2006年09月10日

SCENE 12:帰還すること

虹ヶ原 ホログラフ




あの日の蝶が
今、僕の目の前で
夜空一面を
埋めつくす。




本を買って、表通りに出たら、信じられないくらい雨が降っていた。
帰らない僕に対して誰かが腹を立ててるのかなと思ったが、「いいや違うな、小賢しい僕のために君が言い訳を作ってくれたんだろう」とすぐに思い直した。先生、今日雨降ってるんで何処にも行けません。宣誓、僕は息の根が止まるまで卑怯な人間で在り続けます。
そして、当然のように傘を持っていなかったので、買ったばかりの本がビニール袋にしっかり包まれているのを確認して、一歩前に出た。前に出たら後は簡単だ。帰らないと決める事も雨に濡れる事も。
昨日髪を切った時のパーマ液の匂いがする。頭皮で熱を得た雨水が背中に伝う感覚が分かる。温い。にわか雨だからずぶ濡れの僕が奇異な目で見られることはない。僕の脇を傘を持たない少年達が一生懸命駆けて行く。ははは、子供達。お兄さんは君らと同じ歳の時くらいから、「傘持ってなくて雨が降ったら、走ろうが歩こうが同じ。なら歩く」って明白な哲学を持ってたよそして今日に至る。だから君達は走れ。全力で。

帰り道で花屋を見つけたので入る事にした。適当に見繕ってブーケを作ってもらう事にする。生け花習ってた筈なのにセンスないよね僕は。でもとても綺麗な花を見つけたので「済みません、この花の名前何て云うんですか?」と訊くと「シデシャジンです」と教えてもらった。「どんな字を書くんですか?」と重ねて訊くと、総菜屋の黄色いチラシの裏に『シデシャジン』とカタカナで書いてもらった。結局その花はブーケのサイズに合わなかったから買わなかったけど、何だろうこのやりきれなさは。僕は漢字でどう書くか知りたかったのに。

そんな君が喜びそうなエピソードを連れて、僕は家の花瓶にブーケを放り込んだ。
「四手紗参」って書くらしいよ。買ってないけどさ。

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