容疑者Xの献身

「このミス」など、昨年のミステリ人気順位の首位を独占したこの作品。
読者の感想レビューを読んでもどれもこれも絶賛です。
なるほど、東野作品では近年になかった、純本格ミステリでした。

昨年読んだ藤原正彦さんの「天才の栄光と挫折―数学者列伝」(感想はこちら
という本で、世界の著明な数学者の数奇な人生が紹介されていましたが、やはり数学の魅力にとりつかれる人というのは、心底純粋でまっすぐなんですね。
ここで描かれている、石神という数学教師も、例外ではありませんでした。

読みはじめて真っ先に感じたのは「東野版<古畑任三郎>だ」ってこと。犯人はわかっている。どうやって殺したのかも読者にきちんと提示されている。犯人は犯行を隠すためにトリックを仕掛ける。一見完璧に仕組まれたようなトリックを、ほんの小さなほころびから切り崩していく、古畑役は、石神と同じ大学の同窓生で物理学者の湯川。同じ理系の学者だからこそ、わかりあえる。だからこそ、真相に行き当たった湯川の葛藤が痛々しくもありました。そのあたりのドラマが私は興味深かったです。

身をなげうって献身的に女性に尽くす、というのは「白夜行」にも通じるものがありますが、「白夜行」の雪穂と違って、靖子という女性は、美人ではあるだろうけれど、どちらかというと地味な普通の女性です。それほど魅力的にも思えないのですが、案外これが、この小説のポイントなのかもしれません。

実は中心のトリックに関しては、謎解きの直前に私は何となく思い当たりました。だからといって、感動が薄れたかというとそうではなく、読者にきちんと伏線を示し、真相に行き当たるように仕向けてくれているうえに、いざ真相が明らかになったときにきちんと驚愕させてくれる・・非常にフェアでまことに上質な本格ミステリだと思いました。

ただ・・・、石神の純粋な気持ちを否定するつもりはないけれど、靖子の立場にたつと、彼女の心情もかなり辛いと思うのです。こんなかたちで一生罪をひきずっていかなければならないというのは・・・。真っ直ぐすぎて、石神は真に相手の立場に立つことができていない。見えていない。これは辛い。
だからこそ、ラストシーンの石神の姿は心に突き刺さるような悲しさがあふれていました。

直木賞、東野さんで決まりでしょう〜でも個人的には「白夜行」を超えてはいないと思っています。
それにしても、東野さんの描く男性って、やっぱり「スカッ」としてないですね〜