撮影／阿部章仁シェイクスピア４大悲劇の1つ『マクベス』を、佐々木蔵之介がほぼ１人で演じきる舞台が、７月12日から始まる東京パルコ劇場を皮切りに、全国で上演される。
スコットランド・ナショナル・シアター（NTS）版のこの『マクベス』は、舞台となるのが精神病院。登場人物は病室に隔離された患者で、病室の監視カメラが患者の動きをすべて捕らえ、病棟のモニターに映し出される。そして、患者の中に内在した『マクベス』の登場人物が、『マクベス』の忌まわしいドラマを再現。観客は患者を通して『マクベス』を追体験していくことになる。
そんな大胆かつ野心的なコンセプトの舞台に関して、主演を務める佐々木蔵之介と演出家のアンドリュー・ゴールドバーグが話し合った製作発表会見を、演劇ぶっく６月号の誌面から別バージョンの写真とともにご紹介する。
そんな大胆かつ野心的なコンセプトの舞台に関して、主演を務める佐々木蔵之介と演出家のアンドリュー・ゴールドバーグが話し合った製作発表会見を、演劇ぶっく６月号の誌面から別バージョンの写真とともにご紹介する。
精神病院を舞台に患者が主人公の『マクベス』
アンドリュー 日本に来るのは初めてです。このような機会を与えていただきうれしく思います。
佐々木 今回、スコットランド・ナショナル・シアターの演出家とスタッフの方々に来ていただいて、『マクベス』を上演することになりました。とてもいい機会を与えていただいたと思っております。
アンドリュー この作品の成り立ちは、スコットランド出身であるアラン・カミングが、『マクベス』をやりたい、同時にマクベス夫人も演じてみたいという希望から始まりました。初めは、1公演ごとにマクベスとマクベス夫人を交互に演じるというアイデアで、2011年にリーディングでスタートして、そのときは女優さんと交互に読みましたが、思ったほどの成果は得られませんでした。その後、劇中の「白痴が喋る物語」という台詞から、精神病院を舞台に患者が主人公の『マクベス』というアイデアを得て、それをアランと共同演出のジョン・ティファニーとシェアしたところから始まりました。アラン主演で成功をおさめ、NYやブロードウェイで120回以上上演しています。
──佐々木さんは初めての一人芝居ということですが、何役くらい演じるのですか？
佐々木 魔女三人、マクベス、バンクォー、マクベス夫人、国王、マクダフ、マクダフ夫人、まだまだありますから、20役くらいあると思います。一人芝居のオファーは何度かありましたが絶対にやらないと断ってきました（笑）。今回も「僕、やるって言ったっけ？」と何度もマネージャーに聞いたのに（笑）、今、こういう形で記者発表になっているのがすごく怖いんですが（笑）。『マクベス』でも、彼が登場して最初に放つ台詞が「ひどいのかいいのか、こんな日は初めてだ」と。魔女も「キレイは汚い、汚いはキレイ」とか、どっちなんだというのが『マクベス』で（笑）。もちろんやる気ではありますが、いつでも逃げる準備はできてるんです（笑）。
──今回ワークショップもしたそうですが。
アンドリュー 大きな発見がありました。素晴らしい演技というものは普遍的だなと。蔵之介さんの台詞の繊細さとか知性とか、テキストも深く読んでいて、分析など素晴らしいと思いました。
佐々木 なんでも必ず誉めてくださるんですよ。それは気持ちいいかなと（笑）。やはりシェイクスピアは難解だなと思っていて。しかも１人でこんなに沢山の役をやるのは難しいんじゃないかと。でも逆に精神病院という設定で、日本でいったら江戸時代みたいな台詞を、勝手に１人でずっと喋っているという。そういう芝居って、かえって面白いなと。アンディによるとリンカーンセンターでの公演は、今までより若いお客様が来てくれて、「シェイクスピアは難しいと思ってたけどこんなに面白いんだ」という声を聞いたそうです。そして「今までいろいろな国でいろいろな人が『マクベス』をやってきたけど、今回は、このカンパニーならではの面白さのある革新的な『マクベス』にしたい」と話していて、演劇を見ていらっしゃるかたはもちろん、そうでない方も楽しめる舞台にしようと。そういう方と一緒に芝居をできることはとても嬉しく思います。
役者冥利に尽きるマクベスの台詞
──日本版はどうなりそうですか？
アンドリュー NTS版がオリジナルですが、新しいものとして作っていきたいと思っています。というのも、日本の伝統的な演劇を尊敬していますし、日本のお客様は、僕らとは違う演劇の考え方や関係性を持っていると思うからです。この夏からの稽古では、そういったところを意識しながら日本の方々とコラボレーションして、新しい創作をしたいと思っています。
佐々木 今、英語台本と日本語台本を見比べながら、いろいろ話しています。「この韻はどう訳されてるの？」と聞かれるので、「違う意味合いですが美しい言葉になってますよ」と答えたり、台詞のカットなども「これがあなたに必要なら入れるし、必要ないならカットします」と。決してガチガチではなく、『マクベス』を、いま実際に起こっている事件として見せていく。台詞はシェイクスピアなんですけどね。そういうことがとても楽しいです。
──一人芝居への不安は？
佐々木 心配と不安しかないですね（笑）。ただ、何が心配で何が不安かということもわからない状況でワークショップに入ったので、さらに心配と不安が増えました（笑）。でも一筋の光くらいは見えたかもしれません。台詞を読んでいくと、マクベスの台詞ってかっこいいんですよね。こんな台詞を言わせて貰えるなんて役者冥利に尽きるなと思います。それから、マクベス役は一度やらせていただいたことはあるんですが、今回、マクベス夫人の台詞も言えることに感動を覚えています。素敵な台詞がたくさんあるので。それにしても台詞量が多すぎます（笑）。
アンドリュー 何役もするので、役が変わったときにそれをちゃんと認識させることが必要ですが、衣裳が変わるわけでもないし、なにでわからせるかは蔵之介さんの演技にかかっています。その身体や声の変化ですね。そこが大切です。20人分の俳優の仕事なので、20人分がんばっていただきたいですね（笑）。
──NTS版を演じたアラン・カミングさんの演技の印象は？
佐々木 資料映像を見たのはこの話が動き出したあとで、逃げようかと思いました（笑）。物語の頭から最後までやり続けてものすごいドラマになっている。役を演じ分けるというより彼の中にマクダフもマクベス夫人もバンクォーもいて、それが表に出てくる。人間って自分の中にいろいろな心があると思うんです。それを出していく。そこがすごいなと。
アンドリュー アランもこの日本版を本当に楽しみにしていて、「この『マクベス』は今までの俳優人生の中で一番たいへんだった。蔵之介さんがんばって、グッドラック！」というメッセージを預かってきました（笑）。
〈公演情報〉
作◇W.シェイクスピア
作◇W.シェイクスピア
日本版演出◇アンドリュー・ゴールドバーグ
翻訳◇松岡和子訳『マクベス』より
演出補◇谷賢一
出演◇佐々木蔵之介 ほか
●7/12〜8/2◎パルコ劇場
〈料金〉￥8,500 プレビュー公演￥8,000 U-25チケット￥5,000（全席指定・税込）
〈料金〉￥8,500 プレビュー公演￥8,000 U-25チケット￥5,000（全席指定・税込）
〈お問い合わせ〉パルコ劇場 03-3477-5858
●8/8〜9◎穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホール
●8/12〜17◎森ノ宮ピロティホール
●8/22〜23◎KAAT神奈川芸術劇場
●8/28〜30◎北九州芸術劇場・中劇場
【取材・文・撮影／中山圭】
