まず戦前期に大量生産された軍刀についてだが、資料を見ると錆や切れ味が問題視されることはあったようだが、刀自体の耐久性については特に言及されていない。
別冊第四
南方軍提出意見
昭和十八年五月
陸軍兵器行政本部
関東軍兵器部謄写
本〔空白〕は昭和十八年五月兵器部長会議に際し参考資料として配布のため常に〔空白〕に於て提出せられたる南方軍の兵器に関する意見中より所要のものを抜粋蒐録せるものなり
一、銃器関係
兵器名称
2.三十二年式軍刀
改正意見
適当なる防錆(塗装焼入等)法実施を希望す
https://www.jacar.archives.go.jp/das/image/C13010746900(8画像目)
昭和十年四月
陸軍技術本部調製
議題第七
九五式軍刀仮制式制定の件
九五式軍刀審査経過の概要
三十二年式軍刀は従来●の防錆法につき研究しありしが刀の操用上の不便も尠からず切味も亦良好ならざるため構造上改良を加ふるの必要を認め大正十二年以後両者併行して研究し前後七回に亘る試験の結果昭和七年二月成案を得たるも将校刀の改正に伴ひ外観形状等を之に近似せしむるの必要を認め又護拳も大なる必要なき意見により乗馬刀徒歩刀同一様式たらしむる如く改め更に研究の結果今日其の成案を見るに至れり
https://www.jacar.archives.go.jp/das/image/C12121822400
では大量生産でない古い刀についてはどうか。以下、海軍大佐小泉久雄「 日本刀の近代的研究」昭和8年3月10日発行 の付録23~26頁より抜粋するが、物にもよるがそれなりに切れる、あるいは二、三人切った位では大丈夫なものがある、といえそうだ。
(以下抜粋)
左に今回の上海事変に於ける我海軍陸戦隊将士の軍刀実用の成果並に之が改善意見を添記する。(本資料は剣友海軍砲術学校教官工藤海軍中佐より与へられたるもの)
一、軍刀実用の成果(表)
軍刀 |
〔銘〕関兼定 〔長さ〕尺寸 二-三-〇 〔反り〕二、三分 |
||
刃味 |
切りし数 |
二 |
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個所 |
肩一 |
〔切れ味〕突撃の瞬時二た太刀にて袈裟掛に切る、敵綿入を着用せしと片手打なりし為、完斬とは云ひ難かりしも間も無く死す。 |
|
首一 |
〔切れ味〕即死せしも完刎に至らず。 |
||
刀身の故障 及其の原因 |
(一)物打辺より上方僅に湾曲せる如し。 (二)物打付込に長さ約一寸に亘り極めて浅き刃こぼれ。 (三)中央より少しく上方に深き刃こぼれ一個所。 (四)中央棟より鎬地にかけ敵の銃剣による切込み疵一個所。 |
||
所見及記事 |
制式軍刀の柄を、両手握りに足る程度に普通より長くせり。 深き刃こぼれは、敵兵の装具又は銃器等の金具に切り付けたるものならん。 |
軍刀 |
〔銘〕関兼正 〔長さ〕二-三-〇 〔反り〕六分 |
||
刃味 |
切りし数 |
二 |
|
個所 |
首 |
〔切れ味〕極めて良。 |
|
刀身の~ |
なし。 |
||
所見~ |
夢中にて明瞭には記憶せざるも、手ごたえなく良く切れたり。 制式軍刀の柄にて稍短かく感ぜり。 |
軍刀 |
〔銘〕関正利 〔長さ〕二-三-〇 〔反り〕二、三分 |
||
刃味 |
切りし数 |
八 |
|
個所 |
頭蓋骨一 |
〔切れ味〕抜打にて即死。 |
|
首三 |
〔切れ味〕一、は完刎。二、は首ぶら下る。 |
||
肩二 |
二た太刀にて絶息。 |
||
不明二 |
|
||
刀身の~ |
横手下に大なる刃こぼれ一個所。 物打の下方約三寸計りに亘り刃こぼれ数個所。 |
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所見~ |
刃こぼれは頭を斬りしとき出来たるものならん。 日本刀の拵の儘なりし為、活動中の敵なりしも、斬りたる後刀身に曲りを生ぜず。 一尺八寸位の刀が使ひよし。 |
軍刀 |
〔銘〕関兼勝 〔長さ〕二-一-〇 〔反り〕七分 |
||
刃味 |
切りし数 |
二 |
|
個所 |
左袈裟一 |
〔切れ味〕右乳下迄達せり。 |
|
左こめかみより右斜に頭一 |
|
||
刀身の~ |
(左袈裟一、)袈裟掛は頭より手ごたえ無し。 (左こめかみより右斜に頭一、)此のとき中央より稍上部に刃こぼれ一個所出来たり。 |
||
所見~ |
日本刀拵の儘使用す、後中心を検せしに鎺付近にて少しく曲れるを発見せり。 |
軍刀 |
〔銘〕和泉守来金道 〔長さ〕二-四-〇 〔反り〕五分 |
||
刃味 |
切りし数 |
三 |
|
個所 |
右袈裟二 |
〔切れ味〕極めて良好。 |
|
首一 |
〔切れ味〕一刀にて見事に完刎。 |
||
刀身の~ |
袈裟切のとき少しく刃こぼれを生ぜるも、其の後切れ味変らず、極めて良好。 |
||
所見~ |
日本刀拵の儘使用し、突撃時にて手元多少狂ひし為、二人目の袈裟切にて刃少しく曲る。 |
軍刀 |
〔銘〕大永裏銘、備前盛光 〔長さ〕一-八-〇 〔反り〕七分半 |
||
刃味 |
切りし数 |
一 |
|
個所 |
首 |
〔切れ味〕片手にて首四分の三斬る、刃味至極良し。 |
|
刀身の~ |
異状なし。 |
||
所見~ |
日本刀拵の儘。 |
軍刀 |
〔銘〕無銘備前高平折紙あり 〔長さ〕二-一-八 〔反り〕四、九分 |
||
刃味 |
切りし数 |
一 |
|
個所 |
首 |
〔切れ味〕切れ味至極良好にして首約四尺飛ぶ。 |
|
刀身の~ |
異状なし。 |
||
所見~ |
制式軍刀拵。 |
軍刀 |
〔銘〕備前長船 〔長さ〕二-四-五 〔反り〕不明 |
||
刃味 |
切りし数 |
二 |
|
個所 |
首 |
〔切れ味〕切れ味相当。 |
|
刀身の~ |
異状なし。 |
||
所見~ |
日本刀拵の儘。 |
軍刀 |
〔銘〕備前、長舩祐定 〔長さ〕二-一-〇 〔反り〕不明 |
||
刃味 |
切りし数 |
七 |
|
個所 |
左肩より袈裟一 |
〔切れ味〕右乳の処迄。 |
|
腕一 |
完切。 |
||
右脚上部一 |
斜に完切。 |
||
首三 |
見事に完刎。 |
||
腰車一 |
約三分の一切る。 |
||
刀身の~ |
何等異状なし。 |
||
所見~ |
想像以上に日本刀の切れ味良きに感心せり。 人体に骨ある如き手ごたえを覚えず。 |
軍刀 |
〔銘〕相模守国綱 〔長さ〕二-三-〇 〔反り〕一分 |
||
刃味 |
切りし数 |
一 |
|
個所 |
首 |
〔切れ味〕首殆んど切れ約五分厚位残る。 |
|
刀身の~ |
物打の四、五寸下より約一尺計の間に刃こぼれを生ぜり。 |
||
所見~ |
日本刀拵の儘使用。 |
軍刀 |
〔銘〕綱広 〔長さ〕二-四-〇 〔反り〕五分 |
||
刃味 |
切りし数 |
七 |
|
個所 |
首 |
〔切れ味〕何れも手ごたえ無き程度に完刎。 |
|
刀身の~ |
物打付近に少しく刃こぼれ生ぜり。 |
||
所見~ |
日本刀拵の儘使用。切れ味予想以上なり。 |
軍刀 |
〔銘〕村正 〔長さ〕二-三-五 〔反り〕五分 |
||
刃味 |
切りし数 |
四 |
|
個所 |
首より肩に かけ二 |
〔切れ味〕切れ味予想以上。 |
|
腹部刺突二 |
|||
刀身の~ |
異状なし。 |
||
所見~ |
制式軍刀。 |
軍刀 |
〔銘〕河内大掾正広 〔長さ〕二-四-五 〔反り〕五分 |
||
刃味 |
切りし数 |
一 |
|
個所 |
後頭部横斜め |
〔切れ味〕約三分の一横に切込めり。 |
|
刀身の~ |
切先より刀身の約三分の一及同三分二の処に横に折れ目を生じ使用不可能となれり。 |
||
所見~ |
本刀身は表裏に樋ありし為強味足らざりし為ならん。(寛文三年裏銘あり) |
軍刀 |
〔銘〕肥前吉国 〔長さ〕二-四-〇 〔反り〕五分半 |
||
刃味 |
切りし数 |
四二 |
|
個所 |
主として首 其の他各部 |
〔切れ味〕切れ味至極。 |
|
刀身の~ |
何等異状なしと雖、骨を切りしときの痕かと思はれ刀身の物打の部に白らけて見ゆる部あり、 |
||
所見~ |
数本の日本刀による切れ味に比し極めて良好なり。 |
軍刀 |
〔銘〕吉宗 〔長さ〕二-二-〇 〔反り〕不明 |
||
刃味 |
切りし数 |
一 |
|
個所 |
首 |
〔切れ味〕肉一寸位残る。 |
|
刀身の~ |
刀身中程より上部約二寸位の間刃こぼれを生ず。 |
||
所見~ |
新刀元禄頃のものか。 |
軍刀 |
〔銘〕加州清光 〔長さ〕一-七-九 〔反り〕三、八分 |
||
刃味 |
切りし数 |
数人 |
|
個所 |
頭部、首を斜めに |
〔切れ味〕切れ味極めて良好。 |
|
刀身の~ |
鋒より五寸位の処に刃こぼれを生ぜり。 |
||
所見~ |
白鞘の柄に糸を巻き使用に便す。 |
軍刀 |
〔銘〕源良近 〔長さ〕二-二-六 〔反り〕六分半 |
||
刃味 |
切りし数 |
二 |
|
個所 |
首一 |
〔切れ味〕皮一枚残り頭前に落つ。 |
|
首前より抜打 |
〔切れ味〕半分切れたり。 |
||
刀身の~ |
抜打ちの際、物打二ケ所ふくら一ケ所、鋒先端一ケ所刃こぼれを生ず。 |
||
所見~ |
制式軍刀の柄に木綿裂を二重に巻く。刃こぼれを生ぜしは突嗟の場合切り方不如意による。 |
軍刀 |
〔銘〕無銘 〔長さ〕二-五-一 〔反り〕五分 |
||
刃味 |
切りし数 |
一 |
|
個所 |
後頭部 |
〔切れ味〕約三分一切れたり。 |
|
刀身の~ |
切先より約五寸の間に無数の刃こぼれを生ぜり。 |
||
所見~ |
日本刀拵の儘。 |
軍刀 |
〔銘〕無銘 〔長さ〕一-九-〇 〔反り〕不明 |
||
刃味 |
切りし数 |
七 |
|
個所 |
首三 外袈裟掛 唐竹割等。 |
〔切れ味〕切味相当。 |
|
刀身の~ |
鋒より四寸位の処深さ最大一分最小二厘位の刃こぼれ数ケ所に生ぜり。 |
||
所見~ |
日本刀拵の儘。充分直さゞれば其儘にては実用覚束なし。 |
軍刀 |
〔銘〕無銘 〔長さ〕二-三-〇 〔反り〕六分 |
||
刃味 |
切りし数 |
二 |
|
個所 |
首一 |
〔切れ味〕十分の九切れ下る。 |
|
同一 |
〔切れ味〕完刎約三尺飛上る。 |
||
刀身の~ |
中央部刃二三個所刃こぼれを生ず。 |
||
所見~ |
日本刀拵の儘。 |
軍刀 |
〔銘〕新村田刀 〔長さ〕二-二-〇 〔反り〕五分 |
||
刃味 |
切りし数 |
一 |
|
個所 |
首斜上方より 切下ぐ |
〔切れ味〕日本刀殊に前記清光に比し切れ味不良。 |
|
刀身の~ |
鋒下三寸位より刃の方に曲り、後直して鞘に納めたり。 |
||
所見~ |
日本刀に比し刀味、丈夫さ劣ること大なり。 |
軍刀 |
〔銘〕新村田刀 〔長さ〕二-三-〇 〔反り〕不明 |
||
刃味 |
切りし数 |
四 |
|
個所 |
首二 袈裟一、 唐竹割一 |
〔切れ味〕何れも切れ味割合に良し。 |
|
刀身の~ |
切先より六寸位の所に深さ八厘位の刃こぼれ、唐竹割のとき鋒より五、六寸の処に刃こぼれ及刃部にまくれたる処四ヶ所を生ぜり。 |
||
所見~ |
|
軍刀 | 銘 | 新村田刀 | |
---|---|---|---|
長さ | 二―二―五 | ||
反り | 四分 | ||
刃味 |
切りし数 | 二 | |
個所 | 首 | 切れ味 ・良好 |
|
刀身の故障及其の原因 | 鋒より七寸位の処にて曲りを生ぜり。 四人位迄は刃味変わらず。 鎺元曲る。 |
||
所見及記事 | 鎺元曲れる為護拳がたがたとなり後端はずれ使用上甚不便なりき。 |
軍刀 | 銘 | 新村田刀 | |
---|---|---|---|
長さ | 二―一―〇 | ||
反り | 五分 | ||
刃味 |
切りし数 | 二 | |
個所 |
首一、 | 切れ味 ・気味良く切る。 |
|
頭蓋骨一、 | 切れ味 ・相当の手ごたえあり。 |
||
刀身の故障及其の原因 | 二個所に多数の刃こぼれを生じ、頭蓋骨を切りたるとき刃の方に曲れり。 | ||
所見及記事 | 曲りたる為鞘に納まらず。 |
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