
時間が交差していくのを感じた。
31年前に西武劇場で上演された初演。
唐十郎の戯曲、演出の蜷川幸雄はそのままに宮沢りえ、藤原竜也、西島隆弘という三人のメインキャストを得てのシアターコクーンのリニューアルオープンの初日。
31年前と今とを特別出演の唐十郎と蜷川幸雄が結ぶ。
舞台を見ていると理屈を超えて胸が揺さぶられる瞬間というのがあって、この舞台でも何度かそういう瞬間が訪れた。
6本目の指でお互いに触れ合うとき、宮沢りえ演じるキティ・瓢田が踊るタンゴ、また彼女の独白…言葉そのものの意味を超えて、その言葉に込められた思いや町の匂い、演じる役者の温度がじわっと客席にまで伝わってくる。その瞬間がたまらない。
舞台は唐十郎自身が幼少期を過ごしたという下谷万年町。
長屋にはたくさんオカマたちが暮らしていて、すぐ近くには不忍池がある。
辺りを仕切るオカマの代表であるお春のイロだった洋一(藤原竜也)は権力の象徴である警視総監の帽子を持って逃げている。
お春たちの一味が総監から奪った帽子だが、巡りめぐって帽子は洋一の手に。
その帽子の行方を追うようにお春から頼まれるのが文ちゃん(西島隆弘)だ。
帽子を追う内に当然ながら洋一と文ちゃんは出会い、行動を共にするようになる。
不忍池の奥底から死にかけたキティを抱きかかえて、出てくる洋一。
池の底からジリジリジリ…という芝居の開幕を知らせるベルが鳴り響く。

贅沢をいうなら、もう少し小さくて小汚い劇場でも見てみたかった、ということだろうか。
この戯曲を上演するにはシアターコクーンという劇場は少し広い。役者が池を行き来するたび水しぶきが飛び散るが、席が遠ければ遠いほど水しぶきは観客とは無関係なものになっていくのが惜しい。オカマたちのむせ返るような白粉姿も劇場が広い分だけ冷静に見ることができてしまうだろう。
ただこういった力強い猥雑さと美しさとが一体となった芝居を上演できるところがシアターコクーンの良さでもあると思う。どんな戯曲を上演しても独特の品が感じられる劇場であることが心地良い。
三幕構成での上演なのだが初日ということもあってか、三幕で話が佳境に向うのと同時にテンポも良くなってきた印象。
宮沢は話が進むにすれてどんどん魂がむき出しになっていくような雰囲気。余分なものが削がれていって、ただそこに心と身体が存在しているといった風。だからこそ時折、突き抜けた美しさを感じさせるのかもしれない。
藤原演じる洋一は物語の発端を作ってしまう存在。キティが探し求める演出家の“ようちゃん”と、自身を重ねていってしまうところが切ない。
出色は西島の文ちゃん。台詞の一つ一つに情感があり、伸ばした手の先の緊張感にも、起こりゆく出来事を見つめる繊細さにも惹きつけられた。宮沢りえ、藤原竜也の二人と並んでも遜色ない。
この文ちゃんと唐十郎自身とが重なってみえてくる。
唐自身を投影させた役が文ちゃんなのだろう。
不忍池の水面に映る自分自身、そしてオカマたちの姿。
水面は揺れて現実と幻想とが入り混じる。
6本目の指で掴むものは?紫色のサフランの花なのか、注射器なのか。
夢なのか現実なのかわからない、その混沌とした空気を劇場で存分に吸う。
初日は唐十郎、宮沢りえ、藤原竜也、西嶋隆弘らの熱演を目撃した観客からの熱いカーテンコールで幕を閉じた。
31年の時を超え、ひとつの事件に出会えたような興奮で胸がざわつく公演である。
『下谷万年町物語』
作◇唐十郎
演出◇蜷川幸雄
出演◇宮沢りえ 藤原竜也 西島隆弘
六平直政、金守珍、大門伍朗、原康義、井手らっきょ、柳憂怜、大富士
沢竜二、石井愃一、唐十郎 他
●1/6〜2/12◎Bunkamuraシアターコクーン
<HP>
http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/12_mannencho/index.html
【文/岩見那津子 撮影/冨田実布】
☆3月9日発売の演劇ぶっく4月号に『下谷万年町物語』に出演中の唐十郎さんのインタビューと舞台写真が掲載されます。
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