シャーロット家の3男ダイフク
ホヤホヤの実のランプ人間で、体をこすって魔人を召喚する。
ダイフク
第864話”ヴィンスモーク家皆殺し計画”より
戦闘はこの魔人にすべてお任せである。

ランプと魔人は、『アラジンと魔法のランプ』に登場する(ディズニー映画『アラジン』が最も有名な作品であろう)。

ディズニー版アラジンでは、魔人に頼ることが出来るのは3回までだった。
しかしワンピースや原作は回数制限ナシ!
それゆえダイフクも原作アラジンも魔人の力にどっぷり依存するのである。

1.イスラム拾遺物語
アラジンは、イスラーム圏で生まれた説話集『アラビアン・ナイト(千夜一夜物語)』に登場する話である。この物語の正確な成立年は不明だが、最古の写本は9世紀に書かれたものとされる。
8世紀末に最盛期を誇ったアッバース朝のカリフ、ハールーン=アッラシードに仕えたジャアファル=アルバルマキーによって、紙の普及が広まったことを考えると、それ以前はなさそうだ。
ジャファー 催眠
※このジャアファルという人物が、ディズニー版の悪役ジャファーの名の由来である。

17世紀、西欧に初めて『アラビアン・ナイト』を紹介した東洋学者アントワーヌ・ガランは、この物語が千夜一夜分あると信じていた(本来二百数十夜ほどしかないとされる)。

そのため彼は、原本から、確認されていない話でも「これも『アラビアン・ナイト』の一部だろう」と物語に盛り込んだ(『シンドバッドの冒険』が代表例)。さらに、原本を翻訳しきって、ネタ切れになってしまうと、レバノンの修道士から聴いた話をそのまま入れこんだ(その1つがアラジンであった)。

このようにその後も、翻訳段階で多くの話が継ぎ足され、現在に伝わっているのが『アラビアン・ナイト』なのである。

足された話と言えば、空飛ぶ絨毯もそうである。
ディズニー版「アラジン」に登場する”空飛ぶ絨毯”は、原作アラジンでは登場しない。空飛ぶ絨毯が登場する話は、「アフマッド王子と妖精パリ・バヌー」(←簡易版リンク)という話で、これもアラジンを語ったレバノンの修道士の話である。つまり、絨毯はディズニーアラジンに足され、原作『アラビアン・ナイト』にも足された存在なのである。
ラビヤン・ニトロ
第851話”シケモク”より
空飛ぶ絨毯はプリンを支えるホーミーズとしてラビヤンが登場する。
絨毯と言えばペルシアだが、彼の名はアラビアから取られている。

3.魔人ジン
ダイフクに仕える魔人は、斬撃による戦闘を行う。
魔人斬
↑第864話より 魔人斬でサンジを吹っ飛ばす

しかし、ランプの魔人といえば、魔法じゃあるまいか?
ディズニー版の魔人ジーニーだって、その魔法とジョークが真骨頂である。

この魔人は『アラビアン・ナイト』で数々の話に登場するジン(jinn)の一種である。
ジンとは、中東世界における霊的存在であり、願いを叶える善いジンもいれば、人間を脅かす悪いジンもいる。

イスラーム教の聖典『コーラン』もジンについて触れている部分がある。
・またわれ(神)は先に燃え盛る炎から幽精(ジン)を創った。(第15章27節)
第72章は「ジンの章」であり、ジンがアッラーへの信仰と服従の意志を表明する。
・わたしたちの中には、(アッラーに)服従、帰依する者もあり、また正道から逸れる者もいる。服従、帰依した者は正しい道に志向を定める。だが正道から逸れる者は火獄の薪となろう。』(第72章14-15節)
『旧約聖書』に登場するユダヤの王ソロモンは、『コーラン』にはスライマーンとして登場し、ジンを使役する力を神から授かったと書かれている(第32章12-13節)。

原作アラジンには2種類のジンが登場する。
1人はランプ、もう1人は指輪から登場する。
力の優劣もあるようで、ランプの方が指輪より強い。

2種のジンの優劣は、ディズニー版のジャファーが「ジーニーよりも強い魔人」になるシーンにつながる。

最初に触れたように、原作の魔人への願いには、回数制限がない。
原作でアラジンが願ったことを以下にまとめる。
<to指輪のジン>
①地下からの脱出(悪魔術師に閉じ込められたため)
②姫の奪還のための移動(中国→モロッコ)

<toランプのジン>
①生活費捻出のための食器
②国王への持参金&奴隷
アラジン クレイン パレード
↑「アリ王子」のパレードに相当
③結婚目前の姫と宰相の息子の誘拐
ジン ジャスミン誘拐
宰相の息子と姫は、初夜のベッドごとジンによってアラジンの下にさらわれる
宰相の息子はアラジンの命により、便所中に監禁されるだけでなく、ジンの冷たい息で凍えながら一夜を過ごす。一方、姫とアラジンは夜を明かした(彼は剣を姫との間において、貞操を守った)

原作の凍える便所(笑)は、ディズニー版で雪山にアラジンが飛ばされるシーンに影響する。
しかし立場が真逆であるし、原作ではアラジンの方が婚姻の簒奪者に映っても申し分ない。
哀れな宰相の息子は、これにおののき、結婚を辞退するに至る。
当然姫のアラジンへの第一印象は「最悪の極み」であった。

④豪華な宮殿の建設
アラジンは金に物を言わせて、王と姫をオトし、新居で生活を開始した。

⑤モロッコからの帰還
悪魔術師がランプを盗んだことで、城ごと姫を連れ去られたアラジンは、指輪のジンの力でモロッコに赴き、姫と謀って魔術師を睡眠薬入りの酒で眠らせ、殺害。その後、城ごとジンに帰還を命じる。

ランプのジンは、毎度登場時にこのようなセリフを言う。
「なんなりと、御用をお言いつけ下さい。わたしは貴方さまの奴隷。ランプを手にしているお方の奴隷でございます。」

その言葉通り、アラジンはジンを使役し続け、幸せを手にした。
これではジンに理不尽と、ディズニー版ではそのラストに変更が見られる。

ホヤホヤの実を食べたダイフク。
ランプを手にしたアラジン。
まったく他力本願な奴らである。

【ディズニーアラジンと世界史】
別ブログで書きましたので、興味のある方はどうぞ。



【参考図書】
他の作品も多くの図録入りで収録。『アラビアンナイト』の成立史にも詳しい。
定価1800円とお高いが、相応の情報量であった。

原作本として読んだけど、ジャスミン王女の名が「バドル・アル・ブドゥル姫」っていうのよ…最後まで覚えられなかった…笑