tpt(シアタープロジェクト・東京)がプロデュースする『袴垂れはどこだ』が、11月17日から「すみだパークスタジオ倉」で公演中である。
戦乱と圧政の苛酷な中世、「あわれなるかな草も枯れ 鳥もうたわぬ世なりけり」と嘆き歌われた時代に、いつか民衆を救にやってきてくれると信じられていた義賊が「袴垂れ」。
その伝説の人物をタイトルロールにしたこの作品は、『真田風雲録』『オッペケペ』などの傑作で知られる福田善之の戯曲で、1964年、劇団青年芸術劇場(青芸)によって初演された。
当時はまさに学生運動や安保闘争で激しく日本社会が揺れ動いていた時代で、この戯曲はそんな状況に警鐘を打ち鳴らし、その年の岸田戯曲賞を受賞している(福田氏は受賞を辞退)。
その作品が、千葉哲也の演出で群衆劇的な要素も加えた舞台となって甦った。
出演者は総勢39名。山本亨、鈴木ゆき、真那胡敬二というメインキャストたちに、オーディション・ワークショップから選ばれた34名が加わって、戯曲には出て来ても、これまでは舞台上に登場しなかった役どころも全部登場することで、よりリアリティと迫力を増して、民衆の視点から社会を描いたこの作品のエネルギーをダイレクトに伝えてくる舞台となっている。
公演の初日前に稽古場を見る機会を得たので、その様子をレポートするとともに、メインキャストをつとめる山本亨と、演出を手がける千葉哲也に話を聞いた。
上演する劇場「倉」が同じ敷地内にある「すみだパークスタジオ」、その一角にある広い稽古場に30人以上の出演者が集まっている。ほとんどが若い俳優たちだけに自然とあちこちから笑いがあがって、明るく賑やかな雰囲気だ。
ちょうどその日の稽古は幕間狂言の場面で、真那古敬二を中心に村人たちがそれぞれの夢を語り合い笑い、歌い踊っている。初演時(1964年)の演出家だった観世栄夫が、それまでは持ち込むのを避けていた「能」の様式を意識して取り入れたという場面だけに、どこか戯画化された軽さとのどかな笑いを感じさせる。
やがてその笑いの中で、1人の村の若者が暴れ出す。優しげな青年なのだが眠りの淵から醒めないままに、意識下に押し込めてあった恨みつらみを一気に噴出させるのだ。
その様子は衝撃的で、この作品の底辺に流れる人間の心の闇が伝わってくる。


演出席で俳優たちを眺める千葉哲也は、穏やかな笑顔ながらも細かくチェックしていて、気になる点は立ってそばに行き、自分でやってみせる。
その動きや表現は俳優としてのキャリアを感じさせて適確なだけに、おそらく俳優たちにも伝わりやすいのだろう、指導された俳優はすぐに芝居を変化させる。
この日も暴れ出す若者役の岡山天音はまだ17歳という若さだけに、千葉の指示と説明をすぐに吸収して演技が変わっていくのを目の当たりに見せてくれた。
群衆たちのフォーメーションを振付け家と考えながら動かし、また、若い俳優たちのパワーと真那古敬二などベテランの巧みな演技を組み合わせながら、短い幕間狂言の場面の中にも、めりはりとテーマをくっきりと描き出していく。
そんな演出の片鱗にこの作品のエネルギーがうかがえて、仕上がりが楽しみな稽古場となっていた。
【千葉哲也インタビュー】

最近は俳優としてだけでなく演出家としても活躍中の千葉哲也。tptでは06年の『スラブ・ボーイズ』を皮切りに4作品を手がけていて、読売演劇大賞優秀演出家賞などを受賞している。約2年ぶりとなったtptでの演出とこの作品について話してもらった。
ーー出演者の人数がすごいのですが、千葉さんの発想だとか?
オーディションで選んだ若い俳優たちが34人ほど出ています。戯曲にはおじいと少女と男と村人7人だけが固定で、実際は登場してこない人物がたくさんいるんですが、その人たちを登場させたいという意図があったんです。基本的には黒子ということで出てもらって、たとえば今の夢の場面では美女になったり、他のシーンでは風景にもなるし、雪も降らしたりとかいろいろ活躍してもらってます。
ーーこの作品はタイトルがちょっと抽象的ですが、内容はとても伝わりやすいですね。
そう思います。僕は青年座の養成所時代に同じ福田善之さんの『真田風雲禄』をやっているのですが、今回のこの話もすごくわかりやすいし、素晴らしい作品だなと思います。60年安保が引っかかっていると思うんですが、それを知らなくても人間の中に巣食っている「善と悪が共存できるか」とか「理想だけでは前に進んでいけないけれど、それでも前に進まなくてはいけない我々」とか、そういうところには共感を抱けると思います。そして「前に進んでいくということはどういうことなんだろう」と考えさせられる。そういう意味では今のこの状況とか現実の中で、なんとか生きていかなくてはならないという今の僕らのこのエネルギーをそのまま表現するしかないと思っています。
ーー作者の福田さんにも会われたそうですね?
福田さんはチャーミングな紳士で、「この本のどこが面白いの?」と言われました(笑)。でもすごく面白い本だと思います。「袴垂れ」というのは、観た方のそれぞれの中にあるものだと思うし、どこにいるかわからない「袴垂れ」は、理想であり夢であり、それを見つけるには自分から足で歩き始めないと見つからない。そういう意味では今の僕らにふさわしい戯曲です。
ーー千葉さんはtptで演出家として良い仕事をされていて演劇賞も受けられましたね。
ここでは若い人と一緒にやれることで、実験的な作品や新しい作品に取り組みやすいのが有り難いですね。演劇現場が少ない中で、無名の若い俳優たちがオーディションを受けにきて、受かれば舞台に出られて、山本さんや真那古さんのようなキャリアのある俳優さんと一緒の舞台に立てていろいろなことを教われる。そういうチャンスがあるのがとてもいいなと。僕自身も教えられることも多いです。そういう創造現場の活気とエネルギーが伝わるのが、テレビや映画とは違う生の演劇ならではのよさですし、そういう創造の場にぜひお客さんも立ち合っていただきたいですね。
【山本亨インタビュー】

いつかやってきて自分たちを救ってくれる「袴垂れ」を心待ちにして旅をする村人たち。その前に1人の男が現れる。人も殺すし村人にも手加減せずに勝手気ままに振る舞う男は、「わしが本物の袴垂れじゃ」と名乗る。本物かどうか分からない、この「男」を演じるのが、ベテラン俳優でtptへの出演も数多い山本亨である。
ーー役名は「男」ということですが、本物の「袴垂れ」なのでしょうか?
彼が皆の憧れる「袴垂れ」なのかどうかということは物語が進むにつれて解き明かされていく、と同時に、村人たちが探し求める「袴垂れ」とはどういうものなのかということもわかってくるんですが、それ以上はお客さんの想像にまかせる話だと思っています。
ーー福田善之作品への出演はこれが初めてだそうですね?
そうです。『真田風雲禄』をはじめ、素晴らしい作品を沢山書いていらっしゃる作家だという知識はあったんですが、台本を読んだときに言葉が綺麗だなと、詩人みたいだなと思いました。
ーーテーマについてはどんなふうに感じていますか?
この作品の民衆が自分たちの力で切り開いていこうとすることと、今、みんなで芝居を作り上げていく過程にちょうどリンクするし、震災後の状況にもリンクすると思います。たぶん福田先生の作品を知らないような若い方も多いと思いますが、そういう人たちにぜひ観てほしいし、こんなすごい作品があるんだということをわかってほしいです。
ーー千葉さんの演出も初めてだとか?
共演はしているんですが、演出を受けるのは初めてなんです。ご自分も俳優さんなので俳優の気持ちがよくわかっていただけることと、自身の経験の中から考えてくれて言ってくれるのでわかりやすいですね。それにしっかり人を見てくれるので安心感がある。若い人の才能もきちんと引き出せる演出家だと思います。
ーーtptには数多く出ていらっしゃいますが、ここでの作品作りについてはいかがですか?
実は今回5年ぶりなんです。いろいろな作品に出させてもらったし、いい経験をさせてもらったので、今回、久しぶりに参加できて嬉しいです。
ーー中心の役で30人以上の若い人たちを引っ張る立場ですね。
いや、引っ張るというより自分のことで一生懸命で(笑)。でも、みんなワークショップで集まってオーディションで受かった人たちですから、やる気がすごい。経験の有る無しとか上手い下手ではなく、この作品は群像劇ですから、彼らのあのエネルギーがそのまま伝わるといいなと思ってます。僕も負けないように自分の役を一生懸命やるしかないです。
『袴垂れはどこだ』
作◇福田善之
演出◇千葉哲也
美術◇朝倉摂
出演◇山本亨、鈴木ゆき、真那胡敬二/岡山天音、上田和弘、山田宏平、江前陽平、熊本昭博 他
11/17〜30◎すみだパークスタジオ倉
〈料金〉4000円(全席指定・税込)
〈問合せ〉tpt シアタープロジェクト東京 03-3635-6355
http://www.tpt.co.jp (PC)
【取材・文/榊原和子】















































