http://www.janjanblog.com/archives/23611

平針の里山、土砂の搬入開始。溜め池が壊され水害発生。

●「平針の里山問題」あらすじ
「100年前の里山の文化的景観」(*1)がそのまま残っている、と言われていた平針の里山。
地域住民も3万名の署名を集め、宮崎駿監督もエールを送り、河村市長も開発を阻止しようと尽力したものの(*2)、何故か開発をとめることは出来きませんでした。
そして、こともあろうか、COP10開催期間中に「大きな木からみせしめに切ってやる」という開発業者によって「日本の宝」ともいえる里山は、ついに伐採が開始されてしまいました。
保全協議会は開発業者と折衝するも、市の査定額に8億も上乗せをしてふっかける業者(*3)は「1日止めるなら幾らもってこい」と金の話ばかりして話し合いに応じません。
その過程で、開発業者による暴力事件が2件も発生。
何故か警察が地元住民を威圧したり、開発業者の会長が名古屋市の体育協会の会長だったり(*4)と、不自然な背後関係が想像される中、中東カタールの報道局アルジャジーラが取材に駆けつけます。
そのあと、各新聞社、TV局が「いまさらながら」取材に駆けつけました。
そして、平針の里山問題は、国会質問にまで発展。
ネット上には、開発業者の融資元・十六銀行の通帳を切断する過激な映像も流され始めます。
里山の木がほとんど切られつくされ、里山に隠れていた生き物達が日々姿をさらして逃げ惑う中、保全協議会は、国会質問でも名指しで批判された、開発業者に融資をしている十六銀行に対して、最後の交渉を試みます。
しかし、その返答は…

「何故批判されるのかがわからない」「環境問題は銀行が考えることではない」「里山破壊への融資は善行である」という、とでもない内容でした。

破壊される平針の里山の溜め池。大正時代、あるいはそれよりも前に整備されたものと言われている。

破壊される平針の里山の溜め池。大正時代、あるいはそれよりも前に整備されたものと言われている。


・平針里山、十六銀行に申し入れ。返答は「何故批判されるのかがわからない」!?
http://www.janjanblog.com/archives/23076
・「COP10・SATOYAMA・伐採・イニシアティヴ問題」が国会質問される。
http://www.janjanblog.com/archives/22803
・「平針・里山伐採イニシアティヴ」を、年表にまとめてみた。
http://www.janjanblog.com/archives/22627
・平針の里山、住民と業者が睨み合い。刑事、アルジャジーラが登場。
http://www.janjanblog.com/archives/22332
・無残に破壊された平針の里山。周辺住民に話を聞いた。
http://www.janjanblog.com/archives/22193

・YouTube ? 国会で阿部知子議員が平針の里山の問題と十六銀行に対して質問
http://www.youtube.com/watch?v=-5grPl0kxm8


●ついに土砂搬入開始
十六銀行との折衝は「何故非難されるのかがわからない」という、まるで言葉が通じていないような結果に終わりました。
十六銀行への質問書が「ナシノツブテ」で終わった11日。
木が伐採されつくした平針の里山に、ついに土砂の搬入が開始されました。

土砂が搬入されてしまうと「100年前の里山の文化的景観」が残されている里山の土壌が汚染されてしまい、再生が困難になって行きます。
この場合の「汚染」には、廃棄物などの汚染だけでなく、産廃による汚染がないとしても、外来植物の種などの混入による生態系への影響も含まれます。

多量の土砂が搬入され道が少し作られた里山。路上では子供が遊んでいる。一本だけ残されていた枯れ木「ハチマンツリー」は伐採された。

多量の土砂が搬入され道が少し作られた里山。路上では子供が遊んでいる。一本だけ残されていた枯れ木「ハチマンツリー」は伐採された。

たとえ木がすべて切りつくされてしまっても、長い間「人をいれない」という戦略で守られてきた平針の里山の土壌には、100年以上も守られてきた生物層の種が残されており、復活は容易であると、保全協議会の人達は考えていました。
しかしながら多量の土砂が搬入されることによって「再生プロジェクト」は、より困難になると思われます。
ですが保全協議会の人達は、裁判に勝てば現況回復されるので、たとえすべた宅地造成地になったとしても、全く諦める気はないそうです。

11日以降、破壊された平針の里山に搬入された土砂は、1日あたりトラック40台から70台分。
かなりの量のような気がしますが、5ヘクタールあり、起伏に富んでいる平針の里山を埋め立てるには程遠い量であり、現在、埋め立てられてしまっているのは、里山の南部の工事入り口から、里山の中央の「ハチマンツリー(十六銀行里山伐採記念樹)(*5)」があったあたりから、トトロの木があった周辺まで、道が造成されている程度です。
ですが、その程度の土砂の搬入でも、工事入り口の住民のみなさんには、相当な振動被害が出ているようでした。
(業者は当初予定していた隣接地の買収に失敗し、狭い通路を使用している)
周辺住民の話によると、搬入される土砂の中には、出元の怪しいものもありそうだという話でした。(*6)

とりあえず、ここ数日の作業で、土砂の搬入は、ひと段落したようでした。
土砂の搬入が、ひと段落着いても、伐採現場には、とにかく切りまくった里山の木々が、そこらじゅうに瓦礫となって山積みになっており、それを撤去する作業で一日中重機が動いています。
また開発業者は、里山にある大きな溜め池を破壊して、水を流そうとしたものの、周囲はモウセンゴケなどの生える湿地帯であったため、水は土壌に吸収されず、また、搬入した土砂のために、ため池からの水を水田に流していた水路が機能せず、大量の水が流れ出し、周辺住民宅に流れ出てしまったそうでした。
さらには、この水の流出は開発賛成派の住宅も直撃し、かなりの苦情を出していた、という話でした。


●破壊された里山、まだ残っている生物達
筆者が現地に出向いたときには、おおきかった溜め池の水がかなりなくなっており、ため池の南端の部分の土が削られて穴が開いていました。
水がなくなった溜め池の形を見ると、南部の堤はたしかにまっすぐに作られており、人工的に作られた溜め池(100年近く経っている)であったことが、うかがえました。

無残な姿となった里山には、あちらこちらに、切り倒された竹や木が、人よりも背の高い山になっており、それを重機がつつきまわしています。
住宅地のフェンスの隙間から撮影をしていると、朝日新聞の記者と、動物写真家の小原玲さんがやってきました。
よくみると、上空を新聞社のヘリらしきものが飛び回っています。

破壊された溜め池の様子。左のほう(南西側)から土砂が流し込まれている。堤防のようにまっすぐに見えるのは池の南端。左端が崩されている。その向こうに広がるのがモウセンゴケに生えている湿地帯である。

破壊された溜め池の様子。左のほう(南西側)から土砂が流し込まれている。堤防のようにまっすぐに見えるのは池の南端。左端が崩されている。その向こうに広がるのがモウセンゴケの生えている湿地帯である。


北側の住宅の壁(10メートル近くの絶壁)沿いは、法的にも自由に出入りできる通路であるとのことだったので(*7)、動物写真家の小原玲さんとともに、そこを降りていきます。
足元には、無残に切られた木々の刈り株の合間に、下草として生えていたであろう、シダ類などが残っています。
このシダ類も、急激な環境の変化によって、いずれ枯れてしまうのでしょう。
住宅の壁の排水溝からにじみ出ている水の色が、まるで「地下鉄の側溝の水」のような、赤茶色な色をした水であることが印象的です。
このようなタイプの浸出水は、ヨーロッパなどの湧き水には時折みられますが、日本の土壌ではめったにみられないものです(*8)

もちろん、この住宅の壁を施工したのは、現在平針を開発している業者とは別の業者ですが、
宅地造成の土壌には、なんだかわからないものが違法に埋められている、という話をよく聞くので、隣の宅地の土壌にも、なにかヘンなものが埋められているのではないか、ということが気に掛かりました。

作業をしている重機のすぐ目の前まで来たところ、何故か重機が山積みになった里山の木々の瓦礫の向こう側に回って作業をし始めます。
なんだか「逃げて」いるようにも見えるのが滑稽です。

伐採されつくした里山には、まだ黄色いチョウがいた。毎年ここで越冬するチョウのようだ。

伐採されつくした里山には、まだ黄色いチョウがいた。毎年ここで越冬するチョウのようだ。


重機がせわしなく作業をする傍ら、無残に破壊された里山の木々の切り株や残骸の合間に、黄色いチョウが飛んでいるのを発見しました。

よく見ていると、ほかにもトンボや虫が無数に飛んだり、うごめいたりしています。
この里山の周囲は、もっとも車の出入りする南部の入り口以外は、高い壁になっていたりして、ほかに行く場所がないのかもしれません。

わずかに残っている木には、モズのほか、見たことのないように小鳥が幾羽も止まって、里山だったところを見下ろしています。

水のなくなってしまった溜め池と、重機の動きを、動物写真家の小原玲さんが、映像を記録しながら話をしていました。
しばらくすると、昼休みになったのでしょうか、重機の動きが止まりました。
重機がとまってしまうと、真昼間の住宅地のど真ん中だというのに、ほんとうに静かになりました。
ほんとうになんの音もせず、日差しの暖かさが身にしみます。
かつて、ここが里山だった頃は、この静寂の中に、鳥や虫達の声が無数に聞こえたのだろうと、容易に想像できました。

開発業者は地域住民を無視し、十六銀行は開き直り、既に「泥沼」にはまりつつある、平針の里山。

既に禿山になってしまった里山に住む生き物達が、この冬を越すことは無理そうですが、いつか、この里山が再生し、土中に残された種や卵からかつての住民達が復活することを願ってやみません。

*1 100年前の里山の文化的景観
平針の里山で見られた光景は、文化財保護法2条5項「文化的景観」にあたる。

*2 河村市長も開発を阻止しようと尽力
河村市長の就任一日前に書類申請された開発計画に対して、河村市長は開発阻止を掲げ各方面と折衝した。
開発阻止の失敗の背景には、開発業者のふっかけ具合もさることながら、市長と議会の対立も影を落としている。

*3 市の査定額に8億も上乗せをしてふっかける業者
名古屋市の鑑定額19億5000万円に対して、業者側は28億円を要求。その後25億まで下がるが、その差額の3億円がなんだったのかは不明。
同様に市の査定額との差額8億円の算出根拠も不明のままである。

*4 開発業者の会長が名古屋市の体育協会の会長
株式会社シィールズ会長の加藤常文氏。名古屋市体育協会会長、藤が丘中央商店街振興組合理事長。
平針里山は、2/3を株式会社シィールズが、1/3を株式会社・菊和が保有している。

*5 ハチマンツリー(十六銀行里山破壊記念樹)
「みせしめに大きな木から切ってやる」といって、とにかく伐採だけ先に進めた平針の里山の中央に、開発業者シィールズの八幡陽吉氏の業務命令によって残されていた、立ち枯れしていたコナラの木。
周辺住民の間では、生きた木を切り、枯れ滝を中央に残すという、みせしめ的な八幡氏の行為を記憶にとどめるために「ハツマンツリー」と呼ばれていた。
しかしながら、八幡氏の行動を超えうる十六銀行の応対に対して「十六銀行里山破壊記念樹」と呼び変えようという動きがあった。
土砂の搬入に際して伐採されてしまった模様。

*6 搬入される土砂の中には、出元の怪しいものもありそうだ
現行の法律では、土砂は搬出時に検査をすれば良いことになっているので、搬入される土砂か怪しくてもそれをチェックするシステムがない。

*7 法的にも自由に出入りできる通路
里山内部には、名古屋市所有の公道が走っているが、業者はそれを閉鎖して開発行為をしている。
業者は名古屋市から開発の許可が出ているとしているが、公共財産である公道が、周辺住民への説明も確認もなく私企業に譲渡された経緯は不明のままであり、現在訴訟中である。
また、業者が閉鎖した進入禁止と看板を設置している「住宅の壁沿いの道」は、土地が開発業者のものではなく住宅地の一部である。

*8 「地下鉄の側溝の水」のような、赤茶色な色をした水
地下鉄の側溝に溜まっている水、トンネル内部で染みだしている水などのこと。
あくまで筆者の推測であるが、水中の鉄イオンが酸素と結びついて酸化鉄となっていると推測される。
あまり気分の良いものではないし、周辺の土壌中になにか「錆びるもの」が含まれている可能性がある。
もちろん飲めないと思う。
ところが、ヨーロッパ地方、特に炭酸水が湧き水として出ているような地域では、時折このような沈殿が見られる水を「命の水」として汲んで飲んでいる例が見られる(筆者はシベリアで目撃)。
湧き水としてこのような水が出る場所は、日本では稀。

平針の里山の北部にある住宅地の壁。伐採された木々の合間には、まだ無数の生き物がいる。

平針の里山の北部にある住宅地の壁。伐採された木々の合間には、まだ無数の生き物がいる。

関連リンク:
平針の里山保全協議会
http://www.wa.commufa.jp/~hirabari/
国会で阿部知子議員が平針の里山の問題と十六銀行に対して質問
http://www.youtube.com/watch?v=-5grPl0kxm8
ふじた和秀 名古屋市議会議員 公式WEBサイト(伐採前の写真がある)
http://fujita-kazuhide.jp/blog/entry-80.html
パキートのブログ(伐採される里山の様子がレポートされている)
http://ameblo.jp/arcoiris758/
針山里平のブログ(新聞記事がまとめられている)
http://ameblo.jp/satoyama-initiative/
株式会社 菊和(伐採を監督している企業)
http://www.kikuwa.jp/

関連映像:
YouTube ? 国会で阿部知子議員が平針の里山の問題と十六銀行に対して質問
http://www.youtube.com/watch?v=-5grPl0kxm8
YouTube ? 十六銀行さん 私たちのお金を里山開発に使わないで
http://www.youtube.com/watch?v=iWwwqiVzmIw
【多様な人々】宗宮弘明さん(平針の里山保全協議会)
http://www.ustream.tv/recorded/10485945
・hirabarisato on USTREAM .(伐採に対する抗議活動の様子が見れる)
http://www.ustream.tv/channel/hirabarisato
YouTube ? disappearing urban satoyama of Nagoya, 平針里山開発問題、訴訟記者会見2-1
http://www.youtube.com/watch?v=Ad3Zkgpunsc&feature=mfu_in_order&list=UL
YouTube ? disappearing urban satoyama of Nagoya, 平針里山開発問題、訴訟記者会見2-2
http://www.youtube.com/watch?v=Sqlm01JDz-E&feature=mfu_in_order&list=UL
YouTube ? 平成22年2月8日 河村たかし名古屋市長記者会見 その3(平針里山の開発業者からの市提訴の方針について)
http://www.youtube.com/watch?v=MEhDoZlGZbg&feature=mfu_in_order&list=UL
 
COP10・平針・里山伐採イニシアティヴ:
平針里山、十六銀行に申し入れ。返答は「何故批判されるのかがわからない」!?
http://www.janjanblog.com/archives/23076
「COP10・SATOYAMA・伐採・イニシアティヴ問題」が国会質問される。
http://www.janjanblog.com/archives/22803
「平針・里山伐採イニシアティヴ」を、年表にまとめてみた。
http://www.janjanblog.com/archives/22627
平針の里山、住民と業者が睨み合い。刑事、アルジャジーラが登場。
http://www.janjanblog.com/archives/22332
無残に破壊された平針の里山。周辺住民に話を聞いた。
http://www.janjanblog.com/archives/22193
平針の里山を次の世代に残したい「いのちの旅のパレード」開催。
http://www.janjanblog.com/archives/21812
平針の里山を暴力業者が伐採中 現場の人の話と各種報道を集約してみた。
http://www.janjanblog.com/archives/21460
宮崎駿監督の「平針の里山」保全決議受け「なごやのトトロの森基金」発足
http://www.janjannews.jp/archives/2479340.html
宮崎駿監督が河村市長宛て「平針の里山」守る決議を公表
http://www.janjannews.jp/archives/2437019.html
平針の里山「保存」から急転「開発」のナゼ?
http://www.news.janjan.jp/area/0912/0912234702/1.php
危機にある名古屋の里山保全に宮崎駿監督がエール
http://www.news.janjan.jp/area/0909/0909099967/1.php