愛を読むひと
2009年08月18日
世間の人生の先輩という方は、よく、「人生で学んだものや経験したものが蓄積されて人は大きくなる」と言われる。しかし、ある程度人生を過ごしてくると、蓄積しているもの以上に、人は生きていく中で多くのものを失ってきていることに気づかされる。それは、お金などの実体のあるものだけでなく、人への憎しみや優しさ、愛情などの大事なものもある。この作品は、人生の中で愛情の「情」は残ったが「愛」を失った男が主人公の物語である。
主人公の男は、高校生の頃、年上の美しい女性との逢瀬を楽しむ、愛のひとときを過ごす。しかしある日、年上の女性が忽然と目の前から消えて、その愛が終わる。それから何年か過ぎた頃、法律を学ぶようになった男の前に、ナチ戦犯の被告として再び、その年上の女性が現れる。男は、その女性を助けたいと思うが踏み込めない。それは、あの日を境に愛が断ち切られていたからだ。しかし、情は残っていたがために、刑務所に入ったその女性を陰ながら手助けをする。この失った愛と、残った情を監督のスティーブン・ダルトリーは、対象物を描くように観客にきめ細かく演出して見せる。
私は、この作品を観ている最中、自分ならどうするだろう、と思うようなシーンを何度か目にした。特にラスト近くになって、以前に愛し、情は残っていた女性が刑務所で出会うシーンでは、自分なら愛した女性を抱きしめるのか、無言で見つめあうだけになるのか、主人公に自分を投影してしまい、映画とは別の終わり方を想像していた。その意味で、この作品には見る人の心にグッと踏み込んでくる、鋭さと重さがある。そして、見終わったあとに自分がこれまでの人生で何を失い、何を得ていたのかが見えてくるような気がしてきた。この作品は、観た人それぞれの人生の深遠にあるものをとらえる、稀有な名作の一本ではないかと思う。
私は、この作品を観ている最中、自分ならどうするだろう、と思うようなシーンを何度か目にした。特にラスト近くになって、以前に愛し、情は残っていた女性が刑務所で出会うシーンでは、自分なら愛した女性を抱きしめるのか、無言で見つめあうだけになるのか、主人公に自分を投影してしまい、映画とは別の終わり方を想像していた。その意味で、この作品には見る人の心にグッと踏み込んでくる、鋭さと重さがある。そして、見終わったあとに自分がこれまでの人生で何を失い、何を得ていたのかが見えてくるような気がしてきた。この作品は、観た人それぞれの人生の深遠にあるものをとらえる、稀有な名作の一本ではないかと思う。
山中 英寛/東京都
子どもの頃、父に連れられて「ゴジラ」や「ガメラ」シリーズを見続けて以来、映画は私の一部になり、学生時代にたくさんの映画や人生の勉強をさせてもらったおかげで、今や私は正真正銘の映画オタクになりました。好きな映画は、小林正樹、成瀬巳喜男、ベルイマン、そしてキム・ギドクの一連の監督作品です。
子どもの頃、父に連れられて「ゴジラ」や「ガメラ」シリーズを見続けて以来、映画は私の一部になり、学生時代にたくさんの映画や人生の勉強をさせてもらったおかげで、今や私は正真正銘の映画オタクになりました。好きな映画は、小林正樹、成瀬巳喜男、ベルイマン、そしてキム・ギドクの一連の監督作品です。