疑わず、この人が言うなら本当に誰も聞いていないのだろうと信じているフィスト。意味なく信じているわけではなく、この信用信頼にはきちんと根拠があった。
 
「ムーいい加減離れてよ」
「もうちょっとだけ。ああ〜いいわぁ、かっこいいのに女らしさも兼ね備える! まさに私好みよ!」

 ムーと呼ばれた女の百合的発言にフィストは全く動じない。いつものことで慣れたのだった。気の済むまで好きにさせておくことにした。

「こんなのが神様の一人だなんてね」

 思わず呟いた声は夢中になっているムーには聞こえていなかった。
 フィストの言葉に嘘はなく、胸に顔を埋めている女は正真正銘六子神が一人月神ムーア。
 ムーアがこんなところにいるのは、ひとえにフィストを気に入っているからだった。古来より神は気に入った者に会いに来ることがある。これは文献にも記されていて、幾度か起きた事実だとわかっている。何度も起きたことではないことも。
 十五分過ぎてようやくムーは離れた。

「やっと離れたわね」
「できることならもっとしていたいんだけど、お客さんがくるし」
「客? もしかして」

 扉がノックされる。フィストが返事する前にムーがどうぞーと返事した。扉を開けて入って来た人はフィストの想像と一致していた。

「やっぱりムーも来ていたのね」
「マリスいらっしゃい。挨拶は朝礼のときにしたからしなくていいわね?」
「ええ」

 入って来たのは二十才半ばの女性で朝見たときと服装が違う。身に纏う雰囲気も変わらないが、威厳の中に親しさがプラスされている。軽く変装してはいるけれど、見る人が見れば女王だとわかる。

「マリスその「女王ですのよっ!」っていう雰囲気も消してよ」

 ムーが眉を顰めて迷惑そうに言う。マリスから威圧感が消える。それだけで女王様からただの綺麗なお姉さんに早代わりした。これならば街に出ても女王にそっくりな娘さんとして認識されるだろう。

「よくそんなものを消したり出したりできるねぇ」
「結構簡単よ? 表情を少し険しくして、シリアスモードになっていれば相手が勝手に勘違いしてくれるもの。フィストも試してみたら」
「無理」

 即答なフィストにムーはけらけらとマリスはあらあらとそれぞれ笑う。
 女王がお茶を準備し、残る二人はその様子を見ていた。初めてマリスがお茶を入れようとしたときは止めたフィストだが、聞き入れられず入れたお茶がおいしかったことから今では全く止めようとしない。

「それで2人とも何しに来たの?」
「「会いに」」
「ムーはわかるけど、マリスは今朝会ったじゃない」
「あれは女王として会ったのよ。今は友達として会いに来てるの」
「仕事は?」
「あなたが出ている間に前倒しで終わらせた。今日一日休みっていっていいわ」

 仕事がないわけじゃなく今日しなくてはいけないものもあるのだが、一時間も集中すれば終わらせることができる。

「だいたいどうしてマリスは第三師団に殲滅を依頼したの? 仕事の邪魔できないからフィストに会いにいけないし、怪我でもしたら大変じゃない! まあ怪我したら私の全力で治療するけど」
「二つ理由があるのよ。一つは実力のあるモンスターハンターたちがいなかったから。魔物が増えた場所が街に近くて早く退治しないと被害が大きくなる、それで探して頼むっていう時間がなくて騎士団使うしかなかったの。
 二つ目はフィストに箔をつけたかった。若い女っていうことで見下している奴らが多いのよ。任務を無事成功させれば少しは見直してフィストも動きやすくなるだろうって」

 もともとフィストは武闘大会で優勝してマリスの目に止まり、騎士団に勧誘されたのだ。実力と女王のお気に入りということで驚異的な昇進を繰り返し先日団長までのぼりつめた。知る者は少ないが月神の恩恵を受けているということもプラスになっている。
 急激な昇進と国外出身ということでフィストは王宮内で多くの反感をかっている。それを払拭するためマリスは今回の任務を命じた。今回の成功だけで好感を得られるとはマリスも思っていない。何もしないよりまし、そしてこつこつとやっていこうという考えだった。
 神の恩恵を持つ得がたい人材だし、女王としてではなくマリス個人として見てくれ、友達にまでなってくれたのでここまでいろいろとするのだ。

「私は礼を言ったほうがいいのかな?」

 自分のことを考えてくれての行動だとはわかっても、細かいところまではわからないフィスト。

「私自身にも利益があるから言わなくてもいいわよ」
「そう?」

 実際自分自身のためにもやっていることなので礼を言われなくてもかまわない。

「フィスト、遊月見せてくれる?」

 戦場で使っていた剣をムーに渡す。この剣はムーに初めて会ったときもらったものだ。先日数十体の魔物を斬ったというのに刃こぼれひとつなく歪みもなく、新品のままに見える。
 ムーは遊月をいろんな角度から見て点検していく。満足そうに頷いてフィストに返す。

「ん、どこも異常なし」
「ありがとう」

 受け取った遊月を鞘に戻して礼を言う。遊月を見たマリスが聞く。

「遊月ってさ、ムーが作ったものなの?」
「あの形にしたのは人間だよ。私は頑丈な鉱石に力を注いで腕のいい鍛冶職人を探しただけ」
「そうなんだ。人間が作るよりも神様が作ったほうがいいできになるんじゃないの?」
「そうでもないよ。私たちは自分で使うものは作れるけど、技術を磨かないといいものは作れない。ある程度のものは作ることができるけどね。
 生き物が切磋琢磨して作り上げてきた技術は私たちが作るものを超える。私たちのほうが力が大きいから、できた物の性能が上がるだけで、品質っていう点じゃ一流の職人が作る物のほうが上。
 あなたたちは自分たちの作り上げている技術を誇っていいのよ」

 そう言って笑うムーからは長い歴史を見てきた片鱗がうかがえ神様だと再認識させられる。
 このあとも話した三人はせっかくの休みということで街へとくりだした。
 美人三人が集まっていればナンパが寄ってきそうなものだが、そんなものは一切寄ってこなかった。

「遊月は役に立つわ〜」
「もともとはフィストに男が寄らないようにつけた効果なんだけどね」

 ナンパに邪魔されずに遊べるムーとマリスは上機嫌だ。フィストは複雑そうにしているが。
 ナンパが寄ってこない原因は遊月にある。ムーの言葉どおり男が近寄らない効果を持つのだ。男ならば誰でも近付けないというのは困るので恋心下心を持つ男のみという条件でだが。遊月を持つ前に親しかった男には効果がないという欠点? も持つ。
 これを知ったフィストの父はムーを嫌っている。早く孫を見たい父としては遊月は邪魔でしかなかった。
 邪魔が入らなかったおかげで思う存分遊べた三人は満足した一日を送ることができた。


 3
 時期は初夏。鎧を着込んでの訓練が辛くなり始めた季節。フィストは兵士たちと一緒に稽古にせいをだしている。大会優勝は伊達ではなく兵たちを相手にして負けることがない。

「団長いきます!」
「今度はセーナか…きなさい!」

 セーナは自国ドッドで主流剣技の構えをとり、対するフィストは父に教えられた剣技の構えをとる。一分近く動かずに対峙していた2人は計ったように同じタイミングで相手に向う。
 セーナの袈裟斬りを横薙ぎしようとした剣で受け止める。せりあいは数秒のことで離れた。すぐにセーナはフィストに向かい何度も剣を振る。フィストはそれらを剣で弾き、避けていく。

「腕上げたねセーナ」
「ありがとっございますっ!」

 当たらない攻撃を諦めずに続ける。このまま続けると体力がなくなると判断したセーナは決意する。それに気付いたフィストは動向に注意しつつも、何をするか楽しみにする。
 変化は急にきた。それまで一定幅の速度で振られていた剣速が跳ね上がった。それはただ一振りだけだが、フィストの不意をつくことに成功した一振りだった。フィストの鎧には確かにセーナの剣が届いた跡が。

「体全体に巡らせてた氣を腕に集中することで剣速をあげたのね」
「そのとおりです。それすらもまともに当てることはできませんでしたけど」
「ちゃんと届いてるわよ。何かやるってわかってたから反応できただけ、表情が変わらなきゃ当たってたかも。だから今後の課題は何かをやるっていう決意を表情にださないこと」
「了解です…」

 そこまで言ってセーナは倒れた。氣のコントロールで集中しすぎたのだ。
 セーナを医療室まで運ぶように他の兵に頼み、訓練の続きをしようとするフィストに声がかけられる。

「フィスト団長、知り合いを名乗る冒険者が面会を求めていますがどうしますか?」
「んー名前は聞いた? あと外見の特徴とか」
「はい。イサラ・ロネと名乗る十才ほどの黒髪黒目の少女、フーズ・コルカと名乗る二十才ほどの茶髪の男です。あと名乗っていない冒険者が2人います」
「イサラちゃんとフー君が? 会ってみようか、どこにいるの」
「正門で待たせてあります」
「わかった。報告ご苦労様。仕事に戻って」

 報告にきた門番は伝言がすむと仕事に戻っていく。
 きりのいいところまで訓練を続けるように兵に言うとフィストは正門に向った。そこには久しぶりに会う弟分妹分がいた。再会を喜ぶフィストにイサラにかけられた魔法が解けたというさらなる吉報が告げられた。
 喜びのまま仲間のアリアとローカスを紹介し、場所をフィストの自室に移したあともつきることなく楽しく話し続けたのだった。





フィスト・アウォック(本名フィスタ・ガーレン)二十五才
イサラとフーズの師匠マイク・ガーレンの一人娘。父の武才を見事に受け継いだ。ドッド王国真円騎士団第三師団団長を務める。世界有数の剣士にして、月神ムーアに愛され月剣士の二つ名を持つ。
持つ名剣遊月のおかげで男が寄らず同姓にのみ好かれる。戦場で遊月の効果がでると困るのでムーアに頼みこみ、戦闘の場での男払いの効果はでないようにしてもらった。
最近の悩みは部下の一人からの熱烈なアプローチ。


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2006年05月12日

第17話

 1
 イサラにかけられた魔法を解いた次の日には村を出る。もう少し滞在していったらいいのにと、何人にも言われたが、ゆっくりとはできないので簡単に事情を話して納得してもらった。
 ハルトに何度もお礼を言って別れを告げる。用事が済んだハルトも自分の住む街へと帰る。方向が一緒ならば馬車で送ったのだが、違う方向なのでマイクに送られることになった。

「ありがとうハルト。またいつか会えるといいね」
「はいです。また会えるのを楽しみにしてるです」

 何度目か、わからないイサラのお礼に笑って応える。

「また何かの魔法にかかっての再会は勘弁願いたいな」
「私は商売繁盛するから構わないですよ?」

 フーズの冗談にハルトも冗談で返す。
 フーズの背には大剣はない。破呪が使用不可能となってイサラが扱えなくなったのでイサラの家に置いてきた。イサラが成長するとまた使えるようになるかもしれないので、大事に保管してもらうようにと頼んでいる。

「それではお元気で」
「道中気をつけてな」
「お二人も無事目的達成してくださいです」

 アリア、ローカスそれぞれと握手を交わす。
 イサラたち四人は馬車に乗り込み出発する。それを少し見送りハルトとマイクも歩き出した。
 馬車に乗って旅は順調に続く。途中で洪水で橋が壊れていたり、怪盗事件に巻き込まれたが順調っぽく日数が過ぎていった。

「アー姉、あとどれくらいでつくの?」
「そうね、あと二日半といったところね。馬車で一日、森の中を歩いて一日半」

 イサラは馬を操るアリアの隣に座り話し掛ける。イサラの髪は縛られておらず、風に揺られている。魔法が解けたあの日から、イサラは髪を縛ることが少なくなった。
 変わったことはもう一つある。少しだけ落ち着いたことだ。いままでのように限りある時間のなかで、多くのことを経験しようと急いでいたのがなくなった。生来の好奇心は抑えられないので少しだけとつく。はしゃいでいてもどこか余裕が感じられる。

「歩き? 馬車はどうするの?」
「俺の住んでた村に預けることになってる」

 幌の中からローカスが答える。

「ロー兄の村はアー姉の村の近くにあるんだ」
「俺もアリアに会うまで森の中に村があるなんて知らなかったんだ。それなりに広い森だから隠れられたらみつけにくいしな」
「それで手紙がよく届くな?」

 配達業者もみつけることができないんじゃないか? と疑問に思ったフーズが声に出す。

「一般の業者じゃなくて特殊な業者に頼みますから。一般の業者だと村を探せずに遭難します。決められた道順を辿らないと村に辿り着けないようになってます」
「上級魔壊族が封印された場所だもんな、そこまでしないと駄目ってことか」

 そんなことを話しながら数時間後、日が落ちてローカスの故郷に到着した。ローカスの家族は突然帰ってきたローカスに驚いていたが、快く四人を迎えてくれた。
 ローカスの態度からアリアに惚れていると見抜いた家族がアリアを嫁さん扱いしたり。ローカス弟のイサラを見る目が熱っぽかったりと楽しい一夜を過ごせた。


 2
 翌朝、馬車をローカス一家に預けて森に向う。遠くに見える森に向って1時間ばかり歩くと草原と木々の境目に到着する。すぐには森に入らずに淵に沿って歩くアリアについていく。見た目には周りと何も変わらない場所でアリアが止まった。

「ここが入り口の一つ。ここのほかにあと二つの入り口があって、これら以外から森に入ると村には辿り着けないの」
「まったく見分けがつかないね」

 イサラは目をこらしてキョロキョロと違いを探す。フーズも違いを探してはいるもののわからない。

「もしかして」

 何かに気付き、木に近づいて確認するローカス。細かく調べて確信が持てたのか納得顔。

「アリア、ここらへんの木ってさ、他の木と似てるけど違う種類の木じゃないか?」
「当たりです」
「やっぱりか。疑って見ないと気付かないなこりゃ」
「知ってる人にはわかりやすく、知らない人には目立たないようにっていう目的で仕掛けられたものだから。
 ローカスはわかってると思うけど、獣とか襲いかかってくることがあるから注意してね」

 アリアに続き、イサラ、フーズ、ローカスの順で入っていく。ある程度の警戒はしつつ、話しながら進む。森は深いが光が多くさしているので、暗くじめっとした雰囲気は欠片もない。腹を空かせた獣を追い払い、時々休憩する。アリアにしかわからない目印を頼りに進行方向を変え歩く。こういったことを何度か繰り返すと日が暮れてきた。

「今日はここで野宿です。拾っておいた小枝で火をつけて食事にしましょう」

 ローカスが簡単なかまどを作り、火をつける。鍋を置いて魔術で出した水を中に入れる。拾った食べられるきのこと山菜をきざんで放り込み調味料で味付け。スープの完成。
 金属の棒にハチミツをまぜたホットケーキのもとをつけて火の近くに置く。パンもどきの完成。
 あとは拾った果物を洗い、切り分けて夕飯が完成した。多めに作ったので明日の朝飯にもなる。

「見張りは必要かな?」

 夕飯を食べ終わり、あとは寝るだけという状況になってイサラがアリアに聞く。

「そうね…夜行性の獣は少ないし、火を怖がって近づくこともなさそうだけど、一応見張りは立てておいたほうがいいかと」
「順番はどうする? アリア、俺、フーズ、イサラの順でいいか?」
「私はそれでいいです」
「俺も」
「うん」

 この順番に深い意味はない。アリアが最初に来たのはローカスの気遣い。途中で起こされるよりは最初か最後に見張り、まとめて眠ったほうがいいだろうと考えた。イサラに対してはアリアと似たような考えだが、体の問題で子供と同じように遅くまで起きていられないから、早めに寝せて早めに起こすということにした。
 こんなふうに考えて見張りをたてたが何事もなく朝が来た。

「もうそんなに時間はかからないから。昼前には村につきます」

 火の始末をして出発の準備を整えた四人。あとどれくらいで着くか話すアリアの口調は少し硬い。
 アリアの言うとおり、昼の二時間前には村に着いた。
 アリアを先頭に歩く四人に向けられる四種類の視線。大部分を占める驚き、次に安堵、疑惑、拒否。イサラたちの村と比べて、久々に帰って来たアリアに声をかけてくる村人は少ない。アリアの無事を祝う声はさらに。
 アリアは他の家と比べて大きめの家に「ただいま」と言って入っていく。

「おやおやおや。お帰りアリアちゃん。後ろの方々にはいらっしゃいませ」

 玄関で出くわしたのは柔和な表情の老婆。

「ただいま、おばあちゃん」

 村に入って硬くなっていった雰囲気は、この家に入ったときから柔らかくなっていた。そのいつもと変わらぬ雰囲気のまま祖母に挨拶をする。
 祖母の表情がかすかに変化するが、誰にも気付かれない程度の変化。その変化のあとにはさらに笑顔になった祖母がアリアの帰郷を嬉しそうにしている。村人からは感じることが少なかった、アリアに対する親愛が感じられた。
 祖母に案内されリビングに到着。アリアにお茶の用意を頼むと祖母は祖父を呼んでくると言って部屋を出ていった。すぐに祖母と同じくらいの年齢の男を連れて戻って来る。

「ただいま、おじいちゃん」

 祖母のときと同じように笑顔で挨拶をする。祖父の表情は驚きへと変わる。

「お、おかえり。アリアが…アリアが笑っておる。ばあさんの言うとおりじゃった」
「本当だって言ったでしょうに。長生きしてたらいいことがあるものね。アリアちゃんがまた笑ってくれる日がくるんだから」
「外に出したのは正解じゃったなぁ」
「あらあら、あんなに反対してたのに」

 しみじみと夫婦で語り合う。アリアが笑っているのがよほど嬉しいのだろう。語りの主題であるアリアは頬に一筋の汗を流し呆れていた。わずかに頬が赤く染まっており、恥ずかしくもあるらしい。

「おじいちゃんもおばあちゃんもそんなことをしみじみ話さないで」
「いやいや、じいちゃんとばあちゃんの気持ちはわかるなぁ。俺も初めてアリアの笑顔を見たときは見惚れたもんだ」

 若干ずれた同意の仕方をするローカスに祖父が「そうじゃろそうじゃろ」と爺馬鹿ぶりを発揮。しばらく小さい頃のどんなとこが可愛かっただの、旅の途中で見せたこんな仕草に見惚れただの盛り上がる。本題に入れたのは一時間後だったそうな。時間が結構ぎりぎりなことを理解しているのか、こいつらは。
 ちなみに村に辿り着く道順でわざと遠回りな道を選んでいたのはアリアだけの秘密。

「満足した?」
「ああ」「ええ」「うむ」

 イサラ、フーズと一緒に紅茶を楽しんでいたアリアは頃合いをみて話し掛ける。ローカス、祖父母の三人はアリアに満足した様子で答える。アリアはため息を一つつき、

「本題に入っていいのね?」
「その前にきちんとけじめをつけておかないことがある。イサラちゃんじゃったな?」

 視線をアリアからイサラに向ける祖父。先ほどまでのほのぼのとした様子は消え真剣な表情になる。その様子につられてイサラ背筋を伸ばし向き合う。

「村のものが迷惑かけてすまんかった」

 祖父は頭を下げる。その横で祖母も頭を下げている。上げた顔には悔恨の色が見える。
 アリアが書いた手紙によってラズがどんなことをしたのかわかっている。幼子の命を散らす事態になりかけたこと、村人の上に立つものものとして村の一員の考えを見抜けなかったことを悔やみ頭を下げた。

「結局はさらわれただけで、あとはなにもならなかったんだから気にしなくていいよ。アー姉から聞いたけどさらった人たちはちゃんと罰を受けてるらしいから、私はそれでいいと思ってる。
 だからフーズも機嫌を直して。ちゃんと謝ってもらったんだから」

 フーズは村に入る前から徐々に機嫌が悪くなっていた。イサラに害を成すものを嫌うフーズは実際にイサラに手を出したラズを嫌っている。そしてラズが住んでいた村にもそれは及んだ。イサラはそんなフーズの心境をわかっていた。

「………」
「フーズ」
「…わかったよ。嫌うのはラズとあのときいた奴らだけだ。アリアのじいちゃんとばあちゃんに対しては普通に接するさ。他の奴らは接してから決める」

 フーズはとりあえず気を落ち着かせる。祖父母は何を話しているかわかっていない。むやみに触れて暴発させることもないと、何を話しているのか聞くことはしなかった。

「今度こそ本題に入ろうかの」
「そうですね、おじいさん。こちらは事前にできる準備は全て済ませてありますよ。すぐにでも儀式を始めることができます」
「時間もないことだし、始めましょうか」


 3
 イサラたちと祖父母の六人は家を出て村の外れへと向う。祖父は家を出る前に自室から一本のナイフと一冊の本を持ち出してきた。儀式に使うものらしい。
 一行の前に暗闇を内包した洞窟が現れる。祖父を先頭に洞窟に入っていく。イサラが一歩足を踏み入れると洞窟の両側の壁に明かりが灯る。

「ほお」

 いままで幾度も通った道に現れた変化に祖父が感嘆の吐息をもらす。イサラとフーズは訝しげな目で祖父を見る。いま起こったことはいつも起こっていて見慣れているのではないかと思ったのだろう。

「光が灯るなど初めてじゃよ。いつもは松明やランプを使い道を照らすのだから」

 手に持ったランプを見せ歩き出す。

 明かりに照らされた道を辿った先、洞窟の一番奥。日ごろは闇が漂う空間にそれはある。明かりにさらされ、いつもは見えぬ全容を見せる。解読不可能な文字が刻まれた岩。数百年前から村がそこに住む人が守り、伝え、封じてきたもの。これぞ上級魔壊族を封じる岩。

「これが封印か」
「ぼろぼろだねぇ」
「だな」

 フーズ、イサラ、ローカスの言うとおり、目の前の岩はボロボロだった。いたるところにひびが走り、少しでも触ると割れそうな様相を保つ。ひびからは点滅する光が漏れる。イサラの魔法解除のときの光とは違い、嫌な感じをうける光。アリアが村を出る前に見たときと全く違う有様だった。

「封印が解ける日に近づくごとにひびが走っていったの。ピシリと音を立てたびに割れるんじゃないかと思ってたのよ」

 そのときの様子を思い出しても、目の前の岩を見ても動じない祖母。アリアは彼女の血を濃く受け継いだのだろう。祖父は顔色がよくない。

「そこらの怪談より怖いな。封印が解ければ実害があるぶんたちが悪いし」
「そうならないようにさっさと儀式を始めましょう」
「そうしようかの」

 アリアの言葉に賛同し、持ってきた本を開く。表紙には「サラ※ラ※ト写本二巻」とかすれた文字で書かれている。

「彼方からの道、闇に通じる民の血、遠く遠く帰る家に忘れられた鍵、夢の奥繋がる海」

 祖父の口から意味の理解できぬ言葉が紡がれる。五分ほど続いて止まる。

「イサラちゃん、こっちに来てくれないか」
「うん」
「すまないが、このナイフで指先を切って血を出してもらえんか。ほんの少しだけでいい」

 渡されたナイフを手に持ち指先に持っていく。フーズが何か言おうとする前にピッと刃を引く。指先に紅い線が引かれ、紅い玉が生じる。

「出したよ。このあとは?」
「血を岩につけてくれんか。うむ、ありがとう」

 言われたとおりイサラは岩に血をすりつける。フーズとアリアがイサラの指先を水で洗い、消毒し、薄布とテープを当て治療する。

「あとは1時間ほど岩に触れ続けたらイサラちゃんの出番は終わりじゃ」
「ありがとうね、イサラちゃん。私たちが二週間毎日三時間、祝詞をあげれば封印の儀式はおわるわ。1時間だけ我慢しておいてね」

 祖父母は無事に封印が進行し感謝の意を示す。
 イサラが岩に触れて一時間。その間に岩にはいっていたひびが一本づつ消えていった。一時間経つ少し前には全てのひびは消え、岩から漏れていた光もなくなった。
 あとから聞いたイサラの感想だが、触れたときに岩の欠片がパラパラと落ちていって、岩の脆さが怖かったらしい。

 封印の儀式が始まって三日、四人はアリアの家で今後のことを話し合っていた。

「これで私たちの目的は全て果たしたわけですね」
「だねぇ。これから何しようかな〜」
「フィス姉ちゃんに会いに行くっていうのは決まってるけど、そのあとはな」
「そんなこと言ってたな。俺らは何も目的がないぞ」
「イサラたちについていくのもいいかもしれませんね」

 話してみたものの今まで目的があって、それに一直線に進んできた四人は明確な目的が思い浮かばない。

「うーん…そうだね〜、一回村に戻ってお母さんたちと過ごすのもいいかな」
「この前は落ち着いて過ごしたわけじゃないからな、それもいいかもしれん。師匠にフィス姉ちゃんの詳しい居場所聞かなきゃいけないし」
「じゃあ一回村に戻るってことで」

 イサラとフーズはどうするか一応決まった。

「俺たちはどうする?」
「私としてはイサラと別れたくはないですね」
「ふむ」
「それと村に長居はしたくありません」

 その理由はこの三日でわかっていた。村人たちのアリアに対する態度が原因だ。よそよそしく村の一員と認めていない感じをうける。大半がそんな感じで拒絶は少数。親しく接するのは家族とごく少数。
 村人の態度はハーフに対する偏見とアリアの母親が村外の出身だったことからきている。
 小さい頃からこんな環境で育っていれば笑顔がなくなるのも当然か。マイナスの方向へ思考が進み、悪循環にはまっていく。家族のフォローがあればこそ村に居続けることができたのだろう。
 だからこそアリアは仲間を大切に思う。自分の存在を認めてくれる相手を大事にする。イサラのことで怒ったときもこのことが起因の一つ。
 アリアが再び笑うようになったのは村を出ていろんなことを経験したということもあるが、ローカスのおかげでもある。

「またマイクさんのところにやっかいになるのも悪いしな」
「そうですね。イサラたちはどれくらい期間、村に滞在するの?」
「どれくらいいようかフーズ?」
「一ヶ月くらいでいいじゃないか? そのあとドッドに向う。アフィーラに転移屋があったから、使って行けば時間かからないし」

 ドッドは三つある人間の王国の一つ。ユウリン大陸にあり、ここから行くには船か転移屋を使うしかない。船を使うと時間がかかりすぎるので、大半の旅行者は値段が高くても転移屋を使う。

「それなら俺たちはアフィーラに戻ってるから、ドッドに行く前に嵐の坂亭に寄ってもらえばいいか」
「私はそれでいいです。そういうことでお願いできますか?」

 アリアはイサラ、フーズを見て頼む。二人が了承したことで簡単ながらこれからのことが決まった。
 このあと祖父母に儀式完了を待たずに村を出ることを話す。二人はわかっていたようで強く止めることはなかった。アリアの父親がもうすぐ帰ってくるので、会ってから行きなさいと言うのみ。いなくなるのは寂しいが笑顔が再びかげるのは避けたいのだろう。

 数日後には四人は村を出た。イサラ、フーズ、ローカスは村を出るときに祖父母と父親からお礼を言われた。特にローカスが強く感謝された。アリアに笑顔が戻ったのは誰のおかげかわかっていたらしい。
「これからもアリアのことを頼む」と頭を下げられ、ローカスには「子供の顔を見せにきてくれ」と付け加えられた。
 四人は話し合ったとおりに二手に別れる。

 時間が過ぎて王都で再会し、ドッドから帰ってきて、塔に挑戦する。そのときにもトラブルに見舞われることになるが、それは別の機会に。きりがいいので彼らの話はここまで。機会が巡ってくれば、また語ることになるだろう。


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2006年05月05日

第16話

 1
 氷閃鳥の羽を手に入れた。そして今は宴会の真っ最中。
 前回、氷閃鳥を倒しワンドを手に入れてから四日が過ぎ、定めた期限十日前になりようやく入手できた。
 呼びの粉を使う覚悟をして移送陣に入り、目の前にいた氷閃鳥を倒したところ手に入った。気合いが空回りし少々物足りなさを感じたが、手に入れられたからOKと思い直す。結局、呼びの粉を使うことはなかった。
 羽を手に入れた四人はそのまま移送陣に直行、先に進まずに協会に戻る。道具屋で鑑定してもらうため急いで外に出た。四人とも羽がどんな形をしているかは知っていたが、念のため鑑定してもらった。

「どうだ氷閃鳥の羽で間違いないか?」
「ん、氷閃鳥の羽だ。で売るのか?」

 勢い込んで聞くローカスにいつもと変わらない態度で応じる道具屋。

「誰が売るか!」

 鑑定結果が出て氷閃鳥の羽だと確定するとイサラ以外は歓声を上げる。その喜びっぷりに周りの人々はわけもわからず拍手を送る。
 一人歓声を上げなかったイサラは紫宝玉を手に入れたときと同じように涙を流していた。涙は流れてはいるが笑顔だ。望まずにかけられた魔法が解けるのだから当然な反応か。泣き笑いのままフーズにしがみつく。フーズは笑い声を上げながらイサラの頭をなでる。

「これで魔法が解けるな」
「うん」
「時間かかったな」
「うん」
「魔法が解けたらフィス姉ちゃんにも会いに行こうな。魔法解けたよって」
「うん」

 喜びのまま嵐の坂亭に戻り、宿全体を巻き込んでの宴会となった。この宿には騒ぎたい奴が多いので一時間もぜずにどんちゃん騒ぎになる。この騒ぎは宿を閉めても続き、終わったのは深夜一時だった。調子に乗って飲みすぎたせいか、次の日騒ぎに参加していた者たちのほとんどが二日酔いで苦しむこととなった。
 酒を飲まなかったイサラを除いた三人も二日酔いからは逃れられず一日寝込む。出発の準備に使う予定だった一日を二日酔いで潰す。イサラが一人で必要なものを買いに出かけようとしたが、買い物の量の多さと以前誘拐されたという理由で止められた。
 買い物を済ませ、宿を解約、馬車を手に入れるといった準備を整え、王都を出たのは氷閃鳥の羽を手に入れて三日目のことだった。


「いい天気だ」

 王都を出て四日目、馬車を操縦しながら空を仰ぐローカス。塔で魔物相手に戦う日々と比べてあまりに平和な時間。
 
「操縦中によそ見するなよ危ないだろう」

 フーズが馬車の中から声をかける。イサラとアリアは春の暖かな陽気に誘われて寄り添い昼寝中。

「少しくらいなら大丈夫だろ? 見渡す限りの草原と道しかないんだからな」
「それもそうだな」

 幌の隙間から見える風景を見て頷く。

「お前たちの村につくまであとどれくらいだっけ」

 少しの間、無言な状態が続いたが暇なのかフーズに話し掛ける。

「えーと、王都から馬車で一週間とちょっとだから…長くても六日」
「あと六日か〜。暇だ」
「気持ちはわかるけどな。気を抜きすぎるなよ、魔物や盗賊がいないわけじゃないんだから」
「わかってる。けど少しくらいなら何か起きてもいいんじゃないかと」

 その言葉の数秒後、右前方の草むらがガサガサと揺れる。続いて左側の草むらも。ローカスは馬車を止め警戒態勢に入る。

「望みどおり何か起きたぞ?」

 フーズの声はちょっとだけ冷たい。草むらから現れたのは八頭の狼。腹を空かせていてこちらを襲う気は満々だ。

「ほんとに何か起きるとは。……先に出て相手してるからアリアとイサラ起こしてくれ」

 上手い言い訳が思い浮かばず、ごまかすように狼たちに向っていく。

「了解っと。おーい二人とも起きてくれ、狼が襲ってきたぞ」

 適当に揺さぶって起こす。起きなくても構わないという気分だろう。ローカスに対する罰というわけではなく、あれくらいの狼ならローカス一人で大丈夫だと信じている。実際、ローカスはかすり傷で戦闘を終わらせた。
 気持ち良さそうに眠る二人を起こすのはためらわれて、結局起こさなかったフーズがアリアの代わりに傷を消毒、治療し再出発する。
 この後も時々襲ってくる魔物を撃退しながらたいしたトラブルもなく村に到着した。


 2
 村人たちは帰ってきたイサラとフーズを驚きの表情で迎える。二人は挨拶もそこそこにして師匠の住む家に歩いていく。二人の後ろを歩くアリアとローカスには訝しげな視線が向けられる。といっても拒絶ではなく、純粋にあれは誰だろうという疑問の視線。

「師匠入るぞー!」

 フーズは言葉と共に家に入っていく。この家は広さは他の家と同じだが、隣に道場を持っていた。
 返事を待たずに勝手に居間まで入っていくと初老になりかけの男が椅子に座り待っていた。髪に白いものが混じってはいるが、背筋はまっすぐで体全体に適度な筋肉がついている。年を経てきた重みが雰囲気として現れていて、大樹を思い起こさせる。そしていまだ現役といって通じるものを持っていた。
 この男の名前はマイク・ガーレン。イサラとフーズの師匠だ。

「帰ってきたか。して土産は?」
「ない!」
「なんじゃとう!?」

 そんなに驚くことか? というくらいに驚くマイク。

「本当かイサラ!?」
「うん、忘れてた。王都で買った飴ならあるよ?」
「飴よりも饅頭とかがよかったのう」

 そう言いながらも飴を受け取る。肩を落とすその様子には最初に纏っていた厳格な雰囲気が感じられなかった。あまりの変化にローカスは呆然としている。アリアは微笑のままで動じていないように見える。

「んで、そちらの二人は?」
「アー姉とロー兄は紫宝玉と氷閃鳥の羽を探すのを手伝ってくれたんだよ」
「おお! それは礼を言わんとな。ありがとう」
「い、いえ、私もイサラに手伝って欲しいことがありますから。お互い様です」

 頭を下げるマイクにつられてアリアも頭を下げる。
 マイクは皆を席に座らせ、緑茶を出す。初見の者の自己紹介が終わったあと、マイクがイサラとフーズが村を出てからの話を聞いてくる。フーズもイサラも何度か家族やマイクに手紙を出したが、起きたこと全てを書いたわけではなかった。
 大体を語り終わった頃にはイサラとフーズの頭にお叱りの一発が叩き込まれていた。破呪と氣の件に対してだった。イサラはやむおえない事情だったから軽めで済んだ。フーズは怒りで我を忘れて使ったとばれて、きつい一発をもらう。

「ただいまです」

 話を終えてフーズが頭をさすっていると誰かが帰ってきた。イサラとフーズにも声に聞き覚えがない。扉を開け入ってきたのはアリアと同年代の女性。肩まで届かない白い髪、淡い青の目、150半ばの身長。動きやすい服装で背には何か入っている籠を背負っている。

「お帰り。どうじゃった、何かいいものはみつかったかね?」
「まあまあといったところです。ところでこの方たちは?」

 籠を下ろし、扉のそばに置きながら聞いてくる。

「わしの弟子とその仲間じゃ。それとお前さんの客でもある」
「魔法の解除を望む人。必要なものはそろったですか?」
「そのようじゃな」
「さっそく準備始めるです。紫宝玉と氷閃鳥の羽をください」

 手を出してくる。

「まあ待て。自己紹介くらいしてもいいじゃろう」
「師匠、この人が解除の魔法使いなのか?」
「うむ」

 少し驚いた感じのフーズの問いに頷いて答える。

「なんというかもっと年取った人が来るもんだとばかり」

 解除の魔法を独自に研究し使えるようになった魔法使いならば、フーズの言うとおり年を取った人物が来ていただろう。ただし世の中、一世代かぎりの魔法使いばかりではない。

「もしかして魔法を受け継ぐ家系なのか?」

 以前、聞いたことのある知識を声に出すローカスに白髪の女性は頷く。

「はいです。うちは五世代前から解除の魔法を受け継いで、生業としてます。
 私はハルト・ジュネルイン。六代目解除師です」
「ハルト嬢ちゃんはわしの友人の孫でな。解除の依頼を友人に頼んだんじゃが、引退しておってのお。代わりに嬢ちゃんを送ってくれたんじゃ。一人前として認められておるから腕のほうは心配せんでいい」

 
 3
 ハルトに紫宝玉と氷閃鳥の羽を渡し、九日が過ぎた。
 この間にイサラ、フーズは久しぶりに家族と過ごす。アリアとローカスはマイクの家に滞在していた。久々の師匠と弟子の腕試しも行われる。ローカスも交えて行われた腕試しはマイクの全勝に終わった。
 積み重ねられた修練の技と動作を見切る確かな目、自らの体を正確に動かす技能を持つマイクは完成された剣士の一つの型と言える。氣を使用し戦えば、勝てはしないが破呪状態のイサラともいい勝負できるだろう。欠点を挙げるとすれば、老いによる体力低下で全力の時間が短いことか。

 いよいよ解除の魔法をかけることになりイサラとフーズはマイクの家に呼ばれた。家主であるマイクに案内され、ハルトが待つ道場に向う。アリアとローカスは先に行っている。イサラの家族も呼ばれてはいるものの家で祈っていると言い辞退した。
 道場に入ると以前はなかった陣が目に入る。陣のそばには仕事道具を持つハルトが立つ。アリアとローカスは作業の邪魔にならないように端に寄っている。

「待ってたです、イサラ。こちらに来て陣の中に入ってください」
「わかった」

 緊張した様子のイサラはぎこちない動きで陣の中へ入っていく。動きが鈍く、顔色が優れないのは緊張のせいだけではなく、魔法に対する拒絶感のせいでもある。

「始める前に規則なのでこれから行う儀式と使う道具の説明するです」

 ハルトは両手に持つそれぞれの道具を全員に見せる。右手の氷閃鳥の羽はわかるが、左手の液体はわからない。色は紫宝玉と同じ色なので宝玉を加工したものだと推測できる。

「氷閃鳥の羽は邪を封じる力あるです。イサラに持ってもらいます」

 マイクは羽をイサラに渡す。

「次にこの液体です。紫宝玉をハンマーで砕き、石臼でさらに砕き、すり鉢でもっと砕いて粉末します。この粉と永久凍湖の氷を溶かした水を混ぜ、日光と月光に一週間さらしたものです」

 左手に持つ液体を振る。三角フラスコの中で紫の液体が光に反射し綺麗に閃く。

「儀式の説明に移るです。大雑把にいうと魔術と陣と液体を使い、魔法をイサラの体から追い出すです。追い出した魔法を羽に移して、燃やしたら終わりです」

 早速始めるです、と言って魔言語を紡ぎ始める。
 ハルトは目を閉じ朗々と三時間唱え続ける。途中で振りまいた液体は地に落ちることなくイサラを中心に舞っている。ハルトが魔言語を止めると液体がいっきに蒸発する。それを見届け再び紡ぎ始める。
 さらに二時間が経過する。朝から始められた儀式は昼に突入した。見物人たちは誰も退出せずに儀式を見守る。イサラはずっと緊張が続いており辛そうな表情だ。
 ハルトの目が開かれ魔言語が止まる。イサラの体から白い霞が出てきて、氷閃鳥の羽に吸い込まれていく。その過程で羽は真っ黒に染まっていく。
 羽が染まりきると光の粒がイサラに降り注ぐ。光が降るのと同時に一言の呟きが聞こえた。






「あ」






 静かな空間にとてもよく響いたそれはハルトから発せられた。

「終わりました」

 何事もなかったかのように終わりを告げる。

「「待て待て待て待て!!!」」

 当然のごとく最後の呟きに不安にさせられたフーズとローカスが突っ込む。マイクは「ほっほっほっほ」と笑ってはいるが頬に一筋の汗が流れているし、アリアにいたっては説明次第ではどうなるかわかりませんよ? とばかりに笑顔で怒気を放っている。
 注目のイサラだが緊張のしすぎと呟きによる不安で血の気が引いて白い。顔色どころか見えている肌全てが白い。

「落ち着いてください。ちゃんと成功してるです。昼食をとったら説明するです」

 遅めの昼食を取った後、待ち望んだ説明が始まる。

「始めに言いますがちゃんと成功してるです。話に聞いていた破呪というのも使えなくなってるはずです。試してみてださい」
「う、うん」

 イサラは不安な様子で髪を縛る紐を解く。そこで止まり破呪を使おうとしない。成功としたと言われても実感が湧かず、ためらいがあるのだろう。

「プロが成功したって言ってるんだ、心配することないと思うぞ」

 フーズがイサラの頭をポンポンと軽く叩きながら言う。その言葉でわずかに勇気を得たか、イサラは破呪を使う。数十秒過ぎて一分経過しても何も変化が起こらない。急な成長もせずに、力が増すこともない。

「フ、フーズ? 何も起こんないよ?」
「そ、そうだな。何も起こらないな」
「「ということは…解けた!!」」

 破呪を使っても変化しないことから解除の確信をもてた二人は喜び出す。アリア、ローカス、マイクもフーズをバシバシ叩いたり、イサラをなでたりと喜びを表す。
 ハルトは自分の使った魔法で喜んでもらえたのが嬉しく笑顔だ。
 ひとしきり騒いだ後、説明が再開される。

「それで儀式の最後に呟いたことなのですけど」
「そういやその説明を聞きたかったんだ。嬉しくて忘れてた」

 本気で忘れていた様子のフーズ。他の四人も似たような感じ。

「儀式の最後に光が注がれたです? いつもはあんなこと起こらないです。だから思わず呟いたです」
「そういや儀式の話を聞いたことあるけど、光が出たとは聞いてないのう」
「以前、似たような現象は起きたことなかったのか?」

 ローカスがハルトに聞いてみる。聞かれたハルトは目を閉じ自分の経験だけではなく、提出された報告書も思い出してみるが、あのような現象は一度も起きたことがないと判断する。

「起きたことないです。イサラたちは何か原因となるようなこと思い出せないです?」

 逆に問われて五人は考えてみる。イサラとフーズの記憶に何かひっかかる。似たようなことがここ数年で起きたような。

「何かひっかかるんだ。五年も前のことじゃない」
「フーズも? 私もなんだけど」

 イサラとフーズはそろって頭を悩ませる。

「私たちに覚えがないってことは、出会う前にあった何かでしょうね」

 その言葉で初めて王都に行った頃のことを思い出していく。宿に行って、協会に行って、説明を受けて、

「「思い出した!」」

 二人の頭の中で思い起こされるのは挑戦の門。初めて触れたときに注いだ光と聞こえた言葉。あのときの光と同じだった。そのことを告げる。

「声? 俺が門を触ったときは聞こえなかったぞ」
「私もですね」
「わしもじゃな」

 挑戦の門に触ったことがある者は声など聞かなかったと不思議な顔をする。

「それらのことが原因かもしれないです。害はないと思いますが、一応鑑定をうけることをおすすめするです」

 ハルトのアドバイスに従い、村の鑑定士に見てもらうことにする。会いに行った鑑定士は九年前にイサラが魔法にかかったことを見てくれた人だった。魔法が解けたことやその際に起きたことを話し見てもらう。
 
「これはっ!?」

 イサラを見ていた鑑定士が目を見開く。以前の鑑定士の目にはイサラの中に鎖に巻きつけられた青い玉が見えていた。その鎖が青い玉から何かを吸い取り、色が濁っていったことから寿命が削られているとわかった。
 今は鎖はなくなっている。魔法解除を行ったことから、これは予想できた。では何に驚いているのか?
 答えは青い玉の色、輝き。二年前、鑑定したときより、さらには初めて鑑定したときよりも強く鮮やかに放たれる蒼に目を疑う。いくら目をこすって瞬きを繰り返しても何も変わることなく蒼がある。
 これが示すのはすなわち、

「…寿命が完全に元に戻ってる…」

 呆然と告げられる。完全には戻らないとされていた寿命が、魔法をかけられる前と同じになっていた。
 誰にも解明はできないし今後も謎のままだが、悔しさのなか前に進みつづけたイサラとフーズへ贈られた神様からの祝福の光が原因だった。
 紫宝玉と氷閃鳥の羽を自分で手に入れるという手段をとらず、買っていたら完全回復といったことは起こらなかった。そういった意味ではフーズが我侭を通したおかげとも言える。誰にも知られることはないが。
 なぜかはわからないがとにかくめでたいと喜び騒ぐ。この騒ぎはイサラ完全回復というニュースとともに村全体に広がって宴にまで発展した。


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2006年04月28日

第15話

 1
 イサラ誘拐から時間は過ぎて、封印が解けるまであと半年をきった。ラズのちょっかいで約二週間という時間の失ったが目標の二百階到達は達成し、今は201階。これから二ヶ月で氷閃鳥の羽を手に入れることが最優先事項となった。
 ところで二週間という手痛い打撃を与えたラズ一行はお菓子屋店長や近辺の目撃者の証言もとれ、犯罪者となり牢屋へ放り込まれた。アリアがこのことを祖父に手紙で知らせたことにより、祖父がコネを使って国のお偉いさんがラズたちをブラックリスト入りさせた。これでアフィーラ国内限定の賞金首となり、数年の強制労働のち国内退去というコンボとなった。生死問わずなので平和でいたいのならば国を出て行くだろう。
 アリアの祖父がお偉いさんにコネがあるのは、国のトップも村に上級魔壊族封印があると知っているから。どこにどんな危険があるか知っておくのは当然のことだろう。万が一封印が解けた場合に備えて魔法の通信設備もある。
 ブラックリスト入りさせたのは魔壊族封印の鍵であるユオンの兆し所有者が、封印する前に殺される可能性があったと報告されたから。ラズたちは国に仇なす犯罪者となった。こうなったのはラズたちへの説明不足も要因の一つなんだが、私怨が入りあえてそのことを証言することはなかった。
 フーズの足はとっくに治り、なんの支障もない。治ってから今日に至るまで二回、氣を使いイサラに怒られ後衛でおとなしく魔術だけ使うといったことがあった。怒りにまかせてではなく仲間を助けるために使ったので、イサラも強くは怒ることはできなかったが。

「ようやくここまで来れたな」
「そうだねぇ」

 ローカスが感慨深げに言いイサラも同意する。アリアとフーズは何も言わないがどこか嬉しそうだ。初めてパーティを組んだときよりも成長した彼らが201階に立っている。目的を果たすまでもう少しなのだから嬉しくて当然か。
 今の四人の強さはイサラ、フーズがLv179。アリア、ローカスがLv181。
 冒険者全体から見ると中堅といった実力。Lv=力量というわけではないし、四人は塔に来た当初から中の下くらいの実力は持っていた。それでも他の冒険者と比べて成長速度はやや早い。普通はじっくりと万全の態勢を整え塔を攻略していく。

「あとは氷閃鳥の羽だけですね」
「運任せだからなぁ。少しばかり不安が残る」
「その気持ちはわかりますが、いざとなれば奥の手がありますから」
「奥の手?」

 アリアとフーズの会話に出てきた奥の手とやらにイサラが興味を示す。 
 
「いつも行く道具屋とは違う道具屋でみつけたものなんですけどね」
「そういや、この前なんか買ってたっけ」

 ローカスはアリアの言う奥の手に覚えがあるらしい。数日前に買い物に付き合っていたから、そのときに購入したものなんだろう。
 アリアは懐から小袋を取り出しイサラに見せる。中には粉が入っている。

「この袋の中の粉が奥の手?」
「呼びの粉っていう名前でね。火をつけると魔物が好きな匂いを辺りに漂わせて、呼び寄せることができるの。魔物の種類は特定できないし、次々と集まってくるから使いづらい道具なんだけどね」
「下手すると全滅の可能性もあるって感じだね。まさに奥の手」

 イサラは感心しながら袋を見つめている。

「最終手段とも言えるよな?」
「切羽詰ったら使わざるおえない道具。うん、最後の手段のほうがしっくりくる」
「まあ確実とは言えませんし、危険もつきまきとう道具ですからね」

 上からローカス、フーズ、アリアの順。できれば使わないでいれたら、そのほうがいいといった雰囲気を醸し出している。

「いつまでも話してないで氷閃鳥を探そうや」

 ローカスの一言を合図に隊列を組み、迷路を進んでいく。襲い掛かってきた一匹のトライホーン(ホーンランナーの上位種)を倒して進んだ五つ目の部屋。そこに二羽の藍色の鳥がいた。
 鈍い青の羽はぬらりと光を弾き、吐く息は小さな氷粒が混じる。二羽の周りにはうっすらと霜が下りていた。
 氷閃鳥の羽を探すのに持ち主の姿を確認し忘れるという大ポカをしているイサラとフーズはあれが何か気付かずに戦闘態勢へと入る。
 ちゃんと確認したアリアとそのときに付き添っていたローカスはあれが氷閃鳥だと気付いているが、変に力が入り苦戦しないように戦闘後まで黙っておくことをアイコンタクトで合意に達した。

 戦闘が始まる。互いに気付いているので奇襲はない。アリアが魔術を使う準備に入り、同時に氷閃鳥の開いた口内に白い何かが現れる。

「エアプレスショット!」

 以前よりも威力を増した風の魔術を放つ。
 イサラとローカスがアリアの魔術の後ろから氷閃鳥に駆け寄って行く。二匹の氷閃鳥は向ってくる風の塊に吹雪のブレスを吐く。風の塊とブレスはぶつかると拮抗したが、それは少しの間でブレスが風を破りイサラとローカスに襲い掛かる。風との拮抗で威力を削られていたブレスは本来の威力を発揮しなかった。そのおかげで二人はたいしたダメージを受けずに氷閃鳥に接近した。
 イサラとローカスは武器を振るう。氷閃鳥は飛んでいるが天井がそう高くないせいで武器の届く高さに浮くことしかできない。機動力はたいして落ちていないので全部の攻撃を喰らっているわけではない。

「なかなか当たんない!」
「結構速いな」

 イサラとローカスは三回に一回当てるということを繰り返す。
 アリアは二人を巻き込むかもしれないので強い魔術は使えない。イサラたちも氷閃鳥たちも動き回っているので牽制もやりづらい。ただじっと様子を窺う。
 フーズはアリアのそばで護衛をしている。攻撃に加わるべきかと思い始めた頃、氷閃鳥の一匹が天井近くまで飛び上がった。視線をイサラたちからアリアとフーズに変えて、凍りついた鋭い羽を十枚近く飛ばしてくる。

「こんな攻撃も持ってんのか!」

 フーズはアリアの前に立ち、槍で羽を振り払う。払い損ねた三枚のうち二枚をフーズ、一枚をアリアが喰らう。体に突き刺さった羽は血を吸い紅く染まっていく。

「っつあ゛! アリアごめん、払い損ねた!」
「気にしないでください! フーズが防いでくれなきゃもっと受けてたんですし、探索してたら怪我するのは当たり前です」
「こんなことができるなら俺も前に出るって方法は取れないな」
「前に出られると次に羽を飛ばされたら厳しいことになりますね」

 全ての羽を喰らうということはなさそうだが、よくて半分避けられるかどうかだろう。

「できることは小さい威力の魔術をよく狙って当てるくらいですか」
「牽制で隙ができれば儲けといったところか」

 戦闘はアリアとフーズが使う威力の小さな魔術を喰らい、隙ができたところをイサラとローカスが叩く、という戦法になっていき、そして終わった。氷閃鳥も素直にやられたわけではなく、全員に軽傷以上のダメージを与えていた。
 倒れた氷閃鳥は爪を残し、消えていった。

「ふぅー終わった」
「苦戦したね〜」
「全くだ」

 イサラとローカスが爪を拾いアリアとフーズに近寄り、治癒してもらう。
 苦戦したのは相手の戦い方を知らず攻略法がなかったという部分もあったので、次からはもう少しは楽に戦える。

「しかし残念でしたね」
「なにが?」

 なんのことかわからずイサラは首をかしげる。

「氷閃鳥の羽を入手できなかったことがね」
「「?」」

 戦ったのが氷閃鳥だと気付いていない二人はアリアの言葉の意味がわからない。

「今戦ったのが氷閃鳥だぞ? あれが羽を落とすんだ」
「「うそ!?」」
「本当ですよ。ちゃんと調べてどんな姿なのか確認してますから」
「しまった確認しとくの忘れてた…」

 ポカミスにフーズは落ち込む。三分もせずに立ち直ったが。
 気を引き締めて先に進んでいく。その日は出会った二匹以外の氷閃鳥に遭遇せずに終わった。
 フーズは宿に帰ったときに師匠へ手紙を書く。内容は二ヶ月くらいで村へ帰るかもしれないので、解除の魔法使いを呼んでおいてくれといったものだった。

 
 2
 初めて氷閃鳥と戦い、次に再び遭遇するのに六日かかった。探し始めて初日でみつかったということもあり、次も遭遇するのにそんなに時間はかからないだろうと思っていた四人は認識を改めた。
 もともと氷閃鳥は出現しにくい。二匹同時に遭遇できたのは運がよかったのだろう。その幸運で羽も手に入れられたら良かったのだが、そこまでついているわけではなかった。
 氷閃鳥を探して一週間、二週間と過ぎていき、今は一ヶ月と二週間ちょっと。
 この間に倒した氷閃鳥は五匹。遭遇するといった面だけで見るとかなり運がいい。

「さて残り二週間、切羽詰ってきました。いよいよ呼びの粉の出番か?」

 そう言っているローカスだが、本人は使いたくなさそうだ。

「うーん、もうちょっと日にちが経ってから使いましょう」
「集団に襲われて魔術でおいつかないほどの怪我はしたくないしな」

 アリアの意見にフーズも同意する。

「怪我治してるうちにタイムオーバーになったら笑えないよね」

 イサラの言葉に笑いながら頷く三人。つられてイサラも笑い出す。
 雰囲気は明るくおちゃらけているが、確実に焦りとプレッシャーがかかってきている。襲い掛かって来る不安に潰されないよう、明るく振舞っているだけ。

「今日は遭遇できるかな?」
「できるといいな〜。おっと罠発見。解除するから近づくなよイサラ」

 イサラに念を押してからローカスは罠に近づいていく。言っておかないとイサラは好奇心に負けて解除中に近づいて来る。さらには何度か解除していない罠を触って発動させてもいた。
 無事に罠を解除させて先に進む。少し進んだ先の部屋で一匹の氷閃鳥と遭遇した。氷閃鳥はまだ四人に気付いていない。

「いた!」

 小さく声を発するイサラ。部屋に入らず、入り口付近で様子を窺う。

「ほかに何かいますか?」
「見える範囲にはいないな。ローカスは気配で何かみつけたか?」
「氷閃鳥一匹だけらしい。気配を隠してなかったらの話だけど」

 静かにどう攻めるか話し合う。

「強い魔術を使うと発動時の力の流れで気付かれるかもしれません。奇襲がしたいのなら却下ですね」
「俺とイサラでいっきに近づいて攻めるか。それなら先制できるだろ」
「少しの間、素早さを上げる魔術を使おう。持続は数秒だけど近づくまでならもつだろ」

 攻め方は決まった。フーズが魔術の準備に入る。

「クイックムーブ」

 両手をそれぞれイサラとローカスに触れさせ、高速動作の効果を付与する。魔術がかかった二人は動き出す。近づいて攻撃を当てる前に効果は切れたが、目的は果たした。
 戦闘はすぐに終わった。アリアとフーズは見ていただけ。イサラたちは少しダメージを受けたが、初戦のように攻撃が当たらず苦戦するといったことはなかった。Lvが上がったことと氷閃鳥の動作を学習したことが苦戦しなかった理由だった。
 以前手に入れた紅星の戦斧が役立ったというのもある。この斧は力を注ぐと火属性を帯びる。氷属性の氷閃鳥に効果覿面とまではいかなかったが、通常攻撃よりも多くのダメージを与えたのだった。

「今回は羽を落とすかな?」

 イサラは消えていく氷閃鳥をみつめる。氷閃鳥が消え代わりに現れたのは、先端に空色の宝石をはめこんだワンドだった。

「また駄目だったよぅ」

 ワンドを見て泣きそうな顔になる。他の三人は慰めることができない。それどころか三人の雰囲気も暗くなる。その雰囲気のまま氷閃鳥を探し回るが、その日は発見できず宿に帰った。


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2006年04月23日

第14話

 1
 宿場に戻ったアリアとローカスはラズと客に捕まったラズの仲間を巡回兵に受け渡した。本人たちは誘拐を否定しているが、ローカスの言葉を否定しなかったという客の証言があるので、取調べのため留置所に入れられるだろう。王都アフィーラに戻ればお菓子屋の店長からの証言も取れるので犯罪者の烙印を押されることになる。
 さらわれていたイサラの容態だが医術をかじった旅人に見てもらった結果、脱水症状と軽い衰弱と判明した。馬に乗せていける状態ではないので宿に滞在することになった。
 イサラを奪回した次の日の朝に魔術の効果がきれたかイサラは目を覚ました。ベッドそばの椅子に座るフーズに気付いて体を起して挨拶をする。

「フーズおはよ〜。なんだか知らないけどすっごくおなかすいてるよ?」

 眠りっぱなしだったせいか誘拐されていたことをわかっていないらしい。

「そりゃ五日も寝てたら腹も減るだろ」
「五日!?」

 思いもよらぬ言葉に眠気が吹っ飛ぶ。

「お菓子屋の前でさらわれて、そのまま魔術で眠らされてたんだよ。そんで昨日取り返したんだ」
「………さらわれた?」
「ラズたちにな」
「え、えーと。…………飴! 飴はどうなったの!?」

 思考が上手く纏まらなくてパンクしたか、それとも誘拐なんぞより飴のほうが大事なのか買った飴の心配をする。なんとなく後者のほうっぽい気がする。

「さあ? ラズたちの荷物を漁れば出てきたかもしれんが、兵に持っていかれたからな」
「そ、そんな〜。私の飴ぇ」

 ぽてんとベッドに倒れこみ、べそをかく。悲しみよりも愛らしい感じがでておりアリアが見たら思わず抱きしめてしまうだろう。フーズは割と見慣れているので抱きしめることはない。かわりにぽんぽんと頭をなで、

「王都に帰ったら買ってやるから泣くなよ」
「ほんとに?」
「ああ。お菓子屋の店長も心配してたから顔を見せに行かないとな」

 コンコンとひかえめにノックされ、扉がそっと開かれる。アリアがイサラを起こさないように気を使って入ってきた。

「フーズ、イサラはどうですか? って起きてますね」

 体を起しているイサラを見てアリアは笑みを浮かべる。

「心配したのよイサラ。どこか痛いところとか変なところとかない?」
「ないよ〜。すごくおなかすいてるだけ」
「無事でよかった。ここに食事持って来る? それとも食堂に行く?」
「食堂に行く! フーズも行こう」

 イサラはベッドから下りてフーズを誘う。フーズの表情がかすかに焦りに変化する。

「俺は腹減ってないからいいや。それより座りっぱなしであんまり眠れてないから寝る」
「ふーん、おやすみ」

 そう言ってイサラはフーズがベッドに入ってから部屋を出ようと思いフーズを見る。アリアはイサラと食堂に行こうと扉のところで待っている。しかしフーズが動かないのでイサラもアリアもじっとフーズを見る。

「どうした? 食堂に行かないのか?」
「フーズこそベッドに入らないの?」
「入るぞ。ただお前たちが出て行ったら入ろうと思っていただけで」
「それにしては靴や上着を脱いだりしませんね?」

 アリアの質問にフーズはピクンと反応する。二人はさっきの表情の変化には気付かなかったが、今度の反応には気付く。

「なんか変だよフーズ?」
「そういえば座ってる位置も昨夜から全く変わってませんし」

 もう一度ピクンと反応する。長年一緒にいた直感からイサラには何かがわかり表情が変わる。怒っているような悲しんでるような表情。すぐに消えたし、立っている位置の関係からアリアは気付くことはなかった。

「アー姉、食堂に行こ。ちょっと聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと? 私はいいけど、フーズはほおっておいていいの?」
「うん。じゃあフーズおやすみ」

 イサラはいまだ訝しがるアリアの手を取り部屋を出て行く。部屋に一人残ったフーズは頭をかき、

「あーばれたかな? 言い訳なんてしようか。正直にきれてやっちゃったって言うしかないか?」

 はぁーとため息をつき、何かを後悔していた。


 2
 イサラとアリアは食堂で先に食べていたローカスに挨拶をして、自分たちも注文する。アリアはパンとスープ、ベーコンエッグ、林檎ジュースという誰もが思い浮かべやすい朝食メニューを頼み、イサラはアリアと同じメニューを三人分を頼む。
 よほどおなかがすいていたかテーブルいっぱいに並んでいた料理は次々とイサラの胃の中へ消えていった。見た目子供が食べきるには多い量の食べ物がテーブルの上からなくなったとき、周囲からおおーっと歓声があがった。
 水差しを持って来た男がコップに水を入れながらイサラに話し掛ける。

「嬢ちゃんすごいな」
「おじさんは誰?」
「俺はこの宿の持ち主さ」
「じゃあこの料理作ったのもおじさん?」
「いや、料理はうちのかかあが作った」
「おいしかったよって伝えてくれる?」
「そーか上手かったか! かかあも喜ぶぜ」

 自分のことではないが誉めれて悪い気はしないのだろう宿の主人は上機嫌になる。

「おじさん、もう一人分注文したいんだけど」
「嬢ちゃんまだ食べんのかい?」
「もうおなかいっぱいで無理だよ。私じゃなくてフーズに持って行こうと思って」

 驚く主人にイサラは両手をおなかに当て否定する。

「フーズっていうと槍を持ってた兄ちゃんか?」
「うん。調子悪くて横になってるの」
「昨日は悪そうじゃなかったけどな」

 主人は昨日のフーズの様子を思い出してみる。イサラを担いで戻って来たフーズは不機嫌そうではあったがどこか調子が悪いといったふうには見えなかった。

「昨日ちょっと無理したみたいで今日になって調子が悪くなったの。私は何年もフーズと一緒にいるからちょっとした変化でもわかるんだ」
「ふむ、もう一人分だな。わかった。部屋に直接持って行くか?」

 長く一緒にいる知り合いが言ってることのほうが正しいかと思い注文をとる。

「私が持っていくからここに持ってきて」
「はいよ」

 主人は厨房に注文を伝えに行く。

「イサラ、フーズの調子が悪いって動かなかったことに関係ある?」
「うん」
「そっかフーズ調子悪いのか。全然わかんなかったな」

 宿の主人と同じようにローカスも昨日のフーズを思い返してみるがどこか悪いようにはみえなかった。それはアリアも同じだった。

「フーズ、昨日氣を使ったよね」

 イサラは昨日意識がなかったのにフーズが氣を使ったことを知っている。アリアとローカスに聞いてはいるものの疑問系ではなく断定。イサラはフーズが氣を使ったとわかっていた。

「そういえば使ってましたね」
「適正があるんだなぁって感心したな。たしかクラスタイプで取得せずに氣を使えるのって一万人に一人なんだろう?」
「ええ、そのぐらいでしたね。奥の手として持ってたんでしょう」
「奥の手か〜…ん? スケイルビーストのとき使わなかったよな? 使ってもおかしくない状況だったのに。っていうかイサラが破呪使う前に氣を使ってもおかしくなかったぞ?」

 フーズが氣を使えると聞いて疑問点が出てきた。使う状況で使わなかったという変なことをしていたフーズが何を考えていたのかわからない。それでもアリアとローカスは何かあるんだろうと推測をしている。

「フーズには氣の適正はないよ」

 考え込む二人にイサラは声をかける。その内容には適正がないのに使えるという本来ありえない答えを示していた。

「氣の適正はないって、現に昨日フーズは氣を使ってたぞ」
「使えるからね」

 二人は自分の発言を否定するようなイサラの言葉に頭がこんがらがってくる。

「ちょっとまって。イサラの言ってることは矛盾してるの。氣はクラスタイプで取得するか、適正がないと扱えないはず。でもフーズは適正もなく、取得もできない。なのに氣を使ってる。どういうこと?」
「フーズと私のお師匠さんは氣を使えるんだ。そして教わり始めたときから、お師匠さんが氣を使ってるのを見てた」

 イサラは一見無関係に思える昔話を始める。アリアとローカスは黙って聞いている。

「フーズは強さを求めてた。私が魔法に囚われたときに何もできなかったからって。また何かあればどうにかできる力がほしいって。
 あのときはどんな強さを求めていいかわかってなかったから単純に戦闘能力を求めてた。今でもどんな強さが必要か、わかってるのか怪しいけどね。
 それでお師匠さんの使う氣が魅力的だったんだろうね、使えるように真似して修行して使えるようになっちゃった」

 語るイサラは見た目にそぐわなく、本来の年齢以上の雰囲気を出していた。アリアとローカスには破呪状態のイサラがだぶって見える。目をこするといつものイサラが座っている。

「使えるようになっちゃったって、どんな修行すればそんなことが可能に?」
「わかんないよアー姉」
「才能って奴か?」
「それはお師匠さんも言ってた。もしくは執念の産物かって。体を傷つけて壊して、私が泣いても止めなくて、修行し続けて取得したものだから、私は執念のほうだと思ってる」

 アリアとローカスはふと思い出す、以前フーズが言っていたことを。イサラを泣かせて心配させて得た力。それが昨日使った氣のことだと思い当たる。

「本来、使えないものを使う。それは私の破呪と似たようなもの。そして代償が必要になるという点も。
 氣を通した部分が動かなくなるんだ。始めは酷い筋肉痛で次第に動かせなくなる。ちゃんと休めば動くようになるけどね。だからこりずに何度も使う。
 私には無茶するなっていうのにフーズだって無茶するんだから」

 お師匠さんに言いつけてやると言い、頬を膨らませる。大人のような雰囲気は消え、外見に見合った雰囲気に戻る。

「お互い様だな。昨日使ったのは爆歩か。動かなくなったのは足だな」
「使ったのは爆歩一回だけ?」
「そうよ。ラズに接近するのに使った一回だけ」

 イサラはそっかと呟き安心し表情を緩める。

「じゃあ動かすだけなら三日もかからないね」
「スケイルビーストの時に使わなかったのはリスクを考えてだったのか」
「外したり、効果があまりなかった場合に動きが鈍くなるのは致命的だって考えたんですね」

 アリアとローカスはようやくフーズの考えに思い当たり納得する。
 ちょうど話題が途切れたころに主人が料理を持ってきた。大事な話をしていると思って話が終わるのを待っていたのかもしれない。
 料理を受け取り、イサラが寝ていた部屋へと三人で向う。扉を開けるとその場から動いていないフーズがいる。料理を見て、乾いた笑いを上げたのち謝る。眠っていると思ったら料理は持ってこないから、イサラが何を言うまでもなくばれていると気付いたのだろう。

「やっぱりばれてたな。えーとその…ごめん。きれた勢いで使っちまった」
「ごめんじゃないよ! 私には無理するなって言うくせに、お師匠さんに言いつけるからね!」
「いや師匠はもう諦めてるんじゃないか? 五回くらい拳混じりの説教しても懲りなかったんだし」
「そうかもしれないけど報告はするからね!」

 フーズはまた説教かぁと落ち込む。イサラは落ち込んでるフーズを気にせずブーツを脱がせ始める。

「いだだだだだ! 痛いってイサラ! もうちょっと丁寧に!」
「痛くなるようにやってるから当たり前。ロー兄も脱がすの手伝って。丁寧にやらなくていいからね」
「了解っと」

 ローカスも脱がす始める。荒っぽいがイサラよりは若干丁寧だ。すぐそばで悲鳴を聞き、少し同情したらしい。アリアは渡されていた料理をテーブルに置いて、悲鳴が周囲に響かないが心配している。心配しているだけで止めようとはしてないが。

「ロー兄は胴を持って、私は足を持つから。ベッドに入れよう」

 ベッドに入れられてようやく悲鳴がやむ。
 
「ご飯食べるでしょ?」
「ああ。腹減ってるからなぁ。持ってきてもらってよかったよ」

 料理ののったトレーを足の上に置いて、おいしそうに料理を食べ始める。
 ゆっくり休んで二日後にここを出て王都に帰った。フーズの足に響くので行きのように急ぐことができず帰り着くのに一週間かかった。


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2006年04月18日

第13話

 1
 街道を三頭の馬が走っている。最速とまではいかないが普通に旅をするには出さない速度で駆けていく。馬上の人間は焦っており旅を楽しんでいるわけではなさそうだ。周囲を見てはいるものの景色を見て楽しむのではなく何かを探している。

「ほんとにやらかす度胸があったなんてな」
「ここまで馬鹿だとは思ってませんでした。詳しい事情も知らないでさらっていくとは」

 ローカスのぼやきにアリアが言葉を返す。それも一言二言続くだけですぐに会話が途切れる。フーズはというと始終無言で見落としがないように周囲を見渡している。表面上は冷静に見えるが心では激情を無理矢理抑えつけている状態。
 ここにいないイサラだが、さらわれた。犯人はラズたちだと判明している。事の起こりは五日前にさかのぼる。

 
 ラズたちが来た数日後、その日はいつもと変わらぬ日だった。ただ塔から帰ってくるのがいつもより少し早かった。いつものように嵐の坂亭に寄って収入の分配をしたあと、アリアとローカスが荷物を置きに部屋へ行っている間にイサラが席を立った。

「飴がなくなったから買ってくるね」
「馬車に気をつけてな」
「わかってる〜」

 手を振りながら宿を出て行く。前を見ていないせいで人にぶつかりそうになるが避けて走っていく。その様子をフーズが軽く笑い見ていると、アリアとローカスが部屋から戻ってきた。

「あらイサラは?」
「飴を買いにでも行ったんじゃないか?」
「ローカス正解」
「もうちょっと早く戻ってくればよかったですね」

 一緒に行けたのにと残念そうなアリア。イサラが一人で出かけたことは心配していない。何度も一人ででかけているので大丈夫だとわかっているから。もしも、このときアリアがついていけば、あとを追いかけていればイサラ誘拐など起きなかった。

「飴〜♪ 甘いぞ飴♪ 丸いぞっ平らだっカラフルだ〜♪」

 イサラは自作の飴の歌を口ずさみいつも通うお菓子屋に入っていく。顔なじみの店長と挨拶をかわし、かごにポイポイと飴を入れていく。店長と少し話してから勘定を済ませ店を出る。出てすぐに男が声をかけてきた。

「ちょっといいか?」
「えっと私?」
「そうだ。尋ねたいことがあってな」

 男は行きたいところがあるらしく場所を知らないかイサラに尋ねている。そこまで連れて行ってくれと言われたら警戒したかもしれないが口頭だけでいいため、ある程度気を抜いて対応している。

「ありがとう。助かった」
「んじゃ、私はもう行くね」
「ちょっと待ってくれ。お礼のかわりになるかわからんが、たしか飴の詰め合わせが…あったあった」

 男は服を探って内ポケットから飴の入った袋を取り出しイサラに渡す。思わぬ収入に喜び目を輝かせ飴を受け取る。警戒が解けたイサラの後ろに別の男が近づいてくる。そのことにイサラは気付かない。

「おじちゃん! ありが…と……う…?」

 お礼を言うイサラの意識がなくなる。倒れかけたところを飴を渡した男が支える。男たちは互いに目を見て頷く。
 一人がイサラの気をそらして油断したときに、気配を小さくして待機していたもう一人が魔術を使用しイサラを眠らせた。街中で魔術を使うと怪しまれるので気付かれない程度の弱い魔術を使用。弱い魔術で効果を発揮するため、イサラの好物を調べて警戒を解き気を抜かせた。
 突発的な犯行ではなく、計画的な犯行だった。計画がほぼ成功し、そのままイサラを心配するふりをして連れて行こうとしたとき、お菓子屋の店長が声をかけてきた。たまたま店の前で話しているイサラたちを見ていた店長が急に倒れたイサラを心配して出てきた。

「イサラちゃん! どうしたんだい!?」

 男二人は顔をしかめたが、すぐに心配する顔に戻す。

「原因はわからない。ただ疲労がたまっていたのかもしてないし、何かの病気かもしれない」
「た、大変だ。早く医者を呼ばないと!」
「とりあえず俺がこの子の仲間の所へ連れて行く。その間にこいつが医者を呼ぶから大丈夫だ」

 そう言ってイサラを背負う。もう一人も頷いて医者の居るところを店長に聞く。

「イサラちゃんと君たちは知り合いなのかい?」
「ああ」
「そうか。それならイサラちゃんを頼む」

 お菓子屋の店長は善人に分類されるのだろう。二人の言葉を疑わず、イサラのことを任せる。店長に見送られ二人は嵐の坂亭に向う。店長から見えなくなると自分たちの宿へと歩き出した。そのままラズたちと合流しすぐに王都を出て行った。

 フーズたちはいつまでも帰ってこないイサラを、始めは誰か知り合いと出会って遊んでるんだろうと思っていたが、夕食時になっても帰ってこないので心配しだす。そして店長が見舞いにやってきたことによってイサラがさらわれたことがわかった。二人組みの詳しい容姿を聞きだしアリアの村の住人だと判明。それによりラズが強行手段に出たと推測できた。

「待ちなさい!」

 獲物である槍をもち出て行こうとしたフーズをアリアが止める。反応し少し止まるもののまた動き出すフーズ。

「どこにいけばいいかわかるの?」

 再びアリアはフーズに声をかける。フーズは首だけ振り向き、

「手当たり次第に探す」

 そう言って出て行った。頭に血が上り冷静な判断ができなくなっていた。

「フーズの奴、怒ってるな」
「当然でしょうね。私も一緒に行きたいところですが」
「アリアも怒りが湧いてくるのはわかるが、もう少しだけ冷静でいてくれ。全員が感情だけで動いたら時間無駄にするかもしれんから」
「わかってます。情報が必要ですからなんとか冷静でいておきます」

 店長からさらっていった二人組みの詳しい話を聞く。背負って歩いていった方向付近の目撃情報を集めることにしてアリアとローカスも嵐の坂亭を出て行った。
 閉まっている店を開けてもらい話を聞くということを繰り返しラズたちがいた宿を突き止める。

「ここがラズたちの泊まってる宿ですか」
「いないだろうな」
「でしょうね。でも別の宿に滞在してるとかで裏をかかれないように、どんな様子で出て行ったか聞いておく必要がありますからね」

 宿の主人に簡単に事情を説明し話を聞く。ラズたちの様子と断片的な会話を聞きだすことに成功。それによりすでに王都にはいないと判断した。
 念のため三つある王都入り口に行き、ラズたちの特徴を門番たちに話して出て行ったか確認をとる。ちょうど交代しようとしていた兵士が腕に巻かれた紋章つきの布を見て覚えていたことから王都を出たことが確定した。
 
「ローカスはフーズを探して嵐の坂亭に連れて行ってください」
「アリアは?」
「私は馬を借りてきます。追いかけるのに必須ですから」
「わかった」

 ローカスはフーズをみつけだしラズたちのことを話す。宿に帰るとアリアが三頭の馬と待機していた。そのまま門に向かいラズたちを追って王都を出た。


 2
 今日もラズたちに追いつけずイサラをみつけられずに夜がきた。前方に見える宿場で少し休憩しつつ情報を集めようと馬を下り引いて歩く。そのときアリアの目に見覚えのある男が映る。向こうもアリアに気付いたらしく驚いた顔をしている。

「みつけました!」

 思わず大声で叫ぶ。アリアが指差す方向には慌てて走っていく男が一人。ラズと行動を共にしていた男だった。フーズ、アリア、ローカスの三人は馬の手綱を離し男を追いかけていく。
 急に大声を出し目立っていた三人はさらに注目を集める。馬はそこらにいた人が手綱をとって逃げないようにしてくれたが気付きもしない。
 逃げた男は宿に入りラズにアリアたちが追いついたことを知らせている。ラズは舌打ちをして取っている部屋に走る。ずっと眠らせたままのイサラを入れた袋を担ぎ裏口から出て行く。それとほぼ同時にフーズたちが宿に入ってくる。出て行ったラズを追おうとした三人はラズの仲間四人に阻まれる。
 宿の主人や客は今のところ遠巻きに見ているだけ。

「どきなさい!!」
「どけと言われてどく馬鹿なんぞいるか」
「なんで誘拐なんぞしたんだ?」

 ローカスは疑問に思っていたことと事情を知れば手伝ってくれる奴がでてくることを願って聞いてみる。現に誘拐という言葉を聞き一部の旅人はどよめいている。

「ユオンの兆しを俺たちが手に入れるためさ。正統な血を引く俺たちこそが使命を果たすのに相応しい。外から来た者の血を引く外れ者なんかに使命を果たさせるわけにはいかないんだよ」

 ローカスの思惑を察せずに馬鹿正直に答える奴が一人。仲間が止めようとしたが遅かった。そしてラズの仲間たちは宿の客たちに囲まれた。事情をわからないなりに自分たちで判断し動いたらしい。

「姉ちゃんたちここは任せな!」
「逃げた奴は裏口からまっすぐ走っていったぜ」

 ラズの仲間を掴みながらラズのことを教えてくれる。フーズは道が開けるとすぐに走って裏口に向かい、アリアとローカスは礼を言ってからフーズのあとを追っていった。

「なんだお前たちは! 俺たちには果たすべき使命があるんだ! お前らのためになることなんだぞ!」
「うるせいや! 使命だかなんだか知らねーが俺たちには関係ないね。美人さんが困ってるなら助けるのが漢ってもんよ」

 旅人の一人が啖呵をきる。それに同意する声がいくつか聞こえてきた。

 宿の漢たちがそんなことを言ってるとは知らないアリアとローカスはラズに追いついたフーズをみつけた。子供だといっても人一人担いで逃げるのは難しかったらしい。今はイサラ入りの袋を地面に落としてフーズと向き合っている。

「イサラを返してもらおうか?」
「断る、と言ったら?」
「断るのならば…殺してでも取り返す」

 普段ならばたわいのない脅し文句にしかならないが、実際に殺気を叩きつけられているラズにとって冗談と言いづらい状況だった。しかし強がりかやけくそか態度は変わらないラズ。アリアとローカスも追いついてラズにとってさらに不利な状況になる。

「落ち着いて考えろ? お前たちの用事が済んだ頃には封印は解けてるかもしれない。そうすれば俺のいる村を含めて多くの人たちが死ぬことになる。そうならないように事前に手を打てるのならうっておくべきだろう? それが一人の人間の命で済むなら安いもんだ。
 それによって俺は兆しをみつけ封印という偉業を成し遂げた存在として名誉を手に入れる!」

 ラズは本音を話し同時に挑発とする。冷静にものを考えなくして隙を作り逃げようという策だ。このように危機的状況に陥っても策を練って回避しようとするラズの頭の回転は悪くない。力ずくでどうにかしようとした仲間を抑えて情報収集を優先した結果、周囲に怪しまれずイサラをさらうことに成功したほどだ。
 ただしもっと詳しくフーズたちの情報を集めていれば挑発するような愚策を選択しなかっただろう。フーズがどれほどイサラを優先しているか知っていれば、殺すという宣言が本気とわかったから。

「自分勝手なことを言わないで下さい」

 ラズの挑発により氷のアリア再臨。フーズは怖いほどに静か。ローカスはイサラを奪い返すために隙を窺っている。

「イサラの命を助けるために努力している人がいるんです。その数年の努力を自己満足のために無に返すのですか?」
「ほおっておいたら後先短い命らしいじゃないか。努力が実らず無駄になるかもしれん。それなら確実に役に立つとわかっていることに命を使ったほうがいいだろうが。万人を救うため命を差し出した少女、美談じゃないか」
「努力が無駄になるとはかぎりません。すでに必要なものの一つは手に入れて残り一つ。残りを手に入れるのも時間の問題です。
 それに兆しの反応が正常ではないのはあなたもわかっているでしょう? それでどうやって儀式を成功させるつもりです?」
「何かからくりがあるだろう?」
「私たちがそのからくりをあなたに話すとでも?」

 ハッとラズを貶して笑う。それに対してラズも顔を歪めて笑う。

「思っちゃいないさ。こいつから聞けばいいことだしな。冒険者といえどしょせんは餓鬼、数回殴ればこっちの言うことを聞くようになるさ」

 その言葉を合図として場の空気が変わる。発生源は今まで静かだったフーズ。すでに限界を超えていた感情がここにきていっきに爆発した。放たれるのは怒気。アリアとは真逆の烈火の怒り。触れれば燃えるとばかりに熱さが広がっていく。

「いい加減黙れ、そして死ね! 爆歩ぉ!!」

 スケイルビースト戦でローカスが見せた氣を使用した技をフーズが使う。あの時のローカスと同じようにまっすぐラズに向っていく。スケイルビーストにすらダメージを与えた技は当たり前のようにラズを吹き飛ばす。勢いにのり突き出された槍とともに。腹部に刺さった槍はラズが倒れても抜けることがなかった。
 フーズの攻撃に反応できずに刃が刺さり、ラズは痛みで意識を失う。
 フーズはラズに目もくれず袋からイサラを出す。どこにも怪我はなかったが顔色が悪かった。これはさらってからこの五日間、飲まず食わずで魔術で眠らせていたからだった。
 イサラを背負い帰ろうとアリアとローカスに一声かけるため二人を探す。ローカスは槍を引き抜き、アリアはラズの治療のため魔術を使おうとしている。

「二人とも何してるんだ?」

 怒気が込められた言葉がアリアとローカスにかけられる。イサラに害をなしたラズを助けることが気に食わないのだろう仲間の二人にすら怒りを向ける。

「見てのとおり、こいつを回復させてるんだぞ?」

 治療に集中して話せないアリアの代わりにローカスが答える。手には血に濡れたフーズの槍。向けられた怒気を少しも気にしていない。

「そんな奴ほっといてもいいだろ! それよりもイサラのほうが」
「確かにこんな奴を助けたくはないんだが、人目につきすぎてる。ラズが死んだら犯人はすぐに俺たちだってわかる。こんな奴のせいで前科ものにはなりたくないよ、俺は。
 それに自分に関わったせいで死んだ奴がいるってわかったらイサラは悲しんだりするんじゃないか?」
「…さっきの宿に戻ってる」
「あいよ」

 不機嫌さを隠しもせずに歩いていくフーズ。

「終わりました」
「お疲れ様」

 ラズの治療が終わる。意識は失っているが傷はきちんとふさがっており死ぬことはない。ラズの傷を治療するため多くの力を使ったのか疲れているアリア。

「私もラズの治療なんかしたくはなかったんですけど」

 遠くに見えるフーズの背を見ながらアリアは言う。どうやらローカスがアリアにロズの治療を頼んだようだ。

「そう言わんと。ただでさえここまで追いかけてくるのに時間くってんだから。取調べとかでこれ以上のロスはしたくないだろ?」
「…そうですね。そこまで気が回ってなかったです」

 言われて初めて気付いたアリア。

「今回は随分と感情的だったしな。まあ、理由はわかってるけど」
「ローカスは冷静でしたね?」
「誰かが冷静じゃないと押さえがきかんし。今回はなんとか俺が一番冷静でいられただけだよ。
 アリアに何かあれば俺はすぐさまその役目を放棄するしな。そのときはフーズが冷静でいてくれるだろうさ」
「ありがとうございます」

 自分を案じてくれる人がいるのが嬉しく微笑みながら礼を言う。どういたしまして、とおどけながら返すローカス。

「話はかわるがフーズはラズに容赦なかったな。致命傷を与えるのになんの躊躇もしなかったし」
「イサラが大事なんでしょうね。ラズとは逆なのかもしれない。百人よりも千人よりもイサラを選ぶ。何かを踏みにじってもイサラを優先する覚悟」
「そんな感じだな」

 フーズの槍をアリアに渡し、ラズを肩に抱える。

「いつまでもここで話してないで宿に行こうか」
「そうですね。イサラが心配ですし」


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2006年04月10日

第12話

 1
 荷物と手紙の束を持った配達人が村で一番大きな家の前に立っている。ノックをして出てきた男に荷物を全て渡す。懐から用紙を取り出してサインを書いてもらうと配達人は去っていった。
 荷物を受け取った男はリビングに向かい、テーブルの上に荷物を置く。荷物は村人たちにあてられたもので配達人ではどこに誰が住んでいるかはわからない。だからまとめて村長に渡され、村長が村人に届けるようになっていた。
 男は荷物の中から自分に当てられたものを探しみつけた。みつけたものは手紙で封筒の表には男の名前と住所が、裏にはアリアと書かれていた。
 封筒を見た男の表情は驚きと喜び。封筒を開け読み進めていく。始めは喜びが大きかった男だが読み終わると喜びは表面には表れず驚きだけが支配していた。男はそのまま手紙を持ち、村の主だった面々を呼び集め、さらに村人全員を呼び集めてもらう。村の広場に今いる村人全員百人弱が集まる。

「皆、急に呼び出してすまない。だが早急に伝えなければいけないことがある。
 我らが長年探し続けていた者がみつかった。アリアがユオンの兆しの所有者をみつけた。
 これで封印が解けることはない! 我らの代で使命が途切れることはなく、災厄が世に解き放たれることもない!」

 男が手紙の内容の一部を集まった人たちに伝える。その言葉は集まった村人に衝撃を与えた。ほっと安心している者、嬉し涙を流す者、喜びの声を上げる者がいる。彼らが少し落ち着くのをまってから再び話しだす。

「わけあって今すぐに連れて来ることはできないが期日以内に連れて来ると手紙に書かれている。準備やできることは済ませておいてほしいとも。
 この手紙には詳しい事情は書かれていない。だがすぐに来られない事情だけは知っておきたい。そこで誰かアリアに会いに行ってもらいたい。本当は祖父である私が行きたいのだが」
「ダメです。村長でないとできない仕事があります。それに旅にでるには身体的に不安があります」
「このように止められているのでな。誰か行ってもらえるか?」

 村長の言葉に一人の若者が進み出る。この若者は先ほど皆が喜ぶ中、顔を顰めていた者たちの一人。

「俺が行きます」
「ラズか」
「他に二人ほど誘って行きたいと思います。任せてもらえませんか?」

 村長は考え込む。

「他に誰か行こうと思う者はいるか?」

 誰も返事をしない。皆、行きたいという奴がいるから立候補しなくても大丈夫だろうと思っていた。

「…わかった。お前たちに任せよう」

 ラズは村長に一礼する。下げた顔には嫌な感じのする笑みが浮かんでいる。
 その日から三週間と少し。仕事を済ませて出発したラズたちは王都入り口から少し離れた場所にいた。馬上から王都を見ながら話している。先に王都に手紙を出し、ここにいた仲間と合流し人数は五人となっている。五人の腕には鍵の紋章が描かれた布がまかれていた。

「ここにいるんだな?」
「手紙にかかれていた住所じゃそうらしいな」
「外れ者がみつけるなんてな」
「ふん、間違いだろうさ。もし本物だとしても」
「奪えばいいか」
「使命を果たしてきた先祖の血を引く俺たちこそが兆しの者を見つけ封印を行うのに相応しいんだ」
「外の血を引くアリアなどに使命を果たさせるわけにはいかん」


 2
 今日は休養日。四人揃って買い物に出かけた。服や日用品、塔探索の消耗品、新しい防具を買う。そのあとに他の冒険者から教えてもらった美味しいお店で昼食をとって嵐の坂亭に帰ってきた。

「おいしかったね〜」
「知らない魚だったが、たしかに上手かった」
「今度は別の品も食べてみたいです」
「酒によく合う料理だったな」

 楽しそうに感想を言いながら扉をくぐる。宿に入って来たアリアに宿の主人が近寄ってきた。

「アリア」
「はい?」
「お客さんだ。五番のテーブルに座っている」

 主人の指差す方向に三人の男がいる。そのなかにはラズの顔もみえる。ラズたちの顔を見たとたんアリアの雰囲気が変わり表情が無くなった。
 その変化に宿の主人はもちろんイサラとフーズも驚きを隠せない。ローカスは軽く驚くだけですんでいる。ローカスが驚愕せずにすんだのはアリアがこういう表情をしていたことを知っていたから。

「初めて会ったときのアリアだ」
 
 ローカスの口から漏れた言葉を気にせずアリアはラズたちに近づいていく。少し距離をおいて止まる。

「なぜここにいるのです?」

 表情によくあう冷たい声だった。感情を感じさせない声はイサラたちと話すときには絶対に聞くことはできないだろう。

「おいおいつれないな。久々に同じ村の住人が会いにきたって言うのに」
「そうだぜ。あいつらと話していたみたいに話してくれよ」

 ラズのそばにいる二人がどこか嘲笑を含め言ってくる。

「お断りです」

 アリアは即きっぱりと断る。男二人の表情が歪み立ち上がろうとするのをラズが止める。渋々と従い席に座りなおす。

「俺たちがここに来たのは村長に頼まれたからだ。手紙に書かれていた、すぐには兆しを持って来られない事情とやらを詳しく知りたいのさ。聞かせてもらおうか」

 そう言ってラズはアリアに手紙を放る。村長からの手紙で健康状態や村で最近あったことが書かれていた。そしてたしかに詳しい事情を知りたいということも書かれていた。
 
「……」
「どうした? こっちも暇じゃないんだ早く話してくれないか」

 無言なアリアにラズが声をかける。

「少し待ってください。私の一存では話せません」
「少しってどれくらいだ?」
「兆しを持つ本人に聞くだけだからすぐに済みます」

 ラズたちから離れた席に座るイサラたちへとアリアは向う。

「どうしたんだアリア?」
「ちょっとイサラとフーズに聞きたいことが」

 ローカスの問いに先ほどより柔らかな雰囲気で答える。ラズたちがいるせいかいつもどおりとまではいかない。

「ふぁに?」

 暇になり飴を食べ始めて明確な発音ができないイサラ。幸せそうなイサラをみたおかげかアリアの雰囲気がさらに柔らかくなる。

「私が村に手紙を書いて出したのは知ってる?」
「うん。何週間も前に出してたよね」
「その手紙にはユオンの兆しを持つ者をみつけたとは書いたけどそれ以上の詳しいことは書かなかったの。それですぐに村に連れて行けない理由を知りたくて聞きに来たのがあの人たち」
「それじゃ聞きたいことって言うのはイサラの事情か」
「そういうことです」

 フーズの言葉にあまり気の進まない様子なアリア。

「プライベートなことだから、関係のない人に話すというのはちょっと」
「私はべつに構わないよ?」

 イサラは本当に気にしていない様子で次の飴玉を口に放り込む。

「細かいとこは省いて大雑把に説明したらどうだ?」
「…そうですね。そうしておきましょう。それでいいですかイサラ、フーズ?」
「うん」「ああ」

 イサラとフーズに確認を取りラズたちの所へ歩く。イサラたちから一歩離れるたびに雰囲気が硬くなっていく。

「で、あいつらはなんだと?」
「大雑把にならばいいと。それが嫌なら何も話しません」

 話し合ったこととは微妙に違う相談結果を話す。

「わかった。それでいい」

 ラズはあっさりと頷く。あっさりと承諾したことをアリアは訝しむがとりあえず話を進めることにした。
 アリアが話したことはユオンの兆しの所有者であるイサラには果たすべき目的があり、目的を果たさないと命に関わる。その目的を果たさないことには兆しは正常に働かない。無理に儀式を行えばイサラは死ぬ。

「…ということです。わかったのなら村へ帰って村長に伝えてください」

 とっととこの場からいなくなれと言外に込める。アリアはとことんラズたちを嫌っているらしい。

「一つ聞いていいか?」
「なんです?」
「多くの命を救うために小さな犠牲はつきものだと思わないか?」
「…へぇ…」

 アリアの瞳に冷たい光が宿る。先ほどまでの硬い雰囲気を通り越し、周囲の温度が数度下がったかのような幻覚まで引き起こす。ラズ以外の男たちが怯む中、ラズだけは何も変わらずアリアを見ている。あまりにいつもと違うアリアに宿全体が静まる。

「さっさと出て行ってくれませんか? これ以上あなたがここにいると私は何するかわかりませんよ?」

 アリアは冷たい微笑を浮かべ腰に下げている予備のロッドを手に取る。これ以上ラズが余計なことを言えばアリアは本当に魔術を放つだろう。そう思わせる雰囲気を今のアリアは纏っている。
 本気を感じ取ったラズはゆったりと宿を出て行き。残りの二人は慌ただしくラズを追って出て行った。
 アリアがイサラたちのいる席に座った今でも宿は静かなまま。アリアの雰囲気も冷たいまま。

「親父さん」
「は、はい!」

 アリアに気圧されてどもりながら返事をする宿の主人。

「ワインを一本もらえますか?」
「すぐに!」

 言葉どおりにすぐワインを持ってきた。そして慎重にボトルとグラスを置いてカウンターに戻っていく。
 アリアはボトルの栓を開け、グラスに注ぐといっきに飲み干す。ワインと一緒に飲み込んだのか冷たい雰囲気が収まり、少し不機嫌といった感じまでに落ち着く。その様子を見て回りもほーと息を吐きいつもの喧騒に戻っていった。

「アリアがそこまで怒ったのは初めてみたな」

 付き合いの長いローカスでも初めてだったらしい。

「イサラを物扱いしたり、儀式のためなら命を落としてもいいような言われかたをしたから」
「なっあいつら!」

 フーズが席を立ってラズたちを追いかけようとする。ローカスが腕をつかんで止めた。

「落ち着けって! 口に出しただけだろう、実行できる度胸があるかもわからんし」
「くすくす…ローカス、落ち着けっていうのはちょっと無理です」

 フーズに向けていった説得なのにアリアが反論する。しかも酔い始めているのか笑い方がちょっと怖い。

「少しは落ち着いたんじゃなかったのか!?」
「お酒の力を借りて押さえつけてるだけですよ。このボトル飲み終わったら酔いつぶれるので部屋までお願いしますね」

 宣言どおりにボトル一本を飲みきり、酔いつぶれて寝息を立て始める。お酒の力でも借りないと自力で気持ちを静めることは無理だとわかっていたんだろう。

「アー姉が寝るまでお酒を飲むの初めて見た」
「俺もだよ。今日は驚くことばかりだな。お願いされたし部屋まで連れてくか」

 ローカスはアリアを抱きかかえ階段を上がっていった。

「俺はどうするかな。酒じゃ無理っぽいし…そうだなイサラ、クッキー作ってくれ。上手いもの食べれば落ち着くだろうと思う」
「うん、いいよ。親父さんにキッチン借りてくるね」

 三時間後、多めに作られたクッキーを猛然と食べるフーズが見られた。イサラは美味しそうに食べてくれるフーズを嬉しそうに見ていた。クッキーは料理が下手なイサラが唯一上手くできるもので、フーズの好物の一つだった。
 今は落ち着いた彼らだが数日後に後悔することとなる。ラズたちをどうにかしておけばよかったと。


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2006年04月03日

第11話

 
 1
 今日も今日とて塔に挑戦とばかりに協会に向かう四人。入り口横に看板がでているのをみつける。周りの冒険者にもうこんな時期かと言っている人がいるので緊急の知らせではないらしい。以前の移送陣事故のときよりも人はスムーズに流れるので今回は自分たちの目で見ることができた。

「年に一度のイベント日?」

 思わず声にでるイサラ。去年はここにいなかったのでどんな日か知らなくて当然。

「3の倍数階で特殊階が二分の一の可能性で出現します。…エクストラフロアみたいなもんか?」
「そうだとすると避けたほうがいいのか? でも他の特殊フロアの可能性もあるし」

 フーズとローカスもこのことは知らなかったが、イサラとは違う反応をを見せる。

「以前にみたいに強すぎる敵が出るわけじゃないから大丈夫だと思います。それに必ずしも特殊階がでるわけじゃないらしいですしね」

 アリアは情報としてこの日のことは知っていたので落ち着いている。

「特殊階ってエクストラフロアのほかにどんなフロアがあるかアー姉は知ってる?」
「たしか他にはクイズフロア、トラップフロア、アクションフロア、連続バトルフロアそしてエクストラフロアの五種類だったはず。でも新しく増えるかもしれない」
「増えるの?」
「ええ以前は…数百年前には三つしか確認されてなかったそうよ」

 塔に関する豆知識を確認した一行は移送陣に向かい歩き出す。
 
 
 2
 場面は戦闘の最中。三体の水晶小鬼と四人が向かい合っている。地面には消えていく二体の水晶小鬼。
 水晶の体にイサラの攻撃は効果が少なく囮として敵を翻弄し、隙ができるとローカスの重い一撃を喰らわすといった戦法をとっている。フーズは近づいてきた敵を薙刀の峰を使って弾き飛ばしアリアに近付けないようにして、アリアはフーズが飛ばした敵に魔術を当てダメージを与え、さらに遠くに飛ばしている。
 十分と少しで戦闘は終わった。床に落ちている水晶のナイフと水晶玉二つを拾い、怪我の確認を始める。

「誰か怪我してますか?」
「私とロー兄は何回かダメージうけた」
「俺はしてない」

 アリアの確認にイサラとフーズが答える。ローカスは周囲を警戒している。怪我をしている二人をアリアが魔術で治療する。

「ありがとアリア」
「ありがとうアー姉」

 二人の礼にどういたしまして、と答える。
 治癒の魔術はフーズも使えるがアリアのほうが効果があるので任せている。

「次は3の倍数階だけど何かくるんかね?」

 ローカスは警戒を終え会話に参加してくる。警戒のレベルを落としただけで油断はしていない。

「どうでしょうね。通常時でもエクストラフロアを引き当てた私たちですから何かくるかも」
「楽しみ楽しみ♪」
「俺としては変なハプニングは起きてほしくないんだがなぁ」
「フーズ、そんなこと言ってると招くんだぞ」

 それぞれ感想を言いながら移送陣に踏み込んでいく。


「ほうら招いた」

 移送陣から出て目の前にあった看板を見たローカスの一言。
 移送陣で移動した四人の前に一つの看板が立っている。そのさらに奥に扉が一つ。出た場所は看板と扉のみの小さな部屋だった。

「招いたっていわれてもな。俺が悪いってわけじゃない…はずだ」

 はずだ、という部分に自信のなさがうかがえる。

「どうやらトラップフロアかアクションフロアに来たみたいです」
「どんなことが起っきるっかな〜♪」

 ギブアップが認められていると事前に聞いているのでお気楽モードへと突入しているイサラ。それ様子を見て頬を緩ませているアリア。
 看板に書かれていることは、

『ようこそワクワクワールドへ!
 これより先は複数の部屋が連なるといった構造になっております。一つの部屋に一つの障害。全部クリアすると景品がでますので頑張って挑戦してください。
 障害をクリアすると次の部屋への扉と次の障害の内容が書かれた看板がでますので確認してからお進みください。
 この先の障害は一歩歩くたびに100シル減る部屋となってます。奥に見えるスイッチを押すとクリアです。少ない歩数で突破してください。それと次の部屋では魔術は使用できません』

 看板を読んで扉を開けると書かれていたとおりにスイッチが見える。普通に歩いていけば二十歩以上は歩かなければいけない距離。勢いよくいっても十歩ほど歩く。
 四人はどんなふうにいけばより少ない歩数でいけるか話し始める。

「とりあえず全員で行くというのはなしで」
「だな。一人で行かんと所持金の減る量が怖いことに」
「魔術で飛んでいくのが一番簡単なんですけどねぇ。使えないし」
「私が行くと余計に歩数がかかるから、候補から除外」

 あーでもないこうでもないと話し合う。

「ちょっと考え方を変えてみましょう」
「どんなふうに?」

 アリアは話し合いを中断させて別の提案を出す。ローカスがどんなことか聞く。

「ここから動かずにスイッチを押す方法は何かないかと」
「何か物を飛ばして当てる?」

 イサラはふと思いついたことを言ってみる。

「投げるか」
「考えるのも飽きてきたしやってみるか」

 本当に飽きていたのかローカスは荷物を漁り即実行する。結果、

「無理」

 スイッチまで届くことは届くのだが当たらない。荷物を全部投げてしまうわけにもいかず五回試して一旦止める。

「投げても無理ですか。ほかに何か浮かびます?」
「うーん。諦めて大幅で歩くか……あ!」

 何を思い出したのかフーズはポンと手を叩きイサラを見る。

「イサラ! 前に練習したアレやってみよう」
「アレ……もしかしてどこまで高く飛べるかってやつ?」
「そうそう」

 イサラも思い出したのか上手くやれるかなと言いつつ準備運動を始める。

「なあフーズ、アレってなんだ?」
「薙刀を使った移動方法っていうのかな、イサラを乗せて飛ばすんだ。上手く説明できないから見ててくれ。成功すれば500シルくらいで済む」

 フーズは扉の向こうへ軽く飛び込む。この時点で100シル減る。薙刀をふって以前の感覚を思い出しイサラに合図を送る。イサラは荷物を置き剣と鎧も置いて扉から距離を取る。そして走って部屋に入る前にフーズを越すように勢いよく跳ぶ。イサラが近づいてきたときにフーズは薙刀をふってそばを通るイサラの足の裏に当てふり抜いた。フーズによってさらに勢いを得たイサラはスイッチ手前5mに着地し、そのまま三歩分跳ねてスイッチを押すことに成功した。
 その様子をアリアとローカスは呆れと感心が入り混じった様子で見ていた。

「いや〜けっこう覚えてるもんだな」
「うん。タイミングとかばっちりだったね」

 何度も練習した芸が成功して嬉しいのだろう、パーンとハイタッチをして喜ぶ。
 イサラとフーズはあまり緊張せずにやったが簡単な芸ではない。タイミングが速ければイサラの胴や頭部に薙刀が当たり怪我させるし、遅いと空振りに終わる。絶妙なタイミングを狙わないと遠くに跳ばずに終わる。二人はこの芸を完成させるまでに一ヶ月という時間を要した。
 もっともこの芸がなんの役に立つかと聞かれたら答えようがない。

「すごい技なんでしょうけど、魔術を使用していないことを考えるとちょっと非常識と感じてしまいます」
「大道芸であんなやつみたことある。街でやればちょっとした小金を稼ぐことができるな」

 それぞれ感想を言いながら出てきた看板を見る。内容は、

『第一関門突破おめでとうございます!
 次のお題は破壊力。部屋中央で待ち構える計測用ゴーレムに合計三回攻撃。ゴーレムが求める以上のダメージを叩き出してください。魔法と氣の使用可です』

 扉を開けて中を覗くとたしかにゴーレムが立っている。岩石製の筋肉をみせつけるようにポージングをしているボディビルダーのようなゴーレムが。近づいていくと突然話し出す。

「ぶわっはっは! よく来た挑戦者よ。我が超絶ボディに傷をつけられるものならばつけてみよ! この美しい筋肉に貴様らの貧弱な攻撃はきかんがな!」

 ポーズを変えながら自慢のボディをみせつけてくる。岩石でできた顔は表情が変わらず無表情だが、なぜか笑っているとわかる。

「誰から行く?」

 ゴーレムを眺めながらローカスが聞く。アリアが一歩進み出る。

「私からいきましょう」
「アリアには近づいてほしくないなぁ。あれに近づくと変なのが感染しそうだし」
「大丈夫です、私も近づきたくありませんから。私の持つ最大威力の魔術で距離をおいて攻撃します」

 ひどい会話をしながら攻撃準備に入る。杖を両手で持ち目を閉じる。集中するアリアの耳から音が消えていく。力が杖の先に集まり、描いたイメージが世界へと現れる。杖の先に緑の光が灯り、光に染まった風が渦巻いていく。アリアは目を開けて言葉を紡ぐ。

「荒れる風、切り裂く風、我が敵を討て。風の力ここに示す、ストームボム!!」

 言葉の終わりと同時にゴーレムを風が包む。瞬間、風が爆発した。荒れる風がゴーレムに牙をむく。風の結界は周囲に風を逃がさない。結果、全ての風がゴーレムに叩きつけられた。
 緑の風が消えるとそこには地面に倒れ伏したゴーレム。ピクピクと動いてはいるがそれ以上の行動はできそうにない。

「み、見事なり。一撃で倒されるとは思ってもいなかったぞ。合格だ」

 これだけ言うとゴーレムは消えていった。

「意外と脆かったわね」
「…アー姉こんな魔術持ってたんだ」
「この魔術って当たればスケイルビーストにもダメージ与えられるだろうな」

 先ほどとは代わって今度はイサラとフーズが呆然としていた。

「当たればね〜。ストームボムは発動までに溜めが必要で隙ができるから使い勝手がいまいちなの。スケイルビースト戦で使おうとしたら、どうぞ狙ってくださいっていってるみたいなものだし」
「今回みたいなことじゃないとまだ使えないか」
「もっと修練が必要な魔術です。これでも少しは発動が早くなったほうだけど」

 看板を見て内容を確認する。次の障害もクリアし進んでいく。合計五つの障害をクリアしていった。
 簡単に何があったか書いていくと、大掛かりなトラップが仕掛けられた部屋。ここはローカスが解いた。部屋中を跳ね回るボールの中から特定のボールを制限時間以内に取る。障害物だらけの真っ暗な部屋で気配だけを頼りに動く人形を捕まえるといったものだった。
 最後の障害の部屋をクリアすると看板の代わりに宝箱が出てきた。

「あははは、いろんなものにぶつかったね」
「楽しそうだなイサラ」
「うん面白かったよフーズ」

 イサラは本当に楽しそうに笑う。他の三人はいささか疲れた様子で宝箱に向う。

「なーにが入ってるのかね。うん罠はなしっと」

 ローカスは罠と鍵の有無を点検する。開けるぞと言ってからふたを開ける。中には斧が入っている。木製の柄は約150cm、両刃の刃に赤い染料で模様が描かれている。刃中央に小さな赤い宝玉が三つ並んでいる。

「斧だな」
「斧だねぇ」
「斧だ」
「斧ですね」

 ローカスは取り出して軽くふってみる。8kgはありそうな重い斧を苦もなく扱う。

「重くないのかそれ?」
「今使ってるやつより少し重いだけだから特に問題はない」
「鑑定して大丈夫なら使いますか?」
「使えるなら使ってみようか」

 この後もう一階攻略してから協会へと帰った。
 斧は紅星の戦斧という名前の属性道具。火の魔術を高める効果があったがローカスは魔術を使わないので関係なかった。今使っている斧よりも良い物なので使うことになった。


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2006年03月25日

第10話

 1
 魔壊族とは人族、精霊族、獣人族の三種族よりもあとになって現れた種族で、約千年前に大きな戦争を起こし三種族とは敵対した。戦争を起こした理由は簡単で破壊するため。その破壊に意味はなく全てを破壊することが魔壊族の存在意義。
 上級魔壊族は十三人しかいない。少数精鋭という言葉があうほどの強さで一流冒険者(Lv300クラス)でも一対一では生き残れない。一流どころを十人以上集めてきちんと連携し、ようやく対等に戦うことができる。

 そんなものの封印があと二年たらずで解けると言われて驚かない人はいない。それと同時によく封印できたなと感心する人も多いだろう。

「い、いそいで魔法解かないとまずいことになるんじゃ!」

 封印されているものの正体を知って慌てるイサラ。フーズは何も言っていないが同じように慌てている。逆に期限がせまっているとわかっているはずのアリアは落ち着いており、ローカスもアリアが落ち着いているんだから大丈夫なんだろうと落ち着いている。

「大丈夫よ、予定をざっと計算してみたら一ヶ月弱余裕があったから。今までのペースで塔に挑戦していけば充分間に合います。逆に焦ると余計なハプニングが起きるわよ?」
「当事者がこう言ってるんだ。きっと大丈夫なんだろうさ」
「二人とも落ち着きすぎだと思うんだが、普通最悪を考えて行動しないか?」
「最悪だと封印が解けて上級魔壊族が復活といった状況になりますね。それに対しては少しでも対抗できるように今ここで力をつけてますから」

 アリアは塔に挑戦しているもう一つの目的を話す。

「考えてたんだな。対抗できるかどうかは置いといて、これからの予定を教えてくれないか」
「移動に馬車を使って二ヶ月。魔法解除と封印儀式に一ヶ月。塔の探索に一年。余りに一ヶ月。どれも余裕をみて時間をとったんだけど」

 フーズも自分で考えてみる。
 馬車を使った場合、移動に二ヶ月もかからない。遠回りして二ヶ月かかるといったところ。馬車を買うお金も200階探索するころになれば貯まる。これはOK。
 次に魔法解除と封印儀式。魔法解除は十日ほどで終わる。

「儀式ってどれくらいかかるんだ?」
「二週間」

 これにも余裕があると頷く。
 塔の探索は200階に行くだけならば十ヶ月弱だろう。そこで氷閃鳥に上手く会えるか、羽が手に入るかがネックになる。

「氷閃鳥の羽を手に入れるのにどれくらいかかると思う? 正直こればかりは運次第だと思うんだけど」
「情報を集めて考えたところ、私は一ヶ月以上同じ階に留まっていればよほど運が悪くないかぎり手に入ると思いました」
「それなら大丈夫…か?」

 俺って運良かったっけ? と今までを思い返す。結果、いまいち自信がでなかった。俺一人で行くんじゃないしな、とすぐに思い直す。もしフーズが心を読めたのなら思いっきり焦ったのかもしれない。なぜならアリアも同じように考えていたから。
 昨日のエクストラフロアのことがあるので、彼らが奇妙な運を持っているのはたしかなんだろう。

「ねえフーズ、結局大丈夫なの?」

 慌てていて上手く考えがまとまらなかったイサラが聞く。

「ハプニングが起きないで順調にいけば余裕があるって言える。少々のハプニングが起きてもまあ大丈夫っぽい。致命的な事が起きて一ヶ月以上塔にいけなくなると、よほど運が良くないかぎりアウトだ」

 フーズの言葉を彼女なりに吟味してみる。結論は、

「…特に急ぐことはない?」
「だな。アリアの言ったとおりいままでと同じペースで進んでいけばいい」

 いままでどおり少しだけ急いで進むということに決まったらしい。ローカスはアリアが出した結論なので異論はない。200階に到達するだけならば悪くない計画だが、その後に若干不安が残る。特に氷閃鳥の羽入手。

「これで話は終わったな? 酒を頼むとしようかね」
「あーごめんなさいローカス」

 宿の親父に注文をしようとに椅子を立ちかけたローカスをアリアが止める。

「ん? まだ何かある?」
「いえ、話はありませんが昨日手に入れた靴の鑑定と経験値取得をしておいたほうがいいかなって」
「そーいやそーだな」
「楽しみにしてたのにごめんなさい」
「謝ることないって。帰ってきて飲めばいいんだしな。じゃ出かけようか?」

 すまなさそうにするアリアにローカスは気にしないようにと手をパタパタとふる。
 四人は会計を済ませ、必要な物を持って宿を出た。先に協会へと行くことにしてそちらへ歩き出す。


 2
 協会の入り口に人だかりができている。人々の視線の先には即席の看板が立っていた。一般人は少し見ただけですぐにその場を離れ、冒険者は書かれた内容をきちんと読んでいる。
 四人も看板に興味を覚え見ることにした。しかし人が多くなかなか前に進まない。そこでフーズがイサラを肩車して記事の主題だけでも見ることに。

「イサラ見えたか?」
「うん、見えた。えっとね…昨日の移送陣不調についてだって」

 看板には昨日のことについて書かれていた。
 簡単に内容をまとめると、昨日移送陣の転送ミスが相次いだが今日は元に戻っており転送ミスの心配はない。記録には約百年単位で定期的に起きていることだと残っていた。こうなる原因は不明だがこの先数十年は同じことは起きないだろう、と書かれていた。

「アリアの推測が当たってたんだな」
「当たってても意味はありませんけど」

 ローカスの思わずでた言葉になんの感慨もなく答えるアリア。そんなことよりと看板に興味をなくし経験値配布所へ三人を促す。内心迷惑料でも出るならもう少し関心も持てますがと思ってたりする。
 協会も命十年分の代価など出せるわけがない。塔で起こったことは各自の責任で協会が責任を取ることはないと始めに説明もされている。
 いつものごとく配布所の列に並び順番を待つ。四人の順番が来てカードを渡す。

「イサラちゃんとフーズさんはLv125まで、アリアさんとローカスさんはLv128まで上がりますがよろしいですか?」

 この言葉を聞いたとたんアリアを以外の三人は呆けて受け答えできなくなる。表面上は何の変化もないアリアが話を進めていった。
 三人が呆けた原因はたった一回の戦闘でLvが10以上あがったことにより、それだけ昨日の戦闘がきついものだったと再認識したため。アリアも動じていないわけではなく、よく見ると頬に一筋の冷や汗が流れていた。
 協会での用事を済ませ靴の鑑定へと向う。

「おう、いらっしゃい! 今日は何を持ってきたんだ?」

 いつも来る道具屋兼鑑定屋が威勢良く出迎えてくれる。ローカスが持っていた袋から手に入れた黒い靴をカウンターに置く。

「今日はこれだけだ」
「ほーこいつは」

 道具屋はちょっと珍しいものを見たというふうに声を漏らす。靴を手に取り細部までよく調べる。

「これは速騎靴だな。履けば素早く動けるようになるといったものだ。この靴はだいたい1,3倍の速さになる。売るなら金貨20枚、二十万シルで買い取るよ。履くならイサラ嬢ちゃんしか履けないな」
「ありがとうございます。鑑定料50シルです」
「毎度」

 アリアは鑑定料を払い速騎靴をローカスに渡す。

「結構珍しいもの手に入れたんだな。Lv的にはまだ無理だと思うんだが?」

 道具屋はローカスがしまうのを見ながら聞いてくる。

「昨日の移送陣の転送ミスに巻き込まれて命がけで手に入れるはめになったものです」
「ああ昨日の。無事でよかったよ。美女と美少女がいなくなるなんて大きな損失だからな」
「俺たちの心配は?」
「男の心配なんざしたくない!」

 損失という部分は同意見だがそれでも突っ込まずにはいられないローカス。フーズは誉められて喜ぶイサラの相手をしていた。道具屋に別れを告げて嵐の坂亭に帰る。フーズとイサラも荷物を置きっぱなしなので一度嵐の坂亭に戻らなければいけない。

「さてこれで今日の用事は終わったし宿に帰ってのんびりするだけだ」
「私は手紙を書いておかないと」
「ちょっと寄り道していい? 飴が少なくなったから買い足したい」

 上からローカス、アリア、イサラ。アリアは手紙に探し人が見つかったこと、できるだけ儀式の準備は済ませておいてほしいこと、わけあって期限ぎりぎりでないと帰ることができないと書くつもりだ。

「それじゃお菓子屋によってから宿へだな」

 飴を買い宿へ帰る途中、アリアはふと思い出しようにイラサに話し掛ける。

「そうそう、明日から速騎靴を履いてきてね」
「私が使っちゃっていいの?」
「せっかく手に入れたものは使わないと、それにサイズ的にイサラしか履けないし」
「フーズとローカスは?」
「「かまわない」」

 三人の同意を得てイサラが使うことになった。速騎靴はスピード重視のイサラにはちょうどいいもので三人はそのことも考えて使うように言っているのだろう。
 宿に到着し石版を紫宝玉に変える。これでアリアが手紙を書く以外は全て用事が終わった。


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2006年03月24日

第9話

 1
 夜が明けて人々が起き動き出しても四人は眠ったままだった。それだけ昨日の戦闘が体力精神ともにきついものだったということなのだろう。一番に起きだしてきたのはイサラで昼前だった。

「ふあ〜。んー?(隣に誰か寝てるぅ。いつもは一緒に寝てくれないのに、フーズ今日は寝てくれたんだぁ)」

 完全には目が覚めてはいないようで寝ぼけながら考える。

「えへへ〜。(もったいないからもうちょっと寝てよう)」

 隣に眠るアリアをフーズと思い込み抱きついてもうひと眠りしようとする。アリアの胸に顔をうずめる形になり、抱きついた感触は当然フニュゥと柔らかかった。

「(柔らかいな〜。気持ちいい……あれ?)」

 柔らかな感触に満足しながらも疑問に思い、眠い目をこすり見てみる。半覚醒の頭で思い描いていた顔はなく、美人さんつまりアリアの顔が目の前にあった。

「フーズがアー姉に!?」

 通常ではありえない思考をして間違いに気付かぬまま驚く。その声でアリアは目が覚めた。んーっとのびをして眠気を払いイサラに挨拶をする。

「おはようイサラ」

 アリアはいつもと変わらぬ口調で挨拶をする。いつもどおりに接するということを実行していた。

「おはようアー姉?」
「なぜ疑問系なの?」
「いやだって隣に寝てるのがフーズだと思ってたら、柔らかいし気持ちいいしで目開けたらアー姉でフーズ変身で」

 イサラはいまだ間違いに気付かず混乱の状態にある。アリアにはなぜ混乱しているのかわからなかった。とりあえず話し掛けてみる。

「何を言いたいのかいまいちわからないけど。一緒に寝てたのは始めから私よ?」
「そーなの?」
「ええ」

 アリアとの会話で混乱がとける。よく確認すると部屋も銀の花亭にとってある部屋じゃないことに気付く。

「ここはアー姉の部屋だね、なんでここに?……あっ!」

 イサラは混乱で忘れてた昨日のことを思い出す。嫌な汗がじわりと出てくる。恐る恐るといった感じでイサラはアリアを見る。

「あのねアー姉」
「何?」

 なんとなくイサラが何を考えているか予想はついたがなんでもないようにアリアは聞き返す。その様子にフーズは何も言ってないのかなと思うイサラ。困惑しながら聞いて見ることに。

「昨日のことなんだけど」
「フーズから聞いたわよ。いくつか聞きたいことがあるけど」
「聞いたんだ……でもそれにしてはいつもと変わらないね?」

 イサラはアリアの態度に少しの変化もみられないことを不思議に思う。
 以前破呪を使ったときには助かったという喜び以外に、もっと早く使えば被害は少なく済んだという怨みや一般人とは比較にならないほどの力に対する恐怖と忌避を向けられた。それによってイサラは破呪を使った後の人々の反応を怖がるようになっていた。

「フーズから聞いたって言ったでしょ? イサラが特別扱いを嫌うってことも聞いてる。だから私たちはいつもと同じに接していくって決めたの」
「たちってことはロー兄もなんだ。…ありがとう」

 言わずに隠していた気持ちをフーズが気付いてくれてフォローしてくれていたこと、アリアとローカスがいままでと同じように接してくれることが嬉しく笑顔になりお礼を言う。
 ローカスしか知らないがアリアも人々から向けられる感情によって害をうけたことがある。フーズほどではないけれどもアリアはイサラの心情に気付くことができた。ちなみにローカスはこういった心情にはいっさい気付いていない。持ち前の人のよさで素直にフーズの言葉を受け取っただけだ。

「そうだフーズはどうしてる? 私が破呪を使うと辛そうな顔するんだけど。それとも怒ってたりする?」
「私が見た感じじゃ自分の力の足りなさを後悔してたわ。(それは私とローカスもなんだけど)」
「そっかぁ」

 アリアの言葉でイサラの表情は沈む。アリアが後半の部分を声に出していたらもっと落ち込んでいただろう。

「でもね、私たちにいつもどおりにって言ったんだからフーズもいつもどおりにしてくれるわよきっと。
 それに今回は嬉しいことがあったんだから、そんな顔しないの」
「嬉しいことって?」
「それはあとのお楽しみ♪」

 アリアの表情は本当に嬉しそうでイサラもつられるように明るくなる。アリアは昨日軽く拭いて汚れを落としただけのイサラをつれて風呂へと行く。その途中でフーズとローカスを起こしておく。
 フーズは何か言いたそうにしていたがアリアとローカスがいつもと同じようにしているため何も言わず普段どおりに接する。
 

 2
 イサラたちが風呂から上がるとちょうどフーズたちが注文していた料理がテーブルに並ぶ。一食抜いているので多めに注文してあるが30分後には綺麗になくなっていた。

「ごちそうさまっと。今日は休みだし酒飲んでもいいかアリア?」
「ちょっと話があるので待ってください」

 好物の酒を飲みたそうにするローカスをアリアは止める。

「了解。んで話しって昨日の続きなのか?」
「それあるし、話しておきたいこともあります。まずは昨日のことで気になったことからでいい?」

 アリアはイサラとフーズを見て言う。

「いいよ。なあイサラ」
「うん」
「じゃあまず一つ、破呪の使用方法について」

 イサラにはアリアの意図がわからない。聞いてどうするんだろうと思いつつ素直に答える。

「破呪には二つの鍵がついてて、鍵を外すと自由に使えるよ。鍵は髪を縛ってる紐と使いますよっていう宣言」
「鍵って言うか封印はイサラが破呪を容易に使えないようにつけられたものなんだ。俺たちがピンチになれば躊躇なく使うだろうからな」

 イサラの説明にフーズは補足を入れる。

「フーズだって私たちがピンチになれば無茶するでしょ。それと同じだよ。
 こんなこと聞いて意味あるのアー姉?」
「どうやって使えるか知っていれば、いざってときに止めることができるからね」

 笑って言うアリアを少し汗をかき見るイサラ。反対にフーズとローカスは感心している。

「次、イサラって本当は何才なの? 私は10才いくかいかないかって思い込んでいたんだけど」
「17才らしいぞ」

 イサラが答える前にローカスが答える。

「ローカスなんで知ってるんです?」
「昨日フーズに聞いたから」
「なるほど」

 アリアの疑問に簡潔に答える。その答えにアリアもすぐに納得する。

「最後にイサラって実年齢と比べて幼いように感じるんですが、肉体的な成長のほかに精神的な成長も止められてるんですか?」
「止められているのは肉体のみ。幼いのは肉体に精神が引っ張られてるせいじゃないかって鑑定士は言ってた」

 フーズの説明にほうほうと頷くアリアとローカス。

「聞きたいことはこれで終わり?」

 ほかに何かある? と首を傾げイサラは聞く。その動作に思わずイサラを抱きしめたくなったアリアは衝動を抑えて首を横に振る。

「次は話したいってことだけど、起きたときに言ってた嬉しいことも話してくれる?」
「ええ」

 イサラは嬉しいことを早く聞きたくてわくわくしている。フーズとローカスには紫宝玉のことだとわかっていたがアリアが話すことはそれだけではなかった。

「昨日の戦闘のあとにね捜し物の一つ紫宝玉をみつけたの!」
「……」

 この言葉を聞いたとたんイサラの動きがピタッと止まる。
 驚くだろうと反応を楽しみにしていたアリアはイサラの無反応ぶりに気勢を削がれる。そしてそれはフーズとローカスもだった。反応のないイサラは静かにフーズを見る。

「ほんと…なのフーズ?」
「本当だ」
「ほんとのほんと?」
「本当の本当だ」
「じゃあ、あと一つ氷閃鳥の羽さえ揃えば魔法は解ける?」
「解けるな」

 イサラの目からぽろぽろと涙が溢れ出す。声は出さないように我慢しているので泣いていると気付いているのは四人しかいない。捜し物を手に入れて実際に魔法が解けるかもしれないという実感ができたことにより溢れ出てきた涙だった。
 フーズはイサラを抱き寄せて落ち着くまで背中を撫でてやる。泣き止んだのは五分後だった。

「落ち着いた?」
「うん。嬉しくて思わず泣いちゃった」

 顔を上げたイサラは目が赤くなってはいるが言葉どおり落ち着いて泣き止んでいる。

「あと一つならそんなに時間かからないよね」

 イサラは自分に言い聞かせるように言う。

「タイムリミットがつくけどね〜」
「「は?」」
「ふむ」

 イサラの言葉にアリアがさらりと付け加える。イサラとフーズは意味がわからず疑問に思い、ローカスはアリアの言葉の意味がわかるのか納得している。

「えっと、どういうことアー姉?」
「私たちがここに人を探すためにきているってことは覚えている?」
「なんか石が反応するとか言ってたな」

 こくりと頷き胸元から小瓶を引っ張り出す。中の石は以前見たときと同じようにほのかに光を放っている。

「これに反応する人を探すのが私の使命」
「『私の』じゃなくて、『私たちの』なんじゃ?」

 アリアの言葉がまるで自分一人だけに課せられた使命だと言ってるように聞こえたフーズ。アリアはフーズの言いたいことに気付き頷いて肯定する。

「もともと一人旅の予定だったの。ローカスとは森を出てすぐに偶然出会ったんです。外の世界を知らなかった私を心配して一緒に旅に出てくれたのがローカス」
「その話はまた今度な。今は話の続き」

 自分の話になり気恥ずかしさを覚えたローカスは逸れかけた話を元に戻す。

「そうですね。この石が反応するユオンの兆しを持つ人を探してイサラとフーズに出会ったと」
「でもちゃんとした反応はなかったんでしょ?」
「一昨日まではね。昨日イサラが元の姿に戻ったとき強い反応を見せた。その反応は文献に書かれていたものと同じでね、イサラが私の探していた人だってわかった。ここまではいい?」

 アリアは確認するように三人をみる。各々頷いてここまではわかったことを示す。

「それでタイムリミットについてだけど。ユオンの兆しは私の故郷に封印されているものを引き続き封印し続けるために必要なもので、その封印が解けるまでにあと二年もなくてね。解ける前にイサラを連れて行きたい、ということです」
「聞きたいことが二つ」

 フーズはアリアの話を聞いて、すぐに疑問に思ったことを問う。アリアは無言で先を促す。

「今すぐイサラを連れて行かない理由と封印されているもの。
 期限が決まっているならすぐにでも連れて行ったほうがいいんじゃないか? 封印しないといけないほど危険なものなんだろう?」
「連れて行かない理由は簡単です。今のままだとイサラが死ぬから」
「私死ぬの!?」

 突然降って湧いた魔法とは別の命の危機に驚くイサラ。フーズのアリアを見る視線が険しくなる。

「死なないから落ち着いて、フーズもそんな目で睨まないで。
 死ぬって言った理由はね、封印の儀式に関係あるの。儀式にはイサラも1時間立ち会ってもらわないといけないんだけど、今のままだと破呪状態で1時間参加っていう自殺行為をしなくちゃいけなくなる」
「イサラを気に入っているアリアがそんなことさせるわけないだろ。わかったなら落ち着け」

 アリアの説明とローカスの言葉でイサラとフーズは落ち着いた。

「だからかタイムリミットがついたのは。イサラの魔法を解いてアリアの故郷へ期限以内に連れて行く」
「そういうこと。ちなみに封印されているものは上級魔壊族だから」

 なんでもないように封印されているものの正体をあかす。すでに知っていたローカスは動じないが残る二人は固まった。
 アリアはなんでもないように言ったが実際にはとんでもないものだった。


ee383 at 14:02|PermalinkComments(0)TrackBack(0)