アン・バランス・ダイアリー

読んだ本やドラマの感想を中心に書いています。気軽にコメントいただけると嬉しいです。

3


こちらは、妖精が中心の物語です。図書館で借りてきました。
イギリス各地方に伝わる伝承を「昔ばなし風な語り口」で書き下ろしたもの。ひとつひとつのお話が短く、とてもわかりやすい文章で書かれているので、読みやすく、軽く楽しむことができます。
妖精というと、可愛らしくて美しいというイメージが強いのですが、古代では、とても恐れられていて、人間にとってはできるだけ、関わりたくない存在だったようです。家事や仕事を手伝ってくれたり、友好的な妖精もありますが、人間にいたずらしたり呪いをかけたりするものも多かった。「銀の犬」に登場していた、ガンコナーの話もありました。ガンコナーは、別名「愛をささやく者」ともいわれ、女性の心を奪い、体をあわせたあとにその命をも奪ってしまう。これは怖いわ〜
そんな怖い妖精もありますが、ここで紹介されている妖精たちと人間たちのエピソードは、どれも一風変わっているけれども、楽しいものでした。そして、だからこんなことをしてはいけないとか、人はこういう風に生きるべきなどという教訓めいたことを決してふくんでいないところが、またいい感じ。
読んでいて思い出したのは、梨木香歩さんの「家守綺譚」に出てきた小鬼。あの小鬼は人畜無害でしたが、あれが日本でいう「妖精」なんだろうなぁ、と。

思いがけずハマッてしまいました。もうしばらく、この世界にいるつもりです。

3


光原百合さんの「銀の犬」を読んで、俄然興味をもったケルト神話。初心者向きのケルト関連本・・・ということで四季さんに教えていただきました。
この本は、ケルト神話のなかで、「ダーナ神族の神話」「アルスター神話」「フィアナ神話」の中心的な物語がわかりやすく紹介されています。主に神々の役割やその性格、まつわるエピソード、その神々たちとともに暮らしていた人間たち、とくに英雄たちの活躍などが中心でした。
どのお話もすっごく面白かったです!!
「銀の犬」の中心キャラクターのオシアンとブランの原型となったと思われる人物も確認できました。このふたりの物語は、日本の「浦島太郎」の物語によく似ています。よく似ているといえば、日本の羽衣伝説や鶴の恩返しと似たお話もありました。
あと、「銀の犬」に登場する犬の名前が「クー」でしたが、「クー」というのはゲール語で「猛犬」という意味だそうです。暴れる猛犬を素手で仕留めた青年「ク・ホリン」(ホリンの猛犬)という英雄は、ケルト神話のなかでも有名のようで、ギリシャ神話のヘラクレスのような存在でしょうか。彼の冒険と闘いの物語はとくに面白かったです。
「銀の犬」第5話の「三つの星」のなかのキャラクター、フィンとディアドラの原型も確認できました。光原さんの小説では設定とストーリーは神話とは変わっていますが、ディアドラの最期の身の投げ方や、水をすくって飲ませればどんな傷でも癒せる力を持った手の話などは、そのまま神話どおりです。原型を知ると何だか二重に楽しめた気分です。

かなり以前にギリシャ神話関係の本を何冊か読んだことがあるのですが、ギリシャ神話の神々に比べ、ケルトの神は、さらに人間臭いような印象です。とくに女神の性格が激しい!愛に対しとても野性的で、つれなくされると、怒り狂って報復してしまう。かと思えば、最期を優しく見守ったり・・その二面性が興味深かったです。

ケルト本、あと何冊か入手しているので、もうしばらくその世界に浸ってみようと思っています。



4


はっきり言いますけど、すっごく変な本です。ヘンです。通常のアタマ、一般の常識では受け入れがたい物語です。決して多くの人にオススメできる本ではありません。
でも、こういうヘンな本を書いてくれる恩田さんが、私は本当に好きなんです。もう、愛してると言ってもいい。ありがとう、って叫びたいくらい。「夜のピクニック」などの正当な小説もいいけれど、やっぱり恩田さんの真骨頂はこれでしょう。幸せなんだか不幸なんだかわからないこの読後感(笑)。いいんです、もう何でも。とにかく恩田さんには、これからもどんどんこういう作品を書いてほしいわけです。

脚本家が「告白」という作品を書く。主演をめぐって3人の女優が、オーディションを受ける。そしてキャスト発表を目前にその脚本家はパーティーの席で毒殺されてしまう。容疑者は3人の女優。(「告白」は、同じく脚本家が殺される話。そして、こちらも容疑者は女優)。結局これが、ひとつの物語で、この芝居(パーティでの脚本家の殺人事件)の脚本を書こうとしているのが、細渕という別の脚本家で、このうえに心臓発作で死んだ若い女性の謎とか、廃墟を利用してつくられた劇場で起こった幽霊騒ぎなどのエピソードが入れ子入れ子で複雑にからんできます。(何のこっちゃわからんって?これでも、一生懸命まとめたつもりなのだ)

何が現実で、何が芝居の台詞なのか?混乱します。読んでいて、自分が何かもわからなくなってしまうほど、心がざわついてしまう焦燥感、なぜかこれが気持ちいいのです。これぞ、恩田ワールド。ラストは、意外ながらも、なるほど〜そういうことね、という着地だったと思いました。
何となく思い浮かんだのは、「鏡の国のアリス」のラスト。たしか、<夢をみたのは、私だったのか?それとも王様の夢に私がいたのか?どちらだったのでしょう?>みたいな、ラストだったと思うのです。この本で言えば、<自分がいるのは内側なのか、外側なのか?>ってところでしょうか。
芝居をテーマにした作品といえば「チョコレートコスモス」ですが、真実と虚構が入り乱れる感じは「夏の名残りの薔薇」に似た雰囲気かも。それと、もうひとつ、以前にもこういう芝居を盛り込んだ作品があったなぁ・・・と思ったのですが、「麦の海に沈む果実」で、憂理が学園祭で「広場の証言」という演劇をしたシーンがありました。「広場の証言」でも、女性二人が広場に登場し、ひとりがもうひとりを刺してしまう。ところが、その場にいた多くの人の証言は全て食い違っていた・・・というもの。これは、この作品にも通じるところがありますし「ユージニア」にも通じるものがあります。ファンとっては、こういうちょっとした繋がりを見つける楽しさがありました。

実は読了後、全部つじつまが合うのか確かめたくて、メモをとりながら、もういちど流してみたのですが、ひとつだけ、納得できない齟齬がありました。それは・・・
続きを読む

5


『声を失った楽人オシアンとその相棒ブランの物語』

ケルト民族に伝わる物語をモチーフに、光原さんが紡いだ、伝説の祓いの楽人(バルド)、オシアンと相棒の少年ブランの物語。
祓いの楽人は、音楽を奏でることにより、人に降りかかる災厄を打ち払う。そして、非業の死を遂げたために、この世に思いを残し彷徨っている魂を、行くべくところへ行く手助けをする・・。この物語に登場するオシアンは、声を出せないので、唄うことはできません。専ら竪琴を奏でることで、閉ざされた心を優しく解きほぐし安らぎを与えます。
この「オシアン」というのは、ケルト民話に登場する有名なエピソードのようです。ただ、光原さんがあとがきで、『ケルト民話に触発されて生まれたひとつの異世界の物語、ということでお読みいただければ幸いです』と書いておられるので、ケルトの物語をそのままなぞらえて書かれた物語というのではないようです。私はケルトの物語については全く無知に等しいのですが、それでもすんなりこの物語世界に入っていくことができました。とても切なく、悲しい魂の物語ですが、心がしんしんと潤うような感動を得ることができました。

人が人を想う心はとても美しいものだと思うのですが、どんなに大切に想っていても、いえ大切に想うからこそ、すれ違ってしまうこともある。逆に相手を傷つけてしまうこともある。ここに描かれた物語はどれも、純粋で真剣であるからこそ、引きおこされた悲劇なのでしょう。

「恋をうたうもの」では、愛を知らない妖精、ガンコナーは、呪文をとなえるだけで女性を虜にすることができる。彼は体をあわせることと、魔法で言動を支配すること、それが恋であると信じていたために、自分の気持ちにさえ気づかず、かげがえのない女性を失ってしまう。

『かけがえのない相手の名前を呼ぶこと、名前を呼ばれること、それがこれほど幸福なことだったと、イシルははじめて知った。それが自分の学んでこなかった愛というものだと。』

「三つの星」では、幼い頃から兄弟妹のように仲良く暮らしてきた3人の男女が、王と王妃、臣下である騎士と身分が変わったことにより、その愛情にひびが入り、悲劇が起こります。決してお互いを大切に思う気持ちが変わってしまったのではない、なのに引き起こされてしまう悲劇。

『ふたりの人間の間で生まれることが多い、何よりも相手のことを大切に思う絆が、三人の間で結ばれてしまうことも、世の中にはあるのだろう』

「一瞬の風になれ」のレビューにもちょこっと書いたのですが、私は「気持ちは伝えるもの」だとずっと信じていて、それでもやっぱり伝えないほうがいいと思うこと、どうしても伝えられない状況というのもやっぱりあるんだなぁと最近つくづく感じるのです。大切に思っているということが伝えられてさえいれば・・・と、ここに出てくるどのお話も本当に悲しくて切なくて、やりきれません。でも不思議と爽やかさが漂うのは、ブラン、ヒュー、黒猫のトリヤムーアたちの会話が何となく可愛らしくて、心なごませてくれるためでしょう。そして必ず希望が見えるラスト。苦しんでいた魂が解き放たれる場面では、オシアンの奏でる美しい調べが聞こえるようでした。心洗われる思いでした。やっぱり素敵です、光原さん♪表紙もとても美しく、多くの人におすすめしたい1冊です。
そして、彼らの物語はまだまだ続くようで、続編を今から楽しみに待ちたいと思います。

ケルトについてもう少し予備知識があれば、さらに楽しめるかもしれないのです。先日のマクラウドの「冬の犬」も読んだことですし、ケルトについて少し調べてみたいな〜と思います。

今日はとっても嬉しい出来事がふたつ。
ひとつは長男の私立高校合格♪
大阪には事前相談という制度(慣習?)があって、願書を出す前に、中学の先生が、高校に行って、「こういう成績の生徒がおたくの学校の受験を希望していますが、どうでしょう?」とお伺いをたてるのです。そこで、高校側は、この生徒は○、こちらは×・・・と答えます。ここで、○をもらった生徒は、当日の成績がよほどのひどい点数でないかぎり、合格します。反対に△や×をもらった生徒は当日どんなに頑張っても合格する可能性はかな〜り低くなります。とくに×の生徒の合格はゼロに等しい。(でもダメもとで受験する生徒もいるようですが)

一応○をもらっているので大丈夫と思いながらも、やはり結果がくるまでは心配なものです。速達郵便を届けてくれた郵便配達の人が、満面の笑顔で「速達ですよ♪」と手渡してくれたのが何とも嬉しかったなぁ・・。
とりあえず、ひとつ山を越えました。ホッ・・・。
本命は、公立なので、ゴールまではあと1ヶ月以上ありますが・・・。
これからの1ヶ月の塾のスケジュールがまたスゴイ・・。

そしてもうひとつは、次男の卓球の大会。
小学3年から続けている卓球ですが、(地域の人がボランティアで教えてくださっています)今日は、市のスポーツ大会。個人戦に出場した次男は、今年も優勝♪でした。(へへ・・・昨年も優勝だったのです)
次男はクールで、戦意を表に出すことのないタイプです。飄々とボールを返します。自分からはあまり攻めないけれど、相手の打ったきわどいコースの球やスマッシュをポンと返してしまう。相手は焦ってしまうんですね〜結局どの試合もストレートで勝ってしまいました。
点をとられてもあまり悔しがらない。そういう勝負に固執しないところが、いいのかなぁ。

とにかく、ふたりともおめでとう♪♪
幸せな1日でした。ありがとう♪

4


『優勝できなきゃ、走れないのか?じゃあおまえら、いずれ死ぬからって生きるのやめんのかよ』

箱根駅伝は興味ありながら、じっくり見たことがありません。多分、関西よりも地元の関東のほうが人気が高いのだと思います。そして、私個人的にはお正月って昼間に何時間もテレビにはりつく余裕が意外とないのです。なので、この本、乗り切れるかな〜と少々心配だったのですが、そんな心配全然無用、とっても楽しめました。
とくに主人公、走(かける)と、竹青荘の住人たちとの出会いの場面が面白い。それぞれ濃いキャラクターですが、皆憎めなくて、共同生活が何とも微笑ましくて、すんなり物語のペースに入っていくことができました。

とはいえ、大半が陸上経験のないメンバーで構成されているチームが、予選を突破して箱根駅伝に出場・・・!という設定は何だか漫画みたいで(という表現は漫画に失礼ですね)、面白いけれど、実際こんな夢みたいな話、リアリティないなぁなんて思いながら途中まで読んでいました。ところが、後半の駅伝の場面になると胸がきゅんきゅんと詰まってきたのです。10人のランナーたちのドラマ・・・、といっても、たとえば若くして死んだ友人のために、とか子供の頃の夢がどうの、とか不慮の事故を乗り越えて・・・・とかそういう心揺さぶるようなドラマではなくて、走りながら、これまでの自分自身を振り返り、これからの自分自身に思いを馳せる・・・走ることによって知ることができた自分自身・・・シンプルな思いと彼らの真剣さが心を打ってきたのです。何度も何度も涙があふれました。そして、表紙のイラストを見てはそれぞれの選手に「頑張れ〜」と声をかけたくなったり。このイラストは、秀逸です。表紙をこんなに繰り返し眺めた本はこれまでになかったかも。

個人的には箱根駅伝の舞台裏を垣間見ることができたのも興味深かった。例えば、予選会の様子とか、本選に向けての調整の仕方だとか、実際のレースの最中の駆け引きだとか(レースの進行に応じ、選手同士が頻繁に携帯で連絡を取り合っています。携帯のない時代はどうしていたのかな〜と素朴な疑問。無線?)。ニュースでいつも見るゴールの瞬間。あたりまえのようにメンバーたちが揃っているけれど、実は彼らはそれぞれの走り終えた地点から電車に乗って急いで戻ってくるんですね。いえ、ちょっと考えるとあたりまえなんですが。

爽やかな気持ちで、読み終えて、「やっぱりこんな話ありえないだろうなぁ・・・」と正直感じてしまいました。箱根を目指し、血を吐くようなトレーニングを積んでいる実際のアスリートやその関係者からすると、こんなの甘い甘いと気分を悪くするかもしれない。でも、それもこれも了解したうえで、やっぱり読んでよかったと思えるのです。読んでいるあいだだけでも夢のような気分を味わえる、こんな夢のようなお話があったっていいじゃないかって、真剣に思える。それが優れた小説のひとつのかたちなんだと、しみじみ実感できた1冊でした。

『箱根の山は蜃気楼ではない。箱根駅伝は夢の大会ではない。走る苦しみと喜びに満ちた、現実の大会だ。それは常に門戸を開いて、真摯に走りと向きあう学生を待っている。』

私も走の美しい走りを見てみたい!勇気をもらえそうですね。


5


加納さんの最新短編集です。良かった〜〜〜最高☆
まさに加納さんの本領発揮ですね。どのお話も、可愛くて、でも悲しくて、切なくて、そしてどこまでも温かい。
何度もほろっとしました。こういう路線を書かせたら、加納さんは抜群に巧いです。切なさが増してきている分、さらに巧くなってきているように思います。
今回の作品集は、ミステリ色は弱く、人と人のつながりや絆を考えさせられるテイストのものが多かったように思います。
そして共通するのは、過去に受けた心の傷・・・人は傷を決してなかったことにはできない。その傷を抱きしめて生きていくしかない。でも逃げずに向き合うことで、自分を正直に見つめることで、きっと優しい未来がやってくる・・・辛さのなかに希望が覗く、とても読後感の良い作品集。

印象に残ったのは、突然の事故で家族を失ってしまった中学生の女の子が、プーでニートな40歳のテツハル叔父さんとふたりで暮らすことになった『マイ・フーリッシュ・アンクル』、テツハル叔父さんの、不器用だけれども純なところについ涙がほろり・・・。
ザリガニの一人称の物語、『バルタン最期の日』は設定がユニークで楽しめます。最後はやっぱりほろり。
『ポトスの樹』のダメダメお父さんもいい味出してました。。(私って、ろくでなしで優しいキャラに弱いのかなぁ?)お父さんの持論は少々乱暴だとは思うけれども、案外真実なのかもしれない。親子の愛についてしみじみ考えさせられました。
表題作は、でっぷり太った野良猫を通じて、不思議な文通がはじまるお話。ネーミングが絶妙。表紙のイラストはお馴染みの菊池健さん。イメージぴったりです。

オススメです♪

4

(表紙を見て、「ハンカチ王子?!」と思ったのは私だけですか?)

「華麗なる一族」を買いに本屋に入ったのですが、そこで見つけたこの本。何と御手洗シリーズの最新刊ではないですか。こんな本出てたんですね〜知りませんでした。だって誰も感想記事書いてくれてないし。(→ファンなら自分で見つけなさい)
で、「華麗なる一族」を買うのをやめてこちらを買いました。(だって御手洗さんだもの。出会いは大切にしなきゃ)
何と、昨年は「月刊・島田荘司」と銘打った企画でがあって(実際ににそういう本がありましたよね?私も何冊か持ってます。まだ続いているのでしょうか)、6月から毎月島田作品が出版されていたらしい。そのうち、御手洗シリーズはこれと、「溺れる人魚」と「UFO大通り」の3冊。確か「摩天楼の怪人」という作品も読み残しているようなような記憶が・・・。知らないあいだに未読の御手洗作品が増えていた・・・!私としたことが・・・・。こうなったら、今から遅れを取り返すべく、即効図書館に予約を入れなくてはいけません。(って、買わんのかいっ)

何だか舞い上がってしまいました。
で、感想です。

『奇跡が起こったよ石岡君』

ロシア幽霊軍艦事件」(感想はこちら)の2ヵ月後、御手洗さんと石岡くんの家にひとりの青年が訪ねてきた。母親が自殺未遂を起こし、心配だと言う。話を聞いた御手洗さんは「ぼくが行ってお母さんに会っても、何もできないかもしれませんよ」といつになく自信のないことを言って・・・。

金融ローン会社の悪徳な手口に騙された人たちの悲劇と、裁判制度の矛盾が今回のテーマです。後半は、プロ野球選手になることに憧れ、ひたすら夢に向かってボールを投げ続けた、竹谷という青年の手記が綴られます。竹谷は才能はあるものの、プロに通用するには技量が足りず、一線で活躍することはできない。それでも彼のまっすぐな情熱がとても好感が持てます。また、武智という同年代のスター選手との出会いと友情のエピソードは、心あたたまるものでした。ちょっとウェット気味ではありますが、島田さんのこういうドラマのつくりかたは、私にとっては結構ツボにはまるもので、いつもほろりとさせられるのです。そして、きちんとテーマに繋がっていきます。
謎解きは、島田作品としては、少々インパクトが弱いトリックかな〜と思ったりもしますが、全体には竹谷の純粋な思いが伝わるいいお話だと思いました。一気に読み上げ、読後感もよかったです。

でも・・・ 御手洗さんと石岡くんの楽しいやりとりが前半三分の一ほどだけだったというのが、少し物足りなかったかな。
そして・・・今回は御手洗さん、推理らしい推理してないんですよね・・・・・これでいいのか。(微妙)
でもね、御手洗さんだから、評価はおまけしておきましょう〜〜〜。

3


いつか挑戦してみたいと思っていた、新潮クレストブックスシリーズ。
季節にぴったりのタイトルと表紙に惹かれ、図書館で借りてきて読みました。

期待どおりのとても素敵な短編集でした。「これは宝物のような本だ」という推薦文が載せられていますが、まさにそんな感じ。
舞台は、「赤毛のアン」で有名なプリンス・エドワード島のすぐ近くにある、カナダ東端のケープ・ブレトン島。そこには、スコットランド高地の移民が多く住み、作者もそのルーツを受け継いでいるとのことです。

厳寒の土地に暮らす人たちの日常を描いた短編集。その生活は素朴ではありますが、決して穏やかではなく、厳しい自然に抱かれ、動物たちの生態に肌をぴたりとあわせ、伝統や言い伝えに束縛されつつも、したたかに生きていく人たちが静かに描かれています。
表題作は、少年が、役立たずで力持ちの犬と猛吹雪のなか出かけて、湖に落ちてしまった体験の話で、読んでいて凍えそうになりました。どのお話にも犬が登場するのですが、どの犬もとても個性的なのが面白かったです。犬だけでなく、動物が出てくる場面はその動物の体臭を感じてしまうような生々しさもあって、不思議な感じがしました。厳しさのなかに、情緒があり、どのお話も決して美しいお話ではないけれど、なぜか心が澄んでいくような感覚になりました。

『自分の判断に確信を持つことや、物事をよく見て理解することは、常にむずかしい。だから、ロープのねじれた撚り糸を見て理解するのもむずかしい。そして、ねじれて、もつれてしまった愛の撚り糸を、よく見て理解するのは、いつの時代でもむずかしい。』

訳者あとがきで、少し解説があって助かったのですが、ケルト(ゲール)の地理的、歴史的背景や伝統については、全然知りませんでした。もっとこのあたりの背景がわかるとさらに深く楽しめたかもしれません。ちょっと調べてみようかな・・。

今年はできるだけ、クレストブックスシリーズを読んでいきたいと思います。

4


『俺さ、おまえとかけっこしたくて、この部に入ったんだよ』

直木賞、受賞なしですか。これも候補にあがってたんですが、残念でした。
ずっと続けてきたサッカーへの情熱が薄れてきたのを感じた新二は、高校入学を機会に中学時代からの友人、連とともに陸上部に入部する。
天才的なスプリンターである連とともに、陸上の経験値を上げていく新二。目指すはインターハイ!

佐藤さんは、「しゃべれども、しゃべれども」「黄色い目の魚」に続いて3冊めです。面白くって、全3巻(「イチニツイテ」「ヨウイ」「ドン」)、一気読みでした。高校生の男の子の一人称は、はじめは少々読みにくさがあったのですが、新二の陸上選手としての成長とともに次第に馴染んできました。とくに、400リレーにうちこむ選手たちの姿がとても清清しくて、思わず頑張れ〜と応援したくなります。100m走るあいだの微妙なペース配分、バトンパスの些細なタイミングの是非で、レースの行方が大きく左右されてしまう。どんなスポーツも同じだと思うのですが、本当にデリケートな世界。
先輩、後輩のつながり、兄への憧れ、故障との闘い、ほんのり恋の予感など、青春テイストオンパレードで、最後までぐいぐい引っ張られました。こういうお話は兄弟というのがとても似合います。うちも男の子ふたりなので、新二と健兄ちゃんのエピソードは、何だか母の気持ちになってしまいました(うちは陸上もサッカーもしてないですが)。辛い出来事もありましたが、物語はそこから一気に加速します。

そして、新二の相棒の連がかっこいいですね〜とにかく速くて、速くて、速くて。クールかと思えばあどけなさがあったり。こういう話では、人気を独占してしまうタイプですね(作中でも、読者のあいだでも、両方で)。私も結構ツボです、こういう男子。

陸上部顧問の「みっちゃん」、同期の根岸くん、などもとてもいい味を出しています。
新二に関しては、ひとつひとつの困難や疑問にまっすぐに向き合う正直さがとても爽やかでした。

『自分の気持ちをできるだけ相手に伝えたいと思う。自分が何か言うことで、何かを変えられると信じている』

私もそう思うんです。気持ちは伝えるものだと。伝えないとしんどいな、と・・・。人にはふたとおりあって、「気持ちを伝えたい人間」と「伝えなくてもよい人間」に分けられる。そして自分はまさしく「伝えたい」タイプだなぁ・・とそんなことを最近思っていたので、新二のこの言葉はとても嬉しかったです。

ストーリーもキャラクターも、ちょっと出来過ぎかな〜と思わないでもなかったですが、爽快でとにかく気持ちの良い本で、楽しい時間を過ごしました。
で、谷口さんとの純情の行方は・・・?まぁ、想像して楽しんどきましょ。

このページのトップヘ