2009年06月05日
途上国と温暖化−"Closing the Gap" レポート
12月コペンハーゲンで開催されるCOP15が期限となっている
温暖化対策のポスト京都枠組み策定に向けた国連の特別作業部会が
6月1日、ボンで開幕した。 この会議に合わせ、またCOP15に向けて
様々な団体から温暖化関連のレポートや提言が発表されており、
先月はCommission on Climate Change and Developmentから
Closing the Gapsと題した報告書が発表されている。
Closing the Gap: Disaster risk reduction and adaptation to climate change in developing countries
途上国が温暖化に適応できるように、先進国はきちんと資金援助をすると同時に
温暖化に関する最新の科学的知見をシェアする努力をすべし、というのが主なメッセージ。
資金援助の第一歩として、(既存のODAに加えて)10〜20億ドル規模の緊急援助を
温暖化の被害にたいして脆弱な低所得国家や島嶼国に拠出すること、
それから、第二段階として、温暖化の国際交渉を通じて、途上国の適応を助けるための
適切な資金メカニズムを作ること、が対策として挙げられている。
途上国の適応のためにいったいいくら必要なのか、という点について、
ここ数年の間に発表された世銀やUNDP、Stern Reviewなどの6つの試算を
表にしたものがレポートに載っており(p.35, figure 5)、それを見ると
年間30億ドルから1350億ドルまで、非常に幅広い(同じレポートでも、
温暖化のシナリオによって必要な資金の見積もりにも当然バラつきがある)。
現在既に様々なファンドが提案されているが、これが全て上手く機能したとして
集められるのは年間50〜150億ドル程度。 実際に必要な額には
足りない可能性がかなり高い、ということで、短期の資金拠出に加えて
第二段階の対策が必要という主張になる。
ただ、このレポートの二つのメッセージ、知見の共有という点については、
IPCCによるものや先進国の科学者による研究を幅広く共有するだけでなく、
その逆−つまり、途上国に眠っている適応のノウハウについても
その共有なり、スケールアップなりを目的とした作業が行われるべきと思う。
途上国で何世紀もの間、農業や林業を営んできたコミュニティは、
climate variability、つまり、気候のバラつきに適応し続けてきたコミュニティでもある。
雨が少ない年、逆に多い年、暑い年、寒い年。 こうしたバラつきに対して
様々な形で適応−それは、様々な種類の作物を育てることかもしれないし、
あるいは、不作の年には、何か別のやり方で生計を立てることかもしれない−してきた。
climate variabilityと共生してきたコミュニティのノウハウには
climate changeに対する適応策のヒントが詰まっているはず。
途上国の適応を支援するには、上から下への知識の共有だけでなく、
下から上へ、それから「横」への共有にも注力することが必要だろう。(小林)
<付記>
本レポート、Disaster risk reduction という副題がついていますが、
先日UNISDR (UN International Strategy for Disaster Reduction Secretariat) が発表した
2009 Global assessment report on disaster risk reductionとは別のものです。
こちらも力の入ったレポートですので、ご関心のある方は是非。
2009 Global assessment report on disaster risk reduction: risk and poverty in a changing climate
温暖化対策のポスト京都枠組み策定に向けた国連の特別作業部会が
6月1日、ボンで開幕した。 この会議に合わせ、またCOP15に向けて
様々な団体から温暖化関連のレポートや提言が発表されており、
先月はCommission on Climate Change and Developmentから
Closing the Gapsと題した報告書が発表されている。
Closing the Gap: Disaster risk reduction and adaptation to climate change in developing countries
途上国が温暖化に適応できるように、先進国はきちんと資金援助をすると同時に
温暖化に関する最新の科学的知見をシェアする努力をすべし、というのが主なメッセージ。
資金援助の第一歩として、(既存のODAに加えて)10〜20億ドル規模の緊急援助を
温暖化の被害にたいして脆弱な低所得国家や島嶼国に拠出すること、
それから、第二段階として、温暖化の国際交渉を通じて、途上国の適応を助けるための
適切な資金メカニズムを作ること、が対策として挙げられている。
途上国の適応のためにいったいいくら必要なのか、という点について、
ここ数年の間に発表された世銀やUNDP、Stern Reviewなどの6つの試算を
表にしたものがレポートに載っており(p.35, figure 5)、それを見ると
年間30億ドルから1350億ドルまで、非常に幅広い(同じレポートでも、
温暖化のシナリオによって必要な資金の見積もりにも当然バラつきがある)。
現在既に様々なファンドが提案されているが、これが全て上手く機能したとして
集められるのは年間50〜150億ドル程度。 実際に必要な額には
足りない可能性がかなり高い、ということで、短期の資金拠出に加えて
第二段階の対策が必要という主張になる。
ただ、このレポートの二つのメッセージ、知見の共有という点については、
IPCCによるものや先進国の科学者による研究を幅広く共有するだけでなく、
その逆−つまり、途上国に眠っている適応のノウハウについても
その共有なり、スケールアップなりを目的とした作業が行われるべきと思う。
途上国で何世紀もの間、農業や林業を営んできたコミュニティは、
climate variability、つまり、気候のバラつきに適応し続けてきたコミュニティでもある。
雨が少ない年、逆に多い年、暑い年、寒い年。 こうしたバラつきに対して
様々な形で適応−それは、様々な種類の作物を育てることかもしれないし、
あるいは、不作の年には、何か別のやり方で生計を立てることかもしれない−してきた。
climate variabilityと共生してきたコミュニティのノウハウには
climate changeに対する適応策のヒントが詰まっているはず。
途上国の適応を支援するには、上から下への知識の共有だけでなく、
下から上へ、それから「横」への共有にも注力することが必要だろう。(小林)
<付記>
本レポート、Disaster risk reduction という副題がついていますが、
先日UNISDR (UN International Strategy for Disaster Reduction Secretariat) が発表した
2009 Global assessment report on disaster risk reductionとは別のものです。
こちらも力の入ったレポートですので、ご関心のある方は是非。
2009 Global assessment report on disaster risk reduction: risk and poverty in a changing climate
2009年03月02日
On CDM - IDDPの第4回勉強会より
2月28日にロンドンで開催された、IDDPの第4回勉強会に参加しました。
ポスト京都の枠組み合意期限が今年12月に迫る中、
非常にタイムリーかつ、3人の講演者による充実した内容のイベントでした。
感想ついでに、CDMに関してコメントを記しておきます(小林)。
------------------------------------
勉強会では、CDMプロジェクトが一部の国に集中していること、
また開発へ寄与するという目的への貢献が十分でないこと、
この二点が問題点として指摘された。
現在排出量が少ないアフリカでCDMが少ないのは
現在のCDMの構造を考えればある意味自明のことで、
ベースラインからの排出量削減を目的とする以上、
そもそもの排出量が少ないアフリカ諸国ではプロジェクトの需要がない。
こうした地域のプロジェクトに投資するインセンティブを増やすためには、
例えば、アフリカで達成されたクレジットは高値で買い取るとか、
価格に傾斜をつけるというのが一案かも知れない。
例えばブラジルは、アマゾン(のような、生物多様性豊かな森林)保全による
排出削減には、単なる削減以上の価値があると以前から主張しているが、
市場メカニズムという、インセンティブと損得勘定で動く仕組みを使うのであれば、
そういう形で、無理やりにでもインセンティブを作り出す必要があるだろう。
世銀が、「開発への寄与」に特に重点を置いて2002年9月に立ち上げたのが
CDCF、Community Development Carbon Fund。
当時のウェルフェンソン総裁は、設立の趣旨について、
「CDCFは、途上国の利益に直接結びつく方法で、GHGの排出削減を目指している。
CDCFの独創性は、地域レベルで取引可能な炭素価値(carbon assets)を生み、
地域の発展に付加することである」と述べており、CDCFのウェブサイトには、
The CDCF provides carbon finance to projects in the poorer areas
of the developing world. The Fund, a public/private initiative
designed in cooperation with the International Emissions Trading
Association and the United Nations Framework Convention on
Climate Change, became operational in March 2003. The first
tranche of the CDCF is capitalized at $128.6 million with
nine governments and 16 corporations/organizations participating
in it and is closed to further subscriptions. The CDCF supports
projects that combine community development attributes with
emission reductions to create "development plus carbon" credits,
and will significantly improve the lives of the poor and
their local environment.
とある。 現在は9つの政府と16の企業・組織が出資しており、日本からは
大和証券PI、富士フィルム、新日本石油、出光興産、沖縄電力が出資している。
ただ、いくら開発への貢献に主眼を置くといっても、出資者のリストを見れば分かるとおり、
これは先進国のお金で回っている炭素基金なので、開発に重心が寄りすぎて
排出削減の効率が悪くなるようなことになると、出資者の理解が得られない、
というより出資する人がいなくなってしまう、というジレンマがあり、
二兎を同時に追うのは難しいのが現状である。
また、「出てないから減らせない」という問題に対して世銀が最近新たに創設したのが
Forest Carbon Partnership Facility。 これは主に森林伐採を防止することで
排出防止をしようというもの。 これならば、ベースラインが低いアフリカでも
カーボンファイナンスの需要が生まれるだろう、という発想で、日本からは
財務省と農水省がそれぞれ参加している。
以下は世銀ウェブサイトにある紹介文。
The proposed Forest Carbon Partnership Facility (FCPF) would
assist developing countries in their efforts to reduce emissions
from deforestation and land degradation (REDD). It would have
the dual objectives of building capacity for REDD in developing
countries, and testing a program of performance-based incentive
payments in some pilot countries, on a relatively small scale,
in order to set the stage for a much larger system of positive
incentives and financing flows in the future.
【参考】
World Bank Carbon Finance Unit
REDDについて、FoE Japan の日本語解説
次期枠組みについての個人的な雑感はこちら
ポスト京都の枠組み合意期限が今年12月に迫る中、
非常にタイムリーかつ、3人の講演者による充実した内容のイベントでした。
感想ついでに、CDMに関してコメントを記しておきます(小林)。
------------------------------------
勉強会では、CDMプロジェクトが一部の国に集中していること、
また開発へ寄与するという目的への貢献が十分でないこと、
この二点が問題点として指摘された。
現在排出量が少ないアフリカでCDMが少ないのは
現在のCDMの構造を考えればある意味自明のことで、
ベースラインからの排出量削減を目的とする以上、
そもそもの排出量が少ないアフリカ諸国ではプロジェクトの需要がない。
こうした地域のプロジェクトに投資するインセンティブを増やすためには、
例えば、アフリカで達成されたクレジットは高値で買い取るとか、
価格に傾斜をつけるというのが一案かも知れない。
例えばブラジルは、アマゾン(のような、生物多様性豊かな森林)保全による
排出削減には、単なる削減以上の価値があると以前から主張しているが、
市場メカニズムという、インセンティブと損得勘定で動く仕組みを使うのであれば、
そういう形で、無理やりにでもインセンティブを作り出す必要があるだろう。
世銀が、「開発への寄与」に特に重点を置いて2002年9月に立ち上げたのが
CDCF、Community Development Carbon Fund。
当時のウェルフェンソン総裁は、設立の趣旨について、
「CDCFは、途上国の利益に直接結びつく方法で、GHGの排出削減を目指している。
CDCFの独創性は、地域レベルで取引可能な炭素価値(carbon assets)を生み、
地域の発展に付加することである」と述べており、CDCFのウェブサイトには、
The CDCF provides carbon finance to projects in the poorer areas
of the developing world. The Fund, a public/private initiative
designed in cooperation with the International Emissions Trading
Association and the United Nations Framework Convention on
Climate Change, became operational in March 2003. The first
tranche of the CDCF is capitalized at $128.6 million with
nine governments and 16 corporations/organizations participating
in it and is closed to further subscriptions. The CDCF supports
projects that combine community development attributes with
emission reductions to create "development plus carbon" credits,
and will significantly improve the lives of the poor and
their local environment.
とある。 現在は9つの政府と16の企業・組織が出資しており、日本からは
大和証券PI、富士フィルム、新日本石油、出光興産、沖縄電力が出資している。
ただ、いくら開発への貢献に主眼を置くといっても、出資者のリストを見れば分かるとおり、
これは先進国のお金で回っている炭素基金なので、開発に重心が寄りすぎて
排出削減の効率が悪くなるようなことになると、出資者の理解が得られない、
というより出資する人がいなくなってしまう、というジレンマがあり、
二兎を同時に追うのは難しいのが現状である。
また、「出てないから減らせない」という問題に対して世銀が最近新たに創設したのが
Forest Carbon Partnership Facility。 これは主に森林伐採を防止することで
排出防止をしようというもの。 これならば、ベースラインが低いアフリカでも
カーボンファイナンスの需要が生まれるだろう、という発想で、日本からは
財務省と農水省がそれぞれ参加している。
以下は世銀ウェブサイトにある紹介文。
The proposed Forest Carbon Partnership Facility (FCPF) would
assist developing countries in their efforts to reduce emissions
from deforestation and land degradation (REDD). It would have
the dual objectives of building capacity for REDD in developing
countries, and testing a program of performance-based incentive
payments in some pilot countries, on a relatively small scale,
in order to set the stage for a much larger system of positive
incentives and financing flows in the future.
【参考】
World Bank Carbon Finance Unit
REDDについて、FoE Japan の日本語解説
次期枠組みについての個人的な雑感はこちら
2008年10月13日
金融危機と環境問題
金融危機、金融危機、金融危機。
世界中に広がった金融危機を伝えるメディアの報道を見ていると、
これはcrisis というよりもmeltdownなのでは、と思うほどである。
911テロが起きた直後もそうだったが、こうした非常事態が起きた時には
こうなると環境にお金をまわす余裕はなくなるね、と言う人が出てくる。
現在の景気後退が問題であるのは確かだし、非常事態は非常事態として
きちんとした対応がされるべきなのは当然だが、
それは環境問題は後回しでよい、ということではない。
例えば、最近発表されたこんなレポートがある。
The Economics of Ecosystems and Biodiversity (TEEB)
これはECの委託によるプロジェクトで、今年5月に終了した第一フェイズでは、
森林破壊によるコストは、世界全体のGDPの7%に達するというレポートが出ていた。
今回発表された第2フェイズの中間報告では、森林破壊によるコストは
毎年2-5兆ドルに達する、と推定されている。 第1フェイズでの試算が、
森林(材木)だけに注目していたのに対し、第2フェイズでは
森林が提供する様々なサービス(例えば、保水や二酸化炭素の吸収など)が含まれている。
今回の金融危機による被害総額が最終的にいくらまで膨れ上がるのかは分からないが、
5兆ドルを超すことはないだろう。 また、金融危機は終わってしまえばそれまでだが、
森林が失われることで生じるコストは、これから毎年、ずっと継続的に発生する。
今回の金融危機から学ぶべき数々の教訓のうち最も重要なものは、
分かっている問題を先送りにしていると、結局最後には痛い目にあう、
ということだと個人的に思うが、いかがだろうか。
(小林)
参考
The Economics of Ecosystems and Biodiversity (TEEB)
Nature loss 'dwarfs bank crisis' (BBC)
世界中に広がった金融危機を伝えるメディアの報道を見ていると、
これはcrisis というよりもmeltdownなのでは、と思うほどである。
911テロが起きた直後もそうだったが、こうした非常事態が起きた時には
こうなると環境にお金をまわす余裕はなくなるね、と言う人が出てくる。
現在の景気後退が問題であるのは確かだし、非常事態は非常事態として
きちんとした対応がされるべきなのは当然だが、
それは環境問題は後回しでよい、ということではない。
例えば、最近発表されたこんなレポートがある。
The Economics of Ecosystems and Biodiversity (TEEB)
これはECの委託によるプロジェクトで、今年5月に終了した第一フェイズでは、
森林破壊によるコストは、世界全体のGDPの7%に達するというレポートが出ていた。
今回発表された第2フェイズの中間報告では、森林破壊によるコストは
毎年2-5兆ドルに達する、と推定されている。 第1フェイズでの試算が、
森林(材木)だけに注目していたのに対し、第2フェイズでは
森林が提供する様々なサービス(例えば、保水や二酸化炭素の吸収など)が含まれている。
今回の金融危機による被害総額が最終的にいくらまで膨れ上がるのかは分からないが、
5兆ドルを超すことはないだろう。 また、金融危機は終わってしまえばそれまでだが、
森林が失われることで生じるコストは、これから毎年、ずっと継続的に発生する。
今回の金融危機から学ぶべき数々の教訓のうち最も重要なものは、
分かっている問題を先送りにしていると、結局最後には痛い目にあう、
ということだと個人的に思うが、いかがだろうか。
(小林)
参考
The Economics of Ecosystems and Biodiversity (TEEB)
Nature loss 'dwarfs bank crisis' (BBC)
2008年02月05日
環境と開発 ― ガバナンスの重要性
環境と開発、というのは、「どちらを取るか」というような文脈で語られることがある。
まず開発、そして豊かになったら環境にもきちんと配慮する、というのは
先進国の多くが辿った道であり、経済がある程度のレベルに達する前に
環境に配慮せよ、というのは先進国のエゴだ、という議論も多い。
自然保護が社会の軋轢の原因となることもある。
例えばペルーでは、熱帯雨林が自然保護区として保護される一方で
先住民が住む地域は開発対象となっている。 熱帯雨林に住む動物が
政府の保護の対象となるのに、なぜ自分たちは立ち退きの対象になるのか、
という彼らの憤りは当然だろう。
先月のダボス会議で発表された Environmental Performance Index という指標は、
環境と開発、この一見相反するようなテーマを理解する助けとなるものだ。
この指標は、世界各国の Environmental Health のレベルを様々な側面から評価するもの。
指標を見てまず分かることは、豊かな国の方が環境パフォーマンスが良い、という
ある意味自明の事実である。 コスタリカやコロンビアといった少数の例外を除き、
上位を占めるのは先進国、特に北欧諸国。
豊かな国であれば、環境配慮をするだけの余裕があるからパフォーマンスが良くなる、
というのは納得できる論理であるが、だからといって、豊かであることが
高いパフォーマンスに直結するわけではない。 この点で Index を詳しく見てみると、
面白いことがわかる。 大気汚染のような、人間に直接被害が及ぶような
環境問題に関しては、経済成長とパフォーマンスは強い相関関係がある。
世界銀行の試算によれば、こうした劣悪な環境条件によって社会が被るコストは、
GDPの2‐5%にもなる。 経済成長をとげた国が、こうした問題解決に力を入れるのは
当然だろう。
しかし、人間に直接の健康被害を与えない問題、例えば酸性雨のような環境問題になると、
経済力と環境パフォーマンスの関連性は薄くなる。 このIndexの作成者である
Yale 大学の Daniel Esty は、こうした分野での高いパフォーマンスの鍵となるのは
経済力ではなくガバナンスだという。 例えば、ドミニカとハイチ、コスタリカとニカラグア、
似たような条件にある国の間でここまで大きな差がでるのは、ガバナンス
―汚職のレベル、透明性、規制(法律があるかどうか、だけでなく、
それがどのように施行されているか)― の差が大きい。
現在、急速な経済成長による環境破壊が問題となっている中国の順位は
コートジボワールよりも低い104位。 経済成長にガバナンスの向上が伴わなければ
環境パフォーマンスの向上にはつながらない、というメッセージを、
かの国はどう聞くだろうか。 ちなみに日本は、21位である。
(小林)
参考
* Environmental Performance Index (Yale University, )
* How green is their growth (The Economist)
まず開発、そして豊かになったら環境にもきちんと配慮する、というのは
先進国の多くが辿った道であり、経済がある程度のレベルに達する前に
環境に配慮せよ、というのは先進国のエゴだ、という議論も多い。
自然保護が社会の軋轢の原因となることもある。
例えばペルーでは、熱帯雨林が自然保護区として保護される一方で
先住民が住む地域は開発対象となっている。 熱帯雨林に住む動物が
政府の保護の対象となるのに、なぜ自分たちは立ち退きの対象になるのか、
という彼らの憤りは当然だろう。
先月のダボス会議で発表された Environmental Performance Index という指標は、
環境と開発、この一見相反するようなテーマを理解する助けとなるものだ。
この指標は、世界各国の Environmental Health のレベルを様々な側面から評価するもの。
指標を見てまず分かることは、豊かな国の方が環境パフォーマンスが良い、という
ある意味自明の事実である。 コスタリカやコロンビアといった少数の例外を除き、
上位を占めるのは先進国、特に北欧諸国。
豊かな国であれば、環境配慮をするだけの余裕があるからパフォーマンスが良くなる、
というのは納得できる論理であるが、だからといって、豊かであることが
高いパフォーマンスに直結するわけではない。 この点で Index を詳しく見てみると、
面白いことがわかる。 大気汚染のような、人間に直接被害が及ぶような
環境問題に関しては、経済成長とパフォーマンスは強い相関関係がある。
世界銀行の試算によれば、こうした劣悪な環境条件によって社会が被るコストは、
GDPの2‐5%にもなる。 経済成長をとげた国が、こうした問題解決に力を入れるのは
当然だろう。
しかし、人間に直接の健康被害を与えない問題、例えば酸性雨のような環境問題になると、
経済力と環境パフォーマンスの関連性は薄くなる。 このIndexの作成者である
Yale 大学の Daniel Esty は、こうした分野での高いパフォーマンスの鍵となるのは
経済力ではなくガバナンスだという。 例えば、ドミニカとハイチ、コスタリカとニカラグア、
似たような条件にある国の間でここまで大きな差がでるのは、ガバナンス
―汚職のレベル、透明性、規制(法律があるかどうか、だけでなく、
それがどのように施行されているか)― の差が大きい。
現在、急速な経済成長による環境破壊が問題となっている中国の順位は
コートジボワールよりも低い104位。 経済成長にガバナンスの向上が伴わなければ
環境パフォーマンスの向上にはつながらない、というメッセージを、
かの国はどう聞くだろうか。 ちなみに日本は、21位である。
(小林)
参考
* Environmental Performance Index (Yale University, )
* How green is their growth (The Economist)
2008年01月20日
バイオ燃料と温暖化
EUが、バイオ燃料の輸入に制限を設けることを検討しているようだ。
化石燃料の価格高騰と、温暖化への懸念により人気が上昇している
バイオ燃料であるが、本当に二酸化炭素の排出削減に効果があるのか、
という疑問は以前からあった。
従来、森林だったような場所が切り開かれ、そこでバイオ燃料の原料となる
作物が育てられる場合、その森林がもともと果たしていた二酸化炭素の
吸収効果は失われる。 また、そうした作物を育てるには
多くの場合化学肥料が使われるが、肥料の原材料は化石燃料。
また、農作業には、大型のトラクターなどが利用されるが、
これもまた化石燃料を消費する。
今回、EUが導入を検討している規制は、森林や湿地といった
特定の場所を農地として利用して作られたバイオ燃料の輸入を
禁止する、というもので、この規制が成立すれば、
東南アジアや南米から輸入されているバイオ燃料が禁止対象になる可能性がある。
例えば、世界の二酸化炭素排出の8%は、バイオ燃料生産のために
東南アジアの森林が失われていることで生じている、というデータがある。
ヤシの木を使ったバイオ燃料生産が盛んなインドネシアでは、
これまでに1800万ヘクタールの森林が、バイオ燃料生産のために
伐採されたという。 森林伐採は、温暖化だけでなく、
オランウータンやスマトラ虎などの希少動物が住む生態系を脅かしている。
バイオ燃料が、本当に温暖化対策として有効化どうかは、
どこで、どのような作物から、どのようなやり方でバイオ燃料が作られているか、
そのプロセス次第である。 イギリスのRoyal Societyは、先日
「燃料のうち**%はバイオ燃料」 というような規制だけでは
十分ではないという見解を発表している (例えばEUは、
運輸部門で利用される燃料のうち、バイオ燃料の割合を
2010年までに5.75%にする、といく目標を掲げている)。
Sustainable biofuels: prospects and challenges, Royal Society
バイオ燃料に対する「世間の風向き」が少しずつ変わってきているところに
飛び込んできた法規制のニュース。 これは、世界銀行などによる
途上国のバイオ燃料開発援助の流れにも影響を与えるかもしれない。
また、この規制が実効化した場合、ヨーロッパという市場を失う可能性がある
途上国、特に東南アジアの国が反発する可能性がある。
このニュースを伝えたNY Timesの記事では、「こうした規制が、
新たな貿易障壁となるようなことがあってはならないし、また、新しい規制は、
WTOのルールに則ったものでなければならない」 という
Malaysia Palm Oil Councilのヨーロッパマネージャーの意見が取り上げられていた。
環境と貿易、という言葉で思い出すのは、1991年のツナ・ドルフィンケースだ。
これは、イルカを混獲・殺傷する確率が高い漁法で捕獲されている
キハダマグロの輸入をアメリカが輸入を禁止したというもので、
メキシコの提訴による調整パネルでは、アメリカの協定違反という裁定が下された。
今回のケースでEUが提訴された場合、WTOはどんな判断をくだすだろうか。
(小林)
化石燃料の価格高騰と、温暖化への懸念により人気が上昇している
バイオ燃料であるが、本当に二酸化炭素の排出削減に効果があるのか、
という疑問は以前からあった。
従来、森林だったような場所が切り開かれ、そこでバイオ燃料の原料となる
作物が育てられる場合、その森林がもともと果たしていた二酸化炭素の
吸収効果は失われる。 また、そうした作物を育てるには
多くの場合化学肥料が使われるが、肥料の原材料は化石燃料。
また、農作業には、大型のトラクターなどが利用されるが、
これもまた化石燃料を消費する。
今回、EUが導入を検討している規制は、森林や湿地といった
特定の場所を農地として利用して作られたバイオ燃料の輸入を
禁止する、というもので、この規制が成立すれば、
東南アジアや南米から輸入されているバイオ燃料が禁止対象になる可能性がある。
例えば、世界の二酸化炭素排出の8%は、バイオ燃料生産のために
東南アジアの森林が失われていることで生じている、というデータがある。
ヤシの木を使ったバイオ燃料生産が盛んなインドネシアでは、
これまでに1800万ヘクタールの森林が、バイオ燃料生産のために
伐採されたという。 森林伐採は、温暖化だけでなく、
オランウータンやスマトラ虎などの希少動物が住む生態系を脅かしている。
バイオ燃料が、本当に温暖化対策として有効化どうかは、
どこで、どのような作物から、どのようなやり方でバイオ燃料が作られているか、
そのプロセス次第である。 イギリスのRoyal Societyは、先日
「燃料のうち**%はバイオ燃料」 というような規制だけでは
十分ではないという見解を発表している (例えばEUは、
運輸部門で利用される燃料のうち、バイオ燃料の割合を
2010年までに5.75%にする、といく目標を掲げている)。
Sustainable biofuels: prospects and challenges, Royal Society
バイオ燃料に対する「世間の風向き」が少しずつ変わってきているところに
飛び込んできた法規制のニュース。 これは、世界銀行などによる
途上国のバイオ燃料開発援助の流れにも影響を与えるかもしれない。
また、この規制が実効化した場合、ヨーロッパという市場を失う可能性がある
途上国、特に東南アジアの国が反発する可能性がある。
このニュースを伝えたNY Timesの記事では、「こうした規制が、
新たな貿易障壁となるようなことがあってはならないし、また、新しい規制は、
WTOのルールに則ったものでなければならない」 という
Malaysia Palm Oil Councilのヨーロッパマネージャーの意見が取り上げられていた。
環境と貿易、という言葉で思い出すのは、1991年のツナ・ドルフィンケースだ。
これは、イルカを混獲・殺傷する確率が高い漁法で捕獲されている
キハダマグロの輸入をアメリカが輸入を禁止したというもので、
メキシコの提訴による調整パネルでは、アメリカの協定違反という裁定が下された。
今回のケースでEUが提訴された場合、WTOはどんな判断をくだすだろうか。
(小林)
2007年11月10日
Road to Bali I
今年の4月、連邦最高裁が、二酸化炭素を含む温室効果ガスは
大気汚染防止法 (The Clean Air Act)が規定する「大気汚染物質」に
該当するという判断を下したのはまだ記憶に新しい。
この判決は、アメリカの環境政策、特に温暖化関連政策に
大きな影響を与えるものだが、早速、カンザスで建設予定の
石炭発電所をめぐって議論が白熱している。
先月、カンザスのDepartment of Health and Environment Secretary、
Rod Brembyが、Sunflower Electric Power Corp.による石炭火力発電所
建設申請を却下した。 Brembyは、年間1100万トンと見積もられている
二酸化炭素排出は、‘simply too much'であると述べたが、
発電所の建設が、温暖化ガスの排出だけが理由で却下されるというのは、
アメリカ史上初めてのことである。
これがカンザス州での出来事という点も、注目に値する。
カンザス州は、従来エネルギー業界の影響が強い地域であり、
先の最高裁での訴訟においても、カンザス州は他の9州および
業界団体とともに、ブッシュ政権のエネルギー政策への支持を表明していた。
その州で、火力発電所の建設申請が却下されたことは、大きな意味を持つ。
もちろん、業界団体が黙っているわけもなく、Sunflower社は
この決定を不服として、あらゆる手段で対抗するとしている。
同社のCEO、Earl Watkinsは、この決定に対して、
“Kansas is no longer a rule-of-law state but is becoming
a rule of whim state”
とコメントしている。 Brembyは、州内外の業界団体などから
大きな批判にさらされており、36億ドルをかけて建設される予定の
発電所の行方が決着するまでには、もうしばらく時間がかかるだろうが、
脱炭素のトレンドはアメリカだけでなく世界中でトレンドとなっている。
来月バリで開催されるCOP13にちなみ、Road to Baliと題して、
脱炭素をめぐる環境・開発のトレンドを紹介したい(続)。
参考
Justices Rule Against Bush Administration on Emissions
Sebelius' rejection of permits is disastrous
Kansas official defends decision on Sunflower coal plant
大気汚染防止法 (The Clean Air Act)が規定する「大気汚染物質」に
該当するという判断を下したのはまだ記憶に新しい。
この判決は、アメリカの環境政策、特に温暖化関連政策に
大きな影響を与えるものだが、早速、カンザスで建設予定の
石炭発電所をめぐって議論が白熱している。
先月、カンザスのDepartment of Health and Environment Secretary、
Rod Brembyが、Sunflower Electric Power Corp.による石炭火力発電所
建設申請を却下した。 Brembyは、年間1100万トンと見積もられている
二酸化炭素排出は、‘simply too much'であると述べたが、
発電所の建設が、温暖化ガスの排出だけが理由で却下されるというのは、
アメリカ史上初めてのことである。
これがカンザス州での出来事という点も、注目に値する。
カンザス州は、従来エネルギー業界の影響が強い地域であり、
先の最高裁での訴訟においても、カンザス州は他の9州および
業界団体とともに、ブッシュ政権のエネルギー政策への支持を表明していた。
その州で、火力発電所の建設申請が却下されたことは、大きな意味を持つ。
もちろん、業界団体が黙っているわけもなく、Sunflower社は
この決定を不服として、あらゆる手段で対抗するとしている。
同社のCEO、Earl Watkinsは、この決定に対して、
“Kansas is no longer a rule-of-law state but is becoming
a rule of whim state”
とコメントしている。 Brembyは、州内外の業界団体などから
大きな批判にさらされており、36億ドルをかけて建設される予定の
発電所の行方が決着するまでには、もうしばらく時間がかかるだろうが、
脱炭素のトレンドはアメリカだけでなく世界中でトレンドとなっている。
来月バリで開催されるCOP13にちなみ、Road to Baliと題して、
脱炭素をめぐる環境・開発のトレンドを紹介したい(続)。
参考
Justices Rule Against Bush Administration on Emissions
Sebelius' rejection of permits is disastrous
Kansas official defends decision on Sunflower coal plant
2007年04月27日
中国とアメリカの二酸化炭素排出競争?
"If they continue to surprise us in terms of very high
economic growth and corresponding coal production,
China will overtake the US much earlier than 2009 -
more like this year or the next."
というのは、IEAのchief economist Fatih Birolのコメント。
中国の二酸化炭素排出量が予想を上回るペースで伸びており、
早ければ今年、アメリカを抜いて世界一になるかもしれないらしい。
中国側は、これには根拠がないと否定している。
以下は、中国のOffice of the National Coordination Committee
for Climate Changeのボス、Gao Guangshengの反論。
"For some international organisations to reach the conclusion
that China's carbon dioxide emissions are about to surpass
the United States' is not only irresponsible but is also
being used to apply pressure on the Chinese government"
中国は、しばらく温暖化ガス排出に関わる正式な統計を発表していない。
途上国、特に中国にも温暖化対策を自腹でやって欲しいと願う
先進国にとっては、中国の二酸化炭素排出量が世界一というのは
非常に都合の良いニュースである。
「個人あたりの排出量は先進国に比べてはるかに低い」という
中国の主張に対して、いやそうは言っても総量でみたら
世界一なんだから何とかしろよ、と言えるのだ。
中国がやらないんだったら俺もやんないよ、という態度の
アメリカ政府にとっても、排出量世界一の看板を中国に譲れる、
というのは歓迎すべきニュースだろう。
International Energy AgencyはOECDの一部。
国際機関とは言っても、国連とは違って先進国の集まりである。
Birolさんがちょいと数字を膨らましている可能性はゼロじゃない。
ある程度幅のある予想の上限値だけを発表している、かも知れない。
一方で、中国には数字を少なめに発表するインセンティブがある。
ただ、中国がアメリカを追い抜くのが今年か来年か、という議論には、
政治的な意味はあっても、本質的な意味はほとんどない。
どちらが世界一だろうと、アメリカと中国、この二国が
真剣に温暖化に取り組まない限り、他の国々がどんなに頑張っても
温暖化対策は進まない、という現実には変わりはない。
抜いたの抜いてないのという不毛な水掛け論にかまけて、
貴重な時間を無駄にする、というのが、中国・アメリカだけでなく
人類にとって最悪のシナリオなのだ。
economic growth and corresponding coal production,
China will overtake the US much earlier than 2009 -
more like this year or the next."
というのは、IEAのchief economist Fatih Birolのコメント。
中国の二酸化炭素排出量が予想を上回るペースで伸びており、
早ければ今年、アメリカを抜いて世界一になるかもしれないらしい。
中国側は、これには根拠がないと否定している。
以下は、中国のOffice of the National Coordination Committee
for Climate Changeのボス、Gao Guangshengの反論。
"For some international organisations to reach the conclusion
that China's carbon dioxide emissions are about to surpass
the United States' is not only irresponsible but is also
being used to apply pressure on the Chinese government"
中国は、しばらく温暖化ガス排出に関わる正式な統計を発表していない。
途上国、特に中国にも温暖化対策を自腹でやって欲しいと願う
先進国にとっては、中国の二酸化炭素排出量が世界一というのは
非常に都合の良いニュースである。
「個人あたりの排出量は先進国に比べてはるかに低い」という
中国の主張に対して、いやそうは言っても総量でみたら
世界一なんだから何とかしろよ、と言えるのだ。
中国がやらないんだったら俺もやんないよ、という態度の
アメリカ政府にとっても、排出量世界一の看板を中国に譲れる、
というのは歓迎すべきニュースだろう。
International Energy AgencyはOECDの一部。
国際機関とは言っても、国連とは違って先進国の集まりである。
Birolさんがちょいと数字を膨らましている可能性はゼロじゃない。
ある程度幅のある予想の上限値だけを発表している、かも知れない。
一方で、中国には数字を少なめに発表するインセンティブがある。
ただ、中国がアメリカを追い抜くのが今年か来年か、という議論には、
政治的な意味はあっても、本質的な意味はほとんどない。
どちらが世界一だろうと、アメリカと中国、この二国が
真剣に温暖化に取り組まない限り、他の国々がどんなに頑張っても
温暖化対策は進まない、という現実には変わりはない。
抜いたの抜いてないのという不毛な水掛け論にかまけて、
貴重な時間を無駄にする、というのが、中国・アメリカだけでなく
人類にとって最悪のシナリオなのだ。
2007年03月05日
温暖化が生み出す大量の環境難民
温暖化によって海面が上昇した場合、途上国にどのような影響があるかを
調べた報告書が発表された。世界銀行によるこの研究は、
途上国84カ国を対象に、海面が1mから5m上昇した場合の影響を予想したもので、
1mの海面上昇が、およそ5600万人の難民を生み出すという結果が出た。
発表されたばかりのIPCCのアセスメントは、今世紀末までに
海面は18cmから59cm上昇する確率は90%と予想している。
ただ、これはやや控えめな予想であり、例えば先月19日に
Scienceに発表された論文では、今世紀末までの海面上昇は
最大1.4mと見積もられている。 今回発表された世界銀行の論文では、
今世紀末までに海面が1mから3m上昇する可能性が十分あり、
グリーンランドや南極の氷が溶けた場合には5m上昇の可能性もある、と書かれている。
Even if greenhouse gas (GHG) emissions were stabilized in the near future,
thermal expansion and deglaciation would continue to raise the sea level
for many decades. Continued growth of GHG emissions and associated
global warming could well promote SLR of 1m-3m in this century,
and unexpectedly rapid breakup of the Greenland and West Antarctic
ice sheets might produce a 5m SLR. (注: SLR= Sea Level Rise)
1m上昇した場合には、エジプトのナイルデルタ地域やベトナムの沿岸部など
人口密度の高い地域が海に沈み、調査の対象となった84カ国で合計5600万人が
難民となる。 特に被害の大きい国として、ベトナム、エジプト、モーリタニア、
スリナム、ギニア、仏領ギニア、チュニジア、アラブ首長国連邦、バハマが
挙げられており、中でもベトナムでは、海面が1m上昇すると
全人口の11%が難民となると推定されている。
当然ながら、難民の数は海面上昇率が高くなればなるほど増える。
2m上昇のケースでは難民の数は8900万人、5m上昇のケースでは
2億4500万人が難民となると見積もられている。
51ページのこの論文、以下のリンクから読めます。
The Impact of Sea Level Rise on Developing Countries: A Comparative Analysis
調べた報告書が発表された。世界銀行によるこの研究は、
途上国84カ国を対象に、海面が1mから5m上昇した場合の影響を予想したもので、
1mの海面上昇が、およそ5600万人の難民を生み出すという結果が出た。
発表されたばかりのIPCCのアセスメントは、今世紀末までに
海面は18cmから59cm上昇する確率は90%と予想している。
ただ、これはやや控えめな予想であり、例えば先月19日に
Scienceに発表された論文では、今世紀末までの海面上昇は
最大1.4mと見積もられている。 今回発表された世界銀行の論文では、
今世紀末までに海面が1mから3m上昇する可能性が十分あり、
グリーンランドや南極の氷が溶けた場合には5m上昇の可能性もある、と書かれている。
Even if greenhouse gas (GHG) emissions were stabilized in the near future,
thermal expansion and deglaciation would continue to raise the sea level
for many decades. Continued growth of GHG emissions and associated
global warming could well promote SLR of 1m-3m in this century,
and unexpectedly rapid breakup of the Greenland and West Antarctic
ice sheets might produce a 5m SLR. (注: SLR= Sea Level Rise)
1m上昇した場合には、エジプトのナイルデルタ地域やベトナムの沿岸部など
人口密度の高い地域が海に沈み、調査の対象となった84カ国で合計5600万人が
難民となる。 特に被害の大きい国として、ベトナム、エジプト、モーリタニア、
スリナム、ギニア、仏領ギニア、チュニジア、アラブ首長国連邦、バハマが
挙げられており、中でもベトナムでは、海面が1m上昇すると
全人口の11%が難民となると推定されている。
当然ながら、難民の数は海面上昇率が高くなればなるほど増える。
2m上昇のケースでは難民の数は8900万人、5m上昇のケースでは
2億4500万人が難民となると見積もられている。
51ページのこの論文、以下のリンクから読めます。
The Impact of Sea Level Rise on Developing Countries: A Comparative Analysis
2007年02月06日
ゴミ箱にされる途上国
UNEPによれば、アメリカ国内だけで年間1400万台から2000万台の
コンピューターが廃棄されるという。廃棄されたコンピューターや携帯電話など、
いわゆる ‘e-waste’ の量は、年間5000万トンに達するとも言われている。
そうしたコンピューターや用済みになった電化製品が途上国へ「寄付」されることも多い。
ナイジェリア、ラゴスの港には、毎月コンテナ500個ぶんの中古電化製品が届くが、
そのほとんどが、実際は再利用できないジャンクなのだという。
途上国、特にアフリカは、こうした有害ゴミ処分のノウハウを持っておらず、
またそのための資金も無い。もちろん、いらないゴミを送り返す資金も無い。
結果として、そうしたゴミは現地でそのまま廃棄されるか焼却処分され、
その過程で有害物質が大気中に、土壌に、そして水中に流れ出ることになる。
「途上国の人たちのために」と善意で寄付された電化製品が、
途上国に更なる負担を強いている皮肉な現実がここにある。
「善意」と書いたが、モノの大半が使えないゴミであることを知りつつ、
また現地にゴミ処理能力が無いことを知りつつ、寄付の名を借りた
ゴミ輸出を行っている悪質な業者もいるだろう。
先進国から途上国への「輸出」は、e- の付かない廃棄物についても
深刻な問題となっている。昨年7月には、Trafigura というイギリス企業が
チャーターしたタンカーが、400トンの有害廃棄物をコートジボワールに投棄、
少なくとも10人が死亡、40000人が被害を受ける事態を引き起こした。
元々、この廃棄物はオランダに運ばれて処理される予定だったのだが、
廃棄物の有害さを知ったオランダ側が受け入れ費用を引き上げたところ、
それならばということでコートジボワールに廃棄したというのが事件の大体の経緯。
廃棄物に含まれていた硫化水素が被害の原因とみられているが、Trafigura は
廃棄物の中に有害の硫化水素は含まれてないと主張している。同社の発表には、
What happened to the slops after they were offloaded from the ship, and
the circumstances of the deaths and injuries which have been linked
with them, are matters for the Ivorian investigations
とある。廃棄物が陸揚げされてからのことはコートジボワール国内の問題であって、
俺たちには関係ないよ、責任取りたくないよ、というメッセージである。
これに対して、被害住民を代表してTrafiguraを相手取った集団訴訟の準備が始まっている。
訴訟を担当しているのは Leigh Day という事務所。頑張って欲しい。
HK
関連記事:
U.N. Meeting to Tackle Growing E-Waste Menace
UK class action starts over toxic waste dumped in Africa
コンピューターが廃棄されるという。廃棄されたコンピューターや携帯電話など、
いわゆる ‘e-waste’ の量は、年間5000万トンに達するとも言われている。
そうしたコンピューターや用済みになった電化製品が途上国へ「寄付」されることも多い。
ナイジェリア、ラゴスの港には、毎月コンテナ500個ぶんの中古電化製品が届くが、
そのほとんどが、実際は再利用できないジャンクなのだという。
途上国、特にアフリカは、こうした有害ゴミ処分のノウハウを持っておらず、
またそのための資金も無い。もちろん、いらないゴミを送り返す資金も無い。
結果として、そうしたゴミは現地でそのまま廃棄されるか焼却処分され、
その過程で有害物質が大気中に、土壌に、そして水中に流れ出ることになる。
「途上国の人たちのために」と善意で寄付された電化製品が、
途上国に更なる負担を強いている皮肉な現実がここにある。
「善意」と書いたが、モノの大半が使えないゴミであることを知りつつ、
また現地にゴミ処理能力が無いことを知りつつ、寄付の名を借りた
ゴミ輸出を行っている悪質な業者もいるだろう。
先進国から途上国への「輸出」は、e- の付かない廃棄物についても
深刻な問題となっている。昨年7月には、Trafigura というイギリス企業が
チャーターしたタンカーが、400トンの有害廃棄物をコートジボワールに投棄、
少なくとも10人が死亡、40000人が被害を受ける事態を引き起こした。
元々、この廃棄物はオランダに運ばれて処理される予定だったのだが、
廃棄物の有害さを知ったオランダ側が受け入れ費用を引き上げたところ、
それならばということでコートジボワールに廃棄したというのが事件の大体の経緯。
廃棄物に含まれていた硫化水素が被害の原因とみられているが、Trafigura は
廃棄物の中に有害の硫化水素は含まれてないと主張している。同社の発表には、
What happened to the slops after they were offloaded from the ship, and
the circumstances of the deaths and injuries which have been linked
with them, are matters for the Ivorian investigations
とある。廃棄物が陸揚げされてからのことはコートジボワール国内の問題であって、
俺たちには関係ないよ、責任取りたくないよ、というメッセージである。
これに対して、被害住民を代表してTrafiguraを相手取った集団訴訟の準備が始まっている。
訴訟を担当しているのは Leigh Day という事務所。頑張って欲しい。
HK
関連記事:
U.N. Meeting to Tackle Growing E-Waste Menace
UK class action starts over toxic waste dumped in Africa
2007年01月19日
「調和「と「共富」−中国の挑戦
中国は、2006年から2010年までの5年間で、エネルギー効率を
年間4%、5年で20%向上させることを目標にしている。
ところが、最近明らかになった2006年上半期のデータによると、
エネルギー効率は4%アップどころか0.8%ダウンしているという。
GDP1単位を生産するのに必要なエネルギーが0.8%増えた、
ということは、中国のエネルギー消費はGDP成長を上回る
スピードで増えているということになる。大気汚染などのデータも
環境汚染がますます悪化していることを裏付けている。
エネルギー効率20%アップという目標は、「調和」を前面に出し
「先富」から「共富」への転換を目指すことを明記した
第11次五カ年計画の中に盛り込まれているのだが、前途は厳しい。
一昨年、吉林省で起きた化学工場の爆発事故による河川汚染で、
ハルピン市が数日断水した事件は日本でも大きな話題になったが、
2006年の環境問題はさらに深刻だったようだ。
以下は、中国の環境省にあたる State Environmental Protection
Agency (SEPA) のNo.2、潘岳のコメント。
Last year was the most grim year for China 's environmental
situation… The goals set out by the cabinet at the start
of the year have absolutely not been achieved
昨年は、ほぼ二日に一度の頻度で汚染や公害がらみの事故が起き、
SEPAに届いた環境に関する苦情の数は60万件。前年の3割増である。
中央政府が掲げた目標が地方にまで浸透していないのが見て取れる。
ちなみに国家環境保護総局(SEPA) と国家統計局(NBS) が
昨年9月に発表したGreen GDP 報告によれば、環境汚染による
経済損失額は、2004年時点でGDPの3%にあたる
5118億元(630億ドル)に達する。これだけでも凄い数字だが、
今回の試算に使われたのは環境汚染による健康被害など
限られたデータだけで、生態系の破壊や天然資源の消費などの
コストは考慮されていない。実際のコストは3%よりも大きいだろう。
何としても経済を成長させる、今の成長率を維持することが大事。
という地方の役人の思考回路を変えることが必要なのだが、
変えろと言って簡単に変わるようなものでもない。
「調和」「共富」と北京で号令をかけても、
それが中国全土に届くまでには時間がかかる。
悪化一途の中国、そしてアジアの環境は
それまで耐えられるだろうか。
HK
年間4%、5年で20%向上させることを目標にしている。
ところが、最近明らかになった2006年上半期のデータによると、
エネルギー効率は4%アップどころか0.8%ダウンしているという。
GDP1単位を生産するのに必要なエネルギーが0.8%増えた、
ということは、中国のエネルギー消費はGDP成長を上回る
スピードで増えているということになる。大気汚染などのデータも
環境汚染がますます悪化していることを裏付けている。
エネルギー効率20%アップという目標は、「調和」を前面に出し
「先富」から「共富」への転換を目指すことを明記した
第11次五カ年計画の中に盛り込まれているのだが、前途は厳しい。
一昨年、吉林省で起きた化学工場の爆発事故による河川汚染で、
ハルピン市が数日断水した事件は日本でも大きな話題になったが、
2006年の環境問題はさらに深刻だったようだ。
以下は、中国の環境省にあたる State Environmental Protection
Agency (SEPA) のNo.2、潘岳のコメント。
Last year was the most grim year for China 's environmental
situation… The goals set out by the cabinet at the start
of the year have absolutely not been achieved
昨年は、ほぼ二日に一度の頻度で汚染や公害がらみの事故が起き、
SEPAに届いた環境に関する苦情の数は60万件。前年の3割増である。
中央政府が掲げた目標が地方にまで浸透していないのが見て取れる。
ちなみに国家環境保護総局(SEPA) と国家統計局(NBS) が
昨年9月に発表したGreen GDP 報告によれば、環境汚染による
経済損失額は、2004年時点でGDPの3%にあたる
5118億元(630億ドル)に達する。これだけでも凄い数字だが、
今回の試算に使われたのは環境汚染による健康被害など
限られたデータだけで、生態系の破壊や天然資源の消費などの
コストは考慮されていない。実際のコストは3%よりも大きいだろう。
何としても経済を成長させる、今の成長率を維持することが大事。
という地方の役人の思考回路を変えることが必要なのだが、
変えろと言って簡単に変わるようなものでもない。
「調和」「共富」と北京で号令をかけても、
それが中国全土に届くまでには時間がかかる。
悪化一途の中国、そしてアジアの環境は
それまで耐えられるだろうか。
HK