数学って面白い!?

数学の面白い性質や懸賞金問題、果ては受験対策まで、日々に溢れる数学を紹介します。

雑誌「数学教育」1月号の記事を執筆しました

大変長らくご無沙汰しておりました。お久しぶりです。


前回の更新から二年弱の間に、数学界からは様々なニュースが聞こえてきました。


最も大きかったのは、何と言っても、京大の望月教授によるABC予想解決の報道ではないかと思います。

ABC予想とは、かなり大雑把にいうと、「べき乗とべき乗を足したものが、またべき乗になるってことは、あまりないんじゃないか?」という予想です。

ピタゴラス数なんかは、この主張を満たさない例です。例えば3の2乗と4の2乗を足すと5の2乗というべき乗数になりますよね。

しかし、2乗程度ではなく、高い乗数の数同士を足した場合、その結果は、高い乗数の数にはならなそうです。例えば、2の7乗と3の8乗の和は6689という素数であり、べき乗数ではありません。2の7乗と3の9乗の和だと、答えは19811で、これは11×1801という合成数ではありますが、やはりべき乗数ではありません。

このように「べき乗とべき乗の和」と「べき乗」の関係を述べた定理ですから、巷で言われているように、「ABC予想の帰結としてフェルマーの最終定理が出る」という流れも納得できますね。

ただ、望月教授の原論文を流し見た限りだとフェルマーの最終定理を示してはいないようですし、「ABC予想→フェルマーの最終定理」の論理はそこまで単純ではないような印象を受けます。ネット上で見かける理屈を見る限りでは、私はまだ理解/納得できていないので、ちゃんとわかったらいずれまた、お伝えさせて頂きたいと思います。


ABC予想の次に私が興味深いと思ったニュースは、今年5月に発表された双子素数予想の進展です。

双子素数予想は「pとp+2が共に素数になるようなpは無限に存在する」という定理ですが、これよりも少し弱い結果である「差が70,000,000以内の素数のペアは無限に存在する」という事実を、ニューハンプシャー大学の張益唐氏が証明しました。

ABC予想を解決したとされる望月教授の論文は現在査読中で、厳密には解決「か?」という段階(とは言えほぼ間違いないのでしょうが…)なのに対し、双子素数を進展させた張氏の論文はAnnals of Mathematicsという名門ジャーナルの査読を通って出版されていますから、「まぎれもない事実だ!」というインパクトも考慮すると、ABC予想に負けず劣らずの大ニュースだと思います。

この「差が7千万以内」という事実の受け止め方は、数学者とそうでない人とで異なるかもしれません。

実生活では70,000,000という数は非常に大きな数ですが、以前「すごく大きな数」と「無限」の違いという記事でご紹介した通り、数学において「何者にも依存しない有限の数で抑えられた」という事実は、紛れもなく、大きな進展です。

ところで、この論文が出たことの意味は、「双子素数予想を解決に近づけた」ことの他に、「双子素数予想を解決させようと思う人を増やした」ことにもあると思います。以前私が属していた暗号業界ではよくあることなのですが、一般に、今回のようなイノベーションが一度起こると、この「70,000,000」という数をどこまで小さくできるのか、世界中の研究者が試みるようになります。

実際に、そのトライアルの結果はBounded gaps between primesというウェブページで現在も日々更新されていっています。

「どこまで縮められるか知りたい」という純粋な知的好奇心や、「今この仕事でなら研究者として名を残せそう」等、動機は様々だと思いますが、いずれにせよ、たとえ「1」でも、縮まるたびに確実に解決に向かっている印象を受けて、わくわくしますね。このままの流れで「差が2」までたどり着くのか、はたまたもう一段か二段のイノベーションが必要なのかはわかりませんが、とにかく双子素数からは暫く目が離せません。


素数というと、今シーズンのテレビドラマ「相棒」第2話では容疑者が数学者で、素数/リーマン予想/暗号といったトピックが扱われていました。

杉下警部が容疑者の研究室を訪ねて行った時に容疑者が描いていたグラフが楕円曲線(楕円曲線を用いると安全な暗号系を構成することができる)だったりと、細部までかなり拘ってあって、どなたが監修したのかなぁと思いながら見ていました。数学好きの方にはお勧めの回です。



さて、漸く表題の件について。

以前もお世話になった明治図書さん刊行の月刊誌「数学教育」の2014年1月号に、記事を執筆させて頂きました。
 ・私が担当したのはp10-p11の2頁
 ・既に刊行されています

実は少し前から、数学の面白さを伝える活動(執筆/講演/家庭教師/オンライン教師など)に再び力を入れ始めております。(なぜ再開したか、理由はいずれ改めてブログ記事でお伝えさせて頂きます)

家庭教師とオンライン教師については、生徒さんの募集を一時中断していますが、現在受け持っている生徒さんの一部が卒業される2014年3月にまた募集再開させて頂きたいと思っております。2014年3月以降の指導をご希望頂ける方は、下記ホームページの情報もご参照の上、math.tutor.contact (at) gmail.comまでご連絡頂ければ幸いです。空きが出次第、ご予約いただいた順にご連絡させて頂きます。

ホームページ:http://mathtutor.main.jp/


また、更新頻度は低いのですが、メルマガとtwitterも始めました。

メルマガ:http://www.mag2.com/m/0001615924.html
twitter:https://twitter.com/MathTutorTetsu

今後、ブログ更新情報などのあらゆる情報はtwitterに集約していこうと考えておりますので、よろしければフォローして頂けると嬉しいです。


今回の執筆記事について。

雑誌「数学教育」は、主に中学校で数学を指導している先生を対象とする月刊誌です。

私の小中学生時代には無かったと思うのですが、今、文科省は「全国学力・学習状況調査」という学力テストを全国の小中学生に毎年課しているようです。その中の「数学B」という科目で良い点を取るための対策として、どのような授業をして行けば良いか、というのが、「数学教育」1月号の主題になっています。

私はこれまで、数学という学問の中における「受験数学」は、「問題を解くために必要かつ十分な情報が予め用意されている」という点で異質なものだと思ってきました。このような異質性があるので、「数学」という科目がある程度得意な中高生に対しては「問題文の中の条件を全て使い切ることを意識すれば良いよ。全ての条件を一回ずつ適切に使っていけば、だいたいの問題は必ずとける」と伝えると、すぐにもう一段成績が伸びたりします。このブログでもたびたびお伝えしてきたことです。

しかしながら、数学という学問自体は、そんなに楽なものでもなければ、窮屈なものでもありません。

私の個人的見解ですが、数学の研究は、条件を緩めてみても面白いことが言えたり、逆に条件を強めなければならない状況ではどこまで緩い強め方をできるか、という綱渡りのようなバランス調整を手さぐりでやっていくことが醍醐味の一つだと思っています。そして、そのために必要な能力は、与えられた条件を上手く素早く使い切る能力とは一致しません。

従って、「答えが一つになる数学が好きで、理系になった」という高校生には少し違和感を覚えたりします。入口はそれでも良いのですが、数学の豊かさを実感すると、「答えまでの辿り方がたくさんある中で、一番良いと思える物を探すのが好き」というような印象を抱くようになると思いますし、そういう意識でいた方が楽しく研究できるはずです。

狭義の研究者になるという目的以外を考えてみても、「お膳立てされた課題を素早く解く」という能力だけを磨いて社会に出ると、高性能下請けマンにはなれるかもしれませんが、途中で生じた問題に臨機応変に対応しつつ、課題自体を変容させながら道を切り開いていく、という意識はなかなかつかないのではないかと思います。

この意味で、多くの学生が口にする「数学なんてやってて将来何のためになるんだ!」という愚痴は本質をついていて、こういう質問に対して説得力のある返事をしてあげられるように、教え込む側が、指導内容/生徒に求める力を変えていかなければならないのかもしれません。


このような問題意識は当然、文科省の偉い方々も持っているはずで、生徒に求める力を変えて行こうという意識の現れが「数学B」の問題に反映されているように、私には感じます。

今までの所謂「受験の数学」と決定的に違うのが、余分な情報が一定量あるところです。すなわち、問題を解くために十分な情報は当然盛り込まれているが、必ずしも必要でない情報もあって、解く側は、まずは目的に応じてそれらの情報を取捨選択するところから始めなければなりません。

こういう能力を求めていくのは良い傾向だと感じますが、求められる小中学生にとっては余計な苦労が増えたと感じる変化ですし、指導する先生方も、教え方を工夫する必要があって大変だと思います。よって今回、「数学教育」で、こんな特集が組まれたのでしょう。

「数学B」の問題は、身近な現象を定式化して解明する、ということをガイドつきでやらせるような設問が多いので、そのような問題に抵抗なく取り組めるようになるにはどうしたら良いか、ほんの2頁ではありますが、精一杯考えて書かせて頂きました。


今後も、数学の話題を各所で発信させて頂きたいと考えておりますので、「こんな面白い話を聞いた」「中高生の頃、こういうふうに教わりたかった」「これって数学で何とかできる問題ですか?」など、「数学」というキーワードで思うことがある方は何でも、お伝え頂けると嬉しいです。


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結婚と数学

突然のご報告になりますが、今月中旬に結婚式を挙げました。

家庭を持つにあたって、色々と思うところがあり、今月いっぱいで数学の研究を辞めることにもなりました。4月からは、外資系戦略コンサルティング会社にて、経営コンサルタントとして勤務することが内定しています。

このような決断に至った動機などはまた記事末尾に述べさせていただきますが、差し当たって読者の皆さまに関係のあることとして、今後は記事の更新頻度が今よりも更に低くなることと思います。

元々更新頻度が高くない当ブログですが、せっかく定期的に訪れてくださる方々に新たな情報をお伝えできない回数が更に増えてしまいそうなので、改めてこうしてお伝えさせていただいています。ただ、すっかり私の楽しみの一つになったこのブログを閉鎖することは、現時点では考えていません。非常に中途半端な状態ですが、以前からご覧になってくださっている方は、今後はふと思い出した時にでも、遊びに来てくだされば嬉しいです。


さて、当ブログは数学ブログですので、これ以降はいつも通り数学にまつわる話です!

と言っても今回は、恐縮ながらかなり手前味噌な話です。ここまで数学のことだけを考えてきた私は、結婚式や新婚旅行の中にも当然のごとくたくさん数学の要素がありましたので、それらの一部を紹介させていただきたいと思います。

写真が多いため少し重くなりますが、惚気を聞いてやっても良いかという方は「続きを読む」をクリックしてご覧ください↓

続きを読む

雑誌「数学教育」3月号の記事を執筆しました

2月7日(火)に明治図書さんから刊行された雑誌「数学教育」3月号に、私が執筆した記事が掲載されています。

明治図書さんのホームページで目次の閲覧や雑誌の購入をしていただけます。

この雑誌は主に中学生に数学を教える先生方を対象とした雑誌で、オムニバス形式で様々な数学の話題が紹介されています。各記事の執筆者は大学教授や有名国立・私立高校の教諭の方々などが多く、どの方も機知と賢慮に富んだ内容を大変わかりやすく解説してくださっています。私の好きな算額の話題もありました!「深い内容をわかりやすく」というのは正に当ブログが目指そうとしている形ですので、私も一読者として大変参考になりました。

さて、その中で私が執筆しているのは40頁目から43頁目の【頭にいっぱい汗をかく「パラドクス」ネタ】の部分です。

タイトルから明らかな通り「パラドクス」をいくつかご紹介しているのですが、できるだけ身の周りにある内容を選んで書きました。

パラドクスというと、狭義には「論理的に矛盾しているもの」を指しますが、巷でよくパラドクスと呼ばれるものの中には「論理的には何ら問題ないが、感覚と乖離しているもの」も含まれており(「擬似パラドクス」とも呼ばれるようです)、今回の記事では特に片方に拘ることなく、両方を満遍なくご紹介しました。

記事のうちの数行を少し膨らませたものを、少しだけご紹介させていただきます。↓

-----
先生「1,2,3,4,5,6と来たら次に来る数字は何でしょう?」

A君「7です!」
B君「8です!」
C君「10です!」

先生「みなさん理由を言ってください。」

A君「え?いや普通に…正の整数を1から順に数えたら次は7ですよね。」

B君「この数列は120の正の約数を小さなものから順に挙げていっている数列だと僕は考えます。従って1,2,3,4,5,6の次は8です。」

C君「僕は60の正の約数を小さな方から挙げている数列だと考えて、1,2,3,4,5,6の次は10と言いました。」

先生「誰が正しいんでしょうね?」

A君「いやいや常識的に考えてこれ単に正の整数を小さな方から並べただけって考えるのが自然でしょう?」

B君&C君「A君はさっきから『普通』『常識』『自然』とか言ってますが、それらは僕たちの答えを論理的に排除してA君の方が正当だということを裏付けるだけの根拠たり得るものなのですか?」

A君「…」

理屈ですけど、屁理屈です。
屁理屈ですけど、理屈です。
何が正解なのでしょうね。
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私個人の意見としては、3者とも正解ということで良いと思います。

入試などで出されたら、そこは7と答えるべきところなのだと思いますが、数学はもっと自由で良いというのが私の意見であり、また、主観抜きでは決められないものに対しては「決められない」という暫定的結論を出すことが論理的なものの見方というものだと思います。(もちろん「等差数列とする」などの縛りがあればまた話は変わってきますが)

雑誌の記事内では、こういう類の問題に対するある哲学者の考えをご紹介しています。またこれ以外にも3つほど、パラドキシカルな話題を扱っていますので、興味を持たれた方は是非ご覧ください。


普段はひたすら自分の研究をしているだけの私が「教育」をテーマとする書籍に携わらせていただくのは恐縮しましたが、普段ブログで書く際に気をつけていることとはまた違ったことを考えながら文章を推敲したりして楽しく書かせていただきました。

インターネット以外のメディアで数学の楽しみを発信すると毎回思うことですが、今回当ブログが編集者の方の目に留まったのも、こうしてオファーをいただけたのも、元を辿れば今ご覧になっている皆さま一人一人のアクセスや、応援のコメント、気付きを与えてくれるメールなどの賜物だと思います。本当にありがとうございます。

今後もできるだけ楽しんでいただけるような記事作りをしようと改めて感じています。そしてまた他のメディアで数学を発信できた際は、その情報・結果をまたこちらで報告させていただきます!今後とも当ブログをどうぞよろしくお願いします。


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笑い話ツイートを見て最新の暗号技術について考えた話

先日、twitterで以下のようなツイートを目にしました。

じいさん「肉まんください」
女店員「おいくつですか?」
じいさん「いくつに見えますか?」
女店員「・・いくつでしょうかね・・?」
じいさん「もう80なんですよ」
女店員「肉まん80個で7392円になります」
じいさん「いや・・そうじゃなくて」
女店員「7392円になります」
じいさん「・・・」


間の抜けたやり取りが面白いということでリツイートされてきたものです。

これに対して私の友人が「同じもの80個の値段がどうして7392円という金額になるのか」と疑問を呈していました。

なるほど数的感覚に優れた疑問だと思います。友人が言いたいことをもう少し詳しく言い直すと、「単価x円のものを80個買ったならば総額80x円になるはずだから、請求される金額は80で割り切れるはずである。ところが7392円は10で割り切れないことがパッと見で明らかで、おかしい」ということです。

上記の話が実話か作り話かはわかりませんが、現実に起こり得ないことが盛り込まれているとなると、一気に作り話臭くなってしまいますよね。

しかしながら、肉まん80個で7392円というのは、実は何らおかしな話ではありません。

ポイントは「消費税」です。

税込表示x円にそのまま80をかける(つまり、税抜きの金額にまず消費税をかけ、その後に80倍する)と確かに総額は80x円になります。

しかし、税抜き価格に80をかけ、後から消費税を掛けると、80で割り切れる整数になるとは限りません。

実際冒頭のツイートで出てくる7392円は、税抜き価格88円(税込92円)の肉まんを80個買って消費税を後掛けすることで実現することができます。

compatible1

最初に消費税を掛けると丸められてしまう小数点以下の端数が、省略されずに反映されている形ですね。

小数点以下の端数を切り捨てるか、四捨五入するか、切り上げるかについて法律による基準はなく、事業主の方針によってばらついているようですが、今回は仮に小数点以下の端数は切り捨てると仮定しましょう。以下、「消費税をかける」と言ったら、「1.05を掛けてから小数点以下を切り捨てる」という操作を指すものとします

すると今回の現象は、ガウス記号を使って以下のように記述できます。

compatible2

左辺が税抜表示で80個分の値段を足してから消費税を掛けたもの、右辺が個別の商品にまず消費税を掛けてから80個分足したものです。

この現象は80個に限った話ではなく、より本質的には以下のように言い表すことができます。

compatible3

左辺が消費税後掛け、右辺が税込表示をそのまま足した金額です。

ここで「x円に消費税をかける」という操作が[1.05x] で表されていることに注意しましょう。この[1.05×何か]という関数をTでと置くと、上記の性質は以下のように見やすくまとめることができます。

compatible4

こういう状況を数学的には「消費税をかけるという操作と、足し算するという操作は可換ではない」と言います。「Tは準同型ではない」という言い方もします。

数学では関数同士が可換かどうかは非常に重要で、可換な関数をいくつも繋げた「可換図式」というものを考えることがよくあります。可換図式を描くにあたっては関数同士が可換かどうかを予め検証する必要があるわけですが、これが慣れるまではなかなか難しく、数学のできる方でも苦手意識を持っている方が多くいらっしゃいます。学生だけで専門書を輪講している際など、みんなで考えてもわからず、(本当はすごくいけないことですが)「もうこれ可換ってことにして先に進む…?」という雰囲気に出くわしたこともあります。

専門書で可換図式ばかり見ていると、「わりと可換性って成り立ってるんじゃない?」という錯覚に陥ってしまうこともあるのですが、実は可換というのは非常に強い条件であり、そうそう簡単に成り立ってくれるものではありません

上記の肉まんと消費税の例はまさに「可換性が成り立たない例」ですね。他にも例えばある数を二乗してから二倍した数と、二倍してから二乗した数は、一般に一致しません。他にも可換でない例はいくらでも作ることができます。

数学を離れて現実の世の中に目を向けてみるとなおのこと、だいたいのことは可換にはできておらず、我々は無意識的にそのことを自覚しているように思います。

例えば毎日夕食後に2時間勉強してから6時間寝ているというサイクルの人が、夕食後すぐ6時間寝て朝2時間勉強することを強要されたら、パフォーマンスに大きな違いが出るでしょう。同じ成果を挙げたい状況において、6時間寝ることと2時間勉強することは可換ではありません。

「この人の話を5年早く聴きたかった!」とかいうのも、「話を聴く→5年間過ごす」ということができていれば、「5年間過ごす→話を聴く」で至ってしまった現在よりも、より望ましい自分になっていただろうという考えの現れです。

このように数学でも数学以外でも、「可換」というのはそうそう簡単に成り立っている性質ではないので、「二つの操作の順序を入れ換える」という場面に出くわした際は、それにより結果に違いは出ないのかとアンテナを張る意識を持つことが大切です。


最後に、既に訪れているクラウド時代において、「写像の可換性」が我々のプライバシーを守るために重要な役割を担うことになるというお話をさせていただこうと思います。(蛇足ですがたまたま今日の日本経済新聞の一面で「IT各社がインドにクラウド拠点を作る」という話題が扱われています。)

クラウドとは「クラウドコンピューティング」を略した言い方です(略称として使われるだけでなく、「クラウド」自体も意味を持った用語として使われるので注意が必要です)。詳しくはWikipediaのクラウドコンピューティングのページ等を参照していただければと思いますが、一言で言うと「計算やデータ保存を外部委託しよう」という概念です。

例えば、色んなデータを自分のパソコンの中やUSBメモリに保存して持ち歩くのではなくて、インンターネット上に保存することにより、手ぶらで出かけてもネットに繋がったパソコンさえあればどこからでもアクセスできるようになります。例えばDropboxやEvernoteなどのサービスは有名かと思います。【関連サイト:Dropbox, Evernote(Wikipediaより)】数年前は数千円を出してUSBメモリを購入しなければならなかった2ギガバイトという容量を今や無料で使用できるのですから、技術の進歩は本当にすさまじいです。

また、何かを計算したい時にソフトウェアをいちいちインストールして計算するのではなくて、どこかのサイトにアクセスし、Google検索するような感覚でサイトに計算してもらう、というのもクラウドコンピューティングの一例です。無料で数学的な計算をしてくれる代表的な例としてはWolfram AlphaSageという数式処理システムが挙げられます。私はこれら2つのサイトの存在を初めて知った時は本当に驚きました。サイトにアクセスできる環境さえあれば、高性能のパソコンを持たなくても大量の計算ができる、というのもクラウドコンピューティング発展の重要なモチベーションです。

さて、このようなサービスを受ける側にとって、一番確かめておきたいのが「セキュリティはちゃんとしているのか」ということです。

例えば2ギガの容量となると、写真であれば数百枚は保存することができるわけですが、それらが全て流出したらたまったものではありません。

実際にクラウド導入を検討している事業者が一番の懸念要因として挙げているのが「セキュリティ」であるという調べがあり、サービスを提供する側としても、セキュリティに関する悪い噂だけは立たないようにしようと必死で努力しているはずで、データ保存に際しての情報流出対策だったりパスワード管理などは、既存の技術をできる限り取り入れて万全を期している会社が殆どでしょう。

問題は「計算委託」の際のプライバシー保護です。

例えばどこかに保存してある資料を「あいうえお順に並べ替えて欲しい」という要求を出すとします。並べ替えというのも一種のアルゴリズムに則った計算ですから、これは計算の外部委託です。

この場合、素朴に考えると、どうしても計算を依頼する相手に対して、資料のタイトルを教えなければいけません。タイトルを隠したまま(つまり、暗号化したまま)だと、どれが「あ」から始まる資料なのか、どれが「い」からなのか、相手はわからないからです。

ところが、資料のタイトルを第三者に知られてしまうのは、情報流出以外の何物でもありません。例えば資料の中には「●●年度予算」や「社員名簿と住所」などのタイトルが含まれることが往々にしてあり、タイトルだけでも知られてしまうと、「あの人は重要なデータを持っているようだ。不正ログインできないか試してみよう」などのモチベーションを与えてしまうことに繋がりかねません。

「●●という資料を探してくれ」という計算依頼も、同様ですね。

「自分で計算したくない」という欲求を満たそうとすると、常にプライバシーの危機に直面するというジレンマがあります。


このジレンマを解決するにあたって、「写像の可換性」が重要な役割を担います。

まず先ほどから出てくる「計算」をもう少し具体的に述べると、コンピュータ上の命令は全て電気信号であり、つきつめていくとデジタル回路をどのように進むかというところに帰着されます。そしてデジタル回路はブール代数と呼ばれる数学の言葉で記述することができます。ブール代数は「足し算」と「掛け算」の二種類の演算が許された代数系です。

つまり、あらゆる計算命令は「足し算」と「掛け算」の組み合わせでできた関数とみなすことができます。

さて、今、Eという関数で暗号化しDという関数で復号できるような暗号系があったとしましょう。

但し、単なる暗号系ではなくて、関数Dは「足し算」「掛け算」の両方と可換という性質を備えているとします。そうするとその組み合わせでできているあらゆる計算命令とも、可換になるわけです。

すなわち、仮に「xというファイルを探す」という計算がfという関数で記述されているとすると、Df=fDが成り立つことになります。

そうするとあなたは、探して欲しいファイル名を相手に伝えることなく、欲しいファイルを探すという作業だけを相手に依頼することができます。

具体的にどうするかと言うと、「そちらに保管してあるxというファイルを探したいんですけど」と依頼するかわりに「そちらに暗号化して保管してあるE(x)というフィアルを探してください」と依頼を出し、f(E(x))を返してもらいます。あとはこれにDをかければ、Df=fDが成り立っているお蔭でD(f(E(x)))=f(D(E(x)))=f(x)となって、無事「xを探す」という計算fを、x自体の名前は伝えることなく、外部委託できたことになります。


このように、復号化関数が「足し算」「掛け算」両方と可換になるような暗号を「完全準同型暗号(fully homomorphic encryption)」と言います。

完全準同型暗号の利便性は既に上で述べた通りですが、現在の大問題として、実際に使用できるレベルの完全準同型暗号は、未だ作られていません!

「掛け算」のみと可換な暗号は、たくさん知られています。例えば有名なRSA暗号や、エルガマル暗号と呼ばれるものは掛け算と可換になり、実はこれらの性質によって電子マネーや電子投票と言ったものの安全性が担保されています。また、「足し算」のみと可換のものとしては、例えばパイラー暗号というものがあります。

しかしながら、完全準同型暗号の構成は2009年に当時スタンフォード大学の院生だったクライグ・ジェントリー氏が発明・発表するまで完全なる未解決問題でした。(私は学会でジェントリー氏の講演を直接聴いたことがあるのですが、非常に物静かかつ謙虚で、学者らしい方でした)

ジェントリー暗号により、完全準同型暗号を作るというところまでは解決したのですが、この暗号は計算に物凄く時間がかかるので、実用できる代物ではありません。

一昨年や昨年に、ジェントリー暗号に続く完全準同型暗号がいくつか作られたり、それらの演算スピードを改良する方法が発表されたりしていますが、それでも未だ実用できるレベルには至っていないのが現状です。そしてこの段階の学術発展に大きく貢献できるのは、暗号業界では「理論屋」と呼ばれる我々数学者なのだと思います。

もしあなたが、復号化関数が「足し算」「掛け算」の両方と可換になる、"安全かつ効率的に計算可能な"暗号系を作ることができたとしたら、有名になったり特許を取ったりできるかもしれません。問題自体を把握するのに専門的知識はあまり必要ないので、まとまった時間の取れる方は是非是非チャレンジしてみてください!


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平成24年度大学入試センター試験 数学2B解説付き解答

前回作った数学1Aの解答・解説に引き続き、数学2Bの解答・解説を作って以下のリンク先にアップロードしておきました。

平成24年度大学入試センター試験 数学2B解説付き解答

今回の数学2Bは、どの大問もページ内に文章がびっしり書いてありますね。良く言うとそれだけ誘導が丁寧、悪く言うと出題者の誘導に強制的に乗せられるということで、私が考えた限り自分なりの工夫を出す余地があまりない試験だと感じました。アップロードした解説も、そのうち数学雑誌や参考書等でなされるであろう解説と同じような平凡なものとなってしまいました。本番で解けず、未だ解き方のわからない問題があるという方のみ、該当箇所の解説を参照する、くらいの使い方をしていただければと思います。

全体的な感想としては、例年並みの標準的な難易度だったと思います。三角関数に関しては、必要になる公式等は基本的なものばかりで例年より易しいですが、単に公式に当てはめるだけでなく単位円をイメージするなどして考える必要があるため、過去問の形式に慣れ過ぎていた方にとってはとっつきにくかったかもしれませんね。


以下、解いてみた感想を書いていきます。


第1問(7分)
[1]は対数の基本性質を一通り学んだ方なら問題なく解けることと思います。[2]はいつもと出題形式が少し違うので、面食らいますね。私も慎重に解きました。αやβの取りうる範囲に常に気を配ることが大事で、逆にそれさえ気をつけておけば誘導に沿って滞りなく解き終えられると思います。

第2問(5分)
誘導に沿って淡々と計算していく問題ですが、工夫のしようが全くないわけではありません。一般に、三次関数の極小点と極大点は変曲点に関して点対称な位置にあるため、例えばx=aで極小値を取りx=a+bが変曲点になるとしたら極大値はx=a+2bで取ります。更にx=a+3bでのy座標は極小値と一致します。センター数学のみならず、受験全般においてこの性質を知っていると問題が早く解けたり見やすくなったりすることが多々あるので、余裕がある方は覚えておいて損はないと思います(もちろん覚える前に自分で証明してみてください)。また、最後の設問も対称性を利用して計算量をなるべく少なくすると良いと思います。

第3問(5分)
これも突飛なことをさせられる部分はなく、誘導に乗れるかどうかが問題です。nを一つずらして考えてみたり、等比数列に帰着するために工夫してみたり、定石と言えることしか求められていませんが、うまく誘導を汲むためには定石を定石と思えるくらいの練習量は最低限必要なのだと思います。ただ、理論を使って解くことが難しければ、実験的に解くことも可能です。例えばb1,b2,b3,b4くらいまで具体的に求めてしまって、それらと整合性が取れるように解答欄の数字を決める(その際連立方程式を解くことになる)と言ったこともできますし、数列の問題は諦めないことが肝心です。

第4問(7分)
たくさん計算させられるなぁと感じました。ただ、今回はベクトルOA,OB,OCがそれぞれ互いに直交しており、異なるもの同士の内積を取るとゼロになることから、見かけよりも計算は大変ではありませんね。直方体を描いて考えると理解の助けになるでしょう。


別解などがあれば、教えていただけると嬉しいです!


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2009年4月23日25:15〜25:45にフジテレビ系列で放送されたテレビ番組「たけしのコマ大数学科」内で、私が資料提供した問題が扱われました☆

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2007年4月1日をもって、ブログのタイトルを「数学って面白い!?日常の数学から懸賞金付き問題まで、現役東大生がお送りします。」から「数学って面白い!?」に変更しました。
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このブログでも度々紹介する、藤原正彦さんの新作です。目覚ましテレビのブックランキング一位にもなっていました^^
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