August 2007

August 31, 2007

エッシェンバッハ歌曲の演奏会

cbe41d9e.JPG2.8. 2007
Rellingen
Kirche
Nikolai Schukoff Tenor
Christoph Eschenbach Klavier


Joseph Haydn
Fidelity Hob. XXVIa Nr. 30
The Wanderer Hob. XXVIa Nr. 32
Piercing Eyes Hob. XXVIa Nr. 35
Robert Schumann
Dichterliebe op. 48
Gustav Mahler
Lieder eines fahrenden Gesellen
Franz Liszt
Die drei Zigeuner S 320
Tre sonetti di Petrarca S 270


凄いピアノだった。こんな、ピアノの生演奏を聴いてしまって、後に何を聴けばいいのか。言葉で表現しようがない。やはり、エッシェンバッハである。陰影の富んだ深みのある表現。ひたすらに美しい、和音。七色の変化球があちこちから飛んでくる感じだ。

二曲目のシューマン、最初の一音から、エンディングまで、彼のピアニズムが貫かれた演奏。素晴らしすぎる。ドイツの気候は、一日の中で、晴れたり、雨が降ったり、二時間おきに気候が大きく変わる。とくに季節の変わり目などはそんな気候が何日も続く、彼のシューマンから、感じたのは、そんな移り変わる空模様のような心の映像だ。

マーラーも良い。オーケストラを相手に、あの巨人の旋律を何度となく指揮しているのだろうが、ピアノで弾いても素晴らしい。フィラデルフィアのCDで出ているマーラーのピアノ演奏をご想像いただきたい。

最後はリストだが、この美しさ、ロマンチシズムは、ものすごく、涙無しには、聴けない演奏だった。右隣のおじさんも、左となりのおばさんも、めがねをはずして、目頭を抑えていた。私も、体にものすごい痺れを感じた。

さて、コンサートは、歌曲の夕べで、Schukoffが歌った。私はもっぱらエッシェンのピアノにしびれてしまったが、Schukoffの歌も素晴らしかった。彼は、リートを歌うタイプというよりも、大きな舞台で歌い上げる、オベラシンガーだろう。だから、シューマンのような曲だと、気合が空回りするし、割り切れない世界を表現するには、どうなのだろうという感じだ。だが、ハイドンの溌剌とした世界、マーラーのスケール感にはとてもはまっていたし、最後のリストは、大熱唱で、ドラマチックな歌い上げが見事だった。オペラハウスでの彼も見てみたい。

当日は、ロルフ・ベック氏も登場して、セレブぶりを発揮していた。休憩時間は取り巻きが、ベック氏を取り囲み、シャンパン片手に「ありがとうロルフ」といって乾杯していた。

私は、指揮者としてのエッシェンバッハが大好きだが、それでも、彼には、もっとピアノを弾いてほしい。彼が、そのピアノから、紡ぎだす世界というのは、もはやこの世のものではないかのようだ。心から感動し、いまだにあの美しい和音が心から離れない。

P.S. 7月18日に北ドイツで行われた、エッシェンバッハ&フレンズという、イベントに、マルタ・アルゲリッチが突然参加。エッシェンバッハと、セッションを繰り広げたらしい。聴いてみたかった。アルゲリッチは、突如の乱入が一番似合う。
エッシェンバッハとアルゲリッチが、打楽器奏者と、クセナキス、ラベル、バルトークを弾くという魅力的な演目だった。


August 29, 2007

Reinbek Schloss

9988980e.JPG30.7. 2007
Reinbek Schloss
Barnabás Kelemen Violine
Gergely Bogányi Klavier



Béla Bartók
Rumänische Volkstänze (Fassung für Violine und Klavier von Z. Székely)
Franz Liszt
Romance oubliée für Violine und
Klavier S 132
Die Zelle in Nonnenwerth für Violine
und Klavier S 382
Béla Bartók
Sonate für Violine solo Sz 117
Franz Liszt
Konzertetüden »Waldesrauschen« und »Gnomenreigen« S 145
Ungarische Rhapsodie Nr. 2 cis-Moll S 244
Zoltán Kodály
Adagio für Violine und Klavier
Béla Bartók
Rhapsodie Nr. 2 für Violine und Klavier Sz 89

今日は、ヴァイオリンと、ピアノの室内楽演奏会。二人とも、ハンガリー生まれの新進気鋭である。

演奏会は、ハンブルグから、30分ほど電車に乗った、Reinbekという町のお城の大広間で開かれた。普通のお部屋だから、屋根は低く、コンサートホールや、教会などの響きとは全然違う。もっと、音が直に届く感じである。室内楽なのだから、こうしたお部屋で聴くのが一番なのかもしれない。

ヴァイオリンの、Kelemen氏30代前半だが、なかなかの凄腕である。特によかったのは、彼が一人で弾く、バルトークのヴァイオリンソナタ。キレ、スピード感、深み。すべてが備わった、演奏だった。なんというか、立派な書を見たような。決して、演奏するにも聴くにも簡単な曲ではないと思うが、観客にしっかりアピールしていた。正直なところ、彼のバルトークの演奏は、ワールドクラスではないだろうか。カヴァコスあたりと張り合ったって全然おかしくない。

ピアノの、Bogányiはなかなかの男前ピアニストである。良く見れば、髪形など、なんとなくリストにも似ている。リストの持つロマンチシズムをクールに新しく表現できるピアニストである。リストをよほど得意にしているのだろう。二曲とも、すごい完成度だった。超絶技巧を完全に手の内にしていた。有名曲のハンガリラプソディも、こうして目の前で、弾かれるとひたすら圧倒されてしまう。

二人で演奏した、コーダイのアダージョは名曲。心が熱くなる。

いい演奏会であった、狭い会場で、音はダイレクトに耳に響いてきて、これがヴァイオリンの生音なんだな、これがピアノの生音なんだなと、コンサートホールでは味わえない新鮮な感慨に浸った。最後に二人で演奏した、バルトークのラプソディとアンコールのチゴイルネルワイゼンは、二人のハンガリー音楽への愛情と、洗練された感性、技術とリズム感、相性の良さが結実した、大名演だったと思う。

とても、素晴らしい。

SHMFは、これで3コンサート目であったが、毎回、非常にクオリティが高く、文句のつけようがない。

約200のコンサートが企画されているが、アーチストを選ぶ選球眼、プログラミングのうまさ、会場設定など、本当に良くできている。今年が22年目の音楽祭。毎年のいろんな積み重ねの結実だろう。決して、有名アーチストばかりがでてくる音楽祭ではないが、実に立派な音楽祭である。さすが、ロルフ・ベックである。


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August 28, 2007

Cappella Istropolitana

22c2f7ef.JPG28.7.2007
Neumünster
Vicelinkirche
Kalev Kuljus Oboe
Cappella Istropolitana


Ferenc Farkas
Piccola musica di concerto
Antonio Vivaldi
Concerto C-Dur RV 452
Johann Sebastian Bach
Sinfonia, aus der Kantate »Ich steh mit einem Fuß im Grabe« BWV 156
Max Bruch
Oktett B-Dur für Streicher (Streichorchesterfassung)
Leos Janácek
Suite für Streicher

SHMFは、北ドイツのシュレビリッヒ、ホルシュタイン州で、毎夏開催される、ドイツ最大のクラシック音楽祭である。ザルツブルグ音楽祭やルツェルン音楽祭と違うのは、どこか一つの町でやるのではなく、あちこち点在した場所で行うところだ。普段は、あまり人の行かない、不便な場所でのコンサートも多くある。だが、どこも、北ドイツ風情を感じさせる味わい深い会場ばかりなのである。今回のコンサートは、ノイミュンスターという町の教会で行われた。ハンブルグからさほど遠くはないが、特に目立った、観光資源もないので、こんなとことでもなければ行かないところだろう。

教会は、緑の芝生に、白い外壁のコントラストが美しく。こんなところもあるんだなぁとうれしくなるような場所。そんなところで、クラシック音楽を味わえるというのが、素晴らしい。

さて、今回の目当ては、NDRの首席オーボエのKalev Kuljusの演奏である。彼のオーボエは、大好きで、五月のブラームス交響曲チクルスの演奏でも、見事なソロを聴かせていた。以前、バイエルン放送響のシベリウスの二番をテレビで見たとき、彼のソロがあまりにも素晴らしく、びっくりしたこともある。ほとんど彼がオーケストラをリードしているかのようであった。バイエルン放送響に移籍でもしたのかと、調べてみたが、ゲストとして、参加していただけらしい。ベルリンフィルやミュンヘンフィルにもゲスト参加しているそうである。ドイツオケのオーボエというと、ベルリンフィルのアルブレヒト・マイヤーを思い出すが、あういう、押しの強いタイプではなく、もっと全体にあわせるタイプである。地味ながらもしっかりして、寡黙な感じだ。今回は、ヴィヴァルディで、美しいソロを聴かせてくれた。教会のほどよい残響に、しみこむ見事な音色だった。

さて、ほとんどノーマークだったが、思いっきり感動してしまったのが、この日の室内アンサンブルCappella Istropolitanaである。スロバキア首都のブラティスラバで結成された、弦楽アンサンブル団体、全部で15人である。ほとんど知られていない団体だと思うのだが、実にうまい。

一曲目は、ハンガリーの作曲家の作品をとりあげたが、ハンガリー音楽にある独自ののり、バルトークや、マルティヌーなどに通じる、民族性をしっかり表現。

ヴィヴァルディや、バッハでの聡明な、響きも極上。

さらに凄かったのが、ブルッフ、こんないい曲があったのかと驚かされた。ロマンチックなメロディ、響き、高揚。この団体の18番ではないだろうか。

最後は、お国もののヤナーチェク。弱音の美しさ、フォルテのまとまったアンサンブル、巧みな音量調整など、お見事の一言で、単調になるところが一箇所もない。曲の持つ良さを完璧に表現していたといえる。特に一台のコントラバスと、二台のチェロが、作り出す、低音の安定性は特筆ものだ。

Cappella Istropolitanaの音は、暖かくて、土着色があって、ふくよかだ。歌うところは、気持ちをこめて、歌ってくれる。教会の適度な残響とともなって、至福の時間が過ごせた。

東欧の音楽家のことは、良く知らないし、レコード会社のプロモーションにのることも少ないが、凄い音楽家がいっぱいいるということだ。素晴らしい!!


eimsbutteler at 23:30|PermalinkComments(2)TrackBack(0)コンサート