『夏音-Overture-』『夏音-June Strange Song-』『夏音-Ring-』。
批評空間でも明らかにデータ数が少なく、これだけのポテンシャルを秘めているのに、完全に埋もれてしまっている作品。
Overtureなど、二編はプレストーリーなので、本論はRingについて。
(勿論、プレストーリーも相当上質だ)
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まず起動する。この段階で一つの感動がある。
メーカーロゴが表示され、作品ロゴが表示される、次にスタートメニューが表示されるのだが、
ゲーム中の喫茶店の背景をベースに水色のスクリーンを掛け、ブロック状のボタンが表示される。
作品ロゴは小さく、左上に添えられるだけだ。
そして、最初の音の演出。00708
波音がわずかに、それも室内で聞くような、そう、喫茶店の立地条件を考慮した音質で波音が聞こえるのだ、わずかして、ラジオをチューニングするようなノイズと歪んだ音、そして流れ出すベイサイド風の静かなBGM、ややもして、食器やカップ、フォークやスプーン・ナイフなどを動かす音が聞こえてくるのだ。そう、このタイトル画面に既に「海辺に構える喫茶店の主がラジオをかけて、仕事を始める」という物語がこめられているのだ。
そこから、「BGM SELECT」へ行く。一見、所謂BGM閲覧かと思えば、BGMを選択し、スタートメニューに戻ってもそのBGMは再生されたままになる。
もっとも、さすがにノイズなどのエフェクトは消えてしまうのだが…。
さて、「START」を選び物語を開始させる。
すると、海、砂浜の背景が表示され、風の音と共に、ヒロインのひとり、星崎彩音の声でOvertureで使われたRitaの楽曲『夏音』が口ずさまれる。
開始から2フレーズを彼女が歌い終わると、舞台の鳥瞰、とんびの声、そしてなにやらぼそぼそと声が聞こえる。02749
榎津まおとまきいづみの声だ。すこしくぐもったイコライズがなされ、なにやら打ち合わせのような会話。『ねぇねぇ、最初の曲ってこれでいいんだよね?』など、そして、榎津まおが『3・2・1』とカウントダウン。次の瞬間『八重と紗枝の百合ヶ浜アフタヌーンウィンド!』と作中ラジオが流れ始める。
地域放送が作中に練りこまれている。
その地域放送ととんびの声を、BGMに主人公とヒロインが登場、会話を始めるのだ。
まさに、音で舞台を作り上げて行く、『夏音』とはこういう作品だ。
ちなみにラジオは5~6分ほど続いている。その間の会話は約20クリック。
すると主人公が『おぉっと。うるさいのが来たな』と言うと、僅かに左方向から、またRitaの『夏音』を今度はもうひとりのヒロイン霧坂鈴菜が口ずさむ声が聞こえてくる。
こうして、ヒロインが出揃うのだが、ヒロインは登場の際『夏音』を口ずさむ。
ヒロインを形付ける装置としてRitaの『夏音』が使われるのだ。
ある程度の会話を経て、また、海と砂浜風の音と共に彩音の声で先ほどの続きの2フレーズが口ずさまれる。
そこで、OPムービーに切り替わる。鮮烈なピアノのINと共に、鮮やかな背景を用いた青いムービーが流れる。みとせのりこの『Ture Blue』だ。
Littlewing作曲のこの曲の質はいわずもがな、みとせのりこの伸びのいい高音が実に耳心地よく爽やかだ。
OPムービーが終わると、水を掻く手のCGと共に主人公のモノローグが始まる。
『どこかの家の二階の窓で風鈴が鳴ったのを耳にして、そんな季節になったんだな、と思った』
というモノローグと共に風鈴の音が響く。
彼が所属する学園の水泳部、実力校と一般に謡われる実力があるのだが、主人公、そしてヒロインの一人を除いて全国大会の予選落ちをしてしまう、切々としたモノローグが展開する。00710
モノローグが終わると、主人公の家の外観が写され、玄関と移動し、こんどは聞えるか聞えないかほどの幽かな声で彩音が『夏音』を口ずさむ。段々とアップになるソックスに包まれた足。
勿論、足音のSE付きだ。


さて、ここで主人公を起こしにくる幼馴染というベタなイベントなのだが、ここで注目してほしいのは主人公の部屋の位置だ。00704
ここでは明らかにならないが、主人公の部屋は外観で目にする、二階にある。
そう、『どこかの家の二階の窓』での一文はまさに、舞台と音とテキストが見事にフィックスされているのだ。
その他、喫茶店内ではみとせのりこの仏語曲『Promenade』が流れる。
ふと会話の間が空くと無音になり、登場人物が瞬きをし、遠くからとんびの声が響く。
音と舞台を効果的に使った演出がなされる。
ここまで趣向を凝らした音の演出がなされている作品を見たことが無く、2005年9月にこの作品が発売されて以降もそうした作品を目にしていない。
この作品の演出については学び取る部分が多いのではないだろうか。

夏音-official web site-:http://natsunone.kitsunemimi.org/info.html
Breeze!!自体は解散してしまいましたが、体験版やサウンドトラックのトラック試聴などが出来ます。是非。
Little Wing 、Angel Note 、 ミリオンバンブー 、 Rembrandz 、M.U.T.S.MusicStudio、George Oharaが参加するサウンドトラックも名盤。
OriginalSoundTrack wavesは、Bossa好きにはたまりませんし、ArrangeSoundTrack shineはGeorge OharaによるOriental Mix(琉球調)も名曲。