加藤容疑者はアスペルガー症候群ではない


 17人の死傷者を出した秋葉原無差別殺傷事件。
 かなりの波紋を呼んでいます。
 
 全く偶然に事件に巻き込まれてしまった被害者の方々は、
本当にお気の毒です。

 「なぜこんな事件が起きるのか?」と多くの人は、
疑問に思うかも知れません。

 6月15日発行の「映画の心理学」では、この
「秋葉原無差別殺傷事件」について詳しく分析しました。

 あまりにも詳しく分析しすぎてしまったため、
原稿用紙67枚分にもなってしまいました(笑)。

 目次をごらんいただきますと、

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 秋葉原無差別殺傷事件を考える 〜 衝動性のコントロールとセロトニン
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    【 目 次 】
■1 はじめに
■2 なぜ、犯人が異常者であることが望まれるのか?
■3 加藤容疑者は、アスペルガー症候群ではない
■4 特殊な事件か? 氷山の一角か?
■5 衝動のコントロールができない日本人
■6 モンスター・ペアレントと「衝動のコントロール」
■7 キレやすい子供と「衝動のコントロール」
■8 セロトニンと衝動性、攻撃性
■9 低セロトニン状態では、攻撃的な反応をとりやすい
■10 あなたは大丈夫? セロトニン不足度チェック?
■11 SSRIを飲めばセロトニンは増える!?
■12 トリプトファン食は、低セロトニン症候群に効果的か?
■13 セロトニンの増やし方
■14 インターネットは人間関係の希薄化を進行させる
■15 「N.Y.式ハッピー・セラピー」と怒りのコントロール
■16 まとめ 今回の心理テクニック
■17 蛇足 我慢強い子供を育てるために・・・
■18 あとがき
■19 参考文献、引用文献
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 「映画の精神医学」では、全ての人に知っていただきたい、
精神医学と心理学の基本的知識を。

 有料メルマガ「映画の心理学」では、精神医学と心理学について、
さらに詳しく知りたい人のための中・上級バージョンと
位置づけています。

 この中で、どうしても「全ての人」にお読みいただきたい部分が
一か所ありましたので、ここに引用したいと思います。

 加藤容疑者が、アスペルガー症候群ではないか? という
ネット上での書き込みがあるようですが、それについて
精神科医の専門の立場で、考察した一章です。


 以下、「映画の心理学」第5号(6月15日発行)より引用

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■3 加藤容疑者は、アスペルガー症候群ではない
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 インターネットの掲示板を見ますと、、
加藤容疑者は「アスペルガー症候群」ではないか? 
という書き込みが見られました。

 加藤容疑者は、本当にアスペルガー症候群なのか?
 何らかの精神疾患を患っていたのか、について考察したいと思います。

 アスペルガー症候群とは、
(1) 他の人との社会的関係をもつこと
(2) コミュニケーションをすること
(3) 想像力と創造性
の3分野に障害を持つ自閉症の一タイプです。

 アスペルガー症候群では、自閉症と異なり認知・言語発達の遅れがない
ことを特徴としており、「知的障害がない自閉症」と呼ばれることもあります。

 発症率は300人に1人と言われますから少なくはありません。

 今回の加藤容疑者は、親しい友達もほとんどおらずコミュニケーションに
問題があり、アニメに対する著しいこだわりを持っていた点から、
「アスペルガー症候群」の疑いがかけられているようですが、
私は「加藤容疑者は、アスペルガー症候群ではない」と考えています。


 まずは、「アスペルガー症候群」の症状について、
詳しく検討するために、
 アメリカ精神医学会(DSM-lV)の「アスペルガー症候群」の
診断基準を見てみましょう。


A.以下のうち少なくとも2つにより示される対人的相互作用の質的な障害:
(1)目と目で見つめ合う、顔の表情、体の姿勢、身振りなど、対人的相互反応を
調整する多彩な非言語性行動の使用の著明な障害。
(2)発達の水準に相応した仲間関係をつくることの失敗。
(3)楽しみ、興味、成し遂げたものを他人と共有すること
(例えば、他の人達に興味あるものを見せる、持って来る、指さす)を
自発的に求めることの欠如。
(4)対人的または情緒的相互性の欠如。

B.行動、興味および活動の、限定され反復的で常同的な様式で以下の
少なくとも1つによって明らかになる:
(1)その強度または対象において異常なほど、常同的で限された型の
1つまたはそれ以上の興味だけに熱中すること。
(2)特定の、機能的でない習慣や儀式にかたくなにこだわるのが明らかである。
(3)常同的で反復的な衒奇的運動(例えば、手や指をぱたぱたさせたり
ねじ曲げる、または複雑な全身の動き)。
(4)物体の一部に持続的に熱中する。

C.その障害は社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の
臨床的に著しい障害を引き起こしている。

D.臨床的に著しい言語の遅れがない(例えば、2歳までに単語を用い、
3歳までに意志伝達的な句を用いる)。

E.認知の発達、年齢に相応した自己管理能力、(対人関係以外の)適応行動、
および小児期における環境への好奇心などについて臨床的に明らかな遅れがない。

F.他の特定の広汎性発達障害または統合失調症の基準を満たさない。


 難しい表現が多くわかりづらいので、具体的な加藤容疑者の
言動を通して、このアスペルガー症候群の診断基準に加藤容疑者が
当てはまるかどうかを見てみましょう。


※ 加藤容疑者は、
「県内トップの進学校に入って、あとはずっとビリ。
高校を出てから8年間は負けっぱなしの人生」
と書き込んでいます。
(以下、携帯電話の掲示板サイトからの加藤容疑者の書き込みを随所に引用します)

 加藤容疑者は中学での成績は優秀で青森県ではトップの高校に進学しました。
 進学校に進んでしまったばっかりに、高校に入ってからの成績ははかばかしくなく、
それで「挫折」体験を味わい、歪んだ性格になっていたようにうかがえます。

 アスペルガー症候群であるならば、小学生、中学生の頃から、
何らかの異常を認めているはずです。

 特にコミュニケーションの障害は、必ずあるはずです。
 したがって、アスペルガー症候群であるならば、小学生、中学生が順風満帆で、
高校に入ってから挫折した、という認識にはならないはずです。

 「子供のころから、人とうまくいかない」と認識されるでしょう。


※アスペルガー症候群では、行動、興味および活動の範囲が非常に限定的で、
その限定された興味に対して非常に熱中する、という特徴があります。

 加藤容疑者は、「人は裏切るがアニメは裏切らない」と書き込んでいるように、
かなりのアニメ好きであったことは間違いないでしょう。
 
 一方、高校担任の話では、高校時代は車が大好きでよく自動車雑誌などを
読んでいた、という話もあり、結果として自動車短大に進学して、
派遣会社から自動車会社に派遣されて自動車の仕事をしていたことから、
自動車に対してかなり強い興味を持っていたようです。

 あるいは、卒業文集には趣味は「テレビゲーム」と書き、
犯行前日は、下見のために秋葉原を訪れた際に、
お金をつくるためにゲームソフト等を8万円で売却したそうです。

 中古のゲームソフトで8万円というと、1本2000円としても40本ですから、
そうとうに大量のゲームを売却したことになり、
かなりのゲーム好きであったと推測されます。

 アニメ好きであり、ゲーム好きであり、自動車好きであった
ということですから、
上記診断基準の
「その強度または対象において異常なほど、常同的で限された型の
1つまたはそれ以上の興味だけに熱中すること。」
に全く当てはまりません。


※ある掲示板を読んだところ、
「オタクの9割はアスペルガー症候群だ」という書き込みを見ましたが、
これは全くいいがけんも甚だしい書き込みです。

 特定の物事へのこだわりが強く、コミュニケーションが苦手という、
アスペルガー症候群の特徴とオタクの人たちの特徴は似ている点もありますが、
根本的に異なります。

 アスペルガー症候群では、
「楽しみ、興味、成し遂げたものを他人と共有すること」をしません。 
 というか、できないわけです。

 オタクの人は、
「これ、昨日買った最新のフィギュア」とか
「このアイドルの写真、よく撮れているでしょう」とか
「これ、100人限定のグッズだよ」とか
自分の持ち物を他人に自慢することが多いはずです。

 所有欲が強くて、それを見せびらかして自己顕示するという
特徴がオタクにはあると思いますが、
アスペルガー症候群の人は、こういうことはしません。

 加藤容疑者は、今年のゴールデンウィークに、職場の友人を
連れて秋葉原を案内し、友人が行ったことのない「メイド喫茶」に
連れて行ったということです。
 
 自分の知っている店を人に教える。
 自分の知識を人に教えて、知識を共有しようとする。
 
 こういうことができないのが、アスペルガー症候群の特徴です。


 今回、加藤容疑者は、事件が起きるまでに、実況中継のように
携帯サイトへの書き込みを続けていました。
 
 こうした書き込みは、自分の存在を知ってほしい。
 自分をもっと理解してほしい。
 自分の衝動を止めてほしい、という心理で書きこむものです。

 彼は、自分が「孤独」であることを認識していますし、
「自分を理解してほしい」という心理もあります。

 彼は親しい友達がおらず、コミュニケーションは苦手だったと
考えられますが、本当は友達が欲しかったし、恋人も欲しかった
はずです。
 つまり、社会に対して加藤容疑者の心の扉は開いている(いた)わけで、
これは診断基準の「対人的または情緒的相互性の欠如」とは
、全く反対のことです。


※ 加藤容疑者は、友人を秋葉原へ案内することで、
「自分は秋葉原に詳しいんだぞ」というある種の優越感に浸っていた
はずですが、これは対人的相互作用が全く障害されていない
ということですから、上記診断基準の「A」を満たしません。


※加藤容疑者の会社では、5月末に200人のリストラ計画が持ち上がったそうですが、
加藤容疑者はリストラ対象には選ばれませんでした。
 これは、仕事に関しては、普通レベルにやっていた、ということを意味します。

 これは、社会的、職業的な障害がなかったということを示しますから、
上記診断基準の「C」を満たしません。

※「いい人を演じるのには慣れている。みんな簡単に騙される」
 (加藤容疑者の書き込みから)
 これが彼の本音だとすれば、アスペルガー症候群の可能性は
ほとんど否定されるといっていでしょう。

 自分でない自分を演じたり、自分をとりつくろう。
 普通の人間であれば、誰でもやっている社会への適応方法だと思います。

 しかしながら、こうした「とりつくろい」ができる人は、
「アスペルガー症候群」でも「自閉症」でもありません。

 自分でとりつくろおうにもとりつくろえない。
 「とりつくろい」ができるということは、「空気が読める」という
ことでもあり、「他者からの自分の評価を察することができる」という
ことですから、最低限のコミュニケーションは、そこそこ成立しています。

 自分でない自分を演じるというのは、
「アスペルガー症候群」や「自閉症」の人には、最も苦手とすることです。

 とりつくろおうにもとりつくろうことができないので社会に適応できない。
 だからこそ、社会との関係性を遮断して、家に引きこもり、
閉じこもるしかなくなるのです。

 加藤容疑者の書き込みや言動を見ると、彼が最低限の「社会性」を
持っていたことは明白であったと考えられます。


 以上、あくまでも、マスコミに流れている情報からの考察ですが、
加藤容疑者の行動を分析すると、
「アスペルガー症候群の診断基準には、全く当てはまらない」
というのが私の結論です。

 今年の3月、JR岡山駅で38歳の男性をホームから突き落とし
死亡させた少年(18歳)が、「アスペルガー症候群」と報じられて、
大きな波紋を呼びました。

 300人に一人というアスペルガー症候群の発症率を考えれば、
日本では年間に1000件ほどの殺人事件が起きるわけですから、
単純に年間3人ぐらいはアスペルガー症候群の人が、
殺人事件を犯してもおかしくありません。

 アスペルガー症候群が重犯罪を起こしやすいという
医学的なデータもありませんから、病気との因果関係は、
もっともっと慎重に議論しなくてはいけません。


 今回のこのアスペルガー症候群についての憶測によって、
アスペルガー症候群の患者さんは心を痛めて、
「自分や自分の子供がアスペルガー症候群かも」と思っても、
恐ろしくて病院に行けない、ということもあるかもしれません。

アスペルガー症候群だからということで、
犯罪者になりやすいとか、犯罪を起こしやすいということは、
全くありませんので、ご安心ください。

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 引用、ここまで

 とにかく、多くの人はこのような異常な事件が起きた場合、
犯人を精神病者や精神的な異常者に決めつけようとする傾向がありますが、
その心理的な理由もメルマガでは説明しています。

 これは、全19章のうちのわずか1章にすぎません。
 
 事件に興味のある方は、、
是非、「秋葉原無差別殺傷事件を考える」の全文をお読み
いただきたいと思います。

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