DJK Klassik

さて、昨日は、エルベフィルハーモニーのオープニングコンサートをYOU TUBEで鑑賞。大幅に、工期、予算共にオーバーし、非難の的に晒されていたようだが、出来上がってみれば、当初コンセプトそのままに、妥協なき完成度。これぞレガシーにふさわしい。

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EMIを吸収してからのワーナーはとても元気だ。エラートとというブランド名を巧みに使い、持ち前の爽やかさと軽さをしっかりキープしながら意欲的に新譜を出している。

そこで、新たなシリーズとして始まったのがこのライジングスターシリーズだ。当初は、どうせ勢いだけの青二才達だろうと侮っていたが、よく見ればかなりの実力者揃い。コンクール歴に頼りぎみのグラモフォン。担いでもイマイチブレイクしないソニーと比べるとそのセンスの良さに驚くばかり。あまり知られていない若手にスポットを当てしっかり売り出す手腕は、これぞレコードレーベルの仕事と言ってよい。

チェンバロのジャン・ロンドー、イタリアのピアニスト、ベアトリーチェ・ラナも既に大変な話題になっているが、今回購入したのはのサビーヌ・ドゥヴィエル。オペラハウスで活躍する1985年生まれのフランス人美女ソプラノだ。

これは、実に美しいモーツァルトである。

この録音に出会ったのは、シンガポールに向かう機内エンターテイメント。騒音の合間を縫って彼女の声は、私の心にまっすぐ飛び込んできた。これからの仕事に少しナーバスになっていた私をどれだけ慰めてくれたことだろう。

ここでの美しさというのは、人間的なものでも、自然を感じさせるものでもなく、何やら人知の届かない、物理の法則から解き放たれた所に位置している。そんな、圧倒的な美しさを彼女はピュアにまっすぐに表現することに成功しているのだ。ここで我々は、クラシックの最も美しい瞬間=モーツァルトに遭遇することができる。

勿論、彼女は、オペラハウス鍛え上げの並外れた表現力を持った歌手である。しかし、彼女の声のすべては音楽のために奉仕され、過剰なセルフパフォーマンスには陥入らない。

クラシックを長く聴いていると、円熟ばかりを求めがちだけれども、若さでしか、若さだからこそ表現できる唯一無二の音楽があるのだなと改めて感動した次第である。

これからもワーナークラシックのライジングスターシリーズに期待して行きたい。


モーツァルト
ウェーバー姉妹のための歌曲集

サビーヌ・ドゥヴィエル(ソプラノ)
アルノー・ディ・パスカル(フォルテピアノ、オルガン)
アンサンブル・ピグマリオン(ピリオド楽器オーケストラ)
ラファエル・ピション(指揮)

録音2015年1月
パリ、ノートルダム・デュ・リバン教会
 

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四十歳を過ぎたあたりであろうか、弦楽四重奏が、俄然、体に馴染むようになってきた。それまではむしろ苦手なジャンルだった弦楽四重奏。オーケストラのように広大ではないけれど、それをも凌ぐエネルギーの凝縮と爆発、楽器の数は少ないけれど、それにも負けない音色の多彩さに気づき始めたようだ。

そんな私が、いつも愛聴しているのが、アルテミス・カルテットの演奏である。彼らのCDはすぐに取り出せる所にあって、ドボルザーク&ヤナーチェク、メンデルスゾーン、ブラームス、シューベルトなんかを飽きもせず繰り返し聴いている。一度彼らの演奏を聴いてしまうと他の演奏はどうもまったり聴こえてしまい、物足りなく感じるのだ。

こうした録音群の中でも彼らの代表作は、ベートーベン全集だろう。この全集の録音は、1998年から2011年の13年間かけて行われている。メンバーチェンジを経ながらも妥協なき統一感とクオリティ保っているのは実に驚異的である。

ナタリア・プリシェペンコ擁するこの時期が、カルテット最強の時代と言えるし、氷の微笑ナタリア・プリシェペンコが去り、ヴィオラのヴァイグレが亡くなってしまったた今となっては、ここまで完璧なアルテミストーンはもう聴くことができなくなてしまった。

合奏精度はナノ単位。どうやっているのかと思うほどに、精密にできている。弛むところなど一瞬もなく、目まぐるしく激しいダイナミクスが沸騰している。

アルテミス・カルテットはベートーベンとの相性がいい。感情に溺れることのない、鋭い解釈は、ベートーベンの内面内面へと容赦無く切り込んでいきながら、巨像ベートーベンの革新性を露わにしていく。

そんな中でも、2008年に録音された「ラズモフスキー第2番」は、このカルテットの一つの到達点を示す、究極の緊張感を有する。身震いのあとに涙が溢れ出すほどに凄まじい演奏である。

録音も素晴らしく、特に2008年から場所をテルデックスタジオに移してからは名録音の域。

なお、この全集はHMVの通販で時折ディスカウントされ、2500円ぐらいで買える時があるので見つけたら即買をお勧めしたい。

今年、1月からTBSで放送された、ドラマ「カルテット」は、大変に面白かった。4人が織り成すまさしくカルテットな人間模様。とりわけ、満島ひかりの演技が素晴らしかった。これをきっかけに弦楽四重奏というジャンルが少しでも流行ればいいのになと思ったが、地味なジャンルの立ち位置は変わらず、やはり恋ダンスのようにはいかないようである。

ベートーヴェン弦楽四重奏曲全集(7CD)
アルテミス四重奏団


ケルン、フンクハウス・ヴァルラフプラッツ ,1998年
ナタリア・プリシェペンコ(ヴァイオリン)
ハイメ・ミュラー(ヴァイオリン)
フォルカー・ヤコプセン(ヴィオラ)
エカルト・ルンゲ(チェロ)

ケルン、シュトゥーディオ・シュトルベルガーシュトラーセ ,2002年
ナタリア・プリシェペンコ(ヴァイオリン)
ハイメ・ミュラー(ヴァイオリン)
フォルカー・ヤコプセン(ヴィオラ)
エカルト・ルンゲ(チェロ)

イエス・キリスト教会ベルリン ,2005年
ナタリア・プリシェペンコ(ヴァイオリン)
ハイメ・ミュラー(ヴァイオリン)
フォルカー・ヤコプセン(ヴィオラ)
エカルト・ルンゲ(チェロ)

ベルリン、テルデックス・シュトゥーディオ ,2008年-2011年
ナタリア・プリシェペンコ(ヴァイオリン)
グレゴール・ジークル(ヴァイオリン)
フリーデマン・ヴァイグレ(ヴィオラ)
エカルト・ルンゲ(チェロ)


ヘンゲルブロックブラームス

遂に、2017年1月にオープンした、エルプフィルハーモニーでの、初録音。大注目盤である。

この録音はエルプフィルハーモニーが主役のCDであり、ホールの音響を少しでもリスナーに届けたいそんな思いが伝わってくる録音だ。どこのホールで録音しても、大きな差がでない直接音中心の録音は避け、徹底的に間接音に軸足を置いている。始めはモコモコとした、捉えどころのない音のようだが良く聞くと豊かな響きに驚く。

コンサートホールの構造を見ると、座席がステージを360度囲み、P席もS席もどこがどこだか分からない。オーケストラと観客の距離が近く、一体感を強く感じるレイアウトだ。そして、どこにいても豊かな音響を楽しめるように、オーケストラの音が、一度中央上部に立ち上り、各座席に降り注ぐような構造になっていると思われる。

録音から伝わってくる新ホールの良さは、何と言っても音の溶け合いの美しさだ。各楽器の音がホールの空間で無数に色のバリエーションを作り出している。弦楽器の長くゆったりとしたボーイングでの、音のブレンド感はたまらない。木管楽器と弦楽器の対話や金管楽器の立体的な音響にも、絶妙な響きの間が存在する。

リズムも生々しい。特に、第四番の3楽章、第三番の1楽章など、ティンパニがオケを掻き立てグイグイと引っ張っていく様子は、普段味わえないものだ。床を這い、腹をえぐるような、ティンパニがオーケストラを鼓舞する様子がダイレクトに感じ取れる。ティンパニは後から付け加えたようなものではなく、キース・ムーンみたいじゃないといけない。これによって、きれいごとだけでは無い、聴いていて怖いと思うような、逃げ場もなくロックされてしまうようなオーケストラのサウンドが体現される。

これは、新しいホールと共に、ヘンゲルブロックとNDRが創り上げた、ドイツ音楽の伝統と現在、そして未来を見事に刻み込んだ貫禄のブラームスである。エルプフィルハーモニーのオープニングを心から喜びたいし早く自分もそこへ行って音楽体験をしてみたい。

ブラームス
交響曲第3番ヘ長調 op.90
交響曲第4番ホ短調 op.98

NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団
トマス・ヘンゲルブロック
2016年11月エルプ・フィルハーモニー・ハンブルク

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