バンクーバーの朝日

2014年12月22日

 1900年代前半、バンクーバーの日本人街に存在した野球チーム「バンクーバー朝日」。地元のアマチュアリーグに参加し、体格のハンデを克服するべく編み出された、バント、盗塁、ヒットエンドランを駆使する戦法がカナダ人にも認められ人気チームとなるが、太平洋戦争の勃発とともに解散。60年後、カナダ野球殿堂入りを果たすまで知られざる存在だったこのチームの秘話を明らかにする物語だ。

 主なメンバーは製材所勤務のショート、レジー笠原(妻夫木聡)、漁業に従事するピッチャー、ロイ中西(亀梨和也)、レジーの同僚でムードメイカーのセカンド、ケイ北本(勝地涼)、チーム唯一の所帯持ち、家業は豆腐屋のキャッチャー、トム三宅(上地雄輔)、チーム最年少、ホテルのポーターでサード、フランク野島(池松壮亮)。野球経験者も多い、演技派俳優陣が集まり、良質な青春映画が期待されるのだが・・・。
 このところ良作を連発する石井裕也監督なのだが、台詞や音楽少なく、淡々とシーンを積み重ねる作風が持ち味であり、野球映画には相性が良くないようで。
 普段は過酷な肉体労働につき、移民として差別される毎日を過ごしている彼らの日常描写が暗い印象になってしまうのはしかたないにしても、それでも野球が好きで野球に青春を賭ける高揚感ともいうべきものが、試合シーンに出ずして野球映画といえようか・・・。
 何だかあまり必要性のないキャラクターの出演も目立つ。宮崎あおいは「舟を編む」からの友情出演?本上まなみとユースケ・サンタマリアの役柄は必要だったかなあ。
 朝ドラ「ごちそうさん」で美声が注目された高畑充希嬢は、レジーの妹役で健闘。いつまでも移民根性が抜けない!と激しく父親をなじるシーンには、どんなに差別されても自分の生きる国はここカナダなのだという決意がみなぎり出色だ。もちろん歌(「私を野球に連れてって♪」)もしっかり披露してくれるけれど、欲をいえば、そこは泣きを入れずにのびのびと歌声を聴かせてほしかった。
 諸々不満は残るものの、最近鼻につくテレビ局主導の“日本人って素晴らしい!”アピールの作品だったらどうしようという不安を払拭するような落ち着きには、作り手たちの良心がみえた。キャプテンであるレジーは、何くそ!とカナダ人を見返すために戦い方を思いついたのではないという。ただその時、その場で自分たちにできることをやる。人種の違い、文化の違いに卑屈にならない。他国人に対し差別だ卑怯だと騒ぐ前に、いくらでもやることがあるという、この主人公兄妹の立ち位置は、どんな時も心に留めておきたいと思うのだ。

HC/神奈川県
年間鑑賞本数170本。生涯のベスト1は17歳で観た「恋する惑星」。都会の孤独を映し出す作品に非常なシンパシーを感じる。劇場公開時に必ず足を運ぶ監督はフランソワ・オゾン、塚本晋也。男優の魅力を感じるのは困惑する表情、女優の魅力を感じるのは不機嫌な表情。



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