僕が籍を置いているUnidos de Vila Isabelというエスコーラ ヂ サンバに、
Mangueirinhaくんという演奏家がいる。Trambique先生の生徒だった人
なので、僕の兄弟子にあたる。37歳。普段は眼光するどく、立派なあご
ひげとスキンヘッドの組み合わせで貫録たっぷり。

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昨年11月から今年2月末まで約4ヶ月の滞在中、彼と話さなかった日は1
日もない。毎日きまって朝10時ごろ電話が鳴って
「Aloooo bateriiiiiaaaa!!!!  起きたか? 今日は何してるんだ?」
と尋ねてきてくれるのだ。

演奏家としてももちろん素晴らしい人で、サンバ ソン セッチという老舗
のグループのメンバーであり、リオでいま流行っている有名無名のブロッ
コでも引っ張りだこだ。最近は、聴覚障害のある人たちにサンバの演奏を
教える大きな公共プロジェクトの先生として難題に取り組んでいる。
ピアニストLeandro Bragaのラジオ番組のアシスタントも務めている。

2009年まで10年以上もvila isabelの子供たちのバテリア(mirimという)の
先生兼指揮者をつとめていた。現在のVila Isabelのバテリアの中心に立って、
ぐいぐい引っ張っている10代の子たちを育てた功績者だ。

彼はVila Isabel地区にあるMorro dos macacosのコミュニティに生まれてそ
こで育って、いまも暮らしている。丘の一番下の通りにある、1階が自動車
の修理工場になっている立派な家。そして彼はVila Isabelのクアドラ(練習
場)もカーザ(家)と呼ぶ。

生粋のVilaっ子なのにMangaの小さいの=Mangueirinhaと言われるのは、彼
のお父さん・MangaさんがMangueira生まれだからだ。
その後、お父さんはお隣のSalgueiroのコミュニティ出身のお母さんと結婚し
て、地理的に真ん中に位置するVilaへ着地した(んだと思う)。

MangaさんはAcademicos do Salgueiroの、Ala de Harmoniaのヂレトールを
長年務めた人だ。お母さんは、いまのSalgueiroの女性代表・Reginaさんと旧
知の仲。このReginaさんの右腕として活躍している秘書のAlineは
Mangueirinhaの大親友。
リオのサンバのコミュニティはこうやって思わぬところで繋がっていることが
とても多い。
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Mangaさんはお酒が大好きで、バス停の脇のバーで夕方から飲んでいるのをよ
く見かけた。バスを待つ僕を見つけると、必ず、

「お!Mashu、なんだ帰るのか? 1杯飲まんか?」

と大きな声で呼んでくれた。

実はこのMangaさんが先日亡くなった。

きっと糖尿病だったと思う。立派なお腹をしてたし、心臓に負担がかかってい
たのかもしれない。いつも、塩抜きの下手な、ほんとにしょっぱいcarne seca
をつまみにいつまでもビールを飲んでいた。

翌日、Mangueirinhaからメッセージが来た。
お父さんが亡くなった報告に、

「お前は俺の兄弟だから」

と書き添えてあった。
言葉のかけようもなかった。

その後、お母さんと2人でどんな時間を過ごしているのか。
いますぐリオに飛んで行っておいおい一緒に泣きたい。

いつか、そう遠くない日に彼を日本に呼んで、弟弟子のブロッコで一緒に演奏
して欲しいと思う。