2008年12月03日
新司法試験・論文before&after（その４）。
続きです。
あるじさんの力作解答にまたコメントしました。
内容面ではとても良くなっていると思うので、
どちらかというと細かい表現の問題です。
私は人の形式を修正するというのがもともと嫌いで、
その人が使い慣れた表現というのは、
本番でも使えるし、良いものだと思っているのです。
ですから、コメントした箇所でも、そのままでも良い箇所もあります。
今回は、多めにコメントしているとお考えください。
ただし、表現に敏感になるというのは大事なことだとは思います。
形容詞の使い方一つでも文章の印象ががらりと変わってしまいます。
仲間内での勉強会企画などがあれば、
そういった表現についての指摘もお互い積極的にすると良いと思います。
誰かが見て直感的に違和感を感じるのであれば、
万人に受け入れられる表現を考えるのがよりベターだとは思いますので。
なお、私は「思うに、〜。しかし、〜」という表現は使いません。
今まで使ったことがない、慣れてない表現だからです。
それで受かったので、使わなくても平気ってことだと思います。
同じく「〜が問題であるとも思える。しかし、〜」というのも使いません。
結局問題じゃないなら、重要じゃないことを頭にもって来たくないからです。
問題提起、条文、条文解釈、あてはめ。逆説が入る箇所はあまりないです。
この流れがシンプルで良いと思うのですよね。
ただ、これも「慣れている表現を使う」というコンセプトです。
自分のやり方をじっくり研究されるのが何より良いことだと思います。
●猪瀬コメント●
【設問１】
第１ Ｘが運転免許証の提示・バッグの開示を求めた行為
１ ＸはＪ公園に車を駐車していた甲に運転免許証の提示、バッグの開示を求めているが、この捜査は適法だろうか【猪瀬：設問としてはある行為に対する適法性を問われているので、問題提起の基本形はこれで良いと思います。もっとも、職務質問をしていることは明らかなので、職務質問の要件を満たすかという問いの方が簡便かも知れません。】。甲が「既に行われた犯罪について…知っていると認められる者」にあたり(警察官職務執行法(以下、｢警職法｣という。)２条１項)、職務質問(同項)として適法といえるかが問題となる。
２ Ｘの乗車していた車は上が白・下がシルバーのツートンカラーという点、ナンバープレートの下４桁が｢0703｣という点で、犯人が乗って逃げた車に関するＶの供述と一致する。このように、ナンバープレートの下4桁が一致することは万に一つであり、またツートンカラーの車種は珍しく、上下の色までＶの供述と一致していることからすれば、犯行に用いられた車と、甲の乗車している車が同一である可能性が少なからず存在する【前半では一致度高めだったので、評価はもう少し可能性をあげて良いと思います。】。
また、甲が車を駐車していたＪ公園はＷ支店の南西に位置するが、Ｖの供述によれば犯人は、南方に逃走している。そうすると、Ｊ公園は犯人の逃走方向近くに位置するので、犯人が車を駐車している可能性を否定できない【猪瀬：否定できない、というのは推認力はないような表現なので、そこまで弱くはないでしょう。「矛盾はしない」というのもありますが、それも弱いかも知れません。要するに、方角と距離、時間をバラしてしまったのでそれぞれの関連が弱く見えるのです。「近さ」というのは、それをトータルした概念です。うまくまとめられませんか？】。
しかも、Ｊ公園はＷ支店から5キロしか離れておらず、時速60キロで逃走したとしても5分あればＷ支店からＪ公園に到着できるのであり、犯人がＪ公園に到着している可能性は十分にある。
以上のように、時間的・場所的・車の外形的に見て、Ｊ公園に車を駐車している甲は、犯人に関するＶの供述と矛盾せず、｢既に行われた犯罪について…知っていると認められる者｣にあたると解し得る。
３ よって、本件質問行為は職務質問の要件を充たし適法である。
第２ Ｙが甲のバッグを触れた行為
１ Ｙは甲の承諾を得ずに、甲のバッグを外側から触れている。このようないわゆる所持品検査は適法だろうか。明文規定がないので【猪瀬：警職法２条４項しかない、それに当たらない（ので明文がないと言える）、というのも軽く触れてください。】、法律に基づく行政の見地からして違法ではなかろうか問題となる。
２ この点、明文規定がない以上、国民の自由を保障する見地から所持品検査は否定すべきとも思える。
しかし、所持品検査は職務質問(警職法2条1項)を実効たらしめるため職務質問に付随してされることが多く、これを否定すると、｢職権職務の忠実な遂行｣(警職法1条1項)を図ることが困難となってしまう。
そこで、行政警察活動の円滑な遂行と国民の自由保障の調和点として、捜索に至らない程度の行為は、所持品検査の�”�要性及び��緊急性、�６饌療�状況下において相当、と認められる範囲であれば警職法2条1項により許容されると解する。
3(1) 本件強盗致傷事件は、白昼堂々と行われており、1800万円を強取後、刺身包丁という通常の包丁よりも鋭利な刃物を用いてＶの心臓付近にある左腕を刺している。このような悪質な事件の解明のためには、一刻も早く証拠の発見及び犯人発見をする必要があるので、所持品検査をする�”�要性があった。
(2) 甲は、Ｘがバッグを触る直前に、車から降車して警察官からの｢どこへ行くんですか。｣との問いかけに｢どけ。この野郎。｣等と怒鳴り始めていた。このような【猪瀬：どのような？ 怒鳴っていると逃走するのですか？ もし犯人であれば警察官に職務質問されたならば…という想像をふくらましてそれを文章に匂わせてみたらいかがでしょう。それから、車があるので、乗ったら追いかけるのが難しいという点もプラスで。】状況下では、いつ甲がバッグを持参して逃走するかわからないので、所持品検査をしておく��緊急性があった。
(3) 所持品検査により、確かに甲はプライバシー権を侵害されるが、ファスナーを無断で開けられるというような強い侵害態様ではなく、外側から触れられるに過ぎず、侵害の程度は小さい。その反面、所持品検査により得られる利益は、前述した重大事件である本件強盗致傷事件の捜査の円滑であり、所持品検査をする�Ａ蠹�の理由があった。
(4) 従って、本件所持品検査は警職法2条1項により許容される。
４ よって、本件所持品検査は適法である。
第３ Ｙが甲に署までの同行を申し込んだ行為
Ｙは、上記所持品検査により、バッグの中に札束らしき形状の物が多数入っていることを確認したので、強盗致傷事件に関する甲の嫌疑を飛躍的に高め、甲に署までくるよう申出ている。これは、犯人発見を目的とした任意の同行の申出であり、司法警察活動としての任意同行といえ（刑事訴訟法（以下「法」という。）197条1項但書参照）、適法と評価出来ないだろうか。
この点、司法警察活動としての任意同行が適法と評価されるためには、任意捜査の範囲内（同但書）でなければならないところ、本件では甲の同行を促しているに過ぎず、任意捜査の範囲を超えたとはいえない。
よって、Ｙが甲に署までの同行を申し込んだ行為は適法である。
第４ Ｘが甲の左腕をつかんだ行為
１ Ｘが甲の左腕をつかんだ行為は、適法といえるか。このような有形力の行使は、強制処分(法197条1項但書)に当たり逮捕令状(法199条1項本文)が発布されていない本件では適法といえないのではないか問題となる。
(1) まず、強制処分の意義が問題となるが、私は物理的作用に限定して解釈すべきではないと考えるので【猪瀬：根拠のない私見は不要です。理由付けができないのであれば、「判例がこういっている」とはっきり言ってください。一言一句あっている必要はないので、大まかにでいいです。例えば、「強制処分の意義は…と判例上は解されている。」など。】、個人の意思を制圧して人の身体･住居財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠がなければ許容されない手段を指すと解する。
(2) Ｘは、甲の左腕をつかんでおり甲の身体に制約を加えていることは間違いないが、強制処分を加えたとまではいえない。なぜなら、Ｘが甲の腕をつかんだのは、甲がＸＹ間をすり抜けようとした為、反射的になされたものに過ぎず、甲の意思を制圧するとまではいえないからである【猪瀬：度合いも重要です。反射的に手錠をかけたらやっぱり逮捕ですよね。】。
２ そうだとしても、本件行為は、任意捜査の範囲内の行為として適法といえるか。
(1) 強制捜査として有形力を行使していない以上、私人の身体活動の自由を保障すべく、有形力を行使することは許されないとも思える。
しかし、一定の範囲で有形力の行使を認めないと、任意捜査の目的を実現できず、「事案の真相」究明（1条）が困難となってしまう。
そこで、任意捜査においても強制捜査に及ばない限度で、有形力を行使する�”�要性、��緊急性、及び�９坩拌嵳妖�を考慮した上で相当といえる範囲で、有形力の行使が出来ると解する。
(2)ｱ 甲は、Ｖが供述した犯人の外形的特徴を備えている。すなわち、甲は、背が170
センチ、中肉中背であり、上着の両袖側面に3本の白線の入った紺色ジャージ上下を着用している男性であり、Ｖの犯人に関する供述と一致している。
また、前述のように甲が乗車している車は、ツートンカラーの点、色合いの点、ナンバープレートの下4桁の点で、Ｖのした犯人が逃走に用いた車の供述と外形的に一致する。
しかも、甲のボストンバッグは茶色である点でＶの供述した犯人が札束を入れたバッグと外形的に一致する。また、バッグの外側から触ると札束状の物が多数入っているようにＹが感じているが、Ｘらが甲を発見したのは犯行開始から30分経過した午後3時25分であり、犯行から30分で1800万円もの金銭を処分することは困難であることからすると、甲が持っているバッグには強取した金銭が入っているとの嫌疑が生じていた。
さらに、バッグのことをＸから聞かれると甲はとたんに落ち着きをなくしそわそわしだした点や、バッグの中身を見せるように要求すると怒ったような口調になった点、それから同行を求めると顔が紅潮した点からすると、甲が犯人の蓋然性は極めて高い。なぜなら、バッグに関する質問になると感情をあらわにする事からして、バッグには甲としては知られたくない何らかの秘密があるといえるところ、Ｖの犯人に関する各供述と甲の外形的一致及び車の一致、バッグの中に札束らしきものがある点を併せ考えると、本件強盗致傷事件の被害物品たる札束が存在する可能性が高く、それを知られたくないから感情をあらわにしていると考えられるからである。
そうすると、甲を逃す訳には行かないので、手をつかんで逃走させない�”�要性が認められる。
ｲ また、甲はＸとＹの間をすり抜けようとしたが、すり抜けられれば逃走が開始するおそれがあったので、それを止める��緊急性もあったといえる。
ｳ 本件被疑事実は、前述のように、白昼堂々と1800万円を強取した後、刺身包丁でＶの腕を刺しているという悪質な事件であり、犯人をいち早く発見して「事案の真相」(法1条)を究明する公益上の要請は強かった。
それに対し、甲が被った不利益は押し倒されたり、殴打されたという態様ではなく、逃走しようとしたら手をつかまれたというものに過ぎない【猪瀬：つまり、この掴んだ態様は、強制処分にあたるかどうかの判断と、任意処分の限界という両方に使うわけですね。】。
そうすると甲から話を聞く公益上の要請に比し、甲の被った不利益は低く、Ｘのした甲の腕をつかむ行為は�Ａ蠹�性を有する。
３ 以上より、本件行為は任意捜査の範囲を超えないので、Ｘが甲の腕をつかんだ行為は、適法といえる
第５ Ｙが甲を逮捕した行為
以上のように、Ｘは適法に甲の腕をつかんでおり、それから免れるために甲がＸにした殴打行為は正当防衛（刑法36条1項）にはあたらず、公務執行妨害罪（同法95条）を構成する。
そうすると、甲は「現に罪を行」った者（刑訴法212条）にあたるので、Ｙは適法に現行犯逮捕したものといえる。
よって、Ｙの逮捕は適法である。
第６ 捜索・差押行為
Ｙが適法に甲を逮捕しているので、逮捕に伴う捜索・差押（法220条1項2号）として、適法な捜査をしたといえるか。逮捕に伴う差押の範囲が特に問題となる。
１ 法が逮捕に伴う捜索差押(法220条1項柱書)を許した趣旨は、証拠存在の蓋然性の高い所での捜索差押を認めつつ逮捕者の安全及び円滑な捜査を実現する点にある。
この点、証拠存在の蓋然性を考慮せずに、逮捕者の安全及び円滑な捜査の実現のみを逮捕に伴う捜索差押の趣旨として把握する立場もあるが、妥当でない。なぜなら、逮捕した場合、被逮捕者の身の周りには被疑事実に関する証拠が存在していることが多いが、本規定はこのような場合に、証拠の収集をし易くする事にも配慮して規定されたものであり、証拠存在の蓋然性を排除して解釈すべきではないのである。
２(1) そうすると、甲を逮捕した現場である車付近及び車内を捜索することは、｢逮捕の現場で差押｣ることになるので(法220条1項2号)、逮捕に伴う捜索として許される。
(2) しかし、捜索の結果、現行犯逮捕した公務執行妨害罪とは関係のない物を発見したとしても、差押えることは許されない。あくまで、法が逮捕に伴う捜索･差押を認めたのは、｢逮捕の現場｣に逮捕した犯罪事実に関する証拠が存在している蓋然性が高い点にあるのだから、逮捕していない犯罪事実に関する物を捜索差押することまでは、法の認めるところではないからである。
具体的には、刺身包丁については、追撃を防ぎ逮捕者の安全を図るため、差押をすることは許される。
しかし、その他の札束・携帯電話・メモ・目出し帽・軍手は公務執行妨害罪とは何ら関係がないので、差押をすることは出来ない。
３ そうすると、刺身包丁以外の物を差押えた点で、本件捜査は違法である。
第7 強盗致傷罪の取調
Ｚは、逮捕していない余罪の強盗致傷罪について甲を取り調べているので、取調受忍義務（法198条1項但書）を違法に甲に課したのではないかとも思えるが、本件ではそのような事実はなく、違法な取調はなされていないと解すべきである。
なぜなら、甲は自ら進んで強盗致傷罪の犯罪事実について供述をしており、個人の意思を制圧して取調をしたとはいえないからである。
【設問２】
甲の書いた本件メモを乙に対する強盗致傷被告事件において、甲乙間の共謀の存在を立証するために、用いることが出来るか。メモには甲が認識した乙の発言が記載されているので、�‥訴江攀�(320条1項)にあたり、証拠能力を否定されないか、また��違法な差押によりメモが入手されており、違法収集証拠として証拠能力を否定されないか問題となる。以下、各別に検討していく。
第１ �‥訴江攀魍催�性
本件メモには上半分に、ａ手書きの地図、ｂ｢乙、車の中で待ってる｣という一文、が記載されており、下半分にｃ｢決行は、24日閉店まぎわ｣、ｄ｢名前が分かる物は持って行かない｣、ｅ｢車は盗んだのを使う｣、ｆ｢取った金は半分づつ分ける｣、と記載されている。
各々、記載された内容が異なるが全て乙と会話して作られたものであり、乙の発言を記載しているものである。そのため、ａ〜ｆは伝聞証拠に該当し、証拠能力を否定されないだろうか。以下、伝聞証拠の意義を検討した上で、各記述部分につき検討を加えていく。
１ 法が伝聞証拠の証拠能力を否定した趣旨は、人の知覚・記憶・叙述の各過程に誤りが混入しかねず誤判を招きかねないという点にある。
この趣旨からすれば、要証事実に上記各過程の誤りが混入しない場合にまで、伝聞証拠として証拠能力を否定すべきではない。具体的には、人の精神状態を記した文書は体験的事実が記載されている場合と異なり、知覚・記憶の過程を経ないため叙述の真摯性のみを問えば、誤判の虞は回避できるので非伝聞証拠となる。
そこで、本件文書ａ〜ｆが単なる精神状態を記した非伝聞証拠なのか、体験的事実が記載された伝聞証拠なのかを検討していく。
３(1) ａ手書きの地図
甲は、ａ手書きの地図に｢×｣印を書いているが、これは｢×｣印の地点で甲と乙が合流するという甲乙間の合意を記した書面である。
そこで、ａ手書きの地図が伝聞証拠に当たるかを検討するに、本件書面は乙の発した｢公園の東出口まで来てちょうだい｣という言葉を受け、甲が｢×｣印をつけたものであり、甲乙の話し合いの中で【猪瀬：乙の家で書かれている（メモ用紙に書いた形跡が残っている）というのは、ここで使うということですか？ それではその旨言及をお願いします。】双方の合意の下で且つ乙の目の前で、作成されている。そうすると、この記述には知覚･記憶の過程において誤りが介入していないので、精神状態を記した書面ということになる。
よって、ａ手書きの地図の記載は、非伝聞証拠であり、証拠能力は否定されない。
(2) ｂ｢乙、車の中で待ってる｣という一文
この一文は、乙の｢私が車の中で待っているから。｣という発言を受けて記載されたものであり、ａ手書きの地図の｢×｣印にある甲の向かうべき行き先をより明確にする記述である。
そうすると、ｂ｢乙、車の中で待ってる｣という一文は、a手書きの地図と不可分一体であり、ａ手書きの地図と同じく非伝聞証拠となると解する。
(3) ｃ｢決行は、24日閉店まぎわ｣という一文
この記載は、乙の｢24日の閉店間際に入るといいと思う。｣という発言を受け、甲が記載したものであり、甲がＷ支店で強盗を実行する時間帯を記したものである。
この点、本記載は乙の供述を甲が記したものなので、体験的事実を記したものといえ、伝聞証拠になるとも思えるが、甲乙の話し合いの中で双方の合意の下で且つ乙の目の前で、作成されている。そうすると、この記述には知覚･記憶の過程において誤りが介入していないので、精神状態を記した文書ということになる。
よって、ｃ｢決行は、24日閉店まぎわ｣という記載は、非伝聞証拠であり、証拠能力は否定されない。
(4) ｄ｢名前が分かる物は持って行かない｣という一文
この記載は、｢自分の名前が分かるようなものは絶対に持っていっちゃだめよ。｣という乙の発言を受けて甲が記載したものである。
この点、本記載は乙の供述を甲が記したものなので、体験的事実を記したものといえ、伝聞証拠になるとも思えるが、甲乙の話し合いの中で双方の合意の下で且つ乙の目の前で、作成されている。そうすると、この記述には知覚･記憶の過程において誤りが介入していないので、精神状態を記した文書ということになる。
よって、ｄ｢名前が分かる物は持って行かない｣という記載は、非伝聞証拠であり、証拠能力は否定されない。
(5) ｅ｢車は盗んだのを使う｣という一文
ｅ｢車は盗んだのを使う｣という一文は、乙の｢だから、車も自分のものを使わないで、盗んだ車を使ってね。｣という発言を受け、甲が記載したものであり、ｄ｢名前が分かる物は持って行かない｣という記載の具体的な内容として記されたものである。
そうすると、本記載はｄ｢名前が分かる物は持って行かない｣という記載と一体のものであり、同記載と同じく、甲乙の話し合いの中で双方の合意の下で且つ乙の目の前で、作成されている。そのため、ｅ｢車は盗んだのを使う｣という記載には知覚･記憶の過程において誤りが介入していないので、精神状態を記した文書ということになる。
よって、ｅ｢車は盗んだのを使う｣という記載は、非伝聞証拠であり、証拠能力は否定されない。
(6) ｆ｢取った金は半分づつ分ける｣という一文
この一文は、乙の｢取った金は半分づつ分けるってことでどうかしら。｣という発言を受け、甲が記載したものである。
そのため、本記載は体験的事実を記したものといえ、伝聞証拠になるとも思えるが、甲乙の話し合いの中で双方の合意の下で且つ乙の目の前で、作成されており、知覚･記憶の過程において誤りが介入していないので、精神状態を記した文書ということになる。
よって、ｆ｢取った金は半分づつ分ける｣という記載は、非伝聞証拠であり、証拠能力は否定されない。【猪瀬：結論と理由付けがa〜fでほとんど同じようなので、まとめて記載してボリュームを減らすように工夫してみてください。】
第２ ��違法収集証拠該当性
１ 本件では、違法な差押によりメモが入手されており、違法収集証拠としてメモの証拠能力が排除されないだろうか。
２ 適性手続(憲法31条、刑訴法1条)の観点からすれば、違法捜査に基づき収集された物を証拠とすることは許されないとも思える。
しかし、人証と異なり、物証は違法に収集されたからといって、証拠価値が減殺されるものではなく、証拠能力を否定すると、かえって「事案の真相」の究明(1条)を困難にしてしまう。
そこで、その調和点として違法に収集した物の証拠能力を否定する場合とは、a令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、且つb将来の違法捜査抑制の見地から見て証拠能力を否定すべき場合を指すと解する。
３(1) 本件メモは、公務執行妨害罪とは関係がなく、また逮捕者の安全を図るために差押をする必要はなかったので令状主義(法218条参照)を定めた法の精神に反するとも思える。
しかし、これでは｢事案の真相｣究明(法1条)の要請が著しく後退してしまう。Ｙは甲を現行犯逮捕した後、適法に捜索をし、札束や犯行に供したと思われる刺身包丁や軍手、携帯電話などを発見しており、このうち、特に刺身包丁には真新しい血痕が付着しているので、Ｗ支店でＶが刺されたことと符合する。また、100万円の札束が18個バッグから出てきている点で、同店で強取された金額と一致する証拠が出現しているといえ、甲が強盗致傷罪を犯した嫌疑を持つにつき｢充分な理由がある｣（法210条1項）。そのため、Ｙは甲を緊急逮捕(法210条１項)出来、それに伴いメモも差押を出来る状況(220条1項2号)にあった。
そうすると、Ｙのした無令状の差押は、その前提となる逮捕手続が公務執行妨害罪に基づくため違法とされたが、既に要件の具備している強盗致傷罪の被疑事実でする緊急逮捕に依れば、メモを差押えても違法ではなかったといえる。
このように、Ｙは手続の選択を間違えていたためにメモの差押が違法となってしまったが、差押をする実体上の根拠はあった事案であるのだから、逮捕の実態がない場合の差押と異なり、違法性の程度は重大ではない。
よって、本件差押手続は手続の選択を誤ったものに過ぎず、a令状主義の精神を没却するほどの違法性があったとはいえない。
(2) このように、緊急逮捕に基づく差押をしなかったとしても、現実に緊急逮捕できる要件は備わっていたのだから、証拠能力を排除してまでして、将来の同種の捜査手続の適法性を図る必要性は必ずしも高くはない。また、ＸＹは捜査手続を誤ったことは確かだが、同人らに手続の脱法目的があったわけではなく、証拠能力を排除したとしても将来の捜査手続の適法性が担保出来るとは限らない。
従って、b将来捜査の違法抑制の見地からしても、証拠能力を排除する程の違法性があるとはいえない。
４ よって、本件メモは違法収集証拠として証拠能力を否定すべきではない。
第３ 以上より、本件メモを甲乙間の共謀を立証するための証拠として利用することが出来る。
以上
【総評：だいぶ良いと思います。特に中間的理由付けを意識的にしようという姿勢が感じられます。中間的理由はせいぜい１行、場合によっては一言二言ぐらいかもしれませんが、それもであるかないかで印象が全く違います。そしてどうしても中間的理由付けがない箇所は「判例がこういっている」でいいと思います。気になるのは、「〜とも思える。しかし〜。従って〜」というものです。常にその形式でやる必要はないでしょう。後の理由付けがはっきりすればするほど、「〜と思え」たほうが不自然だからです。「〜である。従って〜である。」で全く問題ないと思いますよ。】
【次回課題：今回コメントした箇所を修正したあと、書式を変更し、本番で書くであろう文字数×行数にしてページ数をカウントしてください。おそらくだいぶオーバーしていると思うので、次は削る練習です。別のワードファイルにコピぺしてそこで作業してください。全体を眺めつつ、規定枚数に収まるようにブラッシュアップしてください。当然、削る箇所はありますが、どこを削るかというのも腕の見せ所です。やり方の一例として、特に問題はないが検討しなければいけない箇所は、あてはめ＋理由ですぐ終わらせる、という感じです。終わったら、監督に見てもらってコメントもらってください。】
かなりブラッシュアップされました。
今は時間無制限、枚数無制限ですから、膨大な量になっています。
今度はこれを凝縮する練習です。
これまた苦労する練習ですが、
「自分の最大出力で練習→それを最大限研ぎ澄ます練習」だと思ってください。
普通に問題を規定時間で繰り返しても、そのどちらもできません。
特に一度不合格してしまった方は、今までのやり方では及ばなかったのですから、
荒療治をやってみることも大事だと思います。
今回の企画も荒療治の一環でもあります。
その上で、そろそろ別の人にも見てもらうことで、
さらに新鮮な意見を採り入れて、完成させるわけです。
次の投稿ではその完成版にいってみましょう。
あるじさんの力作解答にまたコメントしました。
内容面ではとても良くなっていると思うので、
どちらかというと細かい表現の問題です。
私は人の形式を修正するというのがもともと嫌いで、
その人が使い慣れた表現というのは、
本番でも使えるし、良いものだと思っているのです。
ですから、コメントした箇所でも、そのままでも良い箇所もあります。
今回は、多めにコメントしているとお考えください。
ただし、表現に敏感になるというのは大事なことだとは思います。
形容詞の使い方一つでも文章の印象ががらりと変わってしまいます。
仲間内での勉強会企画などがあれば、
そういった表現についての指摘もお互い積極的にすると良いと思います。
誰かが見て直感的に違和感を感じるのであれば、
万人に受け入れられる表現を考えるのがよりベターだとは思いますので。
なお、私は「思うに、〜。しかし、〜」という表現は使いません。
今まで使ったことがない、慣れてない表現だからです。
それで受かったので、使わなくても平気ってことだと思います。
同じく「〜が問題であるとも思える。しかし、〜」というのも使いません。
結局問題じゃないなら、重要じゃないことを頭にもって来たくないからです。
問題提起、条文、条文解釈、あてはめ。逆説が入る箇所はあまりないです。
この流れがシンプルで良いと思うのですよね。
ただ、これも「慣れている表現を使う」というコンセプトです。
自分のやり方をじっくり研究されるのが何より良いことだと思います。
●猪瀬コメント●
【設問１】
第１ Ｘが運転免許証の提示・バッグの開示を求めた行為
１ ＸはＪ公園に車を駐車していた甲に運転免許証の提示、バッグの開示を求めているが、この捜査は適法だろうか【猪瀬：設問としてはある行為に対する適法性を問われているので、問題提起の基本形はこれで良いと思います。もっとも、職務質問をしていることは明らかなので、職務質問の要件を満たすかという問いの方が簡便かも知れません。】。甲が「既に行われた犯罪について…知っていると認められる者」にあたり(警察官職務執行法(以下、｢警職法｣という。)２条１項)、職務質問(同項)として適法といえるかが問題となる。
２ Ｘの乗車していた車は上が白・下がシルバーのツートンカラーという点、ナンバープレートの下４桁が｢0703｣という点で、犯人が乗って逃げた車に関するＶの供述と一致する。このように、ナンバープレートの下4桁が一致することは万に一つであり、またツートンカラーの車種は珍しく、上下の色までＶの供述と一致していることからすれば、犯行に用いられた車と、甲の乗車している車が同一である可能性が少なからず存在する【前半では一致度高めだったので、評価はもう少し可能性をあげて良いと思います。】。
また、甲が車を駐車していたＪ公園はＷ支店の南西に位置するが、Ｖの供述によれば犯人は、南方に逃走している。そうすると、Ｊ公園は犯人の逃走方向近くに位置するので、犯人が車を駐車している可能性を否定できない【猪瀬：否定できない、というのは推認力はないような表現なので、そこまで弱くはないでしょう。「矛盾はしない」というのもありますが、それも弱いかも知れません。要するに、方角と距離、時間をバラしてしまったのでそれぞれの関連が弱く見えるのです。「近さ」というのは、それをトータルした概念です。うまくまとめられませんか？】。
しかも、Ｊ公園はＷ支店から5キロしか離れておらず、時速60キロで逃走したとしても5分あればＷ支店からＪ公園に到着できるのであり、犯人がＪ公園に到着している可能性は十分にある。
以上のように、時間的・場所的・車の外形的に見て、Ｊ公園に車を駐車している甲は、犯人に関するＶの供述と矛盾せず、｢既に行われた犯罪について…知っていると認められる者｣にあたると解し得る。
３ よって、本件質問行為は職務質問の要件を充たし適法である。
第２ Ｙが甲のバッグを触れた行為
１ Ｙは甲の承諾を得ずに、甲のバッグを外側から触れている。このようないわゆる所持品検査は適法だろうか。明文規定がないので【猪瀬：警職法２条４項しかない、それに当たらない（ので明文がないと言える）、というのも軽く触れてください。】、法律に基づく行政の見地からして違法ではなかろうか問題となる。
２ この点、明文規定がない以上、国民の自由を保障する見地から所持品検査は否定すべきとも思える。
しかし、所持品検査は職務質問(警職法2条1項)を実効たらしめるため職務質問に付随してされることが多く、これを否定すると、｢職権職務の忠実な遂行｣(警職法1条1項)を図ることが困難となってしまう。
そこで、行政警察活動の円滑な遂行と国民の自由保障の調和点として、捜索に至らない程度の行為は、所持品検査の�”�要性及び��緊急性、�６饌療�状況下において相当、と認められる範囲であれば警職法2条1項により許容されると解する。
3(1) 本件強盗致傷事件は、白昼堂々と行われており、1800万円を強取後、刺身包丁という通常の包丁よりも鋭利な刃物を用いてＶの心臓付近にある左腕を刺している。このような悪質な事件の解明のためには、一刻も早く証拠の発見及び犯人発見をする必要があるので、所持品検査をする�”�要性があった。
(2) 甲は、Ｘがバッグを触る直前に、車から降車して警察官からの｢どこへ行くんですか。｣との問いかけに｢どけ。この野郎。｣等と怒鳴り始めていた。このような【猪瀬：どのような？ 怒鳴っていると逃走するのですか？ もし犯人であれば警察官に職務質問されたならば…という想像をふくらましてそれを文章に匂わせてみたらいかがでしょう。それから、車があるので、乗ったら追いかけるのが難しいという点もプラスで。】状況下では、いつ甲がバッグを持参して逃走するかわからないので、所持品検査をしておく��緊急性があった。
(3) 所持品検査により、確かに甲はプライバシー権を侵害されるが、ファスナーを無断で開けられるというような強い侵害態様ではなく、外側から触れられるに過ぎず、侵害の程度は小さい。その反面、所持品検査により得られる利益は、前述した重大事件である本件強盗致傷事件の捜査の円滑であり、所持品検査をする�Ａ蠹�の理由があった。
(4) 従って、本件所持品検査は警職法2条1項により許容される。
４ よって、本件所持品検査は適法である。
第３ Ｙが甲に署までの同行を申し込んだ行為
Ｙは、上記所持品検査により、バッグの中に札束らしき形状の物が多数入っていることを確認したので、強盗致傷事件に関する甲の嫌疑を飛躍的に高め、甲に署までくるよう申出ている。これは、犯人発見を目的とした任意の同行の申出であり、司法警察活動としての任意同行といえ（刑事訴訟法（以下「法」という。）197条1項但書参照）、適法と評価出来ないだろうか。
この点、司法警察活動としての任意同行が適法と評価されるためには、任意捜査の範囲内（同但書）でなければならないところ、本件では甲の同行を促しているに過ぎず、任意捜査の範囲を超えたとはいえない。
よって、Ｙが甲に署までの同行を申し込んだ行為は適法である。
第４ Ｘが甲の左腕をつかんだ行為
１ Ｘが甲の左腕をつかんだ行為は、適法といえるか。このような有形力の行使は、強制処分(法197条1項但書)に当たり逮捕令状(法199条1項本文)が発布されていない本件では適法といえないのではないか問題となる。
(1) まず、強制処分の意義が問題となるが、私は物理的作用に限定して解釈すべきではないと考えるので【猪瀬：根拠のない私見は不要です。理由付けができないのであれば、「判例がこういっている」とはっきり言ってください。一言一句あっている必要はないので、大まかにでいいです。例えば、「強制処分の意義は…と判例上は解されている。」など。】、個人の意思を制圧して人の身体･住居財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠がなければ許容されない手段を指すと解する。
(2) Ｘは、甲の左腕をつかんでおり甲の身体に制約を加えていることは間違いないが、強制処分を加えたとまではいえない。なぜなら、Ｘが甲の腕をつかんだのは、甲がＸＹ間をすり抜けようとした為、反射的になされたものに過ぎず、甲の意思を制圧するとまではいえないからである【猪瀬：度合いも重要です。反射的に手錠をかけたらやっぱり逮捕ですよね。】。
２ そうだとしても、本件行為は、任意捜査の範囲内の行為として適法といえるか。
(1) 強制捜査として有形力を行使していない以上、私人の身体活動の自由を保障すべく、有形力を行使することは許されないとも思える。
しかし、一定の範囲で有形力の行使を認めないと、任意捜査の目的を実現できず、「事案の真相」究明（1条）が困難となってしまう。
そこで、任意捜査においても強制捜査に及ばない限度で、有形力を行使する�”�要性、��緊急性、及び�９坩拌嵳妖�を考慮した上で相当といえる範囲で、有形力の行使が出来ると解する。
(2)ｱ 甲は、Ｖが供述した犯人の外形的特徴を備えている。すなわち、甲は、背が170
センチ、中肉中背であり、上着の両袖側面に3本の白線の入った紺色ジャージ上下を着用している男性であり、Ｖの犯人に関する供述と一致している。
また、前述のように甲が乗車している車は、ツートンカラーの点、色合いの点、ナンバープレートの下4桁の点で、Ｖのした犯人が逃走に用いた車の供述と外形的に一致する。
しかも、甲のボストンバッグは茶色である点でＶの供述した犯人が札束を入れたバッグと外形的に一致する。また、バッグの外側から触ると札束状の物が多数入っているようにＹが感じているが、Ｘらが甲を発見したのは犯行開始から30分経過した午後3時25分であり、犯行から30分で1800万円もの金銭を処分することは困難であることからすると、甲が持っているバッグには強取した金銭が入っているとの嫌疑が生じていた。
さらに、バッグのことをＸから聞かれると甲はとたんに落ち着きをなくしそわそわしだした点や、バッグの中身を見せるように要求すると怒ったような口調になった点、それから同行を求めると顔が紅潮した点からすると、甲が犯人の蓋然性は極めて高い。なぜなら、バッグに関する質問になると感情をあらわにする事からして、バッグには甲としては知られたくない何らかの秘密があるといえるところ、Ｖの犯人に関する各供述と甲の外形的一致及び車の一致、バッグの中に札束らしきものがある点を併せ考えると、本件強盗致傷事件の被害物品たる札束が存在する可能性が高く、それを知られたくないから感情をあらわにしていると考えられるからである。
そうすると、甲を逃す訳には行かないので、手をつかんで逃走させない�”�要性が認められる。
ｲ また、甲はＸとＹの間をすり抜けようとしたが、すり抜けられれば逃走が開始するおそれがあったので、それを止める��緊急性もあったといえる。
ｳ 本件被疑事実は、前述のように、白昼堂々と1800万円を強取した後、刺身包丁でＶの腕を刺しているという悪質な事件であり、犯人をいち早く発見して「事案の真相」(法1条)を究明する公益上の要請は強かった。
それに対し、甲が被った不利益は押し倒されたり、殴打されたという態様ではなく、逃走しようとしたら手をつかまれたというものに過ぎない【猪瀬：つまり、この掴んだ態様は、強制処分にあたるかどうかの判断と、任意処分の限界という両方に使うわけですね。】。
そうすると甲から話を聞く公益上の要請に比し、甲の被った不利益は低く、Ｘのした甲の腕をつかむ行為は�Ａ蠹�性を有する。
３ 以上より、本件行為は任意捜査の範囲を超えないので、Ｘが甲の腕をつかんだ行為は、適法といえる
第５ Ｙが甲を逮捕した行為
以上のように、Ｘは適法に甲の腕をつかんでおり、それから免れるために甲がＸにした殴打行為は正当防衛（刑法36条1項）にはあたらず、公務執行妨害罪（同法95条）を構成する。
そうすると、甲は「現に罪を行」った者（刑訴法212条）にあたるので、Ｙは適法に現行犯逮捕したものといえる。
よって、Ｙの逮捕は適法である。
第６ 捜索・差押行為
Ｙが適法に甲を逮捕しているので、逮捕に伴う捜索・差押（法220条1項2号）として、適法な捜査をしたといえるか。逮捕に伴う差押の範囲が特に問題となる。
１ 法が逮捕に伴う捜索差押(法220条1項柱書)を許した趣旨は、証拠存在の蓋然性の高い所での捜索差押を認めつつ逮捕者の安全及び円滑な捜査を実現する点にある。
この点、証拠存在の蓋然性を考慮せずに、逮捕者の安全及び円滑な捜査の実現のみを逮捕に伴う捜索差押の趣旨として把握する立場もあるが、妥当でない。なぜなら、逮捕した場合、被逮捕者の身の周りには被疑事実に関する証拠が存在していることが多いが、本規定はこのような場合に、証拠の収集をし易くする事にも配慮して規定されたものであり、証拠存在の蓋然性を排除して解釈すべきではないのである。
２(1) そうすると、甲を逮捕した現場である車付近及び車内を捜索することは、｢逮捕の現場で差押｣ることになるので(法220条1項2号)、逮捕に伴う捜索として許される。
(2) しかし、捜索の結果、現行犯逮捕した公務執行妨害罪とは関係のない物を発見したとしても、差押えることは許されない。あくまで、法が逮捕に伴う捜索･差押を認めたのは、｢逮捕の現場｣に逮捕した犯罪事実に関する証拠が存在している蓋然性が高い点にあるのだから、逮捕していない犯罪事実に関する物を捜索差押することまでは、法の認めるところではないからである。
具体的には、刺身包丁については、追撃を防ぎ逮捕者の安全を図るため、差押をすることは許される。
しかし、その他の札束・携帯電話・メモ・目出し帽・軍手は公務執行妨害罪とは何ら関係がないので、差押をすることは出来ない。
３ そうすると、刺身包丁以外の物を差押えた点で、本件捜査は違法である。
第7 強盗致傷罪の取調
Ｚは、逮捕していない余罪の強盗致傷罪について甲を取り調べているので、取調受忍義務（法198条1項但書）を違法に甲に課したのではないかとも思えるが、本件ではそのような事実はなく、違法な取調はなされていないと解すべきである。
なぜなら、甲は自ら進んで強盗致傷罪の犯罪事実について供述をしており、個人の意思を制圧して取調をしたとはいえないからである。
【設問２】
甲の書いた本件メモを乙に対する強盗致傷被告事件において、甲乙間の共謀の存在を立証するために、用いることが出来るか。メモには甲が認識した乙の発言が記載されているので、�‥訴江攀�(320条1項)にあたり、証拠能力を否定されないか、また��違法な差押によりメモが入手されており、違法収集証拠として証拠能力を否定されないか問題となる。以下、各別に検討していく。
第１ �‥訴江攀魍催�性
本件メモには上半分に、ａ手書きの地図、ｂ｢乙、車の中で待ってる｣という一文、が記載されており、下半分にｃ｢決行は、24日閉店まぎわ｣、ｄ｢名前が分かる物は持って行かない｣、ｅ｢車は盗んだのを使う｣、ｆ｢取った金は半分づつ分ける｣、と記載されている。
各々、記載された内容が異なるが全て乙と会話して作られたものであり、乙の発言を記載しているものである。そのため、ａ〜ｆは伝聞証拠に該当し、証拠能力を否定されないだろうか。以下、伝聞証拠の意義を検討した上で、各記述部分につき検討を加えていく。
１ 法が伝聞証拠の証拠能力を否定した趣旨は、人の知覚・記憶・叙述の各過程に誤りが混入しかねず誤判を招きかねないという点にある。
この趣旨からすれば、要証事実に上記各過程の誤りが混入しない場合にまで、伝聞証拠として証拠能力を否定すべきではない。具体的には、人の精神状態を記した文書は体験的事実が記載されている場合と異なり、知覚・記憶の過程を経ないため叙述の真摯性のみを問えば、誤判の虞は回避できるので非伝聞証拠となる。
そこで、本件文書ａ〜ｆが単なる精神状態を記した非伝聞証拠なのか、体験的事実が記載された伝聞証拠なのかを検討していく。
３(1) ａ手書きの地図
甲は、ａ手書きの地図に｢×｣印を書いているが、これは｢×｣印の地点で甲と乙が合流するという甲乙間の合意を記した書面である。
そこで、ａ手書きの地図が伝聞証拠に当たるかを検討するに、本件書面は乙の発した｢公園の東出口まで来てちょうだい｣という言葉を受け、甲が｢×｣印をつけたものであり、甲乙の話し合いの中で【猪瀬：乙の家で書かれている（メモ用紙に書いた形跡が残っている）というのは、ここで使うということですか？ それではその旨言及をお願いします。】双方の合意の下で且つ乙の目の前で、作成されている。そうすると、この記述には知覚･記憶の過程において誤りが介入していないので、精神状態を記した書面ということになる。
よって、ａ手書きの地図の記載は、非伝聞証拠であり、証拠能力は否定されない。
(2) ｂ｢乙、車の中で待ってる｣という一文
この一文は、乙の｢私が車の中で待っているから。｣という発言を受けて記載されたものであり、ａ手書きの地図の｢×｣印にある甲の向かうべき行き先をより明確にする記述である。
そうすると、ｂ｢乙、車の中で待ってる｣という一文は、a手書きの地図と不可分一体であり、ａ手書きの地図と同じく非伝聞証拠となると解する。
(3) ｃ｢決行は、24日閉店まぎわ｣という一文
この記載は、乙の｢24日の閉店間際に入るといいと思う。｣という発言を受け、甲が記載したものであり、甲がＷ支店で強盗を実行する時間帯を記したものである。
この点、本記載は乙の供述を甲が記したものなので、体験的事実を記したものといえ、伝聞証拠になるとも思えるが、甲乙の話し合いの中で双方の合意の下で且つ乙の目の前で、作成されている。そうすると、この記述には知覚･記憶の過程において誤りが介入していないので、精神状態を記した文書ということになる。
よって、ｃ｢決行は、24日閉店まぎわ｣という記載は、非伝聞証拠であり、証拠能力は否定されない。
(4) ｄ｢名前が分かる物は持って行かない｣という一文
この記載は、｢自分の名前が分かるようなものは絶対に持っていっちゃだめよ。｣という乙の発言を受けて甲が記載したものである。
この点、本記載は乙の供述を甲が記したものなので、体験的事実を記したものといえ、伝聞証拠になるとも思えるが、甲乙の話し合いの中で双方の合意の下で且つ乙の目の前で、作成されている。そうすると、この記述には知覚･記憶の過程において誤りが介入していないので、精神状態を記した文書ということになる。
よって、ｄ｢名前が分かる物は持って行かない｣という記載は、非伝聞証拠であり、証拠能力は否定されない。
(5) ｅ｢車は盗んだのを使う｣という一文
ｅ｢車は盗んだのを使う｣という一文は、乙の｢だから、車も自分のものを使わないで、盗んだ車を使ってね。｣という発言を受け、甲が記載したものであり、ｄ｢名前が分かる物は持って行かない｣という記載の具体的な内容として記されたものである。
そうすると、本記載はｄ｢名前が分かる物は持って行かない｣という記載と一体のものであり、同記載と同じく、甲乙の話し合いの中で双方の合意の下で且つ乙の目の前で、作成されている。そのため、ｅ｢車は盗んだのを使う｣という記載には知覚･記憶の過程において誤りが介入していないので、精神状態を記した文書ということになる。
よって、ｅ｢車は盗んだのを使う｣という記載は、非伝聞証拠であり、証拠能力は否定されない。
(6) ｆ｢取った金は半分づつ分ける｣という一文
この一文は、乙の｢取った金は半分づつ分けるってことでどうかしら。｣という発言を受け、甲が記載したものである。
そのため、本記載は体験的事実を記したものといえ、伝聞証拠になるとも思えるが、甲乙の話し合いの中で双方の合意の下で且つ乙の目の前で、作成されており、知覚･記憶の過程において誤りが介入していないので、精神状態を記した文書ということになる。
よって、ｆ｢取った金は半分づつ分ける｣という記載は、非伝聞証拠であり、証拠能力は否定されない。【猪瀬：結論と理由付けがa〜fでほとんど同じようなので、まとめて記載してボリュームを減らすように工夫してみてください。】
第２ ��違法収集証拠該当性
１ 本件では、違法な差押によりメモが入手されており、違法収集証拠としてメモの証拠能力が排除されないだろうか。
２ 適性手続(憲法31条、刑訴法1条)の観点からすれば、違法捜査に基づき収集された物を証拠とすることは許されないとも思える。
しかし、人証と異なり、物証は違法に収集されたからといって、証拠価値が減殺されるものではなく、証拠能力を否定すると、かえって「事案の真相」の究明(1条)を困難にしてしまう。
そこで、その調和点として違法に収集した物の証拠能力を否定する場合とは、a令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、且つb将来の違法捜査抑制の見地から見て証拠能力を否定すべき場合を指すと解する。
３(1) 本件メモは、公務執行妨害罪とは関係がなく、また逮捕者の安全を図るために差押をする必要はなかったので令状主義(法218条参照)を定めた法の精神に反するとも思える。
しかし、これでは｢事案の真相｣究明(法1条)の要請が著しく後退してしまう。Ｙは甲を現行犯逮捕した後、適法に捜索をし、札束や犯行に供したと思われる刺身包丁や軍手、携帯電話などを発見しており、このうち、特に刺身包丁には真新しい血痕が付着しているので、Ｗ支店でＶが刺されたことと符合する。また、100万円の札束が18個バッグから出てきている点で、同店で強取された金額と一致する証拠が出現しているといえ、甲が強盗致傷罪を犯した嫌疑を持つにつき｢充分な理由がある｣（法210条1項）。そのため、Ｙは甲を緊急逮捕(法210条１項)出来、それに伴いメモも差押を出来る状況(220条1項2号)にあった。
そうすると、Ｙのした無令状の差押は、その前提となる逮捕手続が公務執行妨害罪に基づくため違法とされたが、既に要件の具備している強盗致傷罪の被疑事実でする緊急逮捕に依れば、メモを差押えても違法ではなかったといえる。
このように、Ｙは手続の選択を間違えていたためにメモの差押が違法となってしまったが、差押をする実体上の根拠はあった事案であるのだから、逮捕の実態がない場合の差押と異なり、違法性の程度は重大ではない。
よって、本件差押手続は手続の選択を誤ったものに過ぎず、a令状主義の精神を没却するほどの違法性があったとはいえない。
(2) このように、緊急逮捕に基づく差押をしなかったとしても、現実に緊急逮捕できる要件は備わっていたのだから、証拠能力を排除してまでして、将来の同種の捜査手続の適法性を図る必要性は必ずしも高くはない。また、ＸＹは捜査手続を誤ったことは確かだが、同人らに手続の脱法目的があったわけではなく、証拠能力を排除したとしても将来の捜査手続の適法性が担保出来るとは限らない。
従って、b将来捜査の違法抑制の見地からしても、証拠能力を排除する程の違法性があるとはいえない。
４ よって、本件メモは違法収集証拠として証拠能力を否定すべきではない。
第３ 以上より、本件メモを甲乙間の共謀を立証するための証拠として利用することが出来る。
以上
【総評：だいぶ良いと思います。特に中間的理由付けを意識的にしようという姿勢が感じられます。中間的理由はせいぜい１行、場合によっては一言二言ぐらいかもしれませんが、それもであるかないかで印象が全く違います。そしてどうしても中間的理由付けがない箇所は「判例がこういっている」でいいと思います。気になるのは、「〜とも思える。しかし〜。従って〜」というものです。常にその形式でやる必要はないでしょう。後の理由付けがはっきりすればするほど、「〜と思え」たほうが不自然だからです。「〜である。従って〜である。」で全く問題ないと思いますよ。】
【次回課題：今回コメントした箇所を修正したあと、書式を変更し、本番で書くであろう文字数×行数にしてページ数をカウントしてください。おそらくだいぶオーバーしていると思うので、次は削る練習です。別のワードファイルにコピぺしてそこで作業してください。全体を眺めつつ、規定枚数に収まるようにブラッシュアップしてください。当然、削る箇所はありますが、どこを削るかというのも腕の見せ所です。やり方の一例として、特に問題はないが検討しなければいけない箇所は、あてはめ＋理由ですぐ終わらせる、という感じです。終わったら、監督に見てもらってコメントもらってください。】
かなりブラッシュアップされました。
今は時間無制限、枚数無制限ですから、膨大な量になっています。
今度はこれを凝縮する練習です。
これまた苦労する練習ですが、
「自分の最大出力で練習→それを最大限研ぎ澄ます練習」だと思ってください。
普通に問題を規定時間で繰り返しても、そのどちらもできません。
特に一度不合格してしまった方は、今までのやり方では及ばなかったのですから、
荒療治をやってみることも大事だと思います。
今回の企画も荒療治の一環でもあります。
その上で、そろそろ別の人にも見てもらうことで、
さらに新鮮な意見を採り入れて、完成させるわけです。
次の投稿ではその完成版にいってみましょう。
