はじまりのうた

2015年02月07日

 「ONCE ダブリンの街角で」が大ヒット、舞台版も昨年日本で上演され、小規模ながら息の長い人気作品を生み出したジョン・カーニー監督の最新作。主演にキーラ・ナイトレイというスターを迎え、より広い観客層に訴えかける作品へとグレードアップした。

 グレタ(ナイトレイ)は恋人でもあるミュージシャン、デイヴ(アダム・レヴィーン)と共作した曲が映画主題歌として大ヒット。それをきっかけにデイヴがメジャーデビューすることとなり、ニューヨークにやってきた。メジャーへの野心たっぷりのデイヴに対し、良質な自分スタイルの楽曲作りができれば十分というスタンスの彼女は、あくまで彼のサポートにまわる心づもり。とはいえ新進スターとして多忙をきわめていくデイヴと、いつしか気持ちはすれ違い、彼の浮気を契機に家ナシ・先ナシ生活へと転落してしまう。
 ダン(マーク・ラファロ)は、かつて数々のアーティストをブレイクさせた敏腕プロデューサーだが、時代の流れについていけず、自ら設立したレーベルからクビを言い渡される。妻子とも別居状態でなかばヤケ気味の毎日。
 そんな中、グレタは友人のミュージシャンが歌うバーで無理やり登壇させられ一曲披露、たまたま居合わせたダンに才能を見いだされるのだった。センスと野望は十分のタッグが誕生するが、制作資金は皆無のこのコンビ。PCと編集ソフトと高性能のマイクがあれば、どこでも録れるじゃないか!と、ニューヨーク各所での野外レコーディングによるアルバム制作プロジェクトを立ち上げる。友人、家族、街で出会った人々をも巻き込んでつくられていくアルバムは、業界に新風を吹き込めるのか!?
 音楽業界事情に詳しい人なら、今までの常識を打ち破るアイデアの面白さ、業界あるある(?)などをもっと楽しめるのかも、と思わせられ、自身のうとさが悔しい。それでも何か新しいものが生み出されていくわくわく感、それとともに動いていく人々の関係性が悲喜こもごもで、ドラマとしても優秀。
 最近はコスチューム・プレイばかりの印象のキーラだが、はつらつとした現代っ子ぶりもとてもキュート。センスが良くて自分が好きなことは譲らない、求めるものは経済的な成功より、無理せず自分も周りもハッピーに生きること、という姿勢はいかにも現代の若者だ。豊かな声量はなくても雰囲気で聴かせるカーディガンズみたいなヴォーカルも素敵で、このキャラクターにぴったり。
 ダンの娘役はヘイリー・スタインフェルド。「トゥルー・グリット」の好演が印象的だが、今回も巧い。父親を煙たがっているように見せて、音楽への情熱をこんなにクールに明かされたら、お父さんぐっときちゃうよね・・・。
 音楽シーンにいろんな感情が喚起されてしまうという点でさすがカーニー監督、この分野では今や第一人者となったのではないだろうか。

HC/神奈川県
年間鑑賞本数170本。生涯のベスト1は17歳で観た「恋する惑星」。都会の孤独を映し出す作品に非常なシンパシーを感じる。劇場公開時に必ず足を運ぶ監督はフランソワ・オゾン、塚本晋也。男優の魅力を感じるのは困惑する表情、女優の魅力を感じるのは不機嫌な表情。



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