曲がれ!スプーン

2009年12月22日

 本作は「サマータイムマシンブルース」が1本のリモコンをめぐってタイムマシンで時間を行き来する実に面白いSFシチュエーションコメディだった上田誠脚本、本広克行監督コンビの作品である。

同じくヨーロッパ企画の舞台劇の映画化で、しょぼいエスパーたちをめぐるコメディということで、今度はスプーン一本でどういうシチュエーションを組み立てるのか楽しみにしていた一作だった。ところが、配役もより楽しく、脚本にも細かな伏線がはられているのに、正直なところあまり面白くないのですよね。
 明らかなのはエスパー発掘番組のAD桜井米ちゃんに主役としてのドラマがほとんど与えられてないこと。そもそも、エスパーのたまり場の喫茶店での内輪のかけひきが長くて、米ちゃんが絡んでくるのが遅いのだ。しかも彼女が本物のエスパーを求めているにもかかわらず、やっと出会った目の前にいるエスパーたちの不思議な能力になぜか気がつかない。ここは自分たちの能力を隠したいエスパーたちと彼らの正体を見破ろうとするADとの丁々発止の攻防戦で盛り上げるべきではないか。彼女のドラマがしっかり構築されていないので、結末のシチュエーションの逆転の効果も薄くなってしまった。原作舞台劇を見てはいないけど脇役だったらしい彼女を主役にするための工夫がもっと必要だったように思う。皮肉で面白い伏線もエスパーたち側のほうは充実しているが、オープニングで見せる彼女の少女時代のスプーン曲げへのあこがれは、ラストの感動的(かな?)な光景にはあまり結びつかない気がする。
 以上の不満が残る作品であるが、にもかかわらず、長澤まさみのAD米ちゃんはチャーミングで、「セカチュー」後遺症というべきシンコクな役柄の映画が多い最近の作品と比べると、はるかに魅力的なキャラクターである。ぜひとも米ちゃんと本広監督にはもっと面白い作品でリベンジしてほしい。

原田 英二/神奈川県
技術関係のサラリーマンであり、残業も多いため劇場で見るのは年に2−30本程度ですが、CATVでさまざまな作品を楽しんでいます。日本映画が好きで、最近は市川崑作品の旧作に驚嘆することが多いです。「億万長者」のシュールで破れかぶれなギャグの連続にはびっくりしました。  


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