ショボーン(´・ω・`)民法

2006年05月24日

もう一つの養子。

JAF呼びましたがもうバッテリーも寿命ってことで結局ディーラーで交換。
明日からぶいぶい乗ってやるぜ!
あと弟が免許取ったので指導中。こええ。
今日は大雨+夜で強行練習。レベルも上がっただろうて。


−もう一つの(´・ω・`)民法−

【養子】

「…とまぁそんなわけで、そのときは病気でテストが大変だったのさ」
僕は第一回試験の懐かしい思い出話を話した。
「で、今啓介君がこうしてまだニート生活をしているってことはつまり」
容赦ない突っ込みが入る。
「そう! 結局だめだったってことだよおおおおお!(号泣)」
「あーお茶が美味しい」

今日も平和である。

「でもね啓介君。それくらいで辛いって言っちゃだめよ。
世間にはもっと辛い人がいっぱいいるんだから」
「それはもっともだと思うよ。しかしまるでお母さんかお姉さんだな伊織。
まるで経験者みたいだ」
「そりゃあまあ……………う」

ガシャン。カップが落ちる。伊織がうずくまる。

「どうした?!」
「あ…いやちょっと…気にしないで、いつもの…だから…」
「いつものって、どういうことだ?! 僕は初めて見るぞ!」
「あは…ばれちゃった…あたしも、まだまだ…。
啓介君、ごめん、QQ病院連れてって…」

そういって伊織は力無く床に伏した。
僕は伊織を抱きかかえてMR−Sを飛ばした。
そして今、伊織はベッドで寝ている。

「主治医のOです。ええとあなたは…誰ですか? ご家族?」
「親族ではあるんですが遠いです。でも後見人で、代理権があります」
「後見人? よく分かんないねぇ! 医者に民法語らないでよね!
とにかく親の承諾書が欲しいんだけど。入院させないと」
「入院ですって?! 伊織はそんなに悪いんですか?」
「なんだ知らないで後見人とかやっていたわけ?
伊織ちゃんは内臓に腫瘍ができやすい難病なんだよ。
何回も手術が必要だし、お金も必要なの。
今その手術が日本でできる先生が一人しかいないんだけどこの人がまた
強欲でねぇ、高い手術代を要求するんだよ」
「ばかな…!」



おかしいと思っていた。なぜあの家に20番も抵当権がくっついているのか。
なぜ個人でありとあらゆることに手を出す町金をAさんがやっていたのか。
普通の仕事では足りないからこそ、金融で荒稼ぎをして。
それはつまり、ただただひたすら、伊織の命を買い続けるために。



伊織が眠り続けている間、僕はカントク(後見監督人)の所へ向かった。

「そういう事情があったのか…確かにお主の手では負えぬかもしれぬな」
悔しいが、それは事実だ。
「そして、やはり親でないとなかなか世間では通らぬか。
いくら法律上後見人に身上看護権利義務があると言ってもな。
(親権者と同じ扱い 第857条本文 
未成年後見人は、第820条から第823条までに規定する事項について、親権を行う者と同一の権利義務を有する。)

確かに財産管理ではお主は良い成績を上げてはおるが、
お主の手に負えないとすると、もっと適切な後見人が良いと言うことになり、
「その他後見の任務に適しない事由」として解任事由にもなりかねん。
(利害関係人の請求や家裁の職権で解任される 第846条 
後見人に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、後見監督人、被後見人若しくはその親族若しくは検察官の請求により又は職権で、これを解任することができる。)


「しかしカントク、僕を解任したところで替わりがいるわけでも…」
「それがな。伊織の母親…初回に出てきて去っていった者だが…が
今度婚姻したらしくてな。再婚ではないぞ、Aさんとは結婚してないから。
その相手の男がそれなりに金持ちらしくてな、
しかも伊織がいても良いと言っておる。つまり親として引き取りたいと」
「引き取ると言ったって配偶者の子供は民法上はただの姻族ですよ!
『連れ子』と言っても法律上は子供ではない」
(そうなんです)

「だからこそ伊織を養子にすると言っておるらしい。
配偶者のある者が未成年を養子にするのは色々障害があるのだが、
配偶者の子供の場合はそれがかなり楽にクリアできるようになっておる。
まず、配偶者とともにする必要はない。
(原則はともにすること 第795条 
配偶者のある者が未成年者を養子とするには、配偶者とともにしなければならない。ただし、配偶者の嫡出である子を養子とする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合は、この限りでない。)

次に、家裁の許可も必要ない。
(配偶者の連れ子と、孫が許可要らないと思えばOK 第798条 
未成年者を養子とするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。ただし、自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合は、この限りでない。)


あとは伊織が14歳なので、法定代理人…つまりお主だが、
その代諾があれば成立するのだ。
お母さんには今監護権がないからその同意はいらないからな。
(第797条
1項 養子となる者が15歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって、縁組の承諾をすることができる。
2項 法定代理人が前項の承諾をするには、養子となる者の父母でその監護をすべき者であるものが他にあるときは、その同意を得なければならない。)


我が国は比較法的にも養子を極めてしやすい国でな、
基本的に尊属または自分より年上でなければ、合意と届け出のみでよいのだ。
(第793条 尊属又は年長者は、これを養子とすることができない。
 +  
第799条の準用する第739条 
婚姻は、戸籍法(昭和22年法律第224号)の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。)

未成年は色々規制がかかるが、それをクリアできる準備はできておるわけだ。
あとはお前の考え方次第となる」
「………………」

僕は迷った。あんな母親だ。だが相手の男は伊織を受け入れるという。
金もある。
僕には何もない。ニートだし金もない。将来も決まっていない。
そんな僕に、伊織を守りきることができるだろうか。
そして何より、今の伊織には、「親」が必要なのだ。

「もう一つ方法がある。それはお主が「親」になることだ。
つまり伊織を養子にすればいい」
「!」
「とくに不思議なことではあるまい?
後見人が被後見人を養子にすることは想定されておる」
(家裁の許可をもらってやることを想定 第794条 
後見人が被後見人(未成年被後見人及び成年被後見人をいう。以下同じ。)を養子とするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。後見人の任務が終了した後、まだその管理の計算が終わらない間も、同様とする。)

「だからって…」
「お主は今まで見てきた後見人の中では抜群の成績だ。
被後見人を大事にする気持ちがある。ボランティア的な精神に支えられておる。
このまま債権回収を続ければ、手術代の捻出も可能であろう」
「……考えさせてください」
「しかし、このままでは解任もあり得る。それは理解しておくのだ。
その場合は、母の夫が有力な「親」候補になるのだからな」


養子。それは子供にすること。
伊織が、僕の子供に? なんかそれは、あまりにおかしくないか。
でもそうしないと、伊織は僕の手から離れてしまうかも知れない。
伊織にとってはそれが良いのかも知れないけれど。なんだこのもやもやは。
そんな形でですら、僕は伊織を独占したいというのか。
醜い自分の気持ちを、僕は呪った。


(´・ω・`)ちょっとシリアス路線
(´・ω・`)次回は遺言と養子の続き

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2006年05月15日

もう一つの不動産収益執行。

結局今日も休んでしまった。焦ったけど達観してきた。
もはや小手先でどうにかなる物ではない。できることは限られている。


…なんてあきらめがよくてたまるかっ! 最後の一分まであがいてやる!
とにかく一点にかける執念が猪瀬式の全てだと言って良い。
今回の辰巳の模試でだいたい分かったが絶対安全圏は1100点というところ。
900〜1100点でダンゴになっており、人生決まる。
ならば択一の10点20点はそれだけで生死を分ける。
まだだ、まだ増やせる。まだ届いていない領域がある。


ただ戻ってきた辰巳の模試は行政法と倒産法だけはゲロワルだったので克服したい。
倒産法はもうロースクール倒産法やったおかげで相当アップしただろうが、
やはり鬼門は行政法か。死ぬとしたら行政法。
というわけでいやでしょうがなかった行政百選の判例だけ、200ほど読んだ。
民法やると気持ちが悪くて吐きそうだったので強度の低いモノしかできない。
新しい知識が多くて凍り付いた。もう一周読む必要がある。
あるいは買っておいた行政判例集(総論)の方が良いかもね。
あち40は明日やることにして、そしてベーシック宇賀を読もう。
あと5日でできることを! 刑法判例は総論はもう良い。各論だけで良い。
刑事系は山口刑法読み通す。刑訴はノートもう一回。
民法は自分はできることに決めた。やるとしたら商法民訴だ。
刑訴短答六法一回だけは読み通す。二日でOK。
択一式民法は最後までやろう。現在債権譲渡まで来ている。
家族百選はもう一週読もう。家族は大事だ。
倒産法はロースクール倒産法のまとめノートだけでやるしかない。百選ムリ。
そしてカズユキ! 最後はカズユキで締めたい。
憲法が苦手で嫌いでしょうがなかった私に一つの光を見せてくれた。
偏っている部分はあるにせよ、全てカズユキを信じる。

今回辰巳の模試が帰ってきて心の底から分かったのは、
所詮使えることなんて、自分が何回もやってモノのにした確実なモノだけ。
しょぼいことしか書けないのだ。
オールカズユキで書いた憲法はそれなりに良かったし、
(´・ω・`)民法で書いてきた債権回収は良かったし、
何回もノートだけ読んだ刑訴もそれなりに良かった。
一つのものに集中してこれ! とやるしかないのだ。


苦しんだもの、楽しんだものは忘れない。
だから、苦労してローでみんなで苦しんだものは忘れていないし、
必ず力になって発揮される。
いつも自習室見て思う、こんなに毎日毎日朝から晩まで勉強してる人がいる。
この人たちが受からないで、一体誰が受かるんだ?
家にいる人だってものすごい勉強しているのを知っている。
できないやばいと叫んでいる友達もどれほど努力しているか知っている。
みんなで受かるんだ、必ず。
みんな敵同士じゃない、敵は一人もいない。全員分の席はちゃんとある。
だから。
あと5日、まだまだ必ず伸びる。それまで退けない、負けてたまるか。
風邪は今日で完治したとみなす。明日から学校行こう。



−もう一つの(´・ω・`)民法−

【不動産収益執行】

ブロロロー。
MR−Sがうなりをあげる。
今日は休日、伊織と二人で担保巡り。
まるで色気がないこのドライブ、どうだろう。

「ねぇねぇ、啓介君は今度の日曜日ヒマ? だよね当然」
「答える前から答えを用意して欲しくないが、そうだよニートだもん。
何かあるのかい?」
「あのね…その。学校の文化祭があるの。
クラスの出し物で英語劇をやることになって。
それであたし、一応役もらえてるんだ…。保護者もみんな見に来るし、
良ければ啓介君も、とか思って…だめかな…」
ふふ。まだまだ中学生。可愛いもんである。
「へぇえ! いいよ、どんな劇?」
「んと、『Run,Melos,Run』だよ」
「走れメロスか。確かに中学生の英語ではちょうど良い内容だよね。
で、伊織はどんな役? メロスの妹? マントを差し出す少女?」
「それが…英語の成績順に役が半ば強制的に割り振られていて…」
「ほう?」
「……………邪知暴虐の女王」
「……ぷ」
「わあらあうなあああああああ!」

なんてベスト配役、と心の中で喝采したが、伊織がムッとにらんでいるので
大笑いはできなかった。
あえて女王にアレンジするところが男女平等の現代社会においてとても良い。
などと言い訳をするまでもなく、配役にセンスを感じる。
いつもの通りでわがまま炸裂されたら、メロスならずとも激怒もするね。
そんな伊織に付き合っている僕は、もしかしたらHENTAIかもしれないな。


伊織がプンプンしているので話題をそらすために、僕は車を止めて目標を見た。
「あれが例の商業ビルだよ。
『お金持ちの老人の老後の投資、今流行りのサブリースビル! 
貸金3000万円・二番抵当権付き』だって」
「一番じゃないのね。これが悲しい町金よね」
いつからこんなすれた中学生になってしまったのだ。好意に値するぞ。
「一番はサブリース業者のL不動産がつけている。
で、サブリースだからL不動産が一括賃借して、
それをテナントに転貸しているわけだね。
結構流行っているみたいだし、収益もあるみたいだ」
「じゃあどーしてうちへの弁済が滞っているのよ?」
「たぶん二番だからなめられているんだろうなぁ。おまけに実行もできない。
最近は不動産価格は上がっているけどそれでもまだバブルの傷は癒えていなくて、
だいたい5億円の時価なんだが、1番のL不動産が7億の抵当権持っている。
そうするとうちらが実行しても一銭も入らないだろ? だと実行できないんだ」
(無剰余禁止 民事執行法188条が準用する63条1項 
執行裁判所は、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、その旨を差押債権者に通知しなければならない。
一  差押債権者の債権に優先する債権がない場合において、不動産の買受可能価額が執行費用のうち共益費用であるものの見込額を超えないとき。
二  優先債権がある場合において、不動産の買受可能価額が手続費用及び優先債権の見込額の合計額に満たないとき。
  +
2項  差押債権者が、前項の規定による通知を受けた日から一週間以内に、優先債権がない場合にあつては手続費用の見込額を超える額、優先債権がある場合にあつては手続費用及び優先債権の見込額の合計額以上の額を定めて、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める申出及び保証の提供をしないときは、執行裁判所は、差押債権者の申立てに係る強制競売の手続を取り消さなければならない。)


「塩漬けかぁ…確かに手も足も出ない。なめられちゃうわけね…」
ぐー。伊織のおなかがなく。
「何よっ! 別におなかが空いているわけじゃないんだからね!
啓介君が債権回収下手だからお寿司食べられないわけじゃないんだからね」
これはやっぱり邪知暴虐の女王である。故意犯なのか天然過失犯なのか。

「悪かった! 頑張るから! とりあえず賃料収入はあるみたいだから、
物上代位をやってみることにするよ。
1番抵当権はまだまだ履行期がずっと先みたいだけど、
うちらは既に弁済が滞っているという債務不履行があるから、
果実…すなわち賃料にも抵当権の効力が及ぶんだ。
(改正で実体法的根拠が加わったぞ !第371条 
抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ。)


すると、どうやら賃料債権に物上代位ができそうなんだ。
(物上代位は賃料にも 第372条が準用する第304条1項 
先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。)

今回で言うと、サブリースしているL不動産から入ってくる収入を横から
全部かっさらうわけだね」
「丸ごと全部? それって素敵ね!」
「素敵なことに丸ごと全部。執行法上の不動産収益執行は、
正式手続だけに始まってしまったら物上代位に優先するんだけど、
(物上代位は失効 民事執行法188条が準用する第93条の4 1項本文 
第九十三条第四項の規定により強制管理の開始決定の効力が給付義務者に対して生じたときは、給付請求権に対する差押命令又は差押処分であつて既に効力が生じていたものは、その効力を停止する。 )

逆に言うとそれが始まるまでは延々と賃料かっさらえる。
しかも、不動産収益執行は管理コストを横に置いて出すんだが、
物上代位はそれを無視して丸取りなんだ。不動産が荒廃しても、知らん顔!」
「何か楽しそうよ啓介君」
「二番抵当権者なんてこうでもしないと回収ができないよ。
こんなビルもって稼いでいるんだ、ちゃんと回収したってバチは当たらないよ」
「んもー。でもそんな啓介君がだーいすき」
ぎゅー。
「こらー! オープンカーでそういう公共に反することをするなぁ!」

そこへ。


ブロロロー。
赤いスポーツカーが颯爽と現れる。
赤と言えばフェラーリ! フェラーリと言えば赤!
その偏見を忠実に表したまさに欲望の固まりフェラーリ360モデナがそこにいた。
がちゃ、と降りたスーツ(アルマーニ)姿の男は。

「よお。久しぶりじゃねぇか啓介。こんなところで女と何いちゃついているんだ?」
「N先輩…」
「えっ? えっ? もしかしてあたし邪魔者?」
「とりあえず離れてな」
パパッ。


近くの喫茶店にて。
伊織は先に電車で帰ることにしたらしい。

「あのゼミで一緒になってからもう何年か。お前は一番優秀だったな」
「N先輩ほどじゃないですけどね。N先輩は在学中からベンチャーを興して。
今はL不動産の取締役ですか。30歳でありえない出世ですよ」
N先輩は自社の関係建物を回ってみていたらしい。
「M&Aで不動産会社を買ったせいで派遣された名目取締役だけどな。
まだまだ現場では下っ端だからこうして地味に勉強しているわけよ」

L不動産は最近金融で急成長したL社の系列で、
この劇的なM&Aで傘下に入ったばかりである。
幹部はみなヒルズ族で、飛ぶ鳥を落とす勢いである。
持っていた株が上場したおかげで莫大な資産を手に入れ、
30歳でフェラーリも然り、と言ったところである。

「それでお前、こんなところで何くすぶっているんだ?」
「それがまぁツーストライクとか色々…」
「お前ほどの人間がよ。よし! お前L社に入れよ。
金融部門の人間がまだまだ不足してるんだ。
仮に弁護士になったらそのまま社内に残ってくれればさらに優遇するぞ。
俺が社長に頼み込んだらすぐ採用だよ。お前なら間違いない」
「しかし…」
僕は迷った。確かに悪くない提案だった。身分不安定であるより、
上場会社で抜擢してくれるならこんなに良いことはない。
先輩は有能であることは疑いようがない。
そういう人のいるところで働くのも悪くない…。

「あんなわけのわからん娘っこにかまけてないでよ。
お前の力を活かせってことだよ」
「……………!」

それは。そのことは。

「うちにくりゃセレブ合コンだって思いのままだぜ?
アナウンサーやタレントだって出会いがある。
それは俺もそこまで好きじゃないが、だがあんな将来なさそうな女のために
無駄に時間使うこと無いだろ? 俺と一緒に世界を獲ろうぜ」
「…分かりました。三日時間を下さい。それまで考えさせてください」
「ふっ。昔から慎重な奴だな。まあいいさ。じゃあ三日後にここだな」

フェラーリは爆走して去っていった。
僕はMR−Sでゆっくりと帰った。
駆動形式は同じMRだが、何もかも根本的に違う。
ちなみにクラッチレスのシーケンシャルシフトマチックを
本格採用したフェラーリだが、オプションで100万円オーバーもする。
MR−Sは同じモノが7万5000円。トヨタテクノロジー万歳。


「アイスコーヒーのお代わりはいかが致しましょうかあー?」
「…………ください。ていうかビッグパフェ追加」
「ありがとうございまあす!」
伊織は帰ったふりをして当然のように後で会話を聞いていたのである。
やってきたどでかいパフェをもりもり食べながら伊織はつぶやく。
「そりゃ! あたしは確かにおじゃま虫よ! 
でもあんなに言うこと無いじゃない!」
アイスが頬にしみる。
「でも…啓介君は優秀だし、縛れないのかもね…。
あたしだけのために、人生使わせるためには行かないもんね…。
ヒルズ族になれるんだもん…そのほうが、いいよね…」
急に、チョコバナナが、異物になって、もたれた。



三日後。

約束の喫茶店。伊織は学校サボってこっそり後の席に張り付いた。

「で、心は決まったか啓介。当然、来るんだよな?」
「決まりました。僕は、行けません」
「なんだ…と?」

伊織は、その一言を聞いただけで、心臓がばくばくした。

「僕は後見人です。後見人ってのは善管注意義務があるんです。
(後見人には善管注意義務 第869条の準用する第644条
受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。)

そりゃ家裁の決めた範囲内で金はもらえるのでただ働きってことはありませんが、
(家裁が報酬を決定する 被後見人の財産の中から支出 第862条 
家庭裁判所は、後見人及び被後見人の資力その他の事情によって、被後見人の財産の中から、相当な報酬を後見人に与えることができる。)

もちろん微々たるもんです。元は伊織のお金ですからね。

でも、もともと委任は古来ローマより無償だった。
それは信頼があるから。医学・神学・法学は人の不幸を扱うから。
故に欲無きことを求むる神の業だったからです。
そんな昔話はどうでも良いですが、その心は忘れてはいけない。
たとえ自分が不利になろうと相手の信頼は裏切れない。
それが善管注意義務というものです。
伊織は僕が守る。そう約束した。だから、その約束は破れない」
僕は断固として宣言した。

「けっ。お前は昔っからそうだ。優秀なくせに頭は固い。
ゼミでも1年のくせに4年の俺にかみついて議論ふっかけて一歩も譲らなかったからな」
「遠い昔の話ですよ」
「だがな…俺のオファーをコケにしてくれた罪は重いぜ。
お前、この前来たときはあの商業ビル見ていたんだな。調べたぜ。
確かにお前のところの二番抵当権がついている。物上代位でもするつもりだったのか。
だが、もうそれもゆるさん。
確かに、動産先取特権と違って、304条の「差押え」の意義は
第三債務者を弁済の危険から保護するだけだ。
債権譲渡をしようと物上代位には勝てない。
だが相殺についてはどうだ?」
「……………!」
N先輩はどう猛な笑いを浮かべる。
「一番抵当権については弁済がされているから実行はできない。
しかし最近融資した5000万の債権が遅滞していてな。
履行期になっているんだ。するとオーナーに払うべき賃料債務の期限の利益を
放棄して、全て相殺する。すると物上代位だって吹っ飛ぶわけだ」
「…相殺無制限説、というやつですね」
(第511条 
支払の差止めを受けた第三債務者は、その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない。
  ↓
反対解釈として、差押え後に取得した債権でなければ、全て相殺可能。
履行期の先後を問わず、相殺適状になっていればよい。
自分の債務は期限の利益を喪失すればいいから、
実際は自動債権の履行期が来てればいいことになる。相殺の担保的機能)


「そうだ! 会社更生でも止まらない最強の担保である相殺。
俺が今部下に指示すれば瞬時に実行できるぞ。
(相殺は意思表示のみで実行できる 第506条1項
相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。この場合において、その意思表示には、条件又は期限を付することができない。)

そうすりゃ遡って賃料もなくなることになるから、物上代位もできない。
どうだ。伊達に金融やってないだろう?」
「さすがです先輩。不動産会社に出向しただけはある」
「な、なんだお前。実行を止めて欲しくないのか? だったら俺に従え、
そうればこの3000万の物上代位くらい見逃してやる」
「………結論は先ほど述べました。僕は伊織を裏切らない。
だから、ヒルズ族だのセレブ合コンには興味がありません。
この話はなかったことにしてください」

先輩はフルフルと手をふるわせた。
「ああそうか! 俺にそこまでして逆らうか! なら目の前の債権を失え!
食らえ相殺!」
先輩は携帯で部下に指示をした。
「よし、相殺しろ!」

しかし。

「そ、それが…で、できません!」
「なんだとう?!」
「賃料債務が…差し押さえられています!」
「!」

僕はゆっくりとホットコーヒーをすする。

「確かに相殺は最強の担保です。しかしその強さは徐々に修正されている。
実行されてしまえばそれは弁済と同じだから、304条1項の「払渡」として
もう物上代位はできなくなってしまう。
それから担保的効力を考えれば、抵当権より先にあった債権なら、
無条件に相殺してもおかしくないでしょう。
(304条1項の差押え前は、相殺が実行でき、物上代位に相殺は全て勝つ)

でも抵当権だって公示されている担保です。そうそう負けっ放しではない。
差押えをかけて「払渡」を封じたあとならば、
抵当登記とあたらしい債権…つまりL不動産からすれば新規融資ですが…の、
先後で優先関係が決まります。
(しかし304条1項の差押え後は、自動債権と抵当権登記の先後で決まる)
我々の抵当権は遙か前。しかし先輩たちの新規融資は最近。
我々の抵当権が先です。ならば差押えをした以上は。
劣後した相殺は物上代位に敗北する」
「!!!!!!!!!!!」

恐ろしいほどの静寂が続いた。

「…お前は俺が相殺で脅すことを読んでいたのか」
「差押えには裁判所に行ったりで時間がかかるんです。
最低でも二日はかかる。だから三日後を指定した。
先輩の性格からして、必ず僕と会ってから相殺すると思いました」
「…俺をはめたのか…」
「債権回収はスピードが全てです。優秀な担保もない債権者は知恵を絞るしかない。
M&Aと債権回収の末端では感覚が違う。その差が、出ただけでしょう」

N先輩はフーとため息をついた。

「…全く。昔からお前はこうだ。目的のためとなればかける情熱が違う。
だからこそ、誘ったんだけどな」
「申し訳ありません。でも、また、機会があったら、一緒に仕事がしたいです」
「ああ。そのときは、またよろしく頼むよ。俺はそろそろ行くな」

先輩は席を立った。

「ところで。お前は昔っから女運のない奴だが、今回は当たりを引いたのか?」
「どうでしょう。御姫様っぷりだけは、文句ないですね」
「ふ。媚びるだけしか脳がない女どもより、遙かにマシさ。大事にしな」
「ありがとうございます」

フェラーリは再び去った。

「やれやれ。全く、ブラフも疲れるよ」
おなかが空いたのでパスタでも頼もうと後を振りかえったら、
観葉植物の隙間から覗く知った顔。
「伊織!」
「げ。見つかった」

逃走しようとする犯人を現行犯逮捕する。
しかし逃走罪は現行犯逮捕には成立しないので要注意。
(刑法(逃走)第九十七条  
裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者が逃走したときは、一年以下の懲役に処する。
 →裁判の執行、つまり勾留されている犯人のこと

(加重逃走) 第九十八条  
前条に規定する者又は勾引状の執行を受けた者が拘禁場若しくは拘束のための器具を損壊し、暴行若しくは脅迫をし、又は二人以上通謀して、逃走したときは、三月以上五年以下の懲役に処する。
 →勾引状、つまり逮捕状による逮捕もプラス。でも現行犯逮捕は入ってないぞ!)


「こら! 学校サボって何やってんだ!」
「だって! 心配だったんだもん…。ごめんなさい…」
「まったく…」
ぐー。今度は僕のおなかが鳴った。
「じゃあ! ここはあたしがおごってあげるから! 
パスタでもハンバーグでも好きなもの食べてよ、ねっねっ!」

何やら。それがとてつもなく可愛くて。
僕は、良かったのだと思う。
それでも。

「伊織、僕を殴れ」
「はぁっ?」
「僕は、途中で一度、悪い夢を見た。君が若(も)し私を殴ってくれなかったら、僕は君におごってもらう資格さえ無いのだ。殴れ。」
コクンと伊織はうなずくと、力をためてみぞおちに拳を叩き込んだ。
「げふっ…本当に…痛いんですけど…」
「あたしとアナウンサーを天秤にかけた罰よ!」
伊織はびしっと指を指した。

そして伊織は優しく微笑み、
「啓介、私をなでなでしろ。同じくらい私をなでなでしろ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君におごれない」
「なぜなでなでなんだ?! 僕は殴られたのに!」
「レディーを殴るなんてありえないわ! かわりになでなで」
「つうか疑っていたんかい! 悲しい哉」
「いいの! 結果オーライよ! ほら、なでなで」

なでなで。

「なら、おごってあげるわ! すいません、メニュー下さいー」
「はいただいまー」

この展開が、愛される女王様、ないしお姫様なのかも知れない。

「ところで啓介君、なんでわざわざあんな挑発するようなことを?
逆ギレでもされたらどうするつもりだったの?」
伊織はパフェをはむはむしながら聞いてくる。

「物上代位といえども優先抵当権には弱くてさ。
下手にデフォルトになったときに一番を実行されたり物上代位されたり
不動産収益執行された日には僕らの物上代位は全て吹っ飛んでしまうからね。
それだけは避けたかった。
でもああして完敗した場合、先輩の性格からして、それはしない。
だからああして挑発する必要があったんだ」

伊織はしきりに感心した。


「ところでそのゼミって何だったの? 債権回収法講義かなんか?」
「ええと…『カズユキ輪読』だったかな」
「全然違うじゃん! だからあの人債権回収が中途半端だったのね…」



こうして無事3000万を回収。これで抵当権を3個抹消。残り9個。
でも僕は、今回のことで明確に意識をするようになった。
これから僕の人生を考える上で、伊織をどうするかを。
いつまでも後見人という地位でいるだけでは、僕は何もできないのだった。
この笑顔を守るためには。そして、僕の夢を叶えるためには。
まだ僕は、答えを見いだせないでいた。



(´・ω・`)続く
(´・ω・`)次回は保証と代位など

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2006年05月13日

もう一つのフルペイアウト方式ファイナンスリース。

結局体は動かず休みました。
明日は良くなっているといいな。
もっとも動かないのは体だけだったので座っているだけは出来たので、
美容院に行って来ました。とってもすっきり。テスト終わったらカラーもしにいこう。


−もう一つの(´・ω・`)民法−

【フルペイアウト方式ファイナンスリース】

破産しましたー。債権者逃亡しますた。不渡りになりました。
A家に飛び込んでくる話題はそんな話ばっかりである。
町金の難しいところはこういうところでどれだけ頑張れるかだ。
それこそ民法を駆使して頑張る必要がある。
そこには大きな悲しみもある。でも債権者は氷のような冷たさで。
僕は時々、気が狂いそうになる。



「今度はサラリーマンMさんが再生手続開始か…」
Aさんの財産表に○×△のチェックをつけていく。優秀な債務者がいたためしがない。
「破産免責どかーんサヨナラでないだけましじゃない。
まあ、サラリーマンだったらやっぱりマイホームは手放したくないわよね」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

破産は差押禁止動産と99万円の現金を除いて全ての財産は換価される。
(破産法第三十四条  
1 破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産は、破産財団とする。
3  第一項の規定にかかわらず、次に掲げる財産は、破産財団に属しない。
一  民事執行法第百三十一条第三号に規定する額に二分の三を乗じた額の金銭(99万)
二  差し押さえることができない財産)


すると住宅はもちろん手放さなきゃ逝けない。
民事再生も基本はそうだけど、住宅の保護のために住宅ローン特別条項がある。

まず他に担保がついていない住宅に使える。
銀行が住宅ローンのために抵当権を一つだけつけているようなパターンだ。 
(民事再生法第百九十八条1項
住宅資金貸付債権については、再生計画において、住宅資金特別条項を定めることができる。ただし、住宅の上に第五十三条第一項に規定する担保権が存するとき、又は住宅以外の不動産にも同号に規定する抵当権が設定されている場合において当該不動産の上に第五十三条第一項に規定する担保権で当該抵当権に後れるものが存するときは、この限りでない。)


内容は、基本は全額弁済+支払猶予で、つまり全部払うということ。
それなら文句はないだろうってことで、期限を延ばしてもらう。なので担保も実行できなくなる。
(第二百三条  2  住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可の決定が確定したときは、住宅資金特別条項によって変更された後の権利については、住宅資金特別条項において、期限の利益の喪失についての定めその他の住宅資金貸付契約における定めと同一の定めがされたものとみなす。ただし、第百九十九条第四項の同意を得て別段の定めをすることを妨げない。 )
他の債権者から見ると、オーバーローン物件だった場合などには不平等感漂うが、
住宅を叩き売られるよりも再生が大事だということになっている。
 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「サラリーマンだと小規模個人再生とか給与所得者等再生もあるのよね」
「明らかに中学生レベルを超えた解説をありがとう伊織。そうなんだけど
条文を見れば分かるよ、要するに5年で払うか、3年で2年分の給料はき出すかの話。
破産+免責なら全部吹っ飛ぶわけだから、それと比べればまぁ良心的かな。
決議方法が特殊で、小規模個人再生なら債権者集会で積極的に否決されなければよし。
給与所得者等再生ならほぼ全てをはき出すので債権者集会なし。
なので強硬な反対債権者を黙らせるときにはこれがよいね。もちろん継続収入が前提」
「Mさんは不安定な年俸制らしいわよ。すると、これもだめね」
「使えるのは住宅ローンだけの、普通の再生ってことだね」
「でも啓介君、それがどう関係あるの? わたしたちは
抵当権も持ってないし、どうせ再生計画で割合弁済しかもらえないわよ」
「それがそうでもなさそうなんだ。これを見て」


『あこがれのクルマを手に入れたサラリーマン、10年間のフルペイアウト方式の
ファイナンスリース! メンテナンスは無し』


「つまり自動車金融でクルマを持っていたAさんは、Mさんにクルマをリースしたんだな」
「貸していたってこと? じゃあ返してもらえばいいのね、クルマ!」
「ところが破産や再生での賃貸借の扱いはえらくやっかいで、勝手に解除できないんだよ。
賃借人破産の場合の貸し主からの解除が出来なくなったんだ。
(賃借人保護のためにそういう条文が無くなった 
民法第622条  削除)


向こう側からは解除してくれたり継続したりしてくれるんだけどね。
もっとも、解除してくれたら物が返ってくるし、
継続してくれても賃料が入ってくるから特には困らないんだよ。
ところが、そうもいかないんだ」
「まどろっこしいのねぇ」
「フルペイアウト…つまり、売買と同じだけの値段を払う方式のリースは、
月々ごとに払う賃貸借と見てもらえないんだ。
もう値段が決まっているから、全額が契約時に成立し、あとは分割で払っているだけ。
つまり金融だとみなされちゃうんだよ。そうすると賃貸借の条文が使えない。
金融債権者と同じ単なる再生債権者に落ちるってこと。
メンテナンスありなら賃貸借に近くなりうるんだけどねぇ」
「ってことはやっぱり1割とか2割弁済じゃない! お父さんのバカー!」

伊織は絨毯をごろごろする。可愛いけど中学生の会話ではない。

「というのが今までの話だったんだけど、んじゃそのクルマ取り返せないかなぁってこと
になってね。それが取り返せればまぁ再生債権は割とどうでもいいわけだ」
伊織はがばっとおきあがる。
「わくわく! ってことはクルマがもらえるのね! ナイスゲットー!」
「これほどまでに物欲が偏っている中学生もいないだろうがともかく。
どうやら、物は渡すけど売買じゃないから所有権留保ではないらしい。
所有権はうちらにあるに決まっているからね。
そうすると、その「クルマを使える」という利用権に質権を着けた債権質らしい。
(物権といいながら債権に対しても質権はつけられる 第362条1項  
質権は、財産権をその目的とすることができる。 )


「んでいざって時にはその質権を実行するわけだ」
「取り立てちゃうのね自分で!」
(債権質は自分で取り立てて実行 第367条1項  
質権者は、質権の目的である債権を直接に取り立てることができる。 )

「そうするとうちらは所有権も利用権も持つことになる。
で、それは混同で消えちゃう。すると完全な所有権が復活!
あとは所有権(取戻権)で債務者からぶんどってくるわけだね」
「ものすごーーーーーい回り道したわね…」
「物そのものじゃなくて債権に担保という構成に感動したね。んじゃ回収してくる。
少しは勉強しとけよ伊織」
「だって学校の勉強なんて簡単すぎてつまらないんだもーん」

全国の苦しむ学生諸氏が聞いたら撲殺したくなるだろうが、
確かに14歳で債権回収の彼女では言う価値があるせりふである。




「というわけでMさん。申し訳ないんですが、
実行! 混同! 取戻権! させてもらいますよ」
「いいいいやだ! このクルマは長年欲しかったクルマなんだ!
質権実行させてたまるか、くらえ担保権ストップの申し立て!」
(再生型なのでとにかく担保実行止められる 民事再生法第31条1項本文  
裁判所は、再生手続開始の申立てがあった場合において、再生債権者の一般の利益に適合し、かつ、競売申立人に不当な損害を及ぼすおそれがないものと認めるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、相当の期間を定めて、第五十三条第一項に規定する再生債務者の財産につき存する担保権の実行手続の中止を命ずることができる。)


止まり!
………………………………………………。

「はい時間がたちましたね。んじゃ続けますねー」
「ノオオオオ! 意味のない制度だ!」
「これ本当に止まるだけなんですよ。クールダウンと交渉の機会ってやつですね」

「ならば担保権消滅請求だ! くらえっ! ……あれ、出ない」
「何度も言っていますが担保権を消す切り札である担保権消滅請求は、
『事業継続のために欠くことができない』ときじゃないとつかえないんですよ。
あなたサラリーマンだから関係ありませんね」
(民事再生法第百四十八条1項  
再生手続開始の時において再生債務者の財産につき第五十三条第一項に規定する担保権が存する場合において、当該財産が再生債務者の事業の継続に欠くことのできないものであるときは、再生債務者等は、裁判所に対し、当該財産の価額に相当する金銭を裁判所に納付して当該財産につき存するすべての担保権を消滅させることについての許可の申立てをすることができる。 )


「んじゃ金をかき集めてきて受け戻してやる! 裁判所の許可をもらえばいいんだろ!」
(受け戻しとは弁済して担保を消すこと 民事再生法第41条1項  
裁判所は、再生手続開始後において、必要があると認めるときは、再生債務者等が次に掲げる行為をするには裁判所の許可を得なければならないものとすることができる。
九  別除権の目的である財産の受戻し)

「今東京地裁じゃ監督委員がだいたい必ずつくんですよね。もとは任意機関なんですけど。
監督委員を選任するときには同意事項をまず決めるんですが、
(裁判所が監督委員に同意権を付与する 同意がないと無効 民事再生法第54条2項  
裁判所は、前項の処分(以下「監督命令」という。)をする場合には、当該監督命令において、一人又は数人の監督委員を選任し、かつ、その同意を得なければ再生債務者がすることができない行為を指定しなければならない。 )

受け戻しとかは同意事項になっていたりするんですよ。
監督委員さんどうですか、クルマ回収していいですね?」
「お願いです! このクルマは趣味のクルマなんです、受け戻したいんです!」
「超不同意」
「ぐあああああああああ!」
「…Mさん正直すぎです…」


そんなわけで僕らは新たにクルマをゲットしたのだ。
それがトヨタのMR−S。エリーゼに続いてまた駆動がMRだ。
癖があるクルマだがオープンにするとまたかっこいい。
今日は久々に伊織とドライブに出かけた。

「ねぇ啓介君」
「なんだい? 今ちょっと僕はハイな気分だよ、わがままも聞いちゃうよ」
「啓介君は、この債権回収が終わったら、どうしちゃうの?」
「どうって…どうもしないよ。とりあえず新司法試験受けるけど」
「もしそれに受かったらあたしは…」
ブオオオン! エンジンが近くてうるさい。
「え、なんだって? ごめん良く聞こえなかった!」
「ううんなんでもない! 頑張ってね!
こんなに民法や倒産ばっかりやっているから大丈夫だよ!」
「苦手なのは公法系なんだよ!(泣) まぁ頑張るよ」



そう、僕は考えもしなかった。
もし仮に受かって修習にでも出れば伊織との別れが来ることを。
そしてそうすれば、伊織がまた独りぼっちになってしまうこと。


(´・ω・`)続く
(´・ω・`)次回こそ不動産収益執行を
(´・ω・`)ていうかオチをどうすればいいんだこの話

eiji_inose at 22:26|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2006年05月09日

もう一つの流動型集合動産譲渡担保。

久しぶりに刑事刑の択一やったらYABEEEEEEEEEEEE!
知識ががっぽり抜けてますぜ。
もー短答六法苦行だけど読むしかないし判例刑法総論各論必須だよ!
300点を阻むのは刑訴だった…とぼとぼ…。
もう、知らないとどうしようもないので、泣けますね。


今回は民法ネタはあまりありません。妄想モードのみ。

−もう一つの(´・ω・`)民法−

【幕間】

お昼時、伊織はたいてい学校では校舎の影で一人でパンをかじる。
どーせクラスの輪にはなじめない。
「貸金屋の娘」っていうのは、結構陰口叩かれるものだ。
おまけにこのご時世。何かと逆風。

「おいおいお嬢さんよぉ! こんなところでお一人かぁ?」
今時パンチパーマの三人組がやってくる。
こんなのは丸刈りものだ。私立学校だから憲法13条も私人間適用無しである。
「ちょっとよー金が無くてよー貸してくんねぇかぁ?
おまえんとこは金貸しなんだろー? 『どうする、アイ○ルー』ってさあ」
「…財産・信用・労務収入のない即支払不能の無担保未成年に
貸すお金なんてびた一文無いわ。さっさと帰りなさいよ。アルバイトでもしたら」
「けっ! お高くとまりやがって! 阿漕な商売してもうけてんだろお?
テレビでもやってたぞー貸金屋悪だってよ!」
「うちはちゃんと担保は取る替わりに利息制限法の枠内でやってるのよ。
だからこんなにビンボーなのよ。
出資法ギリギリでボロ儲けしてる奴らと一緒にしないで」
「シュッシホー? わけのわかんねぇこといってんじゃねぇぞお!
やっちまうかぁあああん?」
先頭の男はファイティングポーズらしきものを取った。

まったく。こういうことはしょっちゅうだ。
だから友達も寄りつかない。それでいい。別に独りでもいい。
こういうのは自分で切り抜けられる。
お父さんは「これ」を使うなと言った。
「これ」を使うのはいずれ身の破滅をもたらすと。
利用され、犯罪にも巻き込まれかねないと。
でも、あたしはそんなのどうでもよかった。
ただただ、どうでもよかったのだ。

黙想し、精神を集中させる。相手は三人。距離3メートル。
カッと目を見開く。深い眼がぎゅっと絞られて凝視する。
「!!!!!!」
不良たちは一瞬でそれに束縛される。目が合えばもう逃げることはかなわない。
お願い、の領域ではない、呪いの視線。
何故、こんなものを持ってしまったのか分からない。
気がついたら、あたしは、こうなっていた。
「あなたちょうどいいファイティングポーズしているじゃない。
んじゃあなたは叫びなさい。んであなたはキック役ね」
「へ、へるぷみーへるぷみー」
「ファ、ファイティングポーズッ!」
「あああああエゲレス騎士道的に後頭部に回し蹴りっ!」
結論は傷害致死罪に減刑だったっけ。でもどうでもいい。
あたしを害そうとしたやつらなんて、どうなったって。
捜査したってわかりはしない。

そこへ。

「なにやってるんだ! とおっ!」
少年が校舎のベランダから飛び降り、あ、ちょっとぐきっとしてる、
かけつけてきて三人をパンチパンチパンチ。
「ぐー」「ぎゃー」「いてー」
あたしは呆然と見ているしかなかった。
「大丈夫かい? 全く酷い奴らだ!」
「あ…その…」
「!!!!!」
あたしを見た少年が硬直する。
しまった。「これ」がまだ少し残っていた。
かかってしまったかもしれない。あたしはこれを自分では解除できない。
別に何も頼まなければいいのだけれど…。
「ご、ごめん、失礼するよっ!」
少年は足早に去っていった。
不良三人はげほげほやっていたが、結果的に刑法犯になることは免れたようだった。
「とにかく。もういいわ。家帰って福祉ボランティアでもやってなさい」
その「指示」がその三人が更生する端緒になったとかならないとか。
人生何があるかは分からない。


そして次の日。

「あ、あの! よ、よかったらこれ!」
その少年に廊下で呼び止められた。よく見たらクラスメイトのJ君であった。
少年は顔を真っ赤にしている。差し出しているのは今流行りのロックバンドのCD。
「これ! 俺が好きなバンドのCD! 
よかったら、っていうか、もらってください!」
ざわざわ。ひそひそ。
「って何もこんな廊下で渡さなくても…」
「ああああごめん俺何やってるんだろうあああああアフォだ」
「それにごめんなさい。あたしあんまりCD聞かないの。だからいいわ」
「そそそそそんなっ! じゃあ今何か欲しい物はないですかっ?」
「んじゃ…お米」
「お米?!」
「お米」


【流動型集合動産譲渡担保】

自宅に届けられた米20kgを見て僕はしばし悩んだ。
これで良いのか若者よ。
「まぁ、そういうわけなのよ」
伊織は助けてくれたことだけを話した。
「とりあえずよかったじゃないか。お米ももらえたしね」
「啓介君って、『そんなものもらうんじゃありません! 返してきなさい』
とか言わない人なんだね。お父さんはしょっちゅうそう言ったよ。
今から男に貢がせるような女はろくな将来がないぞ、って」

「僕はそう思わないね。魅力っていうのはそれだけで果実を生む価値があるんだよ。
それに伊織が何かをもらうにしても、もらうだけなら僕には
文句を言う筋合いはないしね。
(負担付きでない贈与を受けるのは未成年単独で 第5条1項 
未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。)

ま、何より取り消されたら相手の男の気持ちもフイになる。
だからまぁ、その気持ちの尊重ですよ」
「米びつに入れながらそんなこと言ってもあんま説得力無いよ啓介君!」
「おおっとこれは失礼。でもさ…そういう味方がいるって、ありがたいじゃないか。
味方がいるって、良いことだと思うよ。
ただでさえどうやら嫌われやすい家業だからね」
「んじゃ…お友達宣言してくるね」
「伊織も十分すぎるほどドライだよなぁ…」



あたしは次の日の放課後にJと話した。
「お、俺はそんなつもりじゃっ。で、でも友達になれるなら、嬉しい!」
「そう? ありがとう。でも、見ての通りあたしには友達もいないし、
やっかいごとには巻き込まれるし、ロクなことがないよ?」
「そ、それはっ。職業に貴賤無しなのにみんな偏見でっ。
お、俺は、別に、君のこと、そんな風に思わないし、ちゃんと、良いと思うし」
「ふーん…。そっか。でも、ありがとう。そんなの言ってくれる人初めてかも」
「そ、そうか! なぁなぁ、家にプレステあったりするか?
俺んちゲーム屋なんだよ! 良いゲーム貸すから、ちょっと店来てみないか?」
「それって横領なんじゃぁ…ていうかあのCDも…」
「ちちちち違う! そうじゃないっ。まぁいいじゃないかっ!
友達なんだろ、だったらお家訪問くらい普通だぜっ」
あまりにも必死なJを見ていて、あたしはちょっと笑ってしまった。
何か久々に、本当におかしいって思えた気がする。

そんなこんなで、あたしは時々、Jの家に遊びにいくようになった。
Jはいつもわたわたしてて、それがおかしくて、
あたしと遊んでいるって言うだけで学校ではひそひそされていたけど気にせずに。
それでも、あたしの「あれ」を受けたせいだけなのかもしれなかった。
それを考えたら、ちょっと寂しかった。
お父さんが警告したかったのは、こういうことだったのかも、しれない。



「おお伊織。今日もまたJ君の所か?」
「新作のロースクール生育成シミュレーションゲーム出たからやりにこないかって。
明らかにクソゲーっぽいよね」
「絶望的にクソゲーの臭いがするな。まぁそれはともかく伊織。
そろそろJ君の所に行くのはやめといたほうがいいかもしれない」
「どうして? あ…もしかして嫉妬? はっはーん、啓介君ったらー」
「そうじゃない。これを見ろ」
僕はAさんの財産目録を見せた。

「ええっとなになに…
『中規模ゲーム屋、事業資金融資2000万、
担保物[新品ゲーム及び中古ゲーム・第一倉庫および店舗内にあるもの・一切]
動産・債権譲渡特例法による登記あり』
…ってこれ!」
「ああ。よりによって特例法登記だ。今まで出てこなかったのは、
設定する側が法人じゃないといけないからだ。される側は自然人でもいいが。
(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(以後特例法)
第一条  
この法律は、法人がする動産及び債権の譲渡の対抗要件に関し民法の特例等を定めるものとする。 )

譲渡担保を作り出す切り札たる特例法。
事業を根こそぎ押さえてる」
「これ…こんなにぶんどるのありなの?」
「基本アリだ。譲渡担保そのものはメジャーだからいいよな?
そして個々の物が入ったり出たりする集合物も、「もの」として担保にできる。
種類・場所・量的範囲を定めればいい。
今回だと[新品ゲーム及び中古ゲーム・第一倉庫および店舗内にあるもの・一切]
だな。
ネギ44トン中28トン、とか中途半端な指定だと特定不十分で無効なんだが、
場所をがっちり決めて、量的範囲も「一切」とすりゃ間違いようがない」
「つまり場所を決めてそこに入ってくる物全部ということね?」

「まさにその通り。そういう「流動型」もアリとされているんだ。
譲渡担保の基本の対抗要件は占有改定なので、合意だけでも良いんだけど、
さらに念のため特例法登記を取っておくというのもある。
登記で対抗要件を備える特殊なやり方だ。
(特例法登記の意味は民法上の引渡と同じ効果 特例法第3条1項  
法人が動産(当該動産につき貨物引換証、預証券及び質入証券、倉荷証券又は船荷証券が作成されているものを除く。以下同じ。)を譲渡した場合において、当該動産の譲渡につき動産譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは、当該動産について、民法第百七十八条 の引渡しがあったものとみなす。 )

そんなわけで倉庫や店舗という「箱」に入った物は、
すぐに集合物の一部になって、担保に含まれるってわけだ」
「つ、つよそうね。あ! そういえばこの前の先取特権の話も」
「良いところに気がついたな。そう、動産先取特権は「引渡」で消える。
「引渡」は占有改定でもOKだし特例法登記でも良いだろう。
すると、店に搬入した瞬間、「箱」に入って「引渡」されて
担保に吸収されちゃって動産先取特権は消滅し、負ける。
つまりうちらはJ君の所にゲーム売ったメーカーにこれで決定的に勝つ」

伊織はただただ驚き、そしてため息をついた。
「つまり、うちが全部押さえているってことね」
「そういうことになる。事業ごと丸ごと担保化していると言っていい。
おまけに困ったことに2000万の履行期がもう来る。回収の時期だ」
「そ、それで返せそうなの?」
「調べたところ営業は悪くないが利潤がたくさん出るほどでもない。
とてもじゃないが今すぐ2000万の現金は用意できまい」
「そんな…」
「おまけに我が家も苦しくてね。次の債権者に払えないと、
この家の抵当権も実行されかねない。
だから…僕はJ君の担保を実行して回収しようと思う」
「! そんなことしたらJ君の所は…」
「売っているゲーム全てが担保に入っている。
譲渡担保の実行は担保物を他に売って差額を払う処分型か、
とにかく全部担保物を取り上げて差額を払う帰属型か…。
(※譲渡担保は常に差額を清算金支払い、差額無しなら清算金無し)
どっちにしたって担保物は全部取り上げて換価することになる。
そうすれば間違いなく、営業は終わる。つまり、破産」
「そんな…」
「それだけじゃない。中小企業の社長はだいたい連帯保証人になっているから、
会社が破産すれば保証人たる社長の方も吹っ飛びかねない。
するとJ君の家まで、破産の可能性がある」
「!!!」
「だから伊織。もうJ君の所に行くのはやめなさい。
汚いことは僕がやる。伊織は、何も知らなかった。そうしなさい。
友達の財産を叩き売るなんて、こんなに悲しいことは、無いからね」
「啓介君…」




学校。
「おーい! 今日さ、また新作が入るんだよ。またうちで遊ぼうぜ」
「ごめんJ君。いけない。今日だけじゃなくて、ずっといけない」
「……そっか」
「別に、君のこと嫌いになったとかそういうわけじゃないよ!
ただ、その…」
「うん。分かってるよ。家のことだね。借金が返せない。
この前、君のお兄さん?がやってきて、オヤジと話していたよ。
たぶん店は畳むことになるだろうってオヤジは言ってた」
「だったらなおさら! あたしはその張本人なのよ!
どうしてそれと仲良くできるわけ?!」
J君は首をかしげた。それこそどうして、という感じで。
「うちの店が潰れるのは…お金が返せないからだ。別に君のせいじゃない。
君を恨むことなんて何もないよ。オヤジもそう言ってた。
家業のことで好きな女を恨むんじゃねぇぞって」
「あ…」

「やべっ! 好きって言っちゃった(笑)。まあいいだろ、好きなんだから」
「それは違う! あなたはあのときの「目」を受けて…」
「? よく分からないけど。確かにすっごいドキドキはしたけどね。
あれが何か意味があるの?
でも、俺そんなの関係ないよ。ずっと前から君が好きだった。
だからベランダから飛び降りて助けたんだよ」
そう言えば。助けに来てくれる前にまだ「発動」はさせていなかった。
「俺はさー。結構ヘタレで弱虫でさ。強くなりたいっていつも思ってた。
そんな俺には君は眩しくてね。芯が強くて、自分を持っていて、
でも何かいつも寂しそうで、余計に綺麗で、いつしか夢中になっていたよ」
「あたし…そんなの言われたの初めて」
「マジで?! おおー俺だってコクったの初めてだよ! はは、嬉しいなぁ」
J君はぽりぽりと頭をかいた。
「だからさ。誰のせいとかそういうの無し無し。
それより新作のゲーム。これがまたとびきりのクソゲーっぽくてね。
どうだい? ちょっとやってみようぜ」
「…うんっ!」
確かにそのときだけは、ちょっとあたしは中学生日記やっていたかもしれなかった。



数日後。

「J君ちの債権回収の手続に入ったよ」
啓介君が朝に言った。くるべきものがきた。
おそらくシャッターが閉まって張り紙が。これで終わってしまう…。
それでもあたしのせいでそうなるのから目をそらしちゃいけないと思って。
あたしは、J君ちのゲーム店に向かった。

「イラッシャイマセー! 新作のシム・ロースクールですよ!」
おじさんがはっぴを着て声を張り上げている。
「…あれ? 普通に営業しているじゃん? 啓介君は何をやったの?」
「おお! Aさんとこのお嬢ちゃんじゃないか! おはよう!」
「おじさん、これは一体?」
「昨日な、お嬢ちゃんところの兄ちゃんが来てよ。
これからどうするか話し合ってな。
それでおじさんところは結局民事再生手続きすることにしたんだよ」
「民事再生? 破産ではなく?」
「そう! ちょっと苦しいけど経営を立て直して、出直すさ!
(民事再生の目的は再建 民事再生法第一条  
この法律は、経済的に窮境にある債務者について、その債権者の多数の同意を得、かつ、裁判所の認可を受けた再生計画を定めること等により、当該債務者とその債権者との間の民事上の権利関係を適切に調整し、もって当該債務者の事業又は経済生活の再生を図ることを目的とする。 )

幸い息子も手伝ってくれると言うしよ。頑張るさ!」

「でも! 民事再生は会社更生と違って担保実行は止まらない!
(別除権は手続き外で随時実行 民事再生法第五十三条  
1項 再生手続開始の時において再生債務者の財産につき存する担保権(特別の先取特権、質権、抵当権又は商法 の規定による留置権をいう。第三項において同じ。)を有する者は、その目的である財産について、別除権を有する。
2項 別除権は、再生手続によらないで、行使することができる。 )

啓介君が手を抜けば利益相反でカントクに是正されてしまうわ、
結局止められないわよ…」

あたしは知ってる。担保を消滅させる究極の切り札、担保権消滅請求は、
現金を納付しないと使えない…!
(オーバーローン物件は現金を払って消滅 民事再生法第百四十八条1項  
再生手続開始の時において再生債務者の財産につき第五十三条第一項に規定する担保権が存する場合において、当該財産が再生債務者の事業の継続に欠くことのできないものであるときは、再生債務者等は、裁判所に対し、当該財産の価額に相当する金銭を裁判所に納付して当該財産につき存するすべての担保権を消滅させることについての許可の申立てをすることができる。 )


「それがよう。確かにそうなんだが、兄ちゃんは「別除権協定を結びたい」って。
よくわからねぇが、分割払いにしてくれて、担保実行を待ってくれるそうだ。
物を引き上げられなければまだまだ営業できるし努力もできるさ。
本当にありがたいこった!」
「でもそれじゃやっぱり利益相反で…啓介君が…!」
(カントクの請求で解任されてしまう 第846条 
後見人に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、後見監督人、被後見人若しくはその親族若しくは検察官の請求により又は職権で、これを解任することができる。)

あたしは家に急いで戻った。

「よー。忘れ物か?」
「そうじゃなくって! 啓介君、このままじゃ解任されちゃうよっ!」
「あーそのことか。大丈夫。これが伊織のためのベストだと判断したからさ」
「えっ?」
「破産すれば不足額…つまり担保割れ分は破産手続が終わるまでに証明しないと
失権する。つまり配当がもらえない。
J君のところは単純破産事件になるだろうから、瞬時に終わる。それまでに
担保実行して換価して不足額を証明するのは難しい。ゼロの可能性が高い。
それよりは民事再生ならまだ再生計画承認の時に証明する必要はないし、
(不足額のために適当な措置を定めておけばいい、あとでそれによって弁済 
民事再生法第百六十条1項  
別除権の行使によって弁済を受けることができない債権の部分が確定していない再生債権を有する者があるときは、再生計画において、その債権の部分が確定した場合における再生債権者としての権利の行使に関する適確な措置を定めなければならない。)

おじさんと話し合って再生手続をすることにしたんだよ。

んで別除権協定っていうのは、一種の受け戻し(民事再生法41条1項9号)で、
つまりお金を払って担保を消すのを分割払いでするんだな。
で、基本全額払いだし、途中払えないと分割払い契約を解除して担保実行する。
もともと再生手続とは関係なく実行できたわけだからね。
その場合も、間にもらった分割払い分はキープできる。つまり損はないんだよ。
そして僕はJ君の家は十分収益力があると見越したから、再生手続に乗せれば
かなりの配当がもらえる。つまり伊織にとってベストになると思ったんだよ。
だから利益相反はないのさ」
「啓介君…あたし、あたし…」
「ま、僕はベストを尽くしただけでね。あとは彼らの頑張り次第。
こっちも自分の抵当権者に支払い猶予頼むの苦労したんだよ。
一度は許すが二度支払を怠ったら容赦はしないぜ。僕は血も涙もないからね」

そう言いながら啓介君はにっこり笑った。
それが血も涙もない人の笑顔ですか。
あたしはもう泣きそうだった。



あたしは最近はよく学校ではJ君とご飯を食べる。
でも、その前に一つだけ確かめることがあった。
「J君。この前好きって言ってくれたよね。その返事をしたいの」
「う、うん」
「ごめんなさい。あたしは他に好きな人がいるから。だから、応えられないの。
ごめんね」
「そっか…あのお兄さん?」
「うん。啓介君にとっては、あたしはまだまだ手のかかる子供だけどね。
でも…なんだろう、一緒にいると、暖かいの。
好き…っていうのは、変かも知れない。
そう、「家族」って啓介君は言ってくれた。家族。あたしの家族」

「家族っていいよね」
「ああ、俺もそう思うよ」

あたしには、味方が、いっぱいいる。
それがこんなに暖かいことなんて、知らなかった。



その後順調に弁済が進んで全額弁済、再生計画も無事終了。
J君の家は二代目が営業をやりながらどんどん業績を伸ばしていったという。

抵当権は8番まで抹消。あとのこり12個。



(´・ω・`)民法関係ねー
(´・ω・`)次は不動産収益執行あたりか

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2006年05月06日

もう一つの動産売買先取特権。

肩が痛い。肩こりという概念は持ちたくなかったのだが。
帰って筋肉痛の薬を塗るのが楽しみ。効き過ぎます。


−もう一つの(´・ω・`)民法−

【動産売買先取特権】

ピンチだ。米がなくなりそうだ。
人間食料が無くなるとどうにもならない。
人は債権や有価証券のみにて生きるにあらず。
「米がなければお寿司を食べればいいじゃないー」
伊織はのんきにプレステ(使用承諾ある質物)をやっている。
こんなわがまま姫まで養わなきゃいけない僕はどうすればいいのだ。
そんなわけで僕は亡きAさんの資産表を眺めるのだった。

「む…ベーグル売りのH子…売掛代金債権300万…無担保…」
どうやらAさんは、自動車金融であくどく手に入れた車を
売っていたたらしい。その車を改造してH子は営業しているようだ。
しかしまぁ無担保とは、Aさんもしょうもない。
まぁ、自然人債務者なんてそんなものか。
債権表を見ていると、月々5万ずつ返すことになっているみたいだ。
Aさんが亡くなったりで返していないのではないか。
「よし、ちょっと米を買うために代金回収にでもいってくるか」
貸金業も、大変だ。



そのベーグル屋はトラックを改造したお店で、
郊外のデパートの入り口付近のテラスでやっていた。
最近のベーグルブームのおかげか、OLや学生でにぎわっていた。
「なんだ、これなら無担保でもいいかもな」
僕は安心して、その後図書館で刑訴法をやったあと、夜に再び訪れることにした。

そして夜。
「すいません、もう閉店なんですがー」
H子ははきはきとして綺麗な子だった。年は20歳くらいか、僕より若い。
「あー…その、なんですか、言いにくいのだけど、回収屋です」
「えっ?!」
僕は事情を説明した。

「そうだったんですか、Aさんお亡くなりになったんですか。
なかなか私みたいな収入の不安定な人間はお金が借りられませんでしてね。
そんななかでAさんはお持ちだった車を譲ってくださったんです。
月々の払いもそんなに高くなくて、感謝しています」
きっと利息制限法の脱法だと思ったが、それは黙っていることにした。
もっとも所有権留保もくっついていないとすると、いささか失当だろう。
出所が怪しい車だっただけに、とっとと即時取得させたかったのかもしれない。
(※登録自動車の即時取得はないんじゃ? という突っ込みはご勘弁)
「はい、これ、先月の分と合わせて10万円です。
あ、あと、これ、残ったパンで合わせて作ったのですけど、良ければどうぞ!」
「どうもありがとう」
もちもち美味しいという概念は僕には分からないけど、美味いのは分かる。
確かに、行列ができるのも分かる気がした。

それから、僕はしばしばH子の店に行くようになり、
テラスでカズユキ等を読んでいることが多くなった。
僕は自分のことをH子に話すようになり、
H子も自分の夢やベーグル屋の楽しさを語ってくれた。
僕はその時間が楽しかった。
H子の店に行ったとき、いつもうるさい伊織がおとなしくしているのに、
僕はなかなか気がつかなかった。
そんなある日。


夕方に行ってみると、車の前で男とH子が話しているのが見えた。
「頼むよH子〜。今度またライヴがあってさぁ。何かと金が要るんだよ。
もうすぐ、もうすぐCD出してもらえるんだよ、頼むぜ」
「うん。分かってる。少ないけど…」
H子はレジスターから札を何枚か出して封筒に入れているのが見えた。
「ひょー! 助かる、助かるぜ! 俺がビックになったら、
お前を楽にさせてやるからよー!」
男は封筒を受け取ると振り向きもせず小走りに去っていった。
「あ…」
そして僕はH子と目が合ってしまった。気まずい。
「すいません。お恥ずかしいところを。その…見た通りです」
「彼氏?」
「ええ、まぁ。そうなのかな。彼、夢がある人だから」
僕にはとてもそうは見えなかった。夢がある人間ってのは、目が違うんだ。
「まぁ、それはともかくね。いいのかい、大事な売り上げを」
「す、すいません、今日返済の日でしたよね、ごめんなさい…」
「いや、それはいいんだけどさ…」
「もう少し、もう少し待ってもらえますか、必ず返しますから」
ぺこぺこ頭を下げるH子を見ていると、僕は何やら寂しかった。


そして帰宅。
テーブルの上には真っ白の酢飯と…すし太郎が乗っかっていた。
「なんだこれは…」
「何って、お寿司。啓介君がちゃんと回収してくれないから、
お金がなくて食べられないの。だから、こういうお寿司なの」
「すまんすまん、ひもじい思いさせたな」
「違うの! もう、そうじゃなくて! 啓介君が女の所にいりびたりなんだもん!
あたしがいるのに、構ってくれないんだもん…」
つまりこれは嫌がらせか。
「別にそんなんじゃないよ。そんなんじゃ…」
「じゃあなんで取ってこないのよお金! いつもの啓介君なら
何事もなかったかのように持ってくるのに!」
それは確かに否定できなかった。僕はH子から取り立てるのができなかった。
「啓介君なんて大嫌い!」
伊織はすし太郎を僕に投げつけると寝室に走っていってしまった。
…でもそれでも、ご飯はきちんと、酢飯になっていて、それだけで美味しかった。
僕の心のどこかが、ズキリと痛んだ。


そんなある日、僕は図書館で勉強をしていた。
するとあの男、そうH子の彼氏か…が何やら女と話していた。
違う女だ。けばけばしていてギャルギャルしている。
外のベンチで借りたのであろう雑誌を読んでいた。あ、『月刊自家用車』だ。
「まじでー。α君レクサスSC買うのー。マジすごくなーい」
「まぁな! かっけえだろ! ソアラがレクサスでセレブだぜ!」
「でもお、そういうのって、すごい頭金とかかかるんじゃなーい?」
「なに、俺には良い金蔓がいてよー。結構これがイケるのよ。
それでもう100万くらいたまってさぁ。
バンドに使うからとか言ったら信じちゃって、マジアホかっての。
んでこの前まとまった金を出させてよ。借金漬けなのに哀れだねぇ。
ま、返せなくても金貸しが悪いんだけどな!
そろそろあの女ともおさらばして、お前に乗り換えちゃうけどなー」
「えーやだあーギャハハ」

さてと。よくありがちなこととはいえ大いに殺意を覚えた僕だが、
ここで手持ちの新堂幸司『新民事訴訟法』の角で奴をぶん殴るわけにもいかず。
とりあえずH子の所へ行ってみることにした。



そこには。

「あんたねぇ、ベーグルだかグーグルだか知らないけど、
あたしの啓介君を取らないで!」
伊織だ。人がじろじろ見て笑っている。でも伊織は気にもとめていなかった。
「ふん。何を子供が。お馬鹿ね。これだから貸金屋の娘は」
…遠巻きに見ている人々には聞こえない言葉だっただろう。
しかし僕ははっきりと聞こえてしまった。
「あたしが何だろうと汚いことお父さんがやってようとどうでもいいわよ。
見下したきゃ見下せばいいじゃない。そんなのどうってことないわ。
でもね、啓介君はあたしにとって大事な人なの。誰にも取られたくないの。
確かに啓介君はわたしのこと面倒な奴としか思ってないかも知れない。
だけどあたしにはたった一人の頼れる人なの!」
「だからってお子様恋愛? 可愛いわね。でも彼は私を好きになりかけてる。
だからお金も回収できないの。待ってって頼んだら素直に待ってくれたわ。
で、私は今は一銭も手持ちがないわ。不如意最強! おあいにく様ね」
「あたしは…どうでもいいっ! 
啓介君を…啓介君だけは…馬鹿にしないでっ…!」
伊織はテラスの椅子を持ち上げて振り下ろそうとする。
その脚をひょいとつまんだ。

「どんなときでも自力執行はいけないぞ、伊織」
「啓介君っ!」
「あっ! …聞いてた…の…」
「まぁね。確かに僕はちょっと君が好きになりかけていたよ。
試験に失敗したりで落ち込んでいたし友達もいなかったからね。
それで自分の為すべきことを見失っていたんだな」
「ふん! 今更強がったって、ダサイわよ」
「いやもうなじられようと過去の経歴からして痛くもかゆくもないね。
それより恥じるは自分の為すべきを為さざること。
債権は伊織の財産だった。それを僕は管理する義務がある。
(後見人は財産について包括的代理権 第859条1項 
後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。)
それを回収しないと言うのは自分の感情という利益のためにそれを為さざること。
いわば利益相反。僕にはなし得ない。カントクに頼むことだ。
(後見監督人がいるときはその人が利益相反の代表 第860条 
第826条の規定は、後見人について準用する。ただし、後見監督人がある場合は、この限りでない。)

絶対にやってはいけないことだった。
さあ、払ってない分、今すぐ払ってもらおうかH子」

「ふんっ! 聞いていた通り、お金なんて無いわ」
「なるほどそうか。んじゃこの車をもらっていこう。
Aさんのおかげでこの車は真正売買でね。
かろうじて担保の欠片が残っていたのさ。くらえ! 先取特権!」
(動産を巡る最後の戦い・代価及び利息について動産にかかっていく 第321条 
動産の売買の先取特権は、動産の代価及びその利息に関し、その動産について存在する。)

「あらあら、残念ねぇ。よく見てよ回収屋さん」
H子はベーグル車の上部を指さした。
そこには「γ(電話番号○○−○○)が買い取りました」とプレートが。
「残念。これはもう他人のものなの。だからそれは空振りよ」
「しまったっ! 引き渡されたのかっ!」
(動産売買先取特権は引渡で消滅する 第333条 
先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。
  +
「引渡」はこのような占有改定でもOKとなる、つまり債務者の手元にあるままに)


「啓介君、頑張って!」
「分かってる!」
よし。γに電話をかけよう。
「もしもし、あなたはH子から車を買いましたか? もうお金は払いました?」
「えーそうですよー。でもお金はまだ払ってません、高いから」
「ならば! 物上代位のためにその売掛債権差押えだっ! その対価もらった!」
(動産売買先取特権の切り札 物上代位 第304条1項 
先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。)

「ほーほっほっほ! 甘いわねぇ回収屋さん!」
「なに?!」
「あーもしもしγですけど。H子さんから内容証明郵便で
『この債権はδに譲渡した』って通知が来ましたよ」
「しまった…!」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

304条1項の「差押え」の意義については、抵当権と先取特権では異なる。
基本は財産の混入を防ぐのと第三債務者が弁済してしまうの防ぐのだが、
公示のある抵当権は抵当権の力を強く認めて良いとして、
公示のない先取特権は強く認めるわけにはいかず、
債権の譲受人をも十分保護する必要がある。そのための差押えとなる。
そこで、対抗要件を備えた債権譲渡がされたあとは、
もはや304条1項の「払渡」があったと見て、物上代位も消滅するのだ。
(これは抵当権とは違う。抵当権は債権譲渡があってもその人に弁済して文字通り債権が消えるまではOK)


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「ふふ。こう見えても私、内田3を読んだことがあるのよ。
残念だったわね。そして今は私はお金もないの。
ここにある車以外の動産は、所詮執行代倒れよ」
「つ、強い…!」
伊織は泣きそうになっている。確かに無資力無担保はこの業界で最強だ。
「…それでH子。その、債権を売ったお金はどうしたんだ。
何故、急にお金が必要になった」
「あらあら、あきらめたの? じゃあ教えてあげる。
彼が、今度こそ会場を借り切ってライブをすると言うから、
どうしてもまとまったお金が必要になったので、債権にして売ったのよ。
こうすればあなた達には手が出ないからね」
「そうかライブか。レクサスライブだけどな」
「何を言っているの…?」
「ま、こういうわけさ」

僕は図書館で見たありのままを話した。

「そ、そんな!」
「僕らを出し抜いて得たお金は、かくてソアラの頭金になる」
「錯誤よ! そんなの知らなかったわ! 彼のためになると思って…!」
「内田は1も読んでおいた方が良いぞ。それは動機の錯誤だ。
それは錯誤無効にならない。
表示でもされていれば錯誤になりうるだろうけど、どっちみち重大な過失ありだ」
(重過失は錯誤を主張できない 第95条 
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。)

みるみるとH子の気勢がそがれていく。
「そんな…取り戻しも…できないだなんて…」
(※詐欺取消も可能かも知れませんが、おいといてください)

「いや、一つだけ取り戻す方法があるよ」
「ど、どうすればいいの?」
「君は取消ができないけど、僕にならできる。
君がやった贈与は、とんでもなく財産を減少させてくれたからね。
君は今や債務超過だ。そうすると、詐害行為取消ができる。
君は金がないことも向こうは知っていただろうし、
金貸しという債権者を害すことも知っていた。
(要件は詐害行為+害意+相手方悪意(これは消極要件) 第424条1項 
債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。)

だったら、取消ができるよ」
「それよ! お願い、それをしてちょうだい!」

僕は自称彼氏αに対して、訴えを起こした。
(424条はかならず「訴え」であること。抗弁とかも一切ダメ)
効力は取消+請求である。贈与したものをよこせ。
「ギニャー! 俺の金が取り消されて回収されていくううう!!」 
そしてH子が貢いだ金は僕の手元に来た。
そう、詐害行為取消で、金銭と動産は債務者が受け取らないという理由で、
取消債権者に直接交付させられるのだ。

「あ、ありがとう、助かったわあんな男に騙されて…。
全財産貢いでしまったなんて…」
「ああ、これはH子のものだからね。返さなきゃね」
H子はほっとした様子だった。



「じゃあ、相殺するね」
ジャキーーーーーーン!
僕はH子への貸付債権とH子への返還債務を対当額で相殺する!
これが債権者平等をあげるはずの、詐害行為取消権の真の力。事実上の優先弁済力!
「そ、そんなっ!!」
債務が消滅した以上、この現金を返す必要はない。
「では、これはもらっていくよ。さらば」
「酷い! どうしてよ! こんな金がない女からむしり取るの! 鬼畜!」
「あいにく、金がないところからむしりとるのが債権回収の全てでね。
なじられようがけなされようが傷つく心なんか持っちゃいないよ。
さ、帰ろう伊織。すし太郎はともかく、回っているやつでよければ、食べようか」
「け、啓介君…」
「わ、私よりそんな小娘のために?! どこがいいのよ、○リコン!」

僕は深くため息をついた。
「君は一つやってはいけないことをした。
確かに僕は後見人だ。伊織を守る義務がある。
でもそれ以上に、僕は伊織の、家族だ。
家族を傷つけられたからには、許すつもりは、ない」
「…!」

呆然としている伊織の手を引いて、僕はその場を去った。
ベーグルカーは売られたまま、あとは破産を待つのみか。
いずれにせよ、僕にはもう、関係ないことであった。



帰り道。

「…ごめんね啓介君。いつだってあたし甘えているの分かってる。
でもね、あたしには啓介君しかいないんだ。
お父さんもお母さんもいない…」
「みなまで言うな。僕も似たようなもんだよ」

僕は、寂しかったのかも知れない。
だからこそ、こうして親族ではあるが直接には関わりのない伊織と。
家族ごっこをやっていたのかもしれない。
でも、それが「ごっこ」と言えるべきものなのか。
家族とは、本当は何なのだろう?
民法が規定する外側に、本当の家族があるのではないか。
婚姻もない。相続もない。ただの後見人と被後見人。
それだけでは語り尽くせない、暖かいもの。
それは、これから、作っていくものだった。



(´・ω・`)長すぎてすいません
(´・ω・`)次回は譲渡担保あたりを

eiji_inose at 02:36|PermalinkComments(4)TrackBack(0)

2006年04月30日

もう一つの相隣関係。

眠くてどうにもなりません。

『ロースクール倒産法』が思った以上に手強くて、
15ユニットあるのですが一日二つ進めるのが精一杯です。
まぁ上級シリーズの予習をしていた昔を思えば、そんなものでしょうか。
でも今日までに賃貸借や担保権、否認といったメインはクリアして、
明日相殺を終わらせる予定なので、まぁヤマは越えそうだなぁと。

手形・小切手はこの世に存在しないことにしたいです。
論文では出さないだろうと固く信じていますが、
勝手に信じているだけではやはり不安なのでどうしようかと思っていたところ、
棚を見たら昔買ったCブックがあるじゃないか!
手形なんて新しい判例もそうはないだろうし、これでいこうかと。通説通説。
二段階創造説も一時頑張って理解しようとしましたが、結局へたれた。
ただ頑張っても択一で一個出るだけとかだと切ないし、知識が十分じゃないから
その択一もできない可能性が大きい罠。泣ける。

そうそう、落合他『商法1』はやっぱり非常に良かったです。
理由付けがしっかり書いてありますからね。
消費者契約法や割賦販売法などを除けば200頁もないし、
試験前に商法をちょっとのばすにはちょうど良いと思います。
リーガルマインドとか葬り去って良いです。
落合先生は独自色を出しすぎることなく控えめに熱いです。


−もう一つの(´・ω・`)民法−

【相隣関係】

真夜中の街。
剣の英雄たる鎧の女と騎手の英雄たるペガサスに乗った女が戦っている。
本来ビルの上で戦うのだが何かの手違いで平地で戦うことになってしまったらしい。
いよいよ終幕、ペガサスが低空で突撃する。空中からだと建物が邪魔なのだ。
建物所有権に気を遣うのも英雄の勤めである。
やむを得ず鎧の女は大量破壊兵器を使用せざるを得ない。
「約束された勝利の剣(えくすかりばー)ーーーーー!!」
横に振り払うと地上をなぎ払ってしまうので、国道に沿って縦に使用した。
これも建物維持に気を遣う日本に呼び出された英雄ならではの発想である。
そんなわけで、世界一有名な剣をまともに受けた道路は。


「玄関を開けると、そこは崖だった。」
今日の僕は、実に文学青年になった気分だ。
一体何が起こったのか、玄関に面していた国道はごっそりとえぐられていた。
あちこちで水道管がぷしゅーぷしゅー言ってる。
ちょっとあまりに距離がありすぎて、修復は困難であると思われた。
こんなんでスピスピ寝ていた僕も僕だが。

「……………それにしたって、漫画すぎる展開よね」
僕より寝坊のお姫様も現れた。
ふ。ブログは小説よりも奇なりと言うではないか。
奇なのは作者の脳だけだ、と言う突っ込みは歓迎する。

「とりあえず、買い物に行ってくるよ」
僕は道と反対側だったFさんの家にヒョーイと乗り込んだ。
「な、なにをするアルか! 住居侵入既遂アルよ!」
当然こうなるが。
「すいませんねぇ。公道に出られないときは、
お宅の土地を通らせていただけるんですよ。
普通は囲繞地の話なんですが、崖や河川のときもアリでしてね」
(隣地通行権 他の土地に囲まれているとき・河川や崖けもあり 第210条 
1項 他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。
2 池沼、河川、水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖があって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。)
まぁそんなわけで、当然に通してもらいますよ。
(所有権の内在的制約で公示も要らない、所有土地の登記だって不要)
「く、くうう。それは仕方ないアル。
しかし、家の中堂々と歩くのは困るアル。
通路を造っても良いが庭の端を歩くアル!」
(もっとも損害が少ない場所を通行 ただし通路は開設できる 第211条 
1 前条の場合には、通行の場所及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
2 前条の規定による通行権を有する者は、必要があるときは、通路を開設することができる。)

「ありがとうございます。所有権分割で生じた崖じゃありませんから、
Fさんに責任はありません。お代はちゃんと払いますから。
ただし今は文無しなのでまた来年ですがねー」
(所有権分割で囲繞したときはお代はいらないがそこしか通れない 第213条 
分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場合においては、償金を支払うことを要しない。
 +
それ以外の場合は償金を支払い ただし1年ごとでよい 第212条 
第210条の規定による通行権を有する者は、その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならない。ただし、通路の開設のために生じた損害に対するものを除き、1年ごとにその償金を支払うことができる。)

「くうう! 実に迷惑な話アル!」
「さも、ありなん」




※相隣関係で択一出る条文はこれくらいかと。
あとは条文は水流や建築についての細かいことなどです。
伸びてきた枝は切除させるだけだが根は切除して良い、とかトリビアでしょうか。
(第233条 
1 隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。)




【地役権】

「ぶー。あのFさん毎日毎日アルアルうるさいの。
いつもできたて餃子食べていけだの焼売焼きたてだの。太っちゃうわ。
なぜだか気に入られちゃったみたい」
「いつも生協の貧しい食生活の受験生からすると泣きたくなるコメントだな」
「でも、学校に行くのは反対側だから、ちょっと困るわ。
それに、荷物の運び込みとかで車を入れられないのも、大変」
確かにそうなのだ。質物等を保管している倉庫が隣接しているが、
さすがに大量の物は車でないと運べない。
そうそう車をゲットした。それについては今度話そう。
(→「もう一つのフルペイアウト方式ファイナンスリース」、を書けたなら)
「それもそうだな。じゃあ、もう一つのお隣のGさんに交渉してみよう」

僕はGさんと交渉して、通行地役権をA家土地に設定してもらうことにした。
地役権は土地の所有権と不可分であり、仮にA家土地が売られてしまったときでも
くっついていく。そんなわけで、用意しておく意味は大きい。
(地役権は要役地の所有権の運命に従う 第281条 
1地役権は、要役地(地役権者の土地であって、他人の土地から便益を受けるものをいう。以下同じ。)の所有権に従たるものとして、その所有権とともに移転し、又は要役地について存する他の権利の目的となるものとする。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
2 地役権は、要役地から分離して譲り渡し、又は他の権利の目的とすることができない。)


仮にA家敷地のうち不要な部分、例えば倉庫の部分の土地を分割して売っても、
通行するって言うのは性質上家にも倉庫にも必要なわけであって、
倉庫の土地を買った人にも通行権はちゃんとくっついていく。
(元々であれ後発的であれ、地役権はそれぞれについて存在する 第282条 
1 土地の共有者の一人は、その持分につき、その土地のために又はその土地について存する地役権を消滅させることができない。
2 土地の分割又はその一部の譲渡の場合には、地役権は、その各部のために又はその各部について存する。ただし、地役権がその性質により土地の一部のみに関するときは、この限りでない。)



まぁそんなわけで、色々便利なのだ地役権は。
ちなみに、通行地役権ができた以上はもはや囲繞地でないので、
相隣関係は消滅する。Fさんさようなら。でも餃子は欲しいぜ。


「しかしなぁ。Gさんも徒歩通行は認めてくれたけど、
さすがに車での通行は認めてくれなかったよ。そりゃそうだよね」
「あらあら。それは残念ねぇ」
伊織が不敵に笑った意図は、僕にはさっぱり分からなかった。

その後、伊織とGさんが話しているのを、僕は何回かみかけた。




「啓介君! たぶん、もう車で通っても、大丈夫よ」
「え、いいのかい? なら、そうするか」

ブロロロロー

「こらー! 人の庭を勝手に車で走るなー!」
「やべ! やっぱりダメじゃん!」
伊織は黙って助手席を降りると、Gさんの元へ、そして下から見上げるように。
にこり、と笑う。
Gさんは、その瞳に魅入られて、金縛りにあってしまう。
腕が震える、心臓が破裂しそうになる。ドクン。

世に眼力という言葉がある。
しかし、今やその単語は化粧等で魅力を底上げする文脈で使われることが多い。
だがあなたは知っているだろうか。
その「眼」だけで人を、理論を通り越して屈服させてしまう者がいることを。
わき上がるもの好きとか可愛いとかそういった感情ではない。
「是」、絶対的肯定。ここにあるものが真実である。
欲しい。知りたい。それは人であるものではない。
つー、と手が伸びる。
伊織はその手を軽くのけて、甘い息で囁く。

「なら、ずうっとそこで見ていなさい…」
びくんと脳が反応する。それは絶対的強制というに等しい。
これがAの言う伊織の「変わっている」ところであった。
伊織は、自分「能力」の使い方を知り尽くしていた。




「? 何をやっているんだ?」
新しい車はこれまたエンジンがうるさいので、よく聞こえなかった。
しばらくすると伊織が戻ってきた。
「いいみたいだよ、啓介君」
確かにGさんは突っ立って何も言わない。納得してくれたのだろうか。
「よーし。じゃあ行こうか。ついでだから今日は学校に迎えに行ってやるよ」

ブロロロー

帰宅途中でもGさんは僕らの車を黙って見ていた。
「通して…くれるみたいだな。黙認?」
「そうね。毎日こうして継続的に使っていれば、明々白々なんだし、
そのうち既成事実になるわよ」
(地役権の時効取得は継続+外形上認識可能が要件 第283条 
地役権は、継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものに限り、時効によって取得することができる。)

「いつの話だよ(笑)。だいたい、登記もしなきゃだぞそれ。
Gさんが土地を売ったりしたら、さすがに登記無いと地役権は飛ぶしさ」
(177条の問題になる。承役地の譲受人に対しては登記が必要)
「でも、こんなに毎日堂々と通っていれば、そうも言えないでしょう。
さすがに登記簿だけ見て買い物したら、馬鹿として面倒見られないわ。
だから安心よ」
(通路の継続的使用の事実が客観的に明らか+それが譲受人に認識可能のとき、
譲受人は善意であっても177条の「第三者」に当たらない)



「にしても啓介君! あたしの彼氏なんだから、もっとラブラブしなさいよ。
今日はお寿司食べたいー」
「だからその契約にはどういう意味があるんだー! 全くもう。
大人をからかってはいかんよ」
「くうう…どうして、どうして、あたしがこんなに言っているのに…!」
「ははは、伊織はまだまだ子供だな。そう言って、またわがまま言おうってんだろ。
まぁまぁ、そのふくれっ面も可愛いから良いけどな。ぷにゅっ。
そんなんじゃ本当に彼氏なんてできないぞー」
「知らないっ! 一人ですし太郎でも作って食べてやるんだから!」

そう言う内心で、でもちょっとドキドキしていたのは事実だ。
こんな子供の言うことだから、どうでも良いとは思うのだが。
だって可愛いのだ。仕方ないじゃないか。
わがままお姫様だって大事にしたくなっちゃうのだ。
全く。倍近く年が離れているというのになんなんだか。




ところで、車で通るたびに、Gさんは庭に出て僕らを見ていた。
雨の日も「ずっと」見ていた気がする。
そのうち道路が補修されて崖じゃなくなり、
Gさんのところを通らなくて良くなったので、
そのことが異常であることには、何ら気がつかなかった。
僕は、そのことに、もう少し早く気がつくべきだったのかも、しれない。



(´・ω・`)ああああもうダメだゴミネタだ
(´・ω・`)短時間で勢いよくフェチワールドを書くのは難しい
(´・ω・`)次回は先取特権とか書ければいいな

eiji_inose at 03:14|PermalinkComments(2)TrackBack(0)

2006年04月28日

もう一つの不動産質権。

試験までに残念ながら債権回収編は終わりませんね。
一ヶ月早くはじめれば良かった。
「もう一つの流動型集合動産譲渡担保」、とかすごいタイトルを書きたかったのに。
無念です。


【不動産質】

「ふわー。疲れた」
さすがに毎日勉強ばかりすると疲れてくる。
先が見えないのも辛いところだ。
体を壊すとそこで脱落というのもキツイ。
極力精神をフラットに、しかし時間も必要。不可能ですぜ。
「だったら、啓介君、気分転換に別荘に行かない?」
「おお、そんなものがあったのか」
「うん! お父さんの財産目録にあったよ!」


『事業に失敗して夜逃げした弟の連帯保証人になっていた兄!
軽井沢の別荘に不動産質権あり、利用可』


「………家族捨てても保証人にだけはなるな、だな」
「でも、これまた質物だけど勝手に使って良いの? 留置権と同じなのでは?」
「あーいや、不動産質は特別なんだ。
確かに質である以上は効力要件として引渡は必要なんだよ。
(要物性 第344条 
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。)

それで原則通り債務者が占有するのも禁止だ。
(代理占有の禁止 第345条 
質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。)


動産質は対抗要件が占有継続なので、別荘みたいにほったらかしにするわけにも
いかないんだが、
(動産質は占有を失うと第三者対抗要件が無くなる 第352条 
動産質権者は、継続して質物を占有しなければ、その質権をもって第三者に対抗することができない。)

不動産質は対抗要件が登記なので、登記さえすれば占有して無くても良いんだよ。
(抵当権とかなり似てる 第361条 
不動産質権については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、次章(抵当権)の規定を準用する。)

つまり一度引き渡してもらったあとは住み続けなくても良いんだ。

それで、ここがミソなんだが、質権者は使用収益できるんだな。
(不動産質権は使用収益可能 第356条 
不動産質権者は、質権の目的である不動産の用法に従い、その使用及び収益をすることができる。)

だから、承諾を得ないで使用しても消滅請求されることはないってわけ。
別荘に使うにはちょうど良いよね」
「へぇえ。でも、あんまり聞かないよね不動産質って。抵当権ばっかりだよ」
「あんまりうま味がないんだよ。
抵当権のメリットは債務者が使い続けることだからね。
本人が使わないような不動産は、まぁ売ったっていいんだよ。
あとは、質権者も、使用収益する変わりに管理費は払わせられるわ、
(管理費用の負担 第357条 
不動産質権者は、管理の費用を支払い、その他不動産に関する負担を負う。)

おまけに貸金には利子も付けられないだ、
(利息は約定がない限り請求できない 第358条 
不動産質権者は、その債権の利息を請求することができない。)

さんざんだよ」

「じゃあどうしてここでは質になっているのかしら?」
「たぶん、その連帯保証人兄はあまり別荘使わないから、抵当にしなくて良いし、
あとは管理費も結構かかるから、質権者に払ってもらった方が良かったんだろう。
お父さんは普通に使える別荘が欲しかったんじゃなかろうか」
「なんとなくわかるよーな気がする。
別荘って、買うのには何だけど、気軽に使えるのがあると、ちょうど良いよね」
「そういうこと。んじゃまぁ気晴らしに行ってきますか!」

エリーゼは売ってしまったので、電車とバスでごとんごとん。

「そうそう、不動産質の良いところは、収益できる以上人にも貸せることかな。
うちらが使わないときはロー生に合宿所として賃貸してしまおう。
どうせローの学生は3年の冬になるまでいかに自分がヤバイか気がつかないのだ」
「ものすごい後悔の念を感じます…」
「それで賃料、つまり果実は留置権や動産質権のときは利子や元本に
充当されちゃうんだけど、
(留置権と言えば果実ゲット 第297条(動産質権も第350条で準用) 
1 留置権者は、留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができる。
2 前項の果実は、まず債権の利息に充当し、なお残余があるときは元本に充当しなければならない。)

不動産質権はそういうことも特に書いてないから、充当する必要はないし、
債権そのままで賃料ウハウハだっていうのは、あるよね」
「こんなのが債権者じゃその連帯保証人たる兄さんも大変ねぇ…」

到着。

「おおっ! 結構広くて快適じゃないか。まるで御殿だ! 
六法忘れてしばらくのんびりするか」
「……ふふふ。別荘で二人っきり。今夜こそ迫って落としてみせるわっ」
「ん? 何か言った?」
「ううん! 何でもない! さーてテニスでもやりますか」
「別荘らしくなってきたねー」


なお、別荘はとある学者の所有だったとか、今となっては知るよしもなし。
啓介は無情にも、弁済期後はとっとと競売して叩き売ってしまったのだった。
(第361条で抵当権を準用
競売も不動産収益執行も可能)



5番目の抵当権を抹消 あとのこり15個


(´・ω・`)権利質ネタは思いつかないので保留
(´・ω・`)次回は相隣関係の予定
(´;ω;`)自分でもネタのキレがないのがよく分かる、ごめんなさい

eiji_inose at 02:08|PermalinkComments(2)TrackBack(0)

2006年04月27日

もう一つの動産質。

眠い、む、無念…。今日は動産質だけ。
あ、皆様、よろしければ(´・ω・`)民法シリーズ、感想下さいね。
調子に乗って感想の投稿数だけ書きまくるかもしれませんよ。
でも今はネタが枯渇中。
今予定があるのは質権(動産・不動産)と相隣関係だけ。
妄想が加速しなくて難しいです。

Road to 300はいけるのだろうか。
辰巳全国模試は274で終わった。280届かなかったか…。
他のローにも負けているし自分にも負けた、悔しい。
最近択一の知識がボロボロ低下している気がする。
TKCまでにちょっとドーピング用判例六法読みが効くかどうか。
商法もなんとか落合他『商法I』を読みたいものです。


−もう一つの(´・ω・`)民法−

【動産質】

「え、授業料払う現金がない?」
伊織が珍しくモジモジしているから問いただしてみたら、とんでもないことが発覚。
伊織は制服が似合う中学生。しかし元々金持ちだっただけに私学に通ってる。
引き落としが迫っていた。
「弁済とかやっているうちに今月はお金が無くって…」
「当然のように僕にもお金がない。しまった…」
「あたしがバイトするよ!」
「不許可」
(未成年後見人は親権者と同一の権利義務 第857条 
未成年後見人は、第820条から第823条までに規定する事項について、親権を行う者と同一の権利義務を有する。ただし、親権を行う者が定めた教育の方法及び居所を変更し、未成年被後見人を懲戒場に入れ、営業を許可し、その許可を取り消し、又はこれを制限するには、未成年後見監督人があるときは、その同意を得なければならない。
  +
親権者は職業の許可 第823条 
子は、親権を行う者の許可を得なければ、職業を営むことができない。)

「な、なんでぇ?!」
「色々労働法の問題もあるし、それを置いても若いくせに働くな。
時間を惜しんで勉強するなり遊ぶなりしろ。
くだらない搾取型賃金労働に時間を費やすんじゃない」
「う、うん」
「まあ待ってろ、なんとかするから。任せておきな」


「な、なによ…。あいつったら、大人って感じで、ちょっとカッコイイじゃん…。
それなのにどーして落とせないのか…「コレ」が効かないのかしらね…」
ぶつぶつ良いながら伊織は電子レンジの前で腕組みをする。
「作戦を変えて正攻法。ケーキでも焼いて可愛らしいところ見せてやる。
今まで酷い目にあってきたからきっとこういう王道系に弱いに違いないわ」

チーン

「啓介君! 見てみてケーキ焼いてみ…」
無断で啓介の部屋を空けた伊織は目を丸くした。ぼとり。ケーキも落とした。
ずらりと並ぶドールの数々。
そこで啓介は居並ぶドールを満足そうに見ていた。
「なななななななな何をやってるのあたしというものがありながら!」
「げ」
「酷い! つれないと思ったら二次元に生きていただなんて!」
「ドールだから三次元…じゃなくてだな! 落ち着け! これは質物だ!」
「え?」
「動産を担保化する方法は二つある。
一つは占有をそのまま持っておく譲渡担保だな。
もう一つは古典的だが、こうして占有を移すことを絶対効力要件とする質権。
(効力要件として引渡が必要 第344条 
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。
 +
債務者が占有することは禁止 第345条 
質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。)

譲渡担保は最近何かとやりやすくはなっているのだが、
いつ即時取得でぶんどられるかわからん、
特にこの手の美品を要求するものはプレートをつけて第三者を悪意にすることは
できないしさ。
(即時取得は善意無過失 第192条 
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。)

そうするとこうやって占有ニギニギしているのが一番ってわけよ。
コレ全部お父さんの倉庫にあったよ」

「お、お父さんこんなマニアックなものを質に取っていたのね…」
「物事万事担保が大事、取れるものは取っておくべきさ」
「って、並べてなにしてたのよHENTAI!
何に使うつもり?! とても公共に言えないことに使うつもりね!」
「つかわねぇよ!(泣)
使ったら留置権と同じく消滅請求されちまうよ。美品が命だから承諾はないし。
(第350条 
第296条から第300条まで及び第304条の規定は、質権について準用する。
  +
第298条 
1 留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。
2 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。
3 留置権者が前2項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。)

幸い留置権と違って担保提供で消されるってことはないから、
(第350条は留置権の第301条を準用せず)
全部弁済されるまではキープできるんだよ。
(第350条で準用+第296条 不可分性 
留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部についてその権利を行使することができる。)

これを何とか使って金をかき集めようと思ってさ」

「あ…あたしの学費のために…」
「働かないでファイナンスって発想が法務博士の考えだけどな。
で、普通質物はぼったくり防止のために質物の没収はプロ以外禁止で、
(流質契約の禁止 第349条 
質権設定者は、設定行為又は債務の弁済期前の契約において、質権者に弁済として質物の所有権を取得させ、その他法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約することができない。)

もちろん弁済期後に代物弁済で改めてもらうのは良いんだが、
(第349条は弁済期「前」の契約のみ禁止)
このドール群代物弁済してもらってもしょうがなくてさ」

「ま、まぁねぇ…でもドールマニアが手放すかしら?」
「換価しにくい動産については債務者に「もうやっちゃうからね!」って連絡して
裁判所に頼んで代物弁済することことができるんだ」
(通知して「正当な理由」があれば裁判所に請求して充当できる 第354条
動産質権者は、その債権の弁済を受けないときは、正当な理由がある場合に限り、鑑定人の評価に従い質物をもって直ちに弁済に充てることを裁判所に請求することができる。この場合において、動産質権者は、あらかじめ、その請求をする旨を債務者に通知しなければならない。)

「実はえげつないのね質権って」
「占有ニギニギだからね、かなり強いんだよ。
ただ今回はさ、ドール貰っても売り方が分からなくてさ。
抵当権とかと違って僕にもさすがにドール売りはやったことがない」
「抵当権を実行したことがある26歳も珍しいと思うけど…」

「そこで考えたのは、これまとめて転質に出そうかと。
質権っておもしろくて、同意が無くても質に取ったものまた質にできるの。
これをオタクに質に出してオタ資金をファイナンスするわけだ。
そのオタクはいざというときは実行してドール取れるわけだから貸してくれるよ」
(責任転質は不可抗力でも免責されない替わりに可能 第348条 
質権者は、その権利の存続期間内において、自己の責任で、質物について、転質をすることができる。この場合において、転質をしたことによって生じた損失については、不可抗力によるものであっても、その責任を負う。)

「でも、人様のもの勝手に質に出して良いの?
留置権と同じなら担保に使ったら消滅請求されちゃうのでは?」
「それは例外ってことになっているんだが、どうして良いかは謎でさ。
通説は質物質入説だが、確かにそりゃ横領だよね。
しかも原債権の弁済による消滅を防ぐために
原債務者には供託させ、債権質の367条3項を類推するとされるが、
(第367条3項 
前項の債権の弁済期が質権者の債権の弁済期前に到来したときは、質権者は、第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができる。この場合において、質権は、その供託金について存在する。)

ただ何故類推か分からないし、質権そのものの移転と言った方がいいかもしれない。
起草者は解除条件付き質権譲渡だと言ったらしく、我妻先生に叩かれたらしいが、
僕はそれ良いと思う。久々に内田先生と感覚が合ったよ」
「(´@ω@`)目が回る」
「僕も全然分からないよ! とにかく不可抗力我慢すれば転質できるらしい」
「ドールに頼って学費ねぇ…」


とりあえず、オタファイナンスのおかげで学費は乗り切った。
その後無事に原債務者からお金が返ってきたので、
これをオタに回して弁済し、ドールを取り返し、そして原債務者に戻した。
債務者は泣いて喜んでいた。
これぞ占有を得て心理的に弁済を強制するという留置的効力の極みだ。
また一つ勉強になった。


「ってあたしのケーキ!」
廊下にべっちょりと落ちてしまった。
「うっ…ううっ…」
それは嘘泣きだと僕はとっくに知っていたけど。
ひょい、とつまんでモグモグと食べた。
「食べうべかしりときから3秒の時効にかかる3秒ルール」
「啓介君!? 普通は落ちたときから除斥期間の文脈なのでは?!」
「そんなの知らないね。伊織がせっかく作ってくれたんだ。ありがとうな」
だって、それは、素直に嬉しかったから。
伊織が何かをたくらんでいるにしても、そんなことは抜きにして、
ちゃんと僕には伊織が大事だったのだ。


(´・ω・`)不動産質・権利質に続く

eiji_inose at 02:35|PermalinkComments(4)TrackBack(0)

2006年04月26日

もう一つの留置権。

模試も終わってすっきり。
とりあえず手が破壊されたね。字が書けなくなる。
これ、どうしようもないですよねぇ。
ところで(´・ω・`)民法書くために条文ガリガリ読んでます。
あれほど苦痛だった条文素読も普通にできます。
ていうか六法がネタ帳にしか見えないんですが。
そんなこんなで、電車の中でヒマなとき、
新司法試験六法開いて民法をばーっと読んでいるHENTAIがここにいます。


−もう一つの(´・ω・`)民法−

【留置権】

僕は住んでいた賃貸アパートを引き払って伊織の家にやってきた。
別に同棲いいねヒューヒューとかそんなエロいことは全くない。
要するに、賃料がもう払えなかったという点に、尽きる。
幸いA家は空いている部屋はいくらでもあったので、そこに間借りさせてもらった。
二振法務博士の家計は限りなく苦しい。

A家の庭に置いてあるエリーゼでドライブで伊織と買い出しに出るのが好きだ。
普通の車のトランクがあるべき場所にトヨタ製のエンジンがあるので、
ほとんど物が積めないという致命的欠陥が、あるが。
「はーっ。金持ちはいいなぁ。こんな良い車があって」
「そうよねぇ。さすが、お金持ちよね。こんなのを持っているんだもの」
「? って、これ君のお父さんの所有物、今は相続して君のものだろう?」
「違うよ。お父さん良心的な自動車金融とかもやっていたから、
結構車とかを自分で扱うのに慣れていたのね。
債務不履行と同時に引き上げた車を自分で修理して売ったりさ。
で、そんなことやっているうちに有数の中古車修理屋さんになっちゃってね。
取引先のお金持ちのBさんから修理頼まれて修理して、
そのまま預かっているやつなの」
「そんなこともやっていたのか君のお父さん! 窃盗罪だって!(涙)」
「アハハハー。まぁまぁ。それは死んじゃったから問題なし。
で、それとは関係なく車のことだけど。
だってBさん修理代払ってくれないんだもん、だから返してあげないの」
「た、確かにそりゃ車そのものに関係ある、債権だけどさ…」
(牽連関係は「そのもの」からと「その取引で」の両方 第295条1項 
他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。)

「しかも、部品代とかあわせてたった50万円なのよ?
順調に20万円は払ってくれたのに、あと30万円払ってくれないの」
(全額弁済までは全く返さない・留置権の不可分性 第296条 
留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部についてその権利を行使することができる。)

「ひえええ。良心的自動車金融って一切信じられないが、
これは担保物じゃないんだな。
待てよ、そうすると勝手に使っちゃダメじゃないか!
留置物は勝手に使ったり貸したりすると、返せって請求されたとき対抗できない」
「大丈夫、それは使って良いって言われてるから」
(使用禁止の原則・それに違反すると留置権消滅の「請求」がくる 第298条 
1 留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。2 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。
3 留置権者が前2項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。)

「そ、そうだったのか…。しかし車は維持費もかかるし、面倒だね。
車検とか税金とかはそのまますぐに請求はできるんだが、
(必要費は直ちに償還  第299条1項 
留置権者は、留置物について必要費を支出したときは、所有者にその償還をさせることができる。)

改造とかしても全部請求できるわけじゃないし、
しかも裁判所が「支払マテヨ」って言うと、すぐには請求できないしさ。
(有益費は支出額or増加額を所有者が選択、裁判所による期限アリ 第299条2項
留置権者は、留置物について有益費を支出したときは、これによる価格の増加が現存する場合に限り、所有者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、裁判所は、所有者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。)

あんまり留置する意味はないよねぇ。それこそ承諾得て使うぐらいか」
「そうなのよ。車検とか税金とかあわせると、
なんだかんだで合計100万くらいたまっているかも」
「その車検もあわせて留置できるな」
(適法な占有時の必要費でこれもまた留置できる)

「でも、あたしはこうして啓介君とドライブできるだけも、楽しいな」
伊織は狭い車内で僕にしなだれかかる。
胸がぎゅっと押しつけられる。中学生のくせに発育いいじゃねぇか。
ドキドキ。いかん…理性が…。
「Bさんはお金に困ってもう破産だって言うし、
そうしたらお金も返せないし、ずーっと啓介君とこうしてドライブできるね」
伊織は僕の首筋にその細い白い手を吸い付かせ唇を寄せ…
「な、なんだってー!」
「ぎゃ! な、何よいいところで!」
「こうしちゃおれん! すぐにエリーゼ競売だ!」
「?!?!!?!?!!?」

理性覚醒。

「いいか伊織。留置権は、破産に脆いんだ。
そりゃあもう、ヒジョーに脆い。
商人等が持ってる商事留置権は、破産のときは何と優先権までついて残る。
(特別先取特権になった上で留置的効力も残る 破産法第66条1項 
破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき存する商法の規定による留置権は、破産財団に対しては特別の先取特権とみなす。)

ところがな。普通の留置権は、なんと無くなるんだ!
(破産法第66条3項 
第一項に規定するものを除き、破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき存する留置権は、破産財団に対してはその効力を失う。)

破産されたらえらいことだぞ。
ちなみにBさんは個人だから民事再生もありうるが、民事再生も同じ」
「そ、そうだったの…」
「それにね、留置権は持っているだけでは時効が進んじゃうから、
どっちみちずっと持っているわけにも行かないんだよ」
(債権を行使しないと時効が進む 第300条 
留置権の行使は、債権の消滅時効の進行を妨げない。)

「でも、競売って、そんなのできるの?
持っていてお金返さないと物も返さないぞと脅すだけが留置権じゃないの?」
「民法にはそう書いてあるんだが、執行法で裏技があってさ。
まず換価のための形式的競売ができてしまうんだ。
(留置権者に競売権アリ 民事執行法第195条  
留置権による競売及び民法 、商法 その他の法律の規定による換価のための競売については、担保権の実行としての競売の例による。)

まぁそれだけじゃ売るだけで、得た金は債務者に返さなきゃなんだけど、
その返済と、借金を相殺してしまうってわけさ。
相殺は一方的意思表示だけでできるので、担保の中でも最強クラスだからね。
これで優先権がもらえるって寸法よ。じゃあ早速競売にかけよう!」
「おー!」

リンリン

「Bです! エリーゼを競売にかけると聞きました!
お金はすぐには用意できませんが替わりに妻を保証人にします!
だからこれで留置権を消してください!」
(担保の供与による留置権の消滅は人的担保でもOK 第301条 
債務者は、相当の担保を供して、留置権の消滅を請求することができる。)

「…だってさ、啓介君、どうすればいい?」
「来たか。これだから動産質権と違って留置権はやっかいなんだ」
(質権はほとんど留置権を準用するが担保供与による消滅は準用せず 第350条 
第296条から第300条まで及び第304条の規定は、質権について準用する。←●301条が準用されていない●)

「えーん…。とうとうじゃあエリーゼとられちゃうんだ…」
「そうは問屋がおろさんぞ。いや商法上の問屋は卸じゃなくて委託なんだが…。
それはともかく、妻の資力がどうだっていうんだ。あてにならん。
伊織、ここは一つ黙殺だ」
「いいのっ? 了解ですボス! あーもしもしBさん? 聞こえませんでした」
「請求しているじゃないですかー!」
「うふふ。あたし、今ハイな気分だからわからなーい。奥さんと仲良くねー」

ガチャ、ツーツー

「いいのこれで?」
「301条は請求できるだけで、留置権者が承諾しないと効力は生じないんだ。
最終的に承諾しないときは、裁判で承諾の意思表示に替わる判決するしかないんだ。
というわけで承諾しなければいいのさ。その間にさっさと実行だ!」
「啓介君って、何か狡い人生送ってきたって感じよね」
「貸金屋の娘が何を言うか!」
「じわっ…ひどい…」
「す、すまん言い過ぎた。生まれに差別無し、職業に貴賤無し。撤回する」
「傷ついた…ハーゲンダッツのアイスで勘弁してあげる…」
「やれやれ。手のかかるお姫様だこと」
「ねーね、最後にエリーゼで食べに行こう? ドライブっ」
「悪くないね」


エリーゼは競売で300万で売れた。
100万は相殺して残り200万はBさんに返した。
泣いていたがどうせ破産すりゃ管財人に売られるんだ、手順前後というもの。
車が無くても生きてはいける。強く生きてくれ。
この100万で債権者に弁済、抵当権を一個抹消。
あと残り16番抵当まで。


(´・ω・`)続く
(´・ω・`)次回は質権

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2006年04月23日

もう一つの代理権。

−もう一つの(´・ω・`)民法−


【法律行為】
千裕也がいたセレブマンションは、ずいぶん汚れていた。
そこで僕と伊織で壁紙を張り替えたり掃除をしたりして価値を高めることにした。
それを不動産屋で高く売るのだ。新たなセレブ、カモン。
「結構、こういうのって、おもしろいよね。あたしは、好きだな。
お父さん、あんまりお家にいなかったからね…。
お掃除、一人でやると、なんかつまんないんだ。二人だと、嬉しいね」
僕もそう思う。家族って…やっぱり良いものだと思う。
「僕もずっと一人でやってきたからね…それは分かるよ」
伊織がにやりと笑う。それはもう、悪魔的ほほえみで。
「ふーん♪ ずっと「一人」ねぇ? 
嘘くさー。どうせ、彼女とかに、やらせていたり、したんじゃないのっ?」
こういうネタは中学生とかは大好きなんだろーか。
「頼むからその辺は突っ込まないでくれ、泣けてくる過去しかない」
「ちょっと! そーゆーこと言うから、余計に知りたくなるじゃない!
教えなさいよ! ほらほら、ここならあたしの他誰もいないし、ね」
「はぁ…」
僕は、自分のあまりに切ない過去を、一つ一つ数えはじめた。


「先にいっとくけど、聞かなきゃよかったって言うなよ。
はじめに好きになったA子は、
向こうから付き合ってください! って申し込みがあったから、
よろこんで「はいっ!」って承諾して恋人契約成立だと思ったところ、
「ってそんなつもりあるわけないでしょ! 普通気付くよプギャー」
と言われて、惨殺されたね」
(原則有効だが過失のときは無効 第93条 
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。)

「お、鬼だ…」


「次に好きになったB子は、その前に付き合っていた男が、
『B子とはもう別れた、あんな女知らない』と叫んでおり、
B子もずっとそれを訂正しなかったので、てっきりそうだと思っていたところ、
僕が告白したら、
『あんなの嘘よ。積極的にグルになってそう言ったわけじゃないわ』
とバッサリ。
それを信じた、つまり知らなかった僕はどうなるんだ! と詰め寄ったところ、
(通謀でないが虚偽の外観に対する放置につき 第94条類推適用 
1項 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2項 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。)

そうすると僕の主張が通りそうなモンだが、
『そんなのちょっと調べればすぐ分かるでしょ』
と反論されて、
(善意有過失では94条及び94条類推適用はダメという学説がある)
普段教え込まれた内容では確かにそうだと思ってその場で引き下がったんだ。
ところが事実はそうじゃなくてやっぱり知らないならそれで十分だったんだ。
これは普段の教えに騙された感じだったよ。
「…『しかし判例は文字通り善意のみを要求している」』だけじゃ
どっちが正しいのか初学者には普通わからないわよねぇ…」


「その次に好きになったC子は、実に良い子で付き合うことになったんだが、
ある日突然『ごめんなさい! 本当は私、アイドルだから男性とは付き合えないの!
ずっと黙っていてごめんなさい!』とか言われてさ。
全く意味が分からなかったね。
そんなんだったら初めから僕だって付き合わないし、みんなだってそうだろ。
呆然として、切なかったよ」
(第95条 
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。 
  +
要素の錯誤とは、その食い違いを認識していればそんな意思表示はしなかったし(因果関係)、一般人もしないであろうという程度(重大性)の「食い違い」をいう。)

「良い子だったとすると、余計泣けてくるわね…」


「次に好きになったD子は…」
「ごめん、もう言わなくて良いよ。流れから分かるし、なんかこう、
想像しただけで、泣けてきた」
(第96条1項 
詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
 +
相手に思い違いをさせようという故意と、思い違いをさせた結果真意と異なった意思表示をさせようという故意の「二重の故意」が必要)

「しかもクリスマスプレゼントとしてあげた高い指輪はとっくにヤフオク行きで、
買った人も『そんなの知りませんよ』で終わった」
(第96条3項 
前2項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。)

「世の中、大変な人がいっぱいだ…あたしは恵まれていたよ…」


「んで最後にまだ一人、E子がさ」
「まだあったの?!」
「E子が『これ、F子があなたに渡せって…』ってある日手紙を持ってきたのよ。
それがラブレターで付き合いたいって内容でね。つまりE子は代理で。
(※使者じゃないかという突っ込みはここでは置いてください)
(顕名の原則 第99条 
代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。)

僕はF子も可愛いなと思っていたので、嬉しかったんだよ。
ところが後でF子が『そんなことを言った覚えはない!』とか言い出して、
結局F子がそんなことをしろと言ったのか分からなかったのね。
僕は腹が立ってね、E子に『傷ついたじゃないか! 責任取れよ!』って言ったのさ。
(代理権が証明できないときも無権代理人責任 第117条1項 
他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。)

そしたらE子なんて言ったと思う?
『そんなの、普通気付くしぃ。
それにええっと〜、E子まだ未成年だからあ、わっかんなーい』
(相手方悪意ないし有過失のとき、代理人制限行為能力者のときは無権代理人責任を負わない 第117条2項 
前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。)

だってさ。
大学2年生、19歳にもなって、制限行為能力者か、おめでてーなと。
(第4条  
年齢20歳をもって、成年とする。
第5条 
1項 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2項 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。)


許せないから慰謝料をぶんどうろ思ったが金もなく、
さすがにもうまともな年だから事理弁識能力がないとも言えず、
(責任能力 第712条 
未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。)
そうすると親にかかっていくことも容易ではなく、
(第714条1項 
前2条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
  +
これができないときは709条で普通に原告の側で親の過失立証しないとダメ)

結局踏んだり蹴ったりだったね」
「ああああああ無情」



伊織はフルフルと震えた。
そしてビシ!と僕に指を突きつけて宣言した。
「決めた! あたしが啓介君の彼女になってあげる!」
「はぁ?!」
伊織の唐突感には、未だに僕は慣れていない。
「あたしがそう言ってあげているんだから、ありがたく思いなさいよ。
こうみても、あたしモテモテなんだからね」
確かに可愛いが…いや僕はそんなロリっ気はない!
「こ、子供が何言ってるんだ全く…。大人を驚かすんじゃない」
「キーーーー! 悔しい!
あたしがそう言っているのよっ!
あなたから「いや僕の方こそ申し込むよ、僕と付き合ってくれ」
とか言うのが王道でしょうが!
女の子にこんなこと言わせたまんまにしておく気?!」
男女平等が我が憲法の建前であったはずだが、
何やら有無を言わせぬ迫力があり、びびってしまった。
「は、はぁ、じゃあ一応言うよ。
いや僕の方こそ申し込むよ、僕と付き合ってくれ」
「そうか! 分かればいいのよ! じゃあ承諾してあげるわ」
「はい、それ、不同意」
(第5条1項 
未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。)

「ギャン! なにそれえええええ!」
「こちとら君の保護者だからね。後見人にはなんでもありなんよ」
「くうううううう! むかつくうううう!!」
伊織は地団駄を踏んで悔しがっていた。
ふふふ、いい気味だ。僕の傷を抉ったからいけないのだ。



「どうして、あたしの「コレ」が通じないかしら。
どんな男だって一発なのに。
今に見てなさいよ…」

〜後日〜

「ねぇねぇ、カントクのところ行ってきた?」
カントク。それは我らの後見監督人のことである。弁護士がやってる。
後見監督人は遺言で指定しない限り家裁が職権でつけるときがある。
(第849条 
前条の規定により指定した未成年後見監督人がない場合において必要があると認めるときは、家庭裁判所は、未成年被後見人、その親族若しくは未成年後見人の請求により又は職権で、後見監督人を選任することができる。後見監督人の欠けた場合も、同様とする。)

夫婦や直系血族はもちろん、ここでは兄弟姉妹もダメなので、人材確保が難しい。
(後見監督人の欠格事由 第850条 
後見人の配偶者、直系血族及び兄弟姉妹は、後見監督人となることができない。)

後見人そのものは結構広く認められている反面、
監督人はしっかりと利益相反を監視できる人間でないと困るからだ。
(第847条 次に掲げる者は、後見人となることができない。
1.未成年者(●被補助人や被保佐人はOK!)
2.家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
3.破産者
4.被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族(●兄弟姉妹はいらず)
5.行方の知れない者)


後見監督人、通称カントクは、
定期的に僕に後見状況の報告を求めてくる。
(第863条 
後見監督人又は家庭裁判所は、いつでも、後見人に対し後見の事務の報告若しくは財産の目録の提出を求め、又は後見の事務若しくは被後見人の財産の状況を調査することができる。)

やや面倒だ。それが後見人の仕事だからしょうがないのだが。

「そういえば今月はまだ行ってないな。早めに行かないと」
「ふふーん。あのね、あたし昨日カントクのところ行ってきたの」
「お、そうか。でもあの報告は僕自身がしないとダメなんだよ」
「いーえ、そのことじゃないの」
伊織にはにんまりと微笑む。ヤバイ。何かマズイものが来る。
「よくよく考えたら、啓介君があたしと付き合うか(契約するか)って、
利益相反じゃない。それって啓介君できないわよ。
フツーならそういうとき誰か他の人を選んでが代理しなきゃだけど、
(第860条本文 
第826条の規定は、後見人について準用する。
 +
第826条1項 
親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。)

でもでもカントクがついているときはそうじゃない。
(第860条但書
ただし、後見監督人がある場合は、この限りでない。)
そう言う場合は直接カントクが代理するわけね。
(第851条 後見監督人の職務は、次のとおりとする。
1.後見人の事務を監督すること。(●メインのお仕事)
2.後見人が欠けた場合に、遅滞なくその選任を家庭裁判所に請求すること。
3.急迫の事情がある場合に、必要な処分をすること。
4.後見人又はその代表する者と被後見人との利益が相反する行為について被後見人を代表すること。←●これ)

だから、こういう場合に啓介君が不同意とか言っても意味がない」

何やら脂汗が出てきた。
「するとー。承諾については、カントクが代理するのね。
で、承諾書もらって来ちゃったー!」
バーンと紙切れを突き出す。
そこには「啓介と伊織の付き合うこと(恋愛契約)につき承諾する。
後見監督人 弁護士某」
と署名とハンコがご丁寧についていた。
「何考えてるんだあのオヤジ?!」
「てーねーにご説明して籠絡…じゃなくて説得したら、
気持ちよく同意してくれたわ。さすがカントク」
「ど、どーやって…」
「ふふふ。秘密。
そういうわけで、今日からあたしと啓介君は恋人同士だからねっ!」
「なぜだあああああ!」


あまりのわけのわからなさに、僕は混乱した。
だいたい、その契約が有効だとして、どうだというのだ。
僕はその程度にしか、思っていなかった。
それが全ての、包囲網の始まりだったとは、知らずに。




白金台のマンションは高く売れた。
これで1番から3番までの抵当権者につき弁済、抵当権の抹消。
後のこり抵当権、17個。



(´・ω・`)続く
(´・ω・`)次回は質権あたり

eiji_inose at 02:30|PermalinkComments(0)TrackBack(0)