演劇ファンには『ア・ラ・カルト』でおなじみの中西俊博は、ジャズ、ポップス・ヴァイオリン奏者として活躍中だが、彼の5人編成のバンド“Reel’s Trip”(リールズ・トリップ)のコンサートが、青山円形劇場で1月末に開催される。
この“Reel’s Trip”シリーズは2009年から始まり今回で3回目だが、ヴァイオリン(中西俊博)、ベース(木村将之)、ピアノ(伊賀拓郎)、ギター(ファルコン)、パーカッション(はたけやま裕)という5人が、個々の音を尊重し、音で旅をし、色や景色を奏で、音でイメージを表現するというドラマティックなライブだ。
昨年の副題は「水の記憶」、水が流れていく先で出会う国や人々、光景などを浮かび上がらせながら、水から生まれるさまざまなイメージを音で表現してみせた。
今年は「はじめてのひかり」として、中西俊博自身がクラシックからポップス・ジャズフィールドに転向して現在に至るミニ個人史や、テーマのイメージを構築したものになるという。そのライブへの思いを話してもらった。
ーー昨年の「水」に続いて、今回は「光」がテーマということですが?
光という言葉にはいろいろな意味があると思うんです。具体的な光もあれば抽象的な意味での光。たとえば目に見える光や心の中の光、そして闇の中の消えそうな光やまばゆいばかりの壮大な光、そんなものから生まれてくるイメージを音で表現してみたいと思ったんです。
ーーそういう意味ではやはり大震災と結びつけてしまうのですが。
実際に被害を受けていない僕が言葉で何かを語るなどおこがましいと思っているのですが、この現実も含めて音楽で光を表現していかなくてはならないという思いはあるんです。被災地には教え子が何人かいて、あの当時、僕のところにくるメールには「暗くて寒い」とか「水を飲みたい」、「光がない」、そういう言葉があったんです。それがとても心に突き刺さっていたし、それに応えられない事が歯がゆかったです。
ーーそういえばチャリティコンサートもされましたね。
そうですね。教会でやったんですが、1日2回公演が満員になって。そしてコンサートに来れない人が寄付金を送金してくれて。制作側も一人も経費を取らずに100%被災地に渡すことが出来て嬉しかったです。
ーーもともと中西さんの音楽作りは自然と共振する部分があったので、今年のそういう状況の中でこの副題になったというのはわかる気がします。
タイトルは「光」なのですが、同時に闇というものも表現していけたらと思っています。光があるということは闇もあるということですから。そして闇の中だと一筋の光でもすごく大きく見える。そんなふうに、どの場所から何をどう見るか、それによって変わる光の多様なイメージを音で表現したいと思っているんです。
ーー今回のもう1つのコンセプトですが、ご自分のオリジナル曲にもう1度向かい合うということもあるそうですが?
昔は自分がプレーヤーであることと、作曲家であり同時にアレンジャーであることは切り離せなかったんですが、最近プレーヤーとしての活動が増えてきて、そのプレーヤーの僕が自分の曲を切り離して聴くと、意外と楽しめるようになってきたんです。それで、自分がこれまでに作った曲を純粋にプレーヤーとして演奏してみようかなと。
ーーそれは楽しみですね。アレンジはどんな感じになるのですか?
今の自分はちょっとハードなほうにきてしまっているので(笑)、昔のものはなるべく昔のままでやろうと思っているんです。そのほうがお客様も喜んでくれると思いますし、デビューしたての頃の、沢山の人たちの前で演奏したいとか、そういう真っ直ぐな思いを曲に込めたときの気持ちは、ある意味で「光」とも言えるわけですから。
ーーまさに原点を見つめるわけですね。
それと同時に、今の自分はそういう年齢になったからだと思うのですが、いつかは死ぬということを考えるんです。そして死ぬ時には満足したいという思いがある。若い頃は何でもすぐに結果を出したかったし、世間的な成功を求めていた。死ぬ時に自分が満足することはなんだろうと考えるとお金でもないし地位でもない、「良い時間を過ごした」と最後に思えることだろうなと。結果を出すということよりも、何かに向かって一生懸命物を作っていることがいい。そのために迷っている事や避けている事に決着をつけたいと思うようになったんです。だから最近ちょっと逃げていた昔の自分、そして曲と向き合ってみたいんです。
ーー自分の足跡を確認してみるということですね。
昔作った曲って、今弾くとなんか照れくさいんです。そういう曲を作曲家としてでなくミュージシャンとして向き合ってみる。これをやってみたい。
ーー肯定的な意味で客観化するみたいなことですか?
そうですね。避けずに一度向き合いたいです。演奏する自分が楽しみだし、きっとお客様にも新鮮に聞いていただけると思います。
ーーこのライブはジャンルも多様で前回はケルトが沢山入ってましたが?
今回はプログレとかクラシックも入りそうです。このバンドのメンバーは若手ばかりで、彼らのおかげで僕の興味の幅がすごく広がっています。それぞれ優れたミュージシャンですし、個性豊かなメンバーなのですごく触発されるし、影響される部分も大きいんです。彼らの良さをどんどん生かしながら、このメンバーならではのサウンドをお客様に届けられるように、演出家の吉澤耕一さんと考えているところです。
ーー吉澤耕一さんの演出やスタッフワークも毎回楽しみですね。
吉澤さんの演出が、ライブに奥行きを作ってくれます。それに懐が深くて、僕が音楽家の立場から「ムリかな?」と思っていることでも、発想の自由さで助けてくれるんです。照明や音響も僕のイメージを期待以上にふくらませてお客様に伝えてくれる、センスのいいチームです。みんなで作っているステージ、一度客席で観てみたいもんだなあ(笑)。
ーー1年の始まりに素敵なライブを楽しみにしています。
年明けに「光」を表現するライブですから、明るい気分で楽しんでいただきたいですね。
中西俊博 Leapingbow2012
『Reel’s Trip 〜はじめてのひかり〜』
演出◇吉澤耕一
出演◇中西俊博(vln)
木村将之(ba)、ファルコン(g)、伊賀拓郎(pf)、はたけやま裕(perc)
●2012/1/28〜29◎青山円形劇場
〈料金〉6000円 未就学児の入場不可
〈問合せ〉こどもの城劇場事業本部 03-3797-5678
【取材・文/榊原和子 撮影/冨田実布】
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