野田秀樹(劇作家・演出家・俳優)が、『THE BEE』で、36年間の演劇人生で初のワールドツアーを敢行中である。
2006年ロンドンで初演された『THE BEE』(英語版)は、野田と英国人俳優との5回におよぶワークショップを経て創られた作品で、1回目のワークショップは2003年、イラク戦争の後に行われた。
9.11から続く「報復の連鎖」を目の当たりにした野田は、20代で読んだ筒井康隆の短編小説『毟りあい』をワークショップの題材に使うことを考え、参加した英国人俳優が、何も言わなくても、現在の社会状況について語りだすのを見て、「やはり『毟りあい』は世界に通じるテーマだ」と確信し、舞台化を決定。
ローレンス・オリヴィエ賞受賞の英国を代表する名女優キャサリン・ハンターを迎え、2006年にロンドンで初演(英語上演)して、大きな衝撃と話題を巻き起こすと同時に高く評価され、現地の新聞評で最高星5つ星を取るなど、大絶賛を受けた。
翌年の2007年には日本でも上演、英語版と新たに制作した日本語版を連続上演して、その年の読売演劇大賞など演劇賞を総なめにして、演劇史に残る傑作となった。

左:野田秀樹、中央後:キャサリン・ハンター、
中央手前:グリン・プリチャード、右:クライブ・メンダス
作品の内容は、平凡なサラリーマンが妻子を人質に取られたことから復讐の鬼と化し、加害者の妻と子を監禁してしまう。その緊迫した状態の中で、被害者が加害者に転じていくプロセスや、互いに暴力を加えていくことで繰り返される「復讐の連鎖」を鋭く描き出している。英語版では、サラリーマンを英国女優のキャサリン・ハンターが演じ、監禁される妻を野田秀樹が演じたことでも、演劇界に新鮮な衝撃を与えた。
グリン・プリチャード、野田秀樹、キャサリン・ハンター、クライブ・メンダス
今回のワールドツアーは1月5日が初日で、野田の「9.11から10年を経たニューヨークで、この作品を上演したい」という思いによってニューヨークからスタート。世界各国から実験的なコンテンポラリー作品を招聘する演劇フェスティバルの「Under the Radar Festival(アンダー・ザ・レイダー・フェスティバル)」のオープニング・プログラムとして、1月15日まで上演される。
その後、1月24日から2月11日まで初演を行ったロンドンのソーホー・シアターでも、日本人の作・演出としては異例の約3週間の公演を行う。また、2月17日から19日まで香港で演劇フェスティバルへの正式招待作品として上演。そのワールドツアーの掉尾を飾るのが日本での公演で、2月24日から水天宮ピットでの東京公演を予定している。
今回のワールドツアーおよびこの『THE BEE』という作品について、野田は初日のレセプションで以下のように語った。
ーーニューヨークで公演することについて。
初演のロンドン(2006年)の稽古の時から、ニューヨークでこの作品をやりたいと話し合っていた。ニューヨークは世界を引っ張っている街だし、この『THE BEE』という作品は、いい意味でも悪い意味でもニューヨークにふさわしい作品だと思っていました。
ーーこれからの日本の演劇について。
蜷川さんは、蜷川さんのギリギリまでやっている。僕も、今の自分のやれることはぎりぎり限界までやってきた。これからの若い人は、今の自分より、もっと先にいけると思う。僕も最初は一人で海外に飛び込んで、海外の人たちと始めた。間違っていることもいっぱいあったけど、続けてみることで今の成果に繋がった。
ーー次に考えてることは?
今後は、日本でやってる規模の大きい作品を日本のカンパニーで海外に持っていきたい。
ーーキャサリン・ハンターについて。
ここまでこれたのは、単なる通訳がいれば話が通じるということではなくて、文化的な翻訳者としてキャサリン・ハンターが、一緒に作品を作ってくれるということが非常に大きかった。

野田秀樹とMark Russell(マーク・ラッセル)アンダー・ザ・レイダー・フェスティバル芸術監督
また、この9.11とイラク戦争に触発された世界情勢の鏡のような作品を、ニューヨークで上演することについても、以下のように答えている。
「9.11から10年を経てもビンラディン殺害のニュースを見て快哉を叫ぶニューヨーカーの姿を見て、10年間何も変わっていないアメリカの姿に愕然とした。しかし、その映像を見て、苦々しく思っているアメリカ人もいるはず。ぜひこの作品をニューヨークで上演したい、いろいろな思いを抱えているニューヨーカーに観てほしい」
ニューヨーク時間、1月5日20時45分に、『THE BEE』のニューヨーク公演が開幕した。
ジャパンソサエティ内オーディトリアムの270席の客席は満員御礼、後半になるにつれ、観客はどんどん作品に引き込まれ、静かに固唾を飲んで観ている。
カーテンコールでは、温かい拍手に包まれ、終演後は興奮冷めやらぬ様子で、テレビカメラなどのインタビューに答える観客の姿があった。
前日のドレスリハーサルが、思っていたような出来にはならなかったので、突然、自信を無くしてしまったんだよね。時々あるんだよね。そういうこと。それで、昨日の夜は眠れませんでした。
今日の初日の芝居は、非常に良い出来だったので、今までやってきたことが間違いなかったと確信できました。
あとは、ニューヨークのお客さんが今日の観客たちの評判を聞き、この作品を観にきてどんな反応をしてくれるのかが楽しみですね。
【観客のコメント】(若い女性のニューヨーカーが直接野田に話してくれたコメント)
この作品は、今のニューヨークには、必要な作品。最近のニューヨークでは、テクニカルなものによる作品が多いので、『THE BEE』のような、役者の身体や、シンプルなセットでみせる 演劇的な芝居は、絶対に多くの人が観るべきだと思う。
English Version 東京公演(英語上演・日本語字幕付き)
『THE BEE』
作・演出・出演◇野田秀樹
出演◇キャサリン・ハンター、グリン・プリチャード、マルチェロ・マーニ
●2/24〜3/11◎東京 水天宮ピット 大スタジオ
〈料金〉5000円 25歳以下2000円(枚数限定)
〈問合せ〉東京芸術劇場 03-5391-3010
【文/榊原和子 資料提供/東京芸術劇場 Photo/Michel Delsol】
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