ボルベール<帰郷>

2007年08月09日

「おかえり」−なんて心にしみる言葉なんだろう。久しぶりの再会を無条件に受け入れてくれる人の存在、そして場所がこんなにありがたいとは!ペドロ・アルモドバル監督の新作「ボルベール<帰郷>」は、まさにそんなことを思い起こさせる作品。

 「オール・アバウト・マイ・マザー」「トーク・トゥ・ハー」に続く女性賛歌3部作の終章。主演には「ライブ・フレッシュ」「オール〜」に続く3作目の登場、ペネロペ・クルス。ライムンダという母であり、娘であり、そして一人の女性であるヒロインを演じている。
 殺された夫の遺体を隠すため冷蔵庫へ。その秘密を守るため営業することになったレストラン。そこに映画撮影隊が…。料理が評判を呼びあっという間に大繁盛。おまけに打ち上げまでもが行われてしまう様子がコミカルに描かれる。映画のクライマックス、タイトルにもなっているカルロス・ガルデルのタンゴの名曲「ボルベール=帰郷」が、母親イレネとの思い出の歌としてフラメンコ・スタイルで、ライムンダに歌われる。
 監督によると、このライムンダにはイタリア映画に登場した魅力ある女優たちの姿が反映されているのだそうだ。ソフィア・ローレン(「ふたりの女」)、アンナ・マニャーニ(「ベリッシマ」)、そしてクラウディア・カルディナーレ(「ウェスタン」)。ライムンダのメイクにも反映されている。女性という言葉は生ぬるい。まさに「おんな・おんな・おんな」。強調されたその姿態。監督の故郷、ラ・マンチャを舞台に、母国語で演じられているせいか、大地との結びつきも強く感じられる。そしてもう一人アルモドバルゆかりの女優カルメン・マウラが、いわくあるヒロインの母親イレネ役で登場。疎遠になっていた母親との再会でライムンダたちが心に隠してきた秘密を明らかになる。まさに心から「おかえりなさい」と声をかけたくなるような“ごく旨”映画の一本に巡り会える。



蕪木ミント/兵庫県
“映画と結婚した男”と自他共に認める映画好き。女性との婚期は逃してばかりいるものの、映画の神様は微笑んでくれているようで、映画に関わる仕事を生業としている。最近作では「松ヶ根乱射事件」がピカイチ。やはり映画のクライマックスシーンは、1対1の対決だよなあと思う、38歳男性。


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