大変長らくご無沙汰しておりました。お久しぶりです。


前回の更新から二年弱の間に、数学界からは様々なニュースが聞こえてきました。


最も大きかったのは、何と言っても、京大の望月教授によるABC予想解決の報道ではないかと思います。

ABC予想とは、かなり大雑把にいうと、「べき乗とべき乗を足したものが、またべき乗になるってことは、あまりないんじゃないか?」という予想です。

ピタゴラス数なんかは、この主張を満たさない例です。例えば3の2乗と4の2乗を足すと5の2乗というべき乗数になりますよね。

しかし、2乗程度ではなく、高い乗数の数同士を足した場合、その結果は、高い乗数の数にはならなそうです。例えば、2の7乗と3の8乗の和は6689という素数であり、べき乗数ではありません。2の7乗と3の9乗の和だと、答えは19811で、これは11×1801という合成数ではありますが、やはりべき乗数ではありません。

このように「べき乗とべき乗の和」と「べき乗」の関係を述べた定理ですから、巷で言われているように、「ABC予想の帰結としてフェルマーの最終定理が出る」という流れも納得できますね。

ただ、望月教授の原論文を流し見た限りだとフェルマーの最終定理を示してはいないようですし、「ABC予想→フェルマーの最終定理」の論理はそこまで単純ではないような印象を受けます。ネット上で見かける理屈を見る限りでは、私はまだ理解/納得できていないので、ちゃんとわかったらいずれまた、お伝えさせて頂きたいと思います。


ABC予想の次に私が興味深いと思ったニュースは、今年5月に発表された双子素数予想の進展です。

双子素数予想は「pとp+2が共に素数になるようなpは無限に存在する」という定理ですが、これよりも少し弱い結果である「差が70,000,000以内の素数のペアは無限に存在する」という事実を、ニューハンプシャー大学の張益唐氏が証明しました。

ABC予想を解決したとされる望月教授の論文は現在査読中で、厳密には解決「か?」という段階(とは言えほぼ間違いないのでしょうが…)なのに対し、双子素数を進展させた張氏の論文はAnnals of Mathematicsという名門ジャーナルの査読を通って出版されていますから、「まぎれもない事実だ!」というインパクトも考慮すると、ABC予想に負けず劣らずの大ニュースだと思います。

この「差が7千万以内」という事実の受け止め方は、数学者とそうでない人とで異なるかもしれません。

実生活では70,000,000という数は非常に大きな数ですが、以前「すごく大きな数」と「無限」の違いという記事でご紹介した通り、数学において「何者にも依存しない有限の数で抑えられた」という事実は、紛れもなく、大きな進展です。

ところで、この論文が出たことの意味は、「双子素数予想を解決に近づけた」ことの他に、「双子素数予想を解決させようと思う人を増やした」ことにもあると思います。以前私が属していた暗号業界ではよくあることなのですが、一般に、今回のようなイノベーションが一度起こると、この「70,000,000」という数をどこまで小さくできるのか、世界中の研究者が試みるようになります。

実際に、そのトライアルの結果はBounded gaps between primesというウェブページで現在も日々更新されていっています。

「どこまで縮められるか知りたい」という純粋な知的好奇心や、「今この仕事でなら研究者として名を残せそう」等、動機は様々だと思いますが、いずれにせよ、たとえ「1」でも、縮まるたびに確実に解決に向かっている印象を受けて、わくわくしますね。このままの流れで「差が2」までたどり着くのか、はたまたもう一段か二段のイノベーションが必要なのかはわかりませんが、とにかく双子素数からは暫く目が離せません。


素数というと、今シーズンのテレビドラマ「相棒」第2話では容疑者が数学者で、素数/リーマン予想/暗号といったトピックが扱われていました。

杉下警部が容疑者の研究室を訪ねて行った時に容疑者が描いていたグラフが楕円曲線(楕円曲線を用いると安全な暗号系を構成することができる)だったりと、細部までかなり拘ってあって、どなたが監修したのかなぁと思いながら見ていました。数学好きの方にはお勧めの回です。



さて、漸く表題の件について。

以前もお世話になった明治図書さん刊行の月刊誌「数学教育」の2014年1月号に、記事を執筆させて頂きました。
 ・私が担当したのはp10-p11の2頁
 ・既に刊行されています

実は少し前から、数学の面白さを伝える活動(執筆/講演/家庭教師/オンライン教師など)に再び力を入れ始めております。(なぜ再開したか、理由はいずれ改めてブログ記事でお伝えさせて頂きます)

家庭教師とオンライン教師については、生徒さんの募集を一時中断していますが、現在受け持っている生徒さんの一部が卒業される2014年3月にまた募集再開させて頂きたいと思っております。2014年3月以降の指導をご希望頂ける方は、下記ホームページの情報もご参照の上、math.tutor.contact (at) gmail.comまでご連絡頂ければ幸いです。空きが出次第、ご予約いただいた順にご連絡させて頂きます。

ホームページ:http://mathtutor.main.jp/


また、更新頻度は低いのですが、メルマガとtwitterも始めました。

メルマガ:http://www.mag2.com/m/0001615924.html
twitter:https://twitter.com/MathTutorTetsu

今後、ブログ更新情報などのあらゆる情報はtwitterに集約していこうと考えておりますので、よろしければフォローして頂けると嬉しいです。


今回の執筆記事について。

雑誌「数学教育」は、主に中学校で数学を指導している先生を対象とする月刊誌です。

私の小中学生時代には無かったと思うのですが、今、文科省は「全国学力・学習状況調査」という学力テストを全国の小中学生に毎年課しているようです。その中の「数学B」という科目で良い点を取るための対策として、どのような授業をして行けば良いか、というのが、「数学教育」1月号の主題になっています。

私はこれまで、数学という学問の中における「受験数学」は、「問題を解くために必要かつ十分な情報が予め用意されている」という点で異質なものだと思ってきました。このような異質性があるので、「数学」という科目がある程度得意な中高生に対しては「問題文の中の条件を全て使い切ることを意識すれば良いよ。全ての条件を一回ずつ適切に使っていけば、だいたいの問題は必ずとける」と伝えると、すぐにもう一段成績が伸びたりします。このブログでもたびたびお伝えしてきたことです。

しかしながら、数学という学問自体は、そんなに楽なものでもなければ、窮屈なものでもありません。

私の個人的見解ですが、数学の研究は、条件を緩めてみても面白いことが言えたり、逆に条件を強めなければならない状況ではどこまで緩い強め方をできるか、という綱渡りのようなバランス調整を手さぐりでやっていくことが醍醐味の一つだと思っています。そして、そのために必要な能力は、与えられた条件を上手く素早く使い切る能力とは一致しません。

従って、「答えが一つになる数学が好きで、理系になった」という高校生には少し違和感を覚えたりします。入口はそれでも良いのですが、数学の豊かさを実感すると、「答えまでの辿り方がたくさんある中で、一番良いと思える物を探すのが好き」というような印象を抱くようになると思いますし、そういう意識でいた方が楽しく研究できるはずです。

狭義の研究者になるという目的以外を考えてみても、「お膳立てされた課題を素早く解く」という能力だけを磨いて社会に出ると、高性能下請けマンにはなれるかもしれませんが、途中で生じた問題に臨機応変に対応しつつ、課題自体を変容させながら道を切り開いていく、という意識はなかなかつかないのではないかと思います。

この意味で、多くの学生が口にする「数学なんてやってて将来何のためになるんだ!」という愚痴は本質をついていて、こういう質問に対して説得力のある返事をしてあげられるように、教え込む側が、指導内容/生徒に求める力を変えていかなければならないのかもしれません。


このような問題意識は当然、文科省の偉い方々も持っているはずで、生徒に求める力を変えて行こうという意識の現れが「数学B」の問題に反映されているように、私には感じます。

今までの所謂「受験の数学」と決定的に違うのが、余分な情報が一定量あるところです。すなわち、問題を解くために十分な情報は当然盛り込まれているが、必ずしも必要でない情報もあって、解く側は、まずは目的に応じてそれらの情報を取捨選択するところから始めなければなりません。

こういう能力を求めていくのは良い傾向だと感じますが、求められる小中学生にとっては余計な苦労が増えたと感じる変化ですし、指導する先生方も、教え方を工夫する必要があって大変だと思います。よって今回、「数学教育」で、こんな特集が組まれたのでしょう。

「数学B」の問題は、身近な現象を定式化して解明する、ということをガイドつきでやらせるような設問が多いので、そのような問題に抵抗なく取り組めるようになるにはどうしたら良いか、ほんの2頁ではありますが、精一杯考えて書かせて頂きました。


今後も、数学の話題を各所で発信させて頂きたいと考えておりますので、「こんな面白い話を聞いた」「中高生の頃、こういうふうに教わりたかった」「これって数学で何とかできる問題ですか?」など、「数学」というキーワードで思うことがある方は何でも、お伝え頂けると嬉しいです。


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