カテゴリ:
消費者安全調査委員会(消費者事故調査委員会)が、家庭用ヒートポンプ給湯器(エコキュート)の低周波音被害に関する調査報告書を出しました。

【消費者事故調査委員会】家庭用ヒートポンプ給湯機から生じる運転音・振動により不眠等の健康症状が発生したとの申出事案
http://www.caa.go.jp/csic/action/pdf/2_iken.pdf

被害はあるのだが、未だ低周波音の健康被害に関する知見に乏しいとされており、「健康症状発生のリスクをできるだけ低減するとともに、より根本的な再発防止策の検討と発症時の対応の改善を進める」事に重点が置かれています。

(1)リスク低減のための対策

1.経済産業省は、住宅の設計・施工時における騒音等防止を考えた家庭用ヒートポンプ給湯機の据付けガイドブックの活用を促すため、住宅事業者や設置事業者へ据付けガイドブックの説明及び普及を促進し、適切な時期にその効果の確認を行うよう、一般社団法人日本冷凍空調工業会を指導すること。
 
2.経済産業省は、設置状況によってはヒートポンプ給湯機の運転音に起因した健康症状を訴える者が生じる可能性があることを、製品カタログに記載する等により、消費者に伝わるよう、製造事業者を指導すること。

3.経済産業省は、低周波音が健康症状を発生させる可能性があることに鑑み、ヒートポンプ給湯機の運転音に含まれる低周波音の更なる低減等に向けて、製品開発を行う際に配慮するとともに、低周波音の表示の在り方について検討を行うよう、製造事業者を促すこと。
4.環境省は、低周波音の人体への影響について、一層の解明に向けた研究を促進すること。 

【補足】
 1.「家庭用ヒートポンプ給湯機の据付けガイドブック」
http://www.jraia.or.jp/download/e-book/Set_Gb/index.html 
→強制力がないせいか、あるのに全然活用されていませんよね。
我が家の周りの新築の家屋でもこのガイドブックに反した設置のエコキュートが少なくないです。
しかし、実際の所このガイドブックに準じたエコキュートの設置でも、隣家居室内で低周波音が測定され、低周波音による被害が起き、訴訟にまで至っている事例もあります。

2.ここで気になることが、正しくは「運転音」じゃないんですよね。この表記だと防音壁を設置すれば大丈夫だと勘違いされそうですが…低周波音は可聴音の周波数を下回っていたりもするので、音ではなく「空気の振動」であると考えた方がいいと思います。そして低周波音を遮断させるには、面重量があり、高さもある壁(例えば被害者宅よりも高く厚いコンクリート壁)でないと意味がありません。
実際に低周波音被害を訴える方の多くは、音ではなく症状で機器の稼働を感知したりしています。

3. ここでやっと「低周波音」という文言が使われていますね。そもそもエコキュートメーカーの中には「うちの製品からは低周波音は出ていない」と主張される企業もありますので、まずは自社あるいは第三者機関での正しい低周波音測定ですよね。
エコキュートの場合、運転モードによって低周波音にムラというか波があるようですので、色々な場合をしっかり測定してほしいですね。

4.そもそも日本には低周波音に規制値がありません。参照値という「目安」になっている数値はありますが、地方自治体等においては被害を起こしている低周波音が参照値に満たない場合「規制値」のような扱いをされ、被害者の切り捨てに活用され、参照値を上回っていても「規制値ではないから」とまた被害者が切り捨てられています。低周波音被害が公害等調整員会の未解決・棄却事案を占めているのも納得です。

なのでやはり根本的な解決を目指すのであれば、環境省による法規制ですよね。 
これに関しては、現在「低周波音規制・国家賠償訴訟」という裁判が行われていました。

◆参照値を糾弾する低周波音規制・国家賠償訴訟を提起します ~全国のまだ「切り捨てられていない」低周波音被害者に送るメッセージ~
http://isakakazuhiro-lawoffice.jp/blog/archives/2012/07/post-12.html

この訴訟は残念ながら棄却されてしまったそうです…。
今回の事故調の調査報告書は、低周波音に関する裁判にも有効に影響していきそうなので、これからの判決に期待していきたいです。

(2)健康症状の発生時の対応

5.経済産業省は製造事業者に対して、ヒートポンプ給湯機から生じる運転音・振動によって健康症状が生じたとする個々の事案に対応して、製造事業者が健康症状の軽減に向けたヒートポンプ給湯機に関する具体的な対策を検討し提案するとともに、その履行がなされるように取り計らうなど丁寧な対応に努めるよう、指導すること。

6.消費者庁は、ヒートポンプ給湯機から生じる運転音・振動によって健康症状が生じたとの苦情相談への対応方法を地方公共団体に周知すること。
 
7.環境省は、現場での音の測定値が参照値以下であっても慎重な判断を要する場合があることを、一層明確に周知すること。

8.公害等調整委員会は、紛争となった場合の地方公共団体における適切な公害苦情対応について検討を行い、地方公共団体に対して指導、助言を行うこと。 

【補足】
7.環境省は「参照値を規制値のように扱ってはいけない」という文章を過去に出してはいますが、

低周波音問題対応の手引き書における参照値の取扱について
http://www.env.go.jp/air/teishuha/tebiki/attach/sansyouchi.pdf

実際のところこれは地方自治体に周知はされておらず、政令指定都市や都道府県レベルでも「参照値以下」なので「問題ない」と扱われることが常だったと思います。参照値以下であっても被害は起きているのだから、「対応」がなされるべきは当たり前の事でした。
ちなみに、高崎エコキュート訴訟においてもエコキュートの低周波音は参照値以下でしたが、「メーカー負担によるエコキュートの撤去及び電気温水器への交換」が実現しています。

エコキュート低周波音による健康被害事件、民事訴訟で和解成立の朗報
http://isakakazuhiro-lawoffice.jp/blog/archives/2013/12/post-15.html

高崎エコキュート訴訟の低周波音数値
http://j.gmobb.jp/lowfrequencysound/ekokyutomin_shi_su_song/ge_zhong_wen_zhangmeru/entori/2012/10/9_H21.6.16_ce_ding_jie_guogao_qi_shi_huan_jing_bu_huan_jing_zheng_ce_ke.html 

エコキュートの低周波音被害自体に対する認知度も実際には低いと思うので、もしかしたら世間的には 「画期的」な事故報告書かもしれませんが、被害者からしたら内容は本当に当たり前の結論が出たな、という感じです。
この報告書の内容がしっかりと守られ、発展していけるように。
また、今回は「エコキュート」という騒音源のみが取り上げられた報告書ではありますが、エネファーム、エコウィルという給湯器による低周波音被害も確かに存在し、エコキュート同様に消費者事故調への調査申請が行われています。同じ騒音源として、今後エコキュート以外の他の騒音源に対しても、この報告書の中にある対策が行われていく事を望んでいます。

一被害者(元ではありますが)として見守り、何か自分が出来る事をしっかりとして行けたらと思います。

今低周波音の被害に苦しむ皆さん、この報告書をしっかりと携え、頑張っていきましょう。「当たり前の日常」を取り戻しましょう。
それは取り戻せるはずで、取り戻せるべきだと、この報告書は示してくれていますから。

【このニュースに関連した報道】
http://www.asahi.com/articles/ASGDL7362GDLUTIL04K.html (朝日新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/20141219-OYT1T50096.html(読売新聞)
http://getnews.jp/archives/733325 (ガジェット通信・時事通信社)
http://mainichi.jp/select/news/20141220k0000m040052000c.html  (毎日新聞)
http://irorio.jp/agatasei/20141220/189435/  (IRORIO)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20141219/k10014130901000.html (NHK)