そして父になる

2013年09月27日

 カンヌ国際映画祭、審査員賞受賞、福山雅治氏のカンヌ登場も話題になった、是枝裕和最新作。産院での赤ちゃん取り違え事件を背景に、親子をつなぐものは血縁?過ごした時間?永遠に解けない問いに向かい合う。

 福山氏演じる主人公は建設会社のエリート社員。都心の高層マンションに住み、人生において負けたことはないと自負しているような男だ。ある日、6歳になった息子が、出産時産院で取り違えられた他人の子であることが判明する。相手家族に会ってみれば、地方都市で小さな電器店を経営するエリートとはほど遠い家庭。産院側によると、こういうケースではほぼ100%そこに落ち着くという、子供の交換に向けた日々が始まるのだが・・・。
 是枝作品初じゃないかとも思える、何とも嫌な性格の人間が主人公。努力すれば何でも手に入る、結果を残せない奴に価値はない、とはっきり考えている。幼い息子に対しても同様に考え、気が弱く人と争わない息子が本当の子ではないと分かった時、「やっぱりな・・・」と無意識に口にしてしまうほどだ。こんな人間を中心に描かれる物語なので、終始暗鬱な気持ちになってしまう。ただでさえ難しい子供の交換が、余計に苦しくしんどく。とはいえ、こんな人間だからこそ、人生で初めて、今までしてきたような努力ではどうにもならない試練に直面する様を深く掘り下げることにつながっている。
 いつもながら、演じていると見せない子供たちの演出は出色だ。実の子役の少年は関西出身らしく関西弁が出るのだが、関東地方都市在住の設定で違和感が出ないように、育ての親役リリー・フランキーにちゃんと関西訛りを喋らせるという丁寧さに感心する。
 優しく従順な育ての子に比べ、やんちゃな実の子に辟易しつつも、その我の強さに自らの血を見るように頼もしく感じてしまう心理。血はつながらないけれど温かく自分を育ててくれた母親に、結婚相手の連れ子と暮らす、取り違え事件を起こした看護師など、周囲に散りばめられた血ではない親子関係の配置も重層的にはたらき、2つの家族はこれからどのような選択をしていくのだろう、と余韻を残す。
 親であること、子であること。血だろうが過ごす時間だろうが、きっと一生をかけて父になり、息子になっていくのだろう。つくりものの物語を見ているというよりは、自分もその当事者となって思わず考えさせられてしまう力をもった作品だ。

HC/神奈川県
年間鑑賞本数170本。生涯のベスト1は17歳で観た「恋する惑星」。昨年「西瓜」が生涯のベスト10に食い込んだ。都会の孤独を映し出す作品に非常なシンパシーを感じる。劇場公開時に必ず足を運ぶ監督はフランソワ・オゾン、塚本晋也。男優の魅力を感じるのは困惑する表情、女優の魅力を感じるのは不機嫌な表情。




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