カメレオン

2008年12月18日

 脚本家の丸山昇一が、故松田優作を主演に想定して書いたといわれる脚本の映画化。

ファンにしてみればすこぶる魅力的な宣伝文句だが、今作に主演した藤原竜也は否応なしに松田優作と比較されることになる。とはいえ、生きていたら還暦近い松田優作に全盛時の動きが期待できるかどうかははなはだ疑問。現時点でのキャスティングとして、若手の中でも演技派と目される藤原竜也を主演に据えた阪本順次監督の選択はけっして悪くはない。
 この作品、ハードボイルドと銘打っているようだが、印象としてはどこか無国籍アクション風。主人公とヒロインの出会いにしても、主人公たちが旅役者の老人たちと一緒に暮らしているという設定にしても、かなり浮世離れしている。彼らが対峙することになる謎の組織など、ディテールの描写が足らずリアリティが出ていない。脚本自体が松田優作という不世出の俳優の魅力を前提にしている以上、その前提が無くなった場合を考慮していないと、作り手の思惑がどこにあるのかわからない。もちろん、主人公の年齢設定などいくつかの点は考慮されてるとは思う。しかしたとえば、厳重に秘密にされているはずの組織のアジトへ突然主人公が登場したり、簡単に殺人を犯す奴らが、なぜか肝心の時にとどめをささなかったり。松田優作のカリスマ性でなんとかしてもらおう(?)という部分が見受けられる。
 カーアクションや、銃撃戦など、アメリカ映画などとは当然スケールが違ううえ、その山場に向けて盛り上げるはずのシーンが決定的に弱い。つまりはディテールの積み重ねが不足している。ラスト近くの主人公の怒りが頂点に達した後、アクションに至るまでにそういうサスペンスを盛り上げてゆくシーンがあればと惜しまれる。肝心なのはアクションの派手さではなく、そこに行き着くまでの実際は何も起こらないシーンの積み重ねなのだ。



川辺 彰一/大阪府
映画が好きなのはもちろん、映画館も好きなDTPオペレータ。見たい映画のためなら、より良い上映環境を求めて、他府県への遠征も辞さない映画館こだわり派。既成の劇場には満足できず、十数年前よりホームシアターを実践。現在140インチのスクリーンで鑑賞中。


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